ひとりごちるゆんず 2011年9月
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2011.9.1 木曜
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とどまるところを知らぬ泥沼

ほんとどうすべ。この日記、まただんだん遅れてくるようになってさ(これ書いてるの9月11日)。

平日は仕事疲れでなんも書く気しないしなー休日は休日でやる気起きないしなーだからオレはダメなんだ、と、別にこんな日記なんざ書かなきゃ書かなくても誰も困らんのに、そんなところからで自己嫌悪だったりして。

たまに書いても、なかなかはかどんないしさ。すらすら書けなくて。1日ぶん書いただけでどっと疲れるし。もう10年も経ったのに(開始は2001年6月)進歩ないんだなー。だからオレはダメなんだ。

んでやっとの思いで昨日(9月10日)8月31日のぶんを書き上げて、ようやく今、9月分に突入なんですよ。んでまー見てみたんですよ。8月ぶんのファイル容量を。なんかすげー長かった気がして。

歴代ファイル容量201108

……、

……、

これは……。

首位じゃないですか。2位に 11.6KB もの大差を付けてダントツじゃないですか。こりゃー時間と手間ばっかかかるわけだわ。90KB のときもざらにあるから、2倍も書いてたってことですな。つか今見たら、90KB 台って真ん中より下なんですわ。もうちょっとよく見たら、2010年以降、全部 100KB 超だよ。先月だけでなく、2年くらい増加しっぱなしだったのか。トップ10に今年書いたやつが4本。去年のが3本。おととしのが2本。3年前のが1本。

今まで何度も、この日記の容量を 100KB 以下にしようと誓いに誓ったもんだったけど、何の意味もなかったですな。自分に裏切られた感にさいなまされて、それはそれで自己嫌悪。

そして作業用 BGM はちょうど『アキアカネ』だ。ありがとう。なんだかちょっと嬉しくなったよ。

過去のこと皆全部 やりなおしたいけれど
でもそれも皆全部 今の僕の一部で

そうか、開き直ればいいんだなw

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2011.9.2 金曜
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ちょっとしたエコ詐欺

兼ねてからのエコ対策として、さらに震災以降の節電の流れで、LED 電球がかなりモテとりますな。んで前々からちょいとギモンがあってさ、ついに決着したですよ。

旧来の蛍光ボールに比べて、どんだけ省電力なのかと。こんだけ流行ってるんだから、LED はさぞかし電気を食わないんだろうなぁと。てことで電器屋さんで、両者の白熱灯換算 60W 相当の消費電力を調べてみた。

LED vs 蛍光ボール

両方とも 10W ほど。特に変わらんじゃないの(汗)。つーか LED のほうが微妙に電気食う仕様。ちょっと意外だったわ。LED は蛍光ボールの3分の2くらいかなーとか勝手に思ってたんだが。

確かに LED のほうが値段が倍額なぶん、いろいろメリットあるよね。耐用時間が長いとか、夏にあんまし虫が寄ってこないとか、調光器と合わせて使えるとか、点きはじめから明るいとか、水銀を使ってないとか。けど一番の売りが節電なわけで、お客はそこを価値として買ってるんじゃないのかな。まぁ宣伝文句をよーく見聞きすると「電球と比べて省電力」とは言ってても、「蛍光灯に比べて……」とは言ってないんだよね。だからウソついてるわけじゃないんだけど、なんか印象操作っぽくてな。

今回、電器屋の照明コーナーに行ったのは、屋外用の電灯を交換するため。今まで蛍光ボールを使っててさ、LED 電球の値段もそろそろこなれてきたかなーと思ってですね、そこらへんを見てみたくなったと。LED にしてもよかったんだけど、LED 電球が自らまとう「売らんがために客を騙す」っつう大変ダーティーなイメージを重視して、蛍光ボールにしましたわ。

宣伝の常套手段ってのは、実際のスペックの広報よりも、いいイメージを作って買わせるもんでして。それは分かってるけど、もしその効能を悪用してそれがバレるとこうなるのですよ。LED 電球の消費電力が蛍光ボールを2割は下回らんと買わんことにした。それまでは社会意識が強くて騙されやすい人たち相手に商売して、本当に蛍光ボールを凌駕する性能を実現するための開発資金を賄っといてつかあさい。

銘板左端銘板銘板右端

何年か前に、中村修二先生が青色 LED の効率化に成功したはず。2008年3月のこの記事によると、その時点での効率は 50% だそうな。んで目標が 90% 強だそうから、まだまだ蛍光灯を突き放せそうですな。

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2011.9.3 土曜
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ベスタにドーン!

7月16日だからもう1カ月半も前だけど、NASA の探査機 ドーン が小惑星ベスタに到着したですなー(記事)。下の写真は、ドーンの周回軌道投入の7日前にドーンが撮影したもの。その下は、過去にハッブル宇宙望遠鏡が撮ったもの。

ベスタ_ドーン
ベスタ_ハッブル

小惑星は小さいからなぁ。近接撮影しないと様子が分からんのだねぇ。ベスタは旧定義での小惑星の中では3番目に大きい(現定義だと2番目。かつて小惑星最大だったケレスが準惑星になったんで)。けど直径は平均で 500km ほどしかない。Google Earth で見てみると、うちの地元の青森県八戸市からだと東京には届かなくて、茨城県だわ。下妻市、つくば市、土浦市、かすみがうら市あたりですな。

「小惑星」の名前どおりにちっさい星だけど、イトカワの1000倍ですな(汗)。その基準だと超でげーw

ベスタは隕鉄のふるさとでしたな。星自体が鉄を多く含むと(ログ 2011.6.16, 2011.6.17)。おいらの妄想だけど、恐らくかつてはもっと大きな原始惑星だったのが破壊されて、その前は中心核にあったあたりが今のベスタだったんじゃないかと。鉄を多く含むのはそのせいなんじゃないかと。

イトカワ微粒子の最新の分析情報によると、イトカワの母天体の直径は 20km ほどだったらしい。熱変成を経験した温度からの推定で。原始太陽系の岩石惑星たちの様子はおいらよく分からんけど、45億年前あたりは今よりはるかに頻繁に衝突があったっぽい印象。てことは、いろんなサイズの岩石惑星が無数に飛び交ってた、となる。今は現存する大きな惑星たちに軒並み吸収されたってことなんじゃないかな。

そんな中で、のちにベスタになる部分は、けっこうな大企業な星の番頭さん的立場だったと考えられる。破局が訪れたとき、番頭さんだけ独立して小規模なお店を開業して、ちんまい星を吸収したり、たまに比較的でっかい星に飛び込まれて隕鉄を放り出したりしてるけど、まぁだいたいこんな感じのまま今に至る、と。

一方、のちにイトカワになる岩くれたちは、もともと零細企業の星に囲われてた社員さんって感じ。こちらもあるとき経営破綻してバラバラ散り散りになったけど、有志何人かが集まってイトカワになったぞ、と。イトカワもまた拡大再生産で一発逆転を狙うも、天体の運動は重力に支配されてる。重力は大きい天体の成長に有利に働く。世知辛い資本主義の世の中と同じく、貧富の差は拡大する一方ってわけ。てことで自力じゃこれ以上膨れられるわけじゃなく、今後10億年で次第にすり減って消滅すると目されてる。あるいは、1億年以内にどっかの大旦那的惑星に飛び込んで果てるという予想も立ってる。

んでまぁおいらが関心あるのは、イトカワとベスタがもとは同じ大企業で同じ釜の飯を食う仲だったのかどうかってとこ。いったん大クラッシュがあって会社が倒産、みんなバラバラになって、中心核近くはそのままベスタになった。周辺の温度が低かったあたりはいったん直径 20km の星として独立してから運悪くまたクラッシュして、そこからイトカワが生まれたんかなーどうかなーってあたり。

ある程度の星が破壊されるほどの大衝突が頻繁にあったらしいってことは、そういう星がたくさんあって群雄割譲だったってことで、ライバル企業同士だったのかもしんない。んでも万が一イトカワとベスタが同郷なら、片方で何か新しいことが分かればもう片方も分かるっつうナイスなストーリーが展開されるわけで。探査機ドーンにはそのあたり「家族か他人か」をはっきりさせる活躍も勝手に期待してみたりして。

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2011.9.4 日曜
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そしてドーン!

ドーンの英語版 Wikipedia 記事に、もっとがぶり寄ったベスタ写真が出てたよ。

ベスタ_ドーン1

このページに貼るために 600×600px にしたけど、もともとは 1000×1000px。ドーンのカメラの画角、意外にも はやぶさ と同じなんですかね。はやぶさ は設計が90年代だったから1メガピクセルしかなかった、という解釈が普通に出回ってるんだが。ドーンの打ち上げは2007年9月27日。2003年5月9日打ち上げの はやぶさ より4年半近く遅い。ていうか2007年って はやぶさ が帰ってくるはずだった年ですな。後発のぶん、機材が充実しててもおかしくなさそうだけど。しかも NASA の大旦那の探査機なんだもん、もっとゴージャスなスペックかと思いきや。

んで Wikipedia 日本語版の方の記事を見るとですね、「宇宙予算の削減と人員不足、そして技術上の問題から、探査機の打ち上げは度々延期された」のだそうで。2003年12月に一度中止になって、3カ月後に復活。この時点で2006年5月打ち上げ予定だったと。実際はさらに1年遅れたわけで。進んでは止まり、進んでは止まり、てなわけで、設計が古いまんまの部分が残ったってことかもね。探査機ってギリギリの設計だから設計上の余裕がほとんどないらしくて、いったん確定した部品やユニットを替えるとなると、ほかの部分もガバッと再設計する羽目になるとかよくあるみたいで。

ドーンはベスタを探査した後、旧定義で最大の小惑星、新定義での準惑星のケレスに向かうそうな。その遷移軌道はこんな感じ↓

ドーンの遷移軌道

見事な渦巻き模様ですなぁ。はやぶさ が訪れたのは小惑星1個だけだったから楕円が目立つ軌道だったけど、欧米の複数の小惑星や彗星を訪ね歩く探査機の軌道ってこんな感じの渦巻き型だよね。なんて知ったかぶって、ヨーロッパが運用中の小惑星・彗星探査機 ロゼッタ遷移軌道図 をようやく探して見てみたらば、もう何が何やら(線がアバウトってのもあって)。

つーか普通に11年ミッションなんだな。ヨーロッパって深宇宙探査の経験が日本と同じくらいで少ないはずなのに、探査機はアメリカ並みに大型で高性能だし、長期ミッションに耐えられるし、故障もほとんどないよなぁ。すごいよなぁ。日本の探査機にも、欧米レベルの頑丈さが欲しいですよ。最低1トン(海外)vs 500kg(日本)だから、このままじゃ越えられない壁みたいなものがあったりもするんだけどさ。

アメリカの探査機ドーンがベスタとケレスを探査する理由として、単に「でっかいから」ってのもあるっぽい。ブルーバックス『はやぶさの超技術』に書いてあったには、日本が探査対象に選んだ小惑星(のちに「イトカワ」と命名される)のサイズを NASA の研究者に言ったら、「なんでそんな小さな星に行くんだ」みたいなことを言われて、怪訝な顔をされたらしいw

よく「大は小を兼ねる」とは言うものの、そりゃ場合による。何でもかんでもでかけりゃいいってもんじゃないわけで、イトカワみたいな超ちっさい小惑星を探査したからこそ、初めて発見できたもろもろがあるんですわな。けどアメリカ人の感性として「どっち取る?」言われたら、どうしても大きいほうのつづらを選んでしまうらしいw 確かに、スポンサー(納税者)の受けで考えると、でっかくて有名な星のほうだろうしな。

間違いってほどでもないわけで。でかい小惑星にはでかい小惑星として、そうなった成り立ちと個性があるわけで。しかもベスタもケレスも未調査だから、やる意味は存分にあるね。極小の小惑星イトカワを探査し尽くした国の人間としては、極大の小惑星と探査データを比べ合うことで、さらなる新発見を期待したいところですな。

銘板左端銘板銘板右端

小惑星科学の面白さって、はやぶさ にハマるまでおいらまったく理解できてなかったよ。

そして川口淳一郎先生によると、もともと NASA では惑星探査が花形で、小惑星なんかあんまし興味なかったらしい(アメリカ人はとにかくでっかいのを選ぶの法則発動したのかな)。それが川口先生と NASA との小惑星探査についての共同勉強会を経て、意識が変わってきたらしい。その流れで、彗星サンプルリターン探査計画 スターダスト が動き出した。そして日本で "MUSES-C"(後の はやぶさ)計画が本格的に動き出すのを見て、その大成果を見て、NASA は小惑星探査に本腰を入れ始めた、らしい。宇宙探査の老舗の NASA も、小惑星のおもしろさになかなか気付けなかったんだなー。

銘板左端銘板銘板右端

ベスタの近接写真でさ、表面のクレーターは分かるとして、シワシワはどういう理屈でできたんだろうね。普通に考えると地殻運動な気がする。ベスタは内部が層状に分離してるとされる。鉄分が多いとも言われてる。てことで重い星なわけで、サイズの割には内部での圧縮の熱が派手に発生してたのかもしんない。それでマントルに相当するものが対流したりして、表面にシワシワができたのかな。同じ小惑星でもイトカワと全然違う。それぞれにそれぞれの生い立ちと歴史がある。そこらへんが小惑星の面白いところですなぁ。

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2011.9.5 月曜
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ベスタのシワシワ、フォボスのスジ

昨日は最後に、ベスタ表面のシワシワの理由を妄想したわけで。けどほかの星で、どうしてもおいらの妄想力が届かないものがあって。去年から思い出すたびに考えてるんだけど、どうも合理的っぽい答えを出せない。問題の星とは、火星の衛星フォボス。ヨーロッパの火星探査機マーズ・エクスプレスが撮った写真は以下。

フォボス

このスカーフェイスの理由が分からない。一直線の筋が何本も、いったいどうやって付いたんだろ。完全に平行なわけじゃないね。大粒の流星雨みたいなのに晒されたんだろか。んーだったら一部にだけこすれたみたいに付くはずだと思うけど、ぐるっと付いてる。あたかも表面でオフロードレースでもしたみたいなルックス(フォボス表面に到達した人工物はまだない)。筋がクレーターの上にも通ってるってことは、謎の筋が付いたのは、たぶんクレーター群ができたより後ってこと。

フォボスは大昔は C 型小惑星だったのに、いつしか火星の重力に捕われて火星の衛星になった、という過去があるらしい。この謎の筋、小惑星自体に付いたもんなんだろうか。それとも火星の衛星になってからだろうか。まーどっちだろうと、おいらはそもそもこの筋ができた説明がてんで思いつかんけど。

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2011.9.6 火曜
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ソユーズロケットの打ち上げ失敗は深宇宙探査に影響するか

国際宇宙ステーション(ISS)、一時的な無人化を検討し始めたみたいだね。ロシアのロケットの打ち上げ失敗が元で。とりあえず8月25日の件は「無人貨物船プログレス打ち上げ失敗」とよく報道されてて、まぁ間違いじゃないけど、なんだかプログレスに問題があったみたいな印象を受けてしまうね。

実際に問題があったのはソユーズロケットのほう。んでほぼ同型のロケットが有人のソユーズ宇宙船にも使われてる。スペースシャトルが引退した今、ISS への人の往復はソユーズ宇宙船 + ソユーズロケットの独占状態なんで、ISS の今後の計画が大変ヤバいことになってる、と。

とりあえず日本としては、その前に実験棟 きぼう の通信設備に不具合が出てしまって、これからいろいろまずいことになりそうな気配が漂ってた。そこらへんの懸念、今回の打ち上げ失敗とその後への影響でかき消された感じではあるな。喜ぶべき事態じゃないんだけどさ。

ロシアのロケットはこの1年で失敗が立て込んでるってことで、宇宙庁のトップが更迭されたりもしてるそうな。

そこでちょいと心配なのがもうひとつ。8月31日のログでネタにした火星探査機マルス '96 以来の久々のロシア製の火星探査機フォボス・グルントが今年打ち上げの手はずになってるんだけど、どうなるのかなと。

フォボス・グルントは火星探査機というより、火星の衛星フォボスの着陸探査機なんですな。フォボスの表面物質を採取して地球に持って帰るという、はやぶさ 以上の超高難度ミッションだったりして。行程はたぶん、まず火星を目指す。そして火星の周回軌道に入る。フォボスの軌道に同期させてランデブー。そして着陸、というめんどくささ。火星表面への着陸だったら、火星に飛んでって軌道投入なしでいきなり大気圏突入という荒技もできなくもないんだけど、フォボスへの着陸だと恐らくこの手順を踏まなきゃなんないかと。

しかもそこから地球に向けて、試料の入った子機を打ち上げですよ。ロシアにはイオンエンジンはなさそうだから、推進剤の余裕がほとんどないかも。とすると、はじめからかなり狙いとタイミングを定めて打ち出さなきゃ、地球にたどり着けなさそう。それを遠く離れた火星の衛星の上で敢行するわけで。深宇宙探査史上、最高に難しいミッションだと思うよ。それがフォボス・グルント。

ついでにというか、中国初の深宇宙探査機 蛍火1号 も一緒に火星まで乗せてもらうことになってる。フォボス・グルントの質量が10トン超(かなり巨大)なのに対して、蛍火1号は 110kg(探査機として最小レベル)。てことは蛍火1号はピギーバック扱いなんだろうなぁ。

「乗せてってもらうなんてずるい」て感じがしないでもないけど、日本は自力での火星探査に失敗してるからなおさらなんだけど、たぶんこれからこういうスタイルは主流になるんじゃないかな。深宇宙探査は「打ち上げられれば何でもいい」という時代じゃなくなってきて、打ち上げコストをどう圧縮するかってことになってきてるし。

日本の ISAS がスイングバイ航法やイオンエンジン技術を磨いた理由は、直接は「自前のロケットの能力的限界」だったけど、見方を変えると「外部の大型ロケットは高くつくから」、ということでもあったわけで(M-V ロケットは「性能の割に高価」との理由で廃止させられたけど、M-V の開発が決まった頃はまだ世界じゃロケットのコストダウンが進んでなくて&そこまで円高じゃなくて、それほど高くはなかった)。

このあたりの技を駆使すると、1ランク小さい、それだけ安いロケットで深宇宙に行けるわけ。アメリカの探査計画も打ち上げコストダウンに必死みたいで、水星探査機メッセンジャーは打ち上げ直後に1年間の遠回りをすることにして、そのぶん小さなロケットで打ち上げられた。

てことで打ち上げ費用を安く上げるには、ひとつには探査機の航法でがんばることにしてロケットを小型化する方法がある。もうひとつは、フォボス・グルントと蛍火1号がやる「相乗り」。折半ですな。

商用衛星の相乗り打ち上げはもう一般的で、ヨーロッパの大型ロケット アリアン V がそれでコストダウンに成功。世界中から注文を集めまくってる。

深宇宙探査機のほうはなかなかそうは行かない。頻度がまばらな上に行き先がそれぞれなもんで、乗り合いバス方式はなかなか成り立たないんですな。けど、それができればすごく助かるわけで。んでこの分野でのたぶん相乗り第1号は、金星探査機 あかつき とソーラー電力セイル実証機 "IKAROS" と、超小型惑星間空間宇宙機 しんえん のトリオ。IKAROS と しんえん は特定の目的地がないんで、これが成り立った。ちなみに打ち上げ費用は折半じゃなく、あかつき が全部持つ形になってたらしい。

フォボス・グルントと蛍火1号コンビは質量比がおよそ 100:1 だから、中国側は費用の 1% を持てばいいことになるけど、まー常識的に、1割くらいは持つんじゃないのかねぇ。打ち上げ前や打ち上げ中の管制はあんまし質量に関係なさそうだし。

そこらへんの両者の事情や契約関係はよく分からんけど、実は日本にもそんな計画があったり。日欧共同の水星探査計画 ベピ・コロンボ で、日本は水星に着くまではほぼヨーロッパにオマカセ状態らしい。彗星への周回軌道投入後に、それぞれの探査機が分離してそれぞれの活動をする、と。フォボス・グルントと蛍火1号とほとんど同じ形態だったりして。ヨーロッパ側の探査機 "MPO" の質量は4.2トン。日本側の "MMO" は 120kg。質量の関係もそっくりですがな。

結論。蛍火1号はずるくない(日本もやるからw)。

んで、フォボス・グルント&蛍火1号チームとベピ・コロンボチームのどっちも、このまえ宇宙貨物船プログレスの打ち上げに失敗したロシアのソユーズロケットを使うことになってたんですよ。ソユーズロケット自体は半世紀以上もの実績があるから、設計での問題点が出尽くして解決し尽くした「枯れた」技術ですな。問題があるとすれば今現在の運用なわけで。

んでまぁ両チームともたまたま、当初より重量増加が理由になってソユーズロケットじゃ足りないことが判明、それぞれ別のロケットを使うことになった。

フォボス・グルント&蛍火1号チームが乗り込むは、同じくロシアの ゼニット。通算での成功率は 89% とあんまし高くないけど、今使われてる 3SL 型は2009年1月の時点で 93.1% だそうで、実用レベルですな。プロトンと同じ理屈で成功率が低く見える、と。

ふむーそうか、ゼニットって ICBM からの転用ロケットだと思ってたけど、かの超巨大ロケットエネルギヤのブースターからの転用だったのか。てことは1段目は再利用できるんだろうか。ペイロード質量あたりの打ち上げ単価が最も安いらしいけど、それが理由なのかな。

んでまあフォボス・グルント&蛍火1号はソユーズロケットではないってことで。実はこのチーム、打ち上げが今年の11月に迫ってるんだよね。火星への打ち上げ窓は2年2ヶ月ごとに訪れる。これを逃すと2014年初頭まで待たされることになる。ソユーズロケットの失敗原因究明がもし長期化しても、このチームの打ち上げは問題なさそう。あとはゼニットがちゃんと稼働することを祈るばかりですな。

ベピ・コロンボチームも重量増加でソユーズロケットをやめて、アリアン V への搭乗が決定らしい。こっちは通算打ち上げ成功率が 93.10% で、既にいけるレベルではあるけど、ご多分に漏れず初期不良期を含めての話。今のところ45機連続成功で記録更新中とゆーツワモノだったりする。さすが商用打ち上げ世界シェア1位なだけある。ベピ・コロンボはやむなくソユーズを諦めた形になったけど、この「信頼の白い翼」w に乗れるのはいいことなんじゃないかと。

探査計画はソユーズロケット頼みの面が大きいかと思ってて、今後の影響が気になってた。けど意外とばらけてるんですなぁ。今日初めて知ったわ。ちなみに現状で、JAXA のベピ・コロンボ公式サイトじゃいまだに「1機のソユーズロケットでMMOとMPOをまとめて打ち上げます」だなぁ。ヨーロッパ側の公式サイトは "LAUNCHER Ariane 5" となってるんだが。って ISAS の公式サイトじゃ「打上げロケット アリアン5型ロケット」なんだな。JAXA と ISAS で2つの公式サイトを運営してるってのが、なんかそのまんま両者の関係を表してる感じだなぁ。JAXA 設立時のうさんくさかったキャッチフレーズ "One JAXA" の効き目はこんなもんだったってことですかね。

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2011.9.7 水曜
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フォボス・グルント その1

昨日の続きでも。

ゼニットロケットの能力、静止遷移軌道に5.25トンですな。 日本でいうと、H-IIA 202型と204型の間くらい。そのロケットで、10トン超のペイロードを静止遷移軌道よりはるかに遠い火星に届けられる仕組みがよく分からん。このペイロード質量なら低軌道打ち上げが精一杯のはずで、地球スイングバイ航法さえできないはず。一体どういうカラクリなんだ?

と、いろいろ探ってみたらば、ありましたよありましたですよ。

とりあえずあまりにも壮大なミッションに感激してしまった。BGM のボレロ合いすぎだ。

この PV はまだ蛍火1号の相乗りが決まる前のものみたいだね。ロケットもソユーズだし。

Wikipedia 日本語版記事に載ってるフォボス・グルントの基底部の画像、あれって地球低軌道を脱出するための推進モジュールだったんだね。一気にじゃなく、2段階で第2宇宙速度を獲得ですな。ここで打ち上げ時期と火星遷移軌道に入るタイミングを調整するのかな。んでこの推進モジュール、火星遷移軌道に乗った時点でお役御免とばかりに切り離される。ゼニットは3段式ロケットなんで、こいつの正体は第4段キックモーターだったわけで。マルス96の底部にも似たようなのが付いてるから、実はまったく同じものかも。

つか、ははぁー。マルス96を日記ネタにしたときの打ち上げ失敗の過程、第4段てのはこの手のキックモーターのことだったのか。

RussianSpaceWeb 様に、フォボス・グルントの詳細図が出てた。

フォボス・グルントと蛍火1号

蛍火1号はフォボス・グルント本体と推進モジュールとの間に仕込まれてるってことは、火星遷移軌道に入ったらとっとと別れるってことかな。したら蛍火1号は自力で火星周回軌道に入らなきゃなんないわけで。ベピ・コロンボでの日本側は彗星周回軌道投入まで相方のヨーロッパにオマカセなのに。中国は打ち上げてもらうだけで、あとは自力か。たぶん構造上そうなってしまったんだろうけど、中国にしてもかなりチャレンジングなミッションですな。

お、もう一本 PV みっけ。こっちも蛍火1号より前みたいで、さっきよりもうちょっと詳しい。ちなみにおいらロシア語はまったく分からんw

んで2本の PV を比べると、火星に着くまでの様子がちょっと違うね。ボレロ版だと探査機は太陽電池をバタバタ広げて、エンジンを噴かしたまま火星に近づく。てことでイオンエンジン搭載なのか?と思ったけど、ナレーション版だと太陽電池は広げないし、見た感じ普通の化学エンジンっぽい。

ボレロ版は火星到着寸前に、件の巨大太陽電池ユニットを投棄。新たに太陽電池を広げる。それだけだと意味のない行為に見えるけど、これ何なんだろ。この PV のときはイオンエンジンユニットを搭載する前提だったのかも。で、ナレーション版ではそこがキャンセルになったのかも。

この中では RussianSpaceWeb の画像が一番新しいはずなんで(蛍火1号が出てるんで)、それを参考にそれぞれの PV のフォボス・グルントの機体を見比べると、ナレーション版のほうが新しいっぽい。こりゃイオンエンジンやめたんですな。なくても行けることが判明したか、イオンエンジンの開発が間に合わなかったか。

トラスも含めて、蛍火1号を追加したことでの重量増加は 200kg 程度かと思う。フォボス・グルント全体のわずか 2% ほど。それでロケットをより大型のゼニットにしたってのはちょっと不自然なような。イオンエンジン案廃止→推進剤が増加→本体を大型化→ロケットも大型に取り替え→かえって打ち上げに余裕ができたから中国の探査機も載せる、てな流れのような気がする。ミッション自体、相当に冒険的なものなんで、「新技術を使わなくて済むなら使わんほうが成功率が高まる」という、技術的に真っ当な考えの上で決定なのかも。

銘板
2011.9.8 木曜
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フォボス・グルント その2

火星の周回軌道に到達してからがまた手に汗握るミッションの連続ですなぁ。まず長楕円軌道に入ってから円軌道に修正。フォボスの軌道と同期してから着陸、の大まかな段取りは予想どおりだったけど、フォボス上空からの観測は想定外だったよ。はやぶさ みたいに星の周りを自由に動き回って探査するもんだと思ってたら、火星の周回軌道上だもん、そう簡単には行かないらしい。

衛星軌道上のランデブーは、噴射は逆向き。近づきたかったら遠ざかる向きに、遠ざかりたかったら近づく向きに噴射しなきゃなんない。公転周期が7時間40分てことは火星に相当近い。この影響は大きいはず。どうしても複雑な操作をしなきゃフォボスの全周を観測できないはず。

ところがここで軌道力学の裏技発動。

フォボスと同じ公転周期で、フォボスより離心率が大きい軌道を取るとあら不思議。ただその軌道を飛ぶだけで、フォボスの全周を観測できちゃう。地球の月と同じく、潮汐力でフォボスの同じ面がいつも火星に向いてることも利用してるね。このアイデア素晴らしいですなぁ。軌道傾斜角をちょっとずらすと、極域も観測できるんじゃないかな。あるいは着陸ミッションのときに極域を調べるかも。

ただ、1カ月かそこらの短期間じゃ、探査機のカメラやセンサーがフォボスを捉える一定のアングルのときにいつも、火星の影に入って何も見えない状態が続くはず。あるいは逆光で表面が何も見えないとか。ここは火星系が公転して、見えなかったところが見えるようになるまで、長期の観測になるかもね。けど例えば火星が 90° 公転するまでとなると、地球時間で5.7カ月。ほとんど半年かかることになる。意外と待たされますなぁ。

いよいよ着陸。ナレーション版でレーザー測距してる様子が出てる。電波っぽいポワポワビームwのカットだと、ドップラーうんたらとか言ってるし。レーザーとレーダーで地表の起伏や降下速度を探るんだと思う。さらにテレビジョンカメラともステレオとも言ってる気がする(5:50 あたり)。地形の光学情報を立体でゲットして、それで着陸場所を決めようって腹かと思われ。

これ自動なんだろうか。それとも地上局に送信して、人間に適地を決めてもらうんだろうか。自動ならもう決定したら一気に着陸ですな。地上で決めるなら、けっこう膨大な量のデータを地球に送らなきゃなんないから、そのまま着陸の線はなさそう。

はやぶさ はイトカワ上空からの科学探査での画像をもとに、地上で着陸場所を決定した。その場所の条件が はやぶさ にとって厳しかったんで、途中まで地上管制が支援する形にして、全自動着陸は諦めた。電波が飛ぶタイムラグが往復で32分もあったんで、着陸のための接近行程は超ゆっくり。それでも何度か失敗したのち、ようやく着陸に成功した。

フォボスの表面重力はだいたい2000分の1Gほど。ほとんど「無重力」と言っていい。国際宇宙ステーションの端っこのほうは重力と遠心力の均衡が崩れてて、100分の1〜1000分の1G くらいの重力・遠心力での加速度がかかってるらしい。それよりもずっと小さい。イトカワの表面重力の60倍くらいあるけど、探査機のスラスタのパワーに比べたら同じようなもん。もしかしたら火星からの潮汐力の影響のほうが大きかったりして。

そういうところに着陸するんだけど、PV によると着陸方法はけっこう豪快。はやぶさ は自由落下+太陽光圧+逆噴射でイトカワ表面にそっと舞い降りた。対するフォボス・グルントはタッチダウンの瞬間、あろうことかスラスタを上に噴かして、機体をフォボス表面に押し付けるんだもんなぁ。こんな力ずくな着陸方法、おいらほかに知らんよw 着陸脚に下手にサスペンションを付けようものなら、飛び上がってしまって着陸状態が続かないだろうから、着陸脚の衝撃吸収機構は塑性的な変形しかしないよう工夫されてると思われ。

はやぶさ と違って、フォボス・グルントの本体はそこに永遠にとどまるんですな。地球への帰還モジュールを打ち上げた後も、しばらくはそこで土壌分析するみたいだね。この分析も、マニピュレータでつまんでパレットに載せて顕微鏡的なもので観察するという、宇宙空間ではなかなかの至難の業をやろうとしてる(真空中だと軸と軸受けが固着しがちなんで、可動部を設けるのはそれだけでリスクを冒すことになる)。

「お持ち帰り」のほうはというと、これまた複雑なメカを用意してるね。はやぶさ は弾丸を星の表面に撃ち込んで、舞い上がった砂粒が機体中央部の収集箱(サンプルキャッチャー)に流れ込む仕組みだった。サンプル自らの慣性力を利用する、と。あとはサンプルキャッチャー丸ごとを、帰還カプセルに真っすぐ押し込んでフタするだけ。できるだけ単純な機構にしてある。コンテナをカプセルに押し込む動力も、形状記憶合金に熱を加える形にして軸受けを排してる。確実さ重視ですな。

フォボス・グルントのほうは、たぶん月での無人サンプルリターンをやってのけたルナシリーズの踏襲だと思う。パイプをフォボス表面に差し込んで、パイプの内側に入ったものを、密閉式管内ベルコン的なもので機体上部の再突入カプセルに送り込む。詰まったりとか心配ないのかなぁ。経路もベンドがいくつかあるし。

はやぶさ のときは、もしサンプル採取の道具を小惑星表面に突き立てると、重力が小さいんで逆に探査機のほうがひっくり返ってしまうから、という理由であのサンプル採取メカが開発された。けどフォボス・グルントはパイプを星の表面に突き刺す。反動、問題ないのかな。

んー、もしかして着陸時にスラスタで機体を押し付けるのって、本体から下向きに突き出たパイル的なものをフォボス表面に押し込んで、それで機体を固定する発想なのかもね。だったらそのパイル的なものをパイプにしてサンプルを取ればいいんじゃないかって気もするけど、まあよく分からんと。

んでサンプルはカプセル内に搬送されてニョロロローと仕込まれる手はずだけど、輪っか状ってことはサンプルは重心位置から離れてるわけで、地球帰還のときの重心設定は大丈夫なんだろうか。大丈夫と判断されたからこそ採用された方式なんだろうけど。

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2011.9.9 金曜
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フォボス・グルント その3

そして帰還ミッション。

フォボスの重力圏からの脱出は簡単だとして、問題は火星の重力圏からの脱出ですな。ただ脱出すればいいわけじゃなく、限られた推進剤を上手に使って、きっちり地球に向けて打ち出さなきゃなんない。狙いを定めてドンドン打ちで行くのかなぁと思ってたんだけど、手順を踏むらしい。

  1. フォボスの公転軌道に近い火星の周回軌道へ
  2. 近火点を下げて、フォボスと周期をずらす
  3. 近火点で噴射、長楕円軌道に入る
  4. 長楕円軌道の調整
  5. 近火点で噴射、地球帰還軌道へ

という段取り。ドンドン打ちはリアルタイム制御が効かない固体燃料派の発想でしたな。ロシアは液体燃料派。着火・停止を繰り返して、タイミングを読みながらの帰還ってことなんじゃないかな。だとするとタイミングを見切るための「溜め」は1の間だね。2. 以降は楕円軌道になるんで、行程が進むごとにそこらへんの自由が利かなくなっていく。

2. の動機はちょっと自信なし。フォボスと周期をずらすなら、遠火点を上げるほうが推進剤の消費がトータルで少なくなるはずなんで。同じギモンは 4. でも言える。せっかく加速しといて、なんでここでも減速するんだろ。

とりあえずこの行程が終わると、あとは地球に飛び込むのみ。推進モジュールから分離されたカプセルは、ほかのサンプルリターン計画と同じく、地球周回軌道に入ることなくひと思いに地球に突っ込む。

サンプルをカプセルに仕込むときの重心位置の問題、ここでなんとなく解決されたっぽくなる。どうもカプセル、どんな姿勢で再突入しても大丈夫なように作られてるように思えて。

ナレーション版だと半球形で、なんと切り口の面を前にして再突入しとりますな。空力的に不安定な気がすごくする。てことで途中でひっくり返ることもあり得る気がして。んでむしろ、球面が前になると無理がなくなりそうで。そう考えると、全方位耐熱仕様ってのが妥当に思えて。

そして最後の最後がまた衝撃。衝撃なのが衝撃。な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……。

パラシュートないのかよ! デフォで地面に激突かよ!

そのぶん頑丈に作ってあるんだろうけど、大気の抵抗で減速されるんだけど、それでも時速 300km だぞ。パラシュートが開かなかったアメリカのサンプルリターン探査機「ジェネシス」はその憂き目に遭った。はやぶさ のカプセルも、もしそうなったら 300km/h でウーメラの大地に激突する予測ができてたらしい。つか地球の大気圏内で物体を自由落下させると、だいたいこのスピードで安定するものらしい。スカイダイバーの落下速度もこのくらいらしい。

ナレーションだとウクライナに着陸することになってるみたいだけど、着陸というよりドチーンと落ちることになってるんだな。んでビーコン電波を頼りにヘリコプターが回収に向かう、と。しかしたまたま運悪く、落下地点に大きめの石とかあったらどうするんだろ。

つか普通に土の上に着陸できたとして、ビーコンの発信装置は 300km/h クラッシュの衝撃を受けても大丈夫なんだろか。沼地に落ちて水没なんて心配はないのかな。けど、むしろパラシュートなしってことは風の影響も少ないってことで、はやぶさ 以上に超正確に目標地点に命中させられるもんだったりもして。

これまた PV だと、昼間に帰還することになってるね。地球の公転軌道より外側の星から帰ってくる探査機だと、スターダストも はやぶさ も夜中に再突入した。その線だとフォボス・グルントも夜中だよなぁ。それだと地球の自転の向きがカプセルの進入方向と同じなんで、昼間より再突入時の対気速度が何 % か緩くなるんだよな。

火星の遠日点はイトカワの遠日点より低いんで、再突入速度は はやぶさ カプセルほどにはなんないはず。そのぶん、深夜便の再突入での対気速度の相殺割合も大きくなるはずなんだけどな。むしろカプセルの強度に自信があるうえ再突入速度もそんなでもないからって理屈で、昼間の再突入を強行するってことなのかな。あるいは、ウクライナに落とすには昼のタイミングしかないのかもしんないな。

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2011.9.10 土曜
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フォボス・グルント その4

フォボス・グルントの行程はこんな感じ。今回初めて知ったけど、はやぶさ 以上に複雑な行程がずらっと直列に並んでるという最高難度の探査計画ですなぁ。どれかをしくじれば即失敗ということで。ロシアってソビエト時代から火星探査に挑戦し続けてるけど、まともな成功がまだ1回もないんだよね。それでも技術力がないのかといえばそうでもなく、金星探査のほうはダントツ。

金星の地獄の大気圏内で探査活動した国ってまだソビエトしかない。あんな過酷な環境でまともに稼働して観測データをきっちり送ってきたなんて、いまだにソビエトしか成し遂げてない金字塔だったりする。1回2回のまぐれじゃなく、着陸機で9回、気球で2回成功。そしてそれは、金星大気の実情が分かってからの話。その前は想定外に高い気温と気圧で、何機もの探査機が着陸を前に消息を絶ったそうな。ビーナスは灼熱と破壊の女神ですなぁ。

アメリカが火星マスターならソビエト/ロシアは金星マスターなわけで。まー火星ミッションじゃなぜかいつもツキがない感じで。まぁ今回はその点はマシかもしんない。狙う先は火星本体じゃなく、火星のツキだから(←オヤジ系)

そして満を持してのフォボス・グルント。無人サンプルリターンでいえば、ソビエト時代に月で2回成功してる。そのときの勘どころがまだあるのかもしんない。あるいは意識として、月サンプルリターンの延長という位置づけなのかも。ここまで大変そうな企画を作れたのも、それを実現する探査機を作れたのも、その意識の成せる技なのかもね。

今のロシアのロケット事情は大変悪いけど、ゼニットは失敗禍に巻き込まれてないみたいなんで、予定どおり今年の11月に打ち上げてほしいですなぁ。逃すと2014年に延びちゃうんで。

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2011.9.11 日曜
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四半世紀で巡る国際厄年

米同時多発テロから10年、東日本大震災から半年かぁ。今は台風被害も半端ないし。ひどい年だよ。

あと今年はチェルノブイリ原発事故と、スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故から25周年だね。

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2011.9.12 月曜
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フォボス・グルント その5

しかしフォボス・グルントの外観、いかにもロシアの探査機だなぁ。むき出し感がw

フォボス・グルント外観

推進剤タンクとかおもっきし露出してるし。下半分の白いところは真っ当な胴体に見えるけど、PV を見ると、床も天井もないただの腰巻きなことが分かったり。

宇宙機は熱設計が大事だということで、アメリカでもヨーロッパでも日本でも、熱収支の管理をするために箱形やら茶筒型やらの「胴体」をしっかり作っては、神経質なまでに設計・実験を繰り返すわけで。運用で最も気遣う部分のひとつなんだが。それでもロシア様はこんな感じの独自路線。なんか日米欧は根本的に何らかの間違いを犯してるんじゃないかと気にないってしょうがない。

日本の火星探査機 のぞみ は電源系にトラブルが発生して、燃料タンクのヒーターが作動しなくなってしまった。そしたら融点 1℃ のヒドラジンが凍結してしまって、姿勢制御に支障を来すようになった。火星近辺の太陽エネルギーは地球の近くの4割しかないもんなぁ、と。

してフォボス・グルント。火星に行くのにそんな薄着で大丈夫なの!? 燃料、凍らない!?

ま、宇宙の渡世、ロシア様が黒いと言ったら、白いもんも黒いんでさぁ。てなことで、ロシアだからできる荒技な気もしなくもない。

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2011.9.13 火曜
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全裸でなければ圧力鍋 1

ソビエト/ロシアの宇宙機でまともな胴体を持ってるものっつったら、ルノホート1号2号と金星探査機ヴェネラシリーズの着陸機くらいなもんかなぁ。

ルノホートは月面での2週間にわたる長い夜の寒さに耐えるため、ヴェネラは金星の超高温超高圧環境に耐えるため、さすがに全裸で勝負ってわけにはいかなかったらしい。んでとりあえず今日はルノホートの勇姿でも。

ルノホート1号

ルノホート1号、いつ見てもかわいいなぁ……。

2号↓はちょっと目つきがいかつかったりw

ルノホート2号

せっかくかわいいのにもったいないw しかも三つ目ww まーかっこよくなったと言えなくもないな(強制納得)。

この2つのおめめはステレオカメラなのかな。スペースサイト! 様によると、どうもそうらしい。このほかにもカメラが複数台積まれてて、その画像を見ながら地上から遠隔操縦したんだそうな。白黒で、走査線の数は250本。今ならケータイのカメラ程度の小ささで、もっともっと綺麗にカラーで撮れるなぁ。

そうか外殻の中を1気圧の窒素で満たして、内部の機器の温度管理をしやすくしたり、モーターその他のベアリングの固着を防いだりしてたのか。それで裸じゃないんだ。なるほどなー。このサイトで初めてルノホート計画の詳細を知ったよ。

1号の死因は件の外殻の気密が破れたことなのか。2号の最期は不慮の事故。関係者の皆さんにはショックだったろうなぁ。けど実際に他天体でローバーを走らせてこその経験だよ。

そして、ルノホートを打ち上げたのはプロトンロケットなんだ。そしてプロトンの設計者はコロリョフのライバルのチェロメイだったんだ。初めて知ったわー。チェロメイの名は最近知ったばかりで、コロリョフの邪魔したらしいから無能でずるいやつだと勝手に思い込んでた。プロトンを作ったおかたなら尊敬に値するわ。チェロメイ様、大変申し訳ありませんでした。

おお、幻のルノホート3号キターーー! すみませんお写真がめさせていただきますた。

ルノホート3号

1号であんなにキュートだったつぶらなおめめが……2号でもまだ行けてなくもなかったおめめが……ぶじゅぶじゅのサイバーパンクになってるよーていうかこれじゃ3号はフタ付き片手鍋だよー(泣)

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2011.9.14 水曜
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全裸でなければ圧力鍋 2

てなわけで今日は、ソビエトの金星探査機ヴェネラ9号10号の着陸機のネタを漁ってみた。

子供の頃に見た図鑑での印象は、「電球に似てるなー」とw そんでまぁヴェネラの着陸機はいろんなバージョンがあってデザインが微妙に違うみたいだけど、おいらがあのときに見た、電球酷似のやつを探したら9号10号でしたよ。これがそのお姿。「ソ連 無人月・惑星探査機」様で(勝手に)拾わさせていただいたもの。すみませんですありがとうございます。んで、ご紹介したのページの下のほうには、着陸の行程が出てるよ。

ヴェネラ9号

これだよこれ! ほんと電球だよなぁ。しかもソケットのネジネジに傘まで再現しちゃってw

「ソ連 無人月・惑星探査機」様で初めて知ったのは、その電球の傘って軟着陸のためのエアブレーキだったってこと。なるほどなー。パラシュートで降下して逆噴射なしだったことまでは知ってたけど、まさかはるか高度 50km で思い切ってパラシュートを切り離して、あとは自由落下していったなんてなぁ。濃密な大気の粘性のおかげで、素の状態のままゆるゆると降りていけたってことで(たぶん浮力も幾分かは効いたんじゃないかな)。そのスピードを適量に調整したのが「電球の傘」と。

着陸直前の降下速度は秒速 7m だったとのこと。これって1秒間に 7m 進むってことで、けっこうな衝撃だったんじゃないかと思ってさ。んで計算したら、地球上で 84cm の高さからモノを落としたのと同じだったわ。そんなもんか。クルマのラリーなんかで、おもっきしジャンプすると車体がそのくらいの高さに達するよね。要はしっかりしたサスペンションを用意して、それがちゃんと機能すれば大丈夫ってことでして。画像で見る限り、そういうサスペンションがちゃんとあるみたいだしさ。

それでも本体に衝撃が来たと思うけど、宇宙機は打ち上げロケットの中でかなりの振動に晒されるから、少なくともそれに耐えられるくらいは頑丈にできてるわな。打ち上げ時と着陸時、ヴェネラ9号10号が受けた G がどのくらいか知らんけんど。

んでまぁヴェネラちゃんの色はどうだったのかと。(勝手に)いただいた画像は白黒だし、おいらの古い記憶は曖昧だし。てことで "venera probe" でググったら、それっぽいのが出てきたよ。"Buran Space Shuttle - Energia Rocket Launcher" 様より。しかし旧ソビエトの宇宙機って、日本にも外国にもコアなファンサイトをいくつも擁してるなぁ。んでまた画像を(勝手に)いただいてきた。すみませんありがとうございます。

ヴェネラ?号

博物館にあるレプリカらしい。見た感じ9号10号っぽいけど、なんか表面がシンプルすぎる気がして。サスペンションもないみたいだし。どの程度まで忠実に再現されてるのかちょっと不明。んー、いやいや、輪っか型の着陸脚の下面全体がショックアブソーバーになってたのかもな。巨大さが売りのソビエト探査機の中で、このシリーズはけっこう小型だったみたいだし。大きさが分かる写真はコチラ↓(9号10号じゃなく11号なんで細かいところが違ってそうだけど、目安として)

ヴェネラ11号

ルノホートはゼロ気圧環境の中で内圧を保つための外殻だったけど、こっちは逆で、地球の深海並みの超高圧から内部機器を守るための外殻だった。てことで電球型。たぶんてっぺんのネジネジはアンテナかな。そういや電球が丸いのは、中が真空だから、圧力差に耐えるためだったね。同じ目的で同じ形ってことで、ちょっと納得行ったわ。

金星ってそういえば、秒速 100m の暴風がいつも吹きすさんでるんだよね。これは上空のみの話かもだけど、それなら表面近くでもけっこうな風が吹いてるのかも。そんな中で秒速 7m で着陸って、すげー風で流されそうな気がする。90気圧だと密度も90倍で、とんでもないパワーの横風を食らったんじゃないかな。よく横倒しになんないできちんと着陸できたなぁ。着陸直前に姿勢制御してたんだろうか。つかパラシュート降下時は掛け値なしの秒速 100m を受けたわけで、どうなんだろ、パラシュートは想定どおりに機能したんだろうか。

お、日本の金星探査機 あかつき のサイトにそのあたりのデータが出てる(記事)。高度 50-60km あたりがきついですな。ヴェネラがまさにパラシュートを開いてるあたり。うーん、そのときこの勇敢な探査機の状況はどうだったんだろ。んで高度が下がるにつれて風が弱まっていって、高度 5km より下はほとんど無風ですな。着陸は静かにできたみたいだね。

スーパーローテーションの発見自体は1957年だったけど、信じがたい現象ってことで長らく無視されてた、と書いてあるね。ヴェネラ9号10号が降りた時代にはもう認められてたのかな。それまでソビエトは何度も着陸機を送ってはデータを溜め込んでたから、確認済みではあった気がするけど。

銘板左端銘板銘板右端

しかしスーパーローテーションってほんと不思議だよ。発生原理がいまだに謎だそうだけど、超濃密な大気を駆動するんだから、相当なエネルギーなわけで。そんだけ膨大なのは太陽エネルギーのほかになさそうってのは予測できるけど、どんなメカニズムが大気を運動させる「仕事」に変換するのか。その解明は あかつき の活躍に期待したいけど、それは4年以上後か。待ち遠しいなぁ。

この あかつき ページによると、土星の衛星タイタンでもスーパーローテーションが発生してるんだね。あそこまで太陽から遠いと、太陽エネルギーのみで説明がつかない気がする。ほんとどうなってるんだろ。

銘板左端銘板銘板右端

ヴェネラの着陸脚の付け根あたりに、足元を照らすライトが付いてるね。ヨタ話だけど、金星表面に実際に探査機が行って撮影してみるまでは、太陽光の強さが地球の2倍とはいえ、分厚い雲の下は真っ暗なんじゃないかと思われてたそうで。しかも霧が立ちこめて(つまり下界まで雲だらけで)視界が悪いんじゃないかとも。それでライトを装備したんだけど、意外や意外、思いのほか明るいうえに霧なんかなくて視界良好だったそうな。現地に行ってみんことには分からんもんですなぁ。

てことでヴェネラ14号が撮った金星表面のカラー写真はコチラ。

金星表面_ヴェネラ14号

前に紹介した画像だけど、いつ見ても感慨深いものがあるなぁ。地球上の景色に見えなくもないけど、全く別の惑星なんだもんなぁ。視界は地平線までクッキリ。地球や火星と違って、金星表面は起伏に乏しいらしい。地球に当たればクレーターを作るほどの巨大隕石も、大気圏の高いところで簡単に燃え尽きそうだもんな。てことで、きっと 360° パノラマを撮れば、こんな感じの真っすぐな地平線がずーっと見えるんじゃないかな。

銘板
2011.9.15 木曜
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再挑戦への条件 1

金星探査機 あかつき、9月9日と14日に行ったメインエンジン(OME)試験の結果が思わしくなかった orz 毎日新聞より

あかつき:推進力得られず 金星観測軌道への投入不可能に

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は15日、金星周回軌道への再投入を目指す探査機「あかつき」の軌道制御エンジンの2回目の試験噴射の結果、再投入に必要な推進力が得られなかったと発表した。これにより、当初目指した金星観測に適した軌道への投入は不可能となった。

今後、姿勢を整える目的で搭載された別の「姿勢制御エンジン」を使っての再挑戦を模索するが、設計上の推進力が弱いため、仮に成功しても、金星の遠くを90日で1周する楕円(だえん)軌道から遠巻きに観測することになるという。

あかつきは昨年12月、金星を間近に観測できる軌道へ移る際、逆噴射による減速が不十分で軌道に入れなかった。軌道制御エンジンの逆噴射に必要な燃料が、配管の弁が詰まるトラブルで十分供給されず、短時間に終わったことが原因だった。

あかつきは現在、金星とほぼ同じ軌道上にあり、太陽の周りを回っている。JAXAは、あかつきが再び金星に近づく15年11月を目標に軌道制御エンジンを噴射させ、当初計画通りの軌道へ再投入することを目指していた。

同エンジンの性能を確かめるため、今月7日に2秒間試験噴射したところ、推進力が予定より大幅に低いことが判明。14日に5秒間の再噴射試験を実施したが、予定の8分の1〜9分の1しかなく、推進力不足は確実と判断した。

15年11月の軌道投入を実現するには、今年11月に約400秒間、エンジンを噴射してあかつきの軌道面を微調整する必要がある。JAXAは「どちらのエンジンを使うかを9月中には決めたい」としている。【野田武】

◇計画、大幅な変更迫られる

金星の自転周期は243日なのに、大気は4日で1周するほど速く循環している。「スーパーローテーション(超回転)」と呼ばれるこの不思議な現象を間近で観測するためにあかつきは開発された。だが今回、当初の軌道投入が絶望的となったことで、約250億円をかけた計画は大幅な変更を迫られる。

次善の策としてJAXAは、推進力の弱い別のエンジンを使って遠い軌道への投入を検討しているが、1周に要する時間は72倍、金星からの距離も最大10倍と遠い。観測機会は大幅に減り、得られるデータも限られる。

救いは、観測作業にかかわる探査機の不具合が見つかっていないことだ。JAXAは、新たな条件下でのデータに期待をつなぐ。「限られた観測機会の中で成果を得られるよう、観測計画の変更を考えたい」としている。

日本の惑星探査は探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワの微粒子を持ち帰る成果を上げた一方で、火星を目指した「のぞみ」が03年に軌道投入に失敗、続くあかつきも大きな失敗を経験した。惑星探査を「あかつき後」につなげるためにも、11月に控える難局を含め、最善の努力が求められる。【野田武】

◇「あかつき」とは…

縦横約1.4メートル、高さ約1メートルの箱形で重さ約500キロ。1周約30時間で金星を周回する軌道に投入される計画だった。地球とほぼ同じ大きさだが気象条件が異なる金星の詳細な観測を通じて、生命が存在できる環境についての理解が深まると期待された。開発費は打ち上げを含め約250億円。

◇あかつきをめぐる出来事◇

2010年

5月21日 種子島宇宙センターから打ち上げ

12月8日 「金星周回軌道投入に失敗」とJAXAが発表

12月27日 軌道制御エンジンの燃料供給系配管の弁不調が原因と断定

2011年

6月30日 15年11月に金星周回軌道へ再投入する計画を発表

9月9日 試験噴射の結果、推進力不足が判明

9月14日 2度目の試験噴射を実施

9月15日 推進力不足が確定、本来の軌道投入は不可能に

毎日新聞 2011年9月15日 23時39分(最終更新 9月16日 0時35分)

スーパーローテーションの謎が遠ざかる…… (T□T ;)

しかも今年11月の軌道修正、400秒も噴射が必要なのかよ。12月8日は結果的に減速スイングバイして金星との速度差が減ったから、そのぶん燃料が浮くと思ったのに。そう甘くはなかったか。

OME は定格の8分のしかパワーが出ないとのことだけど、これは全開でってことだろうなぁ。ていうか全開しかないはずだし。燃料のみを触媒で気化させて噴射する姿勢制御エンジン(RCS)と違って、OME は酸化剤を使うからそのぶん燃費が助かるはずなのに、この調子じゃほんとどっちを使ったほうがいいのか微妙ですなぁ。

銘板左端銘板銘板右端

関係ない話。

職場で義理チョコを何人からももらっといて、3月11日が震災だったもんだから何が何だかもうアレになってしまって。お返しをずーっとやってなくてさ。今日やったわw 昼休みに大きめのシュークリームを大人買いしてきて、チョコくれたかどうか記憶が定かでなくなった方々にも渡しといた。まる半年遅れてしまったけど、あーすっきりしたー。ずっと気になってたんだー。こういうの、タイミングを失うとなかなかやれないもんですなぁ。なんだかかなり「意を決する」が必要でしたわ。

銘板
2011.9.16 金曜
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再挑戦への条件 2

『『はやぶさ』の超技術』によると、はやぶさ の RCS は酸化剤も使う二液混合式で、燃料のみの方式に比べて3割ほど燃費がいいそうな。……3割。今の あかつき の場合、8分の1パワーの OME よりもこりゃあ RCS だけにしたほうがいいのかもね。

出力が8分の1程度か。こりゃノズルスカートがほとんどもぎれてしまった数値ですなぁ。異常が初めて発生したときのテレメトリだと、自動で噴射を止める直前は定格の6割の出力を出して安定してたかに見えたんだけど、その後に熱衝撃か何かでダメージを受けた部分から破断が進んでしまったのかな。そこはもしかしたら、靭性が低いセラミックの弱点なのかな。

あかつき_方向軸

上の図で見ると RCS は、±Z 軸の方向にスラスタが4個ずつ付いてる。これ 23N(ニュートン。1基でだいたい 2.3kgf ほどの推進力を発生)だね。ほかに 3N が4基あるけど、これはどこに付いてるかおいらは把握してない。とりあえず軌道投入には非力すぎて使わないと思う。

んで OME を捨てるとなると、酸化剤が要らなくなる。そしたら効率を少しでもよくするには、酸化剤を全部捨てて軽量化ってことになるはず。酸化剤は四酸化二窒素。融点が -11.2℃、沸点が 21.1℃。これ、エンジンからそのまま放出したらどうなるだろ。この沸点と融点は常圧環境下だろうから、真空中に放出すると沸騰(つまり気化)しそうな気がする。

けど日陰の極寒環境だとその前に凍るのかもしんない。放出したあと機体にまとわりつかれて凍られると厄介だな。となると、噴射口を太陽に向けて、その面を充分にあっためてから放出ってことになるのかな。この段取りはおいらは妄想でしかないけと、もし OME をこれ以上使わないことになったなら、まーとにかくどうにかして酸化剤を全量、安全に捨てるでしょうなぁ。軌道投入の逆噴射用に推進剤を全備重量の半分程度積んでるんなら、そのうちけっこうな量が酸化剤じゃないかと。

その計算をされてる方がいらした。勝手ながら転載させてくださいませ。

昨日の会見資料には23Nとあったので、
ttp://www.jaxa.jp/press/2010/12/20101217_sac_akatsuki.pdf
ttp://kamome.2ch.net/test/read.cgi/sky/1291829374/133
を再計算してみる。
 
あとヒドラジンスラスタでΔVするなら、
使わない酸化剤を先に投棄して身軽になれれば
そのぶんΔVがかせげるので、これもあわせて再計算。
 
VOIでの消費推薬は
dM = 500N/9.8/319s*158s = 25kg
 
うち燃料は、混合比0.8とすれば
dMf = 25kg*(1/(1+0.8))= 14kg
 
搭載燃料は、混合比0.8とすると
Mf = 187kg * (1/(1+0.8)) = 104 kg
Mo = 187 - 104 = 83 kg
 
残酸化剤は
83-(25-14)=72kg
 
残酸化剤72kgをさきに投棄すると、ΔV開始時の衛星質量は
500kg-25kg-72kg = 403kg
 
残燃料80kgを使って23Nスラスタ×4基で可能なΔVは
dV = 9.8 * 210〜230s * ln(403/(403-80)) =455〜499 m/s
(前回より100m/s増)

なるほどこうやって計算するのか。ふむふむ。理解しました(理解したつもり)。ご教示どうもありがとうございます m(_ _)m

てことで、残ってると思われる酸化剤 72kg を投棄すると、同じ燃料消費で 100m/s ぶんの ΔV が稼げるそうな。思ったより少ない気がしたけど、OME を使うとそのぶんだけ酸化剤が減るからね。後半になっていけば、酸化剤を捨てて RCS を使ったときとの差が減っていきますな。それでこの数字になる、と。

ΔV 100m/s ぶんは、今の あかつき には貴重なはず。金星周回軌道に入った後も、観測を続ける限り RCS 用の燃料は必要だから、そのぶん余裕があれば、そのぶん寿命が延びる、そのぶん多く観測できるってことなんで。

とりあえず11月に400秒の軌道変換マヌーバがある。その前に酸化剤の投棄を終えてれば、この利点を最大限に享受できるはず。

〓ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ⊂<回 ←仕切りジッパー

OME の推力が8分の1程度ってもしかして、まだヘリウム加圧タンク→燃料タンクのバルブが塩で目詰まりしてるからなのかな。だとすると燃料はじゃぶじゃぶ余ってるってことになるのかな。

OME も RCS も燃料タンクは共通のはずで、どっちも同じ、問題のバルブの影響を受けてるはずなのに、J-CAST ニュース記事によれば、「姿勢制御エンジンは、これまでのところ異常はない」のだそうで。配管系を含めない、燃焼室やノズルに限った異常のことなのかな。

もし目詰まりによる燃料タンクの気圧低下の問題が解決されてないのなら、11月の長時間噴射のときも同じ問題が出そうな気がする。と言いつつ、記事ではまた「今回の試験は、弁が故障状態でも噴射が十分可能なように調整して行ったが、うまくいかなかった」という JAXA 広報部のコメントも載せてる。どう調整したんだろ。問題のバルブは自動動作で、地上からの制御はできないはずだったのに。

なんかいろいろもやもやして腑に落ちてないおいら。

銘板
2011.9.17 土曜
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再挑戦への条件 3 そして「こんなこともあろうかと」

てことで報道によると、金星探査機「あかつき」はもはや金星大気のスーパーローテーションの謎を暴く希望が絶たれたってことでして。とりあえず ISAS はそういう意味の発表をしたと。なぜなら現状じゃ金星軌道投入が成功しても、1周の周期が90日の大きな軌道しか取れないから。スーパーローテーションのための観測をするには、それよりはるかに小さい、30時間周期の軌道でなければならないから。

本当にそうなのか。

本当にその選択肢しかないのか。

実は「こんなこともあろうかと」な隠し球があるんじゃないのか。

2010年11月初旬、小惑星探査機{はやぶさ」はすべてのイオンエンジンを失った。万策尽きたと恐らく誰もが思った。しかししばらくして ISAS が行った記者会見で言うには「現在、順調に航行中」。有名な「こんなこともあろうかと」が発動したんですな。

現在の あかつき。

エンジン燃料の肺関係の不具合で、OME は本来の性能を発揮できない。RCS が生きてるけど、燃料は当初の軌道に入れるほどは残ってない。だから狙った観測ができない。

燃料を増やす手だては確かにないけど、理屈では一応、90日周期の軌道投入後、燃料をほとんど使わずに遠点を下げて、30時間軌道にもっていく方法が存在する。しかも ISAS が経験済みでデータとノウハウを持ってる方法。

火星探査機「のぞみ」の窮地に編み出されて可能性をつなぐのに成功した方法(スイングバイ)ではなく。

はやぶさ を救った、設計時や製造時に仕込んだ仕掛けでもなく。

それは、20年前に飛んだ工学実証衛星 ひてん で試した「惑星エアロブレーキング」。

大きな楕円軌道を小さくしていくには近点での逆噴射が必要。この地点でブレーキをかけるごとに、反対側の遠点の高度が落ちていく。計画当初の あかつき はいったん金星周回軌道に投入した後、時間をかけてこの操作を何回か行って、最終的に30日軌道に入る予定だった。何回かに分けたのは恐らく、近点付近という短い区間のみでの逆噴射が一番効率がいいからかと思われ。

遠点を下げるには、近点で逆噴射してブレーキ。

エアロブレーキング説明1

エアロブレーキングじゃ大気の上辺をかすめることで、空気抵抗を逆噴射の代わりにしちゃう。

エアロブレーキング説明2

これだと遠点を下げていく(=公転周期を短くしていく)のに燃料を一切食わない。

そして仕上げ。近点での速度の操作が遠点高度に影響するなら、逆もまた成り立つ。遠点で速度を変えると、近点高度が変わる。

エアロブレーキング説明3

このときだけちょっと燃料を食うけど、全部自前の燃料で遠点下げ行程をするよりも、消費量がはるかに少なくなる。

ひてん は地球周回衛星だったんで、地球の大気でエアロブレーキングの実験をしたんですな。世界初ってことで、発表後は NASA の研究者たちに質問攻めされたらしいよ。てことで ISAS はエアロブレーキングについて、運用のノウハウと結果のデータをもう手元に持ってる。ISAS 内部でこのアイデアは、多くの人たちがとうの昔に思いついてるはず。「こんなこともあろうかと、20年前に実験しておいた!」なんて一発逆転の超展開に期待してますですよ。

15日の記者会見でこのことにまったく触れなかった(らしい)ってことは、金星で、あかつき で可能かどうか、条件をいろいろ探りながら今まさに検討中なんじゃないかな。まぁ「とっくに廃案になったから今さら何も言わなかった」というのもあり得るけど。

銘板左端銘板銘板右端

ISAS(Institute of Space and Astronautical Science)の "Astronautical" の意味は「宇宙航法の」「宇宙航行学の」。「宇宙科学・宇宙航法科学の研究所」ってこと。日本語名の「宇宙科学研究所」じゃ抜けてしまってるけど、そういう研究も重要テーマなんですな。

最近はイオンエンジンとソーラーセイル、スイングバイでこの看板に恥じない活躍をしてるのが知られてきてるけど、20年も前にこんな先駆的な宇宙航法をやってのけてたんだな。ほかにも、IKAROS のHFC134a(代替フロン)での気液平衡スラスタや、のぞみ の救出運用で実用化された「VLBI での探査機の位置の精密決定」、はやぶさ の光学式航法なんてのもあるし。

銘板
2011.9.18 日曜
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再挑戦への条件 4

あかつき での金星エアロブレーキングがもし廃案済みなんだとしたら、その理由を考えてみる。

  1. 周回軌道投入時に RCS 逆噴射を同時にやらないと、最後の近点上げのぶんの燃料を確保できない → リスクが大きすぎる
  2. シールドがない → 昇温に耐えられない
  3. シールドがない → 空気抵抗に耐えられない
  4. シールドがない → 大気中に含まれる硫酸がヤバい
  5. 観測を最もやりたい最接近時はいつもエアロブレーキング中で、観測できない → 何度ものエアロブレーキングでのダメージで、観測機器がやられてしまったら元も子もない
  6. 太陽電池パドルが空力的な不確定要素

こんな感じかなぁ。

A. は、今の普通の軌道投入計画だと、自力で90日周期の軌道に入ることになってる。んで、これで燃料の残量として精一杯と。となると、そこから近点を下げてエアロブレーキングの行程に入る時点で燃料を使う。最後に近点上げでまた使う。本来の姿勢制御に使うぶんの余裕がなくなるんで、長期観測できなくなる。

それを避けるには、周回軌道投入の最初からいきなりエアロブレーキングすることになる。同時に RCS で逆噴射。それで90日周期の軌道に入る。エアロブレーキングを使うぶんだけ今の計画より燃料を節約して、その節約ぶんを近点上げに回す、となる。エアロブレーキングと逆噴射の併用ってのは、アメリカの火星探査機ではあるかもしんないけど、日本ではまだ例がない。そこが怖いところ。これをやるのは大気密度が比較的低いところでだけとはいえ、超音速の風に向かって噴射というのは RCS の設計時には想定されてないからね。

B, C, D. は、あかつき にはそれ用のシールドが用意されてないってのがどう出るか。かすめるだけとはいえ大気圏突入なわけで、断熱圧縮での温度上昇、向かい風の動圧、金星大気中に含まれる硫酸の、探査機本体や観測機器への影響がどう出るかってあたりで。

機体内にも金星大気が侵入するはずだから、その影響もどうなるのかと。エアロブレーキング後にはまた真空環境に戻るけど、極低濃度のガスが機体中に残ってるとプラズマ化して、電気を通しやすくなる。そこで高電圧が必要な観測機器のスイッチを入れると、内部で雷が起きちゃうわけで。電気・電子機器にとっていろいろまずいことになる。

高電圧デバイスへの通電は、近点上げが終わってからベーキング(機体内部の温度をヒーターで上げて、内部機器の表面に吸着したガスを追い出す)して、それからってことになるかと。1カ月くらい放置するのも手らしいけど、あかつき の目的は工学実証じゃなくまさに金星を観測することだから、もたもたしてられないだろうし。

硫酸もなぁ。あんまし浴びると観測機器なり外装のサーマルブランケットなりを腐らせてしまいそうで。機体内部の配線もヤバいかも。高空なら無視できるほどの微量ならいいんだけど、どうなんだろ。地球の大気じゃ低層と高層じゃ成分や含有率がなんぼか違うよね。金星もそうであってほしいですなぁ。そして硫酸の濃度が極小あるいはゼロだといいですなぁ。

E. について。エアロブレーキングが1回2回じゃ大した影響はないかもだけど、90日の周期を30時間にするなら、合計でかなり大胆にブレーキをかけなきゃいかんわけで。あんまし欲張って近点高度を下げると、昇温も動圧も危険なことになる。もともと あかつき はそれを織り込んだ設計になってないんで、エアロブレーキングに付きもののシールドを装備してない。てことで何回も、時間と回数をかけて少しずつってことになる。周回軌道投入直後の周期が90日なら、次は3カ月後。1回やるごとに頻度が上がっていくとはいえ、時間をかけなきゃできんわけで。

F. はねぇ、探査機の形が ひてん みたいな単純な円筒形ならまだしも、あかつき は箱形。これだけで空気抵抗の計算の難度が上がる。さらに厄介なのは、機体の左右に伸びた太陽電池パドル。板状ってだけで流体由来の外力に対して敏感なうえ、機体から遠く張り出してるから、テコの原理で回転力が強く出る。機体が変な回転をし出すかもしんない。風に対してどの向きがベストなのか、その向きを保てるのか、支柱や回転機構の強度は問題ないのか、そこらへんすべて予測しなきゃなんない。まぁ左右ともまったく同じパドルだし、軸の回転角度も常に左右一緒みたいだから、そのぶんは予測がラクかもしんない。

打ち上げ時みたいに太陽電池パドルを折り畳めばそのぶんはラクになるはずだけど、できるかどうか。たぶん1回開いたらあとは閉じることがない想定だったんじゃないかと。となるとバネ機構で開いて、ラッチで固定って形になってるんじゃないかな。それだと再度の折り畳み・展開は不可能。開きっぱなしで事に臨むしかなくなる。

おいらが考えついた「あかつき が金星エアロブレーキングできない理由」はこんな感じ。

そこらをすべて克服するマジックをやってのけてほしいんだけど、都合よすぎるかなぁ。

「こんなこともあろうかと、金星エアロブレーキング対策は当初から織り込み済みだった」だと超かっこいいんだが。はやぶさ のイオンエンジンのクロス運転回路は製造時にその考え方で仕込んであったけど、いざやってみて成功するまではその存在さえ公表されず、いったんギブアップ宣言を出したんだよな。そうするのが ISAS の流儀なんなら、あかつき での金星エアロブレーキングも、今はまだ公表するタイミングじゃないだけ、なんてストーリーを勝手に期待してみるテスト。

銘板左端銘板銘板右端

「探査機のどの面を風に向けるか」は、たぶん OME がある -Z 面が妥当じゃないかな。ここは OME 以外に何もないみたいだし、OME はこの段階じゃもう使わないし。ただ、RCS の噴射口も ±Z 方向なんだよな。-Z 面を風に向ければ、RCS の中に風が直接入ってくるわけで。一液式 RCS の肝、触媒が硫酸で腐食しなきゃいいなとか。この触媒の材質が何かはおいら不勉強で存じてないけど、もし白金なら硫酸では腐食しないらしい。そしたらむしろノズルや配管が危ないかな。

銘板
2011.9.19 月曜
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宇宙天文台 IKAROS

ソーラー電力セイル実証機 "IKAROS" がまたやってくれましたですよ。今度は宇宙航行関係じゃなく、天文学で。

読売新聞

宇宙最大の爆発、ブラックホール周辺のガス塊で

宇宙最大の爆発現象と呼ばれる「ガンマ線バースト」は、新しく生まれたブラックホール周辺から放出されたガスの塊から発生することが、金沢大学の米徳(よねとく)大輔助教(宇宙物理学)らの研究でわかった。

謎の多い爆発現象の実態に迫る成果で、19日から鹿児島市で始まる日本天文学会で発表する。

ガンマ線バーストは、放射線の一種であるガンマ線が数十秒の短時間だけ大量に放射される現象で、宇宙初期の姿を解明するカギとされる。約4億3500万年前に起こった生物大量絶滅の原因という説もある。太陽の30倍以上の重い星が爆発してブラックホールができる際に生じると考えられているが、詳しい仕組みはわかっていなかった。

研究チームは、太陽光のわずかな圧力を帆に受けて加速する日本の宇宙ヨット「イカロス」に載せた装置で、昨年8月26日に発生したガンマ線バーストを観測し、データを分析した。

(2011年9月19日04時00分 読売新聞)

時事通信

ガンマ線バースト、強い磁場から=生成のメカニズム解明−宇宙ヨットで観測・金沢大

「ガンマ線バースト(GRB)」と呼ばれる宇宙最大級の爆発現象が、ブラックホールを取り巻く強い磁場の作用で生じていたことを、金沢大などの研究チームが宇宙ヨット「イカロス」に搭載した検出器による観測で解明した。成果は19日から鹿児島市で開かれる日本天文学会の秋季年会で発表される。

GRBは、巨大な恒星が寿命を迎え、爆発を起こした後に残るブラックホールの中心から吹き出す「ジェット」とともに、非常に強いガンマ線が爆発的に放出される現象。発生には強力な磁場が関与していると推測されていたが、観測による証拠は見つかっていなかった。(2011/09/19-04:21)

科学観測機器は2つ積んでるけど、そのうちのひとつ「ガンマ線バースト偏光検出器(GAP)」が、ついにガンマ線バーストの偏光を観測できたですよ。どうも、これで発生源に磁場が存在する事が証明されたらしい。それが、今まで謎だったこの現象の発生原理を一部解明したってことらしい。おいらはこの程度の理解しかできてないけど、ガンマ線バーストという謎の現象があることだけなら、90年代後半になんとか知ってた。あの頃の新聞は今より科学欄が充実してて、社会面にもよく科学・技術系の記事が出てたっけなぁ(遠い目)。

宇宙空間でガンマ線を観測してると、ものすごく遠いところで原因がよく分からんけどものすごい天体現象が実在するってことで、しかも一瞬で消えてしまうから観測が難しいってことで、当時かなり熱い話題だった。学者の方々もよく分かってなかったみたいだし、それを伝える新聞もよく分からずに伝えて、という感じで、おいらもいまだにほとんど理解してない(と、ほかの人のせいにしてみる)。

んでまあ詳しい観測はこれから、という新しい学問分野だったわけで。あれから15年くらい経ったかなぁ。しみじみ。

「姉ちゃん、明日って今さ!」はジョジョ第1部の名セリフ。謎が解けるのは未来のことだと思ってたのに、今それが実現した。いつの間にかそんな未来になったんだな。しかも世界初の宇宙帆船 IKAROS に搭載された機器で。ISAS の中の人たちが提唱してる「宇宙大航海時代」をまたひとつ実感できるニュースですなぁ。ほんとに未来だわ。

GAP が IKAROS に積まれたのは、たぶん IKAROS が本当に周りに何もない静かな空間を飛び続けるからなのかもしんない。ガンマ線バーストの検出器は国際宇宙ステーションにも積まれてるけど、低軌道だから視界の半分近くが地球で隠されてるんで、全天球上の一点に突如、一瞬だけ現れる現象の観測に最適ってわけじゃなさそう。それに太陽から来たガンマ線が反射するとかの、地球由来の外乱もあるかもだし。

IKAROS は低利得と中利得のアンテナしか積んでない。中利得は、地球から見て IKAROS が太陽の向こう側に行ったとき、つまりめちゃめちゃ遠いときしか地球とつながれない。どっちみち遅い通信速度しか確保できない。<妄想込み>それでも意味のある科学観測をするのなら、天体望遠鏡みたいなデータ量が膨大になるものじゃなく、こういうセンサー的なものに限られるわけで。観測対象はたまにしか起きない現象で、観測機器に、いつ、どの方向からどういう入力があったのか、というのを数値だけで表現できる類いのもの。

しかも IKAROS は科学探査機じゃなく工学実証機。フライトデータの取得が最優先だから、科学観測目的はどうしてもその次になる。搭載できる観測機器は IKAROS 本来の仕事の邪魔にならない程度の、小さくて軽くてメンテナンスフリーで消費電力が少なくて、その観測のために IKAROS 側で姿勢を変えるなりの手間をかけなくてよくて、ときどき小さなデータを落とせればいいものに絞られてくる。

そんな制限を受け入れつつ世界で1番乗りの発見ができそうなもの、てな感じで GAP が発想されて開発されて、搭載されたんだと思う。</妄想込み>そこらを考えると、GAP を作った人たちのものすごい発想力と実現力を感じずにはいられないですよ。

GAP は全方位のガンマ線バーストを検知できるそうだけど、偏光まで観測できるのはそのうちの2割らしい。今回はその2割が効いたってことですな。さっきも書いたけど、地球周回衛星じゃ地球に邪魔されて観測機会が減るわけで。てなわけでこの手の観測をするのなら、太陽−地球のラグランジュ点 L1 か L2 が、見かけの地球の小ささ(地球から見た月くらいのサイズ)も、通信の事情での地球との距離も適切な感じだと思う。

けど日本はまだ L1 にも L2 にも探査機を滞在させたことがない(と思う)。そしてラグランジュ点よりはるかに遠い惑星間空間を飛ぶ宇宙機でそんな観測をいきなりやってしまうというのも、なんだか順番が逆でおもしろいなーとか思ったり。まー IKAROS 自体がそこらへんすっ飛ばした特異な存在だからなぁ(アメリカのソーラーセイルはまず L1 に到達させるのが目標。今は「地球の低軌道でセイル展開機構を確認できた」という段階で、肝心の光子推進は未検証)。世界のソーラーセイル学会も IKAROS の扱いに困ってるみたいで、「第0世代」ってことにされちゃったし

L1 と L2 は地球と充分ラクチンに交信できる距離でありながら(タイムラグは片道5秒ほど)、「地上の喧噪」からは離れてるという、天文観測に便利な位置。地球と太陽の位置関係も常に一定ってのも運用しやすい好材料。てことで NASA はよくここに観測機を滞在させてたりする。

日本は あかり に次ぐ赤外線天文衛星 SPICA で(たぶん)L2 初挑戦ですな。もし SPICA に余裕があるなら、GAP みたいな邪魔にならない観測装置も積んでってほしいですなぁ。GAP が偏光を観測できるのは全方位のうちの2割ってことは、3つ積んで X, Y, Z の3軸に向けると6割を観測できるってことでして。そういうやり方もあるかなぁと。

銘板
2011.9.20 火曜
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ゴイアニア被曝事故

そういえば3月11日の原発事故の直後、放射性物質「セシウム137」の名前を初めて聞いたんだわ。んでこのとき慌ててネットで調べたら、どっかで「人体に取り込まれると筋肉にたまる傾向があるが、チェルノブイリ事故のケースでも特に健康被害は報告されていない」みたいなことが書かれてたんだわ。てことでそれを鵜呑みにしてしまって、セシウム137の被害を軽く見てしまって、ヨウ素131に警戒なんだなーとか思ってさ。放射性ヨウ素を体内に取り込んでしまうと甲状腺がヤバいってのは、チェルノブイリ事故のニュースで覚えてて。

んでまぁぼつらぼつらと過去の原子力事故なんかを見てたら、ゴイアニア被曝事故というのが出てきて。Wikipedia なんだけどさ、

ゴイアニア被曝事故(Acidente radiológico de Goiånia)とは、1987年9月にブラジルのゴイアニア市で発生した原子力事故。

同市内にあった廃病院に放置されていた放射線療法用の医療機器から放射線源格納容器が盗難により持ち出され、その後廃品業者などの人手を通しているうちに格納容器が解体されてガンマ線源のセシウム137が露出。光る特性に興味を持った住人が接触した結果、合計250人が被曝し、そのうち4名が放射線障害で死亡した。

セシウム137で死者が出てるじゃん。"goiania accident" でググってほかのソースも確かめたら、原因物質がセシウム137ってことに間違いはないらしい。京都大学のサイトにもその件が出てるね。

したら、あの当時見かけた「セシウム137では健康被害は特に出ない」という記述、何だったんだろ。夢で見た何かをごっちゃにしてしまったのかな。それとも、原発推進派の中でも汚い人たちが張っといた予防線に、おいら見事に引っかかったんかな(←もしかして推進派にも良識ある人たちがいるかもと思って、ちょっと歯切れの悪い言い回しになってしまった)。

銘板
2011.9.21 水曜
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カンダハルの秘密

ふと、もしや、と思いついたものがあって。

ちょっと確かめてみた。

カンダハル
ガンダーラ

アメリカのアフガン侵攻で激戦地になったカンダハルって、かのガンダーラだったのでは? おいらは今の今まで、その可能性にさえ気付かなんだ。

場所はだいたい同じ(一致ではない)。発音も近い。アルファベットでの綴り(カナ表記よりアルファベット表記のほうが劣化が少なさそう)は "Kandahar" と "Gandhara"。やっぱり近いと思う。

ゴダイゴの『ガンダーラ』を幼少の頃に刷り込んだ身としては、三蔵法師と悟空たち一行とともに目指す、永遠の憧れの地なんですよ。そういや西遊記って天竺にたどり着かないよなぁ。一応、モデルになった玄奘は苦しく長い往復旅行を成し遂げて、仏教のありがたい教典を唐の都・長安に届けたらしい。けど物語じゃ永遠に天竺にたどり着かないわけで。それが、少なくともおいらにとっては、幻の国・ガンダーラに焦がれる理由になってるのかも(この世代は大抵そうかも)。

もちろん歌詞がきっちりシンクロしてるってのも、曲そのものの魅力も大いにあって。歌詞を探したら、ああーもう、日本語部分は完全に覚えてたまんまだよ(涙)。英語部分は今知ったw 意外と簡単でビックリww

歌詞はうたまっぷあたりでどーぞ。

仏教美術が大発展を遂げた、かつて実在した国だってことまでは、世界史の授業で知った。それでマチャアキの西遊記の終わりの歌になってたんだなぁと納得したぐらいにして。

しかしかのガンダーラがあのカンダハルだったかもしれんとは(「カンダハル=ガンダーラ」は説らしいから、断定しちゃいかんっぽい。位置もずれてるし)。「どんな夢でも叶う、あまりに遠いユートピア」と歌われたあの土地が戦場になるなんて……。

今のカンダハルはイスラム教の人たちが治めてるんで、その土地に、こんな符合だけで仏教に根ざした感慨を持つのはいかんのかもだけど、それでもやっぱし感慨深くて。

銘板左端銘板銘板右端

小惑星探査機 はやぶさ がこんなにも受けてるのは、西遊記を介して玄奘三蔵が知られてるからってのもあったのかもなとか思ったり。実は両実話とも酷似してることに今気付いた。はるか彼方の伝説の地に苦難の旅に出て、ありがたい教典(太陽系の歴史が記された微粒子)を持ち帰ってくれたもんなぁ。

銘板
2011.9.22 木曜
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カンダハルのもうひとつの秘密

昨日の「玄奘三蔵の旅路 ≒ はやぶさ の旅路」から調子に乗って、もっと妄想してみた。

宇宙の彼方 イスカンダルへ
運命背負い 今飛び立つ
必ずここへ 帰ってくると(以下、気が済むまで)

「玄奘三蔵の旅路 ≒ はやぶさ の旅路 ≒ 宇宙戦艦ヤマトの旅路」という流れ。

んでイスカンダルの「カンダル」、なんか「カンダハル」と似てね? と思ったんだわ。もしかしてここから来てるんじゃね? と思ったんだわ。

もしかして「ガンダーラ」も「イスカンダル」から来てるんか?

宇宙の彼方のはずのイスカンダルって実は中東にかつて実在した土地名で、その地でも英雄として名を馳せた、アレキサンダー大王の名前が転嫁したものだった(前にそれを学んだログがあった)。カンダハルの位置はインドと中東の間あたりでちょっと微妙だけど、2004年の映画「アレキサンダー」によると、大王の行軍はインドまで到達したみたいだしな。なんかちょっと脈アリかなと。

して Wikipedia「カンダハール」をよく読んでみたら、ガンダーラ転訛説と並行して書かれてたわ。ちゃんと読めよな>自分

カンダハールの名前は、前4世紀の征服者アレクサンドロス(Alexandoros)の「xandoros」の部分が転訛したとの説があるが、カンダハールの東方、カーブルのさらに東にある仏教文化の本場ガンダーラの転訛とする説もある。

ということだそうで。したら「アレクサンドロス → イスカンダル → ガンダーラ → カンダハル」という流れを想像するわけで。そうなるとどちらさんも丸く収まるなぁと。てことで アレクサンドロス3世(アレキサンダー大王)の東方遠征と ガンダーラ 国の成立の年代を調べてみた。

ガンダーラ国の成立は紀元前6世紀頃。アレキサンダー大王のインダス川越えは紀元前326年。200年ほどの差でガンダーラの方が早い。「イスカンダル → ガンダーラ」の線は成り立ちませんな。

てなわけで、「カンダハル」の語源は「イスカンダル」「ガンダーラ」の2説に別れて相交わらない、てなことは確認できたわ。一応、全く別の第3の答えが正解ってのも考えられるけどさ。

銘板左端銘板銘板右端

ちょっと面白い符合を見つけたよ。

ただの偶然の一致だけど、シチュエーションが激似なんですが。

銘板左端銘板銘板右端

玄奘三蔵が訪れたインドの土地は「ナーランダ」だそうで。インドのどこらへんかなーと Goole Earth で見てみると、このあたり↓

ナーランダ

ガンジス川の下流寄りの地域ですな。対してガンダーラはインダス川より西側。てことで、もろに反対側でしたわ。

銘板左端銘板銘板右端

インドに古くからある言葉って「ア」列がやたら多いとは聞いてたけど、ほんと多いな……。

銘板
2011.9.23 金曜
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まさかの理論限界越超え……か?

ニュートリノって光より速いわけ? そんなニュースが出てきたけど、どうなんだこれ? ソースは信頼できそうだし(本職の科学者チームが世界一ごっつい施設で行った研究の正式発表)。どうなってんだ?

時事通信

光より速いニュートリノ観測=相対性理論と矛盾−名古屋大など国際研究グループ

名古屋大や宇都宮大、神戸大などが参加する日欧の国際研究グループは23日、質量を持つ素粒子のニュートリノが光よりも速く移動するとの測定結果が得られたと発表した。

アインシュタインの相対性理論は、質量を持つものは光より速く移動することができないとしており、今回の測定結果は相対性理論と矛盾する。結果が正しければ、科学全般に与える衝撃は計り知れない。

研究グループは、2009年に実験を開始した。スイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究所(CERN)から約730キロ離れたイタリア中部の研究施設にニュートリノのうちミュー型と呼ばれるものを飛ばし、到達するまでの時間を最新の全地球測位システム(GPS)技術などを使って精密に測定。光速(秒速約30万キロ)よりもニュートリノが60ナノ秒(1億分の6秒)早く到達し、光速より約0.0025%速かった。

測定は過去3年間にわたり約1万5000回実施しており、観測ミスや誤差があるとは考えにくいという。(2011/09/23-21:26)

科学じゃこういうトンデモな結果が出てしまった場合、「追試」というのが行われて確認を取ることになってる。けど今回の実験は大規模な施設が必要なんで(ニュートリノを扱う時点でどうしてもそうなる。しかも発信と受信の両方の施設とも巨大)、やれるところは限られてくる。

そういうことができる施設を既に持ってるところ。それは日米欧。欧の施設は今回の言い出しっぺが使ったんで、追試は難しいかも。同一施設でも、「追試が成立する」認められる条件でなら別だけど、少なくとも「別チームが別の手法で」は必須。

てなことで、日米どちらか、あるいは両方が追試するのが、どちらさんから見ても妥当ってことになる。あとは人員ですな。ここらへんの研究ってやれる施設が少ないもんで、国際チームを組むのが普通になってる。今回の研究も、日本人研究者が参加してるし。

てことは追試チームは、国籍は特に関係ないけど、言い出しっぺチームに入ってた人を混ぜないように、しかも同等かそれ以上の能力である必要があるわけで、果たしてそれが成り立つのかってのが問題になりそう。素粒子物理学界の層の厚さがその要求に応えられるほど厚いものなのか、そこも試されますな。まあ発見・実証の一番乗り争いで熾烈な競争を繰り広げてる分野でもあるんで、気にすることでもないのかも。

純粋な物理学界はまさに「2番じゃダメ」な分野なんだけど、今回の発表はあまりにもぶっ飛んでるんで、2番、つまり追試の結果が大いに注目されとりますなぁ。ここはひとつ、ニュートリノ学で最先端の日本で是非追試していただきたい。

設備としては、茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)で生成して発信したニュートリノを、岐阜県飛騨市のスーパーカミオカンデで受信、というのがもうできあがってる。別な研究に使われてるんだけど、この転用でどうにかなんないかな。

Google Earth で見ると、両者間の距離は 250km ほど。イタリア中部から CERN までのだいたい3分の1。精度の確保が大変ですなぁ。むしろ日米欧に1組ずつある発信・受信の施設を組み合わせて、基線をめちゃめちゃ長くしたほうがいいのかな。ニュートリノは地球を貫通するからな。正確な距離の割り出しがまた大変そうだけど。

今回の結果はなんでも、過去の研究成果と矛盾するらしい。小柴昌俊先生が2002年にノーベル賞を受賞した、超新星爆発ニュートリノのカミオカンデでの検知。あの結果と合わないらしい。ニュートリノの速度が本当に今回の発表ほど光より速いのなら、あの超新星爆発の光学観測での検出の1〜3年ほど前にニュートリノが検出されてなきゃいかんのに、実際はほぼ同時だったそうで。

さてさてそうなると、追試の結果如何では小柴先生の研究結果も再検証が必要になってきたわけでして。あのときの超新星爆発ニュートリノは、日米欧の施設で検出を確認できてたからカミオカンデの誤作動ではないわけで(検出する仕組み自体がそれぞれ独自だし)。どーなることやらワクワクが止まりませんですよ。

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ニュートリノに質量があることを発見したのは、小柴先生の愛弟子・戸塚洋二先生が率いたスーパーカミオカンデのチーム。当時「ノーベル賞級の成果」と話題沸騰状態だったけど、戸塚先生は2008年に逝去。ノーベル賞受賞者の対象は発表時点で存命の人なんで、大変に惜しいことをした。素粒子物理学の「標準理論」はニュートリノに質量がないことが前提だったんで、これで一部書き換えを迫られたそうな。

そして今度は、特殊相対性理論にも疑問を投げつけた。「ニュートリノは質量を持つにも関わらず、光速を超えている」と。

アインシュタインの特殊相対性理論は定義する。「質量を持つものは、光速を超えることはできない」。

「物体の速度が光速に近づくほどその物体の質量は増大し、光速に達すると質量は無限大になるから」が理由だそうで。無限大の質量をさらに加速するには、無限大を超えるエネルギーが必要になるから不可能ってこと。別な観点からの説明では、「光速に近づくとその物体の時間の進みが遅くなり、光速に達すると時間の流れがゼロになる(「浦島効果」と呼ばれるやつ)。もし光速を超えると時間は逆行することになり、因果律が破綻してしまう」。だから不可能、と。

一般には特殊相対性理論は真理と同じ扱いを受けてるけど、実は未検証なんで科学者の姿勢はもうちょっと慎重。前に読んだ日本の探査機に関する本では、「もし本当だとすると」という前置きとともに、軌道の計算誤差の要素として挙げてた(太陽光圧の影響より小さいらしい)。時刻決定に超高精度が要求されるアメリカの GPS 衛星じゃ、その影響も織り込み済みらしい。GPS が問題なく稼働してるってことは、ある程度は検証済みなのかも。

まーでも特殊相対性理論は完全に証明されたわけではないらしくて、今回の驚愕発表がその牙城(「アインシュタイン城」とでも名付けると、なんだか風光明媚な情景が浮かんでくるなぁw)に挑んでるわけですよ。

世の中がこれまで「天才が発見した真理」として疑わず、部分的に実用してさえいたたものの根拠が、今日を境にシュレーディンガーの猫みたいに不確定な状態に陥ったわけで。何をどうしようもない素人としては、これほど面白いこともないわけで。外野として楽しませていただきますよ。

ニュートリノ物理学は次々と新たな地平を切り開くなぁ。

銘板
2011.9.24 土曜
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それならあの災害を予知できるか

もし本当にニュートリノが光速を超えてるんだとしたら。

もし小柴先生の超新星爆発ニュートリノ検知の数年前にもニュートリノが地球に届いてたのだとしたなら、それを見逃してたのだとしたら。

……、

……、

……。

まぁ現時点で「超光速ニュートリノ」はかつての常温核融合と同じ運命を辿る可能性もけっこうあるのが実情ではあるけど、とりあえず今は夢を見てられる貴重な期間ってことでして。それが正しいとして、何ができるのかを具体的に考えてみた。

超光速通信やタイムマシンとかはねぇ、ちょっと現時点じゃ無理っぽいですな。モノがあの扱いにくいニュートリノってことで。生成にも検出にも超巨大な施設が必要なんで。

んで今できる具体的なことって何かというと、超新星爆発の最速検知。1987年のカミオカンデでの検知は、光学観測とほぼ同時だったそうな。で、何らかの理由で、実はその数年前に届いてたニュートリノは検出できてなかった、と仮定(例えば、ニュートリノには幾つかの種類があるんで、当時は検出不能だった種類のニュートリノが超光速で来てて、検出可能だったニュートリノは光と同じ速さだった、とか。おいら素人なんで、今日は勝手に妄想的ご都合的解釈をすることにする)。

あるんですよ。地球のすぐそばに。今にも超新星爆発しそうな星が。それはオリオン座の赤色巨星ベテルギウス。地球からの距離は630光年。「今にも」といえ、人類が超新星爆発を予測して観測できた事例は今までたぶんないんで、ベテルギウスを観測し続けても、X デイが具体的に何年何月何日なのかまでは分からんらしい。恒星の世界のことなんで、時間感覚は人間のものよりはるかに長い。明日かもしんないけど、1000年後かもしんない。

この星が超新星爆発をするとどうなるかってぇと、ブラックホールができる可能性があるらしい(できない可能性もある)。ブラックホールができれば、ガンマ線バーストが起き得る。つい5日前、IKAROS に積まれたガンマ線バースト検出装置が、この現象はブラックホール由来だってことを突き止めた。

IKAROS の例も含めて、今まで観測されてきたガンマ線バーストは、何億・何十億光年の向こうの天体のもの。てことで強度は大したことない。地球大気に完全に吸収されてしまうほどの弱さなんで、宇宙空間に出ないと観測できないほど。ところがベテルギウスまでの距離はわずか630光年。この星でガンマ線バーストが起きると、地球が受けるガンマ線の強度が今までとまったく違うわけで。

ガンマ線だよ。放射線だよ。被曝ってわけですよ。

ガンマ線バーストはほぼ一瞬の現象らしいんで、地表でいうと、そのときベテルギウスが見えてる半球がヤバいわけで。そしてガンマ線は電磁波なんで、速度は光と同じ。ベテルギウスが爆発したのが見えたら、それがブラックホールになりそう、という観測ができたら、そのときには既に大量のガンマ線が地上に届いてる。

そこらへん、前に「ベテルギウス大災害(ベ災)」としてちょっと書いたことあるわw(, , , ) このときは物質的な衝撃波が地球規模で災害をもたらす設定だったんだなぁ。しかし今年の7月にベテルギウスは爆発しなかったし、あかつき は金星周回軌道の投入に失敗するし。ネタだからこの話は別にどうでもいいんだけどさww

今回の「超光速ニュートリノ」は、基線長 730km で光より60ナノ秒(60秒の10億分の1)早く届いたそうな。

1光年の長さは約9兆5000億 km ってことで、実験の基線長の約13,000,000,000倍。60ナノ秒にこの数字をかけると780秒。13分ですな。1光年で13分の時間差。ベテルギウスまでの630光年だと、630倍で8190分。136.5時間。約5.7日。

たったの6日弱だけど、ベテルギウスの爆発を早く察知できる。

「知ったときにはもう手遅れ」よりも、もうちょっと何かできそうですな。覚悟するだけでも。地球の半分がガンマ線照射に曝されるってことで、ガンマ線がいつ来るかまで分かれば、影になる半球に一時避難するってのもできるね。そうできない人たちや、自然界の生き物はどうしようもないけど。

まあ630光年は至近距離とはいえ、それでも地球大気でだいぶ守られて影響ないのかもだけどさ。

それに、もし「超光速ニュートリノ」が正しければ、もしアインシュタインの特殊相対性理論と小柴先生の観測結果に揃って漏れがあれば、の話だしね。

銘板左端銘板銘板右端

件のニュースが出るわずか10日前に、YAHOO! 知恵袋に興味深い Q&A が出てたよ。

そうか超新星爆発の直前にニュートリノバーストがあるのか。どのくらいの時間差か分からんけど。で、このベストアンサーで言ってる観測結果からだと、例の発表前ってこともあって、普通に「ニュートリノの速度は光より速くない」ってことで話が進んでる。

雰囲気からの判断だけど、小柴先生の超新星ニュートリノに限らず、超新星爆発でのニュートリノの挙動は今までどおりの解釈で矛盾なしってことみたいな感じですなぁ。ベ災予知は無理かな。

銘板
2011.9.25 日曜
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ソーラーシステムがソーラーレイシステム攻撃を受ける日

しかし至近距離の恒星からのガンマ線っつうと、太陽から恒常的に降り注いでるはずなわけで。太陽フレアがあったりするとドバッと出るはずなわけで。それでも地上の生物には影響がないわけで。

けど地球の大気がガンマ線を完全に防いでくれてるかというとそうでもないらしく、ときどき「高エネルギー線」という名前で地表に届いてしまったりもするらしい。で、生物は恒常的に宇宙や太陽からのガンマ線をいつも浴びてはいるけど、DNA には自己修復機能があって(もともとは細胞分裂時にまれに発生するコピーミスを直すための機能らしい)、その機能で充分に補える程度ってことらしい。

原発事故での放射線漏れがヤバいのは、DNA の自己修復機能を上回った DNA 破壊をもたらすからってことで。福島第一原発事故での発表とかを見るに、放射線被曝の健康の影響の程度は、だいたい「放射線強度×被爆時間」ってことだそうで。ただしこの計算で同じ累積被曝量でも健康被害の出方が違ってくるらしい。短時間でドバッと被曝するよりも、少ない強度の放射線を長時間浴びたほうが、DNA の自己修復が効くぶんだけ悪影響が少ない、という考え方で。

で、ベテルギウスが超新星爆発してガンマ線バーストが起きたとき、地球に届くガンマ線の強度はどの程度なのかってことだね。この場合は内部被曝はない。外部照射のみの影響なわけで。被爆時間はほぼ一瞬。ちょっと危険な香りがするけど、さてその総量はどんぐらいになるんかねぇ。普段太陽から来てる程度ならまったく問題なし。太陽フレア程度ならまぁ、衛星や通信設備が死んだり具合が悪くなったりするかも。太陽フレアで太陽電池出力が落ちたのは、小惑星探査機 はやぶさ。大気でだいぶ威力が落ちるだろうとは思うけど、太陽電池もダメージ食らうんだな。

補助金で屋根にソーラーパネルを付けてる篤志家の方々が、太陽観測衛星 ひので がデータを集めて基礎を作ってる「宇宙天気予報」で、太陽フレアに注目する日が来るかもねぇ。

つーかベテルギウスの超新星爆発がもし超光速ニュートリノで事前に分かったなら、全地球の太陽電池がベテルギウスに対して垂直に立てられるんじゃないかと(こうすると被害が最小限に抑えられる)。地球からの見かけで、ベテルギウスの位置は黄道(太陽の通り道)に比較的近い。太陽電池はろくに発電できないことになる。設置数が増えるほどに昼間の電力需要ピークカットという重責を担っていくはずの太陽電池、これが一斉にブラックアウトなわけで。健康被害が出なくてもここらへんが不安だったり。

まーなんてーか、太陽光発電での売電利益は薄いからね。発電力がちょっと落ちただけで、ペイ期間が延びたり赤字に転落したりっつうリスクがあるような。したらオーナーさんたちはそういう情報に聡くなるような。そしたらベ災予防でブラックアウト。うーん。

べ災のガンマ線照射の程度が全然分かってないんで、ただの妄想で終わってしまったぞなもし。

銘板
2011.9.26 月曜
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突如ブチ切れ動画

このまえ YouTube で素晴らしい動画を見つけたもんで、ご紹介。

生放送の討論番組で突然ブチ切れて叫び、回った男』ですw いきなり音響になるんで、どうかお気をつけあそばせ。

視聴者コメントでの解説だと、

「俺は空中浮揚できる、証人もいる!カイセリへ行く途中、バスの中で…」
「昔、そういうことを言った人がいるけど、(うそだったよね)」
「アッラー、ワッラー(床をころげる)」
「サブリさん、何しているんですか?ちょっと場をはずしてください。見たとおり、議論する必要ないですね。」

だそうで。カイセリってどこかなーと調べたら、トルコの土地らしい。まー翻訳もどこまで本当か確認できんけど、この動画はそこはあんまし重要じゃないというかw

本当だとして想像するに、サブリさんは侮辱されたと思って、『それならこの場で空中浮揚を見せてやれば文句ないだろ』とキレてしまったんじゃないかと。

んでまぁ本人は、自らの名誉を賭けて浮き上がったつもりだったんじゃないかと。絶叫はたぶん、『自分だけが持つ爆発的な精神力がそれを成す』とかそういうのかなぁ。

けど周囲の人たちとテレビカメラが目の当たりにしたのは無情にも、床を転げ回る彼の姿。カメラがなけりゃ周りの人たちの善意でどうにでもウヤムヤにできただろうに、生放送でしたか。

似た例で、ヒンシュクを買いはしなかったものの、この手の自称超人が日本のバラエティ番組に出たのを見たことあるよ。昔の日テレでよくビックリ人間大集合みたいなのやってたじゃないの。あれに出演したインドの行者様、なんと「自分の意志で心臓を止めることができる」との触れ込み。

神秘とアヤシサの国・インドだもんなぁ(当時はかの国の経済発展が始まる前で、おいらはその程度の認識しかなかった。今も認識が足らんけど、当時はもっと足らなかった)。そりゃあ期待しますですよ。ほんとにやれると信じますですよ。そして彼は心電図だかオシログラフだかのセンサーを体に取り付けられて、ついに生放送のスタジオで実演する運びとなった。

座禅の格好で精神統一するわけですよ。スタジオもお茶の間も緊張が高まるわけですよ。けどモニターに出る拍動は一向に弱まらない。むしろ脈拍が速くなっていく。え?え?この状態からいきなり止まっちゃったりするんか!?……と(たぶん)1分くらいその行者様のバクバク状態が続いて、スタジオもお茶の間も、みんな揃って心臓バクバク。

脈拍が落ち始めた! 「その時」が来たか!!

脈はそのまま平常に戻って安定した。

ゆっくりと目を開け、自信に満ちて語る行者。

(通訳)「どうです、私の心臓は止まっていたでしょう」

……、

……、

……。

本人がそのつもりってだけかよ!

スタジオは別な意味で凍ってたよ。

番組司会者も相スタントも必死にフォローしてたよ。「それでも、体をまったく動かさずに、精神力だけであそこまで脈拍を高められるのは常人ではできない」とかなんとか。おいら妄想というか、思い出し恥じ入りだの思い出し怒り狂いだので、まったく身動きせずにバクバクするときあるが。

けど、かのインドからはるばる来日した、(見た感じ)徳の高い(と思われる)行者様だからなぁ。「お前ダメじゃん」とか邪険に扱うわけにもいかなかったんだろうなぁ。それとも番組が詐欺に引っかかったんだろか。

そういやテレビじゃないけど、昔、友だちが「オレはタバコの煙を右の肺、左の肺で別々に出し入れできる」と言ってですね、目の前でやってみせてくれたんですけどね……真偽をまったく判定できんかったw 「そんなんわかんねーよ」と言っても「いやいやほんとなんだってば」と収拾つかなくなったww

芸を披露するには、事前に誰かほかの人に見せてネタチェックせにゃいかんですなー。

銘板
2011.9.27 火曜
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連想妄想科学 前編

また科学を印象で語るというどうしようもないログ。そしておいらの Wikipedia 厨なド素人ぶりを晒してしまうログ。

「超光速ニュートリノ」、やっぱし何かの間違いなような気がして。そんな気がする一応の根拠は(印象だけど)、「60ナノ秒(60秒の10億分の1)」という小ささ。件の実験に使った装置の時間分解能がどのくらいか分からんけど、60ナノ秒ってなんかこう、検出限界に近い数値のような気がして。

と思ったら Wikipedia「秒: 倍量・分量単位」によると、「現在、計測することのできる最も短い時間(2004年2月現在)は100アト秒である」だそうな。アト秒とは「10-18」秒だそうで。ナノ秒のオーダーの3倍ですがな。60ナノ秒と100アト秒で比べるなら、オーダーの違いは11桁。そこまで行けるんなら、60ナノ秒なんて余裕の精度で測れることになるね。すんません地球人の科学技術を見くびってますた。

そういや時間の分割は「プランク時間」以下ではできない、と聞いたことがあるけど、このプランク時間ってどのくらいなんだべ。プランク長さを光速で飛んだときの所要時間なのか。数値は「5.39121 × 10-44 秒」と。アト秒どころじゃない短さですなぁ。「アト」以上のオーダーの呼び名って何なんだろ。ていうか「アト」からして今日初めて知ったわ。

んでプランク長さ(プランク長)ってなんなのさ。

……、

……、

……。

なるほど、わからんw

前に聞き及んだ話だと、「それ以下の長さが存在しない長さ」という、ここからしてよく分からん話で。素粒子や量子の力学の世界らしくて。ここらへんは直感的な常識がまったく通じないというか、禅問答的というか、摩訶不思議で理解に苦しむよなぁ。んで解説を読み進んでみたらば、素粒子のシュヴァルツシルト半径と同じ? てことでいいのか?

銘板
2011.9.28 水曜
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妄想連想科学 後編

シュヴァルツシルト半径 というと、ブラックホールの因果律の境界面だかそういうやつだったよな。ブラックホールのその間合いに入り込むと、その内側は因果律が崩壊してるんじゃないのかというアレ。「因果律」というのは、「あれがあるからこうなって、これがこうだからそれはそうなる」なんつう論理の組み立てや話の筋道、辻褄が合う、そういうものを保証する、宇宙不変の法則ですな。この外側と内側でこの「因果律」が成り立つか成り立たないか、という、なんかこう、この現世に実在してしまってる、この世とあの世の境目みたいな感じのもの(印象で語ってます)。それがシュヴァルツシルト半径。らしい(すごく自信がない)。

因果律ウンヌンはよく分からんけど、シュヴァルツシルト半径の内側に入った物体の軌道や電磁波の経路の曲律半径が小さくなりすぎて、脱出経路を取れなくなるそうで。てことでブラックホールを語る場合、「光さえも脱出できないほどの強い重力」という、よく言われるけどよく分からん表現がまかり通るわけで。

定義として、その天体自身の半径を超えるシュヴァルツシルト半径を持つものを「ブラックホール」と呼ぶそうで。そうなるとその天体の周辺を通る光が飲み込まれて、あたかも宇宙に黒い穴が開いているように見えるだろう、と予想された。てことで「ブラックホール」という名前がついた。けど、たぶんその「黒い穴」を直接光学観測した例はまだないと思う。

というのも、シュヴァルツシルト半径の外側を通った光の進路は凸レンズを通ったみたいに内側に曲げられるから。こうなると地球からその方向をを望遠鏡で見ると、そこにはブラックホールの真後ろにある天体(ブラックホールに吸い込まれるほど近くはない)が拡大されて見える、という具合になってしまうんで(重力レンズ効果)。だから実際には黒い穴のようには見えないと。『攻殻機動隊』の光学迷彩みたいなもんですな。

重力レンズ自体は、質量が大きい天体の重力で空間が歪むことで起きるから、ブラックホールじゃなくてもできる。質量があればそこに必ず相応の空間の歪みが発生するから、まぁどんな物体でも重力レンズ効果を出してることにはなるね。あまりにも微小で検出できないってだけで。

シュヴァルツシルト半径も、重力の大きさでその大きさが決まってくるわけで、重力はその天体・物体の質量で決まる。てことでどんな微小な物体でも、重心周りにシュヴァルツシルト半径を持つことになる。うむー、万物はブラックホールを持つってことか。あるいは、中心にブラックホールを持つことが質量の証明であり、物体としての存在の証明ってことなのか。人は誰でも、心の奥底に暗い穴を持つのさ。……なんかすごく自信ない。この理解でいいのか?

もしそれでいいんだとして、天体のブラックホールの場合、シュヴァツシルト半径が体のサイズを超えてしまった状態なわけで。異常ですなぁ。「体」ってことで人体で言うと、皮より内臓が外にあるってことですか……マジ異常だ! おげげー!!

銘板
2011.9.29 木曜
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謎技術

10日前に出た技術系ニュースで、ちょいとマユツバっぽいのが出ててさ。ほんとなら夢のようだけど、イマイチ鵜呑みにできない感じというか。

グリーンフェライト

MSN 産経

光吸収100倍の太陽電池を開発 岡山大、生活排熱で発電も

 光の吸収率が従来のシリコン製の100倍以上の太陽電池を、岡山大大学院自然科学研究科の池田直教授のチームが「グリーンフェライト(GF)」と名付けた酸化鉄化合物を使って開発している。

この太陽電池はこれまで吸収できなかった赤外線も発電に利用できる可能性がある。池田教授は「赤外線は熱を持つものから出ている。太陽光以外に、火を扱う台所の天井など家中、街中の排熱でも発電できるかも」としており、2013年の実用化を目指す。

GFは粉末状で、土台となる金属に薄く塗る。1キロワット発電する電池を作るコストは約千円が目標で、約100万円かかる従来のシリコン製に比べて大幅に安い。パネル状になっている従来型では難しい曲げ伸ばしができ、煙突や電柱に巻き付けるなど設置場所は幅広い。

光の吸収率が今までの100倍以上ってのは、具体的にどういう意味なのか。ここがよく分からんくてさ。今までのやつでも変換効率 14% とか言ってたんだけどな。んでもうちょっと読むと、赤外線を対象にしてるそうで。今までの太陽エネルギー発電だと、可視光は太陽電池、赤外線は太陽熱発電だったね。熱発電のほうは、太陽熱でボイラーの水を沸かしてスチームタービンを回す、という、火力や原子力と同じ考え方だった。がんばっても効率 50% 行くか行かないかなんだわ。機構が回りくどいし可動部があるから、設備投資だけでかなり食われてしまうわけで。

熱源の熱量が豊富で安定してる火力や原子力なら商業的に成り立つけど(原発の場合、採算性に対してリスク発生時の損失をろくに勘案してなかったことが、一番イヤな形で発覚したわけだが)、利用できる量と出力の安定性を確保しにくい太陽熱だとボイラーでスチームタービンを回す形は相性が悪くて、なかなか採算ラインに届きにくい。

それがどうも今回のデバイス「グリーンフェライト」だと、熱(赤外線)から直接電力を作るらしい。まー台所の天井に貼ってどんだけ発電できるのか疑問だけど、コストが安ければ量で勝負ができるわけで、もしかしていろいろ足し合わせれば、誤差で埋もれない程度以上の電力を作れるのかもしんない。

まとめサイトの一般人からの意見も読むに、日陰になっても夜でも発電できるとか。主に光より熱から発電ってことかな。どこか近くに熱源があればってことかな。しかし、うーん、一般に赤外線より可視光や紫外線のほうがエネルギー密度が大きいわけで、どうなんだろね。ああでも太陽光は黒体放射だから、エネルギー量でいえば赤外線領域が一番強いのかも。んーでもコチラのサイト様によると、太陽光は可視光領域の強度が一番大きい。赤外線は特にエネルギー量が多いわけじゃないんだな。

旧来の太陽電池は、この可視光の 14% ほどを使ってるわけで、その100倍以上ってまぁ、赤外線から紫外線までの全レンジの全強度を拾うとそのくらいにまでなるのかなぁ。なんなさそうだけどなぁ。どういう計算なんだろ。やっぱし単純比較じゃなく、24時間発電が可能ってところで上積みしてるんだろうか。

つかなんかこの記事、書き方がけっこうあやふやなんだよね。

開発中の技術の普通の書き方ではあるんだけど、すり替えや不確定な表現が目立つ気がして。うちの職場の上司に、ツッコまれるとこうやって言葉の端々でごまかしてオッケーってことにしちまう、それができるから自分は頭いいと思ってる蒙昧君がいるもんだから(やるごとに自身の信用が失せていくことは考えんのかねぇ)、こういう言い回しにすっかり疑り深くなってしまったよ。

とゆーかこの記者さん、あまり理解しないまま記事書いてないか?

要は、まだ全然モノになってないってことじゃないかな。これまた記事を読み返すと、昨日今日この研究で大躍進や大発見があったわけではなくて、経過の中間報告ですな。「成果を発表いたします!」と岡山大学が記者さんたちを呼び出したわけじゃなく、記者さんのほうから何か記事として面白そうな研究を紹介できないか岡山大学に問い合わせて、お話を伺いに行った、てな雰囲気な気がしてきた。

実用化の目標を2013年と一応年限は切ってるものの、あくまで目標。提携する企業が見つからないと実用化(商品化)できないわけで、そのためにはかなりの完成度まで煮詰めないといかん。実用化に成功するにしても、なんとなくまだまだ先のような気がする。

これまた雰囲気で、どうもこの記事で挙げてる数字や展望って理論限界が高いってことのような……。実際にグリーンフェライトで作った赤外線太陽電池って、現物はまだ作り始めてもいないんじゃないかな。理論限界がなんぼ高くても、現物だと至る所で税金みたいにどんどん出力がかすめ取られていって、最後に出力できたのは雀の涙程度、なんてありがちなパターンになりそげな気配がするような。

さてどうなりますかねぇ。ダメかもしんないけど、実は行けるのかもしんない。一応、行けると踏んでみて、しばらくワクワクさせていただきましょ。

銘板
2011.9.30 金曜
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メインエンジン不使用宣言 − 金星探査機あかつき

金星探査機 あかつき の方針が決まりましたな。メインエンジンはもう使わないことにしたらしい。

時事通信

主エンジンの運用断念=姿勢制御用で15年以降金星へ−探査機あかつき・宇宙機構

昨年12月に金星周回軌道への投入に失敗した探査機「あかつき」について、宇宙航空研究開発機構は30日、破損した主エンジンの運用を断念し、2015年以降に姿勢制御用エンジンを使って周回軌道投入を目指すと文部科学省宇宙開発委員会の調査部会に報告した。金星を周回できても、当初計画した1周30時間の楕円(だえん)軌道より数倍大回りとなる見込み。

5種類のカメラで金星大気を観測し、気象や温暖化の仕組みを解明するには不利だが、幸い燃料は十分残っている。宇宙機構の中村正人教授は部会後の記者会見で「最大限何をできるかを皆で必死に考えている」と話した。

あかつきは主エンジンを逆噴射して金星周回軌道に入る計画だったが、燃料をタンクからエンジンに押し出す高圧ガス配管の逆流防止弁が詰まり、異常燃焼が起きて逆噴射が中断した。

宇宙機構は、主エンジンの円すい形のノズル(噴射口)が根元で破損して脱落したが、噴射方法を工夫すればまだ使えると判断。9月7日に2秒、14日に5秒の試験噴射を行ったところ、燃料供給は正常だったが、加速度が計画の約9分の1にとどまり、破損が進んだとみられることが分かった。(2011/09/30-22:58)

読みどおりでしたわ(うはは)。まだエアロブレーキングの話が出てないね。今、あかつき チーム内でめちゃめちゃ検討されてるはず。

記事じゃ「金星を周回できても、当初計画した1周30時間の楕円(だえん)軌道より数倍大回りとなる見込み」とあるけど、もしエアロブレーキングやるとなると、話はまた変わってくる。現時点で、エアロブレーキングなしならそうなるという話であって。

はやぶさ で2009年11月4日にイオンエンジン D が動作しなくなったとき、いったんギブアップ宣言っぽいものが出た。はやぶさ の地球帰還後に敢行された書物によると、そこでいったんギブアップ宣言ってことにしたらしい。けど実はバイパス回路によるイオンエンジンのニコイチ運用っつう奥の手があった。でも実証したことがない技術だったんで、ダメなのかもしれない。自分たちと世の中をぬか喜びさせてがっかりさせるのは、イトカワのサンプル採取でいったん痛い目に遭ってるってのもあったと思う。行けそうな道があったにもかかわらず、「大事を取って」って感じで、ギブアップをいったん宣言した。

そしてその奥の手がうまくいって大復活。世界中の はやぶさ ファンたち大喜び。

あかつき もその方針なんじゃないかと思う。エアロブレーキングは ISAS は過去に経験済みとはいえ、あかつき はそのための設計をしてない。やるとしたらイチかバチか。だから、「充分に可能だ。やれる」という具体的な展望が見えないうちは公言できないんじゃないかと。

けど方策としてエアロブレーキングは存在する。ISAS には実証済みのデータもある。

この話が出るのは、11月の軌道修正に成功してからじゃないかな。そこがうまくいかんとその後もないからな。11月の軌道修正、うまくいってくれー!

銘板
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