ひとりごちるゆんず 2010年12月
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2010.12.1 水曜
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ついにこのときが来たか!? その1

ちょ、NASA がすごいニュース出してっぞ。とりあえず毎日新聞の記事を転載。

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NASA:地球外生命体は… 「宇宙生物学上の発見」で会見へ ネット中継も

米航空宇宙局(NASA)は29日、宇宙生物学上の発見に関する会見を12月2日午後2時(日本時間同3日午前4時)に開く、と発表した。

「地球外生命体の証拠の探索に影響を与えるであろう、宇宙生物学上の発見」について議論するという。

会見はNASA本部で行われ、その様子はNASAテレビやNASAのサイト上でネット中継される。

2010年11月30日

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なんか「地球外生命体の証拠の探索に影響を与えるであろう、宇宙生物学上の発見」ってのが変に回りくどくて、なんだかネタ臭が香ばしそうな感じもあるんだけど、やっぱ期待しちゃうよな。

もし地球外知的的生命体(宇宙人)の発見なら、NASA の範疇を超えてアメリカ大統領とか国連とかの名義での発表になると思う。てことは微生物やウイルスみたいな、構造が単純な生物が地球外で見つかったってあたりかな。あるいはその痕跡か。火星由来の隕石にそれっぽい痕跡があった、というニュースがあったけど、まだ結論が出てないらしい。

地球外生命探査を積極的に標榜してる宇宙機関は NASA を置いてほかにない。んで実際、深宇宙でそういうのを探し当てられるくらいの探査も、NASA にしかできてない。ESA(ヨーロッパ宇宙機関)も共同でやってたりするけど、データ分析・蓄積も含めて、メインプレイヤーは NASA かなと。

だったらどの星かな。候補の星は5つ。火星、タイタン(土星の衛星)、エンケラドゥス(土星の衛星)、エウロパ(木星の衛星)、カリスト(木星の衛星)。

ひとつめは火星。衛星軌道の周回探査機の解像度は最高でも 50cm くらいだろうから、よっぽど大規模な群体とかじゃないと見分けがつかなさそう。微生物はまず無理。で、その線は薄い。文明の遺跡なんてのもなおさら見つかってないし。着陸機かローバーが見つけたか? そういや前に、火星の地表の画像で、グレイ系のエイリアンが探査機を取り囲んでるネタ絵があったな。彼らが持ってるプラカードには「地球へ帰れ!」と書いてあってw 連中、怒ってたよww

火星じゃなければ、土星の衛星 タイタン かなーと。NASA と ESA 共同の土星探査機カッシーニとセットで土星に行った着陸機ホイヘンスがタイタンに着陸したのは2004年。ホイヘンスが送ってきたタイタンの地表の風景写真は、色味がなかったけど(全部赤茶色いのは、大気がメタンだらけだからかな)、地球や火星の表面とよく似てた。川と湖があるぶん火星より地球に近い。水じゃなく液体メタンの川と湖だけどさ。水の代わりにメタンで生きてる微生物がみつかったかな? それにしてもホイヘンスの作動時間はわずか3時間ちょっと。その間に取ったデータの解析に4年かかったってことなんだろか。

Wikipedia「タイタン_(衛星)」のホイヘンス画像は着陸後の画像しか出てなかったけど、パラシュートで下りてる最中の連続写真もあったはず。んー、あったあった。

タイタン風景_ホイヘンスから

パノラマ写真だね。そこを理解して見てみると、んむー、見るからに地球みたいな景色ですなぁ。月よりも水星よりもイトカワよりも。

金星はもうちょっと地球っぽいかも。旧ソビエトの金星探査機ベネラ14号が送ってきた画像を拾ったよ。見つけた中で、これが一番鮮明。

金星表面の風景_ベネラ14号

ただの荒れ地にしか見えないけど、このときのお天気は90気圧の400℃。しかも大気は硫酸を含んでる。地球の深海の熱水噴出孔で五右衛門風呂してる方がよっぽどマシという過酷すぎる環境。地面がいくぶん湿ってるみたいに見えるけど、硫酸で湿ってるのかなぁ(恐)。天体への着陸機は今まで、サーベイヤー(月面)も バイキング(火星)も はやぶさ(小惑星イトカワ)もホイヘンス(土星の衛星タイタン)もあったけど、旧ソ連の金星着陸機シリーズって、宇宙開発史上最も勇敢な探査機だと思うよ。

てことで、金星表面は見た目は生き物がいてもおかしくなさそうだけど、いくらなんでもって環境でさ。いないと断言はできないけど、地球人が「これは生物ですな」と判定できるようなものじゃなさそう。それに比べると、タイタンの方がまだ有望。火星もなりなりに有望。

土星の衛星だとほかにエンケラドゥスが生物存在の候補に挙がってるけど、地上の望遠鏡や探査機カッシーニで遠くから観測して「条件がある程度整っていそう」ということが分かってるだけ。

木星でも、ガリレオ衛星のエウロパとカリストが生物存在条件の決勝進出。ここらもまだどっちにも着陸機を飛ばしてないんで、土星のエンケラドゥスと同じ扱い。これからしばらくは判定不能の状態が続くはず。

てことで件の NASA 発表がもし「地球外生命体が見つかった」の場合、考えられるのは火星かタイタン。はやぶさ の未開封だったカプセル B 室の中からイトカワ星人が出てきたわけでもなさそうだし。ていうかそれなら発表は NASA じゃなく JAXA だよなw

けど気になるのは、持って回った思わせぶりな予告文。原文はどうか。

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MEDIA ADVISORY : M10-167

NASA Sets News Conference on Astrobiology Discovery; Science Journal Has Embargoed Details Until 2 p.m. EST On Dec. 2

WASHINGTON -- NASA will hold a news conference at 2 p.m. EST on Thursday, Dec. 2, to discuss an astrobiology finding that will impact the search for evidence of extraterrestrial life. Astrobiology is the study of the origin, evolution, distribution and future of life in the universe.

The news conference will be held at the NASA Headquarters auditorium at 300 E St. SW, in Washington. It will be broadcast live on NASA Television and streamed on the agency's website at http://www.nasa.gov.

Participants are:
-     Mary Voytek, director, Astrobiology Program, NASA Headquarters, Washington
-     Felisa Wolfe-Simon, NASA astrobiology research fellow, U.S. Geological Survey, Menlo Park, Calif.
-     Pamela Conrad, astrobiologist, NASA's Goddard Space Flight Center, Greenbelt, Md.
-     Steven Benner, distinguished fellow, Foundation for Applied Molecular Evolution, Gainesville, Fla.
-     James Elser, professor, Arizona State University, Tempe

Media representatives may attend the conference or ask questions by phone or from participating NASA locations. To obtain dial-in information, journalists must send their name, affiliation and telephone number to Steve Cole at stephen.e.cole@nasa.gov or call 202-358-0918 by noon Dec. 2.

For NASA TV streaming video and downlink information, visit:

http://www.nasa.gov/ntv

For more information about NASA astrobiology activities, visit:

http://astrobiology.nasa.gov

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うむ、確かに「地球外生命体の証拠の探査にインパクトを与えるであろう宇宙生物学での発見を議論」だ。毎日新聞の件の記事に間違いはなかった。

ほんとなんなんだろ。「宇宙生物の発見」じゃなく「宇宙生物学での発見」だからな。その前に「地球外生命体の証拠の探査にインパクトを与えるであろう」だから、『直接発見したわけじゃないよ』っつう含みか? 『なんだかそれっぽいものを見つけたけど、なにぶん初めてなもんで今のとこ宇宙生物だと確定できてない』のか?

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2010.12.2 木曜
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ついにこのときが来たか!? 2

NASA ニュースを確かめるべく、とっとと寝るべ。日本時間で3日の朝 4:00 発表だからして。

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2010.12.3 金曜
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ついにこのときが来たか!? 3

いやまぁそんなんじゃないかとも思ってたけどさ、そんなんじゃなくまともにすごいのかとも期待してたわけよ。はぁー(ため息)。朝日新聞の記事を転載。

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ヒ素食べる細菌、NASAなど発見 生物の「常識」覆す

2010年12月3日5時1分

猛毒のヒ素を「食べる」細菌を、米航空宇宙局(NASA)などの研究グループが見つけた。生物が生命を維持して増えるために、炭素や水素、窒素、酸素、リン、硫黄の「6元素」が欠かせないが、この細菌はリンの代わりにヒ素をDNAの中に取り込んでいた。これまでの「生物学の常識」を覆す発見といえそうだ。

今回の発見では、NASAが記者会見「宇宙生物学上の発見」を設定したため、「地球外生命体発見か」と、CNNなど国内外の主要メディアがニュースやワイドショーで取り上げるなど「宇宙人騒動」が起きていた。

この細菌「GFAJ―1」株は、天然のヒ素を多く含む米カリフォルニア州の塩湖「モノ湖」の堆積(たいせき)物から見つかった。研究室で培養して調べたところ、リンの代わりにヒ素を代謝に使い、増殖していた。リンは、炭素などほかの5元素とともに、生命体が核酸(DNAやリボ核酸)やたんぱく質などを作るのに必要な元素だ。ヒ素とリンは化学的な性質が似ている。

これまで、永久凍土や深海の熱水の中など「極限環境」で生きる微生物は複数見つかっているが、こうした性質はもっていなかった。

地下水や土壌のヒ素汚染に苦しむ地域において、汚染環境の浄化に応用できる可能性も秘めているという。

この発見は、生命が環境に応じて柔軟に対応できることを示しており、地球外生命体探しでの「生命に必須な水を探す」といった「常識」も覆される可能性がありそうだ。

金沢大の牧輝弥准教授(微生物生態学)は「これまでは生物が利用できないと考えられていた物質の満ちた環境でも、微生物が増殖し生存する可能性が出てきた。この細菌の発見で生物細胞を構成する『六つの元素』の概念が変わり、生物細胞内での新たな代謝の仕組みが提唱されるかもしれない」としている。

研究成果は2日付の米科学誌サイエンス電子版で発表される。(松尾一郎、勝田敏彦=ストックホルム)

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宇宙生物じゃねーし。地球の珍しい生き物だし。DNA の元素がほかの一般的な生物と一部違うのは確かにすごい発見だけど、それは生物学上の発見であって、宇宙生物学にいきなり持っていくのはどう見ても無理があるだろ。こじつけも休み休み言えと。

てことでおいらはここに高らかに宣言いたします。

NASA に釣られますた!!

こんな詐欺師まがいの真似しなきゃ体制を保てんほど、今の NASA はガタガタなんか? はやぶさ の名声が世界に轟いてるこのタイミングだけど、NASA が本気出せばもっと豪勢な探査機&ロケットでやれちゃうはずだし、来年は既存の技術だけで作った木星極軌道探査機ジュノーの打ち上げを控えてるし、冥王星探査機ニューホライズンズは順調に飛行中だし、何を恐れてこんな愚かな真似しでかすんだろ。

有人計画のほうが身動き取れなくなったからかな。月への復帰も火星もポシャった。小惑星はかけ声だけで五里霧中。それどころかスペースシャトルは来年中に引退だし、新型有人宇宙船開発はまたしても中途で消滅。国際宇宙ステーション(ISS)はアメリカが勝手に手を引いた形で、ロシアがタナボタで母屋を乗っ取っちゃった状態。こんな体たらくじゃ ISS に愛称がまだないのをいいことに、ロシアの連中きっと力ずくで「ミール2」と名付けちまうぞ。

アメリカの民間ロケットのファルコン9は飛行に成功したけど、自前の有人宇宙船と無人輸送機も計画に入ってるけど(ともに民間では初)、まだ青写真状態。資金面でも技術面でもポシャる可能性がまだあるんだわ。つか NASA がポシャりまくりだからな。その技術を受け継ぐファルコンも厳しそうなわけで。

てな迷走・停滞状態が NASA をネタに走らせたんかねぇ。ま、はやぶさ の成功は今の NASA にとって危険かもな。年間予算、JAXA は NASA の10分の1だってのに。宇宙科学部門に限ると、さらに差が開く気がする。それであそこまで実行しちゃったからには、危機感を持っちゃうんじゃないかと。ていうかこれで危機感を持たん組織は腐ってるから解散した方がいいわけで。

カネばっか食って、食ったなりの成果を出せないのは端から見て間抜けに見えなくもないしな。

てかさ、JAXA(というか ISAS)って今や NASA にとって「外部 スカンクワークス」な存在になってしまってるような気がする。同じ組織内ならスカンクワークスは羨望の的だけど、外部ってのはまずい。これって NASA が JAXA を取り込む動きに発展するとか、そういうことになってしまいそうでコワイ。

実際、JAXA の主体の旧 NASDA って NASA の子分的存在の時期が長かったからな。純国産大型ロケット "H-II" の完成で独立は果たしたものの、むしろ「のれん分け」に近いかも。用語も内部の組織運営の手法も NASA の影響が強く残ってるそうで。それって NASA が吸収しやすい感じだなぁ。アメリカって企業の合併吸収の本場だしな。考えたら今回の NASA の暴走劇が怖くなってきたよ。

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2010.12.4 土曜
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ついにこのときが来たか!? 4

NASA をオオカミ少年にしてしまったのは何か。いやもうこれ自己目的化っつう組織病じゃないの? この病気、今までもときどき NASA に打撃を与えてたけど、完治できてないんじゃないの? まぁ一時的に完治しても、巨大組織である以上、時間が経てば必ず再発するものなんかもだけど。

チャレンジャー号事故が起きる前の NASA は、対ソ冷戦の宇宙競争部門で勝つためという真の存在目的のために生きてた、古き良き NASA だった。国家のために存在し活動し、国家のために着々と成果を挙げ、国家どころか東側諸国以外の全世界から称賛を浴びてたあの頃。

それは1986年1月28日、スペースシャトル・チャレンジャー号の打ち上げから73秒後に、木っ端みじんに吹き飛んでしまった

威信を糧に生きる人間は自爆に弱い。組織も同じ。威信が消えるとともに自信を失って、それがいつまでも続く。シャトルは2年半後により安全になって軌道に復帰したけど、それまで隠してたシャトルのウソはみんなバレた。便利なのだけは本当だったけど(7人もの人員と大量の貨物を同時に打ち上げて宇宙活動するとか、[条件が揃ったときのみだけど] 軌道上の衛星を回収して持ち帰るとか、シャトルにしかできない運用方法があったんで)、NASA が常々言ってたような、新世代の安くて安全な乗り物じゃ決してなかった。とりあえず衛星打ち上げビジネスはみんなヨーロッパに持ってかれた。ヨーロッパの有人計画の方はアメリカ一辺倒をさっさとやめて、開放路線を取り始めたソビエトとの二股をし始めた。

NASA には日本の旧 NASDA だけが義理堅く付いてきてくれた。NASA の子分の立場だったからってのもあったけど、日本の国家事業は融通が利かないからね。いったん動き出したら途中でどんなに情勢が変わっても、空気なんか微塵も読まずに同じペースで行ってしまう。それが大きかったんじゃないかと。

けど民間はそんな義理を守る筋合いじゃあない。チャレンジャー号事故の前から決まってた NASDA 飛行士たち(毛利衛、向井千秋、土井隆雄)が足止めを食ってる間に、バブルでスポンサーがいくらでもいた TBS が、自社社員(秋山豊寛)を初の日本人宇宙飛行士として衛星軌道に送り出した。乗った宇宙船は旧ソビエトのソユーズ。ソユーズに乗っただけじゃなく、宇宙ステーション・ミールに移乗して、そこから宇宙特派員としてレポートをした。持ち込んだ機材での宇宙実験もこなした。

「乗客としてのただの旅行」と見る向きもあるけど、秋山氏は旧ソビエト宇宙庁から正式に宇宙飛行士(コスモノート)と認定された事実があったりする。てことで血税で成り立つ旧 NASDA は、民間ごときに見事に出し抜かれた。

相当な屈辱だったらしく、毛利さんがスペースシャトル・エンデバー号で飛んだときは、旧 NASDA の広報は「日本初の」というフレーズをこれでもかと使いまくった。一方の秋山氏は地球帰還後、講演漬けの生活に嫌気がさしたのか、TBS を辞めてほぼ隠遁生活に入った。対して毛利さんは今も「日本人初のスペースシャトルに乗った宇宙飛行士」として JAXA の広告塔になってメディアによく登場するんで、毛利さんが日本初の宇宙飛行士だと思ってる人ってけっこういるんじゃないかな(毛利さんのみ「さん」付けにしたのは、JAXA は自前の飛行士を「さん」付けで呼ばせる方針らしいから)。

話を NASA に戻すよ。

チャレンジャー号事故は公式見解として、組織文化の影響で、起こるべくして起こった人災とされてるそうな。ぶっちゃけ NASA は腐敗してた、と。固体燃料ブースターのメーカーがせっかく「この気象条件は想定から外れていて危険なので、打ち上げを延期すべき」と進言したのに、シャトルの誇大宣伝を続けたせいで詰まりに詰まってたスケジュール消化を優先させて、NASA のお偉いさん、握り潰しちゃったからな。おかげで、守ろうとしてたスケジュールも国際的な約束も何もかもみんなぶっ飛んだ。打ち上げ前、延期を進言したメーカーに対して NASA 管理職が放った言葉は「大人になることだ」だったとか。やらかした管理職、エンジニア出身じゃねーなこりゃ。

ちょうどこの時代、アメリカの仇敵だったソビエトの書記長はゴルバチョフ。ペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)ですな。もうひとつは何だったか忘れたw 鉄のカーテンがついに開きだした。長かった冷戦の雪解けの気配を世界が感じてた。

これで困るのは NASA。

なんたって設立・存在目的がソビエトに打ち勝つこと。栄光のアポロ計画も新世代の宇宙船(という謳い文句)のスペースシャトルも、すべてはソビエトとの宇宙競争を制するためのものだった。敵を倒すために結成された組織は、勝利が近づくと、勝った後の身の振り方で悩むらしい。ていうか既にアポロの成果を喧伝することで、つまり印象操作で、NASA は宇宙競争の勝者として世界に認められてしまってた。

てことで、NASA としてはいったん勝利宣言をしたものの、やっぱし敵を設定しないと自分のやりくりに困る。そこで目を付けたのが宇宙ステーション。ソビエトは政治的には雪解けムードではあったけど、宇宙開発じゃステーション部門がアメリカのはるか先を行ってて、開発状況は順調そうだった(実際はいろいろ深刻な事故やトラブルもあってのことだったけど、鉄のカーテンが隠してた)。ここも我がアメリカが制しとかないといかん、と。アポロ11号の前の年に公開された映画『2001年宇宙の旅』には、冒頭でリアルな宇宙ステーションが登場する。それでイメージもしやすかった、てのもあったと思う。

それで出てきたのが、西側諸国が協力して作る宇宙ステーション計画。スペースシャトルはもともとは宇宙ステーションとセットで考えられたもの。たぶん、これでシャトルの存在価値も上がる、という目論みもあったと思う。ところがもうアメリカの国民もその意を反映する議会も、宇宙開発なんつう、すぐに実感できる見返りが少ない国家事業に青天井の予算を付けることは許さなくなってた。ステーション計画は毎年のように予算編成で叩かれて、そのたびに仕様が変わる。基本的には縮小方向。あるときの仕様案はあまりにも縮めすぎて、しかも日欧の実験施設が変なところに取り付けられることになりそうになって、日欧から「あんたら何やってんだ。ちゃんとやれ」とツッコまれたり。

いつしかソビエト連邦はなくなって、新生ロシア共和国はアメリカの友好国になった。アメリカは自国の技術だけじゃステーション建設がにっちもさっちもいかなくなったこともあって、カネはないけどステーションの技術はあるロシアを囲い込みたくもなって、アメリカはロシアを自分に次ぐメインプレイヤーとして迎えた。この時点で「西側諸国の団結でソビエト/ロシアのステーションに対抗」という命題が崩壊。

これが1993年あたり。1986年のチャレンジャー号爆発事故後の調査結果から、ステーション建設での頼みの綱のはずのシャトルがそんなに活躍できないこともバレてた。それでも参加諸国との約束があるから中止できないわけで。もう軸ぶれまくりのグダグダです NASA。

で、ロシアも交えた国際宇宙ステーション(ISS)は予定より遅れつつも着々とできてきてたのに、2003年、スペースシャトル・コロンビア号の空中分解事故。またしても NASA の組織病が疑われた。

打ち上げ時に外部燃料タンクの断熱材がはがれて左主翼前縁部を破壊。大気圏再突入時にその破損部から高温のプラズマが翼内に侵入。これが空中分解を引き起こした。この破損、打ち上げ時に地上から目撃されていったんは問題になったのに、確かめるすべがなかったこともあって、「問題なし」と判断された。けど間違いだった。ただしこれ致命的な破損だったことが分かったとしても、軌道上じゃ何もできなかったんじゃないかって意見もある。

このときは珍しく ISS と関係のないミッションだったんで、軌道は ISS と同期してなかった。ISS の軌道傾斜角はロシアの都合に合わせて 51.6°。一方シャトルの標準の軌道傾斜角はだいたい 30°。いったん軌道投入された後、その軌道を 20°以上も曲げるだけの能力はシャトルにはない。てことで、もし再突入の前に問題に気付いたとしても、コロンビア号の乗員には ISS に避難する選択肢はなかった。

別なシャトルでの救出はどうか。

シャトルの燃料は液体水素。取り扱いがすごく面倒。とりあえず打ち上げ準備に1カ月2カ月は普通にかかって、燃料(液体水素)と酸化剤(液体酸素)の注入に半日かかる。で、ときどきあるのが、何らかの異常検知で一時停止ってやつ。超高額で超複雑なシステムのうえに人命もかかってるんで、少しでも変なところが見つかったらより安全側を選ぶことになってる。つまり打ち上げ延期で再点検することになってる。

液体水素燃料の注入後にもしそうなったら、液体水素と液体酸素を全量抜いて、2日くらいかけて点検。おかしいところだけでなく、配管周りも全部点検し直し。液体水素にいったん触れたってだけで点検が必要な箇所もあるんで。準備ができてまた推進剤を注入して、まだ問題があれば推進剤を抜いて再点検。正直、予定通り打ち上げられるかどうかは神のみぞ知る。

それを待つ軌道上の破損シャトルの持ち時間、これたったの2週間。がんばっても3週間程度じゃないかな。全然間に合わない。仮に間に合うように救出シャトルがスタンバってたとしても、自分の状態が万全でなきゃ出動すべきじゃない。救助の基本は二次災害を防ぐことだからして。けど救出機も同じ仕様の機体だから、万全じゃないことが発覚したばかり。もう何をどうしていいのやら。

つうことで、コロンビア号事故の場合は組織の腐敗ってより、シャトルの構造的欠陥がこのタイミングで出てしまったって感じ。設計時にベストを尽くしても、トラブルを教訓に改修しても、それを使い続けるにはどうしようもできないところってあるからね。

完全再利用型の次世代シャトルの開発計画は何度かあって、実現してればこれと同じ問題とはオサラバのはずだった。でもみんな途中でポシャった。てことで、初代シャトルをずっと使い続ける以外に選択肢を作れなかった。

なんかなぁ、NASA って期待されてるのを意識してるのは分かる。実際に期待されてもいるし。けどお調子者気質というか、自分の手に余ることを公言しちゃって、結局うまくいかなくて自分で道を狭める傾向がある気がする。これってアポロの成功体験の成せる技なのかもなぁ。バルチック艦隊を沈めた旧日本海軍が、飛行機の時代になっても大鑑巨砲主義を捨てられなかったのと同じかなぁ。あるいは、営業ががんばりすぎて現場がついて来れない状態っぽいというか。そこに組織病「自己目的化」が絡んで、最終的にどうにもならなくなるって感じかなぁ。

で、ここでようやく話が収束する。

NASA のオオカミ少年体質、もともとからのものみたいだから、今さら直しようがないのかも。

今回の「NASA 宇宙生物釣り事件」(もう事件扱いにしちゃう)の大もとってさ、NASA がマーズ・パスファインダーで火星に復帰したあたりから来てると思う。あれからやたら地球外生命探査を喧伝してるんだよね。あんまし言うもんだから、探査機が火星に着くごと、世間に「今度こそ発見できるか!?」的な空気が出ちゃうんだわ。けどそんな簡単なもんじゃないし、まったく見つからない可能性の方がよっぽど高い。現にまだ1回も見つかってない。もうこのあたりから詐欺的なニオイがするんだわ。

んでやってることはと言えば、火星の理学的な調査。別に生命探査に特化してるわけじゃない。地質学とか気象学とか。水の存在の有無とか。んでそっちの方面では成果をばんばん挙げてる。どうも NASA の火星生命探査って、火星理学をやるための方便みたいに思える。地質も気象も水も生命探査にとって重要だけどさ、だからといってそれだけじゃ生命がいる証拠にならんわけで。

水の調査といえば、NASA は月探査じゃやたら水の存在にこだわるよね。これも、プロモーション的な鉱脈を見つけたつもりになってるのかもしんない。曰く、「水が確保できれば、有人月探査で長期滞在ができる。永住も夢ではないかも」とか。この理屈を支援するかのごとく、NASA の探査機の調査結果として、「極地域に永久影があれば水もあるはず」「永久影と思われるところに多量の水素分子を検出。水が凍っているものと思われる」とかしつこいくらいに発表してきた。

けど日本の かぐや の調査じゃ、極地域の永久影の存在にも大量の水の存在にも疑問を投げかける結果が出てしまった(どっちも、あったとしても NASA 発表よりずっと少ないのでは? という感じで)。ここでもオオカミ少年ですなぁ NASA。

でさ、今回の釣り発表、どうもただの釣りじゃなく、この線で行くと、さらなる釣りへの布石に思えてきたよ。「地球外生命探査はもっと幅広くやらなければならないことが分かった」ってことなんで、これはもう「皆さんも地球外生命が見つかったら面白いでしょ? だったらもっと予算を増やして、大規模にやらなきゃいけないんです」と持っていく足がかりにするつもりなんじゃないのか? あるいは生命の定義を広げて、いつまでも終わらないかもしれん宝探しを正当化して、半永久的に続けられる理由を付けたつもりなのかも。無敵状態ですがな。もう誰の言うことも聞かないぞって感じ。

地球外生物なんて、とりあえず太陽系内じゃちょっとやそっとじゃ見つからないだろうってのはもう察しがついてるわけで、太陽系外の惑星もいろいろ調べられ始めてはいるけど、遠すぎてなおさら見つけにくい。宇宙人が向こうからやってくるのをただ待つなら、別に NASA じゃなくてもできる。だから、可能性が限りなく薄いのを分かっていつつも、調べられるところを調べてみよう、と。

超ハイリスク・超ハイリターン狙いなんですよ。確かに1企業じゃ負いきれないほどリスクの大きい研究・開発は国の機関がやるもんだけど、ここまで無謀な、というか無駄に終わる可能性が高いものを、こうまでして力ずくで進めるのってさ、ちょっとどうかしてるんじゃないかと思う。ていうかそれは予算確保のための広告塔で、それでゲットしたカネで別なことやってるのってどうなのかと。

自称「自由の国」なんだから何でも好きにやればいいんだけど、もう今日か明日にも見つかるかのような口八丁手八丁で資金と注目を集めるのが、しかも何回も繰り返すのが、手段として異常に思えるが。本当に納税者に見限られる前に自分で抑えんとまずいと思うけど、NASA にその気はないらしい。

ていうか、こんなぼんやり漠然とした目標って、組織が設定する到達目標とは違うんじゃないのか? 日本の小惑星探査にしても中国の月探査にしても、目標・目的は具体的だぞ。どうも NASA の場合、科学の素人が掲げてる目標のように思える。素人目には分かりやすくても、科学の目で見るとあんまし具体的じゃないから、何でもアリにしてどれでもない、という感じ。

あ! NASA の地球外生命探査って 悪魔の証明 じゃないのか? 「『それが絶対に存在しない』を証明するのは困難」というやつ。これって悪い意味で無敵状態を作っちゃうんだよね。NASA がそれを分かってないはずがないわけで(とはいえ運営陣のお偉いさんの中に、科学・技術のセンスがない人たちが相当混じってそうではあるけど)、分かってやってるとしたらそりゃ詐欺そのものですよ。

悪魔の証明じゃない正攻法な科学探査の例を挙げてみると、例えば はやぶさ の目的は「太陽系の起源の解明にヒントを与えること」。既に実在してるこの太陽系。これの生成・進化の過程って今は大筋で統一見解が出てる感じだけど、各過程がまだ証拠不十分なんでいろいろな説が並立してたりする。そこをふるいにかけるデータの提供ですな。新事実からまた新たな有力説が出るかもしんないし。こんな感じで、もう確実に存在してるものがどう成り立ってきたのか、それが研究対象ってことで、目的がはっきりしてるわけですよ。

中国の月探査は目的がもっとはっきりしてる。「国威発揚」。先頭集団に追いつけ・追い越せの立場なんで、どのジャンルでも、成果がどの程度でも、ぶっちゃけ二番煎じでも、実行して失敗しなけりゃ目的は達せられる。

対する NASA の地球外生命探査は「あるかないか分からんけど、ないと絶対には言えないから(←ここが悪魔の証明)研究を続ける」という感じ。まともな本業をいろいろやってる片手間でなら問題ないと思うけど、これを主業務に据えちゃってるのなら、可能性は以下の2つ。

  1. 本気でやってる→オカルトと同じ
  2. 予算獲得や世間の注目集めが目的→詐欺と同じ

んむー、NASA の地球外生命探査の方針って前からなんだかうさん臭い気がしてた。今回の件でますます香ばしさが募った気分。こういうやり方って短期的には利益をもたらすけど、長期的には信用を失って、自分の首を絞める行為なんだが。なんでやるかなぁ。自分の今日明日の体面を保ちたいがために、チャレンジャー号を爆発させて元も子もなくした1986年当時の NASA から、何が改善されたんだ?

もしこれが NASA の自己保身のためのなりふり構わない詐欺の新しい手口なんだとしても、おいらはアメリカの納税者じゃないから被害には遭わんけどさ、でも世の中を無用に引っ掻き回すのはやめていただきたい。NASA は知名度も影響力もぶっちぎりなんだから(日本国内でさえ JAXA より信用と存在感があるもんな)、我が国の宇宙科学研究まで白い目で見られてしまいますよ。そちらと違ってこっちは本分を忘れずに真面目にやってるんですよ。

宣伝にやたら凝りまくってる割に中身がない……。NASA と最近のハリウッド超大作って似てるよなぁ。同じプロデューサーが付いてるんだろか。ジェリー・ブラッカイマーか?w 『アルマゲドン』で NASA とコネができて声がかかるようになったとか?ww

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2010.12.5 日曜
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正念場 あかつき 1

金星探査機 あかつき の金星周回軌道投入はあさって。地球の北半球から見て、金星に左側から近づいて、地球から見て金星の向こう側の見えないところで12分間の逆噴射。これで周期4日の長い楕円軌道に入る。そこから徐々に遠点を下げて、最終的に周期30時間の楕円軌道から金星を観測するそうな。

逆噴射は最低でも9分20秒は必要。何かトラブルが出てこれを下回ると、あかつき は金星の衛星になれず、スイングバイして惑星間空間に逆戻り。まぁ心配してないけどさ。

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2010.12.6 月曜
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正念場 あかつき 2

あかつき、いよいよ明日、金星周回軌道に投入だなぁ。楽しみだなぁ。ワクワク。

銘板
2010.12.7 火曜
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正念場 あかつき 3

と思ってたら、なんだか状況が思わしくないんですが。

探査機は金星に進行方向後ろから、昼側に向かう形で接近した。予定では逆噴射は12分間続けることになってた。逆噴射開始(8時49分)から1分ほどで、あかつき は地球から見て金星の向こう側に回り込んだ。ここまでは予定通り。地球の北半球からの視点だと、金星の左側から後ろに回り込んで、右側に出る予定。期待通りだと、見えない間に逆噴射を全部終えて、右側から出てきたと同時に通信が回復して、「軌道投入成功!」の報が出るはずだった。

ところが通信回復の予定時刻の9時12分になっても、あかつき から連絡がない。

さらに1時間半後、ようやく低利得アンテナ(Low Gain Antenna: LGA)からの通信が地球に届いた。

予定だと中利得アンテナ(Middle Gain Antenna: MGA)で連絡が来るはずだったんで、どうも LGA の電波をしばらく見逃してたってのもあったらしい。いるはずの場所にいなくて、地上のアンテナですぐに探せなかったのもあったらしい。何が起きたのかよく分からん。結局夜10時の記者会見の段階になっても、当事者でさえろくな情報が得られてない状態。

大まかな経過:

LGA の通信速度はわずか 8bps。1秒で半角英数文字1個のペース。その LGA で状況のデータを出力してはいるけど途切れ途切れで、しかも回線が細いんで、意味のあるデータとして受信できてない。通信の復旧を急ぐうちに臼田の地球局が時間切れになって(地球の自転で、臼田から見て金星と あかつき が地平線の下に潜った状態になって)、NASA の DSN(Deep Space Network)マドリード局にバトンタッチ。

DSN マドリード局での交信で分かったのは、まず あかつき の現在の軌道は、予定のものから大幅に外れてるってこと。パラボラアンテナは角度が 0.1°ずれただけで感度が大幅に落ちるという特性があるんで、そこからこの結論が出たらしい。マドリード局はアンテナの微妙な首振りを試してみたんじゃないかと。てことで、どこにいるかはまだ掴めてないけど、とにかく想定外のところを飛んでるそうな。

DSN マドリード局が明らかにしたのはもうひとつ。あかつき からの電波が周期的な強弱を持ってるってこと。どうも10分に1回の割合で回転してるらしい。何か緊急事態が起きて、セーフホールドモードに入ってる可能性が高い。これ、探査機自身が危険を察知すると自動で切り替える緊急避難的体勢。太陽電池を太陽に向けて、太陽電池の面を回転面にして、スピン安定モードに入る。おっかないからできるだけ何もしないっつう体勢。んでこれが、いちばん何もしないで最も安全でいられる状態。丸くなって動かなくなったアルマジロのイメージが分かりやすいんじゃないかと。で、指向性がない LGA でのみ辛うじて通信ができる。はやぶさ も、往路でイオンエンジン4基それぞれの個性を掴みきれずに運転が不安定だった頃に、ときどき自動でセーフホールドモードに入ったそうな。

地球からのコマンドは受け入れてくれてるみたいで、「LGA から MGA に切り替えろ」と命令したら、切り替わったんだそうだ。けど MGA は指向性がある(高利得アンテナ [High gain Antenna: HGA] ほどじゃないけど)。回転1周期の10分のうち、MGA は40秒ほどしかつながらない状態。ここからどうにかスピン安定を脱して3軸安定に持ち込んで、MGA なり HGA なりで高速通信をやりたい。それで探査機がため込んでる記録を全部地球で受信して、何が起きたかを解析したい。

けど状況がよく分からないままセーフホールドモードを解くのは危険。判断のためにある程度の情報が欲しいけど、回線が細いせいでそれもなかなか進まない。そんな堂々巡りに陥ってるらしい。

とりあえず臼田局のときにセーフホールドモード解除のコマンドを送ったけど、そっちは通らなかった。これ、そのときはまだ軌道がずれてるのを知らなくて、臼田は正規の軌道の予定位置に向かって送信してしまったかららしい。あかつき には聞こえなかったんだね。

銘板
2010.12.8 水曜
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正念場 あかつき 4

朝10時台の情報で、あかつき は金星周回軌道投入に失敗したことが発表されたよ。残念すぐる……。逆噴射が2〜3分しか続かなかったらしい。その理由はまだ不明。今はセーフホールドモードを解除して HGA での通信が確立してるんで、データをドカドカ落とす端からどんどん解析してるとこらしい。

いったんは絶望的だったけど、すぐ続いた情報で、6〜7年後にまた軌道投入のチャンスが来るらしい。朝の段階で「7年後」となってたけど、夕方のニュースだと「6年後」になってた。軌道決定の精度が時間を追ってだんだん上がってきたってことかと。

あかつき の今の軌道はよく分からんけど、減速スイングバイをした形になったんで、公転周期は金星より短そう。発表だと近日点が太陽により近いとこまで落ちてるらしい。

金星の公転周期は 224.701日。地球のは365.25日。てことは、1金星年≒0.615地球年。逆数は約1.63(1地球年で金星は1.63公転)。地球で6年だと、1.63×6≒9.753周。10周ですな。てことは、6年で金星は10公転。あかつき はちょっと速いから11公転。これで両者は再会する。『めぐりあい 宇宙(そら)』ですな。

6年の期間延長で心配なのは、電子機器の劣化。はやぶさ は7年のフライトで、最後の方は宇宙線にやられてビット反転エラーが頻発した。宇宙線は宇宙のすべての方角からランダムに降り注いでる。太陽からもかなり来る。あかつき は想定より太陽に近いところを11回も飛ぶことになるし、6年も飛ぶと太陽フレアに当たる確率もそれだけ上がる。そこが心配。

けど、太陽に近いせいでいいこともあるかも。

日本の探査機技術は今や、世界で最も太陽光圧の利用に長けてる。はやぶさ はそれで姿勢制御をこなして使命を全うした。IKAROS は太陽光圧を動力にする実験機で、今も着々とデータを積み上げてる。あかつき も、6年もの間、金星軌道近くの強烈な太陽光圧をその方向で受け続ければ、それなりに軌道変換できるかもしんない。それだけ推進剤を節約できるかもしんない。

あかつきの太陽電池パネルは はやぶさ のより小さいから、太陽帆としての効果も小さいはずなんだけど、想定より太陽に近いってことは、帆の効果もそれだけ大きくなる。はやぶさ が太陽光圧を利用したのは近日点の近く。これ、だいたい地球の公転半径のあたり。金星の公転半径は地球の0.72倍。ちょうど 1/√2くらいだね。太陽光の強さは距離の2乗に反比例。てことは、金星の公転軌道上での太陽光圧は地球の2倍なんですわ。太陽電池パドルが受ける太陽光圧も、面積あたりで2倍。しかももっと太陽に近いところまで降りたりもする。おお、少なくとも姿勢制御の推進剤の節約には使えそうだぞ。

あともうひとつ心配なのは、別の探査計画との折り合い。はやぶさ2 が計画通りに2014年に打ち上げられるとすると、小惑星の探査が始まるのは2016年あたり。スケジュールが切羽詰まってた1号と違って、2号は1年以上滞在して、ゆっくりこってり観測をするらしい(1号の観測もかなりこってりだったけど、科学観測に使えた時間は3カ月程度ですごいバタバタしてた)。あかつき の再挑戦ともろにバッティングですがな。あかつき がめでたく金星の衛星になれたとして、観測を始めたら、膨大な情報を送ってくる探査機を2機同時運用ですよ。ISAS、さばききれるのかと。

さらに2014年は はやぶさ2 のほかに、ヨーロッパと共同の水星探査機ベピ・コロンボの打ち上げ予定も入ってる。水星は遠いというか軌道投入までの投入エネルギーが大きいんで、計画だと月→地球→金星とスイングバイを繰り返して、5〜6年かけて徐々に水星に近づくらしい。この運用もスケジュールに入りそう。3機同時運用ですか。

日本自前の地上局アンテナ、2枚しかないんですが。しかも内之浦局の通信速度は臼田局の4分の1だし。まぁベピ・コロンボの方は、着くまではヨーロッパが主体みたいだから、それまではほとんどあちらさんにオマカセでいいのかもしんないけど(日欧の2機が一体の状態で現地に運ばれる。水星の周回軌道に入った時点で分離して、それぞれ観測を始める、という段取りらしい)。

銘板左端銘板銘板右端

なんと NASA が誇るボイジャー2号から応援の声が届いた! ありがたやー!! 木星、土星、天王星、海王星のグランドツアーを成し遂げて、今も太陽系最外縁の貴重なデータを送り続けてる偉大なる探査機。その栄光の探査のお言葉もまた輝かしくて。「私は強さおよび勇気を送る!」。メッセージだけでも勇気百倍なのに、わざわざ日本語ですよ。あかつきチームの人々はもとより、あかつき Twitter を凝視してた多くの日本の探査機ファンの心を、きっときっと激しく揺さぶったに違いない。ボイジャー先生、本当にありがとう!(感涙)

銘板
2010.12.9 木曜
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正念場 あかつき 5

あんまし考えたくなかったことだけど、あかつき、どうもメインエンジンの故障が疑われてる。逆噴射中の3軸の変化のグラフを見ると、確かにそれが考えられそう。

エンジンじゃなくリアクションホイールがいきなり狂ったとしてもそうなるだろうけど、今、問題なく3軸制御ができてるってことは、リアクションホイールに問題はないらしい。ここに異常があったなら、はやぶさ との絡みもあって真っ先に発表されたろうしな。

姿勢制御スラスタが突如暴走ってのもないと断言できないかもだけど、たぶん逆噴射中の姿勢制御は全部リアクションホイールが担当することになってたろうから、これも可能性が低いんじゃないかと。(2010.12.29 補足: このときの姿勢制御は RCS [姿勢制御エンジン] だったようです)

日本独自技術のセラミックスラスタ、デビューでコケちまったかなぁ。

これ、すごくいいんだけどなぁ。今までの金属製に比べて、耐熱温度が高い(同じ燃料消費量でパワーも効率も上がる)、軽い(比重が4割程度)、安い(すべての工程が国内で完結するんで、外国に発送して加工してもらって返送、というこれまでやってた手間が省ける)というスグレモノ。んで、あかつき が初の投入例だったんだわ。成功してれば、日本は深宇宙航行技術で、マイクロ波イオンエンジン、ソーラーセイル、セラミックスラスタで、世界でダントツな推進装置を3つも押さえてるっつう左うちわな立場を享受できたはずだったんだが。外国に加工を頼まなくてもいいどころか、日本にしか作れない高性能な宇宙用部品として、輸出の期待も相当あったんだが。

つか、もしエンジン破損なら、6年後の金星周回軌道投入がかなりキツくなるわけで。難度が爆上げになるわけで。

もし金星の衛星になれないんだとしたら、6年後はフライバイ観測のみってことになるなぁ。あかつき の遠日点がわずかに金星の外側ってことで、接近のチャンスが近い時期に2回あるそうだけどねぇ。もともと2年にわたって金星の大気を連続的に調査する予定だから、それがフライバイ観測となると、6年おきに2回ずつやれたとしても、正直あまり魅力がないことになる。

てことで、もしセラミックスラスタが使えないとして、そこをどうにかして軌道投入を強行するんなら、はやぶさ みたいに別なメカを変態的に応用流用するしかない。はやぶさ の推進システムは、化学スラスタとイオンエンジンの2系統あった。化学スラスタ全損の後は、イオンエンジンの中和器からナマのキセノンガスを噴出させるっつう、相当変態的な技を編み出してその代用にした。

あかつき ならどうか。って、推進システムは化学スラスタしかないんだわ。メインエンジンのセラミックスラスタがもう使えないとすると、姿勢制御用の小さなスラスタしかない。出力は10分の1もないと思うけど、宇宙じゃエンジンを噴かしたぶんだけの加速量・減速量が発生する。イオンエンジンのときと同じく、タイミングを見計らって長く噴かせばどうにかなるかもしんない。

それと、昨日も書いたけど、太陽光圧の利用もどうかなと。そこらへん明日以降に書こうかなと。眠くなってきたんで。

銘板
2010.12.10 金曜
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正念場 あかつき 6

あかつき トラブルの新事実が来ましたな。エンジン燃焼直後から燃料のタンク内の圧力が下がり続けたとのこと。配管に何かが詰まってるかのような感じだそうで。恐らくそれで燃料がエンジンに行かなくなって、ガス欠でエンジンが止まったんじゃないか、ということらしい。

宇宙機のエンジンに燃料を送る方法は2つ。

ひとつはポンプ式。クルマと同じくポンプでの圧送。大型のエンジンに適してて、H-IIA とかの打ち上げロケットによく使われる。

もうひとつはガス押し式。タンク内にヘリウムとかのガスで圧力をかけて、それで燃料を押し出す。こっちは構造が単純で済むから、衛星や探査機の小型のエンジンに向いてる。あかつき もガス押し式。んで、発表が言ってるのは、「加圧用のヘリウムガスが燃料タンクにうまく行き届かなかったから、エンジンに燃料が行かなかった」ということ。ごっちゃになりそうだけど、「燃料タンク→エンジン」の燃料が流れる経路には問題はなかったってこと。

ロケットエンジンの燃焼室は、稼働中は高い圧力がかかってる。その高圧環境に推進剤(燃料と酸化剤をまとめた呼び方)をむりやりぶち込むためには、推進剤の供給でそれを上回る高圧をかけなきゃいかんわけ。その圧力のもとがどうもおかしかった、と。軌道投入失敗の後、燃料タンク内の圧力は徐々に戻った。ここが火星探査機 のぞみ と違うとこ。のぞみ の場合、特注したバルブのまさに特注の部分がエンジン稼働中に変な挙動をしてしまって、それでエンストした、というのが最有力説になってる(現物を回収できないんで、完全には断定できない)。

ところが あかつき だと、バルブは宇宙機によく使われてる標準品を使ったそうで(のぞみ での反省の結果だと思う)、現場での実績があるその製品がトラブったんだとしたら、あかつきはよっぽど運が悪かったってことになる。そしてもちろん、配管を詰まらせる余計なものなんてはじめからないはず。てことで、この事象が起きた原因はまだ不明。

あと、現時点だとこのヘリウムガスの圧力低下はエンストの説明をしてるけど、探査機がそのあと急に回転したことの説明にはなってない。つまり、エンジン本体の故障や破損の可能性はまだそのまま残ってるってこと。

質疑応答でもあったけど、燃料供給が減ったせいで燃料と酸化剤との混合比が予測しない状態になったわけで、それで起きたおかしな燃焼でエンジンが破損して、機体の姿勢が乱れたのかもしんない。

もひとつ悲観的な可能性は、燃料の消費が渋くなった一方、酸化剤は普通にエンジンに流れたと思われ。むしろ燃焼室の圧力が落ちたぶん、酸化剤は余計に出て行ってしまったかも。

宇宙空間には空気がないから酸素もない。だから宇宙機は、燃料の量に見合っただけの酸化剤を自前で持ってかなきゃなんない。今回はエンジンへの燃料が止まったからそのぶんの加速しかできなかった。だから燃料は、6年後の軌道投入に必要なぶんは確保できてると思う。で、燃料が足りずに異常燃焼してた間、酸化剤はだだ漏れだったと思われるわけ。てことはいくら燃料が充分に残ってても、酸化剤不足で燃料全部を燃やせない可能性があるってこと。

はやぶさ のトラブルだと、燃料が全部漏れてしまったけど酸化剤は余ってた。けど両方揃ってなきゃ役立たずなわけで、化学スラスタはお払い箱になってしまった。あかつき の場合は同じ考えで、今度は酸化剤残量がやばいんじゃないかと。

そんなわけでファンとしてはまず、あかつき の機体の回転が始まった理由が別のところにあるといいなぁ→メインエンジンのセラミックスラスタが健全だといいなぁと願うわけで。そして、酸化剤の不足量が気にならないほどだといいなぁ。

銘板
2010.12.11 土曜
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正念場 あかつき 7

太陽光圧利用、あかつきの場合をちょっと考えてみる。やれても軌道変換量は微量だから、どんだけいけるか分からんけど。

10月28日のログで、はやぶさの場合の太陽光圧の利用方法について考えた。裏付けがないんでほんとかどうか分からんけど、とりあえずこの線で考えると、下の図のようになる。

太陽光圧姿勢制御案

はやぶさ の場合は自動の姿勢制御に太陽光圧を使ったよね。はやぶさ の外形がたまたまそれに合ってたからできた。重心より太陽に近い方向に光圧中心があったのがポイント。あかつき の形はどうかっつうと、

あかつき

太陽電池パネルは機体の真ん中から生えてる。まーそれで、難しいんじゃないかとはじめは思ってしまって。この形じゃモーメントが発生しないじゃん、と。でもよく考えたら、おいらが想定する あかつき の太陽光圧利用は推進力を得るためのもんであって、姿勢制御とは違うんだわ。ごっちゃにしてたわ。

てことで、あかつき が太陽光圧で推進力を得るとしたら、太陽電池パネルを太陽光の入射に対して斜めにし続けることで成る。加速なら進行方向後ろに傾ける。減速なら前に。角度は45°が最適。ただしパネルを傾けると発電量が減る。ここに気をつけんと。傾きが 45°なら 0°の7割だね。あかつき が近日点近くの頃合いなら、かえってちょうどいい程度の発電量になるかも。

もひとつ勝手に思い込んでた不利な条件があったけど、それも関係ないっぽい。思い込みってのは以下。あかつき は太陽光量が地球の2倍の金星軌道上で稼働するってことで、太陽電池パネルは小さい。だからパネルに発生する太陽光圧力からの推進力も小さいから不利、というやつ。

ところがどっこい、太陽光が強いからこそパネルが小さいわけで、それって逆に、小さいけど太陽光が強いぶんだけ光圧の出力も確保できるってこと。太陽からの見かけのパネルの大きさで、発電量も光圧力も決まる。両者は比例の関係。例えば同じ質量の火星探査機は発電量を稼ぐためにパネルが大きい。同じ発電力だから、金星探査機も火星探査機も光圧力は同じ、てこと。パネルが小さいからって心配することなかったわ。ただ、今の あかつき の軌道は一部分だけ金星より遠くなるときがあるらしい(軌道図をちゃんと見たわけじゃないけど)。そのあたりだと光圧力はあんまし期待できないかも。けど大部分は金星軌道より内側だから、ちょっと期待できるかも。

銘板
2010.12.12 日曜
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正念場 あかつき 8

あかつき の今の軌道について、ちょっと気付いたことがあって。まぁ ISAS だけとは言わず、JAXA 全体でもうとっくに大勢が気付いてるはずの、超単純なことだけど。つまり、6年の半分、3年で会合できるんじゃないかっつう可能性。

あかつき の次の金星との会合は6年後となってる。金星が公転軌道を10周。あかつき が11周。このタイミングでシンクロする関係になってる。その時間の長さが地球年で6年。てことで共振周期が6年ですな。

これさ、あかつき ががんばってさ、金星10周の間に12周する軌道に入るとさ、10:12 = 5:6 で、金星が5周すると あかつき が6周でシンクロするんだわ。金星10周で6年だから、5周なら3年。

6年待ちが3年待ちに。

これってかなりおトクだと思うんだが。

どうやって軌道を変えるかが未解決だけど、一応、可能性は示しましたよと。

方法はとりあえず置いといて、軌道の形をどう変えればいいかで語ると、周期を早めるんだから軌道の楕円を小さくすることですな。今の あかつき の周期は0.559年。ケプラーの第3法則から軌道長半径は 0.679AU(1AU = 1天文単位 = 太陽と地球の平均距離)。新しい軌道の周期は0.513年。軌道長半径は 0.641AU。軌道長半径の差は 0.03826AU。軌道長径の差はその2倍で 0.0765AU = 11,476,774km。

こんなんでましたー。

軌道の楕円を短くする量、1千百と48万 km かぁ。だいたい地球を900個並べたぶん。と書くとものすごくものすごい量だけど、太陽系内で地球のサイズなんてゴミみたいなもん。それより軌道のサイズの比率で考えてみるか。0.679[AU]÷0.641[AU] = 1.059。6%くらいですな。軌道周期の違いが 9% くらいなんで、けっこう大胆な軌道変換かなーと思ったけど、それに比べればちょっとユルい気がしてきた。

デルタ V(加速量)に換算するとどうなるんだろ。

今はそこまで(おいらが)分かってないんで、課題ということで先延ばしの後回しでひとつ。

銘板
2010.12.13 月曜
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正念場 あかつき 9

会合周期を半減させる軌道変換は、軌道のサイズを 6% 小さくするだけで成ることが分かったけど、軌道変換って推進剤を使うから、もし余裕がなければ、あかつき は3年後に金星に再会できても、軌道投入ぶんの推進剤が足りないってことになるわけで。火星探査機 のぞみ と同じ状況になるわけで。

ここで太陽光圧での軌道制御を使うと、推進剤の節約に気持ち程度でも貢献できるんじゃないかと。

金星周回軌道投入時の逆噴射量を減らすのなら、金星と会合したときに速度差を少なくする方向ですな。それで軌道の楕円を小さくするのなら、近日点距離はそのまま。金星軌道の外にはみ出してる遠日点距離を減らす、となりますな。はみ出し量が1150万 km を超えてれば、遠日点距離だけを減らせば足りる。近日点付近での軌道変換でよし(つか軌道要素を知りたいんだが見つけられん orz)。太陽光圧が強い時期に一致。となる。実際は近日点ドンピシャのときだけでなく、あかつき が近日点側にいる長い時期、ずっと太陽光圧でブレーキをかけ続けるから、近日点距離も少し落ちることになるけど。

あかつき の軌道図ハケーン! 見やすいように色合いをレタッチしたやつが以下。

暫定軌道

この図から あかつき の遠日点距離を出すと 110,714,286km。金星の平均軌道半径は 108,208,930km。差し引き 2,505,356km。これが あかつき の遠日点の金星軌道からのはみ出し量。期待値(1150万km)の2割程度ですな。てことで3年後に会合するには、主に近日点を下げなきゃなんないってことだわ。

遠日点付近での軌道変換になるんで、太陽光圧利用だと効率も悪くなるなぁ。太陽にますます近づくのも、機器への影響を考えるとあんましよろしくないしなぁ。太陽に近づきすぎてだめになってしまうなんてことになりでもしたら、IKAROS よりこっちのほうがよっぽどイカロスだわ。

銘板左端銘板銘板右端

最近よく あかつきチーム on Twitter を読んでるんだけど(おいらは Twitter やってないんでフォローはしてない)、あまりにも健気で泣けてくるよ。

銘板
2010.12.14 火曜
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正念場 あかつき 10

セラミックスラスタ_あかつき

あかつき の件で新聞は、見出しで「失敗」と報道しつつも記事内容は同情的で、応援してくれてる。余計な決めつけなしで行こうって姿勢だし。自分たちの今までのやり方がまずかったこと、ネットでの反応なんかでようやく学んでくれたかな。ていうか今は はやぶさ 効果で読者が応援基調になってるからか。あかつき の金星周回軌道投入がはやぶさ の帰還より前だったら、いつも通りに必要以上に問題視されて好き放題に叩かれてたろうなぁ。しかも素人なもんだから、全然的外れな理屈を振り回したぐらいにして。

ここらへんってさ、宇宙開発って税金を使った公共事業なもんだから、はやぶさ 前までは政治記事のノリだったのかもね。「我々の貴重な血税を使って一体何をやっておるのか、納得のいく説明を要求する」な、マスコミ的な正義に基づいての批判基調というか。その空気を はやぶさ が、関係者が望む形に変えた。国民皆が楽しめる娯楽として受け止められるようになった。娯楽なら、基本的にお代を払うもの。納税者にとっては、オリンピックでの日本代表選手やチームを応援するのと同じことになる。多額の税金を使った国家事業が経済効果を上げなくてもそれなら大義名分が立つし、世論も味方になってくれる。

火星探査機 のぞみ のときも、新聞のコラムで「たった200億円でここまで楽しめるなら安いもの」とゆーのを見かけたことがあるけど、のぞみ 自身の計画断念に加えて旧 NASDA のロケットや衛星の連続失敗がたたって、マスコミのご機嫌は政治批判的なものに戻ってしまったんだわ。

はやぶさ が世の中で実際に盛り上がってきたのは今年に入ってからだったけど、ISAS は はやぶさ が飛ぶ前からプロモーションに力を入れてた。甲斐恵美子のジャズアルバム "Lullaby of Muses" はかなり早い方。かの探査機の名前がまだ「はやぶさ」じゃなく、開発名の "MUSES-C" と呼ばれてた頃のリリース。2004年のスイングバイじゃ ISAS サイトは FLASH 動画バナーで宣伝してたし、2005年のイトカワ探査は連日、管制室の様子をネットで生中継。新聞記者さんたちもファンと同じくコーフンしてくれたみたいで、社会面で熱い記事が毎日展開されてたよ。ISAS メールマガジンも、宇宙ファンの間で人気が出てきた はやぶさ の消息を毎回報せてくれるようになった。

3億km 彼方で死の淵にあった はやぶさ が復活した次の年(2007年)、"Lullaby of Muses" を BGM にした公式プロモーションビデオ『小惑星探査機『はやぶさ』物語〜祈り』が公開。あのときはもう ISAS どんだけ はやぶさ に肩入れしてんだと驚愕しつつも、これ観ては泣いてたよ。んで、ここから大阪市立科学館が企画したのがプラネタリウム映画 "HAYABUSA BACK TO THE EARTH"。さらに感動的な出来になって、はやぶさ ブームを盛り上げた。熱意が ISAS の外の経済社会にようやく飛び火したわけだ。

はやぶさ 人気ってポッと出みたいに感じてる人って多いかもしんないけど、実は ISAS がずーっと地道に続けてきたプロモーションの成せる技だったんですな。そしてその努力がついに結実。あかつき がこんなことになっても、前までは「我々の血税を使ってるんだから成功して当たり前」とふんぞり返ってたマスコミが、この苦境で応援してくれてる。

けど金額はしっかり出してるね。記事は「失敗」の文言で始まり、開発費総額で締めるパターンが多いような。このやり方、暗に批判してる感じを受けるなー。これってそういう論調を期待する読者に向けたもんなのかな。「まったくもってけしからん」「何をやっているのか」「こういうことでは困る」と何にでもいいから突っかかって怒りをぶちまけたい人向けというか。マスコミ的には、これで中立のバランスを取ってるってことなのかな。

件の「開発費」はおしなべて「打ち上げ費用を含めて250億円」と報道されてる。けど あかつき 本体の開発費が150億円だから、残る100億円は H-IIA ロケットの調達費だね。H-IIA 202型(標準型)の額面価格は85億円。実際その額で打ち上げられた例は少ない。今回はたぶん、

  1. 初めての惑星間軌道投入だった
  2. IKAROS との間仕切りを特注した
  3. 打ち上げ延期(3日間)があった

それで割高になってるんじゃないかな。

でさ、同時に あかつき の質量の6割の IKAROS も打ち上げてるんだが。たぶん JAXA 内の予算申請の塩梅で、「打ち上げ費用は あかつき が全額負担、IKAROS はタダ乗り」で会計処理されてるんだと思う。実際には 5:3 で案分すべきものでして。そうすると、あかつき の実質の打ち上げ費用は62.5億円ですな。37.5億円引きで、総額は212億5千万円也。はやぶさ の総額210億円(打ち上げ費用込み)と同じ程度にまで落ちますな。しかし M-V より安い62.5億円のロケット代で、地球スイングバイが要らなくなって航行期間をまる1年減らせた。相乗りさんと折半すればそうなるっつう計算上の話だけど、大型ロケットっておトクですなぁ。

ちなみに はやぶさ の値段はなぜか打ち上げ費用を入れない「127億円」で語られることが多いんで、あかつき はあたかも はやぶさ の倍額のバカ高い探査機みたいに思えてしまうんだよね(250億円でも外国の探査機本体のみの半額程度だけど)。あかつき に同情基調な報道をしつつも、セコいところで意地の悪い印象操作をどうしてもやめられないマスコミであった。

銘板左端銘板銘板右端

エンジン不具合の原因として、燃料タンク加圧用ヘリウムの配管かその配管のファルタの目詰まりの可能性が指摘されてるよね。けど目詰まりを起こすようなものは何もないはず。当然ながら。けどタンク圧力の挙動はそれっぽい感じを示してる。

んで思ったんだけど、もしかして凍結じゃね? ヘリウム配管に燃料が逆流してて、それが凍って目詰まりを起こしたんじゃね? だとしたら、配管周辺を温めてやれば復活するんじゃないかと。

のぞみ でも はやぶさ でも、ヒドラジン燃料の凍結がトラブルを引き起こした。今回もそれかなーと思って。目詰まりするものがないはずなのに目詰まりしたんなら、そこに考えられる異物、ヘリウムの流れを阻害できるものときたら、逆流した液体燃料くらいしかないはず。詰まるのであれば、それは凍った状態じゃないかと(ヒドラジンの融点は 2℃)。ちなみにヘリウムの方は、沸点がマイナス 268.9℃(絶対温度4.2°)。金属超伝導物質の冷媒に使われるほどなんで、めちゃめちゃ低い。宇宙機の中じゃまず液状にさえならない。

金星の公転軌道は太陽エネルギー密度が地球軌道の2倍もあるんで凍結はちょっと考えにくそうだけど、あかつき はその環境で稼働すべく、内部を機器にとって快適な温度に保つ設計がしてある。てことで、もしかして熱に関する収支見積もりか設計か制御に、何か間違いか甘いところがあったんじゃないかと。それで燃料タンク向けのヘリウム配管のあたりが局部的に寒くなって、逆流燃料が融点を下回って凍ってしまったんじゃないか、なんて。

のぞみ と はやぶさ で、ヒドラジン凍結で2度も痛い目に遭ってる。2℃で凍るのは、宇宙機にとっては弱点を作ってしまう要素なんじゃないかと。もし今回もそうだとしたら3回目。こんな面倒な燃料を使うのはどうかって気がしてきた。燃料としての性能を追求したからこそのヒドラジンなのかもしんないけど、それで不具合を出すのは本末転倒なわけで。

ヒドラジンの代替燃料で、宇宙機で実用されてるのは2つ。まず非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)。融点はマイナス58℃。そして UDMH より性能が高いモノメチルヒドラジン。こっちの融点はマイナス52℃。ここらのほうがいいような気がするなぁ。ただこの2つはヒドラジンより沸点も低いんで、エンジンの冷却にはちょっと不利なのかも。

あ、もしかして あかつき の燃料は UDMH か モノメチルヒドラジンなんだったりして。もしかして不具合の原因は逆流燃料の凍結じゃないんだったりして。だとしたら完全においらの勘違いですすんません。この3つ、一緒くたに「ヒドラジン」と呼ばれたりするらしいんで。

銘板
2010.12.15 水曜
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正念場 あかつき 11

関係者の方々はもちろん、ジャーナリストの皆さんや宇宙機ファンは今、あかつき の事故のストーリーを推理するのに大忙しだったりする。おいらもその一人。あかつきチームの皆さんが世界最高の あかつき の専門家であり、データも処理方法も豊富に用意してるってことで、公式発表があればそれが最も正しいってことになるけど、そうなるまではいろいろ自分なりに考えていたいなぁ。ということで、今日もあれこれ推理するの日。不謹慎だけど楽しいんだよね。で、違ってても当たってても、そこから今まで知らなかったことや思いつかなかった考え方を学べるし。

今日は、昨日のヒドラジン凍結のストーリーをもう少し考えてみる。

(2011.9.20 補足: 以下の考えは、3軸安定型宇宙機の燃料タンク構造をよく理解してなかった状態での推理だったので、全然間違ってました (^_^;))

圧力低下の原因を燃料タンク加圧用ヘリウムの配管かフィルタが目詰まりしたんだとして、おいらはその配管に逆流した燃料が凍結した説を採ってる。これまぁ実際はいろいろな現象を予測されて対策されてるのかもしんないけど、ベルヌーイの法則で正のフィードバックが起きたんじゃないかとも思って。

ヘリウム配管がもともと、ヒドラジン燃料が凍りそうな低い温度だったとする。で、そこに少量のヒドラジンが逆流してたんだとする。単純に考えると、ヘリウムガスの圧力でヒドラジンは燃料タンクに押し戻されるけど、何かのきっかけでちょっとだけ凍ったのかもしんない。そこは流路が狭くなる。ヘリウムの流速が速くなる。こうなると、この部分の流れは局部的に温度が下がる。ベルヌーイの法則ってやつで。

そこに残ってたヒドラジンは低温でどんどん凍っていって、氷塊が成長していく。ますます流路が狭まってベルヌーイの法則での温度低下がますます効くようになる。正のフィードバックですな。最終的に、ヒドラジンの氷が塞ぎきれなかった小さな小さな穴からヘリウムがチロチロ流れてる状態にまでなったんじゃないかと。

管の内径はわずか 3mm らしい。これで目詰まりが起きたとすれば、氷塊の成長は出だしの一瞬だったと思う。で、穴が塞がる直前あたりで流量が減ったぶんだけ影響が少なくなって、つまり負のフィードバックに転じて、穴の直径ははりの直径程度で保たれた、と。こうなると、いくらがんばって圧力をかけても、流量が足りないんで燃料タンクを満たしつつ燃料に圧力をかけるのが難しくなる。それが燃料タンク全体の圧力低下として現れたんじゃないかと。

そうだとすると、再発防止策は配管の加温ですな。あるいは噴射前にヘリウム自体を加温しとくのもいいかもしんない。ただ、一度それが起きたのなら、その場所がそうなりやすい場所だってこと。温度環境もそうだろうし、配管内面の表面状態も、たまたまそこがこの現象を助長する仕上がり具合になってしまってるのかも。そこらの複合的な原因だったのかも。ヘリウムの流れを遅くしたいとこだけど、エンジンへの燃料の流量と圧力を保たなきゃなんないんで、なかなかそうはいかんよな。

もしこれが原因だったとすると、次回の探査機じゃ配管を太くするのが対策になりそう。例えば内径を 3mm から 4mm に替えると、3分の4倍ですわな。断面積はその2乗で9分の16倍。約1.78倍。基本の流速が 56% に落ちるんで、ベルヌーイの法則での温度低下現象はこれだけでも起きにくくにくくなる。さらに、もし氷塊の成長速度が同じとしても、その管が塞がるまでの時間的余裕が1.78倍ある。内径 3mm で一瞬だったならその1.78倍でも一瞬なんだけど、とにかく少しは余裕ができる。で、基本の流速の減少との合わせ技で、凍結での閉塞が発生しにくくなるでしょう、と。

探査機は重量も内部の間取りも制限が厳しいんで、観測に直接関係のない装備はとにかく小さく軽くしたいんだけど、もしこれが正解なら、次の探査機じゃここはひとつ配管を太くしてマージンを確保した方がいいんじゃないかと。加温のための装備も、特に増強しなくてよくなるかもしんないし。

銘板
2010.12.16 木曜
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正念場 あかつき 12

エンジンの方はどうもよく分からなくて。破損したのかしてないのか。燃焼末期の急な姿勢の変化はノズルスカートのどこかに穴が開いた可能性を示してる。だとすると破損箇所はスロート(細くくびれてる部分)が一番怪しいんだけど、なんで壊れるのかなーと。その仕組みがいまひとつ分からんくて。下の写真、赤丸の中が「スロート」。

セラミックスラスタ: スロート部

ロケットエンジンの性能は、燃焼ガスをどれだけ高速で排出できるかで決まる。ノズルの形が釣り鐘型なのは、その理由から。

燃焼ガスは、燃焼室から出口に向かう経路の断面積を絞っていくとだんだん高速になる。水のホースの先を指で潰すと、隙間から出た水がより遠くに飛ぶ、あのイメージ。圧力を上げれば噴出速度が上がりますな。

ロケットエンジンの場合、一番細くなったところで流速が音速に達するように設計される。そこから先の超音速の気体の挙動ってのは、音速未満の流れとはちょっと異なる。詳しい原理はおいらは知らんけど、今度は圧力を下げていく=流路の断面積を増やしていくと流速が上がっていく。排気を最も効率的に加速するノズルの形を計算すると、例の釣り鐘型になる。

英語圏じゃこの形を主に「スカート型」と呼んでるけど、どっちにしろ原理はそういうことで(「ベル型」という、「釣り鐘型」と同じ発想の呼び方もある)。そういやホバークラフトの周りの浮き輪みたいな部分も「スカート」なんだけど、小学生の頃、その図解を一緒に見てた同級生、即座に「やらしー」と言い放ったなぁ。スカート自体は別にやらしくないだろw

スロートが強度的にやばそうだってのは、とりあえず見た目がそうだよね。ひねるとそこがポキッといきそうで。あと圧力が高くなる部分だしさ。実際、M-V ロケット4号機の1段目も、H-IIA ロケット6号機の固体燃料ブースターも、どっちもスロート部分が内面から破損して打ち上げに失敗したし。

けど あかつき の場合、燃料タンクの圧力低下がエンジン破損につながるストーリーが、おいらはまだどうも納得がいかなくて。新聞だと、酸化剤過多の状態での燃焼でセラミック素材の限界を超える高温になった、という説が出てた。

一瞬納得しかけたけど、エンジンへの供給燃料が少ないなら燃焼の規模も小さくなるわけで。熱量自体は上がらないと思うんだ。

液体水素・液体酸素エンジンだと燃焼温度を抑えつつ排気速度を稼ぐために、水素を多めに供給するんですな。酸素と出会えなかった水素も一緒に噴射する。同じことをヒドラジン燃料でもやってるのかもしんない。そうすると、本来燃えないはずだったヒドラジンまで燃えることになるから、それでかなーとも思った。でも燃料が足りなくてそうなるわけで、燃料の供給量が増えるわけではない。やっぱし全体としての熱量は増えない気がする。だから あかつき のエンジンは破損してない気もするんだけど、データは破損を示唆する挙動を示してる。

その堂々巡りのあと、燃料不足でエンジンが壊れるもうひとつの理由を思いついたよ。

エンジンの冷却もヒドラジン燃料でしてたのかなー、と。だったら供給量が減ると冷却能力も減るわけで、それで壊れたのかもな、と。けどエンジンで冷やすところっつうと、燃焼室の内壁が主。内壁が溶けたんだとするとさ、もう再起不能な可能性が高いような。けど ISAS は「まだいけるかもしれない」という見解のまま。

んー、結局なんだかよく分かんねっす。

銘板
2010.12.17 金曜
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正念場 あかつき 13

公式発表がありましたですなー。PDF か。見れるからいいっちゃいいけど、HTML の方がラクなんだよなー。けど90年代と違って、お手軽にいじれる HTML エディタってことごとく消滅したからな。Dreamweaver はそれで稼ぐプロ用途だし。マイクロソフトの Word ってまだ HTML 編集機能があるのかな。モデム全盛の昔、クソみたいにひどいその機能で作った、見てらんないサイトが多かったっけ(当時から今に至るまで HTML 手書きでやってるこのサイトも同じくらいひどいんだけど、ソースの見栄えはアレよりだいぶいいぞ)。

この資料から、おいらが理解できそう&何か推測できそうなところを抜き出してみた。まずは あかつき の回転軸の確認。

あかつき XYZ 軸

図の右下に X 軸、Y 軸、Z 軸の矢印が出てるんで、これで回転軸を確認せんことには。はやぶさ と違うんだねぇ。ていうか はやぶさ も あかつき も、+Z 面が高利得アンテナの面、と覚えればいいか。あかつき の場合、高利得アンテナ(真っ白いお盆みたいなところ)の反対側に、今話題の「軌道制御エンジン(OME)」がある。この Z 軸がロール軸。飛行機の操縦桿を左右に動かすと機体が反応する軸。機体の進行方向を表す軸でもある。

この報告書によく出てくる「X 軸」は、この図からだとヨー軸だね。飛行機だとペダルの操作。クルマでいうとハンドルで右折・左折をする回転。残る Y 軸はピッチ軸。飛行機だと宙返りするときの回転軸ですな。操縦桿でいうと引いたり押したりの動き。

ちなみにこれは逆噴射だったから、機体は進行方向の反対を向いてた。それと太陽電池へ太陽光を確保することと回転軸との関係を考えると、あかつき は金星を横に見ながらではなく、真上か真下に金星、という状態で逆噴射をしたはず。

回転軸を確認したんで、お次は「イベント履歴」。状況を時系列順に書いたもの。気になるところは太字にしたよ。太字にしたあたりはグラフも出てるんで、それも見てみよう。グラフの図はちょっと小さくなってしまって見にくいけど、なにとぞご容赦を。

秒時 イベント
-3秒 VOI-1制御開始、RCS姿勢制御開始
-3〜0秒 RCSによるセトリング
0秒 (12/7 8:49:00JST) OME噴射開始
0〜152秒 ±2°程度の範囲で姿勢制御
燃料タンク圧力( P3)が徐々に低下(1.47→0.95MPa)
機体加速度が徐々に低下(0.91→0.82m/s2)
152秒 機体加速度が急激に低下
152〜156秒 機体加速後が最低値0.52m/s2を示した後0.62m/s2まで増加
X軸周り角加速度5°/s2で回転 最大姿勢角42°、最大姿勢レート11°/s
156〜158秒 機体加速度が0.62m/s2でほぼ安定
X軸周り回転が減速(11→8°/s)
158秒 RCSによる軌道制御モードからリアクションホイール(RW)による
姿勢維持モードに移行(同時にOME推薬弁閉→噴射中断)
酸化剤タンク圧力(P4)がステップ状に上昇
158秒以降 OME噴射中断と同時に燃料タンク圧力(P3)が徐々に増加
(158s:0.95MPa→2000s:1.28MPa→6781s:1.36MPa)
375秒 姿勢維持モードからセーフホールドモードに移行
9660秒以降 調圧圧力(P2)が低下し、燃料タンク圧力(P3)と同じ値に収れん

 

OME_加速度・加速度履歴
OME_圧力履歴

0〜152秒、燃料タンクの圧力低下とともに機体の加速度も落ちてる。燃料供給がだんだん少なくなってきてることの応答だね。3.5.5 のグラフだと異常が出た近辺だけ扱ってるんで、152秒までは 0.82m/s2 で一定みたいに見えるけども。

で、152秒で加速度がガツーンと落ちてる。ただ、ゼロ近くにまで落ちたのかと思ったら、加速度急減前(0.82m/s2)の6割、0.5m/s2 出てた(加速度のメモリはグラフの右側。ゼロからじゃなく(0.4m/s2 から始まってる)。そこから3〜3.5秒かけて 0.6m/s2(0.82m/s2 の73%)まで値を戻してる。

3.5.5 のグラフで示してるのは、155.5秒で何か状況が変わったらしいこと。X 軸と Y 軸の角速度、機体の加速度の様子が一斉に変化してるんで。152秒以来、ヨー軸とロール軸はだんだん回転が速くなってきてた。それが155.5秒、機体加速度が安定するのとほぼ同時に、それぞれ回転速度が減ってきてる。ロール軸の回転速度は156.5秒でついにマイナスに転じた。

姿勢制御システム(RCS [Reaction Control System]: いくつもある小さなロケットエンジンの噴射で宇宙機の姿勢をコントロールするメカ)はこの間、ずっと姿勢のズレを収める方向で稼働してたはずだから、それがようやく効き始めた時間でもある。逆に言えば、それまで あかつき は RCS じゃ抑えきれないほどの一定した外乱を受けてたことになる。

うーん、152秒までの「徐々に」の推移はタンクの圧力低下で説明できるけど、以降の事象はやっぱしエンジンの異常以外に考えにくいな。

X 軸(ヨー軸)の予期せぬ回転は、当初発表で360°とあったけど、訂正で 42°になったよね。このグラフだとだいたい3秒で角速度 12°/s までほぼ一定の加速度で増えてるから、この3秒間での回転量は18°だね(計算は「3 [秒] ×12 [°] ÷2[三角形の面積なので2で割る]=18」)。そこから増分はマイナスに転じてるけど角速度そのものはまだプラスなんで、その方向に回転し続けたってこと。回転が止まるまで全部で42°回った。件の3秒間とまったく同じ大きさで方向が逆の加速度なら、止まるのにもプラス18°のはず。それがプラス24°。

18:24 = 3:4

なんか切れのいい数字が出てきたよ。これは何を意味するんだ?

分からんけど、152秒のトラブルから3秒間、推力が極小値から持ち直すまでの間、特に X 軸にかかる外乱が大きかったらしい。角速度の増加量が一定ということは、外乱の力は RCS の復元力より大きく、その値はほぼ一定だった、となる。155.5秒以後、推力は定常値を取る。X 軸にかかる外乱の大きさは RCS の力を下回ったけど、まだ存在はしてた。

155.5秒で何があったかは、その前の152秒で何があったかが分からんことにはどうにもならんけど、とりあえす推力はある程度直って、外乱は X 軸、Y 軸とも制御可能なくらいまで減った、と。

銘板
2010.12.18 土曜
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ちょっとだけ正念場 IKAROS 1

あかつき のそんなこんなで泡食ってるうちに、二卵性双生児の IKAROS のほうは予定通り金星をフライバイしましたですよ。12月10日ってことは あかつき の3日遅れでしたな。こっちは大出力のエンジンがないんで、はじめから金星周回軌道には乗らない計画。今回いったん金星の近くを通ったら、もうあとは地球-金星の間の惑星間空間をずーっとぐるぐる回り続けるってわけ。ソーラーセイルの展開に成功したってことで、今はフライトデータを取ること自体が任務なんで。

12月10日付の IKAROS - blog だと、

銘板左端銘板銘板右端
IKAROSは12月8日日本標準時16:39に,金星距離約80800kmを通過しました.
通過後に実施した本日の運用で,IKAROSの状態は問題ないことが確認されました.
 
写真は,一般の方から金星フライバイのお祝いとして頂いたイカロス君ケーキです.
多くの方にいろんな形で応援していただき,いつもとても勇気づけられます.
本当に,本当に,ありがとうございます.
 
私たちは,太陽系探査への挑戦をつづけます.
この挑戦の灯を,諸先輩から受け継がれてきたかけがえのない技術を,
私たちは大事に受け継いでいきます.
銘板左端銘板銘板右端

とまぁけっこう淡々とした感じ。ブログの方はいつもこんな、無駄なくスッキリ、それでいて重要な情報を分かりやすくどんどん出してくれる。はっちゃけぶりが大人気なのは Twitter の方ですな(はやぶさ君から無茶ぶりを直伝されて以来、ステキな事態になってるw)。つか IKAROS チームは節目ごとにケーキでお祝いする慣例みたいで、今回はファンの方からのケーキを楽しんだみたい。控えめな感じなのは、あかつき があんな事態の真っ最中だから気遣ってるのかもね。同じロケットで一緒に打ち上げられた仲だもんなぁ。

12月12日には IKAROS の金星フライバイ軌道が公開されたね。

IKAROS_金星フライバイ軌道

金星からけっこう離れたところ(8万800km)を通過したんで、方向の変化はちょっとだけ。加速スイングバイのコースだったとはいえ、その前と後で目に見えるほどスピードも変わってないね。しかし IKAROS の軌道の近日点が金星軌道なんで、ここで加速ってことは遠日点高度が上がるということ。もともと H-IIA ロケットで打ち上げられたとき、遠日点は1.07AU(1AU = 1天文単位 = 太陽と地球との平均距離 ≒ 1億5000万km)でちょっと地球から外側に行く軌道だった。今度の金星フライバイで、もうちょっとだけ外側に行くことになりそうだね。

金星の写真は撮れなかったかなぁ。IKAROS は 安普請 ローコストで作られた宇宙機なんで、宇宙での大型膜面展開と太陽光圧での帆走・姿勢制御、それと薄膜太陽電池の稼動の確認という本来の目的にほとんど特化してる。カメラといえば帆の展開具合を確認する広角カメラしか積んでない。てことで、そのカメラで撮れたとしても点にしか見えないかもだけど。しかも最接近時は金星の夜側を通過だったしな。期待できんか。

それでもどのくらいの大きさで見えたはずなのか考えてみると(以下10km台を四捨五入)。金星距離が 80,800km。金星の半径は約 6100km。となると、金星の中心からだと 86,900km。地球の静止軌道の高度は 35,800km。地球の中心からの距離は 42,200km。てことで、地球の静止軌道の倍の距離から見たことになるね。計算すると2.06倍ですな。金星のサイズは直径で地球の 95% ほどなんで、IKAROS に乗った人が最接近した金星を見た場合、準天頂衛星 みちびき から見える地球の 46% の大きさですなぁ。直径で 46% なら見た目の面積はその2乗で 21% ですな。んー、けっこう小さく見えちゃうね。地上から見た月よりもだいぶ大きいけど。

むしろ地上から見えるお月様の大きさと比べた方が分かりやすそう。

お月様の直径は 3,500km。地上からの距離は 380,000km。atanθ≒θ[rad] の近似で、視直径は0.00921[rad] = 0.52°と出ましたー。一方、IKAROS が見た金星の大きさは、直径は 12,100km。金星中心から IKAROS までの距離は 86,900km。atanθ≒θ[rad] の近似がちょっと危なくなりそうな感じなんで、ちゃんと atan で角度を求めよう。視直径は 0.138351[rad] = 7.93° ですなぁ。

見た目の直径だとお月様の約15倍。でかいでかい。視野に占める面積だと約233倍。IKAROS は金星からけっこう離れたところを飛んだもんだと思ってたけど、それでもかなり壮観だったんじゃないかな。

銘板
2010.12.19 日曜
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ちょっとだけ正念場 IKAROS 2

昨日の、IKAROS から見た最接近時の金星の大きさを再現した画像を作ってみたよ。2004年に撮った、お月様と風景の写真が元だす。

IKAROS から見た金星のサイズ

でけぇ! 左上の明るい点がお月様ですハイ。広角レンズなんでことさらお月様が小さいんだけど、それに合わせて金星のサイズを決定しましたよ。そしたらこんなに巨大だったw

まー IKAROS 最接近のときは金星の夜側だったんで、IKAROS に人が乗ってても、金星は新月みたいに縁がちょっと見えただけだったろうけど。

〓ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ⊂<回 ←仕切りジッパー

画像の出来は……んー、80年代の日本の特撮技術より落ちるなぁ(汗)。言うだけ言っといて、自分でやるとこんなもんですか orz しかも元画像は川面にうつったお月様もあったのに。上下対称を狙ったもんなのに。川面にうつった金星まで表現できないんで切っちまったですよ。シネマスコープな画角に見えるのは単なる偶然っす。

〓ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ⊂<回 ←仕切りジッパー

あかつき がピンチで、マスコミとしてはニュースネタとして格好なのは分かるけど、順調に飛んでる IKAROS のことも忘れないでほしいよ。

銘板
2010.12.20 月曜
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あかつき に自動操縦された昨夜

昨日の夜、次の日は仕事だってのにすごい夜なべしちまった。ていうか夜なべしてた間の記憶がモーローかつ断片的なんですが。

そして、何をしてたのかの証拠だけが、おいらの iMac に残ってた。

あかつき 3D モデル

いつの間にか作り始めてやがった(>自分)

どんだけ あかつき のこと好きなんだ(>自分)

銘板左端銘板銘板右端

まだローゲインアンテナもミドルゲインアンテナもない。RCS も各種観測機器もない。この絵じゃ見えないけど、セラミックスラスタのノズルも単純な円錐のまんま。こういうのってどこまで行けば完成なんだろ(謎)

きっと「納得行くまで」なんだろうけど、それは時間と労力ばかりものすごく浪費しそうな、3D モデリング万年初心者のひとりごちり。

銘板
2010.12.21 火曜
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正念場 あかつき 14

あかつき 関連で時事通信がなんだか無責任な記事(12月17日付)を出したんで、ちょいと全文転載。

銘板左端銘板銘板右端

主エンジンに異常、破損か=あかつき金星周回失敗−宇宙機構が報告・文科省調査部会

探査機「あかつき」の金星周回軌道への投入が失敗した問題で、文部科学省宇宙開発委員会は17日、調査部会の初会合を開いた。宇宙航空研究開発機構は、小惑星の石などの衝突や姿勢制御装置の異常、燃料漏れは考えられず、主エンジンの異常燃焼や破損が原因の可能性が高いと報告した。

これに対し部会委員らは、起きた現象を説明しきれていないと指摘。27日の次回会合以降、詳細なデータに基づき改めて検討することになった。

あかつきには主エンジンを撮影できるカメラがなく、再び金星に接近する6年後に再投入できるかは、機体の状態とトラブル対策次第とみられる。

あかつきは7日午前8時49分から主エンジンを12分間逆噴射して減速し、金星の重力に引き寄せられて周回軌道に入る計画だった。しかし、逆噴射開始の2分32秒後に機体姿勢が大きく乱れ、その6秒後に逆噴射が停止。金星を通過した。

報告によると、主エンジンの燃焼状態が異常だったか、噴射口の破損で噴射方向がおかしくなった可能性がある。破損の場合は、燃料をタンクから押し出す高圧ガスのバルブが十分開かず、燃料と混ぜる酸化剤が相対的に多くなって燃焼温度が高くなり過ぎたことなどが想定されるという。

主エンジンは三菱重工業などとの新開発で、燃焼器・噴射口を従来の重い合金製ではなく、世界で初めて軽いセラミックの一体成形とした。調査部会のある委員は記者団に対し「一体型のセラミック製の開発は過去、全部失敗している」と批判した。(2010/12/17-19:41)

太字: ゆんず

銘板左端銘板銘板右端

説明しきれてないのはどうしようもないわな。実際、何が起こったのか不明な部分がまだまだある。チームはそれを探り当てるのに予断は禁物な状態が続いてる。てことで現時点で分かってることしか言えないんだからさ。部会委員もまた指摘せざるを得ないしさ。現時点の状況と認識を双方で確認しとく必要があるから。だから「起きた現象を説明しきれていないと指摘」はチームに対する催促ではあっても、批判ではないってことでひとつ。記事も淡々と事実を述べてるんで、あとは読者側で勝手に誤解して「説明しきれてないじゃんか」とかいきり立たないように気をつけようね。

問題なのは最後の太字にした部分。

「一体型のセラミック製の開発は過去、全部失敗している」

ある委員が記者団に対して批判を出したその内容がアバウトすぎて、大変残念なものになってる。

ギモン。例えばセラミック包丁は開発失敗ですかね。従来の金属部分を一体型セラミックに置き換えてあるんですが。ていうか商品として出回ってる以上、開発は成功だったと思うんですが。

ほかにも「一体型 セラミック」でググると、包丁より高度な技術製品が様々な分野でザクザク出てくるんですが。全部失敗ですかな? どれも生産・販売するほどの完成度の製品のようですが。「一体型のセラミック製の開発は過去、全部失敗している」は正直、世迷い言以外の何物でもありませんな。

このセリフ、不自然なところがあるんだよね。「セラミック製の開発」ってさ、セラミック製の何の開発なのか言ってない。こういう場の発言だと、その場で分かりきってることは省略するから、もしかしたら「セラミック製の宇宙用エンジンの開発」の意味なのかもしんない。

でもそうなのかどうかは、記者会見の場にいる人にしか分からない。外部の人が理解するには情報が不完全なこういう発言の場合、記事では誤解を防ぐべく、例えば「セラミック製の(宇宙用エンジンの)開発は……」と書くべき。けどやってない。

となると、時事通信の怠慢の可能性が高いですな。けど記事をざっと読んでしまうと、権威の言った言葉として鵜呑みにしがちなんじゃないかな。

文法的にもヨレたこういう文章ってさ、デスクの地位にある人なんかは、原稿を一読して即座に見抜いて書き直しさせなきゃいかんはず。その能力があるからこそのデスクさんなわけで。そこを通らないと記事として世の中に出せない仕組みになってるわけで。

今回の件は、新聞社が科学音痴だからとかの話じゃない。文章書きとしての新聞屋の職業範囲内にバッチリ収まる話。それでこんなミスを出したわけで。こりゃちょっとなーと思うけど、時事通信社的にはどうなんでしょ。これでいいのかい?

とりあえず、3方面に早めに詫びた方がいいんじゃないの?

  1. 普段は記事で「日本が世界をリードしている」「日本のお家芸の」ともてはやしてるセラミック業界に
  2. 誤解を与えるような表現をしてしまったことを読者に
  3. 発言の真意を取り違えて社会に伝えてしまったことを、件の部会委員に

謝罪は早い方が、信頼回復に効果的だよ。

時事の科学技術関係の記事は、他紙より信用できるとずっと思ってたんだがな。

銘板
2010.12.22 水曜
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正念場 あかつき 15

あかつき のエンジンへの燃料供給が減っていった中で、エンジンが異常な高温に晒されて破断した可能性はちょっと考えにくい、と前に書いた。供給燃料が減れば、常識で考えて燃焼の発熱量も減るからね。酸化剤過多の環境で想定外の発熱反応があったのかもしんないけどさ(2012.10.4 補足: 実際に異常な高温に晒されたらしい。あかつき の燃料・推進剤混合比は燃料が多めになるようになってて、燃焼にあぶれた燃料がエンジン内を冷却する仕組みになってた。燃料の供給不足で冷却用に回るはずのぶんがなくなり、エンジン内の温度が異常に上がってしまったらしい)。

で、おいら的にはそれより可能性がありそうな事象を思いついたんだわ。

それは共振による破断。

ロケットエンジンはもともと振動が発生しやすい。その振動がもとでますます振幅が大きくなっていったり。動力を作る機関の宿命ですな。で、定常運転してる状態を想定して、振動を抑える工夫をいろいろしてる。けど あかつき のエンジンは想定外の状況での運転を強いられた。これ、振動が発生・増幅してもおかしくないんじゃないかと。

しかも悪い意味でおあつらえ向きに、エンジンのノズルは付け根が大きくくびれた釣り鐘型をしてる。でっかいおもりを片持ちの細い支柱で支えてる状態。これ、共振が起きるとポキッといきやすい形ですな。

本当にノズルが脱落したのかがまだ不明だけど、もしそうだとしたら、熱破断説よりも共振破断説の方があり得るような気がして。

銘板
2010.12.23 木曜
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正念場 あかつき 16

報告書のデータをウンヌンするのが途中で切れてたね。話をそこに戻すよ。もういっぺん、イベント時系列表とグラフを出してみる。

秒時 イベント
-3秒 VOI-1制御開始、RCS姿勢制御開始
-3〜0秒 RCSによるセトリング
0秒 (12/7 8:49:00JST) OME噴射開始
0〜152秒 ±2°程度の範囲で姿勢制御
燃料タンク圧力( P3)が徐々に低下(1.47→0.95MPa)
機体加速度が徐々に低下(0.91→0.82m/s2)
152秒 機体加速度が急激に低下
152〜156秒 機体加速後が最低値0.52m/s2を示した後0.62m/s2まで増加
X軸周り角加速度5°/s2で回転 最大姿勢角42°、最大姿勢レート11°/s
156〜158秒 機体加速度が0.62m/s2でほぼ安定
X軸周り回転が減速(11→8°/s)
158秒 RCSによる軌道制御モードからリアクションホイール(RW)による
姿勢維持モードに移行(同時にOME推薬弁閉→噴射中断)
酸化剤タンク圧力(P4)がステップ状に上昇
158秒以降 OME噴射中断と同時に燃料タンク圧力(P3)が徐々に増加
(158s:0.95MPa→2000s:1.28MPa→6781s:1.36MPa)
375秒 姿勢維持モードからセーフホールドモードに移行
9660秒以降 調圧圧力(P2)が低下し、燃料タンク圧力(P3)と同じ値に収れん

 

OME_加速度・加速度履歴
OME_圧力履歴

これで大事なのは152〜156秒。それまで機体加速度が 0.82m/s2 だったのが、一瞬 0.52m/s2 に落ち込んだけど、 0.62m/s2 に回復して安定してたってこと。まあ安定といってもこのグラフじゃ1秒かそこらでしか分からんのだけど、とりあえず状況が落ち着いたように見える。

チームが6年後の金星周回軌道最投入に希望を持ち続けてるのも、ここがよりどころになってるじゃないかなと。

グラフをパッと見ると、なんだかガツーンと底まで落ちた後にその前の4割程度まで戻ったって感じがしちゃうけど、このグラフをよーく見てくれたまえ(博士口調)。加速度の目盛りはグラフの右側なんですな。で、その目盛りはゼロから始まってるわけじゃない。一番下が 0.4。角速度でゼロの線は 0.45 なんですわ。ゼロから 0.4 までが省かれてるんですわ。てことで、実はこの落ち込みはそんなでかい幅じゃないんだわ。

てことで、加速度のグラフを縦軸ゼロからで作り直してみたよ。

機体加速度履歴

152.5秒で6割まで落ち込んで、155.5秒までに4分の3に回復、そこから安定、ですな。あかつき チーム内の人たちは無駄な空白部分を削ったグラフを作るのにも見るのにも慣れてるだろうけど、素人はいちいちこうしないと実感が掴めないもんで。

記事だといったんエンジンの火がほとんど消えてしまって、立ち直ったけどどうもこれからは無理っぽい、そんな印象を持っちまった。いやもう同じ量の推進剤をぶち込んでも半分もパワーが出ないようになっちまったのかと。けどそんなにひどい状況でもないような。エンジンに異常が出る前の 75% も出せてるんなら、かなり有望な気がして。

6年後の再投入に必要な減速量は、この前より少なくなってる。たまたまだけど減速スイングバイをした形になって、金星との相対速度が減ったんで。もしエンジンがこれ以上破損のしようがなくて安定した状態なんなら、燃費は落ちてしまったけど、どうにか行けるんじゃないかな。狙ってた30日周期の軌道は難しそうだけど、とにかく金星の衛星軌道から科学観測できる状態にまで持っていけるかも。

あとの大どころは、燃料タンク加圧用ヘリウムの流路確保ですな。圧力低下の原因が早く判明するといいなぁ。のぞみ と同じく逆流防止弁の不具合が疑われてるみたいだけど、同じ事態にはなりにくいような。今回は特注品じゃなく標準品を使ってるそうだし。はやぶさ でも特注のリアクションホイールがあんなことになったしな。てことでおいらの「加圧ヘリウムの配管に逆流したヒドラジン燃料が凍結した」説はまだ捨ててないってことでひとつ。

銘板左端銘板銘板右端

減速スイングバイになったのは、金星の謎の暴風「スーパーローテーション(超回転)」の観測に適した衛星軌道の周回方向が、たまたま一致してたから。もしこの方向が逆だったら、加速スイングバイで遠日点は地球の公転軌道よりはるか外側になってたかもしれんなぁ。そしたら周期が長くなって、金星と出会うタイミングも6年どころじゃなくなってたかも。つか軌道投入リターンマッチでさらに多量の推進剤が必要になったろうから、見込みなくなってしまってたかも。

銘板
2010.12.24 金曜
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正念場 あかつき 17

「加圧ヘリウムの配管に逆流したヒドラジン燃料が凍結した」説(非公式。ていうかおいらがここだけで勝手に出してる説です)について、公式報告書にちょっと裏付け的なものが載ってたよ。9ページの「2.3 推進系配管系統図」。

配管図1
配管図2

上の図の左の真ん中よりちょっと下に燃料タンクがあるね。燃料は "N2H4"。ヒドラジン(N2H4)ですな。非対称ジメチルヒドラジン((CH3)2-N-NH2)でもモノメチルヒドラジン(CH3-NH-NH2)でもない。この3つの燃料の中で、凍結温度が一番高い。つまり凍りやすい。

配管の目詰まり説は公式(あくまでも説だけど)。で、その説明としての燃料の凍結、まだ考えられる気がする。自説だから甘い評価なんだけどさ。

それとは別に、バルブも疑わしいですな。ていうか機械、とりわけ宇宙用の機械の中で、不具合が一番出やすいのが可動部。てことで定石で考えると、加圧用ヘリウムガスタンク→ヒドラジン燃料タンク の配管の中では、"CV-F" と書かれたところが怪しい。下の図の説明だと「チェックバルブ」となってる。逆流防止弁ですな。

この逆流防止弁、もともとはアメリカの探査機 マーズ・オブザーバー の失敗を教訓に取り付けられてる。酸化剤が逆流して加圧用ヘリウムガスタンクを経由して燃料タンクに侵入、混ぜるだけで発火する性質の燃料と出会ってしまって爆発・通信途絶、という痛ましい事故で(現物を検証したわけじゃないんで、最有力説扱いだけど)。

こんなことがあったんで、日本の火星探査機 のぞみ は逆流防止弁を採用。ところがそれが裏目に出た。エンジン全開にする場面で逆流防止弁が半開きで止まってしまって不完全燃焼が発生。パワー不足で のぞみ は火星にたどり着けなかった。

宇宙機用バルブは日本じゃ作ってるところがないそうな。長年の経験に基づく独特のノウハウが必要だけど、日本市場だけじゃ商売が成り立つほどの需要がないってことで、開発さえされてないらしい。てことで のぞみ チームがアメリカのメーカーに注文したら、規格品は のぞみ チームの要求に応える仕様じゃなかった。なもんで要求を満たすよう特注品を発注したら、動作が不完全になり得るものができてしまった。それでも地上試験で大丈夫だったんで搭載したら、恐れてたことが本番で起こってしまった、という流れ。松浦晋也 著『恐るべき旅路』より。

あかつき じゃ標準品を採用したそうな。確か軌道投入の日の記者会見でこの質疑応答があった。たぶん のぞみ の経験から標準品を使ったんだと思う。それがトラブるっての、おいらはちょっと考えにくい気がする。バルブ単体のトラブルじゃなさそうな。

それでももしこの逆流防止弁の不具合なんだったら、もしかしたらそこまで燃料が逆流して凍結したっつうのも考えられるんじゃないかと。「逆流防止」ってのは逆流燃料がヘリウムタンクに至らないためのものであって、逆流防止弁までは逆流を許してしまうものっぽいしさ(←よくわかってない)

一応この日記では逆流燃料凍結説を押してるけど、そりゃおいらが発案したからってだけのこと。もし公式で全然違う話が出たらそっちの方が断然信頼できるんで、この凍結説は忘れてくださいまし。

銘板
2010.12.25 土曜
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正念場 あかつき 18

あかつき ってもともと推進剤に幾分かの余裕があるような気がする。ISAS が独立してた頃には、M-V ロケットで打ち上げる予定だったんで。これだと金星に行くのに、打ち上げ1年後に地球スイングバイが必要だった。ロケットが大型の H-IIA に変更になってからもこの頃の設計をそのまま採用し続けたんなら、推進剤量はスイングバイが要らなくなったぶん余裕ができたはず。そうなってたんならいいな、と。

火星探査機 のぞみ は推進剤のわずかな不足で火星の衛星になれなかった。はやぶさ はメインエンジンの推進剤量に余裕を持ってたから(40kg でいいはずが 66kg 積んで行った)危機を乗り越えられた。その教訓が あかつき に生かされてるなら、きっと 推進剤のタンクは許される限り大きくしてあって、燃料・酸化剤とも比較的タプンタプンに積んでるんじゃないかな、という見立てもあったりして。

12月7日の金星周回軌道のときの限られたデータからだけど、事故後の今はとりあえず、事故前の 75% ほどの推力が出るらしい(実際はやってみないと何とも言えないけど。特に長秒噴射に耐えられるかどうか)。そのぶん燃費効率は落ちるけど、もともと推進剤に余裕があったのなら、6年後に金星周回軌道に着かせるのって可能だと思うよ。

はじめの計画だと、まず周期4日の衛星軌道に入って、そこから徐々に、観測に適した30時間の軌道に移っていくはずだった。30時間周期は観測に最適な数字として算出されたはずだけど、現状じゃとにかく金星の衛星になることが大事。

「推進剤の残量を知る手だてがない」という発表があったけど、事故のテレメトリを解析していけば、大まかには推測できるはず。その推測をもとに6年後に実行する段取りを組むわけで。

問題は酸化剤の残量かと。燃料タンク圧力の低下で、エンジンに供給される燃料が不足したらしい。エンジン燃焼室の圧力は定格より低い値にしか達しなかったと思う。けど酸化剤タンクは加圧用ヘリウムで定格圧力がかけられた。てことで酸化剤は予定より多く燃料室に流入した可能性が高そう。この酸化剤残量を見積もれれば、あかつき があのどのくらい軌道変換できるかが分かるわけで。

時間はまだ6年もある(3年説はおいらなんとなく諦めてるとこ)。年末年始あたりにエンジンの噴射試験もやるみたいだし、精度を上げて、今度こそ成功させてくれー。

銘板
2010.12.26 日曜
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正念場 あかつき 19

なんかさ、あかつきのエンジンは健全なままなんじゃないかって気がしてきたんですが。異常があったのは加圧用ヘリウムガス配管だけなんじゃないかと。

まず、12月21日のログで共振振動でのエンジン破損説を出しちまったけど、そこを疑問に思ってさ。

エンジンが振動で破損とか、記事で言われたみたいに脱落したというのなら、くびれてるノズルスロート部の破損が一番考えられそうなわけで(下の写真の赤丸部分)。

セラミックスラスタ_ノズルスロート

ノズルスカートの開口部分から出る燃焼ガスの流速は定格でおよそ秒速 3km なんだけど、ノズルスロート部分での流速は音速なんで秒速 0.34km。釣り鐘型のノズルスカートを通るうちにそこまで加速されるんだけど、その比率は0.11。機体が得る加速度は燃焼ガスの質量と排出速度に比例する。てことは、スロート部近辺でノズルがもげてしまったんなら、機体の加速度は 10% 前後あたりまで落ちなきゃなんない。良くて 20〜30% って気がする。ところが問題の152秒の時点で、機体の加速度は 60% 台だった。しかも156秒で 75% まで持ち直して以後安定。

機体加速度履歴

ノズルスカートが丸ごと脱落したんなら、こんなにいい数字は出ないんじゃないかと。

おいら化学はトーシロだけど、燃焼で出る排ガスの成分を考えてみる。燃料はヒドラジン(N2H4)。酸化剤は四酸化二窒素(N2O4)。燃焼の化学式はたぶん、下みたいになる。

2N2H4 + N2O4 → 3N2 + 4H20 + 熱

ガスの成分は窒素と水ですな。どっちもロケットエンジンの燃焼程度じゃこれ以上の化学反応は起き得ない。てことで、燃焼ガスのさらなる化学反応による発熱はなかったかと。

それと、共振振動は可能性が低い気もしてきて。なんでって加速度のグラフ、152秒以前がペタッと安定してるんで。ここに気付かなかったとはw てことで、実はエンジンには何の異常もないのかも。152秒時で何かがあった前の加速度の 75% をその後に出してるってことは、新聞で盛んに言ってるノズル脱落説はあり得ないのではないかと。いったん数値が落ち込んで復活してるしな。ノズルが壊れたのなら、この挙動は不自然な気がする。

けどここでまた別な可能性。

もうひとつ、新聞記事が言ってた「酸化剤過多の異常な燃焼による高温」の仕組みがちょっと分かった気がして。

加速度のグラフを見る限り、エンジンの出力はそんなに悪くなってない。これ、燃焼室への燃料の出が、ある程度は保たれてたことを示してる。なんとなくの印象で、燃料の供給がほとんど止まってた気がしてたんだけど、それほどひどくはなかったらしい。

液体燃料ロケットの燃料と酸化剤の混合比は、敢えて完全燃焼しないようになってる。燃料か酸化剤、どちらか軽い方が多めに混ぜられることが多い。理由は2つ。

  1. 未燃焼ガスが適量混じると、燃焼温度を低く抑えられる
  2. 軽いガスは排出速度が速いんで、パワーをそれだけ稼げる

で、昨日までおいらは「燃料が減ったんだから定格より高温にはなり得ない」と思ってたけど、これを考えると、「余分に混ぜるはずの燃料が減って完全燃焼に近くなるほど燃焼温度が上がる」となる。このことを言ってたのかなーと今日になってようやく思い至った次第で。

となるとここでの問題は、あかつき が世界で初めて搭載したセラミックスラスタの耐熱温度。旧来の金属製スラスタ(ここでは「エンジン」と同じ意味)の耐熱温度は約 1500℃。セラミックスラスタは約 1800℃。その差 300℃。定格燃焼と完全燃焼での温度差がこの範囲内に収まってれば、エンジンは無事の公算が強くなる。

セラミックスラスタの売りは「耐熱温度が高いから燃焼温度を上げられる→パワーが稼げて燃費も良くなる」なんだけど、あかつき の場合はスラスタ本体以外のパーツが今までのままなんで、定格の燃焼温度は今まで通りに設定したらしい。「世界初だから大事を取った」という意味もありそう。となると、破損したんだとしたら、スラスタ本体よりパーツの方かもしんない。

けど、内部部品の熱による破損でさ、何かが破断した後にそこから出力が幾分かでも持ち直す仕組みって、やっぱしちょっと想像がつかなくて。

そんじゃ一体何が起きたのか。

これ、加圧用ヘリウムガス配管内部での予期せぬ事象だけで、この応答の説明ができちゃいそうで。要は、グラフは配管の目詰まりの状況が変わるごとの応答を表してるんじゃないか、と。機体の回転速度も合わせたグラフをまた見てみよう。

OME_加速度・加速度履歴

152秒から妙な回転が始まった。155.5秒で機体の加速度が 75% まで持ち直した時点で、回転は収束に向かった。これ、152〜155.5秒まで、姿勢制御がろくに効かなかったことを表してそう。このときの姿勢制御装置は RCS。機体各所にいくつも取り付けた小型のスラスタを噴かして、その反動で姿勢を制御する仕組みのもの。で、配管図を見てみると、RCS は左下にたくさん並んでるやつ。

配管図

配管は燃料タンクからしかつながってない。この型のスラスタは、ヒドラジン燃料を触媒で気化させて噴射させるんで酸化剤が要らない。効率は落ちるけど構造が単純で動作も確実なんで、一定の需要がある。

機体の加速度と回転速度が呼応してるってことは、確かにエンジンが破損した場合はそのエンジンが作る外乱が一番考えられる。エンジンの状態が刻々と変わっていけば、外乱による回転速度の状況も合わせて変わっていくだろう。

けど、もし燃料タンクの内圧だけが両方の応答を支配してたのなら? これもまた成り立つんじゃないかと。見事にタイミングが合ってる。152秒で燃料タンク圧力が急に下がって、RCS での姿勢制御もままならなくなったんだとしたら。

機体は燃料消費による重心位置のズレや製造時の精度誤差なんかで、メインエンジンの稼働中は機体に回転力が発生するんじゃないかと。それを RCS で抑えるはずが、燃料供給量の低下で充分な力を出せなかったのかも。で、2.5〜3秒かけて圧力がある程度回復したら、RCS も外乱を抑え込めるくらいまでパワーが出るようになった、なんて考えいかがでしょ。特に155〜155.5秒は加速度の上がり方が比較的急になってる。同時に回転速度の増分も小さくなってる。一応説明できちゃうなあ。

もう一度、整理してみる。

てことは、下の配管図で赤く塗った経路が怪しいことになる。

配管図0_1
配管図1_1

この考え方でも、公式発表と同じ部位が出てきた。で、怪しいのが "CV-F" と書かれたところ。「チェックバルブ」「逆流防止弁(逆止弁)」ですな。"-F" は恐らく「燃料(Fuel)側」の意味。酸化剤(Oxidizer)側が"-O" なんで。

そんで燃料の逆止弁のトラブルって火星探査機 のぞみ で経験済みで、同じトラブルが起きないように対策されてる。あかつき じゃ並列で2個組んであるとか。1個がおかしくなってももう1個が大丈夫なら大丈夫という冗長系ですな。

冗長系を組んだ同じモノが同時にトラブるってのは、少なくとも偶発故障じゃない。で、のぞみ で起きた事象はバルブの構造に由来してたんで、その可能性も予測して潰してあるはず。それでも2個同時にとなると、何か予期せぬ環境条件が整ってしまったってことかな、と。

あるいは、バルブの前後の配管内で何かあったかも。

12月14日のログで、ヘリウム配管を逆流した燃料がどこかで凍結した、という説を出した。しつこいようだけど、考えられるんじゃないかなー。逆止弁より下流の配管内かもしれないし、もしかしたら逆止弁の中で凍ったのかも。(ここからさらに妄想ストーリー)燃料の氷が内径 3mm の流路内で成長するにつれてヘリウムの流れが悪くなって、152秒時でほぼ完全に閉塞。その影響で機体全体に衝撃が発生したか、配管内の圧力に衝撃的な変化が起きて、流路を塞ぐ氷の一部が欠けた。それで推力(加速度)がある程度復調。氷の欠け方がよくて、そこから氷は成長しなくて、少ないながらもヘリウムは安定供給。エンジンはそれに応じた推力を出すようになった、とかさ。考えてみたよ。

機体を回転させた力がどこから出てきたのかは説明が弱いけど、これでだいたい辻褄が合うような。

もしそうだとすると、

となって、あかつき は6年後に金星周回軌道投入に再挑戦できる、となるわけで。

これはおいらの憶測なんで、公式発表の方が違うことを言えば、正解の可能性はそっちの方がはるかに高い、ということでひとつ。

銘板
2010.12.27 月曜
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GSLV その1

おっとインドのロケットが打ち上げに失敗したらしいな。27日未明時点で一番詳しい時事通信から転載。

銘板左端銘板銘板右端

宇宙開発に大きな痛手=失敗続きの主力ロケット=インド

時事通信 12月26日(日)17時33分配信

【ニューデリー時事】インドは25日、人工衛星を宇宙に運ぶ同国の大型主力ロケット「GSLV」の打ち上げに失敗した。失敗は4月に続き2回連続。2016年に最初の有人宇宙飛行を実現させようと開発に精を出すインドだが、計画は道半ばでつまずいている。

ロケットは打ち上げ後47秒で制御不能に陥り、同63秒に地上からの指令で破壊された。インド各紙は26日、無残に砕けた機体の写真を1面に掲載した。

インド宇宙研究機関(ISRO)のラダクリシュナン理事長は25日、ロケット内の信号伝達に問題が発生し、補助ブースターが正常に作動しなかったと説明した。

GSLVはISROがロシアの技術も取り入れて開発した3段式ロケット。ISROによれば01年以降、計7回打ち上げを試みたが、今回を含め3回失敗した。ただ、外部の専門家の間では完全な成功は2回しかないとの見方が有力だ。

インドは08年に月探査衛星の打ち上げに成功。近年は他国の衛星打ち上げビジネスにも本格参入するなど、宇宙開発に自信を深めていただけに関係者の苦悩は大きい。地元紙によると、宇宙科学者は打ち上げ間もない段階で問題が発生したことを重視、「こんな失敗は見たことがない。悲劇的だ」と肩を落とした。 

銘板左端銘板銘板右端

ロケットって本質的に失敗が付きものだからなぁ。ある程度は織り込み済みでやんないといかんのよね。いったんリフトオフしちゃったらやり直しがきかないし、成功/失敗がはっきり出ちゃうからな。けどやっぱし失敗は落ち込むよな。望まない結果だもんな。関係者の皆様が負うリスクと緊張って、どこの国でも同じじゃないかと。

おいらはインドのロケットっつうと PSLV しか知らんかった。しかも名前だけ程度。今回の GSLV って、PSLV をベースに高性能化したものみたいだね。静止遷移軌道への打ち上げ能力で比べると、PSLV の 1.06トンに対して GSLV は 2.2トン。倍ですな。

大型ロケットとされる日本の H-IIA 標準型の静止遷移軌道打ち上げ能力は 4トン。これは大型の下の方で、増強型の H-IIB は8トン。このサイズで、世界シェア1位のヨーロッパのアリアン V と同じクラス。なんで、PSLV、GSLV とも中型ロケットの範疇に入りそう。

インドのロケットは PSLV の今までの結果が良かったから(月探査機を打ち上げたこともあるしな) GSLV で大型化に踏み切ったって感じだけど、なかなか手こずってるようですな。

記事だと「ロケット内の信号伝達に問題が発生し、補助ブースターが正常に作動しなかった」とあるけど、なんだかよく分からんなぁ。ブースターなんて打ち上げ直前から切り離し直前まで、ただ全開にしてりゃいいんじゃないのかねぇ。爆発に関わる異常が出るような信号とかそういうの、あるのか? ってそれは日本式の固体燃料ブースターの話だわ。

Wikipedia 記事によると、GSLV のブースターは液体燃料式。って UDMH(非対称ジメチルヒドラジン)+四酸化二窒素か。意外と単純な燃料だな。比推力も262秒。うーん、だったら固体燃料でいいような気もするが。インドでも実績あることだし。んで1段目が固体燃料なのか。ちょっと不思議な組み合わせ。ってなんかこの記事のデータ、怪しい気がする。

図を見ると普通どおり1段目の脇にブースターが取り付けてあるのに、有効燃焼時間はブースターが160秒で本体1段目が100秒と書いてある。

このデータを信じると、シークエンスは「100秒で1段目が燃焼終了、でも160秒までブースターが燃焼してるんで、その取り付け元の1段目は切り離さないでくっついたまま」となっちゃう。燃え殻をただぶら下げて飛ぶなんて、そんな効率の悪いシークエンスなんてあり得んだろ。なんだか謎だな。

燃焼時間100秒の固体燃料段って、H-IIA のブースター SRB-A がそうだったわ。こっちの推進剤質量は 65〜66トン。GSLV 1段目はその2倍の推進剤質量で、同じ秒数で燃やすのかい? なんか無茶なような。Wikipedia 記事は「200秒」か何かの間違いなんじゃないだろか。それに固体ロケットのノズルは基本、無冷却なんで、そんな大規模な噴射に耐えられるのかと。

で、今回はブースターが爆発。このブースター、4基がけでだいたい SRB-A の1基ぶん。中型ロケットだとちょうどいいくらいなのかな。けど液体燃料なのに比推力262秒は小さいなぁ。固体燃料の SRB-A でさえ280秒台なのに。つうか GSLV の1段目の出力ってほんとに 4700kN なのか!? これだけで H-IIA の離床推力とほぼ同じだぞ。ブースター付ける意味あるのか? と思ったら、総質量が402トンもあるんだな。H-IIA の4割増。これは重たい。大出力が必要なわけだわ。そこは相分かった。

そうか全長も H-IIA とほぼ同じなんだな。それでブースターがヒドラジン燃料で本体1段目が固体燃料だもん、固体燃料+(液体水素+液体酸素) の H-IIA よりズシッと来るわな。んー、H-IIA みたいな液体水素燃料のロケットって、燃費はいいけど出力が小さいから大出力なブースターにシェルパとして働いてもらわんといかんわけで、それってコスト的にツラいんじゃないかと思ってたよ。けど今日はちょっと考えを改めた。高性能で軽い燃料って、大型化の設計実現性が高まるんだな。全体的に無理しない設計で済むんだな。

んで GSLV、性能の割にでかくて重いロケットなんだな。けどブースター、推力の貢献が少ないのに4基もあるぶんだけ故障の確率が高くなるわけで(燃料がヒドラジン系なんで、その中でも単純な方だけど)。液体燃料だから部品点数が多いはずだし。設計のパランスが悪い感じだな。んで、今回はそのブースターのうち1基が不具合を出して失敗とのこと。「2倍の出力のブースターが2本」ってわけにはいかなかったんだろか。ロケットみたいな安全率がギリギリなメカは、仕組みが単純な方がいいはずなんだけど。

つか、失敗が立て込んでるから言うわけじゃないけど、GSLV って設計の筋があんまし良くないロケットのような気がする。燃料もヒドラジン(ブースターと2段目)に固体(1段目)に液体水素(3段目)と、なんか色とりどりすぎな感じだし。

つーか Wikipedia 情報がなんか心もとない感じで、それを頼りに考えてるんであやふやだけど。一応、英語版 Wikipedia でも確かめたけど、同じソースから書いてるみたいでブレはなかった。しかしブースターより1段目の方が燃焼時間が短いっての、どう考えてもおかしいよな。

銘板左端銘板銘板右端

80年代、H-IIA の前身の H-II ロケット開発の頃、1段目エンジンは中規模のを開発してクラスター(複数のエンジンをまとめるやり方。飛行機だと双発とかそういう感じ)にする案もあったけど、結局がんばって大型エンジン "LE-7" を開発、それを1基だけ取り付けることになった。技術のハードルを高めることになって、実際そのせいでデビューが2年遅れた。けど正解だったんじゃないかな。単純化という意味で。

双発の飛行機ならエンジンが1基だけ止まってもどうにか飛べる設計になってるけど、ロケットにはそんな余裕はない。1基だろうが2基以上のクラスターだろうが、どっちみち1基エンコすれば即失敗。そんなら部品点数が少ない方が確率的に失敗しにくいわけで。H-IIA は H-II の基本仕様をそのまま受け継いだんで、1段目エンジンは LE-7 を母体に新規開発した "LE-7A" で1基のまま。9月に準天頂衛星 みちびき を打ち上げた18号機まで、 LE-7A に不具合が出たことは1度もない。

去年初打ち上げした H-IIB の1段目エンジンは2基のクラスターだけど、それは LE-7A エンジンが H-IIA で今まで充分に実績を積んだから。そこまで確かめないと、やっぱしクラスターは怖いってことですかね。

けど面白いのは、その反対の考え方も、それでもアリらしいってとこ。

アメリカの民間企業スペース X 社が去年から運用してる ファルコン9 というロケット、名前の「9」はエンジンの数を表してる。上段も含めてじゃなく、1段目だけでエンジンが9個もついてる。H-II/H-IIA が選ばなかった道を選んだ。1基あたりの出力は LE-7A の半分くらい。9基まとめると、ブースターも足した H-IIA の離床推力とほぼ同じになる。打ち上げ能力も H-IIA と同じくらいで、おもっきしバッティングしてたりする。けど値段はファルコン9の方がずっと安いらしい。目標で30億円くらい(1ドル85円として)。H-IIA の3分の1ですがな。今の価格は分からんしまだ2機打ち上げただけだけど、2機とも成功してるのは事実。メカの信頼性が確保できればこその荒技ですな。H-IIA 製造元の三菱重工業も行方を注視してるはず。

ファルコン9の増強案って1段目を2本、ブースターとして横にくっつけた形なんだよね。エンジン数21個ってたぶん歴代最多だと思う。さすがにここまで行くと故障確率がばかにならない気がするんだけどどうなんだろ。

そういえばホリエモンが開発中のロケットエンジンも、ファルコン9と同じく低コスト・小出力・多数のクラスター方式らしい。てことはファルコン9と同じ発想。エンジン単体の開発コストは安くなるけど、独特の難しさはありそうだね。

銘板
2010.12.28 火曜
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GSLV その2

人様のつらいところをあげつらうのは行儀が悪いことと知りつつ、インドのロケット GSLV の爆発画像があまりにも美しかったんで、いくつかがめてしまった。

ePathram読売新聞ロイター時事通信

時系列順(と思われる順)に並べてみた。発信元はそれぞれ、ePathram(たぶんインドの報道サイト)、読売新聞、ロイター、時事通信、でございまする。

白くて太い煙は1段目の固体燃料かと。ロイターの写真だと、爆発後も航跡をねじくらせながらも、きちんと燃焼して飛んでる。固体燃料は燃え尽きるか胴体が破壊されるかまでは燃焼を止められないからな。

赤い煙は恐らく UDMH(非対称ジメチルヒドラジン)の酸化剤の四酸化二窒素ですな。黄色い煙は UDMH かな。無色だけど空気に触れると黄色っぽくなるらしい(資料)。

銘板
2010.12.29 水曜
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火星の MELOS

火星探査機 のぞみ のリベンジ計画があるらしい。1〜2年前は "PLANET-X" という、まぁ代々の PLANET シリーズですよというだけの、何番目になるかは不明のアバウトな構想だったらしい。けど今は "MELOS" という名前を与えられて、もう少し具体的になってきてるらしい。公式サイトはまだないみたいだけど、PDF 資料はあったよ。

んでこれ、のぞみ リベンジだとばっかり思っててさ、火星の衛星軌道から大気を観測するもんだとばっかり思っててさ、それは確かにそうなんだけど、どうも着陸機とセットみたいで。のぞみ というより NASA 華やかなりし70年代のバイキング計画の再現じゃないですか。

別にやってみたくてやってみるという技術系の意向だけじゃなく、着陸機での気象観測が必要な研究テーマがあるらしくて。はっきりとは分からんけど、火星の気象史の解明らしい。あの気温マイナス何十℃の赤い荒野の星は、かつて温暖だったことがあったとされてて、その様子を研究するためとか。そして、そこからいきなり地球外生命探査に飛躍しないところが NASA とは違うところw

見つけた資料の「はじめに」に概要が書いてある。

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はじめに

火星は過去に温暖で湿潤な気候があった惑星と考 えられている.温暖湿潤気候を維持するための一つの要因として,現在より厚い大気の存在による温室効果が考えられる.火星は過去にそのような厚い大気を持っていたのであろうか,そもそも,火星大気はどのように形成され,進化してきたのだろうか.

2010年代後半の打ち上げを計画している火星複合探査MELOS着陸機では,火星大気の化学組成・同位体組成の分析,表層岩石や表層ダストの元素・同位体分析を通して,火星大気の形成と進化を明らかにすることをめざす.

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日本の惑星科学はなぜか、気象学に尋常じゃないこだわり見せる。のぞみ も あかつき も MELOS も、気象研究に焦点を絞った探査機ですな。

その熱意にもかかわらず、今のとこ火星・金星どっちも観測ができてないけどさ。代わりに はやぶさ で小惑星、かぐや で月という、大気のない星の探査ばかり大成功な皮肉 orz

んで MELOS が解明したいのは火星の温暖期だけでなく、あの星の大気がどうやってできたのか、ってことですな。

のぞみ でやりたかったことのひとつに、かつてソビエトの探査機フォボスが送ってきた謎の現象の解明があった。どうも火星大気からは、大量の酸素が宇宙空間に逃げ出してるらしい。このペースだと、たった1億年(惑星の歴史からするとそんな長い時間じゃない)で火星大気の酸素が全部入れ替わってしまうほどらしい。

火星ってけっこう劇的に気候が変わっていく星なのかもね。大気がある惑星としては一番小さいのが原因かな(土星の衛星タイタンはもっと小さいのに、火星より濃密な大気があるけどさ。火星の場合はタイタンより太陽に近いのが気候激変の理由なのかな)。

んで、よその惑星の気象の仕組みが分かると、地球と比較できる。地球の気象を客観視できて、もっと分かるようになる。あるいは地球を基準に火星の大気を評価できる。金星のデータもあるともっとよく分かるんで、あかつき にがんばってほしいところ。

MELOS は火星への再チャレンジだし、あかつき の教訓も活かされるはずなんで、軌道周回機は行けそうな気がする。問題は着陸機ですな。今まで日本がやったことがある他天体への着陸の経験っつうと、はやぶさ で小惑星イトカワに降りたことだけ。まともに重力がある大きな天体じゃ未経験(同じく はやぶさ の再突入カプセルが地球への大気圏突入と着陸に成功したけど、ここではその例は除外)。月は かぐや 後継機が軟着陸を狙ってるけど、火星には大気まである。表面重力も月の2.3倍。イトカワの場合とも月の場合ともかなり違う。

なんつーか「また無茶をされますか」という印象が強くて(汗)。ISAS はスズメの涙の予算で世界一線級の成果を挙げなきゃなんないんだもんな。国家が進める科学研究は1番以外にほとんど意味ないからな。そのぶん無茶しなきゃなんないわけで。それだけでなんだか泣けてくるよ。いろんな意味で。

しかし2010年代後半っつうと、あかつき の再挑戦が2016年、ヨーロッパと共同の水星探査機ベピ・コロンボが2018年頃、はやぶさ2 も2014〜2020年を計画してる。IKAROS もまだ飛んでるかも。かぐや後継機もこのあたりに来そう。全部いっぺんに面倒見られるのか、そこがちょっと嬉しいような怖いような (^_^;) ISAS が持ってる深宇宙通信用アンテナ、今のとこ2枚しかないんですが。しかも大きい方は1980年代の建設で老朽化してきてるしな。

銘板
2010.12.30 木曜
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微粒子祭り パート3

ちょっと遅れたけど、3たびの はやぶさ 微粒子祭りだす。提灯行列を作ってると、どこの新聞社が一番熱心かがよく分かるわ。つうか YAHOO! ニュースを見てるんだけど、朝日新聞がないことに気付いた。提携してないのかな。朝日の公式サイトで検索したら、はやぶさ のニュースちゃんと出してるんだけど。てことで今回は朝日も込みで。

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はやぶさカプセル「別室」を開封 微粒子存在に期待

産経新聞 12月13日(月)19時19分配信

宇宙航空研究開発機構は13日、今年6月に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」のカプセル内にある試料保管容器の小部屋のうち、未開封だった「B室」を開けたと発表した。

肉眼では何も確認できなかったが、小惑星「イトカワ」の物質が見つかった「A室」と同様、無数の微粒子が存在する可能性がある。B室は平成17年、1回目のイトカワ着陸で使用した。

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来月、初期分析へ=イトカワ砂、新たに30粒か―はやぶさカプセル・宇宙機構

時事通信社 2010年12月27日20時6分

宇宙航空研究開発機構は27日、探査機はやぶさのカプセル内から、小惑星イトカワのものとみられる砂粒が新たに約30個見つかったと発表した。来年1月下旬にも国内の研究機関に配布し、構成元素などを詳しく調べる「初期分析」を行う。

カプセルには2区画の空間があるが、宇宙機構はイトカワの砂粒約1500個が見つかったA室を逆さにして、数百個の微粒子を採取。これらの一部を分析した結果、約30個をイトカワの砂粒とほぼ断定した。

初期分析は国内の大学などが行い、来年夏ごろ終了する見通し。その後、公募した国内外の研究機関に送り、さらに詳細な分析に入る。

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はやぶさ、大きめの粒子100個 カプセル「別室」に

朝日新聞 2010年12月27日22時20分

探査機「はやぶさ」が持ち帰ったカプセルの「別室」から、新たに約100個の大きめの粒子が見つかった。宇宙航空研究開発機構が27日発表した。また、初めに開けた部屋で見つかった数百個のうち、30個ほどは小惑星「イトカワ」のものの可能性が高いことも分かった。来年1月下旬からこの30個を国内の数機関に配り、分析を始める。

宇宙機構によると、新たに見つかった粒子は0.1〜0.01ミリの大きさ。別室は一見空っぽに見えたが、裏返して、たたくと落ちてきたという。顕微鏡の観察では「半分くらいが岩石に見える」という。はやぶさはイトカワに2度着陸し、別室は着陸時間がより長かったため、大きな粒子があると期待されていた。

宇宙機構の向井利典技術参与は「もっとたくさんあるかと思っていたが、ちょっと残念」と話した。

国内の研究機関による分析は夏ごろまでの見込みだ。その後、微粒子の分析を希望する機関を世界に公募する。(東山正宜)

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はやぶさ、新たに微粒子100個

読売新聞 12月27日(月)21時40分配信

宇宙航空研究開発機構は27日、小惑星探査機「はやぶさ」の試料容器のうち、新たに開封した方の小部屋からも微粒子約100個が見つかったと発表した。

肉眼で見えるほど大きな粒子はなかったが、逆さにした試料容器を、専用器具でたたいて軽い衝撃を加えたところ、0・01〜0・1ミリ程度の粒子が出てきた。

容器は円筒形で、A、Bの2室に分かれている。まずA室を開封し、イトカワの微粒子約1500個が先月、確認された。B室も今月、開封。イトカワへの2度の着陸のうち、時間の長かった1度目に開いていたのがB室で、A室より多くの試料が期待されていた。

宇宙機構は詳細な分析のため、1月下旬から全国の研究機関や大学に微粒子を配布する予定。今夏には海外からも公募を始める。

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<はやぶさ>イトカワ由来可能性高い粒子、来年1月から分析開始 炭素も?

毎日新聞 12月28日(火)14時39分配信

小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルから見つかった微粒子について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は27日、小惑星「イトカワ」の砂の可能性が高い大きめの粒子数十粒を、他の研究機関で詳しく分析する作業を来年1月下旬にも始めると発表した。事前の分析では炭素を含む可能性があることも判明。生命の起源にかかわる有機物発見への期待も高まりそうだ。

微粒子は現在、相模原市のJAXA宇宙科学研究所内の密閉実験室で回収作業中。既に採取した微粒子約1500粒はイトカワ由来と断定したが、いずれも小さすぎて取り扱いが難航していた。

11月半ば、カプセル内の容器を逆さにしてたたくと、直径が微粒子の約10倍にあたる0・1ミリ(最大)の粒子数百個が新たに出てきた。そのうち40個を調べたところ、30個はイトカワ由来の可能性が高い岩石質と推定された。JAXAは、「初期分析」と呼ばれるより詳しい分析に着手できると判断した。初期分析は来年夏までの予定で、国内数カ所の研究機関が担当する。特殊なナイフで粒子を数十枚の輪切りにしたり、X線で微粒子の内部構造まで調べる。宇宙空間に長くさらされることで生じる「宇宙風化」などを観察し、太陽系の歴史につながる発見も期待できるという。【山田大輔】

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トリにした毎日新聞の気合いの入れようが尋常じゃないっす。最近、はやぶさ でも あかつき でも、署名にある山田大輔記者がすげーがんばってくれてる。JAXA 番記者なのかな。記事のツボどころも、マスコミ報道の中で一番押さえてると思う。まぁ朝日の向井コメントはグッジョブだけどさw 向井先生、当事者と外野のみんなの素直な気持ちを代弁してくれてほんとにもう!

今回の目玉は、毎日の山田記者の報告にある通り、炭素を含む可能性ですな。これが新しい要素。実はこの可能性というか希望というかは、11月16日の微粒子がイトカワ由来だったと発表したとき、会見で研究者が既にコメントしてた。はやぶさ の2005年のイトカワ実地調査の結果、地球に絶えず降り注いでる隕石の多くが小惑星由来だったことが確定した。ということは、小惑星同士でも隕石のやり取りがあるはず。イトカワは岩石質の S 型小惑星。ここに、炭素を多く含む C 型小惑星からの隕石も混じっているんじゃないのか、という予測を立ててた。

C 型は数の上じゃ最多。で、はやぶさ2 が狙ってる小惑星がこの C 型。S 型はありふれたタイプだけど、もっとありふれた C 型も調べることで、小惑星の研究は大いに進むはず。しかも C 型が含む炭素ってのは、もしかしたらアミノ酸のことなのかもしんない。あるいはアミノ酸の原料とか。となると、地球生命誕生の謎に迫れる。

<受け売り>地球生命の誕生については、地球の海での化学反応でアミノ酸が生成されたっつう内部起因説と、アミノ酸は宇宙空間で超新星爆発の影響で生まれて、彗星や小惑星に乗って地球に降り注いだっつう外部起因説とがある。20年くらい前までは内部起因説が有力だったんだけど、ある種のアミノ酸の型は「右手型」と「左手型」の2種類あって、生化学反応にはどっちでもいいはずなのに、生物の体内じゃ必ず左手型だけが作られるっつうことが発見された。この不自然な偏りがどこから来たのかを説明するのに、外部起因説の方が辻褄が合ってるっぽい</受け売り>、というのが最近の雰囲気(詳細)。まだ決定的な証拠が出てないみたいだけど、小惑星からアミノ酸が見つかった場合、それがすべて左手型だった場合、論争の行方は外部起因説に大きく傾くわけ。もしかして決め手になるかもしんない。

小惑星同士が隕石を常に交換してる場合、S 型小惑星の上に C 型の微粒子が降り積もっててもおかしくない。小惑星には大気がない。ぶつかるときに断熱圧縮で燃え上がったりしない。引力も小さいんで、ぶつかる速度が比較的小さいことになって、衝撃や熱による変成も少ないはず。今回の発表は、それが希望的仮説からもうちょっと進んだ現実的な仮説に変わった、ということ。研究者の間じゃきっと前々からその可能性は言われてたんだろうけど、おいらは11月16日の記者会見で初めて聞いた。そしてそれが現実になりかけてる。本当にそうなのかどうかは分析を待たないといかんけど、はやぶさ、まだまだワクワクさせてくれますなぁ。

C 型小惑星の探査は はやぶさ2 がやる予定だけど、今回、炭素なりアミノ酸なりが見つかったとしても、はやぶさ2 の価値が減ることはないよ。イトカワのサンプルに炭素があったとしても、それは「C 型小惑星のどれかから来たと思われる」にとどまるから。C 型の現物から持ってきたサンプルに炭素やアミノ酸があって初めて「動かぬ証拠」になるんで。由来がはっきりとしたサンプルというやつですな。むしろ、はやぶさ2 の開発や実地調査方法にヒントを与えることになると思う。で、はやぶさ2 の本番じゃより詳細に、ツボを得た調査・観測ができるというもの。

2号機の現地滞在のスケジュールは1号機より余裕があると見られてるけど、実際はやってみないと分からんからね。1号機のときより機体運用に関しても小惑星科学も、経験と知識が豊富になってるから、得られたデータをすぐにフィードバックして追加調査なんてのもしたくなるだろうし。

そう考えると、行って帰ってくる はやぶさ シリーズって研究者にとっては痛し痒しなのかもね。実地調査した星のサンプルは早く手元に欲しい。けどいつまでもこの場で観測・研究もしていたい、と。長期観測なら片道の探査機の方が断然有利だからね。

機体が半分ずつに分離して、ひとつは現地にとどまって長期観測、もうひとつはカプセルを携えて地球に帰る、なんて都合のいい風にはいかないもんかなぁ (^_^;)> ってはじめから2機体制ならいいんじゃん。日欧共同の水星探査機ベピ・コロンボって2機ひとまとめで水星まで行って、そこで分離してそれぞれ専門の観測をするんだわ。はやぶさ2 も構想段階じゃ2機で1セットってのもあったし(ひとつは はやぶさ とだいたい同じもの。もうひとつは小惑星に大砲を撃ち込む専用機。打ち上げ直後からばらけて、それぞれ自力で現地に行くことになってた)。できないことはないなぁ。

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2010.12.31 金曜
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今年も残すところ……

本年中も、読者の皆様には大変お世話になりました。

この1年いっぱい、なんか書く気が起きなかった時期が長かったりして、最大2カ月くらい遅れたりもしたりして。けど最近になって爆速で進めに進め、ついに間に合いましたですよ。かなりやっつけでいい加減だったり、ていうか結局宇宙機ネタでドバーッと押し切ってしまったけど。だってしょうがないじゃん はやぶさ が帰ってきたんだもん(開き直り)。

今、2010年12月31日の午後9時。はーこれで年を越せる(感無量)。

では皆様、来年もご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

よいお年を! (^o^)/

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