ひとりごちるゆんず 2011年1月
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2011.1.1 土曜
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謹賀新年

読者の皆様、あけましておめでとうございますー。ことしもひとつよろしくおたのもうすー。

てことでってわけでもなく、チトあてになんない今冬の気象予報でもしようかと。いやいや、「あてになんないならやるな」とか言わんで(汗)。

去年の2月、八戸は記録的な大雪に見舞われて、それはそれは大変なもんじゃった。けど今年は世界中がそうなるような気がするよ。すでにニューヨークの積雪がひどいことになってるとか。

てのも去年、しばらくの間、アイスランドの噴火が続いてたじゃないの。ピーク時にはヨーロッパの飛行機が全便欠航になったり。現地の船や鉄道や長距離バス、これ幸いと稼いだんだろうなぁ。

そして12月21日に皆既月食があったじゃないの。あのとき、国立天文台の特設サイトじゃ、今回は噴火で巻き上げられた大量の火山性微粒子のせいで、いつもより月が赤黒く見えるはず、との予測を立ててた。実際にいつもよりどのくらい赤黒かったのか、月食を見たけどよく分からんかったw けどまぁそんな予測が立つほど、恐らく今もあの火山噴火の微粒子は世界中の高空に大量に漂ってるんじゃないかと。

雪の結晶というのもどうも、そういう微粒子を核にして形成されるらしい。てことで大気中に微粒子がいっぱいあると、それだけ雪ができやすいんじゃないかと。てなわけで、今冬は世界的に大雪なんじゃないかなーと。

「世界的に」とは言っても、今冬なのは北半球だけ。南半球の冬といえば、去年の6〜8月だよね。どうだったんだろ。けどその時期はちょうど火山が噴火してた頃。アイスランドは北極圏近くの国。そんな短期間で南半球まで火山性微粒子が行けたかどうかも謎。

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2011.1.2 日曜
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ニセ小惑星 はやぶさ

「はやぶさ最後のミッション」というとラストショットが有名だけど、実はその前から決まってた最後のミッションがあった。それは「小惑星の地球衝突シミュレーション」。1980年代後半以降、恐竜が絶滅した理由として、「小惑星が地球に衝突して気候が激変した」説が最有力となった。さらに1994年、木星にシューメーカー・レヴィ第9彗星が衝突。「地球に小惑星が落ちると人類が滅ぶ恐れがある。そして実際に起こり得る」として、以来この研究が世界的に活発になった。

ところが、惑星間空間から物体が地球に落ちてくるシミュレーションっていくら精密に作り込んだとしても、実際の現象の観測と比較しないと精度がどのくらいなのかはっきりしない。そこで はやぶさ を小惑星に見立てて地球衝突までの挙動を観測して、このシミュレーションの精度向上に役立てよう、となった。

これが公表されたのは帰還のちょうど1年前、2009年6月。はやぶさ がそのために特別に何をするってわけじゃなかったけど、これで はやぶさ 本体の大気圏再突入が確実になった。それまでは「不具合を多く抱えた機体で精度よくカプセルを誘導するには、できるだけ地球に近づいてから放出しないといけない。そうなると本体も再突入する公算が高い」という感じで、必ずしも再突入すると決まったわけじゃなかった。けどこれで運命が決まってしまった。

このときの記事をとっといてたよ。再掲。

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「はやぶさ」が“最後のご奉公”、惑星衝突予測に活用へ

来年6月に帰還予定の小惑星探査機「はやぶさ」が、地球に衝突する恐れがある小惑星の軌道予測システムの開発に役立てられることになった。

ほぼ確実に地球を“直撃”するため予測精度を詳細にチェックできるからだ。はやぶさは数々のトラブルに見舞われながらも故郷を目指して飛行中で、9日には打ち上げから丸6年を迎える。システム開発に取り組む宇宙航空研究開発機構は「地球の安全に貢献するためにも無事帰還を」と、新たな役割に期待を込める。

地球に接近しそうな小惑星の観測は各国で行われているが、国内には観測データの解析設備はなかった。宇宙機構の吉川真准教授らは独自の装置開発に乗り出し、今年3月、衝突の軌道や時間、確率を計算するシステムを試作した。

アフリカ・スーダン上空に昨年10月に飛来した直径約3メートルの小惑星をモデルにシステムをテストし、大気圏への突入時刻・位置を誤差0・5秒、13キロで予測。今後、精度の検証と向上を図るため、順調に飛行すれば宇宙で唯一の「衝突確率100%」の物体になる、はやぶさ(太陽パネルを広げた長さ約5メートル)に着目した。

はやぶさは小惑星「イトカワ」の土を採取して持ち帰るため、2003年に打ち上げられた。20億キロ旅してイトカワに着陸したが、燃料漏れや姿勢制御装置の故障が相次ぎ、一時は帰還が絶望視された。その後、どうにか持ち直して地球へ向かう軌道を飛んでいる。来年6月、土が入っている可能性のある耐熱カプセルを放出し、本体は大気圏で燃える見込みだ。

吉川准教授は「元々はこんな活用法は想定していなかった。トラブルによる機体の損傷が激しいため心配だが、きっと戻ってきて最後まで役立ってくれるだろう」と話している。

(2009年5月5日13時08分 読売新聞)

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この頃はまだ、はやぶさ は空に在ったんだな(しみじみ)。2010年6月13日の運命が公表されたばかりだったんだな(正確な帰還日は寸前まで非公表だったけど)。で、はやぶさ はそうなるべく生き続けて、見事それを果たしたんだな。この記事、古株の はやぶさ ファンにとっては感慨深い節目のひとつだと思う。けどまだ予断を許さない状況。おいらとしては当時、感慨もそうだけど、無事に地球にたどり着いて本当にこうなる日が来るのか、それを考えるとやっぱし心配になったよ。こう決まったからにはそれを完遂してほしい。でもそれはあんまりな最後に思える。でもそもそも、もう致命的トラブルは起きないなんて保証はない。

「B エンジン停止で地球帰還が絶望」で打ちのめされ、「エンジンのまだ使える部品同士をつなぎ合わせた」で狂喜するのは、この半年後。あの最後のトラブルと解決以後、はやぶさ は日増しに世間の人気を集めていった。

はやぶさ の帰還の時期が3年延期で2010年に決まってからこの当時まで、世の中がまさかこんなにまで はやぶさ に注目してくれるなんてまったく考えてなかったな。ちょうどサッカーワールドカップの開催時期。みんなサッカーに夢中で南アフリカばかり気にしてるさなか、はやぶさ はマニアックなファンだけに見守られて、ひっそりとオーストラリアに帰ってくるもんだと思ってた。誰も振り向いてくれないもんだとばっかり。

サムライブルーの戦士たち、南アフリカで素晴らしい大活躍だったね。事実その話題は、あの頃 はやぶさ を超えてたと思う。で、サッカーの話題は大会閉幕からも、いつものスポーツイベントより長く続いてから、少しずつほかの新しい話題へと入れ替わっていった。

けど同時期に現れた、世間の話題としての はやぶさ の方はもうちょっと違った。地球への帰還の後も、カプセルの全国巡回展示に長蛇の列だのサンプル採取は成功したのかなんて、長いことニュースとして扱われ続けてる。しかし『ミヤネ屋』でも特集したのには笑ったよw 宮根さん「こんなの私には分かりません」と文句言ってたww ワイドショーでさえ取り上げなきゃなんないほどのでっかい話題になったとは。

ほんと、先の話は分からんもんですなぁ。

んで、はやぶさ のもうひとつのニュースソースとして、「小惑星の地球衝突シミュレーション」がまだ残ってると思ってさ。再突入以降この話を聞かないんだけど、進み具合はどうなってるのかな。今までに何か成果があったなら、今のうちに出せばニュースとして扱ってくれると思うんだけど。

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2011.1.3 月曜
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「だから、はやぶさ、ゆっくりおやすみ。」

毎日新聞の宇宙機記事がアツい。専用の番記者が付いてるらしい。

記事の最後の署名ではよく、山田大輔記者のお名前を拝見するけど、もうお一方、このジャンルに身を投じておられる記者さんがいらっしゃるらしい。それが永山悦子記者。6月13日、オーストラリアのウーメラ砂漠に派遣されて、はやぶさ の最期の輝きをその目に焼き付けたお方。その永山記者が、巷の「はやぶさ現象」を考察したコラムを書かれてる。申し訳ありませんが引用って方便で、どうか転載をお許しくださいませ。読者の皆様におかれましては、リンク先の元記事でちゃんと広告をクリックしてくださいねw

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記者の目:「はやぶさ現象」を振り返る=永山悦子

6月13日、ぐるっと360度、地平線まで無数の星に埋め尽くされた夜空が広がる冬のオーストラリアの砂漠に、私はいた。そこへ7年間60億キロの旅を終えた小惑星探査機「はやぶさ」が帰ってきた。探査機本体はバラバラになりながら、満月よりも明るく燃え上がり、その中から「子供」のようにカプセルの光が飛び出した。手がかじかむほどの寒さも忘れた、はやぶさの見事なフィナーレ。今思い出しても胸が熱くなる。

はやぶさには、地球帰還前後から想像を超える世間の関心が集まった。これまでの宇宙のニュースとは違う「はやぶさ現象」が起きた。私は、この現象の謎を解くことが、混迷する日本の針路を開く一つのカギになると考える。

はやぶさは127億円で開発され、人類初の小惑星からの岩石採取に挑み、小惑星イトカワの物質を持ち帰ることに成功した。持ち帰った物質は太陽系の歴史を解明する手がかりになると期待され、宇宙開発史に名前を刻む偉業だ。さらに、はやぶさは「数々のトラブルをけなげに乗り越えた不死鳥のような粘り強さ」「動画サイトや宇宙航空研究開発機構(JAXA)ホームページでの擬人化」「ツイッターによるリアルタイムの情報発信」など、幅広い関心を集める要素が多かった。

◇見学に20万人、映画化の話も

だが、これらだけでは、はやぶさのカプセルの全国公開に計20万人以上が押しかけ、国内外から映画化の話が舞い込み、主に文化活動を表彰する菊池寛賞など宇宙開発とは縁遠い賞が次々贈られる−−などの現象を説明できない。

05年に、はやぶさがイトカワに着陸する様子を伝えたJAXAのブログに携わった寺薗淳也・会津大助教は「はやぶさは、日本の閉塞(へいそく)感を打破した。先が見通せない危機的な状況を、チームワークで乗り越えた姿は人々を勇気づけ、『やればできる』『やらなければいけない』という思いを植えつけた」と分析する。

実際、自分の人生と、はやぶさの旅を重ね合わせた人たちは多い。プラネタリウム向けのはやぶさの映画を製作した上坂浩光監督は「心臓病の人から『人生を投げ出したくなったときに映画を見て気持ちが変わった』と手紙をもらった。はやぶさがやったことの重みを感じた」と話す。

私は「記者の目」欄で過去2回、はやぶさを取り上げ、「事業仕分け」に代表される科学技術に確実な成果を求める風潮に疑問を呈し、未知の領域に挑戦する研究を許容する懐の深さを求めた。だが、今回の現象を見ると、はやぶさの影響は、宇宙開発や科学技術にとどまらない。直接持ち帰った土産は、肉眼では見えない微粒子だが、人々の人生観や価値観という心の琴線に触れる効果をもたらした。

◇頑張ればできる、国民の自信に 

国内外の宇宙探査に詳しい的川泰宣・JAXA名誉教授は「多くの人は、日本は安全保障でも経済でも、自分の足だけでは立てない国、と思っていた。ところが、はやぶさは、ほぼ日本の力だけで成功した。日本はもっといい国になれる、頑張れば世界一流のことができる、と思うきっかけになった」と話す。

私たちは今、自分の国やふるさとについて考える機会があまりない。逆に、先行き不透明な日本のことなど考えようもない、と感じているかもしれない。そんなとき、はやぶさは私たちが暮らす国を見つめ直し、考えるスイッチを入れた。

冷静に振り返ると、はやぶさの評価が今のように定まったのは、帰還前後のこと。仮に帰還できなくても、小惑星への着陸・離陸など人類初の成果を上げていたが、はやぶさ後継機は事業仕分けで予算を削られそうになり、担当閣僚は「(帰還まで)踊り場に置いておいた」と説明した。

はやぶさプロジェクトを率いた川口淳一郎JAXA教授は「これまでの宇宙探査は『役に立たないこと』の代名詞だった。だから、政治家や役人は、この盛り上がりに『あれ?』と感じたのではないか」と指摘する。そして、こう続けた。「はやぶさは『国民は本当に役に立つものだけを欲しているのか』という問いを投げかけた。『国民が欲しているのは、国の明るい展望ではないか』と」

人々は、自分や国の未来を前向きに考える共通の基盤を探しているのだ。政府は今後、「国民が本当に欲していること」を見極め、予算配分や日本の針路を考えることが必要だ。はやぶさ現象を一過性のブームで終わらせないため、科学に限らぬ広い分野から「第二のはやぶさ」が生まれることを願いたい。だから、はやぶさ、ゆっくりおやすみ。(東京科学環境部)

毎日新聞 2010年12月21日 0時23分

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「はやぶさの見事なフィナーレ。今思い出しても胸が熱くなる」ってあんた、読んでる最中においらの方が胸が熱くなっちまっただよ。んで〆の「だから、はやぶさ、ゆっくりおやすみ。」で完全にやられた。永山さん、自分だけずるいじゃないか。それってみんなが言いたいことなんだぞ。

「あいつの演説は俺が考えていたことを言ったんだ」と聴衆に評されることは、演説する人にとって最高の栄誉らしい。永山記者、スゴ腕の物書きなんじゃないかと。まあこの〆で、筆者が はやぶさ について全然客観的じゃないってことも分かっちゃうわけだけど、主題である はやぶさ現象 について客観的であれば、はやぶさ について客観的じゃなくても大丈夫って理屈は成り立つかな (^_^;)

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2011.1.4 火曜
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ハイブリッド太陽電池

探査機や衛星の発電効率を上げる方法をちょっと思いついたよ。たぶん ISAS の中の人やメーカーさんはとっくに検討済みだと思う。で、実用化されてないってからには、実用化に際して何か問題があるのかも。

熱発電ですな。小規模機器での熱発電といえば熱電対。またの名をペルチェ素子。これもう探査機に実用化されてるんだよね。原子力電池として。プルトニウムの塊から出る崩壊熱が、差し込まれた熱電対で電力になって、探査機を稼働させる。有名どころだとボイジャー1号と2号とか。

木星とかそれより遠いところに行く探査機機には、今のとこ必須の電源になってる。将来、日本が はやぶさ と IKAROS の技術を組み合わせたソーラー電力セイルで木星探査機を打ち上げるときは、大容量の薄膜太陽電池を積んで行くんで、ついに木星までは放射性物質フリーの探査ルートが確立される見通し。ああでも今年打ち上げ予定の NASA の木星探査機ジュノーにはでっかい太陽電池が3枚も付いてるんで、もしかしたらそっちのが先なのかもなぁ。

んでさ、探査機ってサイズも質量も限りがあるわけ。できるだけそこを抑えつつ、最大限のパフォーマンスを発揮させるために、カネに(ある程度は)糸目を付けないよという感じ。てことで太陽光で発電する太陽電池パネルも、できるだけ小さい方がいい。てことで あかつき は地球よりも太陽に近い金星に行くからってんで、太陽電池パネルはかなり小さい。

これをもっと小さくするには、太陽エネルギーをもっと無駄なく電力に変換できればいいってわけ。太陽電池は主に可視光を扱う。もしかしたら紫外線の領域にまで行ってるかもしんない。けど太陽エネルギーの約6割は、どうも熱エネルギーらしい。赤外線ですな。これをどうにか使えないかってことで今回考えたのが、熱電対での発電。けど単に熱くすればいいってわけでもない。温度差が必要なんですよ。素子の端のひとつを熱い場所に、もうひとつの端を冷たい場所に置くと、温度差で発電ができるんですな(おいらあんましよくわかってないけど)。

宇宙じゃ太陽熱が当たってるところと当たってないところの温度差が激しい。地球の公転軌道近くの宇宙空間の場合、この温度差が 250℃ くらいになったりする。金星や水星の公転軌道だったらもっと激しいだろうなぁ、と。で、太陽電池の裏側に熱電対をいくつも仕込むと、太陽光発電とはエネルギーや設置場所の取り合いにはならずに、太陽熱発電も並立できるんじゃないかと。

問題はたぶん、質量とコストと信頼性が実用にまで及んでないってことかな。これやると間違いなく発電や電力の安定供給管理の仕組みが複雑になって、部品点数も増えるんで。けどまぁ同じ仕組みは原子力電池で使ってるからねぇ。どうにかなりそうなもんだけど。

てことは、それで拾う電力量が割に合わないってことなのかな。結局よく分からんけどさ。

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そそ、これっていいことがもうひとつあるんだけどな。

太陽電池って温度が上がると発電効率が落ちるんだそうで。けどこの太陽熱発電装置を太陽電池パネルの裏側に貼ると、その場所は冷えるはずなんだわ。吸い取った熱のぶんが電力になるっつうカラクリで。普通の太陽光発電をするかたわらで太陽熱でも発電できて、冷えるぶん太陽光発電の方も多めに電力を作れるんだから、一石二鳥だと思うんですがねぇ。

もしかしてもうとっくにやってるのなら、それはそれでおいらの考え方が正しいことになって嬉しいわけで。

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2011.1.5 水曜
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面白いぞ飛行機 1

中学の折、ちょっとひねりの効いた言葉で生徒をからかう先生がいてさ。

それがまぁおもしろかったからそれはそれでよしなんだけど、おいらが言われたわけじゃないんだけど、教育者の態度としてはちょっとどうかなって気が今になってしてて。ていうか当時漠然と感じてたことが、ようやく言葉にできるくらいはっきりしてきたというか。

「お前、そんなに飛行機が面白いのか」

授業中ぼーっと窓の外を見てる生徒に、先生はこう言ってたんですな。言われた生徒たちが本当に飛行機を見てたのか定かじゃないけど、こうなるとクラスじゅう爆笑で、その生徒も照れ笑いして、それで場が収まる、て感じ。

……、

……、

……。

でもさ、

……、

……、

……。

飛行機、面白いぞ。

航空力学って面白いぞ。

またこの先生の授業がつまんなくてさ(どの先生だか忘れたけど、つまんなかったのは覚えてる)、それよりだったらおいら的には、飛行機の方が断然面白かったと思うんだが。

けど「先生の授業よりずっと面白い」なんて口走った日にゃ何されてたんだか(当時は体罰オッケーだった)。

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そういや八戸の真上の空って民間旅客機の航路になってるみたいで、けっこう頻繁に飛行機が飛んでるなぁ。北海道 - 東京便かな。ふと空を見上げると、南北方向に飛行機雲が何本か並んでたり。

飛行機雲

この写真じゃ4本(左側のは2本重なってる)。

飛行機ってハイテクの産物のはずなのに、高い高い空をキラキラ輝きながら飛行機雲をじゅくじゅく出しながら飛んでる姿って、なぜかノスタルジーを感じさせるなぁ。こりゃ授業が退屈だと見入ってしまうわw

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2011.1.6 木曜
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面白いぞ飛行機 2

子供の頃、空を見上げたら飛行機が飛んでたんですよ。小学校に入る前だか入ってからだか。それでさ、じーっと見て、ジェットエンジンが3基ついてるのが分かったんですよ。あれがいわゆるひとつの、ま、このー、田中角栄とピーナツで有名なロッキードのトライスターとかいう旅客機だろうか。

ロッキード トライスター

真下からだと後ろのエンジンが見えなかったろうから、ちょっと斜めの角度から見たのかな。それとも飛行機雲が3本見えたのかな(なにぶん古い話で記憶が曖昧)。

で、そのとき分かったことがあったのよ。なんのことはないといえばなんのことはない、『飛行機って翼があるから飛べるんだなぁ。クルマにも船にも翼はないもんなぁ。だから連中は飛べないんだなぁ』と。てな感じでいたく感心したんだわ。後年、友達にその感慨を語ったら「あたりめーだろ」と鼻で嗤われた orz

確かに当たり前なんだけどさ、そのときの変テコな感覚、今の今でもはっきり覚えてて。

もしかしてセンス・オブ・ワンダーってやつなのかな。

目で見て自分で考えて、初めて得た実感というか。世の中の見え方をガラッと変えてくれたちょっとの出来事というか。つか、飛行機って翼というあんな大げさなものをわざわざ付けないと飛べないってのが、なんだかちょっとおかしくてさ。

まーそれをそのとき自分でも「あたりめーだろ」と流してしまってたら、おいらは飛行機好きになんなかったかも。ひいてはロケット好きにもなんなかったかも。ひいては はやぶさ に関するもろもろを無視しまくってたかも。そう考えるとちょっと怖いなこりゃw

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あれから相当経つのに、飛行機っていまだに同じ原理で飛んでるよね。飛ぶ乗り物としてはほかにも、気球も飛行船もヘリコプターもジャイロコプターもロケットもあるけど、あの頃もう全部出揃ってたんだね。それから全然新しいのが生まれてない。21世紀なんだし、バルーンからも翼からも解放されて、まったく違う原理で UFO みたいに完全に自由に飛べる乗り物ができてもおかしくない気もするんだけどな。

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2011.1.7 金曜
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面白いぞ飛行機 3

飛行機好きになったののもうひとつは、小学校から中学校まで、ライトプレーンと呼ばれる模型飛行機にハマったってのもあったわ。↓こんなやつ。

ライトプレーン

楽天市場のコチラの写真を使わせていただきましたですよ。

そうそう、当時から「オリンピック」って名前のやつあったわ。変わってないなぁ。カテゴリが「A 級」「B 級」とかあったみたいで、競技会とか昔からあったのかもしんない。聞いたことないけどw てか名前から、オリンピックの種目で模型飛行機を飛ばすのがあるもんだと思ってたww

こうゆーの近所の子供たちで一緒に作って飛ばしたりしてたんだけど、んーみんななんでそこから飛行機にハマらなかったんだろ。おいら子供向けの飛行機の本と照らし合わせて、翼断面がどーたらとか重心がこーたらとか復元力がうんたらとか、動力飛行中はプロペラの反トルクで旋回するけど、滑空になるとまっすぐ飛ぶからいいんだなんてかなりマニアックにハマってたんだけど、気がつけばそんなことしてたのおいら一人だけだった orz

ライトプレーンってさ、飛ぶ姿がとにかくかっこいいのよ。いやまぁ滑空は紙飛行機と同じ類いのカッコよさだけど、動力飛行中がまたたまんなくて。そしてそこから滑空、というのがイイんですよ(←語りだしたよ)。

そんな中で最もシビレルのは、やはり離陸でしょうな。

脚がピアノ線で、車輪はプラスチックの円盤。洋服のボタンがちょっと大きく薄くなった感じ。てことで、滑走中は振動してチリチリと音を立てるんですよ。それが浮き上がった瞬間、無音になるんですよ。まぁプロペラの音はずっと聞こえてるけどさ(摩擦を減らすために軸にビーズを1個通してあって、それが鳴る)。

機体が空気より軽くなる瞬間、その違いが明確に分かるんですよ。これはときめきましたなぁ。

離陸でもうひとつわかったこと。

手で投げる方がよっぽど効率がイイってこと。カタパルトだね。地上から、速度ゼロから離陸速度まで機体が自力で持っていって離陸するのに比べると、手で投げ出してやった方が到達高度も距離もずいぶん長くなる。手で投げるってことは、既にそれだけ高度を稼いでるってことでもあるわけで。さらに投げ出す速度も速くすれば、それがけっこうダイレクトに結果に結びつく。

てことで地面から自力で離陸って、実はあんまし効率が良くない方法なんだよね。

実際の飛行機はだいたいみんな自力で滑走して離陸するけど、空母ほど強力じゃなくても、カタパルトを使うのってけっこう有効なアイデアなんじゃないかと思うんだ。それに空港はどうせ僻地に作るんなら、ある程度高い場所に作ると効率がいいと思うんだけどどうなんでしょ(そういや岡山空港はけっこうな山の上にあったなぁ)。

ライトプレーンってキットで売っててさ、「模型」飛行機なもんだから自分で組み立てるんですよ。これがなかなか手強くて。それが楽しみなんだけどさ。主翼の外側と水平尾翼になる竹ヒゴ(「ヒゴ」って何だろう)は既に U 字に曲げてある。けどなぜか垂直尾翼用の竹ヒゴは真っすぐなまんま。

今考えると、垂直尾翼って1枚しかないから、生産性の面で曲げ加工を見送ったのかな。けどまぁそれはそういうもんだということで、自力で曲げるんですよ。

熱を加えて少しずつ曲げていくんだけど、選択肢は熱湯かローソクかガスコンロか、になる。どれも子供向けとしてはそれなりにデンジャラスなんだけど、それやんないと作れないってのはまぁ、子供にとっては闘志をかき立てるものでもあったりして。ちなみにいっぺん百円ライターでやろうとしたけど、片手しか使えなくて敢えなく断念したわw

おいらはローソク派。上に立ちのぼる熱い空気に竹ヒゴを晒して、ゆっくりゆっくり曲げては添付の図面に置いて形をチェックする、と。なかなか神経を使う作業なのです。ちょっと気を抜くと竹ヒゴ燃えちゃうしさw 竹ヒゴに燃え移った火を慌ててフッと息をかけて消すと、ついでにローソクの日も消えてるしさww んでそれが終わると主翼、そして水平尾翼ですな。

主翼と水平尾翼の竹ヒゴははじめから曲げてあるんじゃないかって? チッチッチッ(古っ)。曲げ方がテキトーなのですよ。アールが一様で、一応そのままでも完成まで持って行けるんだけど、その完成形が美しくなんないのですよ。素人丸出しシェイプなのですよ。なもんだから、一番面倒な垂直尾翼の成形ののち、主翼と水平尾翼も再成形するんですわ。

骨組みができあがったら翼の紙貼り。付属の紙を切り取って貼った直後はシワが目立つ見すぼらしい姿だけど、霧吹きで水をかけてやるとあら不思議、乾いた頃にはピンと張って、凛々しいお姿を見せてくれるのですよ。いっぺん欲張って、いったん乾かしてからまた霧吹きしたら、張りすぎちゃって破けちまって。模型屋に飛んでってライトプレーン用の別売の紙を一巻き買ってきて(40円くらいだった気がする)貼り直したっけ。

あとは重心位置をきっちり合わせて翼のねじれをきっちり直せば、初飛行からいきなりぶっ飛ぶぜ。と来たもんだ。

動力源のゴムひもはね、あんましたるませない方がいいんだわ。伸びきった状態でも胴体に平行になるくらい。そうするとすげーパワーが出るんですよ。ゴムにはさらに、シャンプーか石鹸水をもみ込むと、ゴム同士の摩擦が減ってもっとパワーが出るんですよ。装着前にやっとくとラクだぞ。専用の薬剤もあったな。「スーパーカント」という語源不明の逸品。専用品だからきっとシャンプーとかより効いたんじゃないかと思うんだけど(未検証)、何よりクサいのがネックだったwww

ゴム動力ってのはまぁ充電できるバッテリーとモーターとが一体になった式の動力源なんだけど、これでプロペラを回すという機構について、当時これ独特な特徴を知ったよ。これだとプロペラの直径が大きいほど有利になるんだわ。あんまし極端に大きいとプロペラの重量が増えちゃうし、脚よりプロペラの方が長くなって足の意味がなくなったりで問題になるけど、そこまでじゃなく適度な範囲で、ゴム動力飛行機のプロペラは大きい方が効率がイイのです。

これは、ゴム動力の容量を測る物差しが総回転数ってことに由来する。バッテリーだと、容量はほぼ純粋に出力エネルギー量ですな。てことでプロペラが大きかろうが小さかろうが、プロペラを介して一定の風力×一定時間でエネルギーがなくなる。物理学で言う「仕事」の定義が割ときちんと当てはまる。

ところがゴム動力だと、チャージしたエネルギーを無駄なく風にできるかどうかは、プロペラのサイズによる。プロペラが小さいと空気抵抗が少なくて、プロベラは速く回る。それだけ早くゴムひもがほどけちゃう。ほどけたらもう終わり。プロペラが出す風力は、ゴム動力の回転力と釣り合う。これは速く回転しようが遅く回転しようが変わらない。だったら遅く回転した方がゴムがなかなかほどけなくて、同じ力をより長い時間にわたって出してられる、ということ。

模型飛行機のプロペラは2枚のものしか見たことないけど、たぶん製造が一番簡単だからじゃないかな。けど3枚や4枚のがあれば、このあたりの要求に応えられたんじゃないかなー。

あとさ、紙飛行機にも言えるけど、模型だろうが2分で作った紙製だろうが、飛ぶ原理は人が乗る飛行機とほとんど同じなんだわ。だから、確かに模型飛行機や紙飛行機でしか通用しない狭いノウハウもあるけど、つまり実用的な飛行機を学ばなきゃ分からないことも多々あるけど、模型飛行機・紙飛行機を通して学べる航空力学の普遍的な要素ってのもけっこうあるんだわ。理論を意識しつつ模型飛行機や紙飛行機を作って飛ばし続けてると、人が乗るほどの飛行機の形から挙動や性格も割り出せたりもするよ。

ていうか片手で飛ばせる程度の模型や紙の飛行機だと、無理な設計・無茶な改造も墜落・衝突もさせたい放題。これは絶対的に有利ww 何をどうすればいいのか/ダメなのかを安価でサイクルの早い実習で理解できるってのは最強ですよ。

たかが何百円のおもちゃだからって、そうそう侮れないもんなんですよ。

って B 級ライトプレーンの「オリンピック」、いつの間に値段が850円にまで釣り上がったんで? おいら幼少のみぎりは400円だったのに……。デフレスパイラルがどーたらこーたらってウソなんじゃね?w

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2011.1.8 土曜
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デフレイリュージョン 1

昨日の話からはみ出た感じで。デフレってなんなんじゃろーと思って。

確かに地価は部分的に上がってるところもあるそうだけど、日本全体だと下がり続けとりる感じですな。物価も食料品を中心に、かなり安くなってると思う。

電化製品もだね。昔は質屋っつう商売があったけど、今は同じ機能の製品でもいろいろありすぎて個人の眼力じゃ追い切れないだろうし、しかもみんな持ってるからろくな値も付かない。

けど値が上がってるものは上がってるわけで。それでもきちんと売れて、商売が成り立ってるはずなわけで。模型関係はその点じゃ比較的順調にインフレしてると思うけどな。ガンプラの第一次ブーム当時の値段は、ガンダムで 1/144が ¥300、1/100が ¥700 だった(当時は消費税がなかった)。それで考えると、今売ってるガンプラは容赦なくインフレしてる。ははぁ 1/100 で税込 ¥3,675 かぁ。本体価格だとインフレ率はきっちり 500% ですな。

つかガンプラで言うと、いまどき新製品で ¥735 ぽっちだったとしたら、どんだけ弱気な商売しとるんじゃって感じだし。昨日ネタにした模型飛行機「オリンピック」もインフレ率 212.5% だし。30年でこのくらいの物価上昇、かなり正常じゃないかと思うんですが。

RC カーも上限撤廃な感じ。昭和時代は電動 RC カーの相場は ¥20,000 の壁があったけど、プロポ付きという理由で突破してしまったらしい(参考資料)。いったんそうなるともうどうでもよくなるわけで、昔はほんの一部だった高級モデル(モデル単体で2万越えのやつ)がぞろぞろ出てきてる。価格帯に幅が出た形だけど、上限撤廃を成就してインフレ化に成功した感じ。

おー、タミヤのワーゲンオフローダー発見。今は ¥26,980 か。昭和時代は ¥19,800 だったんで、インフレ率 136% と出ましたよ。ところが ¥26,980 はこのお店の小売販売価格。 ¥19,800 は当時のメーカー希望小売価格。今のメーカー希望小売価格はいくらなんだろ。このお店の価格を下回るってことはないから、インフレ率はさらに上昇ってことですな。ああでもインフレ率って実売価格で比べるから 136% でいいのか。昭和の頃の主流の販売形態は模型店での直接売りで、メーカー希望小売価格そのまんまで売られてたしな。

おいらこのモデルと同じシャシーのバギーチャンプを持ってたわけだが。あちらこちらのああいう点やこういう点、改良されたかなぁ……。つか当時タミヤが売ってた 7.2V バッテリーって通称「ラクダ」と呼ばれる独特の形だったんだわ(ご丁寧に外装の色もラクダ色だったw)。チャンプやワーゲンはそれに特化してたんだけど、7.2V バッテリー形状の主流はラクダ型にはなんなかった。特にそのあたり、どう処理したんだろ。まさかいまだにラクダでもないだろうし。つか数年後にリリースされたホットショットは共通型の 7.2V バッテリーに対応してたんで、ラクダの時代は80年代前半で終わってたはず。うーん。

ノスタルジアはこのくらいにしてw 

模型っつう趣味の業界じゃフツーにインフレしてるんだよね。ところが国の経済を左右する必需品業界の方はデフレってる、というのが世間で支配的な雰囲気。もし「世の中全体がデフレなんだから、模型業界なんつう小さな市場ひとつがインフレしてても薄まるものじゃない」という理屈が当てはまるなら、「模型なんて小さな市場はその他の支配的な市場情勢に大きく左右されるから、そこだけ独立してインフレを保てるはずがない」てな理屈も立ちそうなもんだけど。そして現実に、「デフレだデフレだ。もうこの国の経済は中国に呑まれて消滅するしかない」と雁首並べてため息ついてる同じ場所で、きちんと物価上昇を成し遂げながら存続してる(つまり黒字を出してる)業界がある。これ何なんだ?

しかも、「今は企業ばかり儲けて、その利益が個人に還元されないから不況なんだ」という人もいるみたいけど、模型業界のお客は常に個人客なんだよね。しかもごく一部の金持ちじゃなく、庶民・大衆なんだよね。

物価を判断する指標になる品目ってのがあるらしくて、その価格動向でデフレかどうかを判断してるらしい。けどほんとにそれって公平なのかなと。抜き取り検査でしかない。抜き取り検査の前提って、対象の状態が一様だってことなんだよね。だから一部の結果は全部の結果である、と推測できる、というもの。物価調査の対象ってのは本来、世の中で流通するすべての商品・サービスなわけで、あまりに雑多で「一様だ」なんてとても言えたものじゃない。てことで、物価の判断方法ってかなり精度が低いんじゃないかと思う。たぶんそれ以外に現実的な調査方法がないんだろうし、時代に合わせて品目も変えて精度を上げてるみたいだけど、なんてーか、鵜呑みするにはうさん臭いというか。

つまり、経済産業省が発表する物価指数ってかなり大ざっぱな目安でしかないわけで、それを叩き台にして国の経済を議論するのって危険じゃね?

個別の業界や個別の商品をウンヌンするにはいいと思うんだけど、それでもまだまだ、その業界なり商品なりの物価動向を語るには粗い気がしてしょうがない。で、目安でしかないものを何個か集めて国の経済全体を語る人たちの言うことなんか聞くだけ無駄、という結論に達してしまいましたですよ。

銘板
2011.1.9 日曜
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デフレイリュージョン 2

とはいえ、どうも世の中は財布の開きっぷりが渋い感じ。でもそれは、デフレだから不況だからって危機感を植え付けられた消費者が自衛のつもりでそうしてるだけって気もする。世の中って気分の多数決で動くからね。気分の多数決ってのは、真実よりも印象操作で決まったりする。米ソ宇宙競争の結果を、アメリカの完全勝利だったと世界中で誤解してたりするし。アメリカがダントツにぶっちぎったのはアポロ計画単体と、それを利用した NASA の印象操作のうまさだけだったのに。イリュージョンですな。

そんじゃ日本の社会にデフレイリュージョンをかけ続けてる存在があるとして、それは一体誰なのかと。フフフそれはですね、いやー言った方がいいのかなぁ。でも言っちゃうとあのお方にご迷惑がかかってしまうかなぁ。おいらがそれを知り得る立場ってこともバレてしまうし……おっと誰か来たようだから今日はこのへんで。(ダキューンダキューン! ドガガガガガ! ズガガーン!)ふぅ、ヘルメットを着けていなければ即死だった(by シャア)。

とかじゃなくw、おいらも全然分かんないっす。

勝手なあてずっぽで、バブル崩壊後に黒船に乗ってやってきた、アメリカ流の経営理論とマーケティング理論、これを振り回す人たちのせいだと考えてみる。まぁ今さらそれを捨てろってのは恐らく不可能なんだけど、どっちもなんだかうさん臭いんで、その線で疑ってみる、と。そんで彼らの巧みなイリュージョンが日本経済をその方向に持ってったのなら、その結果、消費がどんどん冷え込んで自分の首を絞めることになったわけで。大変間抜けなことですなぁ。

ほかにも、日本経済の転覆から利益を稼ぎ出そうとしてる海外勢力の陰謀ってのも、映画的でなかなかスリルがあるね。この場合はもう「してやったり」「型にハメてやった」って感じですかねぇ。

つか、単に人件費を抑えたい大企業の経営者たちが、こぞってこんなデマを流しては社員をだまくらかそうとした結果って気もしないでもない。それが世の中を回り回って自分の会社の業績が落ちたってんなら、まさに「策士、策に溺れる」ですな。つか昨日それ違うって話になってたわな。

銘板
2011.1.10 月曜
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デフレイリュージョン 3

日本が不況じゃないんだとしたら、だったらこの動かしがたい不況感は一体何なのかと。まずマスコミが不況不況と騒いでること、これが不況気分をいつまでも盛り上げてそう。けどある程度は現実に即してるはず。現実からあんまし乖離してれば、さすがにみんな「おかしい」と感じるよね。

2002年〜2007年あたりって戦後最長の好景気局面だったらしいけど、何だかよく分からん数字とグラフをもとにそう言い張ってたのは役所と政府だけで、全然実感なかったような。この人たちは何を言っておられるのか、と思ったわ。おいらは「バーチャル景気」と呼んでたわw けどそう言われたら言われたで、自分の口からは「そんなのぜってーねぇ」と口走りつつも、『今は実感ないけどもしかして東京は既に好景気を満喫中なのか?』とも考えてしまうわけで、そうなると必ず『だったら早く八戸にも来てくれー』と虚しく願ったりもして。ほんとに虚しい考えだったわ。

はたまた遡って1992年、ボクシングで鬼塚勝也×タノムサク・シスボーベー戦があった。開催地は日本の有明コロシアム。放送した TBS の記述には「またも際どい勝負となった」とあるけど、試合に勝ったのは鬼塚だったけど、試合内容はどう見ても鬼塚のボロ負けだったよ。おいらみたいな格闘技の素人が番組を見ててはっきり分かったほど。タノムサクは前に踏み込む。鬼塚は押されて後ずさり。タノムサクのパンチはどんどん当たる。鬼塚の顔ばかりが見る見る腫れていく。で、判定で鬼塚がタイトルを死守。次の日はもう「あれはおかしかったよな」と街じゅう大騒ぎだったさ。

放送中、アナウンサーは必死に連呼してた。「鬼塚押しています! 鬼塚圧倒しています!」。けど映像が語る事実は全くの逆。完全にホームを悪用した出来レースでしたなぁ。

それでもおいらは素人なもんだから判断に自信がなくて、次の日にボクシングに詳しい人に確認を求めたよ。目の前で起こってる明らかな事実をしっかり目撃しても、その認識や判断って、横で口出しする人にけっこう揺さぶられちゃうもんなんだね。

てことで、動かぬ事実を目にしたとしても、人は(とりあえずおいらは)印象操作に流されてしまいがちってことで。マスコミが不況を喧伝するのは、世の中がそうだからってことになるんだけど、個人がいくら不満の声を張り上げても、聞こえる範囲や人数はたかが知れてる。けどマスコミが取り上げるとなると、声が全国の読者・リスナー・視聴者の数だけ増幅することになる。それに流されて、多くの人が「ああやっぱりそうなんだ」と流されて同じ気分になりますな。そうするとそれをマスコミが拾ってまた拡声器。ぶっちゃけハウリングじゃないかと。

怪しげなグラフをまた出して第二次バーチャル景気でもっぺん釣ってくれとまでは言わんけど、読者・視聴者はもういいかげん不況ネタは飽きてるから、その話は必要なときにだけすればいいんじゃないかと。で、楽しくなるニュースの分量をもうちょっと増やしておくれではないかい。バラエティ番組の作られた楽しさももう飽きてるし。

おお、その意味じゃタイガーマスクの贈り物の話題はイイねぇ。やりすぎにならん程度に、もっとそういう話を特集していただきたいですよ。っつーかいったん方向性が出ると、明らかにやりすぎになってもまだやめられないのがマスコミのサガだったりもするけど。制御工学が教えるところの「正のフィードバック」ですな。

ハウリングだとすると、止める方法はどこかでその閉ループを断ち切る、ですか。なんか無理っぽい気がする。だって世の中が、世間の矛盾や自分の苦境を何でもかんでも不況のせいにして片付けたい雰囲気満々だもん。

景気のいい人を出すのはどうか。儲かってる社長さんとか。探せばまだまだいるでしょ。セレブみたいな劣化貴族はもういいから、一代で成り上がったギラギラアブラギッシュなオッサンたちを見たいなぁ。バブルの頃は『宮尾すすむとニッボンの社長』でそんな成金を毎週紹介してたもんだが。企業としては社長が露出して羽振りのよさを見せびらかすのは宣伝になるから、大歓迎だと思うんだけどなぁ。

銘板
2011.1.11 火曜
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デフレイリュージョン 4

世の中の気分と社長さんといえば、もうひとつ当てになんない数字がありまして。それは「景況指数」。世の中、これで近未来の景気の動向を判断したりするよね。けどこの数字、決め方がアバウトっつうかマッチポンプ。だから結果のテキトーさも物価調査といい勝負。んでこれ何で決めてるかっつうと、世の中の社長による自社の業績の見通し。これから自分の会社の業績が上がりそうだなーとか、厳しそうだなーとかそういうやつ。で、「イケる」と踏んでる社長の数と「だめっぽい」と踏んでる社長の数の割合なんですな(事業規模での重み付けもあるが)。

全国版と地域版はいろいろ違うとこもあるだろうけど、たぶん本質的には同じことをやってるはず。このまえ池上彰が同じ解説をしてたけど気にしないでくれw 地域版で言うと、地元の銀行が調査主体になって、付き合いのある企業や個人商店の社長さんや旦那さんから、その会社やお店を対象にアンケートを取るんだわ。聞く内容は、これから○カ月間で、「売り上げは伸びそうか落ちそうか」「在庫調整は進みそうか滞りそうか」「設備投資の予定があるかないか、あるならどのくらいの金額規模か」とかそんな感じ。同時に「前回の調査時と比べて今回はどうか」「前年同月比ではどうか」あたりもあったような(記憶が曖昧)。

詳しくて正確で信頼できる調査であるかのようになんとなく思えるけど、基本、無記名なんで、どう書いてもいいんだわ。調査して計算して可能な限り正確に書くべきだろうけど、1銭にもならんことなんて誰もしたくないわけ(粗品さえ来ない)。そんなもんに年に何回も定期的に時間を取られて嬉しい人なんかいないわけ。そりゃもうテキトーに書くに決まってるわ。どうせ質問内容は毎回同じだから、1問に5秒もかければいい方かと。自分で書かないで、秘書やら奥さんやら息子さんやらに好きに書かせてるとこもあるだろうなぁ。

それでも、そんなアバウトな統計でも大まかな傾向くらいは掴めるだろうとお思いの方も多いかもしんないけど、ほんとあくまで大まかにだから。それで先行き予想が、前回がプラス 1.2 ポイントで先行き明るかったのに今回がマイナス2.3ポイントだからお先真っ暗だーとか一喜一憂するの、完全に無意味だから。その程度は誤差だから。

ぶっちゃけ、アンケートの締め切り当日の朝刊1面にものっそ景気の悪いニュースがドドーンと載ると、仕事として優先順位が低いんで記入を延ばし延ばしにしてた社長さんたちはそれに影響されて、軒並み景気の悪い見通しを書き込みがちになる、と。けどこれアンケートを書いた時点での社長さんの気分を表したものだから、間違いではない。間違いじゃないけど、世の中が当然と思うほどの精度でも全然ない。つまり前提自体が精度を放棄した調査だってこと。この調査結果の信頼性がどんだけしょぼいのか、これで雰囲気だけでもご理解いただけるかと。

しかもアンケートは無記名ってことで、業種・業態の大まかな分類はあるものの、年商はどう書いてもお構いなし。たぶん年商10億の会社と1000万の個人商店とじゃデータの重みに差を付けるんだろうけど、あくまで自称の数値だから。それに経済のメインプレイヤー的な超有名企業も趣味客相手の小さな市場の企業も、みんな一緒くた。薄利多売だろうがブランドを確立して唸るような利幅をあげてようが、そこも問わない。

それに心理的な要素として、無記名とはいえ世の中に合わせたくなるのが人情。世の中が好景気だと思えば、自分も景気のいいことを言わなきゃなんない気がして、自社の実際よりもイイ内容を書きたくなるだろうし、世の中不況だよなーと思えば、逆に実際より控えめに回答したくもなるだろうし。という面もありそうってこと。

地域ごとじゃ主力業種や土地の気質に偏りやばらつきがあるから、確かに全国ぶんを合わせりゃまんべんなくはなるんだけど、今度はそんな全国平均が必要な企業って、そんな当てになんない情報を大事にするのか、という問題が出てきたりして。自分とこの営業活動で得た独自データの方がよっぽど信頼性があるわ。地域の事業主さんにとっても、自分の地域の情報は大事だろうけど、全国平均なんてもともとどうでもいい話で。

じゃあ実業界じゃまったく使い物になんないこんなクズ情報を、どこのどいつがありがたがって使うのか。それはマスコミ。ニュースのネタとして。解説員だのコメンテーターだのキャスターだのが、世の中の社長さんたちが昼メシやゴルフに出かける前に、銀行員に催促されて2分で書いた程度のアンケートの結果を鵜呑みに信じて、それをもとに深刻な顔で今後の経済動向を語ったりする。自分の事業を占うためじゃないから、そのデータの信頼性がどんなもんなのかなんて真剣に考えたことないんじゃないかな。

そしてテレビにレギュラーで出る人たちはみんな出演者としてプロだからね。信じさせる演技力をお持ちなんですよ。自分が伝えた情報の精度よりも、テレビ出演のプロとして説得力ある語りができたかどうかの方が大事なんじゃないかと。視聴者はそりゃ信じますわ。内容が事実と違ってたら、統計を公表した担当省庁(金融庁か経済産業省かなぁ)のせいにして叩けばいいだけだしな。

んでそのニュースを見て、漠然と動揺した社長さんたちは次のアンケートでまた景気が悪くなるような選択肢に○を付ける、と。ほら、マッチポンプでしょ? んで「社長→役所→マスコミ→社長」で完成した無限ループが生み出すどうでもいい情報を、世の中の大多数の真面目な人々が真に受けて、それが真実なんだと世の中全体が信じ込んでるってこと。精度の件を承知してれば、なりなりに正しい使いようがあるのかもしんないんだけどね。

つか社長さんの貴重な時間を割かせるんだから、何かちょっとくらいお礼の品を渡してもいいと思うぞ。仕事モードの社長は「時は金なり」の人が多そうだけど、そんな大層なものは必要なくて、ボールペンやタオルみたいな粗品でもいいような気がする。経営者ってつまり商売してる人だから、物をもらうと義理を感じるものなんですよ。てことで、粗品だけで精度が大幅アップすると思うんだけどな。けどやってる人たちが役人なんで、その発想には絶対に至らないと思う。仲立ち役の銀行員は粗品をあげるのに慣れてるだろうから、さぞかしやきもきしてるんじゃないかと。

つか銀行員の担当さん、マジ大変なはず。得意先の社長さんに露骨にめんどくさそうな顔をされる。社長さんの虫の居所が悪いと「なんでおれがいちいちこんなこと」とブーたれられる。それが分かってても、義務だからアンケート用紙を回収に来る。で、社長さんはやんないで逃げ切ろうとしたり、「今回はパスでお願い!」とモロに断ったりもするんだけど、義務だから無理やり書かせたりしてさ。そんなもん強制できる立場じゃないだろうに。

これ、銀行にとっては義務でも相手の社長さんにとっては別に義務でもなんでもない。てなわけで社長さんのテンションもだだ下がり。もしかしてそれも回答をテキトーに書いてしまいがちな要因なんじゃないかって気がしてきたw

銀行の地域情報収集の役には立ちそうだから、銀行としてはやる意味があるんだろうけど、お得意先様に嫌な思いをさせてまで、となるとかなり微妙なんじゃないかと。

銘板左端銘板銘板右端

あとね、最近は仕事を受注できる人って、専門職の人たちばっかりな気がして。ナントカ屋さんっつう昭和時代の専門職は軒並み壊滅したけど、どうももっと違う種類の専門職が稼いでる気がして。そこらはまた後で書かせていただこうかなと(面倒になったら書かないってのもアリとして)。

銘板
2011.1.12 水曜
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デフレイリュージョン 5

昔のナントカ屋さんってほんと見なくなったね。食堂・レストランや全国チェーンの雑貨屋さん、ドラッグストアに姿を変えた薬屋さんやコンビニチェーンになった酒屋さんとかは健在だけど、魚屋さんや八百屋さんみたいな個人経営のお店ってほとんど壊滅してるよね。そういうのは全部、企業がやるようになっちまったから。経営規模が個人規模の旦那さんたちじゃもう太刀打ちできんことが証明されてしまった、と。

販売もそうだけど、製造はもっと極端だね。

おいら子供の頃、職人の町に住んでたんだわ。今の感覚での神格化された「職人」というほどコダワリ第一ってのじゃないけど、製造販売の街というか。それぞれが店舗兼自宅に住んで、モノを作りながらその店先で小売りしたり卸したり。

食品だと豆腐屋、こんにゃく屋、味噌・醤油屋、南部せんべい屋、肉屋、氷屋、和菓子屋があった。軽工業・工芸だと、タンス屋が3軒(よっぽど注文があったらしく、3軒あっても仲よくやってた)、桶屋、畳屋。ほかに自転車屋、八百屋、駄菓子屋、風呂屋、お菓子の問屋、そば屋、日立だったか東芝だったかのお店、電気設備屋、牛乳屋、タバコ屋、呉服屋、写真館、金物屋、寺と保育園、葬儀屋、神仏具店、酒屋、美容院、喫茶店、花屋(生花)、造花屋、寿司屋、小鳥屋、不動産屋、クリーニング屋、テーラー、床屋、ラーメン屋、そば屋、銭湯などなど……そういう個人の店が1つのストリート、1つのブロックにぎっちり入ってた。魚屋は隣のブロックに何軒も集中してた。

その街、今ほぼ壊滅状態。

店舗をほかの人に賃貸ししたりアパートにしたり雑居ビルにしたり、土地ごと売ってしまって別な人ががんばってたりってのはあるけど、どうも昭和時代の活気とはもう完全に縁が切れた状態で。それでも物件としてはおトクなんでときどきなにがしかの動きはあるんだけど、そこに住んでそこでモノを作って、その軒先で売ってるなんてお店、なくなっちまった。その中で唯一、商売替えしなかったどころか大幅グレードアップを成し遂げたド根性な商売も一応あるにはあるけどね。

お寺w

てことは、あの街でイケる業種はもはやサービス業のみですなぁ。

で、個人事業主が大幅に減ってしまったわけで。たぶん全国的な傾向かと。

だってほんと大手企業には何から何まで敵わんもん。別にあくどいからとかケチ付けるわけじゃなく、彼らは本当の意味でプロ集団だから、個人が地元で経験と勘だけでやってきた商売方法じゃ、彼らの前じゃ素人も同じなわけでさ。

確かに、例えばタンス作りの技はタンス職人ならではかもしんないけど、今は商売は否が応でも全国規模。津々浦々に情報が飛び交って、津々浦々から商品が届く。てことで大量生産の安物じゃなければ何が何でもブランド指向。タンス職人なんて全国にいたわけで、そうなると例えば、「飛騨の木材を使ってその道300年の老舗が伝統の技と真心を込めて一品一品丁寧に仕上げたウンタラ」とかのお題目でお客は決めるわけですよ。

正直、地元の職人が作ったタンスと全国ブランドのタンスの出来映えの違いなんて、普段からタンスに接してるわけじゃない素人にそうそう分かるもんじゃない。てことで現物を見たとしても見どころが分からない客は、プロのセールスマンが繰り出す怒濤のセールストークを信じてしまう。

しかもクローゼットとかもう最近の家は備え付けだったりして、和ダンス自体が不要になりつつあるし。そうなると、わずかに残った市場シェアは超高級路線のみで、近場の無名の職人のタンスは誰も買わんとかそういうのになっちゃって。で、その唯一残った超高級路線も恐らく職人が直接売ることはなくて、小売りしてくれる問屋さんやデパートとかのセールスのプロに依存してそう、と。

そういや古来、家に娘が生まれると桐の木を1本植えて、その娘が結婚するときその木でタンスを作らせて、嫁入り道具として持たせてやる、という美しき風習があったそうな。まぁ今でもそこまではしなくても、高級タンスを買って嫁入り道具にしたりするんだろうなぁ。つかもう和ダンスの出番自体が……。

いやあの、知り合いの家で出戻ってきた人がいまして。タンスも戻ってきまして(その人と同い年の桐なのかは不明)。ええ(汗)。実家に置くとこないからゆんずさん家に置かせてもらえないか、と頼まれたことがあって。モノがモノだけにそうゆーのはなんかものすごくアレな気がして、丁重にお断り申し上げたことがあったわww

で、「ナントカ屋さん」はなんで絶滅したのか。タンスや桶はそんな感じとして、ほかはどうかと。

食品関係はもう明らかですな。お客は今やみんなスーパーに行っちゃうんだもん。まぁでも魚屋さんや八百屋さん、酒屋さんなんかは飲食店卸に特化して生き残ってたりもするけどさ、それでもストリートに店を構えて一般客に売るっつうのはほぼなくなりましたわな。洋品店とかもそう。あるにはあるけどずいぶん取り残され感が漂ってる。しまむらとユニクロには勝てん。荒物屋さんや金物屋さん、工具店は DIY の大型店に食われた。

大型店の何が魅力かって、個々の違いはそんなもんとうの昔の語り尽くされてるけど、早い話があっちは販売のプロってこと。マーケティング理論を駆使して、ともかくお客に買っていただく技、思わず買いたくなる技をがっちり身に付けてる。「店にモノを並べれば売れる時代」が終わったってのもあるけど、終わらせたのもの恐らくこのプロ集団。で、プロを抱えたライバル同士がしのぎを削って知恵を絞って客足を奪い合う状況が20年も30年も続けば、ナントカ屋さんなんてまさに「存在の耐えられない軽さ」。

小売りは品揃えと規模の大きさがカギになるのは定石。プロたちはそれでとにかく拡大路線を歩んできた。「あの店に行けば何でもある」ですな。昭和感覚の個人商店との差は開くばかり。ナントカ屋さんってのは時代の流れに取り残されたということですな。

で、その商売のプロがやる商売っての、これがデフレ感を作り出してるんじゃないかと。

どこのプロも同じマーケティング学の教科書から学んでるんで、手口がお互いに丸分かり。品揃えも売り方もだいたい同じ。そして製造業者の方から頭を下げて売り込みに来る、代わりの業者も商品もいくらでもある、が常態化してるんで、自分らが売る商品を愛してない。商品に関する専門知識を付けなくても、マーケティング手法で売れるもんだからそういうところは学ばない。扱う商品数が多すぎるうえにめまぐるしく入れ替えすぎて、いちいち勉強してらんないってのもあるかも。

突っ込んだことを訊いてくる面倒な客は少数だから、そういう手合いは買ってくれなくて結構。右も左も分からない大多数の素人客はプロの販売術にコロッと引っかかるから、そっちに専念してりゃいい。それでも売れなきゃ別の商品に移ればよし。てことで愛着も執着もない商品の販売で、ライバル同士で競争するとどうなるか。

値下げ攻勢。自分の店の有利さを安さでしか演出できないもんだから。マーケティング学が業界に導入されると、結局こうなるなんだよね。高度な販売技術で町のナントカ屋さんをみんな綺麗に潰し切った後、ライバル同士で戦う時はナントカ屋さんの「安いよ安いよ!」と同じやり方に退行する矛盾。

安さが勝負ならいくら売っても儲からない。それでも安売りはやめられない。高度な管理技術でコストを圧縮して、それでも安売り競争が止まらないから足が出る。そのぶん納入業者を脅して買い叩く。食品も家電も、こうしてどんどん値が下がる。

そして売り手に愛されずに投げ売りされてる商品を、経済産業省が物価指標に選んで「デフレだ」と判断。販売業者も製造業者も儲からないから、社長さんはアンケートに景気の悪い回答を書く。その発表を見てマスコミは「不況だ」と報じる。

「デフレ不況」イリュージョン、見事完成。

〓ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ⊂<回 ←仕切りジッパー

黒澤明の『用心棒』を思い出したよ。宿場町の覇権を握ろうと争うヤクザ2派。どっちも張り合って、街の外から用心棒(というよりゴロツキ)をどんどん買ってきては抱える。どっちの勢力もその町の大旦那(造り酒屋と絹問屋)をパトロンに掴んではいるんだけど、町全体としてはもう誰も寄り付かなくなって殺伐としてる。無力な住民も荒みきってる。でも儲かる商売がちょっとはあるわけで。

それは桶屋。小競り合いのたびに棺桶が売れるからw

けど抗争が大詰めを迎えると、桶屋は頭を抱える。「こう死人が多くちゃもう誰もいちいち棺桶なんか買っちゃくれねぇ」。空っ風が身にしみるらしく、着物を頭にかぶって(ジャミラですな)鼻をすすり、死体がそこらじゅうに転がってる表通りをトボトボ歩いていく。

日本中のどの町も、近いうちにみんなこんな感じになっちまうんじゃないかって気がしてしょうがない。

銘板
2011.1.13 木曜
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こうのとり 2羽目

素人妄想経済学がテンパってるんで、今日は違う話題でお茶濁し。

そういや今月の20日、国際宇宙ステーション行きの日本の無人貨物機 HTV 2号機の打ち上げがありますな。打ち上げる大型ロケット H-IIB も2号機。まあファンとしてはあとは応援しつつ祈るしかないですな(「あとは」というかいつでも応援しつつ祈るしかないんだけど)。

大丈夫だと思ってた あかつき が先月あんなことになって、日本の宇宙技術の水準がだいたいどのあたりなのか思い知らされたばっかしだしな。

HTV は2009年打ち上げの1号機の成功を受けて、晴れて愛称をつけてもらったしな。「こうのとり」だそうで。なんかその話を聞いたときは「ええ〜っ」と思ってしまったけど、海外ウケはまあまあいいらしいような。まーそんなわけで意味的にはいいとして、アレですな……5音節って日本の宇宙機の愛称で最長のような気がする。そこが違和感だったのかもしんない。けどまあ慣れだね。2号機が成功したその頃には、もう何の違和感も感じないんじゃないかと。

でさ、別なしょうもないことに気付いたんだ。

こうのとり1号
こうのとり ってさ、
 
ミネルバ
ミネルバに似てるよな。

どっちも円筒形で、体中に太陽電池を貼り詰めてるもんだから (^_^;) サイズは断然違うけど。こうのとり は全備質量16トン。ミネルバは561g(キログラムじゃなく、ただのグラム)。こうのとり の28,520分の1w もう全然違う。けどなぜか似てる。ただ似てるってだけの話で、そこから思いがけない両者の共通点とかあぶり出せるわけじゃないんだけどさ。

ミネルバってのは、はやぶさ に搭載されてた超小型ローバー。写真でなんとなくサイズが分かると思うけど、これが実物大。全高わずか 12cm。小惑星イトカワの表面をぴょんぴょん跳ねながら写真を撮るはずだったけど、はやぶさ からの切り離しのタイミングが悪くて着地できなかった悲劇の宇宙機。その反省から、はやぶさ2 にはミネルバ2を2機搭載するらしい。

写真は去年の6月、はやぶさ が地球に帰ってくる1週間前に相模原の宇宙科学研究所に詣でたとき、一般ブースに展示してあった実物大模型。上の輪っかがなんでピンクなのかは謎w

こうのとり(HTV)の写真(Wikipedia より。1号機のもの)と Wikipedia 記事をしげしげ眺めてて、ちょいと気付いた別なことがあったり。メインスラスタの出力、500N(ニュートン。だいたい50kg重の力)なんだね。のぞみ や あかつき と同じクラスですな。規格品なのかも。のぞみ、あかつき の質量は 500kg くらいなんで、16トンの こうのとり には全然足りなさそう。んで記事の写真の大判を見てたら、4基クラスタなんだな。その大判写真をさらに切り取って、500N スラスタ1基と姿勢制御スラスタ1ユニットを大写しにしてみた。

500N スラスタ

500N が4倍になっても焼け石に水っぽいけど、別にほかの惑星の衛星軌道に投入するわけじゃないからこれで間に合うっちゃ間に合うわな。して、姿勢制御スラスタ(写真の小さいノズルの方)も出力 22N(だいたい 2.2kg重)だそうで。あかつき の姿勢制御スラスタ12基のうち8基が 23N(残り4基は 3N)。このあたりも規格なのかもねぇ。しかし 500kg の 探査機 と16トンの 衛星で、同じ出力のスラスタで姿勢制御いけるんだねえ。なんだか意外で。

F-1 マシンと16トントラックが同じエンジンを積んでるって例えがちょうどいいかな。クルマの話だと、それって F-1 にとっちゃそこらの運ちゃんじゃおっかなくて扱えないほどピーキーだけど、大型トラックにしてみればちょっと非力な気もする。でも成り立ってるわけで。宇宙機の設計ってギリギリのはずだからオーダーメイドな部品が多い気がしてたけど、案外規格に合わせちゃうもんなのかもね。

こうのとり の4基クラスタのメインエンジンが 500N ってことは、2号機は あかつき と同じセラミックスラスタなんだろか。とりあえず あかつき に関する12月17日の文科省の文部科学省宇宙開発委員会の会合では、状況をいまひとつ理解してない委員がセラミックスラスタを悪く言ってたけど、あかつき のセラミックスラスタは問題の原因じゃなかったことが判明してる。てことで こうのとり に搭載するのはイケルと思うんだけど、実際はどうなんでしょね。

まーいきなり4基クラスタってのも冒険だけどさ。

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2011.1.14 金曜
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デフレイリュージョン 6

今はもう何でもかんでも、プロの仕事じゃなきゃ通用しない時代・信頼されない時代になってるんじゃないかと。何もかも高度化してしまって、どの分野でも専門外の素人がパッと理解できる域を超えてしまってるんじゃないかと。それが不況感の演出に一役買ってしまってるんじゃないかと。

こうなると、勉強だろうが実業だろうがその道一筋で長年の経験と勘を培ってきた人とか、天性のずば抜けたセンスを持った人とか、そういう、大抵の人にはできない・分からないことができる・分かる人たち、そのうえ信頼を獲得してる人たち、ばかりが偏って注文を取れる、就職先がある、ということなんじゃないかなと。

今、個人経営の肉屋や魚屋や八百屋からより、大抵はスーパーで買うよね。1カ所でまとめて買える、広い駐車場があるってののほかに、そういうところの商品って個人経営よりなんとなく信頼できそうな気がするじゃないの。企業はそういうイメージ演出が上手なわけで。専門のデザイナーを抱えてたりして。それが営業部や企画部と常時ガッチリ連携してたりして。こりゃ個人規模じゃ敵わんよ(実際はイメージと違って、「餅は餅屋」の理は健在だと思う。スーパーで魚のこと聞いてもろくな返事が来ないからな)。

でかい企業じゃなきゃできないことを、消費者が要求してたりもするし。そうなるように企業が世論を誘導したのかは不明だけどさ。

例えば食品の衛生規格に "HACCP" (Hazard Analysis and Critical Control Point) というのがある。「ハサップ」とか「ハセップ」とか読むんだけど、英語の頭文字を並べただけだから、日本語訛りの読み方なんかどうでもいい。んで、これが何なのか理解してる消費者ってほとんどいないと思う。それでも HACCP に準拠した企業はこれ見よがしにこの言葉だけを連呼して、信頼性を謳い上げる。で、消費者はなんだか分からないけど信頼できそうだ、とその会社の商品を選ぶ、と。

おいらも詳しく理解してはいないんだけど、この規格の出どころなら知ってる。それは NASA。アメリカ航空宇宙局。もともとは宇宙食のための衛生規格なんだわ。もうすでにこの時点で過剰な感じがする。少人数や小資本の食品会社じゃいきなりふるい落とされそうなオーラが出まくってる。

んで実際、食品製造や流通で HACCP を導入するには、5人からの専用チームを用意しなきゃなんない。生産規模が大きければもっと人数が必要。このチームは隠蔽やゴマカシを防ぐためにほかのどの部署にも属さずに独立した状態で、原料の入荷から加工、出荷まで(あるいはその後まで)の衛生管理のみを行う。直接生産に携わらない人員を何人も抱えなきゃなんないわけで、生産工場としてはいきなり腰が引けるわけ。大企業でもともとそれに類する衛生管理をやってたとこならまだしも、地方の食品製造業の会社なんてもともと少人数のうえに、値下げ圧力をモロに受けてて、とても新たに人を増やせる状態じゃない。

生産力や営業力増強の増員ならまだいいけど、HACCP チームはいわば管理職(品質「管理」だからね)。しかも専門知識を持った人たち。給料に色を付けなきゃなんないでしょ。こんなのまともに導入・運用できる会社なんてあんましない。けど消費者はよく理解しないまま、なんだかそれがあるほうがいいような気がして、同じ商品でも HACCP 対応を派手に謳うメーカーのものを買ってしまう。

けどどうだろ。宇宙食の衛生管理工程でできた食べ物って、普通の家庭の食卓に必要なものなのか? しかもそれで味が良くなるわけでも栄養価が高くなるわけでも、健康維持に特に役立つわけでもない。ぶっちゃけオーバースペックなわけで。むしろ宇宙食は味のコダワリはそこそこに、衛生・栄養・保存の管理第一の代物でさ、そのために調理方法も限ってる。地上の料理とは目指す方向が違うんですわ。普通の食べ物とは別物と思ったほうがいい。医薬品やサプリに近いというか。

つか、店先で売る段階まではプロが衛生管理した状態だとして、買った人が家で封を開けた瞬間からは、扱う人は食品衛生管理の素人。何がどうなるか分からない。なんかそのハイテクは実質上ほとんど無意味な気がする。

けどそれやって宣伝材料にすると売れるから、企業としては導入したくなるわけです。消費者はよりイメージのいいものを際限なく求めるものだからして。そして、それができない小規模なお店や会社は不利になるわけです。別に HACCP の通りやらなくたって、宇宙に持ち出せないってだけで、地上での実用に充分に耐える衛生管理はできるわけで。

しかしこの食品衛生規格はアメリカだけのものなわけで、国際宇宙ステーションを運営するもうひとつの宇宙ステーション大国、ロシア(こっちが宇宙ステーションの元祖)はどういう基準を持ってるんだろ。アメリカは訴訟大国でもあるから、製品には過剰なまでの安全基準を設けてどんどん複雑化する癖がある。ロシアの宇宙開発はところどころアメリカよりアバウトなのに、アメリカよりうまくやってたりする。てことでロシアの宇宙食の衛生基準も、HACCP ほどのものは要求してないような気がするけどどうなんだろ。

てことで話を戻すと、世の中の商売はプロ中のプロが携わったものじゃないと、もう客は受け入れないって感じ。そういう信頼のイメージ(実質的な「信頼性」とは違う)が決定する感じ。てことで、プロが携わったことを誇示する手法もまた宣伝・営業のプロの手に頼ったり。それがすっかり浸透しちゃったんで、昔ながらってのはもうついていけない。まぁ「昔ながら」が武器の商売もあるけど、それを武器として機能させられるかどうかの手腕もまたプロ技が必要というか。

でさ、こういう企業戦士なプロってさ、いくら儲けても給料ぶんしか実入りがないじゃないの。個人事業主は儲けたぶんだけ懐に入れられるってのに。そりゃ社員だって成績を上げれば給料が上がったりボーナスが出たりもするけど、それでも自分が稼ぎ出したほどはもらえないじゃないの。ていうか「不況だから」との言い訳を聞かされて、お値段据え置きで我慢させられちゃう。それが当代流行のコストダウンの手口。

プロが市場の需要を根こそぎかっさらうのに、かっさらったプロ本人には見返りがそれほど来ない。かっさらわれる方は実入りがそのぶんだけ減る。これ、どっちの立場も徒労感が募りますな。ある会社の社員が会社として稼いだ額と、分け前の額。このうちの、親分の取り分が増えつつあるじゃないかと。そりゃいくら働いて稼いだって、自分の懐に入んないんじゃなぁ。

前置きがやたら長くなったけど、この徒労感や会社側の言い訳の「不況だから仕方がない」、これが不況感を実際以上に盛り上げてるんじゃないですかねぇ。

銘板左端銘板銘板右端

ところが、だからって「それじゃ企業がみんな悪いんだ。搾取しやがってアンニャロウドモメ」なんて単純なわけでもなかったり。

銘板
2011.1.15 土曜
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デフレイリュージョン 7

あ、言っとくけどおいらの経済は素人だからね。それに基本、直感と妄想で語ってるからくれぐれも鵜呑みにしないでね。

んで妄想の続き。

この国の経済は自由主義だからね。自由競争を国が認めて、同業者同士にけしかけるわけで。だからオンリーワン企業は場合によっちゃ独占禁止法で叩かれたりもするわけで。てことで同じ業種・業態の事業主や企業同士がライバル関係になって商売で競争するんだけど、それが世の中を発展させてきたんだけど、どうもなんかそろそろきしみが出てきてる感じで。だからって今さら社会主義も共産主義もあったもんじゃないけどさ。

んじゃそのきしみって何なんだ。きしみというか、世の中の仕組みが昨日書いたみたいに「プロ専用」に変わりつつあるのに、プロが所属する企業がその上がりを存分に吸い上げるようになってきてるのに、それを感知してない人たちが「不況は世の中が何かおかしくなったからだ」とアバウトな文句をつけてるって感じがして。

バブルが終わって数年までは、株主は会社の方針になかなか口を出せなかった。株主総会でも、経営陣は株主相手の質疑応答をろくにしなくてよかった。そういう力ずくの総会運営もできた。株主はそれでも、配当が着実に来るからあんまし不満がなかった。会社はそのぶん自由に活動ができた。

そこにやってきた、バブル崩壊後の業績悪化の時代。とりあえずバブル期が異常に業績が良かったんだから、それに比べたら「普通の状態=悪化」なわけだけどさ。で、株主にとっては今まで黙ってても来てたカネがあんまし来なくなった。出資の目当ては配当なんだから、株主から「何やってんだ」と口出しが始まる。株主の目的は主に配当金なんで、「何やってんだ」に続くのは「ちゃんと配当をよこせ」「さもなくば出資を打ち切る」。つかもっと割のいい会社の株に乗り換えれば済むから、株主にとっては気軽なもんだけど、企業にとっては死活問題。

こうなると企業の経営陣は自らの意向よりも、株主様の方の言うことを聞くよりほかない。こう書くと株主が悪者みたいになっちゃうけど、これが資本主義の正当な姿だからどうしようもない。ていうか企業の方も出資を募るために株を売るわけで、株に人気が出なきゃおカネが集まらないわけで、そりゃもう「うちの株はでっかいリターンを約束しますよ」と言いながら売りますよ。粉飾決算は違法だけど、粉飾した業績見通しは OK。そりゃ見通しの方なら遠慮なく粉飾しまくってバラ色の将来を描いてみせて、株主さんに株も媚も売りますよ(その次の株主総会で達成率を報告しなきゃなんないけどさ)。

その説明を信じて株主は投資するんだから、実際の配当がそのとおりじゃなきゃそりゃ株主さん、頭に来て実力行使をちらつかせますわな。約束を守らん経営陣をクビにして、何を置いても株の配当を最優先してくれる人材をそこに送り込むとか本当にやったりもしますわな。

これ、アメリカじゃ前々からそうなってた。てことでなんでもアメリカじゃ企業の経営陣が意思を決定するんじゃなく、株をいっぱい持ってる人の意向に従うらしい。

でも株主はマネーゲームのプロだったりもするけど、その業種のプロじゃなかったりする。てことで、会社側としては素人に手出し口出しされちゃとてもかなわん。力だけしか持ってないそんな手合いにお黙りいただくには、そりゃもうポケットに札束をねじ込む以外ないじゃないですか。それがやっこさんがたの目当てなんだし。裏側でどういうことをするのか、あるいはしないのかは会社によるだろうけど、合法的に明示的にそれをやるには決算で無理にでも黒字幅を取って、配当額を目一杯上げること。

黒字幅を作る方法は2つ。ひとつは売り上げを伸ばす。もうひとつは支出を減らす。両方やると効果倍増。そこで真っ先にいじられるのが人件費。一番どうにかしやすいんで。

株主>役員>社員

この分かりやすい力関係。でもね、そう簡単に株主を悪者にはできんのよね。出資ってリスクを負うことだから。上の三者の中で、一番リスクを負ってるのが株主だからして。例えば会社が業績不振で倒産となれば、従業員は解雇されるだけで済む。役員はどうなるか分からんけど、業績があんましひどいと賠償請求されるかも。つか役員って労働基準法の外にあるんで、普段からタダ働き覚悟ですな。で、株主はというと、ぶち込んだカネが消えちゃうんですよ。資産を整理するときにいくらか戻っては来るだろうけど、こういうときは大抵、差し引きが全然赤字になるもの。

てことで、株の配当金って出資金の 10% も行かないってのが普通だと思う。優良株はもっと行くかもだけど、投資としては定期預金よりはマシって程度のが多いと思う。例えば配当が平均 10% としたら、元を取るのに10年かかる。11年目以降でようやく黒字。10年以内にその企業がポシャれば損することになる。株主にとっては、大事な資産を何年も預ける以上、増やして返してくれないと意味がない。

会社の口座にもともとそんだけのカネがあるなら、そもそも株なんて発行しないわな。てことで株式会社は新事業の準備や運転資金にまとまったカネが欲しいわけだけど、商売する前にはそんな持ち合わせはない。だから銀行から借りたり、株主を募ったりして事前調達する。てことでいずれ返さなきゃなんない他人のカネなわけで、それを一瞬で稼いで耳を揃えてノシ付けて金利含めて一括返済!なんて豪快なことはなかなかできるもんじゃない。普通は利息や配当を付けて長期で返すわけだ。これやんないと会社は事業ができない。企業にとって株主様は、お一人様お一人様が有り難い神様なわけです。

社員の方は基本、会社側のスタンスは「取り替えが効く」。芸能界やプロスポーツなら大スターの価値は取り替えが効かないけど、普通の会社ならまぁ稼ぎ頭の人がいなくなってもどうにかしちゃうよね。組織は少しくらいのアタマ数が欠けても回るように作るのが定石だしさ。しかも今は労働力がだぶつき気味。買い手市場な様相。替えは欲しいときにいくらでも確保できる。てことで、会社にとっては「株主様>>従業員ども」ですな。そんで株主がうるさい世の中になってきたもんだから、会社としては株主への配当を最優先。配当を充分に出せば、株主が経営に介入してくることはない。んで立場が低い社員の給料はそのぶん抑える、と。

まぁ資本主義の普通の姿ではあるんだけど、これが世の中の普通になるとどうなるか。

「分かりきったことを」と言う人も多いと思うけど、一応言うと、貧富の格差拡大と階層の固定化が始まる。もうアメリカがこうなってるよね。中産階級が消滅して二極分化と。日本も中流意識ってのがなくなってきてそうな今日この頃。中曽根総理の時代、「一億総中流社会」とか言われて、総理でさえ「自分は中流」と言ったりしてた。ほんとにそう思ってたのか、それとも有権者の受けのためなのかは知らんけど、ともかくそういう時代があった。けど今は昔かも。

こうなると、もう多額のおカネが循環するのは経済の上澄みにおわすごく少数の方々の間だけ。大多数の「それ以下」の「持たざる階層」は、吸い上げられて日に日に干上がっていく。格差はますます拡大。それがどの程度までいくとどうなるのかは分からんけど、気がつけば「持てる者」はますます持てる者に、「持たざる者」はますます持たざる者になっていく。

でも、ここで階級闘争とかの血なまぐさい話にはならない。

上澄みの「持てる階層」でも、カネ持ってるだけじゃ話になんないから。才覚とか能力とか、そういうのがないとあっという間に全部むしり取られちゃう。あるいは素人のくせに下手に事業を興して全部スッてしまったり。株主とか出資者ってそういうリスクを負ってるもんだから、出資するときは自分が持ってる知識と技と勘とを駆使して株の銘柄を慎重に選ぶし、配当を取るときは容赦ない。

サラリーマンはその点、損失を出しても最悪でクビになるだけだからね。マイナスは出ないし、汚職してそれがバレたときでもない限り、それだけで法的責任を問われることもない。まさに「♪サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ」と植木等が歌ってたとおり。てことで薄給でもあんまし文句言えないのよね。

てことで、カネだけ持っててもそれだけじゃ駄目ってこと。ならその逆はどうか。カネがないけど才覚や能力・技術を磨いてあればどうか。これ、ある程度イケルんじゃないかと。別に日本一だの世界一だのにならなくても、そこらの人じゃすぐには真似できないものを持つこと。そこが大事なんじゃないかと。結局は今の世の中で個人経営で儲けるには、そういう得意技のほかにブロとしての経営センスも必要ってことで、かなりキツい感じではある。けどまぁ年齢が若ければ、丸腰じゃないぶんだけ就職はなんぼか有利ですな。得意技をテコに企業に入って、その技をますます磨きつつ、独立に必要なものも学んでいく、って手がありそう。ただ会社員でいる限り、実入りは期待できないと思うけど。

かつては「ずっと定年まで会社員でやっていく」ってのが理想の人生のひとつの道ではあったけど、今はそれは、その人のがんばりのかなり大きい部分が会社に、つまり出資者に持って行かれてしまうってことでして。割が良くないわけで。けど経営の素人のままいきなり個人商店を始めたところで、東京じゃどうか知らんけど、少なくとも八戸じゃとてもやっていけない。

そんなわけで、得意技しかできないっつう不完全な状態のときは企業にお世話になる、というのが現実的なんじゃないかなと。現代的な水準で一通りやれるようになったら、そこから独立すればいいと。儲かる軌道に乗せさえすれば、あとは稼いだぶんだけ自分の懐に入るようになると。ま、社員は経営への関与はなかなかできないんで、その習得が難しそうではあるけど。

銘板左端銘板銘板右端

実際は持ち株会社とか企業同士で株の持ち合いで、株主からのうるさい注文がいちいち来ないように乗り切ってるらしい。けどこれも日本独特の慣行みたいなんで、またぞろ外国人の投資家から「日本の株式市場は閉鎖的でウンヌン」と叩かれたり嫌われたりしそう。このシステムはそうそう長続きしなさそう。んでこれまた世界標準に合わせられたが最後、血も涙もない合併・吸収合戦が加速して、貧富の差はますます拡大していく、と。

銘板左端銘板銘板右端

しかしほんと、経営者や投資家は悪どいとか強欲だとか思われがちだけど、万が一ひっくり返ったら自分でどうにかできる量をはるかに超えるマイナスを背負えるからね。だから自由が大きいんだけど、責任とリスクも大きい。失敗したとき失うものがとてつもなく大きい。

それを考えると、サラリーマンの「違法なことをしなきゃ最悪でもクビになるだけ」ってのは明らかにユルい。ペナルティやリスクが緩いんだから、見返りも限定的になりますな。まぁそんな足元を見られていいようにやられちゃってるってのがまたツラいとこではあるんだけど、それが不満ならリスクを取る道に行けよ、となる。

会社員やってるとこのユルい基準が当たり前に思えてしまうけど、そうなりがちな原因って学校のテストにもあるような気がして。最悪でも0点で済むからね。マイナスがない。どんなに下手を打っても、そこより下に落ちる心配がまったくない。損失もない。ほかの人に迷惑もかからない。経営者や投資家にとってもゼロはゼロだけど、それは一番下じゃなくちょうど真ん中なんですな。利益がないけど損失もない。手持ち資産がイーブンならまた同じ規模の新しい事業をやり直せるし、「首がつながってるだけ儲けもの」と取れなくもない。

けど間違うと悲惨。筋道を読み違えると、0点どころか損失が発生。ほかの人たちをも巻き込む。どこで道を間違えたかを早く見つけて直さないと、その間も片時も休まず出血が続く。直しても血が止まるだけで、傷口が塞がるまでさらに時間がかかる。手間取れば出血多量でオダブツ。たとえじゃなく、本当に生命の危機に曝される。

そこらの風采の上がらない零細企業の社長さんたち(大抵は自社株主でもある)を、サラリーマン風情がバカにしちゃいかんってことでひとつ。サラリーマンの目には見えない、リスクという巨大な十字架を背負ってるてことで。

銘板
2011.1.16 日曜
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デフレイリュージョン 8

「不況を理由に、大企業が労働者から搾取してる」っつう構図がよく言われるけど、そんなわけで、企業ってのはただの番頭さんで、ほんとはその上にいる資産家たちが冷徹にプロいビジネスをして確実に儲けるぶんだけ、無防備な下層の人たちがやられちゃってるってことなのかもしんない。それでも、吸い上げたぶんだけ使ってくれれば市場全体としては釣り合うはずなのに、実感としてはどうもそうなってないっぽい。けどここじゃ「それでも実は総額は均衡してる」と仮定して妄想を続けてる。だとすると、何が起きてるのか。

経済の太い流れって今や、金持ちの間でしか巡ってないんじゃないのかと。ブランド信仰でもないけど、一般人でさえ、個人の小さなお店でより、支店がいくつもあるスーパーみたいなでっかいお店でしかモノを買わないじゃないの。そしたら金持ちなんて、庶民が作ったり流通させてたりの安物やしょぼいサービスなんてなおさら買わないんじゃないの? 地元ベースの小規模経営の商売は、大規模流通・小売業が90年代から仕掛けっぱなしの価格破壊に付き合わされてダメージを受けて、そのうえ厚い財布の大旦那さんたちにまでそっぽを向かれ。それでますます一般社会全体でカネが回らない、でっかい金額は資産家たちの間だけの、人数的には小さな世界でものすごい勢いで回ってる、と。

ま、そういう仮定に辻褄を合わせる理屈なんで、それだけっちゃそれだけ。

それでもまだ考え続けてみる。とすると、もはや庶民相手の商売なんてやったって、労力の割には報われないってことかと。確かにアタマ数は多いから「薄利多売で塵も積もれば」って気もしないでもないけど、どんなにたくさん売っても、利幅が薄いってことは原理的に赤字に転落しやすい危ない橋ってことでもある。こりゃもう商売するなら少数の金持ちを相手にした方がよっぽど効率よさそう。金持ち階級の上澄みの中だけでぶんぶん回ってるカネをストローでこっち側に吸い出すにはどうするか、そこが現代の商売の知恵の絞りどころじゃないのかなーと。

そういや「持てる者」「持たざる者」って概念は中学か高校の社会で学んだけど、そのときの説明は資産を持ってるか持ってないかの違いだった気がする。けど今の「持てる者」「持たざる者」ってちょっと違うような。もちろん物理的な資産も含むけど、それを運用する知恵・知識・情報・技術あたりがカギになってるような。

いや、うちの地元の資産家でさ、今の当主さんが運用の知恵・知識・情報・技術とも全然だめな人がいて。地元経済の不振が長引くうちに自慢の不動産が軒並み赤字物件と化してしまって。自前の不動産をどんどん売って現金化してどんどんぶち込んだけど状況はまったく好転しなくて、とうとう破産してしまった、というのを思い出したもんだから。しかも経営責任を問われて自分の運営会社から追い出されてしまって。

それで考えるとさ、大事なのは物理的な資産も確かにそうだけど、それだけじゃあっという間に食いつぶしてしまう。それより自分の脳内に身に付けてるもののほうが、今は影響がでかいんじゃないかと。それでよく言われるのは「人脈」。けどまあそれがあっても利用する技がなきゃ「あの人は毒にも薬にもならんただのイイ人ですな」で終わり。

じゃあ人脈をも駆使するそれは一体何だと言えば「技能」となるわけで。けどこれタンス屋が立ち行かなくなった話と矛盾しそうだな。タンス屋の場合は、縮小する市場の中でブランド化の流れに乗れなかった人たちが消えていったわけだ。タンス屋を続けていくには、抜きん出た製作技術と抜きん出たセールス技術の両輪が必要だった。どっちかひとつに絞るとしても、「ほかの同業者と同じ」じゃもう客は相手にしてくれないわけで。それを2つかそれ以上身に付けることかと。とりあえず一人でどっちも抜きん出るのはツラそうなんで、それぞれを専門に担当するタッグを組むってのが現実的かな。そこを取り持つのが人脈やら人脈を駆使する技、となりそう。

「あれをやるために、これをできるようになろう」と目的先行で技術を習得していくのもいいだろうし、もう持ってるものを磨いていって、そこから儲ける筋道を考えていく、というのもいいと思う。そういうのがいくつかあると、ひとつひとつは世間から見てナンバーワンじゃなくても、組み合わせればその人にしかできないオンリーワンになるわけで。組み合わせる要素が多いほど本当にオンリーワンになっていくわけで。「ナンバーワンよりオンリーワン」なんて90年代からよく聞くけど、そういうことなんじゃないかなーと今になってようやく掴めてきたような。

昭和の昔、学校の先生はよく「これだけは誰にも負けない、というのを何でもいいからひとつ持て」なんてよく言ってたりしたけど、プロ化が進んだ今はもう、ひとつじゃ足りんですなぁ。つかどうでもいいけど昔のこういう大人ってさ、実際に何か得意なものを持ってる人のことを「あんなものが何の役に立つ」と言ってみたり、自分自身の「誰にも負けないもの」は非公表だったりで、なんだか眉唾っぽかったりもしたけどさ。

まーそんなわけで、複数の技能を身に付けて組み合わせて、そこらの人がちょっとやそっとじゃ真似できない特技にしちゃうのが吉、と出ましたな。おいらで言うと何だろ。宇宙機と映画が好きなんだが。どっちも一般の平均よりはマニアックな感覚が磨かれてるとは思うけど、それぞれでもっと上の人はごろごろいる。でも一人で両方って人は今までほかにお目にかかったことがない。ここだけ見ると行けそうだけど、この2つで稼ぎにつながりそうな接点を何も見いだせてないのが問題w

銘板左端銘板銘板右端

親の資産を受け継いだだけの金持ちは確かにいるだろうけど、運だけで金持ちになった人もいるだろうけど、大抵の金持ちって血のにじむような忍耐や努力をしてたりするよね。それをやればいいだけの話じゃないかと。「食ってくだけで精一杯」という人には酷な話だけど、自分の能力がみんなと同じでいいんなら、大多数の人たちと一緒に少しずつ経済の底辺に沈んでいくだけ。

何もしなかった結果みんな一緒にそうなるんなら、政府がどうにかしろとかセレブは搾取をやめろとか、同じ立場同士一致団結して反旗を翻そうとかそういうのってどうなんだろ。必ず存在するはずの応分の自分の責任を忘れてやしないかと。自分の現状が本当に最善を尽くした結果なのか、ちょっと考えてみちゃいかがかと。

「考えるよりまず行動だ!」と威勢のいい武闘派の人もいらして、それもアリかと。んで確かに行動と体験で思い知るのが一番身に付くと思うけど、何も考えない、何も気付かない、よりも、自分で考えて自分で気付くのもけっこう効き目があると思うよ。

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2011.1.17 月曜
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デフレイリュージョン 9

「デフレだ」「不況だ」「デフレだから不況だ」「不況だからデフレだ」「自民党が悪い」「民主党が悪い」「官僚が悪い」「アメリカが悪い」「中国が悪い」。もうそんなの聞き飽きた。この聞き飽きたセリフの中にはいつも「自分が悪い」は入ってないのな。

もう10年以上前、商売に関する講演を聞いたことがある。伊吹卓というお方。

この人のお話は明快だったよ。「売れないのは自分が悪い」「努力しても売れないのは、努力を向ける方向が悪いから」。つまり、がんばって突っ走るのはいいけど、正しい筋道で正しいゴールに向かって走らなきゃいつまでも報われない、という分かりやすい話で。

けどそれは一般論。個々のケースで具体的にどうすればいいかは自分で道を見い出さなきゃなんないわけで、その空隙をつなぐ肝心の方法やコツをどうにも思い出せなくてw てことで全然応用できてないんだが。

もうひとつ別なお方のお話でも。今回はおもっきし受け売りで申し訳ないけど。

砂漠緑化の権威で実績も豊富だった故・遠山正瑛教授(鳥取大学)の著書を読んだことがある。教授によると、砂漠緑化はもう方法が確立されていて、やると案外すんなりできてしまうものだそうで。それでもあまり広まらない。なぜか。いつも最も大きな障害になったのは、現地に住む人の「駄目に決まってる。無駄だ無駄だ」という強い思い込みだったそうな。現地の人たちはそれまでいろいろがんばったけど、いくら努力しても砂漠の侵攻を止められず、なすがままだった。その苦い経験から、外国からポッと来た先生が「緑を取り戻しましょう」なんて言っても信じてくれない。協力してもくれない。それで計画が進まない。ということらしい。

考えるに、現地の人たちの本職って、土に作物を植える農家や土に生えた草を家畜に食べさせる遊牧民とかなわけで、砂漠の緑化についてはプロじゃないのよね。そういう人たちに問題解決を押し付けたって、そりゃなかなかうまくいかんわ。で、その技術の研究開発を専門にやってきた砂漠緑化のプロが取り組めば、ゴールに向かう正しい方向を示せる、その方向でやればやるほど成果が上がる、ということかと。

今書いてて思ったけど、日本各地の市街地の衰退って、上に書いた「売れる努力の方向が悪い」や砂漠化と似てる気がする。現地の人たちは個人ベースでも寄り集まったりしてもがんばってきたけど、郊外型量販店の猛攻にはとうとう打ち勝てなかった。「もう何やっても無理」的な諦めムードだったりして。ここで砂漠緑化を例に取ると、ゴールに向かう正しい道を示すプロの登場が待たれるなぁ。つか自称プロなら掃いて捨てるほどいるんだけどね。あるいは空論だけ振り回す無責任な人もそりゃもうウジャウジャと(おいら含む)。

一般論としても、世の中で食っていくのってさ、うまくいかないと「あいつが悪い」と真っ先に他者のせいにしたくなるもんで。これ、自分の努力や能力が足りないせいだとなぜか思い至らないご都合主義の人もいるけど、「自分で可能な努力をすべてしてみたが、何をやってもどうにもならなかった」と経験に基づいてる人もいると思う。

ご都合主義な人はちょっと言ったくらいじゃどうにもなんないから放っとくとして、「努力しても駄目だった」という人は、エネルギーをぶち込む方向や方法を今一度、自分では思いつかなかったものがきっとあるとして、その道の本当の専門家(自称の人ではなく本物)の意見を仰ぐ形で再検討してみるのはいかがでしょうか、と。ま、言うは易しだけどね。自分だけじゃ気付かないものを見つけるってとこが既に大変なわけだしさ。

これって映画『七人の侍』とも似てるね。

とある農村。とある村人が、数カ月後の麦の刈り入れの時期を狙って、野武士集団が襲撃をかけることを察知。農村の民たちは、皆で相談する。「野武士を突っ殺す」の意見に対してすぐにツッコミが入る。「俺たちゃ百姓だ。戦の仕方は知らねえ。逆らえばただ殺されるだけだ。大人しくあるものみんな差し出して許してもらうべ」と。すると「飢え死にするより刺し違えて死んだ方がマシだ」との反論。結論が出ないんでみんなで長老に話を持ちかけると長老、鶴の一声。「やるべし」。いやそれは……。「腹を空かせた侍(浪人)を雇うだよ」。

自力じゃ対処できない問題には、その道のプロに頼むのが合理的ってことですな。

んで、対処の方向が決まってもなかなかうまくいかない。やっとの思いで「これはいける!」的な初老の浪人(勘兵衛)を発見。同時に武者修行中の若侍(勝四郎)もゲットできそう。百姓たちが勘兵衛に相談を持ちかけると、状況を聞いた上で「できぬ相談だな」。義侠心に駆られた勝四郎は乗り気。ただこれが危ない。

「先生、私ならこの百姓たちに竹槍を持たせて……」「それは儂も考えた。しかし……」。勘兵衛は具体的な戦略を練りつつ、実現性の難しさに困ってた。そこまで見えたうえで悩んでた。勝四郎にはそのセンスがまだなかった。「この百姓たちに竹槍を持たせて……」と張り切って言った時点では、本人は最高のグッドアイデアだと思ってたんだろう。

専門家に話を持ちかけるのはいいけど、専門家なら誰でもいいわけじゃないと。なかには素人に毛が生えただけの安易な発想しかできない「専門家」もいるだろうってことで。専門家を選ぶほうにも目の確かさが求められますなぁ。

……、

……、

……。

ここでまた「餅は餅屋」って言葉を思い出したんだが、今は餅もスーパーだよなぁ……。まぁスーパーで売ってるサトウの切り餅は餅屋の餅ってことか……。

銘板
2011.1.18 火曜
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デフレイリュージョン 10

プロが増えたことでのデフレ気分ってさ、経済の売り手側メインプレイヤーが軒並み企業と給料取りになったからってほかに、自動化の影響もあるんじゃないかと思って。プロは手際がいいからプロなわけで、これは段取りがいいとか先を読めるとかもあるけど、自分の手間や工数を減らすってのもある。自分が手を下すまでもない作業は、もっと人件費が安い人を使うとか、機械にやらせたり。人を使うならまだしも、機械なら買ってしまえば、あとはときどきメンテすればずっとほとんどただで使える。エネルギー代はさすがにかかるけど、人を雇うよりずっと安くつく。

世の中、最近は IT 革命がドータラってなってるね。けどその前に既に、機械化・動力化っつうのがあった。産業革命ですな。新旧どっちの技術革新も作用は同じで、2つの利点があった。今まで不可能だったことが可能になって新規の産業を生む効果と、既存の産業にとっては人減らしの効果。今現在進行中の IT 革命は今さら言わずもがな。昔の動力機械での産業革命だと、日本じゃ例えば、醸造業にすごい効き目があった。

日本酒の仕込みのイメージって、ハチマキとフンドシのガタイのいい若い男たちが何十人もかかって、杜氏の号令のもとワッセワッセ、ヨイサー、ドオリャーと忙しく、しかし整然と働くイメージを持ってる人ってけっこう多いと思う。戦前までならだいたいそんな感じだったかもしんないけど、今は総勢5人くらいらしい。なんでそんなに人が減ったかって、実はその労働のほとんどが、原料や仕掛かり品の運搬だったから。ベルトコンベアなり台車なり圧送機なりポンプとホースなりを導入していったら、必要な人数がそこまで減ってしまった。

5人というのもまだ減らせる余地があったり。酒のもろみの発酵は速度が速いんで、一瞬たりとも気が抜けない。てことで即座に正確に対応するために、杜氏1人を含めて技術を持った人を5人も使う。これが醤油(日本酒とは原料が違うだけで、製造の原理と工程は同じ)になると発酵の速度が遅い。時間にして日本酒の5〜10倍かかる。こうなると発酵状態の管理をますます機械に任せられたりもして、作業員は杜氏1人と助手1人の合計2人で済んでしまったりして。つか最先端の醤油工場だとほぼ全自動だったりもして。

産業革命やら IT 革命って既存産業の省力化をもたらすわけで、言い方を変えると、今までの雇用の受け皿を縮小させてしまう。産業革命当時のイギリスじゃ、それで仕事にあぶれた労働者がラッダイト運動なんつう暴動を起こしたりもしたらしい。今はさすがにそこまでのことにはなってないけどさ。

んで新技術を導入すると、それまでいろいろ外注してたのも内製でこなせるようになったりもするから、その会社から注文を取ってたほかの会社の売り上げも減る。前の仕事のときさ、職場で簡単な DTP を始めたんだわ。新聞の折り込み広告、広告のデザイン、名刺、年賀状、ダイレクトメール。こういう難易度が低いやつだけ内製にしたんだわ。

これで印刷屋さんへの発注額は何分の1かにガタ減り。難度の低いものは単価も低かったけど量が多かった。その印刷屋さんのよその取引先からもだいたいそういう流れで注文が減ったらしく、何年かしたらとうとう廃業しちゃったよ。社内で簡単な DTP を始めた企業やお店としては、IT でコストダウンを実現できていい結果を得たんだけど、社会全体としてはそういう結果に結びつくんですよ。

映画の撮影・編集現場もデジタル化でコストダウンが進んでるよね。日本映画が最近元気なのは、フィルムに関わるコストが消滅したんで、そのぶん採算ラインが下がったことが大きいんじゃないかと。撮影・編集で使うフィルム代って、メジャー作品だと1000万円なんて普通にかかってたらしいし。映画産業ってまさに先行投資を時間差で回収するビジネスなわけで、黒字が出たら配当を出す約束で、作品ごとに出資者を募るやり方が一般的になってる。デジタル化での経費削減でそのぶん黒字が増える、配当も増える、ますます出資者が集まるようになる。ますます映画産業が活気づく、ますます作品の質が上がる、ますます客が増える、という好循環が起きてるんじゃないかと。

最近は小規模の映画でも、映像の完成度が高くなってる気がする。フィルムと違ってデジタルのメディアは上書き可能なんで、NG を出してもフィルム代が無駄にならない。しかもその場ですぐに確認できる。てことでテイクが気に入らなかったらすぐに気楽に撮り直しできるってのもあると思う。編集段階で画質をノーコストでいじれるのもあるだろうし。

フィルムじゃ不可能な利便性を獲得した上にコストも下がる。こりゃ飛びつかない手はない。

と同時に現像所の受注は激減。スプライサーと呼ばれる編集専用の機械も、PC の映像編集ソフトに取って代わられた。今でもフィルム画質にこだわる映像作家がいるけど(おいらも客として、フィルム映像独特の質感が好きだったり)、いずれデジタル映像で擬似的にそれを再現するソフトウェアが開発されて(けっこうすぐに作れそうな気がする)、本格的にお払い箱になるんじゃないかと。映画の製作コストは下がったけど、付帯する産業はそのぶんだけ衰退ですな。今はまだ配給用のフイルムプリント需要があるけど、映写機もデジタル化が進みつつある。あと10〜20年程度で、現像所の食い扶持はほぼすべて消滅すると思われ。

このまえ NHK で電子書籍出版の特集番組をやっててさ。これ、小売価格が半分くらいになるんだよね。そして作家の印税は数倍(契約によるだろうけど)。出版社は自分の利益分をきちんと確保してるはずだから、紙の本の製造・流通、在庫管理のコストがどんだけでかいかよーく分かったわ。

いずれ書籍のほとんどが電子化されるとおいらは思う。今は「本はやっぱり紙じゃなきゃ」という向きが多そうだけど、例えば音楽 CD が出始めたとき、「レコードじゃなきゃ」と主張する人たちがけっこういた。んで レコード → CD で値上げさえしたのに(レコードは邦楽アルバムで物品税込み2,800円。CD は同3,500円)、メディアの入れ替わり状況は一度たりとも後戻りすることはなかった。

四半世紀経った今、新譜をアナログレコードで出すアーティストなんか DJ 用途を除くとほぼ皆無なんじゃないかと。さらにネット配信っつう圧倒的に安くて便利な手段が普及しだしたんで、もうアナログレコードに戻りたい人なんかいなさそう。と同時に、レコード屋さんというか CD 屋さんってほんと少なくなりましたな。

そんなわけで、今しばらくは出版市場は「本は紙に限る」派がまだ幅を効かせてそうだけど、四半世紀と言わず10〜15年もすれば、音楽業界みたいに媒体はほとんど電子オンリーになるんじゃないかな。本屋も、読者にとっては不便なだけの独特の商習慣がまかり通る問屋流通制度も、これが原因で壊滅すると思う。まぁ今はブックリーダー同士で規格が違うっつう問題があるみたいだけど、PDF 規格にすれば何の問題もないんじゃないかと。Adobe の特許が切れるのを待たなきゃなと思ってたら、とっくにオープンスタンダードになってたISO のプレスリリースは2008年7月ですな。

てことで既存の産業に新技術が浸透するってのは、モノとカネの流通量が減るってことでして。産業規模を縮小させるってことでして。それが世の中を不況に向けるバイアスになったり、不況感を演出する下地になったりするんじゃないかと。金儲けの効率が上がっるってことは、儲けに関わる人数も減るってことだから、稼ぐことでの幸せ感や充実感も広くは行き渡りにくくなるってことじゃないかと。

そのぶん同じ新テクノロジーで新産業が立ち上がるんだけど、今まで既存産業で働いてた人がみんなすぐに鞍替えできるわけでもなし。市場規模縮小ではじき出された労働者は新しい職をなかなか見つけられなくて、それもまた不況感の演出に一役買ってるのかも。

それなら、世の中の仕事を効率化させる仕事が実は当たってるんじゃないかとなるわけで。今は IT 革命の真っ最中だから、IT そのものや IT に制御される機械関係がいいんじゃないか、ともなるわけで。けど表向き、そこらの技術は中国の活躍+円高でおもっきし日干しにされてダメダメなイメージがあるような。ところが……。

八戸には工業高専があってさ、ここの卒業生、昔も今も全国から引く手あまただそうで。今年で20倍とかいう話。ここの卒業生1人につき20社からの斡旋があるってこと。世の中、新卒は就職氷河期だとかずーっと言われてるけど、この学校には関係のない話らしい。もちろん卒業生の質がいいんだろうし、八戸高専の就職斡旋が敏腕だってのもあるんだろうけど、それにしても、それにしてもな濡れ手で粟。

国内のハイテク系産業って、表向きはダメなニュースを出しといた方が総合的に都合がいいんじゃないのかな。マスコミはそこらへんを感知してるのかどうか謎だけど、ともかく日本の工業はもうダメ、だから不況、いつまで経っても不況、これからもずっと不況、もうあっちもこっちも全然だめで首吊るしかない、って調子の報道を出したがるみたい。それでこの国を絶望感でいっぱいにしたいみたいだけど、たぶんそれも、そうした方がマスコミにとっても利益が見込めるからってだけなんじゃないかな、と。

マスコミだって営利企業なんだから、自分の不利益になることはしないでしょ。逆に、利益になることならどんどんやるでしょ。それが印象操作だろうと何だろうと。「これが誤解を与えることになるという見解は、記事を出したときにはなかった。決してわざとではなかった」と言葉だけででも言えば、ある程度の責任回避になるしな。日本の法律も世論も、過失なら大目に見る傾向があるし。

そのやり口は政治家先生がよくやってるしね。「秘書が勝手にやったことで、私は一切知らされていなかった」とかさ。んでその秘書を自殺させれば「死人に口無し」で一件落着、と。

新聞は読者から購読料をもらってるから正直度が比較的高そうだけど、広告がないと成り立たないわけでもあるから、スポンサー企業の意向に背くことはできんでしょ。民放なんか収入源がほとんどスポンサーだから、企業の意向に合わせる度合いはもっと高いはず。NHK はスポンサーがない建前だけど、そこらの束縛から完全に自由かっつうとそうでもなさそう。仕事を効率よくやるため、さまざまな企業や立場とのお付き合いがあるだろうから。

てなことで妄想ベースで話を繰り出してるけどさ、やっぱこの不況って実際以上の見せかけなんじゃないかって気がしてるよ。ネガティブバブルというか。

とりあえず IT 革命でいろんな業種が一気に効率化してきてるっつうのは、それだけそういう業種への出入り業者市場の規模が小さくなったってことなわけで、それで締め出された人たちが不況感を募らせてるってのは充分にあると思う。同時に新たな産業も立ち上がってて、古い産業分野から経済資源を横取りする形で市場を形成してるはず(携帯電話産業とか)。けど旧産業から締め出された個々の労働力がいきなり新産業に鞍替えできるわけでもないからね。今はそんな過渡期だからバランスが取れてないっつうのもあるのかも。

で、儲かってるはずの新産業の経営陣は「世の中が不況だから」という理屈で、株主への配当が暴走しないように持って行けて、あるいは株主に説明する事業計画を甘めにできて、同じ理屈で従業員への報酬ももっと抑えられる、て感じかな。株主には「人件費がどうしてもこれだけかかってしまって」と言い訳、従業員には「株主に配当を渡さないと会社がやっていけない」と言い訳(←おいらの勝手な妄想ですよ)。

するってぇと企業の口座に、世の中に出回らない死に金だけがどんどん貯まっていく、となるな。これもまた「今の日本経済が予断を許さないから」と自己防衛とか危機管理とか理由を付けて引当金名目にでもすれば、その埋蔵金への課税もある程度は免れられる、と。

ほんと勝手にフィクション語ってるだけなんだけど、けっこうそれっぽい気がするなぁ。

銘板
2011.1.19 水曜
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デフレイリュージョン 11

1月7日1月8日のログで、模型業界は健全にインフレしてることを書いたけど、インフレしてるのはほかにもあるね。しかも模型より市場規模がはるかにでかい。

まずは書籍。漫画『シティーハンター』単行本。消費税導入の前年(第14巻。1988年)と、導入から2年後(第2巻。1991年)に売られてたもの。

『シティーハンター』単行本価格_1988年
『シティーハンター』単行本価格_1991年

本体価格は変わりないですな。この当時の消費税率は 3% 。書籍の場合は端数は切り捨てることになってた。てことで、本体価格がもとから1円おまけになったのは、単に消費税の処理のせい。これがですな、今現在はどうかっつうと、2011年1月29日時点(この日記、また遅れてます)での Amazon での新品価格は 第2巻で

『シティーハンター』単行本価格_2011年
なんと税込980円。

今の税率は 5% だから、本体価格は933円(端数切り捨て)。20年前の本体価格(359円)と比べると、インフレ率、20年で約 260% ですよ。年率 13% って正常すぐる……。確かに出版社が集英社から徳間文庫に変わってるし、「完全版」として付加価値を付けてるから同列にするのは乱暴かもしんないけど、既に元を取った商品と考えると、据え置きや値下げでもおかしくはないはず。「完全版」といっても、表紙の絵柄を替えて、原稿から版を取り直して、作者インタビューでも足した程度のような気もするし。

小説の文庫本はどうかなと。文庫本は大抵はハードカバーで元をとっくに取った後のものだから、昔買った文庫本と今売ってる文庫本とは、値段の差がほとんどないかも。サンプルは手持ちの『きまぐれロボット』(星新一 著)。1981年(昭和56年)時点で180円ですな。

『きまぐれロボット』文庫本_1981年

んでまた最新価格を Amazon で調べてみたらば、

『きまぐれロボット』文庫本_2011年

380円ですか。税抜き本体価格は361円(端数切り捨て)。やっぱし上がってますな。インフレ率は30年で約 200% で、年率だと約 6.7% でしたよ。「シティーハンター」の半分の速度だけど、ハードカバーで元を取った後の文庫本と考えると、やっぱし普通にインフレしてるよなぁ。

ラーメンもかなりインフレしてる。今一番激安なラーメンって280円くらいかな。んで、おいらが知ってるのは、『男はつらいよ』の昭和46年の作品での屋台ラーメンがさ、60円だか80円だかだったってこと。高めで80円としてみるか。子供の頃にテレビのロードショーで観て、「安いなオイ!」と驚愕したのを覚えてるw

昭和46年は西暦1971年。40年前。高めの記憶で80円として、インフレ率は40年で 350% だから、年率で 8.75% かよ。やっぱしまともにインフレしてるってば。ていうか今の特に付加価値を付けないラーメンって普通、500円はすると思うぞ。これでいくと40年で約 625%、年率約15.6%。すげー上がってる。

書籍もラーメンも、ここ10年くらいだと価格据え置きなのかも。今まで値上がりするのが普通だったのが止まったんだから、それを「後退した」と捉えれば「インフレじゃないからデフレだ」と言えるのかもしんない。けど20〜40年っつう範囲で見ると、昔に逆行してるってわけでもないね。短期判断なんつう、もしかしたらノイズ的な変動を見てるだけのことなのかも。

趣味や出版関係はデフレ圧力とかいうものに逆らって値上げできちゃうもんなのか、と思ったら、音楽 CD は微妙に値下げしてるね。いや、邦楽のアナログレコードの値段って、物品税込で2,800円だったんだわ。けど CD はずーっと3,000円越えなもんだから、インフレしてるじゃんと話を持って行こうとしたのよ。けど物価調査ってメーカー希望小売価格じゃなく、実売価格でやるものらしくて。レコードの時代やネット通販がない時代はメーカー希望小売価格(物品税時代は税込3,500円、消費税 3% 時代は同3,005円、5% 時代は同3,059円)のままが実売価格だった。

けど今はネット通販同士で値引き攻勢の応酬らしい。倖田來未の2009年のアルバム "TRICK"(CD のみの通常版)は Amazon では 7% 引き。Yahoo! ショッピングだとなんと 20% 引きだぞ。

アーティストやアルバムによって値引率が違うみたいだな。いきものがかりの2009年のアルバム『ハジマリノウタ』だと、Amazon は 26% OFFYahoo! ショッピングは定価のまま(下の方に 15% 引きとあるけど、本当にそうなのかよく分からん)。

値引きや価格破壊、つまりデフレ的な現象が起きる/起きないっての、なんかこう、単にそのジャンルで販売業者同士が安売り競争を仕掛けるか仕掛けないかの違いのような気がして来た。どこのジャンルでも安売り競争は勃発するんだろうけど、そういう体力勝負のチキンレースな売り方をする業者たちがプライスリーダーになるかならないか、の違いのような気がして来た。ああ、なんかちょっと見えてきた気がする。

値上げの悲願が叶ってる業種って、「安売りすりゃいいんだ」教が支配しなかった/できなかった分野。狂ったように安売りに邁進する業者は大抵、マーケティング学の教えを忠実に守ってるところ。つまり「安売りの体力勝負で同業他社を潰し、独占を確立したらあとは好き放題に儲ければばいい。ツラいのは今だけだ。これを乗り越えれば無限の富と栄光が待っている」を鵜呑みに信じてしまってるところ。はじめは泡沫業者を景気よく蹴散らせるから信心は強くなる一方。けどその教義はライバルも知ってる。強豪がいくつか残った状態になると、いつまで経っても勝負がつかない。同じ技の応酬だから。そして安売り競争だけが続いていく、と。

アホだよなぁ。ほんとにそんなのがどこの業界でもポンポン成立したら、1業種1業者の社会主義経済になるじゃん。自由主義はそうならんように法律を定めてるし、それでも止められないなら慌てて新法なり新条例なりを作って必死に防ぐに決まってるじゃん。法規制をかいくぐっても、風当たりが強くなったり、消費者に呆れられたりするリスクは考えてないのな。

で、例えば模型業界はそういうタチの悪い勢力を寄せ付けなかったんじゃないかと。模型は趣味だからこそ、客はお店の人やほかの客からのマニアックな知識を欲しがるもの。情報交換の場として専門店が必要なもの。スーパーがおもちゃブースの隅に2割引のプラモを積み上げても、そういう客には魅力に見えないんだよなぁ。

ガンプラブームの折、子供たちは模型店に日曜の早朝から並んだ。そして定価でガンプラを買った。模型店は個人経営や地方の中小・零細企業が多かったんで、品薄の製品の確保にほんと苦労してたらしい(問屋が売れない商品を抱き合わせで押し付けてたらしい)。一方その頃、例えばイトーヨーカ堂は大手の強みの大量一括購入で、ガンプラを潤沢に確保できてた。そしていつも通りに定価の2割引の値札を貼って、おもちゃ売り場のプラモコーナーに、ほかのプラモと一緒に積み上げてた。

ガンプラが欲しい子供にとってそこは確かに穴場だったけど、たとえ安くても、そこで買うのはちょっと恥ずかしかった。売り場担当の人はあからさまに素人だったしな。ガンプラの価値を知ってるなら、あんなぞんざいな売り方するはずないし。必要な塗料や筆さえ揃ってるか怪しかった。やっぱしほら、専門知識を持つ人々が集結するお店で大事に扱われてる商品を買いたいじゃないの。ステイタス意識というか。組み立てや塗装の裏技を教えてももらえるしさ。

そういう専門性が必要なものに関しては、安売り至上の量販店はてんで弱い。一応、家電や PC なら詳しい店員がいるって感じがするけど、実はそうじゃないんじゃないかと。ここらは雑誌やネットで商品情報が出てるから、客は自分で調べて事前に目星を付けてから店に行くスタイルが定着しとりますな。お店の人は同じ程度の情報を持ってれば、あとはどの商品がどのブースにあるかを案内できればいいですな。それって詳しいと言えるのか? 客として来る一般人が簡単には入手できない情報や専門知識や裏技、一般人が誤解してる情報の本質、そういうものを知ってる、それが専門店の店主さん店員さんというもの。

最近「○○ソムリエ」って言葉がちょいと流行ってる感じだけど、そういう人物が店にいるかいないか。そこが大事かと。客がそれを求める業種/求めない業種っつう濃淡はあると思うけど、そこらがテコになりそうな。

例えば食品スーパーも、安売り競争なんて自分を含めて皆を苦しめるだけなんだから、こういうところに力を入れて、値段もよそより上向きで差を付けてみたらどうですかと。食品の安全基準や品質について知り尽くしてて語れる人を使って、自分とこの製品がどんだけどの方向で安全・美味かをアピールしたら高く売れるんじゃないかってこと。

おっとそれって今気付いたけど、今風の「プロを駆使する商売」に適ってるんでないの? てことは、その道のプロがいる強みをきっちり広報するプロとの連携が必要ですな。

銘板
2011.1.20 木曜
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デフレイリュージョン 12

その線で考えると、やっぱそうだなーと。

このまえの10月にさ、すごい久しぶりに自分で電化製品を買ったのよ。それはビデオカメラ。妹に娘が生まれてさ、おいらにとって初めての姪っ子はもうかわいくてかわいくて。しかも生まれたばかりの赤ちゃんってほんと1日1日で成長して変わっていくんだなぁ。それを記録したくなって。んで妹夫婦はビデオカメラを持ってなさそうだったから、出産祝いってことでビデオカメラを贈ろうと。

で、仕事の帰りに電器量販店に行ったらさ、おいらビデオカメラ買ったことなくて、しかも事前調査もなしでさ、どれにしていいか分かんないわけ。フリップに書いてるスペックと値段がメーカーや製品で一致してなかったりすると、ここに書かれてない売りがあったりするんじゃないかとか。てことで店員さんに尋ねてみたんだけど、返ってくる答えはそこに書いてあることだけ。いやそれはあなたの音声でわざわざ聞かんでも分かるから。その手間を省くためのフリップだから。ていうかあんたもろに逐語音読してるよね。

これなら別に通販でもいいんじゃん。ここの店の売りは一体何なんだよ。

結局、自分の勘と予算で商品を選んで買ったよ。ほんと通販で間に合う。

食品でも家電でも、でかい売り場面積を確保して、品揃えと安さで勝負っつう物量作戦が幅を効かしてる。けどぶっつけ本番でいきなり買いに来た客にさえ自分の商品の説明をろくにできないっての、どうなのよ。

銘板左端銘板銘板右端

ここまで書くと「じゃあ自分でやってみせろ」となるわけだが(汗)。

申し訳ない。今すぐは無理。具体的にどうしていいか分かんないから。けどこの方向、行けそうな気がするなぁ。なんとか実行できる状況を作れないもんかなぁ。

銘板
2011.1.21 金曜
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デフレイリュージョン 13

さてさて、くだらん妄想でしかない経済トークは今日で一区切り。今回でネタ打ち止め。

デフレ感ってほかに、国の財政がヤバいってのもあるかも。国庫をマイナスにしてまで財政出動しても、税収は落ちるばかり。今までの財政出動が効かないことが分かってるのに、それでも景気浮揚の名目で、いろんな勢力があんな理由こんな理由をこじつけてはひたすら国の金を引き抜く。必要な出費もあるから、どの勢力も「必要だから」と言っては持って行くんだろうけど。誰も自分の事業が不要だなんて思っちゃいないだろうし、仮に思ってても、絶対にそうとは認めないだろうし。てなことで「事業仕分け」のご登場。

その事業仕分けで関係者を泣かせて浮かせた支出。それが焼け石に水になるほどでかい予算を借金でこしらえたら、そりゃ国が火の車になるわ。あんな意味分かんない予算編成、ほんとよく出せるよ。

つか税収が落ちてるのって、不況のせいにする前に抜け道があるからじゃないのかな。脱税は違法だけど節税は合法。今はこの節税が徹底されてるからじゃないのかな。不況で税収が落ちてるんじゃなく、どこの企業も不況を口実に会計や決算を合法的にいろいろ操作して、できるだけ税金を払わないようにしてるからじゃないのかな。会社の会計だって今やその道のまっとうなプロが仕切ってるってことで。

税務署にまっすぐ税金を払うより、会計事務所に手数料を払って、会計事務所経由で税金を払った方が結果的に安く上がるってんだもんな。脱税より雲泥の差でまともな行為だけど、おかしな話ですな。税務署上がりの人がやってる会計事務所も多いみたいだし。そうなったらもう税制の合法的な抜け道裏道、勝手知ったるじゃないのかと。

てことは本来、会計事務所に依頼する税務関係の仕事を減らすと、どこの会社も支出が減ってそのぶん利益が出て、税収も増えるはずなんですよ。法人税は利益に応分でかかるから(損失が出ててもゼロにもマイナスにもなんないけどさ)。けど会計事務所に税務をお願いすると、トータルでは安く上がる。なんでか。

きっと税制があまりにもしちめんどくさいからでしょ。

たぶん税務署だの国税庁だの中の人たちも、抜け道がいくつもあることは分かってるはず。日本の税制を最もよく理解してるプロだからね。けど恐らく、改正するにはめんどくさすぎてその抜け道を塞げない。あるいは改正すると税務署や国の財政に何やら不都合なことになるから、わざと放置してるのかも。

てことで、まっすぐ税金を払うより中間業者に手数料を払った方がまだおトク、というねじくれた状況になってしまう、と。そしてそのぶん国や自治体の上がりが減る、と。財政はますます赤字、と。しかも額面の法人税率が高いままなもんだから、外国からの進出企業はもっと額面税率が低い国にどんどん取られてこっちに来ない、と。経団連からは「こんな高い税率では、ただでさえ不況・円高の厳しい状況下の日本企業が競争力を維持できない」と叩かれる、と。

企業の業績不振の言い逃れにわざわざ材料を与えてますがな。

ある企業の業績が悪けりゃ、そりゃその企業のやり方が悪いんですよ(伊吹卓氏からの受け売り)。そこから行くと、業界全体の景気が悪いのなら、その業界全体が客の意向を掴めてないってことになるかねぇ。国も、税制っつう大切な集金システムが今どんな状況なのか、客(納税者)がどう扱ってるのか、ちょっと考えてみた方がいいんじゃないかな。「自分の用意してる物は完璧だから相手が悪い」(=オレが正しいお前は違う)ってのはただのご都合主義ってことで。

前にも書いたけど、自分の現実が思い通りになってないのを、税制のせい、納税者のせい、株主のせい、不況のせい、円高のせい、中国のせい、とかなんとかいろいろ犯人探しやら責任追及やらで忙しい人や会社が多いみたいだけど、「自分のせい」はほんとどうなんだろね。

銘板
2011.1.22 土曜
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超電磁ロケット H-IIB

宇宙ステーション補給機 こうのとり 2号機を載せた」H-IIB ロケット2号機、打ち上げに成功しましたですなー。めでたしめでたし。

もともとの打ち上げ日は20日だったんだけど、天候が条件を満たさなかったんで、2日後の今日、あらためて打ち上げましたな。雲の中に氷の粒が含まれてたみたいで、こうなるとロケットが通過するときに落雷に遭ってまずいことになりそうだってことで、こうなると打ち上げは延期になることに決まってるらしい。去年の5月、金星探査機 あかつき と宇宙ヨット実験機 "IKAROS" を載せた H-IIA ロケット 17号機も、同じ理由で打ち上げが3日間延期されたね。

あかイカのときは打ち上げ寸前に中止判断が出た。ロケットに推進剤を満載した状態だったわけ。酸化剤の液体酸素は回収・再利用したのか知らんけど、燃料の液体水素はこういうとき、全量を捨てなきゃいかんそうで。しかもいったん水素を通してしまうと関係する配管をチェックしなきゃなんないんで、それで中2日の整備期間と、新品の液体水素をもういっぺん用意する必要が出てくる。てことで、打ち上げ直前の中止・延期ってのはかなりコストがかかる。あかイカの打ち上げ費用が H-IIA 標準型なのに100億円に達してしまったのは、ここらへんも含んでたからじゃないかと。

今回の中止判断は推進剤の注入前だったんで、単に天候回復を待つだけで済んだはず。まーそのぶん出張の人たちの種子島滞在も2日延期で手当と宿代が余計にかかったろうけど、推進剤は無駄にしないで済みましたわな。H-IIB の液体推進剤の量は H-IIA の7割増ってことで、1回分を捨てたんじゃ半端ない損失が出るとこだった。いい判断だったかと。

んで今回、木曜日の昼間の打ち上げのはずが土曜日に延期されたってことで、ニコニコ動画で打ち上げ中継を見れたんですわ。そこでちょっと面白いことに気付かさせていただきましたよ。

入場扉が開くと同時に入ったはずが、先客が既に170人以上。映像が出てきた途端に現れたコメントは、

♪身長57メートル 体重550トン

コンバトラーV の歌かよww

ってオイ、H-IIB ってちょうどそのくらいじゃないのか!? H-IIA 標準型のほうは全長は54m、質量は289トン。H-IIB はそれよりちょっと長くて、質量は1段目が8割増くらい、重たいブースターが倍の4本。てことは500トン行ってるんじゃ……。Wikipedia をちょいと見てみるべ。どれどれ……。

総質量 531 t
全長 56.6 m

うはー! ほぼドンピシャ!www

質量に こうのとり の 16.7t を足すと、547.7トンでますますニアピンだぞ。これは一体……。

目の前の映像は、種子島の海を背景にそそり立つ H-IIB + こうのとり。超電磁ロボは大きさ・質感ともにこんな感じだったのかー(妙な感心)。

ちうわけで、なんか面白かったし打ち上げも成功したしで、素材をそこらへんから拾って、記念にそういう等身大画像を作ってみたですよ。

H-IIB vs コンバトラーV

画質の整合も含めて3時間半かかった。何やってんだ>自分 (-▽-;)

銘板
2011.1.23 日曜
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H-IIB で準天頂

H-IIA と H-IIB の合計で、ついに打ち上げ成功率 95% の大台に乗りましたですよ。成功率 95% ってのは業界じゃちょっと特別な数字で、世界で一線級のロケットと呼ばれるための目安がこれなんだわ。

H-IIA と H-IIB を別のロケットと考えるとまた計算が違ってくるんだけど、ほとんど同じ部品を使ってるから、合わせて考えるのもまた間違いじゃないってことでひとつ。

今回で合計20回打ち上げて、過去に失敗が1回。20分の19でやっと 95% に届いた。てことで、これからずっと 95% 以上を保つには、あと19機連続で成功しないとなんない。このうち1回でも失敗するとまた 95% を下回ってしまう。H-IIA のデビューは2001年だから、ここまで来るのに10年かかったよ。

打ち上げ頻度が年2回って少ないよなぁ。でも今は官需頼みだし。頻度はどうしてもこのくらいにしかなんない。ただまぁ、自分の予算を食ってる形ではあるけど、こうのとり の打ち上げ予定が追加されたからね。年間で H-IIA 2機 + H-IIB 1機だと、かなり回転が良くなるんじゃないかと。H-IIB は1段目エンジンとブースターを H-IIA の2倍必要だしさ。

あと、準天頂衛星 みちびき の成果が上がったから、追加で6機ほど発注が来たらしい。結果が良ければ今の みちびき と合わせて最低限の3機体制で行くもんだと思ってたら、どうもアメリカの GPS に頼らない位置情報サービスを、準天頂衛星だけで構築することになったっぽい。それでこんな大量発注になったっぽい。記事は読売新聞から

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日本版GPS、衛星7機態勢へ…精度10倍に

政府は4日、日本版GPS(全地球測位システム)を構築するため、準天頂衛星「みちびき」の同型機と静止衛星を、2014年から2年程度の間に集中的に6〜7機打ち上げる方針を固めた。

アジア太平洋全域を対象に、現在のGPSより10倍高い精度で測位できる体制を整える。打ち上げなどにかかる計2000億円規模の費用には民間資金を活用する方針だ。

政府の宇宙開発戦略本部(本部長・菅首相)が、原案を固めており、8月をめどに計画を決める。財政難の中、政府は民間の資金とノウハウを活用するPFI法の改正案を次期通常国会に提出し、衛星製造をPFIの対象事業に加える方針だ。

日本独自のGPSを構築するのは、米国のGPSの本来の目的は軍事利用のため、有事などの際に民間向けの電波の発信までも第三国に妨害され、市民生活や経済活動が影響を受ける恐れがあるからだ。

日本は10年9月、独自開発した準天頂衛星の1号機「みちびき」を打ち上げた。同型機も含め3機以上にすれば、1機は常に日本上空に位置することになる。米国が運用するGPSと組み合わせれば、カーナビゲーションなどの精度は現在の10倍高まり、誤差は1メートルまで小さくなる。

(2011年1月5日 読売新聞)

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まー読売は宇宙技術関係の記事は信頼性が昔からちょっとアレだけどね。先走った憶測を、さも事実であるかのように語るしさ。H-IIA ロケット2号機の明らかな打ち上げ成功を無知に基づいて強引に失敗に仕立てようとしたり、「HTV(今で言う『こうのとり』)を NASA が購入」を単独スクープかと思いきや、直後に NASA と JAXA が揃って否定したこともあるし。どうも週刊誌の芸能人ゴシップのノリでやってる面があるらしい。てことでちょいとマユツバかもしんないんだけど。

その資金はどこをあてにしてるのかっつうと民間。みちびき の開発中は「ビジネスとして採算が取れない」ってことで、民需からそっぽを向かれてしまった。たぶん本当に採算性で怖いって理由もあったんだろうけど、まともに動くのか、どこまで使えるのか、モノが1機でも実際に飛んできちんと稼働するまで様子見を決め込んだ企業が多かったんじゃないかと。信頼性でも怖かったんじゃないかと。で、みちびき が予告通りにちゃんと稼働してるんで、そのぶんの懸念がなくなった、てことなんじゃないかと。

みちびき は H-IIA 標準型で単独で打ち上げられた。んで記事を信じるとすると、基本的に同じ型の衛星があと6機打ち上げられるってこと。2号機以降は推進剤の搭載量が1号機よりちょっと少ないらしい。そのぶん質量もちょっとだけ軽い。てことはですよ、準天頂衛星の追加分、H-IIB で1回に2機ずつの打ち上げになるんじゃないかと。

H-IIA は6号機で打ち上げに失敗した。積んでた衛星は情報収集衛星2機。国家安全保障に関わる衛星は打ち上げ費用の安さよりリスク分散が大事らしく、以降、情報収集衛星は1機ずつ打ち上げることになった。H-IIA の能力は余りまくりなんだけど、実質軍事衛星で機密事項が多いんで、ほかの衛星を相乗りさせるわけにもいかない。んでまぁこんな無駄の多いやり方になってる。能力の余ってるぶんは、おもりを積んでバランスを取ってるらしい。あーもったいない。

けど H-IIA/H-IIB の信頼性は今回の打ち上げで確立されたってことで、情報収集衛星はどうなるか知らんけど、相乗り方式をどんどん押し進めそう。H-IIA でも、民間や外国の衛星打ち上げを柔軟に受注する目的で、軌道が違う2つの衛星の相乗りができるようにすることになったみたいだし。

ロケットの打ち上げにかかる費用はサイズに応じる部分(製造費や推進剤費、打ち上げ基地への運搬費など)もあるけど、ロケットが大きかろうが小さかろうが打ち上げ1回あたりいくら(航法制御の装置や打ち上げ管制の人件費・設備費など)、というのもある。後者の打ち上げ1回あたりの費用は、複数の衛星を大型ロケットでまとめて打ち上げれば薄まる。てことで、商用打ち上げには大型ロケットの確保が重要。ヨーロッパのアリアン V ロケットがやたらでっかくなった理由は別だったけど(独自の有人スペースシャトル打ち上げに使うつもりだったが、シャトル計画の方は頓挫した)、そのでっかさを利用して、比較的安い打ち上げサービスを提供してる。

日本の H-IIA はアリアン V の半分程度の能力なんで、衛星1機あたりの打ち上げ費用はちょっと苦しい。しかも円高だし。けど JAXA が自分で作って打ち上げる衛星がいつも H-IIA の能力ギリギリってわけでもなく、ときどき空きスペースができる。ここを外部に格安でご提供っつう道が開けた。もともと JAXA 衛星が H-IIA を1機丸ごとチャーターするところに相乗りさせる形なんで、空きスペースの原価は実はタダなんだけど (^_^;)

まーちょっと受け身な販路開拓だけど、何もしないよりずっとマシだし、それでも「海外の衛星打ち上げを受注した」という実績にもなる。1つでも実績があるとないとじゃ、その後の商売のやりやすさが違ってくるでしょう、と。この方式で今年、韓国の衛星を打ち上げることになってるし。

で、H-IIA がどうにかビジネスできるようになりつつあるんで、同じ技術で作ったより大型の H-IIB にはもっとチャンスがありそう。アリアン V の8割の能力まで来たからなー。目標コストは1機110億円らしい。実現すると、同じ衛星を打ち上げるのに H-IIA だと85億円なのが、H-IIB だと55億円。30億円もおトク。

記事によると、準天頂衛星の2号機以降は民間が主導。てことはコストが大事になってくる。H-IIB にすると衛星1機あたりの初期投資が30億円浮くのって、かなり魅力だと思うよ。

けど民間ってことはどの国のロケットを使うか束縛されないってことでもあったりして。アリアンにかっさらわれんようにせんとな。円高、早く収まれー。

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2011.1.24 月曜
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空隙の2012年

H-IIA ロケットの打ち上げ予定、今年はいいけど来年ちょっとヤバいな。

今年は3回。

全部官需主導だけど、がんばってる方じゃないかと。情報収集衛星2機がロケットを1機ずつチャーターってのがいいお客様になっとりますな。

して問題の2012年はどうか。

見た感じは2回確保してるかのよう。でも電波天文衛星 ASTRO-G って確か今、技術的な問題が発覚して開発が中断中だったはず。そのせいで2010年度の予算はゼロだった。今も問題が解決してないみたいだし、来年の打ち上げって無理なんじゃないかと。んー、きく8号のアンテナ機構を流用するのはいいアイデアだと思ったんだけどなー。いっそ先代の はるか とまったく同じ衛星を作って ASTRO-G ってことにして打ち上げてもいいんじゃないかって気もする。

てことで H-IIA としては、ご予約2件のうち1件が大変怪しい状況なわけ。もうひとつの情報収集衛星はたぶん確実だろうけど。

2012年度の情報収集衛星は2機同時打ち上げだけど、これは方針を変えたわけじゃなく、試験機打ち上げがあるとこの形になるんですわ。H-IIA 12号機のときがこの形だったよ。

ふむふむ12号機は2024型だったか。今の H-IIA じゃ SSB(すごく細い固体燃料ブースター。2024型だと4本装備)は廃止されたからなぁ。2012年はどうするんだろ。標準の202型か、それとも久々の204型(標準の固体燃料ブースター SRB-A を4本装備)か。12号機のあたりは SRB-A の出力が小さかったから、それで SSB の出番だったのかも。今は 202 型で間に合うのかも。

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(2011.2.12 補足)このほかに H-IIB での こうのとり の打ち上げが年1回ずつあるんだよな。合わせて年2回の打ち上げを確保できてるからいいか。つーか今年は年間合計4機かよ。成功率 95% に達したらいきなり倍速。LE-5B エンジンは4基、LE-7A エンジンは5基、ブースターの SRB-A は10基のお買い上げ。量産効果でのコストダウンができればいいですなぁ。

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2011.1.25 火曜
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謎のイカ中アンテナ

IKAROS のアンテナって低利得だけかと思ってたら、中利得もあるらしい。そしてなぜか今まで使ったことがないらしい(存在を示す記事はコチラ)。

この中利得アンテナ、どこにどう付いてるんだろ。どんな形なんだろ。新開発らしいし。とりあえず はやぶさ の中利得アンテナは下の写真みたいな感じ。

はやぶさの中利得アンテナ

四角いメガホンみたいなのが、機体前後の上の辺に1個ずつ付いてる。これが はやぶさ の中利得アンテナ。形のとおり指向性があって、その口を地球に向けてないと送受信できない。ただ方向の精度は、高利得アンテナよりアバウトでいい。はやぶさ の場合は上下方向にのみ可動式で(うなずくわけだ)、それで機体姿勢からの自在性をある程度確保してる。高利得アンテナなんかドンピシャで地球に向けてないと通信できないし、胴体に固定だからなぁ。

中利得アンテナってけっこうお便利。高利得は通信速度がでかいから画像みたいな大きなデータもバンバン送れるけど、上に書いたようにけっこうめんどくさい。低利得アンテナはどんな姿勢でも通信ができるけど、通信速度があまりにも小さいんで、データのやり取りにものすごく時間がかかる(1秒で半角英数1文字とかだもんな)。中利得はあまりにも違いすぎる高利得と低利得の中間の性質なもんで、けっこうツブシが効くというわけ。まぁ通信速度は低利得の数倍程度だけど、それでも地球に近いときはかなりの量のデータのやり取りができる(秒速32文字とかそのくらい)。

IKAROS には高利得アンテナが付いてない。スピン型だからね。自分の体がぐるぐる回ってるのにアンテナをビシッと地球に向けるのは至難の業。あかつき に付いてるアクティブアレイアンテナならできるかもしんないけど、見送られたのはコストのせいかも。なんたって IKAROS の製造費は あかつき のたった1割だからして。必要なかったってのもあるかも。IKAROS は自分の状態を撮影した画像を地球に送ってきたけど、中利得アンテナをまだ使ったことがないってことは、低利得で済ませたってこと。あの頃はまだ地球に近かったから、なりなりの通信速度を出せたんだろうなぁ。

んで問題の、未使用の中利得アンテナ。なんで使わないんだろ。そろそろ低利得じゃ苦しい距離になってきてると思うんだけど。それともそういうわけで、これから使うのかな。

で、中利得アンテナってのはさっき書いたけど、ある程度の指向性がある。はやぶさ の場合は上下に振れるようにして、その問題をなんぼかカバーした。けどそれができたのは3軸安定型の宇宙機だったからってのもある。胴体が回転しないから、方向を決めてアンテナを向けて地球と通信できる。

IKAROS はスピン型。地球を向いてる機体上の部分が刻々と変わっていく。しかも姿勢決定の最優先事項はセイルの向きなわけで、セイルは胴体に固定されてるわけで、さらに自転してるわけで、この状態で指向性アンテナを地球に向け続けるっての、かなり無理があるような。そこが「新開発」の要素なのかな。

一体どんな仕組みになってるんだろ。

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2011.1.26 水曜
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IKAROS@Venus

そんなことうだうだ考えてるうちに、IKAROS から最新画像が届いてたよ。時事通信社の記事の画像が比較的大きいね。

金星 IKAROS
金星に着いたぁ〜!!

おいらも『帆の展開を確認したときの搭載カメラで金星を撮ったらいいんじゃねーの』と前々から思ってたけど、広角レンズなもんだから、点にしか見えないんじゃないかとも思ってた。それがもう三日月型がバッチリですよ。

撮影は最接近の次の日(12月9日)かな。最接近のとき(12月8日)は金星の真夜中が見えてたはずなんで。んであれから1カ月以上経って公表ってことは、データ送受信に時間がかかったんだろうなぁ。低利得アンテナだったんだろか。

広角レンズだから像は小さいけど、可視光カラーではっきりと写ってますですよ金星ちゃん。あかつき も搭載してる観測機器で金星を通過後に撮影したけど、あかつき には可視光カラーのカメラは載せてないみたいで、素人には価値があまりよく分からん画像でしたな。

てことは可視光の金星画像って科学的な価値はあんましないのかもしんないけど、それでもかなりすごいですよ。しかも IKAROS の機体の一部が写ってる(機体の確認用カメラだからね)。世界初のソーラーセイル、ほんとに太陽帆を開いて金星まで行ったんだなー(感慨)。

この写真で、ひとつ考えることがあって。

宇宙には上下の概念がないとはいえ、人間はどうしても上下感覚で画像を見たくなる。便宜上、太陽系を考えるときは、北極方向を上にする習慣がある。IKAROS の今回の画像は太陽光が上から照ってる状態なんだけど、これ、右に倒すと感覚的に分かりやすい感じになるんじゃないかと思って。で、右に90°回したら、どうも金星がちょいと下を向いてしまって。

金星を撮った写真なんなら、金星の軌道面を「水平」としてみるといいんでないかと。で、やってみた。

角度補正後

んー、結局、誰の視点なのか分からん半端な画像になってしまいましたとさ。

銘板左端銘板銘板右端

つか、もしこれ最接近の前に撮ったものなら、2枚目の画像は上下が逆ですな。てことでどっちか分かんないんで、ひっくり返したのも出してみますか。

角度補正後_倒置

んむー、ほんと宇宙って上下がないよなー。こっちはこっちでまた説得力があるように見えてしまう。背景に星座が出てるわけでもないから、画像からは確認できんな。12月8日のフライバイ前なのか後なのか、ますます分からんくなったw

しょうもないことだけど、下の画像の方がより SF 小説の挿絵っぽいアングルな気がする (^_^;) しかし題材自体はほんと SF だよなー。太陽帆船で金星に向かう、てな感じで。それが現実になったんだもんなー。しかもアメリカでもロシアでもなく、日本がやってのけちゃったんだもんなー。40年前に時間旅行してアポロ計画真っ最中のアメリカ人に言いでもしたら、きっと鼻で嗤うことだろうよ。

銘板左端銘板銘板右端

アメリカも12月にソーラーセイル実験機を打ち上げたはずだけど、どうなったろ。IKAROS は惑星間軌道に投入されて金星まで行ったけど、あちらさんは地球周回の衛星軌道で実験らしい。ソーラーセイル効果の測定には空気抵抗やら地球からの光や熱の輻射やらでノイズが多そうな気がするけど、近くて通信事情がいいってのは羨ましいですな。あと、地球の衛星軌道だとデブリが心配ですな。ソーラーセイルは面積が大きいだけに、当たらないようお祈り申し上げますです。

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2011.1.27 木曜
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善意と暴走と悪意

伊達直人の件はすっかり収束した感じですな。もしかしてまだ続いてて、もうニュース性がないから放置されてるだけかもしんないけど。

んでまぁこのこと自体はとても素敵なことだと思ってる。続いてほしいとも思ってる。で、どうなんだろ「タイガーマスク運動」というネーミングは。

おいらの勝手なイメージとして、この手の慈善活動としての「運動」ってのは明確な組織団体があったり、匿名でもいいから意見を言ったり指示を出したりするはっきりした個人があったりして、その呼びかけに有志が応える、ということのような気がして。今回は自然発生的なわけでして、誰が仕切ってるわけでもない。そういうのを「運動」と呼ぶのってちょっと違う気がして。ていうかこうなってしまうと、意識してしまった人は「参加する/しない」が問われる気分になってしまうような。ぶっちゃけ押し付けがましさが出てしまうような。

世の中の総意としてこのネーミングに納得であれば、別に何の問題もないからまぁ、わざわざ言う意味もない話になってしまうか。その行為や気持ちそのものこそが貴重で大切なわけだし。ちなみにおいらの場合は自分を何とかするのが先なんで、ネーミングがどうであろうと「参加しない」になるw

あともうふたつ、先がちょっと気がかりなことがあって。

これ自然発生だから制限がないわけで、あんましブームになると暴走する可能性がありそう。ていうか既にその兆しが出てるし。孤児院に手製のチャーシューを贈った伊達直人とか(顔も名前も住所も分からん人の手料理って確かにアレな気がする。それで申し訳ないけど安全を考えて廃棄となったそうで、贈った方ももらった方も残念なことになってしまった)。学童が伊達直人として何千円か寄付したとか(それ親のカネだろ)。

こうなってくると、人に幸せになってほしくて自分の生活に無理をかけてまで寄付する人とか出てきそう。けどあくまでも匿名だから、そのせいで苦しくなった人が表の話題に出ることはない。物事のやりすぎを抑える「負のフィードバック」は、少なくともこの方向からは来ない。

基本、寄付ってのは自分で稼いで自分で使うぶんのおカネが充分に間に合ってて、そのうえで余ったぶんを差し上げるもんだと思う。無理してまでやることじゃないと思う(なんでも原作のタイガーマスクは、無理して孤児院に寄付したせいで殺人軍団に付け狙われる羽目になったらしいけどさ)。万が一、無理してるのが寄付先にばれでもすると、もらう側は申し訳なさでかえって大変な心労を抱えることになってしまうから。

で、これ以上過熱するとどうなりそうかっつうと、そういう無理をしてまで寄付に執念を燃やす人が本当に出そう。強迫観念とは行かないまでも、善意っつうより責任と考えてしまう感じで。それ勘違いだから。まぁ何らかの償いや贖罪のつもりってのが理由の人もいるかもしんないけどさ。それでも、もらった方は素直に喜べないような。はけ口に使われた感が出てしまうんで。

さらに、伊達直人を強要する人とか。自分はやったぞとか言い出して「なんでお前はやんないんだ」と責める人、一緒にやろうとしつこい人、やってない人を見下す人、いそうだなぁ。

自然発生ってことで、さっきも言ったけど仕切る人がいない。状況を管理・制御する人がいない。てことで不均衡も出そうだね。必要量以上に寄付が集まってしまって処理に困っている、とか。あそこの施設にはたくさん寄付があったのに、こっちには全然ない、とか(これはたまたま恵まれなかった当事者を無駄にツラい気持ちにさせますな)。

はじめの伊達直人はたぶん、贈り先の施設の新入生の性別・人数を把握して、必要な数のランドセルを的確にプレゼントしたんだと思う。その人はその施設に何かゆかりのあった人だったんだと思う。自然に考えるとそういうことかなと。てことで、贈り先を無差別抽出してどこでもいいからと送りつけるのは、ちょっと遠慮した方がいいかと。不自然だしありがたみが薄いし。匿名だからそんなこと関係ないといえば関係ないけど、ものの筋として。それにその施設の子供たちに本当に必要なものを把握してないと、ただのありがた迷惑にもなってしまうし。

無意味な競争心を煽られるってのもありそう。現象に啓発されて自分もやりたくなって、ニュースを見てあっちの伊達直人はこれだけのプレゼントをしたんだから、自分はもっと豪華に行こう、とかさ。それも勘違い。けど人間、何かと競争心が乗ってしまいがちなもんでして。全国の都道府県別の伊達直人寄付総額ランキングとか人口1万人あたりの寄付額なんて出てきちゃったら、完全に競争状態になってしまうね。

つか慈善活動の方法・方向・窓口は伊達直人以外にもたくさんある。そのおカネやエネルギーが流行りの孤児院寄付に集中して、ほかが手薄になってしまったりしちゃうと、これまたおかしなことだったりもして。何かたまたま脚光を浴びるものがあれば、必ずその脚光から遠く無縁なものもあるわけで。脚光を浴びようと浴びまいと、実はそういうのは本質的に同じようなものだったりして。そこに不公平感が生まれるかもしんないわけで。旬のものに目を向けちゃうとそれ以外のものの存在さえ忘れてしまうってのは、おいらもそうだけどやってしまいがちってことでひとつ。

この現象は今は落ち着いてるみたいだけど、入学シーズンが近づくとランドセル寄付が再燃するかも。さらに今年の12月頃からまた動き出すかも。そのとき、ここに書いたみたいなヘンテコなことにならないでくれるといいな、と。全国の伊達直人さんがた、見知らぬ同志たちが素直に賞賛され続けるよう、この善意の流れが息長く効率よく続くよう、節度ある活動をしましょーね。

んでもうひとつの気がかりポイント。

それは伊達直人詐欺ww

詐欺の人たちって、世の中に自分の持ち分の動きがなきゃ自分でその動きを作ってまで仕事する働き者だからね。てことで、例えば今回みたいな善意の個人活動がブームになると、そのあたりが持ち分の詐欺師たちが大活躍する温床になっちゃうかもなーとか。

何か善意なことをしたい篤志家っぽい人、あるいは実際に個人で慈善活動をしてる人たちに近づいて、頃合いを見て「実は私がお世話になった孤児院に伊達直人として寄付をしたいのですが、元手がどうしても足りないのです」とかなんとか持ちかけて、まことしやかなウソの実例で同情を買って、寄付をもらったらスタコラサッサと消え失せたりとか。

純情な被害者からはいろんな理由を付けて何回もむしり取ったり。そしてそいつは自分だけを見込んで声をかけたんだと思ってたら、同じ手口でほかに何人も引っかかってた、とかさ。『クヒオ大佐』状態w

無名の善意が建前なのに功名心をくすぐられて騙された、という形なら、恥ずかしくて被害届を出せない被害者が密かに大増殖かも。つかおいらが詐欺師なら間違いなくそれやる。騙せてるうちにカモをなんとかその型にハメて、バレてからの反撃を未然に封じるぞ。詐欺やんないけどw リスク負うの怖いからww

てことで、「伊達直人詐欺被害者原告団」とかそういう事態にならんことを祈るばかりですたい。

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2011.1.28 金曜
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2番機はどうなった

おとといのログの最後で思い出した、アメリカの太陽光宇宙帆船 "LightSail-1" はどうなったかなーと思って。2010年末打ち上げの予定だったんだけど、とんと音沙汰を聞かない。

公式サイトの記事を見ても、「いつ打ち上げか」という見出しが出てたりする。この宇宙機の打ち上げ時のサイズはわずか3リットル。超小型衛星の部類なわけで(帆の面積は日本の IKAROS の6分の1)、ある衛星打ち上げのオマケとしてついでに打ち上げられる「ビギーバック」という形式ですな。てことで、先方さんのご都合待ちの状態なんじゃないかと。

IKAROS も金星探査機 あかつき のピギーバックの立場だったけどね。予算もそういうことで、あかつき 側でロケット代を全額持って、IKAROS はタダ乗りって形になってたらしい。ピギーバックだから。けど実際、あかつき の質量が約 500kg なのに対して、IKAROS は約 300kg。ピギーバックってメインの搭載物に比べて圧倒的に小さいのが普通なんだけど、それでいくと IKAROS はちょっと存在感ありすぎというかw

LightSail-1 がまだ打ち上げ前らしくて肩すかしだったってことで、ちと Wikipediia「太陽帆」も見てたってこともあって、この記事の英語版も見てみようかなーと。きっと日本版の方が充実してるだろうなぁ。なんたって今のとこ世界で唯一成功した太陽光帆走宇宙機 IKAROS を運用中だもんなぁ。しかも金星に到達しちゃって。

と思ってたら、なんと英語版の方が充実してた。

内容はまだほとんど読んでないんだけど、ばーっと見てたら最後の方にすごい画像があってさ。

太陽フライバイ軌道

ヘリオポーズ(太陽系の縄張りの端っこ)まで飛ぶ軌道の図が出てたよ。太陽系内の話だから、主星である太陽に近づくのはスイングバイ目的じゃない(系の主星じゃスイングバイはできない)。たぶん太陽の近くで存分に太陽光で帆走して加速する意図じゃないかな。光圧は光量と同じく、光源からの距離の2乗に反比例するんで、近づけば近づくほど2乗で強力なパワーを得られる。てことで、それで最適化した軌道なんじゃないかな。

常に加速してるってことで、単純な形ながらも不思議な軌道ですなぁ。点 Q 以降は逆行ですよ。天の北極から見て、太陽系の天体のほとんどは左回り。左手に太陽を見ながら進む。ところがこの軌道は途中でブレーキをかけて、右回りになる。太陽が右手側に来る。慣れなくてなんだか気持ち悪いww 

つかおいらには理解できんことがあったりして。まず、いったん火星軌道まで出張るのはなんでかと。スタートから火星軌道までは角速度を殺す方向に向いてる。遠日点あたりは普通の弾道飛行でも自然に公転速度が最小になるから、この経路で効率的に角速度を落とす、という理解でいいのかな。自然に角速度が落ちはするけど、光圧の力も落ちるから痛し痒しな気もするけど。

そこから太陽に落ちていく。減速しつつ時計回りに向くってことで、逆行をし始める。逆行はともかく、減速するとせっかく火星軌道まで昇って落差を付けた意味が減ってしまうんじゃないかと。

「減速は不本意だけどとにかく逆行するため」なのかもしんないけど、そもそも逆行しなきゃいかん理由もよく分からん。順行(太陽を左手に見ながら通過)のままでも、太陽への最接近距離が同じなら同じことなんじゃないかと。同じスタート地点から出ると、逆行と順行じゃ飛んでいく方向が違うけど、ヘリオポーズの同じ方向を狙うなら、スタート地点を変えればいいわけで、そこは逆行の理由じゃないですな。

むしろわざわざ火星軌道まで飛ぶんなら、火星で減速スイングバイをすると角速度を効率的に殺せる気もする。こうすると、不本意な減速もしなくて済みますな。

とはいえ、探査機には電源が必要なわけで、普通は太陽電池を使う。IKAROS の例で言うと、太陽電池は本体とセイル上に貼ってある。どっちも向きはセイル反射面と同じ。てことは、電力を確保するには帆を太陽の方に向けなきゃいかん。帆は太陽から遠ざかる方向に力を受ける。てことはやっぱし、火星軌道から太陽に落ちていくときの減速は不本意だけど、電力確保のためにいたしかたない、てな解釈でいいのかな。

電力確保といえば、本題に戻るけど LightSail-1 の電力はどうなってるんだろ。IKAROS と違って、帆に薄膜太陽電池を貼ってるわけじゃなさそうだけど。したら本体のみかな。本体も超小型衛星のバスを使ってるってことでものすごく小さいわけで。てことで公式サイトから大きめの画像をがめてみた。

LightSail-1

おお、本体にちゃんとありますな太陽電池(真ん中の青い部分)。IKAROS に比べてかなり小さいのは、地球から1億 km 以上も離れる人工惑星じゃなく地球を回る人工衛星(地表から最大でも 1,000km くらいかな)だから、通信にあんまし電力が必要じゃないってことなのかな。太陽電池パネルが花びら型なのは、太陽光が斜めから当たっても(太陽角が深くなっても)一定の電力を稼ぐための工夫かと。

LightSail-1、早いとこ打ち上げないかなぁ。どんな飛びっぷりを見せてくれるのか楽しみですな。けどアメリカがいったん技術を身につけるとあとは早いからな。日本が「IKAROS 飛んだよさぁ次やってみよー」と10年くらいかかってるうちに、あちらさんはもっとごっついものをバンバン飛ばしそうな気がする(汗)

しかし地球のまわりは、ソーラーセイルの微弱な推力を検出するにはちょっと環境がよろしくないような。薄い大気の抵抗だの地球からの照り返しだの、あるいは地球の引力の強さは土地によって微妙にばらついてたりもして、衛星はその周りを回ったり地球自体も自転してたりして、その影響や潮汐力はどうなのかとか(低軌道は特に影響が強そう)、吟味すべきノイズが多くていろいろ面倒なような。IKAROS はそこを鑑みて、力学的には太陽光と太陽の引力以外に何もない惑星間空間に飛び出した(太陽風もあるけど、太陽光の1000分の1オーダーでしかないそうな)。それで狙い通り綺麗なデータを取れてるわけですな。

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IKAROS に必要な電力は、本体に貼った太陽電池だけで間に合う。けど太陽帆に貼った薄膜太陽電池は ISAS の将来の木星探査計画で必要になる。この探査機は太陽帆のほかにイオンエンジンも搭載する予定なんで、その電力を稼ぐには本体の太陽電池だけじゃ足りない。もっと面積が必要。それで、有り余る太陽帆の一部に薄膜太陽電池を貼ることにしたそうな。これを「ソーラー電力セイル」と呼ぶそうな。IKAROS にイオンエンジンはないけど、太陽帆に貼った薄膜太陽電池の有用性を実証できた。イオンエンジンはイオンエンジンで、はやぶさ で実証できた。

帆全部を太陽電池にすると電力はかなり作れるけど、太陽光圧での推進力は落ちる。太陽帆は反射率が大きいほど効率が上がるものなんで、鏡が一番効率がいいわけ。艶消し黒だと効率が一番悪い。完全な鏡面は完全な黒の2倍の推進力を出す。太陽電池は太陽エネルギーをなるべく逃さず吸収するために、色は黒っぽい。ソーラーセイルの要求と相反するわけ。まあ鏡面の半分の推力は出してくれるけど。

銘板
2011.1.29 土曜
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木星帆走 1

日本の木星探査計画って、昨日も書いたけど太陽帆とイオンエンジンの併用なんですわ。どうもいったん金星軌道あたりに飛んで、強力な太陽光を存分に浴びて加速。金星だったか地球だったかのスイングバイも動員して、木星フライバイ探査をするらしい。……気がした、というか、松浦晋也氏のブログにそう書いてたような書いてなかったような……。

で、今のところの機体の姿はコレ↓。JAXA のフォトアーカイブスから画像をがめてきたよ。

ソーラー電力セイル木星探査機

宇宙機はどんな形でもいいとはいえあまり見かけない形というか、太陽帆が印象的すぎ (^_^;) 先行実験機の IKAROS が単純な正方形なだけに、この形容しがたさは一層引き立ちますな。実際にこれが飛んだら、それだけで世界の宇宙開発史に名を留めるだろ。インパクトでw IKAROS みたいにカメラを放出して自分撮りを敢行してほしいもんです。あれは帆の展開状態の確認用だったから、これも恐らくそうするはず。しかし禍々しい形というか、"SPACE BATTLESHIP YAMATO" の最後に出てくるガミラス艦にちょっと似てるというか (^_^;)

ヤマトはいいとして、木星軌道って太陽光の強さが地球軌道の 4% しかないから、そのあたりだともう太陽帆もイオンエンジンもあんまし使い物になんないんじゃないかな。火星軌道で既に、太陽光の強さは地球の 40% くらいに落ちる。さらにその10分の1だもんな。

火星より向こうでイオンエンジンはほとんど使い物にならないだろうけど、帆はまだ使いでがある。何しろイオンエンジン駆動用に大面積の薄膜太陽電池を貼ってるもんだから。イオンエンジンを使わなくなったあとは、弱い太陽光のみで探査機自体を稼働させる電力源になってくれるはず。うまいカラクリというか。

けどこの探査機の構造でも不明な点があったりして。

両立し得なさそうな組み合わせなんですよ。ソーラーセイルとイオンエンジンは。三浦公亮・長友信人共著の『ソーラーセイル』6ページの図から。

ソーラーセイル
ソーラーセイルにかかる力

反射率 100% の理想的な帆の場合、推力は帆の法線の180°反対側を向く。軌道を変える作業は、公転の進行方向に沿ったベクトルに力を加えるのが一番効率がいい。円軌道なら太陽光が来る方向と直角。楕円軌道なら、軌道変換の効率が一番いい遠日点と近日点でそうなる。ソーラーセイルはその意味じゃ効率があまりよろしくないんだけど、動力源の太陽光が無尽蔵だからあまり気にしなくていい。そのぶんは帆の面積を大きくするなり、時間をかけて加速・減速するなりで対処できる。

で、問題は、ソーラーセイルが軌道変換をするとき、太陽光に対して必ず斜めの姿勢を取るってこと。その一方、イオンエンジンは普通のエンジンと同じく、進行方向の正反対の向きに噴くのが最も効率がいい。円軌道に近い場合、太陽を真横に見る形。最適な条件が一致しない。

さらに。

日本のソーラーセイル木星探査機は、たぶん IKAROS と同じくスピン安定方式を採ると思う。そうじゃないと IKAROS で実証した帆の展開方式を応用できないから。帆を自転させない3軸安定方式なら、帆を斜めに固定しつつイオンエンジンは進行方向の正反対向きに固定って可能だと思うけど、スピン安定で自転してる状態で、それはちょっと難しいんじゃないかと。

太陽光圧帆走とイオンエンジン駆動を同時にやらなきゃいいってことかな。

けどやっぱそうもいかないか。イオンエンジンを駆動する電力は太陽電池から来る。太陽電池は帆に貼ってある。てことは帆は幾分かは太陽の方を向いてなきゃいかん。「帆の法線ベクトル=イオンエンジンの法線ベクトル」だと、エンジン最大効率の角度を作ると、電力不足でイオンエンジンを動かせない。これだと太陽電池を太陽に向けていって発電効率を上げれば上げるほど、エンジンの軌道変換効率は落ちる一方。

太陽光圧帆走と違って、イオンエンジンは無尽蔵に稼働するわけじゃない。超低燃費とはいえ推進剤を消費する。使えば使うほど劣化もする。だからあんまし無駄遣いもできない。この矛盾点をどう解消してるのか分かんなくて。

そこらへん非難するわけじゃなく、おいらの理解が足りないから個人的にギモンってことでひとつ。ソーラー電力セイル木星探査は ISAS 内部の次期プロジェクトのコンペに出されたくらいなんで、ISAS の担当チームはこのくらいのことはとっくに検討・考察・解決済みのはずだからして。そのときは電波天文衛星 "ASTRO-G" に敗れたけど。だからって計画破棄じゃなく、さらに洗練してまた次のコンペを狙うらしい。ていうか採用にならないと始まらないんで。

うむー、ソーラーセイルの推力ベクトルは帆の法線の逆だから、イオンエンジンももうその方向に付けちゃって、推力の方向を一致させるって考えなんだろうか。

いやいや、前提が違ってるような。

聞いた話だと、打ち上げからいったん金星方面に飛んで、有り余る太陽光でソーラー電力セイルをフル稼働させて最後に金星か地球でスイングバイして木星に向かうと思ってるんだけど、そこが勘違いかな。地球軌道→木星軌道でこそソーラー電力セイルを使うのであれば、軌道は細長い楕円になる。それだともしかして、帆とイオンエンジンの向きが同時にほぼ最適になるのかも。

銘板
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木星帆走 2

つか、そもそも NASA の木星探査機は普通の慣性飛行で現地に行ってる。なんで日本の探査機が木星に飛ぶ場合はここまでの最先端技術が必要なんだろ。しかも2つも。

NASA のやり方は、

  1. 強力なロケットで打ち上げて直行(パイオニアやボイジャー)
  2. いったん地球 - 金星の遷移軌道に飛んで、金星や地球でスイングバイを複数回して加速(ガリレオ)

て感じ。

日本の場合、1. は H-IIA で打ち上げたとしても、上段ロケットにちょうどいいのがないのかもしんない。けど ISAS のスイングバイ技術は世界最高峰なんだから、2. の方法で充分いけると思うんだが。なにも太陽帆とイオンエンジンを組み合わせてまで、ということでもないと思うんだが。

NASA の今までの木星探査機は、電源にプルトニウム電池を使ってた。日本はそういう、もし打ち上げに失敗して地球上に墜落すると国際的な責任を問われかねないヤバい装備は使わない方針。となると電源は太陽電池に頼ることになる。木星軌道での太陽光の強さは地球軌道のわずか25分の1。巨大な太陽電池パネルが必要になる。質量的に実用性を持たせるには、超軽量な薄膜太陽電池がいい。太陽帆より先に太陽電池の方が大事。どうせ電源確保で巨大膜面展開をやるんなら、もうついでに太陽帆も付けちゃおう、って発想が始まりだったのかな。

また聞いた話でアレだけど、なんでもこの探査機はソーラーセイルだけじゃパワー不足なことが判明したことから、イオンエンジンを追加することになったそうで。本当だとすると、上の予想は本末転倒ですな。もし単なる電源確保のための膜面展開が大もとで、ついでにソーラーセイルというなら、「パワーが足りないからイオンエンジンを追加」とはならないはずで。

M-V ロケット

となるとやっぱり、日本の木星探査機はまず自力推進ありきなんだよな。分からん。NASA との状況の違いがよく分からん。その必要性が分からん。

……、

……、

……。

ISAS のソーラーセイルは IKAROS でいきなり始まったわけじゃなかった。その前に、膜面の展開実験を気球で超高空でやったり、弾道ロケットに取り付けてやったりしてた。さらにピギーパックで小型実験衛星を飛ばしたりもした(通信系統が不調で、うまくデータを取れなかったみたいたけど)。歴史が長いわけで、んでそのマイルストーンが IKAROS。

てことはもしかして、当時稼働中だった ISAS 自前の M-V ロケット(左の写真)で木星まで飛ばすつもりだったのか!? それで、足りないぶんは探査機が自力で稼ぐことにしたのか!? あんな小さなロケットと太陽エネルギーだけで、太陽の重力井戸を4天文単位も駆け上がろうとしたのか!?

まさかなー (^_^;) と思いつつ、その「まさか」を次々と成し遂げてきたのが ISAS。

・「固体燃料だけのロケットで人工衛星打ち上げは不可能」と世界中の専門家たちに言われながらも、1970年、全段固体燃料ロケット "L-4S" にて日本初の人工衛星 おおすみ 打ち上げ成功。

・「固体燃料だけのロケットで地球の引力圏脱出は不可能」と世界中の専門家たちに言われながらも、1985年、全段固体燃料ロケット "M-3SII" にてハレー彗星探査機 さきがけ、すいせい 打ち上げ成功。

・全段固体燃料のままさらに大型化したロケット "M-V" にて、火星探査機 のぞみ(1998年)、小惑星探査機 はやぶさ(2003年)打ち上げ成功。

・金星探査機 あかつき も M-V での打ち上げを予定して開発された。

全段固体燃料ロケットでの惑星探査機の打ち上げは ISAS が実証しちゃったんで、もう疑う人はいない。それでも届くのは地球の両隣の惑星と地球近傍小惑星までがせいぜい、と思われてた。けどどうもこの雰囲気じゃ、本気で M-V で木星まで行くつもりだったんじゃないかって気がする。それ以外に、木星に行くのにわざわざソーラー電力セイルを必要とする意味、おいらにはほかに思いつかん。

ISAS はドン・キホーテ的に思えるときがままあるけど、きちんと実績を上げて世界の固定観念を破壊し続けてきた。M-V での木星探査機の打ち上げも実現してたら、世界の宇宙業界がまたしても驚愕だったろうなぁ。たった140トンのロケットで木星に手が届くのかと。M-V は2006年で廃止されちゃったから無理になったけど。

そういえば はやぶさ に搭載されたイオンエンジン「μ10」には、「M(ミュー)ロケット最上段」の意味があるそうな。ISAS(宇宙科学研究所)は2003年に JAXA に編入されて、「上に合わせる」ためにいろいろ波をかぶってしまったけど、もともとは「自分で使うものは理論から全部自分で作る」という世界的に異端・孤高の組織だった。

全段固体燃料ロケットもマイクロ波式イオンエンジンもソーラーセイルも、ISAS が世界に先駆けて開発・実証した宇宙航行システムですな。あまり話題に上らないけど、惑星エアロブレーキング(ひてん で世界初実証)と二重月スイングバイ(ひてん、GEOTAIL、のぞみ。世界でまだ ISAS しか成し得てないらしい)もあったり。強烈な個性が輝く技術系譜ですなぁ(しみじみ)。

この探査機が向かう木星、地球からの距離はほかの近傍惑星に比べてどのくらいかっつうと、こんな感じ↓。間隔をピクセル数で表してみたよ。


 
 
 
 

小惑星イトカワはエネルギー的に地球と火星の間ですな。んー、太陽から離れるほど太陽引力の縛りが弱くなるとはいえ、それでも木星は遠いですなぁ。

んで M-V が廃止されて、より強力な H-IIA を使える今もこの木星探査機が研究されてるってのはたぶん、「もうここまで設計を作り込んじゃったんだから、今さら新規設計するのはかえって無駄」ということじゃないかと。IKAROS でソーラー電力セイルの実証もできたことだし。

このミッションでのこの方式の意味が薄れたとしても、やればそこからさらに独自・独走の道を開拓できるかもしれない。ISAS の孤高・異端の輝きが世界を驚愕させ続けるには、ソーラー電力セイル木星探査機は是非必要ってことでひとつ。

銘板
2011.1.31 月曜
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超ド級セレブなお土産

去年の6月13日、ニコニコ動画で はやぶさ 帰還の生中継スタジオトークやってたんだね。いやー知らなかった (^_^;) 現地組からの直接の生中継の方は知ってたんだが(アクセスしてすぐ追い出されて、その場でプレミアム会員になって入り直したら満員でまた締め出されたけど)。このまえようやくそのスタジオトークを見たよ。

ひろゆきが素人の代弁者として質問や意見をいろいろ繰り出してたけど、その中で「持って帰った試料に金とか入ってたらすごいですよね」というのがあった。

まぁそれはそれで科学的にもかなりの発見だけど、確かに一般受けはすごいだろうな。そろそろ本格的な分析が始まるみたいだし、実際に極微量でも入ってたらその意味でイケそうw

もともと宇宙にあった物質は、ほとんど水素だけだったそうな。分布にムラがあったんで、お互いの重力で寄り集まって恒星ができる。恒星は核融合反応で水素からどんどん重い元素を作っていく。その星が寿命を迎えて超新星爆発すると、諸々の元素が宇宙に飛び散る。そしてまた重力で寄り集まって、地球みたいな岩石質の星ができあがる。鉄まではその行程で、恒星の内部で生成される。それより重い金や鉛、ウランみたいなものがどうやってできたのかちょっと分からんけど、たぶん惑星上じゃなく、超新星爆発の余波とかできたんじゃないかと思う。

てことで、自然界に存在するあらゆる元素が惑星以外でできたんだとすると、できあがってからほとんど何も変化がなかった小惑星にだって、重金属類が降り積もってるかも。

これは科学重視な考え方。一方、ひろゆきが出したトークネタは金の経済的価値が重視だった。世の中的なウケとして。「そしたら探査機をバンバン飛ばして金を取りに行こう」みたいな。

んでちょっと考えてみた。はやぶさ がイトカワから持って来た微粒子は、それ自体でものすごく高価なものなんじゃないかと。

今の金の相場は、アプレジュエラーズというサイトによると、24金でグラムあたり3,600円あたりとのこと。もっと高いプラチナ(Pt1000)は4,900円/gくらい。

ここでイトカワ微粒子に、原価計算で値段を付けてみる。

はやぶさ の本体価格は127億円。打ち上げたロケット M-V は標準(3段式)で70億円。はやぶさ じゃオプションの4段目が付いてたんで、とりあえず76億円にしてみる。これで203億円。通信・管制とかの運用を年間1億円として、7年間で7億円。ここまでで210億円。あとサンプル分析用のキュレーション設備だのカプセル回収費用だのがかかるけど、どのくらいかよく分からんからここでは考えないことにする。

サンプルの総質量はどうか。まだ発表されてないと思うけど、1mg もないと思う。計画だと、サンプル回収装置がきちんと働いたとしても、せいぜい0.何グラム程度、とされてた。とりあえず採取量が 1mg だとすると(はやぶさ公式ドリンク・リポビタンD のタウリンの1000分の1ww)、1グラムだとその1000倍ですな。

ととのいました。イトカワ微粒子のお値段、1グラムならなんと21兆円。

これ、多くの国の国家予算を軽く凌いでるでしょ。もう金やプラチナどころの話じゃないわ。

金はどの星で採っても金だからな。イトカワ由来だろうが佐渡金山由来だろうが、国際相場の値段にされてしまう。けどイトカワから持ってきたカンラン石や輝石の物性は小惑星固有なわけで、地球上に存在する天然ものは、はやぶさ が持って帰ったサンプルのみ(地球に降ってきた隕石もだいたい同じ組成らしいけど、どの小惑星から来たのか不明だし、熱や衝撃を受けたり地球の大気成分と化合したりで変成してしまってる)。

これ、モノとして世界最高額なんじゃないかな。

銘板左端銘板銘板右端

希ガスのキセノンの国際相場もグラムで数千円だそうだ。これ、はやぶさ のイオンエンジンの推進剤だった。これをマイクロ波でイオン化して、電界で加速して機体の後ろに噴き出して、それで超低燃費の宇宙航行を実現できた。

はやぶさ は旅の途中で姿勢制御機能を失って、窮余の策としてキセノンガスをそのまま噴射して姿勢を保つ方法を編み出して生き延びた。けどこのやり方は燃費が悪い。エンジンのまともな使い方の1000倍もキセノンを消費した。

イオンエンジン責任者の國中均先生、この使い方をするたびに「ああ、○○円が消えていく……」と嘆かれたそうだけど、それで21兆円/g のお土産をゲットできたんだから、結果オーライってことでどうでしょw

國中先生はなにもセコいわけじゃなく(自分の財布でキセノンを買ったわけじゃないだろうし)、実験のときから はやぶさ の推進剤タンクに詰め込むときまで、キセノンの買い付けや買い付け資金の調達に相当ご苦労されたってことなんじゃないかと。その実感が「ああ、○○円が消えていく……」の言葉になったんじゃないかと。

キセノンガスは はやぶさ に 66kg 搭載された。2000円/g だとして132百万円。1億3,200万円かぁ。推進剤の分際で、はやぶさ の製造費の約 1% を占めてる。イオンエンジンは単位質量あたりの燃費がいいのはよく知られてると思うけど、単価あたりだとそんなに燃費がいいとは言えんかもなぁw

銘板
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