ひとりごちるゆんず 2010年10月
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2010.10.1 金曜
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無視されてる事象の確認

しばらく前に新聞とかでときどき話題になった若者用語でさ、「全然(+肯定後)」ってのがあったよね。「全然オッケー」「全然大丈夫」「全然いける」みたいな用法は間違っとるけしからん的な。「全然」の後は否定語が来ると昔から決まっとるんじゃこのハナタレ小僧どもめ日本語を大事にせんかそもそも今の親が悪い大体なんだウンヌン……。

これって新聞の投書欄で話題になったのがはじめのような気がする。で、ひととおりの話題になった後、新聞社が調べた結果がコラム欄とかで発表された。太宰治の小説で「全然(+肯定後)」があった。ほかにもいくつか見つかった。近代から現代に至る間に廃れたものが、たまたま復活した形になっている、と。新聞の中の人たち、よく調べて発表してくれた。

そんで「なんだ本当は昔からちゃんとあるんじゃないか。だったらいいんじゃないか」と沈静化したんだけどさ、なんかまだ腑に落ちない点が2つあって。

ひとつは、イチャモン付けたやつ、ちゃんと紙面で謝ったのか、てこと。おいらが見る限り、そういうのは見たことも聞いたこともないんだが。こういうときほっかむりしてコソコソ逃げ隠れするのは昔から決まっとるんですかね。主観と不見識で「日本語を大事にせんとはけしからん」と決めつけたイチャモンを出しっ放しで放置している、今のあなた自身をご自分でけしからんと思わないのかねと。まったくこんな恥知らずにゃなりたかないですなぁ。

もうひとつは、この「昔からあったかなかったか」の切り口のみで解決&研究終了としていいのか? ということ。

現代の「全然(+肯定後)」って、恐らく昔の文豪の文を参考に生まれたわけじゃないでしょ。それとは別な理由で自然発生したんでしょ。その誕生の過程を妄想してみた。

「そんなの全然……オッケー」「何だよそれww」「あ、すげーいーなこれw」「それオレも後で使わしてくれよww」(そして芸能人がテレビで使うなりして大流行)

きっと偶然かウケ狙いかでポロッと出た言葉なんじゃないのかな。もしウケ狙いだったらこの発明者、相当いいセンスしてるわw 物事の意図的な誤用はコントの王道。言葉限定だと、落語家的な感覚があるんじゃないの? それとももしかして、何らかの言葉のプロによる作品なのかな。てことで、どんな立場の人にしろ、この人はすげーナイスな言葉のギャグをいつも作っては発してるんじゃないかな。

新しい流行り言葉がどう生まれるのか、その工程を想像すると、新語なりになかなか含蓄を感じるものですなぁ。

わざと変テコな用法をするのは若者言葉の常。それを受け止める方は、いちいち目くじら立てずにそのセンスを楽しんでればそれでいいんじゃないの? だいたい、おしゃべりでの言葉は面白い方がいいでしょ。楽しい時間なんだから、ウケたほうがいいに決まってるでしょ。

銘板左端銘板銘板右端

まー、ウケ狙いで始まったはず言葉が普通の言葉として実用途に入ってくるのが気持ち悪い、ってこともあるんだろうけど。

仕事のメールでもさ、けっこうあるんだよ「すいません」を使ってる例が。これ、故・林家三平師匠のギャグだよね。昭和末期までは「フォーマルでは使っちゃいけない言葉」とはっきりと認識があったと思う。けどもうなしくずしで OK になったのかねぇ。安全確認ができてないんで、おいらは今もフォーマルな書き言葉じゃ「すみません」を使うようにしてっけど。

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2010.10.2 土曜
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ポジティブ思考を信じない 類推編

秋元康の商機の嗅ぎ分け方が、ちょっとだけ分かった気がして。

世相の反対の巨大な大陸を狙うってことですかね。

明るい人やポジ思考が支配してる世の中で、そんな人たちを顧客にビジネスを展開するのは、実際は上がりが少ないんじゃないのかな。みんなが目を付けるから、いわゆる「パイの奪い合い」という状況で。

しかし経済用語の「パイ」って何だろね。おいらはてっきり食べ物のパイのことだと思ってたよ。シェア争いの図っていつも円グラフで出るから、あれをパイに見立てたもんだと。けど、マージャン牌のこととする説もあったりして。ちょっと調べてみたけど、どっちか全然分からん。

てことで、急拡大してる巨大市場だからといっても、みんなが参戦するとシェアを取るのにすげーカネと労力と才覚をぶち込まなきゃなんない。黒字を取れる可能性が下がる。取れても黒字幅が小さい。てことで、派手で目立つ割には実入りが少ない激戦区を避ける、というのもまたやり方。

「ニッチ(隙間)」を狙えってことになるか。これもよく言われてるけど、みんなきっと、激戦区の中での超狭い隙間を血眼になって探してる。たくさんあるんだろうけど、ひとつあたりは狭い。所詮隙間だから。それにやっと見つけたと思っても、もっとウワテなやつが先に見つけて事業を展開しちゃってたり。

けど世の中が何か特定のものに夢中になって、ビジネスの新大陸が出現したそのとき、実は誰も手を付けてない、光が当たらない世界も同時に存在してる。その暗黒フィールドの名は「旧大陸」。時代に乗り遅れた、あるいは乗らない人たちが作ってる世界。秋元康は常々、ここを狙ってるんじゃないかと。「明るい」新大陸のニッチは周辺の小島みたいなもの。旧大陸に住んでて新大陸に移行しない人たちの市場規模って、そんな小島なんかよりずっと大きそうだよ。てことで、旧大陸を再発見し次第エサばらまいて釣り糸を垂らせば、入れ食い満喫で笑いが止まらない、と。

その瞬間から暗黒の旧大陸に光が射してしまうから、ライバルたちに勘づかれる。てことはスピードが命。ライバルが気付いたときにはもうそこのシェア独占を完了してなきゃなんない。手際の良さも肝要ですなぁ。

彼が本当にその方法論を実践した結果がこうなのかどうか不明だけど、一応考えられるかなぁ、と。

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2010.10.3 日曜
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総本山へのフィードバック

はやぶさ の最大のテクノロジーのひとつ、それはイオンエンジン。当初与えられた役割を超えた大活躍を見せてくれて、おかげで はやぶさ は何度も窮地を脱して、とうとう地球に帰れた。特に2010年11月での「イオンエンジン全損で地球帰還は絶望的→バイパスダイオードで生きてる部品をつなぎ合わせたニコイチ運用で復活」の見事さ、これから長く語り継がれると思うよ。

ニコニコ動画にうpされた「こんなこともあろうかと」動画でそのあたりの顛末が世間に広まって、今の はやぶさ ブームにつながった。動画の演出の面白さはもちろんのこと、これネタ自体が面白すぎるんだわ。

そのイオンエンジンを開発したのは ISAS の國中均先生。そしてニコイチ運用のためのバイパスダイオードをあらかじめ仕込んでて、絶体絶命のまさにそのときに投入したのも、はやぶさ のイオンエンジンを知り尽くした國中先生。

んでさ、國中先生が今年の2月に発表した論文(細田聡史氏との連名)ってのがあってさ。タイトルはその名もズバリ「イオンエンジンによる小惑星探査機『はやぶさ』の帰還運用」。これをしばらく前に PDF 版を見つけてダウンロードしたんだわ。なんで入手する気になったか。それはあるウワサを目にしたから。

「『こんなこともあろうかと』と文中に書いてある國中論文があるらしい」。

てことで、どういう探し方したか忘れたけど、とにかく問題の PDF 論文を手に入れた。そしてもちろん真っ先に「こんなこともあろうかと」で検索。

こんなこともあろうかと

あったーwwww 先生、何やってんすかwwwwww

ていうかファンの動向をちゃんと気にしてくれてたんだなぁ。國中先生、ありがとう!

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2010.10.4 月曜
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ロケット的かぶきもの 1

今は亡き M-V ロケット(はやぶさ を打ち上げたロケット)は、斜め向きに打ち上げられてた。

M-V 3号機

写真は火星探査機 のぞみ を打ち上げた3号機のもの。ロケットの先端の円錐は黒い色に見えるけど、実際は白です。このときの打ち上げは午前3時ちょい過ぎの未明で、あたりはほぼ真っ暗。この写真の光源がロケットの噴射炎のみで、ロケットが下から照らされた形になったんで、たまたまそう見えてしまってるってだけで。

M-V の斜めの角度は「上下角」(90°で垂直)というそうで、宇宙科学研究所のロケットはずっとこの斜め打ち上げをやってる。M-V だと80〜83°くらいだったらしい(昔のロケットはもっと浅い角度だったそうな)。

M-V はあからさまに斜めとして、なんかこう H-IIA ロケットの打ち上げも、アングルによっては微妙に斜めになって見えるときがあってさ。打ち上げ直後は垂直のはずなのに。プレス用の撮影位置からだとそう見えるような気がする。とりあえず6号機の発射前はこんな感じ↓。

H-IIA 6号機

んー、整備塔と避雷針に挟まれてるんで、これだと垂直に見えるなぁ。そしたら離床直後の写真をいろいろ(7号機、8号機、9号機、12号機、13号機、15号機、16号機、17号機、18号機)拾ってきたんで並べてみるか。

H-IIA 7号機
H-IIA 8号機
H-IIA 9号機H-IIA 12号機
H-IIA 13号機H-IIA 15号機
H-IIA 16号機H-IIA 17号機
H-IIA 18号機

写真の並びと号機は以下↓

7号機
8号機
9号機12号機
13号機15号機
16号機17号機
18号機

んむー、垂直に見えるのもあれば、左に傾いて見えるのもあるなぁ。特に8号機、13号機、18号機がもろに傾いてるような……。「単なる目の錯覚」説が最有力なんだけどさ。

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2010.10.5 火曜
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ロケット的かぶきもの 2

てなわけで、一番でかい画像をゲットできた H-IIA 8号機で傾きを検証するっす。

画像レタッチソフト GIMP の回転ツールで、プレピューから「グリッド」を選ぶと、画像に格子網がかかる。これを目安にしてみるのだ。

H-IIA 8号機 グリッド1

……、

……、

……。

やっぱし左に傾いてんじゃん。

……、

……、

……。

と思いきや、避雷針の鉄塔を見ると、どうも画像全体が微妙に傾いてるっぽいな。んじゃ鉄塔を基準にまっすぐしてみるか。ふむふむ傾きは左に0.83°かな。んじゃ右に0.83°回してみるか。左腕を関節ごと右回転! 右腕をひじの関節ごと左回転! そのふたつの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的砂嵐の小宇宙!!(神砂嵐)

H-IIA 8号機 グリッド2

なんか機体の傾きもきっちり直った気がする。それならこの補正量のまま、グリッドなしでも保存してみますか。

H-IIA 8号機 グリッド3

おお、まっすぐに直っただよー(おいらにはちゃんと直ったように見える。人によるかもだけど)。

てことで13号機と18号機の画像も、避雷針の鉄塔を基準に補正してみるわ。まずは補正前↓。上が13号機。下が18号機。

H-IIA 13号機 補正前
H-IIA 18号機 補正前

んで補正後↓

H-IIA 13号機 補正後
H-IIA 18号機 補正後

13号機画像は1.00°、18号機画像は1.02°、右に回しましたです。

……、

……、

……。

まっすぐじゃないですか。

てことで、H-IIA が打ち上げのとき、プレス席がある観望台からのアングルだとなぜかカメラが傾いてしまうことがあることが発覚しましたですな。しかもなぜか同じ方向(左向き)に、大体同じ量(1°前後)だけ。

ロケットは問題ないことがはっきりしたけど、なんでまたカメラはこうなっちまうんだ? 観望台は射点から 2km 離れてるらしい。てことはカメラはけっこうごっつい望遠レンズを装着してるはず。てことはごっつい三脚を使ってるはず。避雷針のロケット側の辺を基準に、事前に水平を出しとけるはずなんだけどな。

これ、観望台の地面が左に1°傾いてるのかな。で、その地面を基準に水平を出してしまってるとか。って、おもりをぶら下げて垂直・水平を出すってのもできると思うんだ。なんでやんないのかな。

ていうか現場の設置で水平が出てなくても、撮った後に採用写真だけレタッチで角度を補正するのもアリだと思う。けど日時が違うのに揃って同じ傾きが出てるってことは、それもやってないんだろうなあ。プレスは速報性が命だから細かいことは言ってらんないのかもしんないけど、それにしてもプロなのに、どうしてこういうの出しちゃうかなぁ。

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2010.10.6 水曜
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ロケット的かぶきもの 3

打ち上げ直後にリアルで傾くロケットと言えば、韓国の羅老1号。1段目はロシア製だから、これが問題なんだとしたら主にロシアが悪いことになりそうな感じ。姿勢制御フィードバック機構をどっちが作ったかが焦点だろうけど。以下の画像は2009年8月の第1回打ち上げのもの。ニコニコ動画からキャプってきたよ。カウント +0 秒台から既に横滑りが起きてて、+20 秒あたりでようやく落ち着く。下の2枚はその間の +9 秒と +15秒。一番派手に傾いた瞬間。

かぶき羅老2009 1
かぶき羅老2009 2

解像度が粗くてあんまし精度を出せなかったけど、+9 秒で左に 5.18°、+15 秒で右に 7.25°だったよ。カメラは斜め下から見上げてるんで、傾斜角は見かけでちょいと強調されてるはずだけど、それでも倍ってことはないと思う。実際の傾きが仮に半分だったとしても(それだと羅老ロケットの長さも半分に見えるはず)、3°か。やっぱでかい気がする。

てか、2回目の方がより傾いてるってのが理解できんなぁ。ダンパー作用が異常に弱いんじゃないのかね。となると、突風か何かの外乱で、制御限界を超えてひっくり返る可能性が高いようにも思える。うーん、このロケット大丈夫か?

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2010.10.7 木曜
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ロケット的かぶきもの 4

韓国の羅老1号ロケットは今年、再打ち上げがあった。どっちの打ち上げとも失敗で、3回目をやるのかどうか検討中らしい。韓国国内では「やる」方向らしいけど、ロシアとの契約がいろいろ微妙な部分があるらしくて。

今はおいらは羅老の飛行中の傾斜に注目してるんで、その線から何か技術的な傾向が分かればいいなってことで。

そんなわけで、またニコニコ動画で今年6月の打ち上げ映像を探して、画像をキャプチャ&傾斜角度を測ってみた。今回も地上カメラからの見かけの角度の測定だけど、前回と大体同じ位置からの撮影らしいから、比較可能かと思う。てことで以下、1枚目はカウント +10秒時、2枚目は +15秒時。

かぶき羅老2010 1
かぶき羅老2010 2

角度はそれぞれ、左に 6.25°、右に 9.45°。前回(5.18°, 7.25°)より2〜3割増えてる。特に2回目の揺り返しが、1回目よりも、そして前回よりさらに増幅してる。このロケットのフィードバック制御、5回くらい打ち上げるとそのうち1回はほんとに破綻するんじゃないのか?

振幅が増えてはいるけど、周期と位相は気持ち悪いくらい一致してる。前回は +9秒と +15秒で、今回とほとんど同じ。おいらの測定誤差内。して、+15秒の傾きから立ち直ると姿勢が安定するってのも同じ。てことは、1段目の姿勢制御系は1回目と2回目とでまったくいじってないのかな。

んむー、わざとやってるのかな。姿勢制御系のチェックとかで。それだとしても変位が大胆すぎ。

NASA や JAXA ならジンバルのチェックは点火から離床までの数秒の間で済ますんだけど、羅老は見た感じ、点火→離床の時間差が2秒程度だから、そこじゃチェックできないのかも。ノズルが射点の床面の下に隠れてるしな。けど飛びながら確認ってのも危険な気がするし。つか「エンジンジンバルのチェックが NG なら飛ぶべきじゃない→エンジンを緊急停止して飛行中止→要点検」だから、段取り的にジンバルのチェックは飛ぶ前だよなぁ。それでもないのか。

理由はどうあれ、意図的に、見てて危険を感じるほど機体を派手に傾けるって、ちょっとないと思うなぁ。

結局、慣性誘導のセンサーかフィードバック系統が信じられないほど鈍いっつうことになりそうなんだけど、羅老1号の1段目はロシアが担当。制御系は韓国も噛んでるかもしんないけど、半分以上ってことはないと思う。ロケットの世界じゃ、「ロシア様が『白い』と言えば、黒いものも白いんだ」ってノリだもんな。ロシア側が「これで充分。大丈夫。問題ない」と言ってしまえば、韓国に限らずどこももう何も言い返せなさそうだもんなぁ。したら、羅老1号の3回目打ち上げが決まったとしても、やっぱしフラフラ飛行は続くんですかね。

「危険そう」って心配も確かにあるけど、フラフラ飛行は単純にカッコ悪いと思うんだが。

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2010.10.8 金曜
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上辺組織

いつ頃だったかな。確かバブル経済が崩壊した直後あたりだと思った。「ホンダ何やってんだ」と思ったことがあって。

グローバライゼーションとかまぁ国際化ってやつで、社内に英語を浸透させようっつう試みはまだよかった。海外のホンダの社員も日本に来てたろうし、日本にいる日本人社員だっていつ海外出張・転勤になるか分からん状態ともなれば、英語力を鍛えといて損はなさそう。

で、報道番組で紹介してたんだわ。ホンダ本社の社員食堂の様子。メニューの品名が変わって、みそ汁が "MISO SOUP" になったんだと。

ホンダ、気が触れたと思ったよ。

そんなに英語漬けにしたいくせに、みそ汁を用意するっつう凄まじいセンス。しかも日本人が作った英語。どうせなら社員食堂で和食を廃止すりゃよかったのに。昔の西洋列強の植民地だの租借地だのみたいに、その土地内で土着文化の使用を禁止するくらいやんなきゃ外国語なんて根付かんよ。てかもうそうなりゃ、その企業は日本にいる意味なくなるけどね。ホンダ、あのときはなんだかなーって感じだった。本田宗一郎が亡くなる前後のことだったような気がする。

あのあたりは妙に「国際化圧力」ってのが高まってたな。アメリカが IT と金融で鼻息が荒くなりかけてきてて、「日本国内でしか通用しない商習慣を捨てて国際標準を使え」と日本にいろいろ無茶な注文を押し付けてきてたけど、彼らの主張する「国際標準」の正体は単なるアメリカのローカル商習慣だったというオチ。確かに英語は国際語だけど、世界中どこでもが英語主体で動いてるわけでもないし。フランスなんか対抗意識を燃やして、英語を自国内から排斥してるしな(フランスからすれば、ヨーロッパは世界の中心で、フランスはヨーロッパの中心だからな。欧州大陸からはぐれてる辺境のイギリスくんだりの言葉が世界で幅を利かせてるっつう構図が面白くないんだろうなぁ)。

その国際化圧力のひとつを受け入れて、富士通は失敗したらしい。なんか徹底した成果主義を導入して、社員の成績を全部数値化しようとしたけどうまくいかなくて、元に戻したときにはみんなもう疲れきってたとか。内実は知らんけど、たぶん不正や不公平が横行して、かえって混沌化してしまったんじゃないかな。

「数字は絶対」というのは、データの裏がしっかり取れてこそ。再現性があってこそ。業務に関するパラメタは確かにたくさん設定すればそれだけ精密にはなるけど、それ以上に解析作業は複雑怪奇になる。しかもそれで業務のすべてを表現できるわけじゃないし。ずるをできる穴に気付いた者はごまかしをやりたい放題。数値化しにくい業務を受け持った者は、いくらそこでがんばっても評価されない。公平・平等な評価からますます遠ざかる、と。

そうか、業績をすべて数値で表そうとするのって社会主義経済と同じなんだね。そりゃみんな疲れて破綻するわ。

渡辺昇一の受け売り。旧ソビエトの製造業は、その製品の性能を価値として、国家が買い取り価格を決めたそうだ。妥当そうだけど、例えば机の性能なんてどう決めていいか分からない。でも決めなきゃなんないってことで、重量を価値としたら、国中の机がバカみたいに重たくなってしまったとか。どんな無意味な価値体系だろうと、はっきり定義されちゃうと新発想なんて絶対に出ないしな。

おいらが知ってるある会社もそうだけどね。社員が個人的に発想して、製造工程や製品不具合を減らす新方式や道具をいくら作って導入しても、それでいくら同僚に喜ばれても、その価値を測る体系が社内に存在しないんでその価値に気付いてもいない。てことで、社員がなんぼがんばって利益を支えてもまったく報われない、と。で、全社員の業績を平等に測れる=全員ができる作業の優劣だけで評価を決めてる、と。つかもうその課題作業の評価さえ止まってるらしい。ソビエト以下ですがな。

何かの新手法を形だけ組織に導入ってさ、昔も今もけっこうあるんだね。世の中、テクノロジーは着実に進歩するのに、組織運営は十年一日ですな。そういや前にニュースで見たけど、どっかの会社の営業部門で、部下にプロレス技をかけて怪我させた人がパワハラで訴えられてたなぁ。どんだけアナクロなんだ。

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2010.10.9 土曜
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海外に出たがらない若者を笑うな

「若者よ、海外へ出て見識を広げろ」なんてまあよく言われますな。正しいとは思うんだけど、裏側にある意図みたいなのが透けて見えるのがちょっとね。そのココロは? なんて訊いたって「若者には無限の可能性があるから」とかそういう建前しか出てこないんだけど、本音は、自分がやるのが面倒なんだろなんて。あるいは、自分の渡航成功体験を「君に分からんだろうが」なんて語りたいのかもしんない。しかも現実を見てないし。

観光や留学での日本人の海外渡航数が減ってるとか横ばいとからしいけど、そりゃそうだ。海外に行くにはカネがかかる。この不況で、最低限の生活を守るのにカツカツな人が増えてるっての。貰いが少ない上にろくに休暇も取れない。どこの誰だかよく分からんオッサンに「海外に行け!」と言われてホイホイ行けるほど簡単じゃないっての。まぁ今は円高だから、実は観光・留学は絶好のチャンスではあるけどさ。

円高だと留学や観光はいいけど、仕事で海外にわざわざ乗り出す魅力もあんましないわけで。稼いでも稼いでも、日本円換算だと二束三文じゃちょっとねぇ。その土地に骨を埋める覚悟なら日本円で考える必要ないけど、そこまでの人ってあんましいなさそう。冷え込んだ日本国内でがんばる方がまだリスクが少ない感じ。特に日本の就職事情じゃ若さは武器。ますます海外を選ぶ理由がない。

かつての日本人は、海外に出て稼いだ。明治時代は移民。戦前・戦中でも満州開拓に乗り出した人たちがいた(半ば日本だったけど、一応海外ではあった)。戦後も渡航制限が解除されてからは、企業戦士として日本人は欧米に出て行った。ここまでで言えるのは、日本がまだ途上国で、国内だけで食っていけない人や会社があったから。今は「失われた20年」の不況だけど、国内だけで就職先を賄えてるってことですな。てことで、若者が海外に自動的に出るようになるには、日本経済がもっとガタガタになって、この国に見切りを付ける人たちが激増する必要があるってことですな。

言葉の意図としては、日本の経済がまだ生きてるうちに、海外で見識を広げて帰って来た人たちが増えれば、日本の転落を防げるってことなんだろうなぁ。んで、だったらまず言い出しっぺのオッサンたちが今それやって手本を見せればいい話で。自分がやりたくないもんだから、若者にこんな身勝手な夢を託すんですな。

てことでこの場合、正解の返答は「じゃあお前がやれ」「口を出すならカネも出せ」「口先野郎はすっこみな」かな。

つか結局、海外で見識を広げて帰ってもさ、国内でその価値を分かる人ってあんましいなかったりする。無意味扱いされるならまだしも、「あの人は違うから」と疎まれてかえって損するんじゃ、ますます海外に行きたくなくなるもんで。新しい何かを作るってのは、異質なもの同士の組み合わせそのものだとは思うが、それを認めない環境が出来上がってるのもまた問題と。

「うちはベンチャー企業ですから」とか言いながら、自分が個人的に気に入った人材だけ重用する管理職とかさ。そこを読んで、とにかく気に入られれることだけ考えてる手下とかさ。何をどうやって新しいことしようってんだか。

銘板
2010.10.10 日曜
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見返りはギッチリ

はやぶさ の盛り上がりで、なんかすっかり「日本の宇宙技術は世界に冠たるもの」的な論調が目立つようになりましたな。気分いいし、正しいとも思う。

けどそんなダントツなわけでもなくて。確かに小惑星科学ですげーところまで来た。小惑星との往復技術も実証した。で、小惑星はいいとしても、惑星はどうなのか。これまだ日本は何も実力を示してないのよ。宇宙探査の花形と言えば、これからは はやぶさ の影響がどう出るか分からんけど、従来の価値観だと月と惑星ですがな。

月は かぐや が相当やってくれたからいいとしても(激戦区なんで放っとけばいずれ後塵を拝することになるけど)、地球の両隣の惑星、金星と火星は米欧露においてけぼり状態だぞ。金星は12月に あかつき が到着するから、これからですな。火星観測は90年代に のぞみ が果たすはずだったけど、叶わなかった。代替計画はまだ具体的になってない。

んー、X 線天文衛星 "ASTRO-E" は打ち上げ失敗直後に代替の "ASTRO-EII(すざく)" がすぐに作られたんだけどな。のぞみ の場合は探査機本体の問題点がいろいろ挙がったから、経験の蓄積を待つことになったのかな。やらなきゃ経験の蓄積もないんだけどさ。ていうかそうやってもたもたしてるうちに、のぞみ でやろうとしてた火星大気の研究はアメリカが目を付けちゃったらしい。絶好のニッチだったのに。

これはアメリカがずるいわけじゃなく、向こうも、いつ再挑戦するかどころか、再挑戦するがどうかさえ分からん外国の探査計画をただ待ってるわけにもいかんってこと。アメリカは経験豊富な上に開発が速いからな。もしその計画が本決まりになったのなら、日本じゃとても追いつけん。

つか、のぞみ も はやぶさ も、どっちも紙一重だった。関係者が投入した根性はどっちも同じくらいだったよ。で、のぞみ はもう少しのところで思いを遂げられなかった。

はやぶさ は のぞみ の経験を充分に活かしたもののそれだけじゃ微妙に足りなくて、のぞみ と同じくらいかそれ以上の根性もぶち込んで、さらに幾度もの幸運にも助けられて紙一重の勝利を得た。つまり日本の深宇宙探査の技術は全然足りなかったってこと。その足りないぶん、根性と運の下駄を履かせてた、と。

のぞみ と はやぶさ の経験もまた活かされて、さらに旧 NASDA が血と涙を流して手に入れた大型衛星技術もぶち込まれて、かぐや は月で存分に活躍できた。すべての使命を終えた かぐや は去年、月に計画落下したけど、それまで地球に送られた膨大なデータはいまだ解析中だそうな。日本の探査機はようやくつつがなく稼動できるようになりましたな。

そういえば木星の衛星イオに活火山が発見されたのは NASA のボイジャー1号のデータからだったけど、観測から何年も経ってからだったよ。ボイジャー1号が送ってきたデータ量がそれだけ凄まじかったわけ。すぐには汲み尽くせないほど大量で貴重なデータ。それが莫大な予算をつぎ込む「宇宙探査」の見返りなんですな。

てことで、日本の深宇宙探査機の国際的な高評価って今のとこ、はやぶさ と かぐや のたった2機で挙げたものなんだわ。実は水面下から水面上に出たばかりのド新人だったりする。慢心するにはまだ早いってわけ(地球を回る天文衛星の分野じゃ日本は昔から勇名を馳せてるけど)。実際、宇宙科学研究所(ISAS)の中の人たちはお祭り騒ぎしてるわけじゃなかったり。にわかに人気は出てるけど予算がそれで増えるわけじゃないんで、新規計画の遂行は相変わらず厳しいってことで。

5月に打ち上げた金星探査機 あかつき が12月に無事に金星の衛星になれたら、日本もようやく惑星科学探査のメンバーになれるわけ。のぞみ の打ち上げから12年。悲願ですなぁ。そうなれたときには、Twitter のあかつきくん、のぞみ に何か一言あげてやってくれ。

そんな中、IKAROS は国際的にかなり衝撃だったんじゃないかな。ソーラーセイルの発想は古いうえ(100年くらい前まで遡れるらしい)、80年代には日米欧で月をゴールに宇宙ヨットレースをしようっつうプランもあったくらい、専門家や天文ファン、SF ファンの間でよく知られたものだった。それがついに実証成功だもんな。たった20億円かそこらで作った宇宙機で(15億円という記事も見かけた)。

日本は宇宙に放射性物質を持ち込まない方針なんで、原子力電池を使えない。それでもどうにか木星まで行こうとしてたどり着いた答えが、薄膜太陽電池を帆に貼り付けたソーラー電力セイルだったらしい。この木星探査機はイオンエンジンも積む予定だそうな。IKAROS じゃイオンエンジンは省かれてるけど、帆の展開機構も太陽光での帆走も帆に貼った薄膜太陽電池と姿勢制御装置も無事に稼働して、貴重な実証データをどんどん送って来てる。

とりあえずの目標は木星とその近くの小惑星群のフライバイ探査だけど、それを完遂した暁には、ソーラーセイル宇宙航行で不動の地位を獲得するはず。イオンエンジンと合わせて、深宇宙を自由に行き来するすべを手にできるわけですよ。まーもしそうなったら、そのとき「日本の宇宙技術は世界に冠たるもの」の言葉を真に受けようかなと。

銘板左端銘板銘板右端

日本の衛星開発は旧 NASDA 御用達の三菱電機の一人勝ちな気がしてたけど、はやぶさ をきっかけに ISAS 御用達の NEC も注目を集めとりますな。NEC 自身もきちんとアピールしてるし。日本の宇宙産業にとっていいことだと思うよ。

銘板
2010.10.11 月曜
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かぐや的フロンティア

恥ずかしながら、かぐや の公式リリースを今さら初めて眺めてたりする。研究者インタビューで、「すげー」というのがあって(コチラ)。

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「かぐや」が打ち上がる前は、「もう月の探検の時代は終わって、精査の時代になる」とよく言われました。これまでのデータをもとに細かく調べるのが「かぐや」の役目だと言われたのです。ところが、「かぐや」が打ち上がって高精細な観測機器で月を見てみると、発見の連続なのです。月は今もまだ探検の時代で、誰もが知らない宝の山がたくさん眠っているのだと思います。ですから、「かぐや」のデータを基にして、将来の月探査がますます発展していってくれればよいと思います。

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月に関しては、世界中の科学者たちが「知ってるつもり」だったんだね。かぐや もそのつもりで精度を高めるための観測をしたはずが、新発見の連続だった、と。まーほとんどはおいらみたいな素人じゃその価値がよく分からんことかもしんないけど、ほかの成果との組み合わせとかで、そこからまた分かりやすい新解釈が出たりもするんだろうなぁ。つか、口あけて待ってるばかりじゃナンだから、ちょっとずつでも勉強しようっと。

昭和時代はまだ、月の歴史で火山活動があったかどうかは確定じゃなかったはず。それが今は確定されてる。アポロから かぐや までの40年間ってほとんど月探査の空白期だから、もしかしたら かぐや が確定させたのかも。そうじゃなくても、このページで出てるだけでも、火山活動の具体的な痕跡が詳しく研究されてるみたいだね。

前に、かぐや からの画像データで、溶岩チューブの跡にできた地下空洞が発見されたって話が出てたな。おお、これだこれだ(資料1, 資料2)。確か新聞で読んで初めて知ったんだよな。これは分かりやすい発見成果ですなぁ。火星だともう見つかってたみたいだけど、月では初めてだそうで、メールマガジンを読むと、発見直後に打ち上げられたアメリカの探査機 "LRO" にも見つけられて論文で先を越されるんじゃないかどうしようハラハラドキドキ、なんつう、科学の現場のサスペンスが伝わってくるよ。科学は2番じゃダメなんだよな。そしてその判定は、どの探査機がいつ取得したデータかじゃなく、科学者の誰がいつ論文を公表したかなんだね。てことは、科学者には科学誌が受け付けてくれる論文を書く腕前も必須ってことだね。LRO チームに先を越される前に公表できて、めでたしめでたし。

ちなみに HTML 版の ISAS メールマガジンって2番目以降のトピックが削られてるんだけど、それは単なるリンク集だからってことでこうなってた。けどこのとき既に、最後のトピックで『今週のはやぶさ君』が連載されてたんですなー。ちゃんと ISAS のサイトに残ってるけど、このとき はやぶさ君はどーだったかっつーと、

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☆04:今週のはやぶさ君

2009年10月29日[更新]

今日も、はやぶさ君は地球に向かって順調に航海を続けています。

2005年に行われた、はやぶさ君の観測で明らかになったものの一つに、小惑星イトカワの密度があります。

まず、はやぶさ君はイトカワの形を精密に計測しました。これでイトカワの体積がわかります。

イトカワの質量は次のようにして求めました。まずはイトカワに寄り添うはやぶさ君の軌道を細かく観察して、化学エンジンを吹いていないときのはやぶさ君の加速度を測定します。化学エンジンを吹いていないときには、はやぶさ君に加わる力のうち、太陽や惑星の重力分、太陽光に押される分(太陽輻射圧)を取り除いたものが、イトカワが はやぶさ君を引っ張る力、つまり、イトカワの重力分です。

つまり、はやぶさ君に加わる加速度のうち、イトカワの重力により得られた分を推定することができれば、イトカワの質量がわかるのです。

はやぶさ君の観測から求められたイトカワの密度は1.9g/cm3で、近赤外分光器の観測結果から予想されるイトカワの原材料、LLコンドライトの平均的な密度3.2g/cm3と較べるとずいぶんちいさいです。このことから、小惑星イトカワは、たくさんの隙間がある「がれきの積み重なり」であると考えられました。

また、イトカワ表面からの脱出速度は秒速数十cmしかないにもかかわらず、はやぶさがタッチダウンを行った「ミューゼスの海(正式名称はMUSES-C Regio)」は直径が数mmから数cmの細かい石に覆われていました。秒速数kmの隕石の衝突によって発生する破片の速度は、細かいものほど速いと考えられています。ですから、こんなに細かい石がイトカワ表面に存在するなんて思いもよらなかったことなのです。

こういう細かいことは、やはり実際に近づいて見ないとわかりません。

はやぶさの観測により、多くのなぞが明らかになり、新たななぞがたくさん生まれました。

* ISASニュースNo.301:宇宙科学の最前線【微小小惑星の質量を求める】

⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2006/yoshikawa/index.shtml

* ISASニュースNo.303:特集【「はやぶさ」の科学成果 第一報】

⇒ http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.303/hayabusa_result-0.html

2009年10月29日00時00分

(日本時間では、10月29日の09時00分)現在のはやぶさ君は、地球からの距離171,281,440km、赤経8h15m48s、赤緯19.89度にいます。

今週のはやぶさ君

⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/weekly.shtml

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かなり濃ゆい内容ですなー。イトカワの密度の測定って、こんなものすごい精密な方法でやったんだよな。5年も前に。はやぶさ が受ける太陽輻射圧は、イトカワから充分離れた、近くに何もない空間で測定しなきゃなんない。けど反射面が 14m × 14m もある IKAROS だって、イオンエンジン1機の7分の1程度の力だった。はやぶさ を上から見て面積が一番大きいのは太陽電池パネル。これ、色が黒っぽいから輻射圧はもともと大したことがないはず。相当な微量だろうなぁ(そのあとこの微量な力を姿勢制御に動員することになった。このメルマガが配信された2009年10月はそれを完遂した後だね。そしてこのメルマガ配信のわずか6日後は運命の2009年11月4日。はやぶさ にとって最後の絶体絶命の事態、イオンエンジン停止を迎えることになる。そしてまたもや「こんなこともあろうかと」炸裂で、人気爆発を迎えることになる)。

イトカワの重力加速度の方は、はやぶさ に積んだ加速度計じゃ測れない。加速度計にも機体と等しく重力加速度がかかっちゃうんで。てことで、速度変化を検出して、そこから加速度を算出するわけ。けど搭載機器じゃ測定できないんで、外部からの客観的な観測による測定が必要。で、これ、地球との通信での、電波のドップラーシフトを測って測定したらしい。

ていうか着陸ミッションのときなんか、秒速 2cm なんつう超微速を検出してたからな。電波の速さに対する秒速 2cm ってどんだけの桁数差よ(数えたら11桁だった)。アニメ映画『秒速5センチメートル』って、桜の花びらが舞い降りる速度のことらしいけど、さらにその4割しかない速度を検出してたってことですな。恐ろしい精度だよ。そんな超精密な手段で、太陽輻射圧やイトカワの微小重力の検出もしたんですなぁ。

観測機器を搭載しなくてもできる精密観測方法ってあるんだねぇ。

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2010.10.12 火曜
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木星探査機ジュノー その1

てことで はやぶさ の歴史的快挙に沸き返る日本列島朝7時に、「ほんとにそうなのか?」と疑問に思ったのがおととい。快挙には快挙だけどちょっと騒ぎすぎっぽいかも、ということで。

はやぶさ の打ち上げは、性能的に実は全然足りなかった M-V ロケットでなされた。足りないぶんは、はやぶさ 自身のエンジンと地球スイングバイという航法的マジックで補って、それでイトカワにたどり着けた。この旅程で培ったイオンエンジンと、今年成功した IKAROS のソーラー電力セイルを組み合わせて、将来は木星フライバイ観測(衛星周回軌道に入らず、通り過ぎざまのワンチャンスでの観測)を狙ってる。これはまだ開発が承認されてないから、案で止まってる状態。けど先に GO サインが出てた電波天文衛星 "ASTRO-G" の開発が実質中断状態で、今は予算がゼロになってるんで、もしかしたら次の新規開発協議の機会が繰り上げられるかなーとか勝手に思ってたり。

一方、世界の深宇宙探査機部門で現在、正真正銘の一人横綱の NASA。

来年打ち上げるは木星探査機ジュノー

ジュノー

ISAS が狙ってる木星フライバイ観測って、NASA じゃ70年代にパイオニア10号でとっくにクリア済みなんだよね。しかも木星へはそこから立て続けにパイオニア11号(後に土星をフライバイ探査)、ボイジャー1号(ガリレオ衛星もフライバイ観測)、ボイジャー2号(後に土星、天王星、海王星をフライバイ観測)と来た挙げ句、真打ちガリレオでついに周回観測を成した。そして今度のジュノーに至っては、極軌道を周回して木星の南極と北極を初めて観測するのだそうで。月・惑星探査、時代は極軌道に入りつつあるらしい。

地球観測はもう常識のように極軌道衛星だらけ。月も かぐや、嫦娥1号チャンドラヤーン1号LRO なんて今どきの探査機はみんな極軌道。火星もアメリカのマーズ・グローバル・サーベイヤーとヨーロッパのマーズ・エクスプレスが極軌道。金星観測はまだその前の段階みたいだけど、とりあえずこれからの月・惑星探査のキーワードは「極軌道」ってことで。ジュノーもその特等席を狙う。木星では世界初。

ジュノーの公式サイトによると、「今までの技術だけで作れる」というのが売りらしい。途中で修理できない上に過酷な環境に何年も曝される宇宙機器は、ほとんどが特注。しかも頑丈じゃなきゃいけないのに小型軽量も必須という二律背反条件。高性能と同時に信頼性が命ってこと。何かと不安が残る新規開発なしに、実証済みの技だけで行けるってのは、それだけ信頼性が高くてコストが低いってこと。つかそれだけ NASA の技術蓄積がすごいってことでもあるわけで。まぁそれで失敗した例もあるけどね。

マーズ・オブザーバーのこと。Wikipedia になぜか日本語記事がないけど、地球を回る衛星の技術を活用して火星探査機を作ったら、要求条件が違うもんでかえって高くついた上に、火星へ向かう途中で燃料が逆流。配管内のあらぬところで酸化剤と混じって爆発&全損。そういう踏んだり蹴ったりの探査機もあったりして。

ちなみにその事故を教訓に、日本の火星探査機 のぞみ は燃料の逆流防止バルブを取り付けた。でもこのバルブがトラブって、推進剤がうまく流れなくなってしまった。それで火星に向かうための地球スイングバイに失敗。

てことでマーズ・オブザーバー、よその探査機にまでも変な影響を与えてしまったという始末の悪さw のぞみ のトラブルはひとえに ISAS の経験不足が原因だったってことでどちらさんも納得済みの話だけど、これにはそんないきさつがあった。でも逆流防止対策をしなきゃマーズ・オブザーバーみたいに爆発してたかもしんないから、それよりは、トラブル発生後に復旧でがんばることで経験を積めたぶんだけ、のぞみ のケースはマシだったのかもしんない。

はやぶさ も、恐らく1回目の荒っぽい着陸のショックで燃料の配管がおかしくなって、ヒドラジン燃料が機体内部に漏れ出すっつう深刻なトラブルがあった。もしそのとき一緒に酸化剤の四酸化二窒素も漏れてたら、はやぶさ、マーズ・オブザーバーと同じく爆死だったよ……。燃料漏れはキツかったけど、漏れたのが燃料だけでほんとよかった。

で、あり合わせ技術の火星探査機でえらい目に遭ったことがある NASA、今度の木星探査機ジュノーじゃさすがに同じ轍は踏まないと思う。衛星じゃなく探査機の豊富なノウハウで、リーズナブルかつ高信頼な木星探査機に仕上げるんだろうなぁと。

ジュノーの設計思想が安全寄りだなーと思うのは、NASA にとっては超久しぶりのスピン安定型を採用したってあたり。もしかしてハレー艦隊に参加した "ICE" 以来かも。スピン型は常に機体全体が回転→機体に固定されたセンサー類も常に回転ってことで、探査性能は3軸安定型より劣る。でも機体の構造が単純だから壊れる要素が激減っつう、絶対のメリットがあるわけで。木星まで飛ぶこと自体がいまだに冒険の要素が強くて、さらに前人未到の極軌道投入もまた冒険。探査機の設計が安全側に寄れるものならそりゃ寄りますな。

てことで「日本は はやぶさ でアメリカを超えた」的な有頂天な論調は、ジュノーあたりをちょっと調べてみると「うーんちょっとなぁ」って感じなんだわ。小惑星探査部門限定じゃ現時点で超えた状態ではあるけど、NASA が本気を出せばすぐに逆転できちゃうってことでもあったりして。「私をあまり怒らせない方がいい」ってやつ。日本の深宇宙探査技術は世界に誇れるところまで来た。けどまだまだ、その道の巨人が鼻息で軽く吹き飛ばせる程度なんですな。

つかジュノーはまだ飛んでないけど、ニューホライズンズは目標天体の冥王星に向かって現在飛行中。今や木星軌道はおろか、土星軌道もとっくに越えた。来年3月には天王星軌道を突破の予定。あんな高いとこまで、スイングバイなしでいきなり現場に直行ですよ。ブースター5基がけのアトラス・セントールロケット、どんだけストロングなんだよ。圧倒的な実力にもう呆れるしかないっす。

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2010.10.13 水曜
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木星探査機ジュノー その2

NASA のジュノー、打ち上げもなかなかスケールがでかい。ニューホライズンズみたいな豪快な直行じゃないけど、そうですな、おお、形だけは はやぶさ の行きの行程に似てるわ。地球でスイングバイを1回やって、目標天体に向かうんだわ。けど はやぶさ + M-V ロケットとはやっぱし違う。はやぶさの行きの軌道は↓こんな感じ。ちょっと見づらいのしか見つけられなかったけども。

はやぶさ 往路

緑色が地球の公転軌道。まん丸い円で描かれてますな。この軌道からちょっと外向きに、はやぶさ は打ち上げられた。けど楕円の焦点がちょっとずれてるだけの軌道。周期も1年のままだから、打ち上げから1年後に再び地球に戻ってきて、そこで地球の引力を利用して加速(スイングバイ)。ようやく小惑星イトカワの軌道にシンクロして、イトカワに後ろからそろりそろりと近づいていった。

さてジュノーが木星に行くまでの軌道はどうかなと。

ジュノー遷移軌道

2011年8月5日打ち上げ。そこから はやぶさ みたいに地球に戻ってくる。そこで地球スイングバイをして木星に向かう。段取りは似てるけど、打ち上げからスイングバイまでの公転周期は2年。イトカワの公転周期が約1.5年だから、ジュノーは打ち上げた時点でいきなりイトカワよりも高い軌道に乗ってしまう。こっちは同じ行程でようやくイトカワに行けたってのに。はぁー(ため息)。「M-V とは違うのだよ M-V とは!」なんて高笑いが聞こえてきそう。

日本の宇宙科学研究所は、特に はやぶさ と IKAROS の開発・運用担当の川口研究室は、日本主導による「太陽系大航海時代」を唱えてる。実際、イオンエンジンのおかげで はやぶさ は世界初の2天体間の往復飛行を成し遂げた。はやぶさ を打ち上げた M-V ロケットには、500kg 級の探査機を月より遠い天体に直接送り届けるだけの力はなかった。はやぶさチームはそれを分かってて無理をしたんだけど、往路でイオンエンジンをかなり使って軌道変換をした。

けどさ、往路って打ち上げロケットに充分なパワーがあれば、あとはほぼ慣性飛行だけで勝手に目的地に着いちゃうんだよね。そうなると、例えば地球−小惑星の往復飛行なら、搭載した推進剤は往路であんまし使わなくて済む。そうなると、燃費効率10倍のイオンエンジンじゃなくてもどうにかなるケースも出てきそう。

日本はイオンエンジンとソーラーセイルで木星に行こうとしてる。軌道投入まではできないんで、通り過ぎざまのフライバイ観測のみ。やっとこさなんですな。その一方、アメリカはジュノーを強力なロケットでどーんと打ち上げて、そのぶん余裕があるもんだから推進剤をガッツリ積み込んで、木星の極軌道に投入しようとしてる。日本はここ数年や今年になって実証された最新技術をぶち込んでこのプラン。かたやアメリカは有り合わせの技術だけでここまでやろうとしてる。

力が違いすぎ。

メリケンさんの総合力、日本よりすげー先を行ってる。

(2015.1.15 補足: 日本の木星探査機は実は「木星圏探査機」ですた。木星スイングバイで加速した後、木星の公転軌道上の L4 か L5 に集まってるトロヤ群小惑星に行って探査が主目的。ということで、木星本体の探査はフライバイ形式で済ますことになってるというわけ。トロヤ群小惑星探査に成功すれば世界初になるはずだけど、木星スイングバイはアメリカじゃ1973年にパイオニア10号で実行済み。やっぱしメリケンさんすげえ)

やっぱ かぐや、はやぶさ、IKAROS の成果だけで天下を取ったような顔はできませなんだなぁ。ちなみに12月から あかつき が始める金星探査は、アメリカと旧ソビエトは70年代にとっくに経験済み。あかつき の探査内容は世界初だけど、探査機の到着順だと惑星探査やってる国の中で最後。

旧ソビエトなんざ70年代に、太陽系で最も過酷なあの環境に着陸機を降ろして、金星表面で気象観測をして周囲の写真まで撮った。80年代には金星大気に気球を飛ばしたし。ヨーロッパの探査も今現在ヴィーナス・エクスプレスが稼働中。ヨーロッパは火星でもマーズ・エクスプレスで日本に先んじた。

てことで日本の太陽系探査は、総合じゃ後追いの立場ですわ。

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2010.10.14 木曜
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日本も直接行けないか

はやぶさ も H-IIA ロケットが使えれば、キックモーター KM-V2 併用でイトカワにギリギリ直接行けたと思うなぁ。脳内で大ざっぱに見積もるとそう出てくる。

はやぶさ2 が目指す小惑星 "1999JU3" はイトカワより近いから、H-IIA + KM-V1(推進剤の量が KM-V2 の3分の2のキックモーター)で直接行ける気がする。

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2010.10.15 金曜
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単なる SELENE だった時分の着陸機

102010.10.10 で「(日本の月探査は)かぐや が相当やってくれた」と書いたけど、月探査も、世の中的には軟着陸して一人前って感じではあるよな。それを思うと、返す返すも惜しいことをしたよ。

いやさ、後に かぐや と名付けられる SELENE 計画、もともとは軌道周回機と着陸機とのセットだったのよ。一体になった状態で月を1年ほど周回して、全球観測が一区切りついたところで着陸機を切り離して、月面に軟着陸することになってた。けど緊縮予算のあおりで着陸機はキャンセル。周回機だけが生き残って かぐや になった。その画像、ずっと前(90年代)に見たことあってさ。旧 NASDA のサイトで。すげー探したよ。JAXA サイトも Google でも YAHOO! でも。今や かぐや 後継機の着陸機の画像ばっかでやたら探しにくかったよ。てことで、以下がそれ。

幻の着陸機

手描きの絵柄が時代を語りますなぁ。あの頃の宇宙絵には CG に出せない味わいがあったよ。

はるか右上に、着陸機を切り離した後の周回機が出とりますな。拡大してみよう。もとの画像が小さいから粗くなったけど、90年代のインターネットはほとんどモデムと ISDN しかない時代だったからね。幅600ピクセルの画像って大きい方だったんですよ。

90年代の SELENE 周回機

結局、着陸機をやめたぶん周回機を充実させようってなったんだと思う。周回機はセンサーをこれでもかと詰め込んだ挙げ句にハイビジョンカメラまで搭載して、

かぐや

ヨーカンみたいになった。

色もそんな感じw 仮にこんな充実した周回機に着陸機を付けたとしたら、H-IIA 2022型じゃ月まで届かなかったろうなぁ。ていうか実際は周回機だけになった かぐや でも届かなくて、そこから かぐや 自前のエンジンと燃料で目的地に行き着いたからな。

で、着陸ミッションを捨てて、大型周回機のごっついセンサー群で極軌道から月を全球調査することに特化したおかげで、幅広くて高精度な探査と新たな発見がたくさんできましたよってことですな。取捨選択の妙ですなぁ。

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2010.10.16 土曜
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かぐや の影に消えたもの 1

かぐや の開発とほぼ並行で、日本には月探査ミッションがもうひとつあった。それは LUNAR-A(ルナー A)。

LUNAR-A

この探査機、まずは月の周回軌道に入ってから、タイミングをうかがう。んで絵にあるような2本の「槍」(「貫入機」「ペネトレータ」と呼ばれてた)を軌道上から落として、月のそれぞれ反対側に突き刺す。ペネトレータには熱流量計と地震計(月震計)が入ってて、それぞれが取ったデータは周回機が上空を通りかかったときに無線通信で拾って地球に送る、という計画だった。

開発は かぐや より前に始まってたんだけど、ペネトレータの開発に何年も手間取った。で、ようやくペネトレータができた頃には、先に問題なく完成してた母船の方が経年劣化して危なくなって、そのまま開発中止でお蔵入り。劣化の主因は、空気中の酸素で接着剤がやられて、強度を保てなくなったってことらしい。真空中でどれだけ持つかが勝負の宇宙機は、地上の普通の環境に意外と弱かったという皮肉。

けど LUNAR-A の周辺や内部の機器は、日本が誇る「もったいない」精神でできるだけ活用された。打ち上げのために用意されてた M-V ロケット2号機のパーツは、失敗した4号機の検証や、4号機のやり直しの6号機の部品として使われた。LUNAR-A 本体の機器の一部は IKAROS に流用された。IKAROS のほうは流用部品は全部検査し直しでコストがかかってあまり安くならなかったそうだけど、不良資産を消化できたと思えばいいかと。

神奈川県相模原市にある宇宙科学研究所の庭に、M-V ロケットの実物が展示されてる。地上試験に使って用済みになった部品を寄せ集めた号機外の機体なんだけど(一応本物ではある)、その胴体には "M-V-2" と書いてある。LUNAR-A、よっぽど打ち上げたかったんだろうなぁ。つか、展示の実物は2号機にしとくのが妥当でもあるけどさ。組み上がった展示機は前期型だから1〜4号機のどれか。1, 3, 4号機は実際に打ち上げられて、今は太平洋の底に沈んでるんで。んー、あそこのあれが "M-V-2" なのは、この理由が主なのかもねぇ。

んで、90年代の ISAS は LUNAR-A のペネトレータの完成を待ちつつも、旧 NASDA と協力して SELENE 計画(後の かぐや)も進めてた。ここらへんの塩梅も、どういう経緯でそうなったのかちょっとよく分からん。同じ天体を目指した2つの計画を同時期にやるほど、ISAS には余裕がなさそうなのに。

銘板左端銘板銘板右端

月って内部の熱対流が終わってしまった天体だから、地震なんて起きないかと思いきや、起きるんだね。そのからくりはどうなってるんだろ。地球との潮汐力とか、大きな隕石が落ちたときの揺れなのかな。

銘板
2010.10.17 日曜
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かぐや の影に消えたもの 2

LUNAR-A の仕様と構造についても、ちょいとギモンがあって。

絵を見た感じ、スピン安定の宇宙機に思えるんだわ。けどさ、ペネトレータは月の反対側同士に落とすから、同時に切り離すわけじゃなさそう。絵でも1本ずつ放出する感じだよね。ペネトレータが母船に1本だけ残った状態でスピンしたら、回転が偏心してよからぬ影響を及ぼしそうな気がして。

やっぱしスピン安定型だったはず。確か、月面撮影用のカメラ "LIC" は火星探査機 のぞみ のカメラ "MIC" とほとんど同じ仕様だったはず。これ、機体の自転を利用して撮影するんだわ。のぞみ はスピン安定型の探査機だった。てことで、LUNAR-A もスピン安定型だったと思うんだ。

んむー、ペネトレータ1本の状態は不安定じゃなかったかなぁ。これを想定できてないはずがないんで、対策はちゃんとしてたはず。てことで、その対策の具体的な仕組みを知りたいのよね。まぁ「スピンがこの程度の偏心をしてても問題ないように設計してあった」というのが正解かもだけど。

銘板
2010.10.18 月曜
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かぐや の影に消えたもの 3

LUNAR-A を打ち上げるはずだったロケットは、おととい書いたとおり M-V の2号機。けどこれが のぞみ、はやぶさ と同じくパワーが足りなかった。惑星探査機に足りないのはまぁ分からんでもないけど、お月様に行くにも足りなかった。LUNAR-A も のぞみ もはやぶさ も、質量は 500kg 台前半で同じクラスの探査機。で、LUNAR-A でも足りないぶんをスイングバイで補うことになってた。

と書くと M-V がダメロケットみたいな感じになっちゃうけど、そういうわけではなくて。

先代の M-3SII ロケットは、探査機 さきがけ と すいせい をハレー彗星に直接送り込んだ。この2機の質量はわずか 139kg。日本の宇宙機が初めて深宇宙に出るってことで、小さくて機能を限定したもので充分だった。しかもフライバイで1回しか観測しないし。本格的に太陽系探査をするとなると、できるだけ大きい機体にセンサーをごっそり積み込みたい。

M-V の打ち上げ能力は M-3SII の約2.5倍。かなりがんばった。それでも直接投入で打てる深宇宙探査機は 350kg がせいぜい。そこで軌道力学の出番。スイングバイを利用すれば 500kg 台の探査機が実現できるはず。てことで M-3SII の時代にスイングバイ実証機 ひてん を打ち上げて、腕を磨いた。そして実行に移された。という流れだったんですな。

んで LUNAR-A のスイングバイ。なんと月の周回軌道に投入するために月スイングバイをするという不思議な話。ずっと前に ISAS サイトで説明を読んだけどよく分からんくて。とりあえず、軌道の図面をどっかからかっぱらってきた。

LUNAR-A スイングバイ軌道

月の脇を後ろからかすめて加速スイングバイ。太陽に対する打ち出し方向の関係で、のぞみ みたいに逆宙返りで昼側に行くってことはなく、順行(天の北極から見て左回り)のまま夜側を大回りして、地球に近付きつつ順行のまま昼側も通過。ほとんどまる1周したところで、再びお月様に相まみえる。そこで晴れて周回軌道に投入、という段取り。

こうすると、軌道投入に使う推進剤が少なくて済むから探査機全体を軽くできる、とのことだった。別な言い方をすれば、こうでもしないと M-V じゃ間に合わなかった、ということ。

このコースだと、LUNAR-A はお月様に後ろから近づくことになりますな。フツーに横から近づくよりも、お月さんとの速度差が減るわけで。これで周回軌道投入時の逆噴射量を減らせる、ということらしい。仕組みは分からんでもないけど、なんだかどうも詐欺に言いくるめられてるみたいな香りがするのはなんでだww

銘板
2010.10.19 火曜
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かぐや の影に消えたもの 4

昨日出した LUNAR-A の月スイングバイの軌道は不思議な形をしてたけど、火星探査機 のぞみ のスイングバイ軌道もなかなかでしたなぁ。下の図は のぞみ の月-月-地球スイングバイ軌道。

のぞみ 月-月-地球スイングバイ軌道

「地球の公転と太陽の引力を併せて考える」「座標軸を地球-太陽を左向きに固定」で考えないと理解できないんですな。のぞみ のときはかなり悩んだけどなんとか理解できた(と信じてる)。LUNAR-A の方も、またしばらくウンウン唸ってみるか。

LUNAR-A は月に行くために月スイングバイ。のぞみ は地球を周回しつつ地球スイングバイ。どっちも一見スイングバイの掟に反するマジックを作ってくれたんだよな。日本のスイングバイ技術、ほとんど変態の域に達してるよ……。はやぶさプロマネの川口淳一郎先生(別名「軌道の魔術師」)なんですがね、ええw

銘板
2010.10.20 水曜
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今さら振り返る旅のツボ

はやぶさ は2009年11月の全エンジン停止のあと、2つのエンジンの生きてるパーツを組み合わせて窮地を脱した。もうかなり有名な話だよね。はやぶさ の苦難の旅路が語られるとき、必ず出てくる。

そのときの記者会見でさ、推進剤のキセノンが足りるのか、というみんな思いそうな懸念に対して、國中先生は

「推進剤のキセノンは推定であと20kg残っている。残る加速に必要な量は5kgほどなので十分対応可能」

とのお話。

まぁ行ける方策ができたからこその発表なんだろうけども、それでもおいらにはちょっと不安な気分が残ってたよ。だってさ、A は中和器を動かすためだけに推進剤を消費してるわけでさ、B は B で、イオン噴流を出してはいるけど、動かない中和器のぶんまでキセノンをただ外に流してるわけでさ。燃費のよさが売りのイオンエンジンのその消費率が倍になっちゃうんだもん。なんかほんとに大丈夫かよって感じで。

けど今落ち着いて考えると、全然問題なかったわ。

トラブル前は B と D の2基を同時運転してたんだもんな。それで推力 5mN(たぶん合計)。それがクロス運転で、相変わらず推進剤の消費は2基ぶんだけど、推力は 6.5mN。かえって状況がよくなってたw

てことは B + D が生き続けてた場合、2010年の運用はパワーがクロス運転の場合の 77% で我慢しなきゃなんなかったわけだ。余計ツラい運用になってたはずなわけだ。まぁそれで最後まで行くつもりだったんだろうから、それならそれでも大丈夫だったんだろうけど。

それにしても、この時点で推進剤の必要量 5kg に対して残量 20kg って、これは気持ち的にも余裕を生んでくれたんじゃないかな。打ち上げ前、行程じゃキセノン推進剤は 40kg で充分のはずだったのに、川口先生の指示で無理やり 66kg も詰め込んだってのがまず効いてる。最後に残量 15kg ってことは、51kg 使ったってこと。40kg じゃ全然足りなくなってた。これイオンエンジン開発者の國中先生の計算ミスじゃなく、姿勢制御燃料のヒドラジンがトラブルで全部漏れてなくなってしまって、代わりにキセノンをナマのまま中和器から噴き出させて姿勢制御をしたから(これもすごい対策だったよな)、それで足りなくなっちゃったんだよね。

次に効いたのは、イオンエンジンを止めてる期間の姿勢制御に太陽光圧を利用して、キセノンをまるまる温存したってこと。それで去年の11月時点で 20kg もの残量を確保できた。

イオンエンジンの稼働中は、エンジンジンバルを上下左右5°の範囲で動かせるんで、舵が効く状態。太陽電池パネルを常に太陽に向けていられる。けど休眠モードのときはイオンエンジンを止めてるからこれができない。このとき はやぶさ は地球との定期的な通信以外に特に何もすることがないんで、自転してスピン安定状態になってる。スピン安定ってコマの原理と同じで、回転軸が常に同じ方向を保つのを利用してる。常に同じ方向ってことは、公転するうちに自転軸がだんだん太陽を向かなくなってしまうってこと。だからときどき調整をかけて、自転軸が太陽を向くようにしなきゃなんない。

もしリアクションホイールが生きてたなら、スピン安定をやらなくてよかった。けど3個のリアクションホイールのうち往路で1個、イトカワ探査中にもう1個が死んでしまって、機能不全に陥ってた。最低2個ないと3軸の制御ができないんで。

もしヒドラジン燃料に余裕があれば、そっちで姿勢制御ができてた。けどみんな漏れてなくなってしまった。

もしキセノンの中和器噴射でこの期間の姿勢制御をしてたら、復路のぶんの残量が足りなくなってた。

で、太陽光圧の利用っつうアイデアが出てきた。この太陽光圧の話も有名になったけど、それにはこういう絶体絶命フラグがあったんですよ。しかしこの策が有効でほんとよかった。一方向から来る圧力ってことで、探査機の形状によって作用や受ける大きさは違ってくるはず。はやぶさ の機体サイズと形状が、たまたまその策を有効にできる状態になってたってことなわけで、ここでも幸運が働いてた。

幸運といえば、4基のイオンエンジンの4つの中和器の配置って、開発時にはあんましこだわってなかったそうで。正方形に並んだ4エンジンの4つのカドに内向きに配置したというのは、大した意味はなかったらしい。けどこれが、キセノン生ガス噴射での姿勢制御をたまたま有効にする配置だった、と。さすがにこれは「こんなこともあろうかと」の範囲外の奇策。

事前に回路を組んでたクロス運転もすさまじいけど、アドリブで対応しちゃった太陽光圧と生ガス噴射、こっちもこっちで、宇宙機運用じゃ考えられない、滅茶苦茶とかでたらめとか言っていいほどな方策ですな。そのすべてが機能して、はやぶさ はついに地球に帰って来たんだねぇ。今さらながら、ほんとにすごい冒険だったよ。

すごい冒険ってのは、思い出すと胸が熱くなるけど、そのときは背筋が凍る綱渡りなんだね。生き延びてこそ語れることなんだね。

思い返すだに、火星探査機 のぞみ が遺した貴重な教訓「探査機は何があっても絶対に死んではならない」は、きちんと受け継がれてたんだねぇ(しみじみ)。のぞみファンとしても はやぶさファンとしても、嬉しい限りですよ。

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2010.10.21 木曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 1

はやぶさ に関する語りでよく出るのでほかに、「打ち上げ当初はほとんど注目を集めなかった」「誰も成功するとは考えられなかった」というくだり。

おいらもそのクチだったよ。開発状況を大まかに追ってはいた。打ち上げられたのも知ってはいたけど、そのときはあんまし関心を持ってなかったのよ。だってそのあたりは、のぞみ のことでおいらいっぱいいっぱいだったんだもんよ(泣)

世間が注目しなかったり、成功を疑問視したのも分からんでもないよ。はやぶさ が打ち上げられた2003年ってさ、日本の宇宙開発にとって「魔の2003年」だったんで。この年だけで、火星探査機 のぞみ は不調の上についに火星周回軌道投入も運用も断念。大型地球観測衛星 みどり II は打ち上げからわずか11カ月で故障して全機能停止(この手の衛星は最低1年は稼働しないと、データの価値があまりない)。H-IIA ロケット6号機は打ち上げ失敗。搭載してた情報収集衛星2機も全損。という惨状。とても新鋭探査機を無邪気に応援できる気分じゃなかった。

その前に、1998〜2000年にもロケットの打ち上げ失敗が3回もあって、日本の宇宙開発は世の中の信用を完全に失っててさ。そこから慎重に再生しだしてた頃合いで、「魔の2003年」。少しずつ積み上げてきた信用がまた全部崩れ去ってしまった、まさにその時期。宇宙3機関統合のゴタゴタもあって、おいらの日本の宇宙開発を応援する気持ちも萎えきってたよ。

おいらそういや、はやぶさ 打ち上げ成功後にこれからを期待したというより、M-V ロケット5号機が打ち上げに成功してほっとして、それで気分的に終わってしまってたってのもあったわ。その前、2000年に打ち上げた M-V 4号機が失敗。新型の X 線天文衛星が犠牲になった。M-V 2号機は打ち上げ延期中だったんで、はやぶさ の5号機は M-V にとってまだ4回目。先立つ3回のうち直前の1回は失敗。しかもその復活1発目でいきなり深宇宙探査機の打ち上げとゆー重いミッション。「めっさ無茶してるっぽいけど大丈夫なのか?」なんてほんと不安だったわ。てことで、「打ち上げ成功」と聞いてひとまず安堵。そして のぞみ は絶望の荒海にもまれて死闘中。はやぶさ のことしばらく忘れてたわ。

この年の12月、のぞみ の哀しい結末を知って、しばし呆然の日々。2004年の4月頃、久しぶりに ISAS のサイトにつないだら、目立つところに妙に気合いの入った Flash 映像。「1km 四方の的を射抜く!」と。なんのこっちゃと思ったら、はやぶさ がそろそろ地球スイングバイをするというお知らせ。けどまだ分かっちゃいなかった。このスイングバイがどんだけ高度なもんだったのかなんて。イオンエンジン全開で加速しながらも速度許容誤差がわずか秒速 1cm だったと知ったのは、んー、たぶん今年(2010年)に入ってからじゃなかったかな。「NASA が呆れるほど正確なスイングバイをやってのけた」というのは何年か前に聞いたことはあったけど。

惑星間空間で 1km のズレといえば、普通は許容誤差内もいいとこ。そのくらいならドンピシャのうち。それが 1km 以上外れるとアウトってどんだけ厳しいんだと。そして速度の許容誤差は秒速 1cm っつう非現実的な必要条件。そして成功。行程監視で協力してた NASA も、そりゃ驚きを通り越して呆れるわw

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2010.10.22 金曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 2

あと、はやぶさ が注目されなかった理由で大きかったのはたぶん、小惑星探査がなんだか地味な感じだったからってのもあったと思う。今はもうそんなこと全然なくなったけど。はやぶさ 自身が世の中をそう塗り替えたわけだけど、こうなる前は、おいらはそんな程度の認識だったよ。小惑星の現地探査と研究成果がこんなにもエキサイティングだったなんて、はやぶさ がイトカワに到着するまでまったく知らなかったよ。小惑星だったらアメリカの探査機が何個かもう調べてた。おいらは小惑星なんてどれも同じだと思ってて、今さらイトカワなんてのを調べたってなぁなんて思ってた(大間違い)。

けど ISAS メールマガジンは着々と届く。2005年2月、イオンエンジン搭載の探査機として最も遠いところを飛んでる、というお知らせ。ここらへんから脳内が盛り上がってきた。太陽光の強さは、太陽からの距離の2乗に反比例する。火星より遠いそんなところでイオンエンジンを回せるだけの電力を作れるんか、と。

7月末、スタートラッカーがイトカワを捉えたのと同時に、リアクションホイール1個が停止したとの発表。このときはそんなテンション上がってないつもりだったのに、残り2個のリアクションホイールでどうにか3軸制御ができることを、必死に脳内シミュレして確認したのを覚えてる。

そこからはもう はやぶさファンとしての人生ですよ。

ISAS の はやぶさ 公式サイトと新聞記事を毎日チェックですよ。

新聞は盛り上がってたんだわ。特にイトカワ到着以降は。その何年か前から、新聞って一斉に科学欄を縮小してさ。言葉じゃ「理科離れを憂う」とか言いつつも、やることは世の中に倣ってそんなもんでさ。それなのに、はやぶさ に関しては社会面でかなりの紙面を連日のように割いてくれた。

で、とりあえず科学探査ミッションで、鼻血ものの発見が次から次へと相次いだ。そのときおいらはやっと、NASA の小惑星探査と はやぶさ のイトカワ探査の質が全然違うことに気付いた。今までまったく与り知らんかったことが、続々出てきては続々解明される。まー NASA も各探査機の公式サイトを直接読めば、かなりの情報を得られたのかもしんない。おいらの NASA 小惑星探査の情報源ってもっぱら新聞でさ。おいらみたいによく分かってないうえに関心の薄い記者さんが書いてたらしく、かなりアバウトな情報しか書いてなかったんだわ。

とにかく、はやぶさ から連日届く驚異のデータに圧倒される毎日。

そのさなか、悪夢のリアクションホイール2個目停止(10月2日)。ちょ、残り1個じゃこれからの着陸ミッションできねーだろ! のぞみ の運用で中の人たちは相当タフになってるんだろうとは思ってたけど、この時点じゃもう着陸できないかもなんて思ったよ。

10月29日の新聞には、ものすごいニュースが載ってた。「化学スラスタの制御を工夫して、それまでの10倍の精度で姿勢制御できるようになった。これでどうにか着陸の目処が立った」とのこと。探査機って人の手が届かないところにあるんだから、修理や改造が一切できないんじゃなかったのかよ! やっちゃったよこの人たちは! これは惚れるでしょ。

それでも「着陸は無理」が「無理すれば着陸できるかも」になっただけ。厳しいのは相変わらず。それでも はやぶさチームはファンの期待に応えて、着陸ミッションに突入してくれた。ターゲットマーカー1個目喪失は想定内としても、ローバーのミネルバ喪失は痛かった(11月12日)。期待してただによぉ……。それは中の人たちも同じか。

あとで笹本祐一の『宇宙へのパスポート3』を読んだら、ターゲットマーカー2投目は149か国88万人の署名が入ってるんで絶対に外せないってことで、どうもミネルバを練習台として使った節があるらしい。苦渋の決断ですなぁ。

ターゲットマーカーは全部で3個。3個目は結局使わずじまいで、はやぶさ 本体にくくりつけられたまま地球に帰ってきた。ミネルバを出したのに3個目を温存してたのは、署名入りマーカーが失敗したときのためのものだったのかな。そこらの はやぶさチームの判断の筋道はいまだに謎。ま、ミネルバが成功してたとしても、全面太陽電池貼りで黒っぽいから、ターゲットマーカーとしての役には立たんかったろうからなぁ。それにリアクションホイールの代用で化学スラスタは推進剤をかなり使ってたから、そう何度も着陸できるわけじゃないよな。となると署名入りマーカーは早いとこ放出したいわけで。

結果で言うと、署名入りマーカーの着地は成功して、はやぶさ 本体はそれのみを頼りにイトカワに2回着陸・離陸した。直後に燃料全漏出トラブル発生で、もう着陸できなくなった。だから結果的に3個目は要らなくなった、ということかも。

後からじゃ「あのときこうしてれば」なんていくらでも言えるけど、やってる最中はこれから先どうなるかなんて分からんしな。しかも不確定要素が多すぎる状況だったし。

2013.11.16 補足: ターゲットマーカー3個目を放出しなかったのは、2回目の着陸時は1回目と同じ場所にすることになって、イトカワ表面にマーカーが2個あると はやぶさ が混乱する恐れがあったかららしい。そして2回目のセッティングでは、ターゲットマーカーにあまり頼らないことにもなってたらしい。てことで、わざわざ3球目を投球しないことになった、と。

復路では余ったターゲットマーカーを捨てれば軽量化できたのに、とも思っとったけど、今はそれはそれで避けて正解だったかな、という気もする。この放出機構は、つないでいる糸を切るというだけ。バネとかの能動的な分離機構はなくて、イトカワへの接近中に糸を切って、直後にはやぶさ 本体がスラスタ噴射で減速すると、ターゲットマーカーは本体から離れて先行、先にイトカワ表面にたどり着く、という段取りだった。

となると、スラスタ全損後の復路で糸を切ると、マーカーは場合によってはいつまでも はやぶさ 本体のどこかに引っかかって離れず、どんな悪影響を及ぼすか分からなくなる、と判断されたんじゃないかと。静電気か何かでイオンエンジン周辺にまとわりついて噴射口をふさぐ、なんてこともまったく考えられんわけではないわけで。

放出すれば軽量化と言っても、あの時点での はやぶさ 質量は 400〜500kg ほどあったはず。ターゲットマーカーの質量はどうだろ、100g 程度じゃなかったのかと。その 100g の質量でのわずかな損失をケチるために、何が起きるか分からんワイルドカードなリスクを積み上げるのは割に合わん、となったんじゃないかと。

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2010.10.23 土曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 3

連日、手に汗握ってたあの頃。

そういえば着陸ミッションで、ちょっと不安になる はやぶさ の「癖」が出てきたっけ。

はやぶさ は降下中に危険を察知すると、自動でイトカワから離脱する仕組みになってた。イトカワの表面状況は事前の予想とまったく違ってたってことで、案の定、何度かそれが作動した。んで、そのたびに一時的に行方不明になってさ。次の日には発見されるんだけど、100km ほど離れたとこまで飛んでしまってたりして。時速 4km ×25時間でまたイトカワ上空に戻ってきてた。そのあたりの自律機能がどうもうまくいってない感じで。

その「癖」、2回目の着陸・離陸の後でも出たと思う(記憶に頼ってるけど)。んで、「またかー」と思ったら、なんだか様子がおかしい。状況は違ってた。通信が回復したら制御不能状態だそうな。地上がいろいろ指示を出したけどあまり改善なし。そしてまた通信途絶。これには怖くなったよ。

「癖」どおり、次の日に通信回復。化学スラスタがあてにならなくなったんで、苦肉の策でメインエンジンの中和器からナマのキセノンガスを噴射して姿勢制御する方法を投入。ちょ、またすごいこと考えたなー! 新聞記事だと、中和器の配置がたまたまそうできるようになってたからできた、とのこと。たて続くトラブルは不運だけど、リカバリーは幸運にも助けられてるなぁ、と実感。

この段階で、サンプラーホーンの弾丸が発射されてなかった可能性が高い、との発表(12月7日)。これは焦ったよ。中の人たちはもっと焦ってたはずだけど。それでも はやぶさ、ここまでよくやったよ。もう充分だから早く地球に帰ろう。そろそろ出発の時間だよ。出発が遅れると3年待ちになっちゃうよ。2007年に帰れなくなるよ。

次の日(12月8日)、またしても燃料漏れで、機体がおかしな回転をし始めた。あとで何かで読んだ話だと、ベーキング(機体内部の加熱)で機体の中に漏れた燃料を追い出そうとしたら、蒸発した燃料ガスがあらぬところから機体外に吹き出て はやぶさ 全体が回転しだしたとか。けど、ベーキングしないと危ないし、機体内で凍った燃料が機器に悪影響を与えそうだったし。ほかに手はなかったと思う。そしてその姿勢喪失でまた通信途絶。

間違ってるかもしんないけど、回転の制御ができなかったことのおいらの理解だと、「ベーキングで機体内で凍った燃料が溶けた→気化熱を奪われて機器が冷えてダメージを受けた→キセノン生噴射制御がうまく作動しなかった」かもなーと思ってる。

2回目の離陸からここまでの流れ、関係者の心中を察すると胸が痛むよ。通信が回復したのはいいけど、ダウンロードしたデータが示したのは「リセットされて記憶がほとんど消えてしまっている」。残ったデータは「サンプル回収失敗の可能性」。機体を立て直そうとしたらますます姿勢がおかしくなって、挙げ句に通信途絶。これはファンとしてもキツかった。そしてその後、もっとキツい状況が待ってた。

通信が途絶えたまま、ISAS は はやぶさ の地球到着を2010年に延長する発表をした。ちょっとちぐはぐな話だよね。探査機がどうなってるか分からないのに、到着予定年を発表だなんて。全然諦めてないのはきちんと伝わったけど。

はやぶさ がいない毎日。いても立ってもいられない毎日。そんな中の ISAS メルマガには、復旧の可能性が書いてあった。通信途絶直前の状況からの確率計算によると、「復旧できる見込みは、これからまる1年で 60%、2007年春までなら70%」。これ、ギャンブルなら充分な確率だけど、救出だと危なっかしい数字だよね。けどこれに頼るしかない。心細かったなぁ。

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2010.10.24 日曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 4

「こんなこともあろうかと」で有名な「はやぶさ の自転は、放っておけば z 軸回りの回転に収束するように作ってある」は、『宇宙へのパスポート3』を買って読んで初めて知ったなぁ。つか、笹本さんはこの話を的川先生から聞いて、「伝家の宝刀『こんなこともあろうかと』」って書いてるんだよな。「こんなこともあろうかと」を最初に言った人と思うんだ。

はやぶさ を一躍人気者にした動画『探査機はやぶさにおける、日本技術者の変態力』じゃヤマトの真田さんが「ほら来た」とすげークールに片付けてるけど、確率6〜7割だもん、中の人たちはとてもそんな余裕かましてなかったと思うよ。結果が出てからだからこその「ほら来た」発言ってことでひとつ。けど実際、プレスリリースじゃいくぶん楽観的な感じだったような。

おお、これだこれだ「下図は、2007年3月までの間で、太陽と地球からの角度が復旧の条件を満たす+Z軸姿勢方向の存在範囲を示したものです。かなり高い確率で、この条件を満たす姿勢方向が存在することがわかります」だそうで(2005年12月15日付)。復旧確率の「6〜7割」のソースは、同日発表のコチラ

「便りがないのはいい報せ」とは言うけどさ。そんなことじゃないだろと。気が気じゃない毎日を慰めてくれたのは、どこかのファンが作ってくれた Flash 動画『今度いつ帰る 〜はやぶさ探査機〜(ニコニコ動画) と WMV 動画『探査機ハヤブサリオン(ニコニコ動画)。当時はまだニコニコ動画がなかったから(YouTube はあったかも)、それぞれ独立したサイトで自主公開してたよ。

はやぶさ からビーコンが届いたのは、2006年1月23日。予想よりずっと早かった。というのは各種 はやぶさ 本に書いてあるとおりなんだけど、世の中に公表されたのは3月になってからだったよ。確か3月7日だったような。居酒屋で呑んでたところにケータイに ISAS メールの転送が来て、そのことが書いてあった。「うぉぉぉやったー!!」とバイトのおにゃのこに歓喜の絶叫を聞いてもらったっすよ。

発表がこんなに遅れたのはたぶん、はやぶさ の状況がもっと悲惨なことになってたからだと思う。状況の把握と対策立てが一区切り付くまで、発表を控えてたんだと思う。

火星探査機 のぞみ が抜き差しならなくなったとき、ISAS は情報を外部に出さなくなった。あの頃おいらは のぞみ 公式サイトにつないでは、全然更新されてないのを確かめてため息ついてたわ。これ、事情が分からない素人(マスコミ)から突っつかれるのを防いで(無知ってある意味暴力だからなぁ)、中の人たちを仕事に集中させたかったんだそうで。

松浦晋也氏は『恐るべき旅路』でそのやり方を「道義的責任から逃げた」と批判的に書いた。そのこともあってか、はやぶさ の運用情報は徹底的にオープン路線だった。おかげで未知の星の探検と着陸への挑戦をほぼリアルタイムで楽しめた。松浦さんありがとう。

けど はやぶさ の通信復活じゃさすがに、諸々をしっかり決定するまで伏せてたのは正解だったと思うよ。はやぶさファン(ていうかおいら)はもう充分に取り乱してた。そこに不確定で尻切れとんぼな情報を細切れに出しても、それは無責任と取られるかもしんないしさ。また何かあって通信が途切れてしまうかもしれなかったろうし。

とにかくこの発表は嬉しかったよ。続く情報がどんなにひどい惨状を語ってても、出尽くすものが出尽くした上で はやぶさ が生きててくれたのはありがたかった。

ものは取りよう。化学スラスタのヒドラジン燃料がみんななくなったけど、残ってて下手にまた漏れでもして、さらに酸化剤まで漏れたら はやぶさ は爆死ですよ。そのイヤな可能性が消えたのは吉報と取れたわ。

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2010.10.25 月曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 5

確か2006年1月23日に はやぶさ が見つかったとき、その前に通信できてたときとは逆方向に回転してた、と思う。通信が切れても姿勢制御のキセノン噴射がしばらく止まらなかったのか、誰も見てない間にもっとひどい外乱を受けたのか。そこはおいらは分からんけど、とにかくそのくらいひどい目に遭ったらしい。この時点までの はやぶさ の持病を発生の時系列順に書くと、

さらにこのあと、イオンエンジンほぼ全損と電子回路にビット反転エラーが頻発というのまで加わってなおさら悲惨な状況になるんだけど、2006年の通信回復時点で既にここまでひどい有様になってた。のぞみ の教訓を受けて頑丈にこしらえた通信系統が健全なままだったのは幸いだった。ここがやられるともうどうにもならんからな。

そして、このときの川口淳一郎プロジェクトマネージャーのお言葉。

「生きていること自体が奇跡」

奇跡でも何でも、はやぶさ は生きてた。サンプル採取の弾丸は出なかったかもしんないけど、着地の衝撃でサンプル容器までイトカワの砂が入ったかもしんない。3年遅れるけど、地球に帰るぶんのキセノン推進剤も残ってる。リアクションホイールの Z 軸も、いつ逝くか分からんけどまだ使える。

バッテリーは……。バッテリーはほとんど死んでたけど、使わなきゃいいだけの話と思ってたんだわ。衛星と違って、惑星間空間じゃ24時間いつでも太陽が照ってる。太陽電池を太陽に向けてさえいれば、バッテリーがなくても問題ないでしょう、と思ってた。

バッテリーの役目は、

  1. 打ち上げから太陽電池パドル展開まで
  2. 地球スイングバイで地球の陰に入る間
  3. 何らかの理由で太陽電池で発電ができない時のバックアップ

だけだと思ってた。1. も 2. も終わったし、3. は諦めれば大丈夫だと思ってた。

けどそうじゃなかった。はやぶさ は2回目の離陸の直後に異常が発生した。で、再突入カプセルのフタをまだ閉めてなくて。サンプルが入った容器はまだサンプラーホーンの上端につながってて、そこから容器をカプセルに押し込んでフタを閉める、という仕事が残ってた。この作業、太陽電池の電力だけじゃ足りなくて、あらかじめ充電しといたバッテリーの電力も必要だったってことで。

はやぶさに採用されたバッテリーは、ノートパソコンや携帯電話でおなじみのリチウムイオン(Li-ion)電池。宇宙機用として はやぶさ が初の搭載例。前にソニー製の Li-ion 電池が発火の恐れがあるとかでリコール騒ぎがあったよね。このバッテリーはそういう難しさがあるけど、それまでのニッケルカドミウムやらニッケル水素のバッテリーに比べて、質量あたりの蓄電量が格段に大きい。全備質量にシビアな宇宙機にぴったりな、先進的なバッテリーだったんですよ。けど技術的に難しいから敬遠されてきた。そこで古河電池が宇宙用に耐えるものを世界で初めて開発したってわけ。

のぞみ のバッテリーはニッケル水素だったらしい。それでも当時最新の技術を盛り込んで、機体の軽量化に貢献したそうな。

銘板
2010.10.26 火曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 6

てなわけで「変態力」動画を大いに盛り上げた、死んだはずの Li-ion バッテリーに再充電するくだりがでてきたわけです。リチウムイオン電池はいったん完全放電しちゃうと、うかつに充電すると発火する危険がある。宇宙の真空環境で「発火する」は変だけど、要は過熱してぶっ壊れる、もしくは内部が熱で気化すると爆発の恐れも出る、てこと。

メーカーの古河電池を巻き込んだこの大作戦は、ファンたちにはプランが練り上がった時点で知らされた。バイパス回路を通じてちょっとずつ充電されてた現象に気付いた古河の技術者が、超ゆっくりだけど爆発の危険がない充電方法を編み出した。充電に要する3カ月ほどの間、ファンたちが見守る中、それは実行された。そんだけの時間をかけて、微弱電流を激しく ON/OFF を繰り返しての再充電で11個中7個のバッテリーセルが復活。カプセルのフタ閉めが無事に成功した日には、ほんとにホッと胸をなで下ろしたよ。

サンプル回収容器の中に、サンプルは入ってないかもしれない。だからその行為に意味はないのかもしんない。けど誰の手も届かないところにある「生きていること自体が奇跡」なボロボロの探査機が、知恵と勇気と根性でひとつの仕事を成したこと、これが素晴らしかったよ。

そしてもうひとつの奇策、ソーラーセイル技で姿勢制御が行われるタイミングも近づいていたのだった。でんどんでんどんでんどん。

銘板左端銘板銘板右端

2015.1.15 補足: 関連本で川口先生が語ったところによると、バッテリー7セルが復旧できたのは、通信途絶に至ったあのトラブル発生時に、なぜかバッテリー保護回路が ON になってたからだったそうで。いくら調べても ON になってるはずがなくて、原因不明だけど確かに ON になってたそうで。おいらこの謎、神様の仕業としか思えんすよ。

川口先生もそう思ったのかどうか知らんけど、先生は はやぶさ 帰還行程の合間に、神社巡りして神頼みしたそうな。20世紀 FOX の『はやぶさ HAYABUSA』で登場したのは、岡山県真庭市の 中和神社(おかやま旅ネットのページ。はやぶさ のことが紹介してある)。頼みの綱がイオンエンジンの中和器だったことから。東映の「はやぶさ 遥かなる帰還」のロケ地になったのは、東京都台東区の飛不動尊(公式サイト内のページ。はやぶさ に関する記述あり)。

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2010.10.27 水曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 6.1

とりあえず昨日の続き。

ニコニコの はやぶさ 動画じゃまことしやかに「バッテリー充電の ON/OFF は地上からの手動で、合計1億回を越えた」という説が流れてたりするけど、ちょっとほんとかなー? って感じ。1億回越えというのは、のぞみ のときのショートした回路を焼き切るための電源 ON/OFF と混同されてる気がする。出典は『宇宙へのパスポート2』での松浦晋也氏が担当した、火星探査機 のぞみ についてのコラム。そこに、1億2000万回のON/OFF を繰り返したことが書いてある。

それ はやぶさ じゃなく のぞみ の話だから。のぞみ のケースだと、NEC のプログラマが自動 ON/OFF プログラムを作った(これは松浦氏の著書『恐るべき旅路』に書いてある)。それで1億回以上っつう途方もない数をこなした。はやぶさチームの人が、たった100日かそこらで、深宇宙の通信速度 8〜32bps くらいで、手動で1億回の ON/OFF ってちょっと考えにくい。1日あたり100万回。1時間あたり4万回。1分あたり670回。1秒あたり11回。往年の高橋名人だって100日ぶっ続けで連打は不可能だろ。手動じゃ物理的に無理かと。

銘板
2010.10.28 木曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 7

「太陽光圧を利用した姿勢制御」。

はやぶさ の奇策のひとつとして有名だけど、これ、何をどうすればこうなるのか、その仕組みを今まで考えたことがなくて。どうせおいらなんかにゃ分かんないだろうと敬遠してて。

けど最近、意外と簡単なカラクリなのかもしんないかなーと思えてきて。んで、こういうこと↓なのかなーと想像してみた。

太陽光圧姿勢制御案

すげー単純w 探査機の進行方向は図の左から右で、ちょっと右下がり。太陽の周りを回ってるから、だんだん左に傾くようにすると、太陽を自動追尾できるわけ。もし はやぶさ が自転してないなら、公転周期の1.5年で1回転する超ゆっくりな回転をかけとけばいいんだけど、この時期は冬眠モード。はやぶさ は図で言うと、パラボラアンテナとサンプラーホーンを貫く軸を中心に自転してた。「スピン安定」という、探査機にとって安定な状態ではあるんだけど、そのままだとコマの原理で自転軸の向きはいつまでもそのまま。公転してるうちに太陽電池パネルはいつしか太陽に背を向けてしまって、発電できなくなってしまう。

だからときどき姿勢を直さなきゃなんないけど、そのたびにいちいち自転を止めて姿勢を直してまた自転って作業は、傷だらけの はやぶさ にとって難儀なこと。しかも、そのたびに推進剤のキセノンガスを消費してると、足りなくなって地球に帰れなくなることが判明。できるだけ何もしないで自転軸を常に太陽に向けて倒し続ける方法として、太陽光圧での姿勢制御が編み出された。

で、その原理に触れる機会が今までなかったんで、自分で考えてみたのが上の図。正解かどうか知らんけど。

はやぶさ の機体で最も太陽光圧を受けるのは、探査機サイズに比べて大きな太陽電池パネル。イオンエンジンは電力で動く。火星より遠い(太陽光が弱い)ところでもイオンエンジンを駆動しなきゃなんないんでこのサイズになったんだけど、このパネル、はやぶさ の重心より太陽寄りにある。てことはちょいと斜めから太陽光を受けると、太陽光圧の作用力は はやぶさ の姿勢をより斜めに倒す方向に働く。力学的に不安定な状態ですな。スピンが作り出す安定力と太陽光圧での外乱。この2つをうまく折り合わせれば、はやぶさ の自転軸は一定速度で左回りで倒れ続ける。そしてそれは実行されて、はやぶさ はまたしても危機の大波を乗り越えた。

このときの幸運といえば、

  1. 本体サイズに比べて太陽電池パネルが大きかった
  2. 本体が小型軽量だったから、2乗3乗の法則で光圧の影響が比較的に大きかった
  3. イトカワ探査時の重力測定と着陸ミッションの際、はやぶさ が受ける太陽光圧を精密に測定できてた(イトカワの重力が極端に小さかったんで、太陽光圧の力を無視できなくて、そのぶんを機体の誘導の要素に入れた)
  4. 近日点周辺で太陽光圧が強かった
  5. 近日点周辺で太陽光が強く、イオンエンジンも止めていたので、太陽電池への斜めからの入射光でも必要な電力を確保できた

てなあたりかと。それでこの奇策が成り立ったんじゃないかと。

もうちょっと細かい設定を言うと、もし光圧推進の反射面が反射率 100% の理想的な鏡だと、入射と反射それぞれで同じ大きさの力を得る。その合成ベクトルは、機体が対称形だと重心位置を通る。これだと回転力を生まない。

はやぶさ の場合、太陽光圧を受けるのは、パラボラアンテナがある胴体上面と太陽電池パネル。胴体上面はアンテナのお椀が白かったり胴体表面が金色だったりで反射率が比較的高そうだけど、反射での発生力は入射の半分もあればいいほうじゃないかと(目分量)。面積で大部分なのは太陽電池パネル。

太陽電池はできるだけ無駄なく光を吸収して発電ってことで、色が黒っぽい。反射での反作用力はあんまし期待できない。ほとんど入射の光圧力だけを受ける。ソーラーセイルとしては効率が悪いけど、これで太陽光が斜めから入射すると、光圧力のベクトルが機体の重心から外れる。で、だいたい図のような力学が成り立って、それで はやぶさ は姿勢制御をした、と、おいらは考えてる(未検証なんで)。

これをやったのは2007年。ソーラー電力セイル実証機 "IKAROS" は既に開発に入ってたはずだけど、恐らくその開発データも応用されたんじゃないかな。IKAROS は はやぶさ と同じ川口研究室の作品だし。同時に、はやぶさ がこのとき遺したノウハウは IKAROS に応用されてもいるはず。それが奏効したのか、IKAROS は完璧にミッションをこなしとりますなぁ。Twitter であんなに大人気になったのはさすがに想定外だったろうけどw

IKAROS は「世界初のソーラーセイル」という称号を得たけど、太陽光で動力飛行や姿勢制御をした実例ってほんとは、はやぶさ の方が3年も早かったってことでひとつ(しかたなくだったけど)。

銘板
2010.10.29 金曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 7.1

昨日のログでドローソフトとして OpenOffice.org を使ったけど、かなり分かりにくかったわ。ヘルプも検索が甘いわ文章は直訳風だわ図解がほとんどないわで、今ひとつ理解しにくいなぁ。

個人的にはクラリスワークス→ AppleWorks のドロー機能に慣れてるから使いやすいんだけど、今使ってる Mac は Intel CPU だからなぁ。AppleWorks なんつう、はるか昔にサポート外になったブツなんて、インスコしても移植しても動かなさそうですなぁ。

OOo ならクロスプラットフォームだから、使い方を覚えとくといろいろ有利そうだしなぁ。

クラリスワークスと AppleWorks で学んだドローの勘どころが使えないわけでもないんで、まぁ機会があるごとにおいらのドロー技術も移植してくことにしますか。

それにしても、昨日のあの程度の図を作るのに2時間もかかったよ(涙)

銘板
2010.10.30 土曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 8

(2015.1.15 補足: 以下の文章は、かなり間違ってる気がしてきた。はやぶさ の袋での軌道変更の要点は、本当は軌道傾斜角の変更だったんじゃないなかと。イトカワとのランデブー軌道の場合、地球とイトカワの軌道は平面図では2カ所でぶつかってるけど、実際は立体交差してぶつからないようになってる。はやぶさ は帰還行程の最後に地球とぶつからなきゃいかんかったんで、そのぶん立体交差の上下差を埋めなきゃいかんかったわけで)

はやぶさ の復路での軌道変換の要点は、近日点距離を上げることだった。小惑星イトカワの公転軌道は近日点のあたりじゃ地球より内側に食い込んでる。はやぶさ の公転軌道もだいたいイトカワと同じなんだけど、それじゃ地球とすれ違ってしまうんで、近日点距離を上げて、ドンピシャで地球にぶつかるようにしなきゃいかんかった、と。そのままでも軌道同士の交点が2つあるから、別な理由もあったんだろうけど。

近日点距離をいじるとなると、軌道変換は反対側の遠日点付近でやることになる。ここで減速すれば近日点距離が小さくなる。運動エネルギーが減って太陽側に落ち込むわけだ。反対に遠日点で加速すると、近日点は太陽から遠くなる。軌道変換した後の近日点が地球の軌道と重なるよう、はやぶさ は遠日点付近で加速をした。そして近日点付近を通ったときは、特に何もしない休眠モードでやりすごした。この休眠モードのとき、太陽電池が太陽を自動追尾すべく太陽光圧での姿勢制御がなされた、というわけ。

遠日点付近での加速・減速ってのは、実は はやぶさ にとっては重労働だったりする。イオンエンジンは電力で稼働する。電力は太陽電池で作る。遠日点はその名のとおり太陽から遠いから、発電量が小さい。イオンエンジンを全開にできない、となるわけで。ただでさえ出力が弱いイオンエンジンでの軌道変換でこれは条件があまりよろしくない。ちなみにイトカワと はやぶさ の遠日点での太陽光の強さは地球の 35% ほどしかない。

ただ、「こんなこともあろうかと」ってほどすごいわけでもないけど、その軌道を使うのは分かりきったことだったんで、はやぶさ はそこでもイオンエンジンを動かせるだけの電力を確保できるように、はじめから設計されてた。

イオンエンジンは A 〜 D と記号を振られた4基。このうちどれか3基までを同時に運転できた。実際は打ち上げ直後に A がオダブツしたんで、3基運転のときは B, C, D で行く以外になかったけど。で、さっき書いた「遠日点での太陽光の強さは地球の 35% ほど」。35% っつうとだいたい3分の1。最大の3基運転のタイミングは、地球に近い軌道のとき。で、発電条件が一番悪いときでもその3分の1ってことで、そのときでも1基運転ができるってこと。内蔵の電子機器だのセンサーだの通信機器だのの電力確保も必要だけど、大まかにこんな感じ。

軌道変換は遠日点や近日点でやるのが一番効率がいいんだけど、とりあえず遠日点でやれる保証があったわけで。弱いけど。

動力飛行の時期が遠日点付近な不運を恨んだこともあったけど、近地点付近じゃ太陽光圧を存分に利用できてよかった。現金なもんだw 「勝てば官軍」気分ってことでひとつ。

銘板
2010.10.31 日曜
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その不死鳥は7年前の混沌から生まれた 9

遠日点でイオンエンジンが動くとはいっても、もともと微力なのに1基しか稼働しないもんだから、そこだけでパルス的な軌道変換ってのはできないわけで。大出力の化学エンジンならそういう大技ができるんだけどさ。イオンエンジンは長く動かして少しずつ速度を変えていくタイプなんで、その前後の効率が落ちる部分も使って、時間をかけなきゃなんない。

「効率が落ちる」とはいえ、空気抵抗も重力損失もない軌道上で探査機の運動エネルギー量を変えるんだから、それはどこかに消えるんじゃなく、軌道の変化量として出るはず。と考えてはこの「軌道変換の効率が落ちる」という命題にギモンを持ってたけど、はやぶさ との付き合いでそのことをいくらか解明できた気がする。

近日点距離を上げる。これが出力。このための入力が、遠日点付近での加速なわけ。この入出力関係の効率を指して言ってる言葉なんだわ。そんじゃ遠日点から外れたところでやると、それで効率が落ちたぶんはどこに反映されるのかっつうと、たぶん同時に遠日点距離の方が増えるってことで現れるんじゃないかなと。近日点で加速すると遠日点距離が増えるわけで、だったらその間で軌道変換をすると、両方に影響が出るでしょうってことで。どっちに近いかでその割合も変わってくるんじゃないかな。あと、長軸の方向が変わっていったりもするかも。つまり遠日点と近日点の、太陽から見た位置が微妙に変わってくるんじゃないかと。

それでようやく腑に落ちたのが、2009年11月のあのトラブル。イオンエンジン3基(A, B, D)がついにダウン、残る1基(C)も劣化が進んでパワーが落ちてて、このままじゃ地球に帰れない、というアレ。数日後にニコイチ運用で乗り切ってやんやの喝采を浴びたアレ。

あのあたり、最後の遠日点は9月にとっくに通過済みだったんだわ。それでもエンジン噴かして加速し続けなきゃなんなかったんですな。遠地点通過の少し前の大事な加速期に電子機器にエラーが出てしばらくセーフホールドモードに入ってたんで、そのぶんの遅れを取り戻さなきゃなんないってのもあったけどさ、それでも予定は3月までってことになってた。

3月ってぇと地球帰還のわずか3カ月前ですよ。周期1年半の はやぶさ の公転軌道からすると、かなり近日点寄りの位置に来てるはずですよ。遠日点を2カ月前に過ぎて、近日点に相当寄るまで加速をし続けるのって、近日点距離の操作をする上じゃかなり効率が落ちてるわけでして。イオンエンジンの出力が弱いがゆえに、遠日点から外れた地点でも加速を続けなきゃなんないんだけど、だからこそ効率が落ちるというジレンマ。

はやぶさ チームの中の人が「これでいける」と言ってる以上、信用できるし信じるしかないんだけど、いやー不安と焦りを覚えつつも、これ以上トラブルが出ないことだけ祈ってたですよ。

結局、ここから最後まで完璧だったけどね。軌道変換の完了→精密誘導→再突入カプセル放出→ラストショット撮影→カプセル・本体の大気圏再突入→オーストラリア・ウーメラ砂漠へのカプセルの着陸→カプセルの相模原への到着→キュレーション施設内でのカプセルの開封。全部つつがなくこなしましたですな。よかった。ほんとよかった。

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