ひとりごちるゆんず 2010年6月
銘板
2010.6.1 火曜
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イオンエンジン寿命2倍の案

小惑星探査機 はやぶさ のキーテクノロジー、イオンエンジンの寿命について考えてみた。去年の11月、A 〜 D の4基搭載してる同型イオンエンジンのうち、B が寿命で停止したよね。A は運用初期から不調で使えない。D はその前に寿命を迎えてた。残るは C のみ。こっちも相当劣化して出力が新品時の半分くらいに落ちてて、C だけじゃ目的地の地球に届かない。この窮地を打開したのが「こんなこともあろうかと」ですっかり有名になった(と思う)、エンジン A と B を組み合わせたクロス運転。

エンジン A は恐らく打ち上げ時のロケットからの振動が原因で、打ち上げ直後からイオン源という部分がうまく動かなくて、ほとんど使われてなかった。一方、エンジン A の中和器という部分は新品同様だった。そんで A の中和器と B のイオン源を組み合わせたら、新品のエンジン1基ぶんとさほど変わらない出力を確保できた。それまでは出力が落ちた B と C の同時運転でようやく1基ぶんのパワーを出してたのが、このクロス運転1セットだけで賄えるようになった。てことでエンジン C は予備として温存されることになった。

これで分かること。

  1. イオンエンジンは長らく使ってると劣化して、出力が落ちた挙げ句に使用不能になる(それでも はやぶさ に採用されたマイクロ波方式は長寿命らしい)
  2. 劣化するのは主に中和器で、これが寿命を決定する
  3. 中和器は使わなければ劣化しない(宇宙空間での経年劣化がほとんどない)

イオン源やイオンを加速する端子なんかも摩耗・劣化していくはずだけど、今回のクロス運転で新品同様の出力が出た、と考えると、そのあたりの部品の寿命はもっともっと長いんじゃないかな。

クロス運転で充分なパワーを出せたってことは、中和器の位置(仕様ではエンジン噴出口にすぐ横から吹き付けるような位置)はあまりシビアに決めなくていいのかも。まぁ最大効率を出す最高の位置ってあると思うけどさ。

んでさ、どうだろ、1つのエンジンに2つの中和器をつけると、単純に考えて寿命が2倍に伸びると思うんだ。見た感じそんな大きな装置でもないし、故障時のバックアップにもなると思うんだ。さらにおまけで、推進剤のキセノンの生ガスを中和器から噴射すると緊急時の姿勢制御にも使えるわけで(はやぶさで実証済み)。中和器の数が多けりゃいろいろいいことあるんじゃないかな。

運用の工夫もできるね。中和器1個目の効率が半分に落ちたところで2個目に切り替えて、2個目の効率も半分になったところで2個同時に使えば、そのエンジンは新品と同じ出力が出せる。中和器からもキセノンガスが出るんで燃費的には不利だけど、はやぶさ の帰還ミッションのときみたいに、燃料に余裕があってパワーが欲しいときに便利かと。

ってイオンエンジン開発の現場じゃそこらへんとっくに考えついてるはず。けど はやぶさ のイオンエンジンではそれは見送られた。中和器ってすごく高価なのかもね。けど1基のエンジンの寿命が2倍って、重量制限がきつい宇宙機だと重宝だと思うなぁ。

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2010.6.2 水曜
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μ10

はやぶさ に積んでるイオンエンジン "μ10" ってシリーズ化してて、高性能化の研究が進んでるんだよね。

名前の「μ(ミュー)」って、宇宙科学研究所(ISAS)が開発した「M(ミュー)」ロケットシリーズの最終段の意味が込められてるんだそうで。なんで小文字なのかは、んーなんでだろ(笑) 出力もサイズも小さいからかな。M ロケットは燃費がイマイチだけどパワフルな全段固体燃料型だった。けど小文字になると全くその逆だね。出力は極小だけど燃費の良さはダントツ世界最高。なんかもうアンチ液体化学燃料な ISAS ロケットの意地の結晶な感じw

ロケットの方の M シリーズは、宇宙機関統合後に意味不明な圧力で潰されてしまったけど、宇宙機用エンジンのμシリーズは、なかなかの将来性を感じさせる展開になってる。てことで今日はまず、μ10 について妄想してみるテスト。

とりあえずメーカーの NEC は はやぶさ での実績を引っさげて、去年から海外展開を始めたそうな。ロケットの液体燃料タンクなんかは三菱重工がアメリカに輸出してるみたいだけど、そこらはほかの同業者との競争入札になるんじゃないかと。ぶっちゃけ値段の話。

もうちょっと高級な話だと、かつて日本の H-II ロケットの2段目エンジン "LE-5A" に、アメリカのマクドネル・ダグラス社から引き合いが来たことがあった。日本側は、軍事利用の可能性を否定できない → 日本は軍事技術を海外に売れない、というロジックでお断り申し上げた。けどこれも打診側とすれば、日本から高性能なエンジンを買えないのは残念だけど代わりを探すよ、てな感じ。

でもイオンエンジンは違う。マイクロ波方式は日本独自らしい。イオンエンジンは出力が小さいぶん、長時間の運転で稼ぐ。てことで長い寿命と高い信頼性が売りのマイクロ波方式は断然有利。しかも現場での稼動実績もある。イオンエンジンを作ってるメーカーはほかにもあるけど、μ10 と同じクラスの場合、今のとこオンリーワンと言っていいくらいの無敵な商売ができるんじゃないかな。μ10 じゃないと成り立たない計画、μ10 があるから実現できる計画ってきっとあると思う。

地球の引力圏より外の深宇宙探査の需要に限れば、プロジェクトの数は少ないけど、軍事利用の線は考えにくい。軍事利用のしようがないというか。そのあたりのフロンティアはあまりにも未知で未開すぎて、今は科学探査でしか用がないしね。てことは、ここらでのμ10 販売は堅そうだね。ほかにも民生用途に限ればだけど、静止衛星の軌道のブレを修正するのにイオンエンジンが使われ始めてるから、この市場に食い込めるかも。μ10 は出力が小さいのが難点だけど、何機も並べて同時運転でやっていけることも はやぶさ が実証したし(4基搭載で最大3基同時運転)、故障したエンジンの生きてる部分を組み合わせて行けることも、たぶん世界初で実証済み。

販売用のμ10 の出力は はやぶさ に使われたものの 17% 増しになる予定だしなぁ。こいつは便利だぞ。

で、大型化した μ20 エンジンはまだ輸出品目には入ってないのか。

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2010.6.3 木曜
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μ20

輸出の予定はμ10 エンジンだけみたいだね。んで今日うだうだ考える日本製のイオンエンジン "μ20" は、おお、パワーがμ10 の3倍か。だったらボディは真っ赤にしてほしいところw

しかし単純に考えて、直径が2倍なら開口面積は4倍なわけで、出力は4倍になるんじゃないかと思うんだけど。なんで3倍止まりなんだろ。だったら比推力(燃費の良さ的な数値)も落ちてるのかなぁと心配になったけど、そこはμ10 と同じらしい。でも推進剤利用効率が0.85から0.74に落ちてる。これで比推力が同じというのがちょっとよく分からんなぁ。

設計寿命が14,000時間から25,000時間に大幅に伸びてるね。これは設計の改良から来てるのかな。それにイオン生成コストも 230W/A → 185W/A で効率が上がってる。イオンエンジンも熱機関と同じく、大型化すると原理的に効率が上がるのかも。はやぶさ運用チームのイオンエンジン責任者の國中先生もそういうことを、何かの記事でそれをおっしゃってたわ。んでも はやぶさ では敢えて小さなμ10 ×4基にしたのは、μ20 が実戦投入にはまだ早い段階だったのもあるんだろうけど、故障対策や運用のバリエーションを考えて妥当と判断したかららしい。

もともと非力なイオンエンジンは、たくさん積むか1基あたりの出力をできるだけ上げるかでその弱点を補う必要があるけど、電力で稼働するんで、その出力に見合ったサイズの太陽電池パネルが必要になる。そしてイオンエンジンは長時間をかける長距離移動に便利なのであって、目標天体の観測という探査機本来の活動をするときは運転を止める。てことでこの間は巨大な太陽電池は機敏な行動の邪魔になるわけで。そこらへんの最適な解決ってのは、どうしてもトレードオフ型の妥協案になりますわな。まぁ機械設計ってのはいつも基本的にそうなわけで、てことは選択肢が多い方が自由な設計ができるってことでもあったり。

推力3倍というと、はやぶさ は最大出力でμ10 エンジン3基同時稼動だったんで、これが1基のμ20 で賄えることになるね。ただまぁ はやぶさ の例で言うと、予定外の長時間稼動を強いられる状況になったとき、あるいは姿勢制御系に問題が出たとき、やっぱし1基だけより何基かあったほうがいろいろできて安心便利なわけで。そうなると、μ20 はもっとでっかい機体にいくつも装備するのがいいって形かな。

てことで Wikipedia のμ20 の記事では、SOLAR-C と はやぶさ Mk2/マルコ・ポーロでの採用が考えられてるみたいだね。SOLAR-C の方はまだ計画自体がはっきり決まってない感じ。もしプラン A が採択なら、惑星空間でかなりな軌道変換が必要。てことでイオンエンジンの出番。てことでμ20 ×6発っつうごっつい仕様が考えられとりますな。

ヨーロッパとの共同計画で はやぶさ を発展させた小惑星探査計画マルコ・ポーロは5連装らしい。こっちは日欧の宇宙機関とも財政難で雲行きが怪しいみたいだけど、出力合計、はやぶさ の4倍弱。

なんかこう、はやぶさチームの川口淳一郎プロジェクトマネージャーが提唱した「太陽系大航海時代」、早くも大鑑巨砲主義の時代に入りつつあるような……。はやぶさ系は主砲を持ってるしな (^^;)

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2010.6.4 金曜
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μ10HIsp

で、大型化の流れに逆行するみたいだけど、μ10 と同じ有効直径の高性能版があるんだわ。それが μ10HIsp ("I" は「エル」じゃなく「アイ」)。μ10 と同じ有効直径 10cm で10倍の電力を突っ込んで、ガス噴射速度(パワー)と比推力(燃費の良さ的な数値)をどっちも3倍にするという、赤い彗星も真っ青必至の高性能化。目標としては、今のとこ構想段階の木星探査機で使うことになってるらしい。

この木星探査構想、一応の布石はもう打ってある。とりあえず はやぶさ でイオンエンジンという方式が行けることは実証された。そして先月打ち上げられたソーラーセイル実証機の IKAROS 。件の木星探査機はこの両方の推進システムを併用する形になるんだそうな。IKAROS が理論通りのパフォーマンスを見せてくれれば、話は一気に現実的になりますな。

はやぶさ祭りでプロジェクトマネージャーの川口淳一郎先生とともに有名になったチームメンバーで、イオンエンジン担当の國中均先生がおられる。「こんなこともあろうかと」なあのニコイチ運転をやってのけたリアル真田さんとして大注目されてるお方なんだけど、はやぶさ の打ち上げから1年後、ちょうど地球スイングバイをしたあたりに、ISAS ニュースにイオンエンジンの記事を出されてる。なんかこの日記、イオンエンジンのμシリーズについてぐだぐだ書いてきたけど、國中先生の記事を紹介すればあとはもう何も要らないことに今気付いた(汗)。

てことでその記事はコチラ。画像もいただきますすんません。

イオンエンジンカタログ

このグラフでμ10 が最小クラスのエンジンだってのが分かるね。で、μ20 ともども、電力(入力)と推力(出力)の相関では海外のイオンエンジンの主系列と同じ線上にあるってわけだ。しかし NASA の NSTAR とボーイングの XIPS25 はずいぶん大型なんだな。おお、NSTAR は ディープ・スペース1 のメインエンジンだったのか。てことは「イオンエンジンをメインエンジンに使ったのは はやぶさ が世界初」というのは正しくなかったのか。

そんでμ10HIsp だけど、主系列からまたずいぶんと外れとりますな。これだけ見るとμ20と同じ推力なのに電気を3倍も食ってしまうっつうことになるけど、そのぶん "High Isp" の名のとおり比推力3倍ってことで、推進剤消費が3分の1なわけだね。てことは各イオンエンジンとも、どれも効率は理論限界に近いってことなのかな。

エンジンが小さいってことは重量的にも有利そうだね。それに、なりが小さいのは別な意味でも有利に働く。はやぶさ でちょっとエンジン効率が落ちてそうだなぁと思ったのが、4つのエンジンの推力線すべてが機体の重心位置を貫くように、角度を付けて取り付けられてたってこと。これって1基だけの運転じゃ問題ないけど、複数を同時運転させるとオフセットしたぶんの推力が相殺し合って、ちょっとロスが出るんだよね。このロスを減らすには、エンジンは小型を複数でぎゅっとまとめるのが一番単純。その線で開発してるのがμ10HIsp なんじゃないのかな。

ディープ・スペース1は大出力イオンエンジンを1基搭載で、トラブルが出て思うように計画が進まなかったらしい。はやぶさ もエンジントラブルが出たけど、複数あるからギリギリどうにかなってる。てことで、これからのイオンエンジン搭載の探査機は、複数のエンジンを積むのが主流になりそう。てことでエンジン単体のサイズを小さくすると、クラスター化したときにオフセット角が小さくなって、複数同時運転時のロスも小さくなる、と。

っつうか電力10倍だと、太陽電池の面積も10倍必要ってことになりますな。はやぶさ でさえ太陽電池が大きめとか言われてたのに。まあディープ・スペース1↓の時点で既に巨大だから、そのうち宇宙機はこういうスタイルが普通になるのかも。

ディープ・スペース1

はやぶさ の最大出力はμ10×3基だった。μ10HIsp の1基ぶんだね。てことは、μ10HIsp 搭載の宇宙機の出力が はやぶさ の最大出力で同じでいいなら、1度に1基の運転で太陽電池面積は3倍ってことですな(イトカワより遠くで運転するならもっと大きくないといかんけど)。

銘板左端銘板銘板右端

週末、相模原に行くことに決めた。はやぶさ の本拠地・宇宙科学研究所に詣でて、はやぶさ の実物(大模型)を拝んでくるのだ。そして宇宙研の斜め向かいにある相模原市立博物館にて、はやぶさ のプラネタリウム映画 "HAYABUSA - BACK TO THE EARTH" を観てくるのだ。

ほんとは6月13日にオーストラリアのウーメラ砂漠で はやぶさ を出迎えたかったんだけど、川口先生が「(大人数で現地に押しかけるのは活動に支障が出るので)勘弁してください」とファンにお願いしたこともあり、思ったほど資金を貯められなかったこともありで、現地入りは取りやめたんだけど、それでも何かしたくてさ。それで、帰還の前に相模原詣でをしておこうと。

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2010.6.5 土曜
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旅のお休み1 吉祥寺の日

んでまぁ旅に出てる設定なんで(これ書いてるの7月だったりする)、今日と明日はお休みってことでひとつw

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2010.6.6 日曜
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旅のお休み 2 相模原の日

1泊2日旅行の2日目の設定なんで(これ書いてるの7月(ry)。

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2010.6.7 月曜
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相模原巡礼道中 1

てなわけで6月5日の金曜、突発的に思い立って相模原にお参りすることに決めた。っつうか調べてみたら、なんと宇宙科学研究所と はやぶさ 映画 "BACK TO THE EARTH" を上映してる相模原市立博物館は目と鼻の先。斜め向かいじゃないですか。これはもう6月13日の はやぶさ 帰還前に巡礼しない手はないでしょう。

そしたら予定はどうしようかなと。

日曜(6月7日)に行ければそれでいいんだけど、余裕を持ちたいですな。前の日に近くまで行っとくかー。と Google 地図をさらに見て拡大したり離れて見たりとかしてたら、なんかさ、去年の今頃、吉祥寺に飲みに行ったんすよ。宿は三鷹の安宿で(吉祥寺周辺は高かった)。そこにまた泊まろうかと。相模原に案外近そう。ホテル名を忘れたけど、じゃらんとかで検索すればまた出てくるでしょう。去年ネットで予約したから、メールを漁れば残ってるかもしんないし。

そこに泊まるとしたら、近所の在京フレンド、ぴっぴに声かけてみよう。飲み会を用意させてしまうのはなんか申し訳ないけど、とりあえず「そっち方面行くよー」と声かけて、ついでにダメ元で相模原に誘ってみよう。

と決定したはいいものの、既に旅立ちの前日夜。いきなり連絡したら、飲み会仲間に声かけてくれるとのこと。おおお、申し訳ない展開になってしまったけど、素直に嬉しいっす。てことで土曜は野暮用をできるだけ早く片付けて、午後イチに東京に向けて発つ感じか。いったん三鷹に行ってチェックインして吉祥寺に夕方6時に着くには、八戸駅を午後2時までに出発せんと。

そんなわけで、当日午前中になってホテル予約(遅っ)。

三鷹シティホテル

この画像は、チェックインのときにもし手違いか何かあったときのためにケータイで撮っといたやつ。別にそこまですることもないんだけど一応。ていうか自分がわけ分かんなくなったとき用。

午後2時台の新幹線に間に合ってひと安心だったけど、大宮を過ぎたあたりで気付いた。上野駅とか東京駅の到着が夕方5時あたりなんで、三鷹のホテルに5時のチェックインは無理だわ。予約票には「チェックイン予定時間に遅れる場合は、必ず宿泊施設にご連絡ください」と書いてあるんで、ここは上野駅のトンネルに入る前にホテルに連絡入れといたわ。そんなこんなで東京駅。

東京駅2010

ここから三鷹って総武線というか中央線というかだよね(どっちの呼び名を使っていいか分からない)。で、中央特快で行けばいいのはわかってる。しかしまぁこれでいいんかなと。上野で新幹線を降りて、山手線で秋葉原に行って、そこから中央線に乗ってお茶の水で快速に乗り換えるって手もあるんだが。なんかこう、東京駅だけで乗り換えってのはラクでいいんだけど、新幹線を無駄に使わされてるような気がしてさ。

とかちょっと腑に落ちない気分ではあったけど、それで追加料金がたった200円だからな。やっぱし東京駅経由でいいんじゃん>自分

中央特快は突き進む。コテテンコテテン。東京の高架線は景色がイイねぇ。田舎の人間には新鮮ですよ。地元の八戸線にもいっちょまえに高架の区間があるけどさw

銘板
2010.6.8 火曜
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相模原巡礼道中 2

ホテル着。去年来たことあるからまぁ勝手知ったるって感じで。微妙なくたびれ加減がまたナイスで(掃除は行き届いてて清潔な感じですよ)。今回の部屋はまたこれがステキで。

通風口1
窓の下に通風口を発見。
 
通風口2
ポッチを引っ張れば開くのかな。
 
通風口3
すげー開いた!!

ブルースだ……w

そんな素晴らしいノリのまま、おいらは吉祥寺に向かったのだった。ホテルから三鷹駅に向かう途中、夕暮れ空がキレイだったから撮ってみた。

三鷹の夕焼け空

このときはなにげに撮ったんだけど、撮影のデータを見ると18時28分。西の空。この方角はもしかして……実際はこの写真のフレームより上に切れたあたりだろうけど、この空の向こうに はやぶさ がいるじゃないか! がんぱれがんばれ! 故郷に飛び込んでこい!

全行程7年1カ月と4日。残りはたった8日。ついにここまで来たか……(感慨)。

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その晩の飲み会は大いに盛り上がったですよ。みんなありがとー (^o^)/

とりあえず はやぶさマニアな集まりってわけじゃないんで、その話題はそこそこ程度で。じゃあどんな話題だったかっつうと、まぁゴシップ的ななにかww

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2010.6.9 水曜
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相模原巡礼道中 3

飲んだ量は2日酔いになんない程度。てことで、朝を快適に迎えられましたですよ。っつうか寝る前、開けてた窓から蚊が1匹入ってきたみたいで。今年初だよ蚊の襲撃は。しかし何度目かに耳元に来た瞬間、ピシャッと一発で撃墜してやったですよ。その晩はたぶん、右ほっぺが血まみれのまんま寝てたんじゃないかとw

朝。チェックアウトしてぴっぴに連絡して待ち。昨日の飲みの帰り、事前にあんまし期待してなかった「相模原に行かんか?」に OK もらったんで。こいつさては真田さんにやられたなww

待ってる間、隣のコンビニにてリポビタン D を2本調達。いやー はやぶさ にはやっぱりこれでしょ。お、ぴっぴが来た。おはよー。そんじゃこれあげる、と1本手渡しといた。ま、それをどんな状況で飲むのかさっぱり想像もつかなんだけど (^_^;)

三鷹駅から下り線に乗って、八王子で乗り換えて、案外あっさり着いちゃったよ。っつうかおいらはてっきり相模原駅が最寄りだと思ってたら、ぴっぴによると淵野辺駅らしい。そっちの情報の方が信頼できそうですなぁ。で、淵野辺着〜。

駅の案内にちゃんと出てたよ。宇宙科学研究所と相模原市立博物館。漲ってきましたですよ。けどまぁ歩いたらけっこうあったぐらいにして。

途中は住宅街。小学校とかあってさ。教育にいい環境だなぁ。ここは日本で一番、星に近い街だよ。

そして我々はついに到着した。

看板

今年の4月1日から「宇宙科学研究本部」→「宇宙科学研究所」に改名して、もとの名前に戻ったんだよな。2003年の宇宙3機関統合で宇宙航空研究開発機構(JAXA)設立の折、大きな機関内の1組織ってことで「宇宙科学研究本部」となったわけだ。けどこのとき、英語の略称は "ISAS" のままだった。"Institute of Space and Astronautical Science" の意味で、"institute" は「大学付属研究所」という意味らしい。もともとが東大の1学部だったからな。今は東大に限らず、日本の大学制度共通の研究機関ってことになってるらしい。まぁ宇宙に関するアカデミックな研究を担当する部署ですな。注目すべきは "Astronautical" の部分。これ、「宇宙飛行の」「宇宙航法の」なんだわ。全部訳すと、「宇宙と宇宙航法の科学の研究機関」てこと。

5月に打ち上げられた IKAROS は世界初の宇宙帆船。今度帰ってくる はやぶさ は便宜的に「小惑星探査機」と呼ばれてるけど、実は惑星間往復飛行の技術実証が目的。探査は「せっかく現地まで行くんだから」というもったいない精神でのおまけだった。なんとなく、宇宙サイエンスは ISAS、宇宙輸送は旧 NASDA が縄張りのような気がしてたけど、なかなかどうして ISAS は単体で全部こなせるすごい組織だったと。実際、4年前まで自前の衛星打ち上げロケットを運用してたしな。はやぶさ もそれで打ち上げられたし(高層大気観測用の弾道ロケットは今も定期的に打ち上げてる)。

銘板
2010.6.10 木曜
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なんでまた横向き?

そういえば はやぶさ ってさ、打ち上げのしかたもちょっと特殊だったんだよね。最近気付いたよ。普通、宇宙線だの宇宙機だのの「前」って、打ち上げるロケットの「前」と一致してるんだよね。探査機にコクピットがあるとすれば、パイロットは普通、スペースシャトルみたいに打ち上げ時は上を向いてる形で。それが はやぶさ だと横向きなんだわ。下の写真は打ち上げ前の様子。これからロケットに乗せられるってあたり。

打ち上げ前の様子

下の「足元注意」と書いてある円錐形の台座はそのまんま、ロケットに据え付けるためのもの。パラボラアンテナが上を向いてるね。再突入カプセルと縮んだサンプラーホーンがこっちを向いてる。この再突入カプセルがある面が探査機の「前」。つまり横向きの状態で打ち上げられた、と。

ロケットのフェアリングに収まるように設計したらこうなった、というのもあるんだろうけど、ほかにもいろいろ理由がありそう。デリケートそうなイオンエンジンがある面を、打ち上げ時に応力がかかる下向きにしたくなかった、とかさ。けど はやぶさ の下面にはセンサーやらレーザー高度計やらカメラやら、これまた神経質そうな部品が並んでるんだよね。やっぱし一番場所を取るパラボラアンテナの関係なのかな。突き出てるし。

はやぶさ2(下の画像)に予算がついたなら、打ち上げは大型ロケットの H-IIA になりそう。このフェアリングはでかい(はやぶさ を打ち上げた M-V ロケットのフェアリングは直径 2.5m。H-IIA のは最小でも 4m)。てことで、今度は「前向き」の打ち上げになるのかな。はやぶさ2 の高利得アンテナはパラボラじゃなく、胴体と一体のアクティブアレイアンテナで場所も取らないし。↓こんな感じ。

はやぶさ2

はやぶさ2 計画ってなぜか前々から冷や飯を食わされっぱなしなんだよね。はやぶさ が2005年に小惑星イトカワを現地で探査して、濡れ手で粟状態で科学的成果をバンバン出した直後から予算獲得の動きがあるのに。そのときすぐに予算化されてれば、今年打ち上げのはずだった。けどだめだった。次のタイミングは4年後。今作り始めないと間に合わない。それなのに事業仕分けで3000万円まで削られた。こんなんじゃ何もしようがない(はやぶさ の開発費は127億円だった)。

これ書いてるの7月でさ。まー6月15日にこんな記事(産経ニュース)↓が出たけどね。

銘板左端銘板銘板右端

蓮舫行刷相 はやぶさ帰還を絶賛 「仕分け結果、何が何でもではない」

蓮舫行政刷新担当相は15日午前の記者会見で、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還を「偉業は国民全員が誇るべきものだ。世界に向かって大きな発信をした」と高く評価した。

また、昨年11月の事業仕分けで、後継機開発など衛星関連予算を削減と判定した仕分け結果について「宇宙開発は私は直接担当しておらず、今一度流れを確認している」と釈明。「仕分け結果を何が何でも守るべきだということではない。国民のさまざまな声やご判断は次期予算編成に当然反映されるべきだ」と語った。

銘板左端銘板銘板右端

2005年のイトカワへの到達と探査の時点で既にものすごい偉業・快挙だったんだけどねぇ。当時は自民党政権だったね。今はなにかと蓮舫が槍玉に挙げられるけど、自民だろうが民主だろうが、国の舵取りする議員のセンセイがたって、日本が無駄な公共投資だけじゃなく、科学技術の国としてこういうかっこいい国策をやってるのもその価値もまるで理解できとらんのってどうなのかと思うけどねぇ。つうか科学技術研究を上の立場として仕分けするんなら、せめて高校物理くらい学んでからにしろと。

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あとさ、さっき はやぶさ の画像を探してたら、個人様のブログでこういう記事を見つけた。2009年10月の時点での はやぶさ 応援記事ですな。てことは最後のエンジントラブル(11月)の前。てことは「こんなこともあろうかと」のニコイチ運転の前。てことで、世の中(主にネット)が はやぶさ ネタでどかーんと盛り上がる前ですな。

その前からの はやぶさファンとして嬉しい限りで。

んでまぁどうでもいいっちゃどうでもいいんだけど、その写真、おいらが撮ったやつだったりして…… (^_^;)>

著作権ウンヌンとか野暮は言わないっす。被写体は宇宙探査機(の模型)ってことで、国税による公共事業のものだしさ(一応、このイベント会場で係員さんから写真撮影の OK も貰った)。それに個人様の画像を勝手に使うのはおいらもけっこうやってて、お互い様でもあるし。なんてーか、別に悪い気はしないもんだね。自分が出してるものを引用されるのってこういう感じなんだなーと変に感慨深いものがあったりして。ほかでも使い物になると判断してもらえたってことで、嬉しくもあったり。

銘板
2010.6.11 金曜
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相模原巡礼道中 4

てことで相模原。宇宙科学研究所。その入り口の守衛さんにいろいろ伺ってお話を聞いた。

「はやぶさ映画をやってるプラネタリウムは、ここから 100m くらい行って道路の向かいですよ。上映は……2時半から? まだ余裕ありますね。ええ、ロケットと はやぶさ の展示はこっちですよ。お、ちょっとちょっと、まずここで名前を書いてくださいね(そのまま入ろうとして止められてしまった (^_^;) わくわくしすぎで)。入構証を出しますから。代表者のお名前だけでいいですよ。ははぁ青森からですか。おお、はやぶさ に会いに。これはこれは遠いところからわざわざ。軌道変換、昨日無事に終わりましたね。はいこれでいいですよ。入構証をどうぞ。ではごゆっくりー」

守衛さん、めちゃめちゃ感じよかった。

緑に囲まれたまっすぐな道の向こうには、思ってたより新しいビル。あそこが一般展示ブースのあるところらしい。そこに着く前に右に曲がると、

M-3SII と M-V
ででーーん

左側が80〜90年代に活躍した M-3SII(ミュースリーエスツー)ロケット。右側が90〜2000年代に活躍した M-V(ミューファイブ)ロケット。M-V は関係者の間では「エムゴ」とも呼ばれてた。

世界のほとんどすべての宇宙ロケットの始祖が、フォン・ブラウンがナチスドイツの下で作った V2 弾道ミサイルなのに対して、唯一この ISAS ロケットだけがその系譜に与しない。東大の糸川英夫博士が1から作った日本のフルオリジナルなロケットなのだ。一番初めのペンシルロケットからずっと科学と工学の研究専用だったんで、軍事絡みの過去も持ってない(過去に高層大気観測用のロケットを海外に輸出したら、ミサイル研究に使われそうになったことがあったけど)。

まぁソビエトのロケットの場合、リーダーは地元ロシア出身のセルゲイ・コロリョフで、アメリカに亡命しそこねた V2 の技術者が協力した(させられた)という形。なもんだから、ナチの度合いというか V2 の度合いというかはアメリカほどじゃない。てことでアメリカのロケット開発の方はイメージとして「ナチの遺産を利用した」的な色がどうしても目立っちゃうね。

日本に話を戻すよ。1960年代、高層大気の観測で弾道飛行実験を続けてたら順調に性能が上がってきたんで、糸川先生、悲願だった衛星打ち上げ計画をついに公表した。当時は米ソの宇宙競争まっただ中。どっちもフォン・ブラウンの技術と V2 のノウハウが入ったロケット。当のフォン・ブラウンは「液体男」と呼ばれるほど液体燃料にこだわってた。宇宙開発に成功してる両国とも液体燃料ロケットで競争してるってことで、性能が劣る固体燃料の東大ロケットで衛星を上げるなんて笑止千万だったらしい。国外からは無視されたり笑われたり。国内からも批判の声が上がってたらしい。

ていうか国内で批判してたのは朝日新聞の特定の記者のみ。半可通な知識・経験に基づく憶測がベースで、新聞の記事としてどうかというあやふやな内容だったみたいだけど、あんまりしつこくうるさく批判キャンペーンを張ったもんだから、糸川先生が国会に呼び出される事態にまでなってしまった。署名記事とはいえそんな的外れな記事を承認して紙面に載せてた時点で、朝日新聞全体の責任ということになるね。他紙はこれを暴走だと分かってて、便乗も同調もしないで無視したそうな。

で、衛星打ち上げは弾道飛行とはまったく違う高度な技術が要求された。しかも日本は第二次大戦の敗戦国ってことで、弾道ミサイルを思わせる技術は他国からの疑念を恐れて使えなかった。ということで、精密な制御が必須のはずの衛星打ち上げなのに、誘導装置なしというなおさら高いハードルを設定しなきゃなんなかった。自動にしろ手動にしろ、操縦できないってのはキツい。

ロケットの下段切り離しも上段の点火もフェアリングを開くのも衛星にスピンをかけるのも、なんもかんも全部タイマーでの時限設定。ロケットの各部品としては、途中で何が起ころうが知ったこっちゃない。時間が来たら作動するだけよ、という感じ。風の影響は、打ち上げ直前にバルーンを飛ばして気流を読んで、打ち上げる傾きや方位角を調整することでできるだけ対処した(結局、最終段の点火だけは地上からコマンド送信したそうだけど)。

国内も含めて、世界中が冷ややかな視線を送ってたらしい。恐らく「そんなチャチな仕掛けで衛星打ち上げなんかできるわけがない」ということだったかと。そのとき衛星打ち上げができてた国は、ソビエト、アメリカとフランスだけ。戦勝国の先進国のひとつ、イギリスでさえまだできてなかった。もうひとつの戦勝国の中国はソビエトの大陸間弾道ミサイル技術(もちろんフォン・ブラウン系列)を導入して、自力衛星打ち上げ国の4番目の椅子取りの算段を着々と進めてた。

糸川ロケットの衛星打ち上げ計画は大方の予想通り4回も失敗して、その責任を取る形で糸川先生が辞職したりもしたんだけど、関係者たちはこの方向で行けることを実感してた。そして運命の1970年2月11日、日本初の人工衛星 おおすみ 打ち上げ成功(奇しくも はやぶさ が打ち上げられた2003年に大気圏に再突入して、栄光の生涯を終えた)。ナチの兵器が関わらないロケットが初めて衛星軌道に達した。フォン・ブラウンの独占を初めて崩した。そしてそのわずか2カ月後に中国が成功。「世界で4番目」の栄冠争いは熾烈だった。

今ははじめから商業利用目的で新規設計される液体燃料ロケットが増えた。ひとつのロケットで液体燃料と固体燃料を組み合わせるのも普通。全段固体燃料ロケットも、糸川の系譜と特につながらない形で世界中で立ち上がってる。てことで V2 系列かどうかなんて区分は意味をなさなくなってきてる。

けどまぁ日本は孤高の道を切り開いてきたことを誇っていいと思う。糸川ロケットの成功がなけりゃ、小型衛星打ち上げ需要を担う、世界の固体燃料ロケット計画はどうなってたか分からん。少なくともそのくらいの影響を与えたのは確かだよ。そもそも「V2 系列かどうか」という概念さえ、糸川ロケットがなきゃ生まれなかったわけだし。

後に「はやぶさ」と名付けられる小惑星サンプルリターン計画も、発表時は海外の専門家からことごとく「日本じゃ無理」と言われた。「そんな無謀なことをことをしたら、ISAS なんて小さい組織はすりつぶされてしまう」と本気で心配してくれた人もいた。でもやった。糸川ロケットを生んで育てた ISAS は、またしてもやってのけた。6月11日の時点で、はやぶさ は最後の軌道補正を終えて、もう何もしなくても地球の大気圏に再突入してオーストラリアのウーメラ砂漠に落下することが確定した。2つの星の往復飛行を、ISAS は成し遂げた。

ISAS は異端視されるのはもう慣れっこなのかも。もひとつあるんだよね。不可能と思われてたことを可能にしたこと。それは1985年のハレー彗星探査機 さきがけ と すいせい の打ち上げ。固体燃料ロケットなんかじゃ衛星打ち上げくらいは確かにできたけど、地球の重力を振り切って惑星間空間まで行くのはさすがに不可能、と諸外国から思われてたのに、上の写真の左側、M-3SII ロケットの1号機と2号機で2回連続で成功させてしまった。なんかもう ISAS かっこよすぎて鼻血が出そうですよ。

銘板左端銘板銘板右端

「液体男」のフォン・ブラウンは日本の固体燃料ロケットをさぞかし憎んだか疎んじたか蔑んだかと思いきや、別にそうじゃなかったらしい。ていうか敬意を払ってくれてたらしい。彼が作った、今でも世界最大記録のロケット・サターン V の規模に全然及ばなかったんで、ライバルとして認めてもらえなかったってことかもしんないけどさ。

銘板左端銘板銘板右端

アメリカにはロケットの父とされる人物がもう1人いる。それはロバート・ゴダード。世界で初めて、液体燃料ロケットを実際に飛ばした人。「液体男」のフォン・ブラウンより早いんですな。フォン・ブラウンは第二次大戦でナチスドイツが壊滅したどさくさにまぎれて米軍が連れてきたけど、ゴダードの方は元からのアメリカ人。Wikipedia の写真を見ての通り、そのロケットはフォン・ブラウンの V2 と比べ物にならないほど小さい。糸川英夫のペンシルロケットよりは大きいけど。

で、彼の存命中はロケットの原理も価値も一般には理解されず、ずいぶん叩かれたらしい。けど死後に再評価されて、今は「世界のロケットの父」的な捉えられ方をしてるらしい。ていうかアメリカのロケット史から、フォン・ブラウンは抹殺されようとしてるらしい。

なんかこう、そうなるように恣意的な世論誘導やってるらしくて。ほら、ナチってイメージ悪いじゃないの。ていうか年々悪くなってきてる。ドイツ政府がユダヤ人虐殺の責任を全部ヒトラー1人にかぶせて済ます方針を取り続けてきた&アメリカでユダヤ人の社会的地位が揺るぎないってことで、ヒトラーはもう、人間ではない、あれは(キリスト教の定義での)悪魔だった、みたいなヒステリー的な状態になってる。さすがにドイツ政府見解は「悪魔」とは規定してないと信じてるけど、一般人の認識はそんな感じらしい。

聖書に触れることなく大人になったおいらとしては、この荒唐無稽な解決方法に唖然とするばかりですよ。昭和50年代に読んだ子供向けの偉人伝には、その1人としてヒトラーが載ってた。その頃はまだタブーじゃなかったんだわ(さすがに偉人伝としての選択には疑問を感じたけど)。おいらが分かる範囲では、この30年くらいでそういう風潮が形作られたわけで。そこらに恣意性を感じるんだけど、そんな感じで、ナチを連想させるものに対しても年々風当たりが強くなってきてるっぽい。

世の中がそういう風に変わってきたら、NASA にとってはナチの下でロケット技術を開発したフォン・ブラウンの存在が邪魔になってきたようで。彼は NASA 設立からアポロ計画完遂までのアメリカの宇宙開発のリーダーだし、ソ連との宇宙競争には彼なしで勝てなかったのは明らかなんだけど、そういう世情的というか政治的というかの理由で、どうもアメリカ宇宙開発史から抹殺したくなったようで。それで今になってゴダードを必死に持ち上げてる、という事情らしい。

ゴダードのロケットの系譜はゴダード1代のみでほとんど断絶してると思うんだけどな。アメリカでゴダードが再評価されたのは、1960年よりちょっと前らしい(Wikipedia 記事内の「1960年に、合衆国政府はそのすべて(特許)をゴダード未亡人から100万ドルで買い取った」から推測)。ソビエトのスプートニク1号の打ち上げ成功が1957年ってことで、アメリカ政府が慌ててロケットに力を注ぎ始めたらゴダードに行き当たってようやく認めた、という流れが見えてくる。その頃はとっくにフォン・ブラウンがエクスプローラー1号を打ち上げてた(1958年)んで、実質は NASA はゴダードの技術なしでロケットを運用してたはず。

けど最近のアメリカとしては、国家の威信をかけてやってる宇宙開発の創始者と技術の出どころがナチというのが都合が悪くなったようで。そんでフォン・ブラウンと V2 を日陰者に持っていこうとしてる。そのために、時代が追いつけなかったせいで忘れられて、その後の技術競争にほとんど影響を及ぼさなかったゴダードと彼のロケットを、米国ロケット史の系譜の源流にすげ替えようと躍起になってる、と。

そんな無茶が通るなら、日本の糸川ロケットの始祖なんて昔の中国の「火箭(かせん)」(竹筒に火薬を詰めた原始的なミサイル。下図参照)ってことになっちまうんだが。

火箭

もちろん火箭と糸川ロケットには技術の系譜として何のつながりもない。NASA、無茶するなぁ。権力者の時々の都合でいいように利用されてきたフォン・ブラウンとゴダード、どっちも可哀想になってきた。アメリカ人、偉大な先人たちをもっと大事にしろよ。

ゴダードの存命中にいい加減な理屈でゴダードを叩いたニューヨーク・タイムズ紙は、アポロ11号の月着陸の前日(1969年7月19日)、過ちを認めてゴダードに謝罪をしたそうな。ニューヨーク・タイムズは自社の未来の信用を勝ち得るために、過去の責任を全うしたんだね。勇気と誇りある立派な行為だと思う。

ひるがえって、朝日新聞はいつ糸川英夫に詫びるんだろう。深宇宙の星への往復飛行を世界で初めて成した探査機 はやぶさ。それを打ち上げた M-V ロケットは糸川ロケットの最終形態なんだが。ニューヨークタイムズの先例で言うと、まさに今が謝罪の絶好のタイミングだと思うんだが。

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人間には未来がなかなか見えないからね。知識と知恵である程度予測することはできるけども。マスコミにだけその技量に完璧を求めるのも虫のいい話だね。まぁニューヨーク・タイムズの件だと、物理学を知ったかぶって間違えたという罪はあるにしても。で、遅いといえば遅いけど、ともかく過ちを認めて謝った。この新聞社にしても世間にしても、ゴダード存命の当時、まさかこの人がアメリカの国家の威信をしょって立つとは思いもしなかったんだろうな。その時代の感覚を想像すると、無理もないことだわな。

そして1955年の日本。こっちでも、まさか全長たった 23cm のおもちゃみたいなロケットの末裔が48年後に、世界初の地球ー小惑星往復宇宙機を打ち上げるなんて思いもよらなかったろ。

ペンシルロケットの初打ち上げの日に実験場に集まったマスコミの人たちは、物々しい打ち上げ体制(水平発射だったけど)の割に実際の実験のあっけなさに拍子抜けして「これで終わりですか?」と糸川先生に思わず聞いたそうな。そして、次の日の新聞で思う存分叩いたそうな。

見た目はたったそれだけでも、日本で初めての本物のロケット発射実験なんだから物々しい体制を敷く必要があったわけで、実験で得たデータの解析に、チームはそのあと大わらわだったはず。マスコミさんたちは洋の東西を問わず、科学技術分野に関しては自分たちがその分野を理解してないことを理解してなかったってことになりますな。

48年もの未来を読むのはさすがに難しいけど、38年先ならまだ多少はラク。1965年あたりまでに糸川ロケットは順調に成長してて、いよいよ衛星軌道を狙えるところまで来た。そこで憶測ベースの糸川バッシングを執拗に繰り返して邪魔しまくったのが朝日新聞。糸川英夫は1999年に他界したけど、朝日新聞だってあの頃から糸川ロケットがどれだけ成長したかは分かるだろ。そしてその技術が2003年に打ち上げた はやぶさ がもうすぐ地球に帰ってくる。イトカワという名の星から。さっきも書いたけど、朝日新聞が糸川英夫に謝罪するには、これ以上ないタイミングですわな。

今はさすがにそこまで露骨なことはないけど、マスコミはやっぱしまだ理解が足りないと思わせられることがあるよ。打ち上げ後の記者会見でバカな質問する連中とかね。失敗すると何百億円を無駄にしたか、しか書かないやつらとか。その経験をその後に必ず活かしてきたことをちゃんと思い出せば、そんな単純な無駄として数字を出せないのは分かるはずなんだが。

けど日本のマスコミの科学技術音痴ぶりも、2005年11月を境に少しずつ変わりつつあるらしい。そう。はやぶさ のイトカワ着陸ミッションのとき以来。毎日毎晩、小惑星イトカワ上空と相模原の管制室で繰り広げられる、人類が初めて知る修羅場。そこに毎日通って手に汗握って取材しているうちに、記者さんたちは必要な知識とセンスを身に付けていったらしい。笹本祐一の『宇宙へのパスポート3』にそんなことが書いてあった。

同時に、現場に赴く記者さんたちはそうして鍛えられていったけど、新聞社内で記事原稿に OK/NG を出す上役が相変わらずなんで、記事になって出回る頃には情報がそれまで通りに相当劣化してしまってたそうだ。

あれから4年半。

あのとき相模原に通った記者さんの中には昇進して、職務権限を得た人もいたことだろう。たぶんそういうことなんじゃないかと思う。はやぶさ の地球帰還前後の新聞各社の反応は、テレビに比べて大いに盛り上がってた。今世紀に入ったあたりからずっと、新聞は科学欄や科学技術関連の記事量を縮小させ続けてると思う。そういう記事をめっきり見なくなった。けど今年に入った頃からじわじわと、そして今現在に至るまで、はやぶさ は各紙上で特別な待遇を受け続けてる。そのおかげで あかつき と IKAROS もなりなりに取り上げられたり。

今だけかもしんないけど、科学記事が頻繁に出てた90年代の新聞に戻ってるねえ。その頃は情報の質に問題があったけど、今の はやぶさ 関連の記事を読む限り、紙幅の都合で端折ってるところはあるけど、おいらが分かる範囲ではあからさまな間違いはない。噴飯ものの誤解もない。たとえ紙面を大きく分捕れても、書籍じゃないからやっぱり制限はある。それでも、できるだけ多くの情報を伝えて はやぶさ のことを知ってもらおうとしてるのも伝わってくる。熱いんだわ。

うちでは読売新聞を取っててさ、90年代や21世紀初頭の H-II/H-IIA の打ち上げ記事でのバイアスのかけっぷりに腹を立ててたもんだけど(打ち上げ成功を無知と無理解のパワーで強引に失敗に仕立てるんだもんなぁ)、ここ最近の新聞各社の中では はやぶさ に関して一番熱心な気がする。ネットで記事を読み比べると、毎日新聞も同じくらいがんばってくれる。てことは……やっぱ朝日は朝日のままなのか (-_-)

銘板
2010.6.12 土曜
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相模原巡礼道中 5

なんてテレテレ書いてたら、ログはもう はやぶさ帰還日の前日だし。てことで、宇宙科学研究所で撮ってきた写真をちょいと貼るくらいでご勘弁を……。

はやぶさを特集してるんだから M-V ロケットを出すべきなんだけど、その前の世代の M-3SII ロケットの方がいろいろギミックがむき出しで面白くて。

M-3SII
M-3SII リアビュー

とりあえずケツのカッコよさよ。松本零士なデザインというか。ブースターと尾翼のサイズのバランスにしても、どう見ても見た目のデザイン優先としか思えない。実際は力学計算でたまたまこうなったというだけなんだけど、機能美が実現した1例なんじゃないかと。

んでまぁ格好はいいんだけど、M-3SII は初期の M-4S から基本仕様をあまりいじらずにだんだん建て増ししていった最終形だから、こうしていろいろ派手なんですな。で、一般にこういう継ぎ足し式の高性能化だと、あるところで限界が見えてくる。それ以上どうやっても、改良の手間やコストに対する効果が薄くなってくる。

それどころか複雑になっていくんで、機械設計の原則「同じ機能を実現するなら単純な方がいい」にそぐわなくなってくる。てことでそれ以上の高性能化は、まったくの新規設計に委ねた方がいい。それで生まれたのが、はやぶさ を打ち上げた M-V。ほかにも政治的な理由もあって実現したみたいだけど、工学的にはそういう理由があったりする。M-3SII はこの規格での究極形態だった、と。

同じような時期に、ヨーロッパのアリアンロケットのシリーズでも同じような推移があった。アリアン IV ロケットは高性能化を進めた挙げ句に改良の余地がなくなって、このままじゃこれからの大型ローコスト路線に対応できないと判断。それで丸ごと新設計の アリアン V を作った。日本の M シリーズと同じく、このフルモデルチェンジで外見がすっきりした。

日本で現役唯一の H-II シリーズは、H-II → H-IIA では外見はほとんど変わらず。そこから H-IIA 204 型 → H-IIB とゆー大型化路線では、パーツを付け足して対応してきた。今は H-IIA がメインで、最強の H-IIB は国際宇宙ステーションに貨物を届けるときしか出番がないけど、もし H-IIB クラスが世界の主流になるなら(シェア1位のアリアン V と同クラスなんでかなりあり得る)、そしてもし H-IIB の商業打ち上げが採算ベースに乗れば、コストダウンと信頼性アップのために外見がもう一度スッキリ方向に変わりそう。事業仕分けで生き残った LNG(液化天然ガス)エンジン研究がその鍵を握ってる気がするけどどうなるんだろうね。

お次の写真は M-3S-II の1段目と2段目の継手部分。

M-3SII の 1段2段継手

メカのむき出し感が異彩を放ってますなぁ。普通のロケットの継手は円筒状で、ノズルをすっぽり覆ってるもんなのに、金属パイプのトラス組みですか。姿勢制御スラスタのノズルも丸見え。超音速の風が当たりまくり。でも何の問題もなかったらしい。ノズルの付け根を取り巻く赤い円筒は、恐らく TVC という姿勢制御装置なんじゃないかな。ノズルの一番細くなってるあたりの内壁に穴を4カ所開ける。この穴から過酸化水素水を噴流に直交するように噴き出すと、噴射ガスの噴射方向が曲がって、姿勢制御ができる。ノズルの首振りをするより技術的に簡単らしくて、M-V になっても4号機まで2段目でこの仕組みが使われてた。

トラス状の継手を見てみよう。写真だと右側が1段目。継手の付け根はジョイントになってるね。切り離しのときにガバチョと開く仕組み……だと思う(未確認)。付け根の回転軸にそれを駆動するためのバネらしき部品が見えてる。

継手が筒状の場合、上段のノズルがその筒から完全に出て、さらに離れるまで点火はしないはず。逆流した噴射炎で上段のノズル周りにあるメカを焼いてしまわないように。ところが小型ロケットの1段目切り離しのタイミングだとまだ高度も速度も低い。加速してない慣性飛行の時間が長くてもたもたしてると、せっかく手に入れた速度を重力損失でどんどん持っていかれてしまう。てことで2段目は、1段目を切り離したらなるべく早く点火したい。

恐らくそんなわけで、M-3SII の1-2段継手は筒状じゃなくトラス構造で、しかも「開く式」なんじゃないかな。トラスや内部構造がむき出しだと空気抵抗的に不利っぽいけど、コストや重量、メンテナンス性なんかとも総合的に折り合わせて「これが最適」となったかと。

実は M-V でもその思想が受け継がれてて、 "Fire In The Hole" (FITH) という確立された方式として採用されてる。下の画像は M-V の1-2段継手部分。

M-V の 1段2段継手

左側が1段目。継手の構造はかご型で、1段目の上面はドーム状。さらにその先端にもポッチがついてる。それもこれも2段目の噴射炎の「抜け」を良くするため。このメッシュのかごより上(画像だと右)の継手は筒状だけど3枚に別れてて、M-3SII と同じく花びらみたいにガバッと開いて2段目を解放する構造になってる。

この仕組みのおかげで、「1段目の燃焼停止 → 1-2段目切り離し → 2段目の点火」のシークエンスでの慣性飛行時間はわずか1秒。ほとんど連続ですな。固体燃料ならではの始動性の良さというのもあると思う。

そういやロケット用の固体燃料って本来は火が点きにくい上に、高圧環境じゃないと燃えっぷりも悪いそうで。てなわけで ISAS ロケットの打ち上げ主任をずっとやってこられたお方のお話だと、普通の大気環境下でむき出しの固体燃料に火を点けても、ブスブスとくすぶるだけだそうで。そんである日、固体燃料のカケラを地面に置いて点火してみてから、足で踏みつけて消そうとしたら、踏んだ圧力で一気に燃焼して(たぶん爆竹みたいに爆発して)、足が持ち上がったそうな。おっかねーなー(笑)

さて今度はブースターの継手を見てみようかなと。ロケットの補助ブースターというものがどうやって胴体に固定されてるのか、前々から興味あったもんで。てことで写真は M-3SII に戻りまする。

M-3SII のブースター継手・下1

そうかトラスだったのか。進行方向前方(画面左側)のバーの方が太いのはなんでだろう。後方は引っ張り、前方は圧縮だから、座屈対策かな。昔聞いた、振動工学の先生の言葉を今になって思い出したぐらいにして。「引っ張りと圧縮は力学では対称な現象なんですが、圧縮にだけ座屈という現象があるのがどうにも不思議で」。経験則からすると当たり前のことなんだけど、確かにそうなんだよね。力学的に対称だと実際の現象でも対称でないとどうも気味が悪い。でも現実はそうなってる。不思議だなぁ。

それとも前方のバーって、振動を吸収するためのダンパーなのかな。謎ですな。

でさ、ロケットのブースターがトラスで本体に固定されてるのはよく分かったけど、

M-3SII のブースター継手・下1_1

六角ボルトやナットがめちゃめちゃむき出しなんですな。画像下の巨大な六角ボルトは尾翼の固定用。なんかこう、極超音速飛翔体にあるまじきテキトーな表面状態のような気がして。継手の台座の形にしても流体力学を完全無視。トラスともども、見た感じはそこらの鉄工所で作れそう。まさに笹本祐一の『宇宙へのパスポート』の追体験。「いーのかこれで」w

例えば大気圏中のスピードではロケットの10分の1程度の F-1 マシンやらインディカーでも、胴体の表面処理は流体力学的にものすごく気を遣ってるよね。まぁ同一レギュレーション内でライバルに勝つために少しでも有利に持っていこうという現れなんだけど、それにしてもほんと「少し」だったんだな、なんてこの日ついに納得。M-3SII ロケットは探査機や工学実証宇宙機を彗星まで2機、月まで1機飛ばした。これで何の問題もなかったんだと思う。

なんかこう、今まで持ってた何らかの信条みたいなものが、これ見て一気に崩れ去っていくのを感じたですよ。上記の笹本祐一氏は、世界最先端の科学的成果を挙げ続ける ISAS の衛星打ち上げ基地・内之浦宇宙空間観測所を見学したところ、あまりの狭さとしょぼさに衝撃を受けたらしい。そしてアポロ計画を指揮した伝説の技術者フォン・ブラウンが遺した言葉「宇宙開発は国家規模の予算が無いとできない」をかなぐり捨てたそうなw ISAS は既成観念をどこまでも壊しまくるなぁ。とんでもない反逆者だよ。いいぞもっとやれwww

ロケットって何もかも特注なんだと思ってた。すべてそれ専用の素材やら部品やらで構成されてるもんだと思ってた。普通の機械とは桁違いの薄い安全率で作られるロケットなんて極限の乗り物は、一般民生用の規格なんてはじめから疑ってかかって、全部が全部、独自の超厳しい規格で作られてるとばっかり思ってた。

めっさ普通じゃん。普通の機械じゃん。

もちろん宇宙専用規格の部品も多いんだろうけど、強度重視の部品なんかは、機体の表面に露出してるものであろうと普通の部品や設計法なんだねぇ。しかし六角ボルトとは。タミヤのバギーチャンプと同じもので組み立ててんのかよw あるいはこの六角ボルト、バギーチャンプのは焼入れ鋼だったけど、宇宙用はチタン製だったりするんだろうか。ていうか RC カー用で、サードパーティーがチタン製のネジ売ってたわ。このロケットが飛んでた80年代半ばに。むしろ RC カーの方が進んでたのか?w

宇宙専用規格がロケットのコストを押し上げてる面があるそうだけど、その意味じゃ特に電子装備のコスト比率が高いらしい。てことであの川口淳一郎教授は2001年に、電子機器を回収・再利用するロケットの案を公表してたりする。まぁその母体になるはずの M-V はもうなくなっちゃったけどさ。

で、今見てきたのはブースターの後ろの方の固定方法。前の方はこんな↓感じ。

M-3SII のブースター継手・上 その2

ブースターから本体への推力伝達は、引っ張り方向の支柱でのみ。法線方向に伸びたトラスの柱で消極的に支えてもいるけど、この棒は位置決めの役割しかなさそう。ていうかこっちは付け根の部分が華奢なんで、もしかしたら推力の伝達を担ってるのは下側のトラスのみなのかも。写真を撮り逃してしまったけど、この斜めのバーのブースター側の支点はノーズコーンの上端なんだろか。なんだかそんな感じだけど、ノーズコーンに丸断面の棒がかぶさってるのって、空力学的にどうなんだろ。解析がすごく面倒なような気がする。

その検証目的じゃちょっと見にくいけど、別のアングルから撮ったやつも出してみよう。

M-3SII のブースター継手・上 その2

やっぱしブースターの先端につながってるよなぁ。んー、この継手部分を見とくんだったよ。

けど、実はノーズコーンにそういう邪魔者がかぶさってても、実はあんまし関係ないのかもしんない。ていうのも、この先端から飛び出たキノコみたいな、レトロフューチャーな突起w 「スパイクノーズ」というそうだけど、これが突き出てるぶんだけ衝撃波面を進行方向前方にずれるんで、ノーズコーン周りの形状が複雑になっててもあんまし影響ないのかも。

そういや柳田理科雄は『空想科学読本』の1冊目じゃ「衝撃波面に触れると何でもかんでも切断される」というひどい誤認識を世に振りまいたけど(ウルトラセブンが超音速で飛ぶと自分の首が切れてしまう、というやつ)、さすがに今じゃ改めたろうか。それだったら M-3SII のブースターの先端が作る衝撃波でロケット本体がスパッと切れちゃうことになるんだが。もちろん M-3SII に限らず、補助ブースターを装備したロケットでそんな事故は一件も起こったことないよ。

このスパイクノーズについては面白い逸話が残ってる。「どうですか、格好いいでしょう」wwww けどほかのロケットじゃ採用されてないんだよね。例えば H-IIA のブースターに付けてもいいと思うんだけど、なんで付いてないんだろ。見た目のせいかな……。

てことで、はやぶさ に会いに行ったんだから M-V ロケットを特集すりゃいいのに、M-3SII に誤爆しちまったですよ。だってすげーかっこいいんだもん。M-V ももちろん洗練されててかっこいいけど、この、遠目からはジャパニメーションデザインな魅力、近くから見るとむき出しメカの魅力なんて、世界中のどこのロケットでも見れんて。

銘板
2010.6.13 日曜
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おかえり はやぶさ

あんなに遠いところからよく帰ってきたね。南の夜空にまばゆく輝いて自らの存在を高らかに知らせる姿、ネット中継でちゃんと見たからね(いろんなとこではじかれて大変だったけど)。リポビタン D で乾杯もしたからね(そのせいもあって、それからほとんど眠れなかったよw)。

世界的偉業とみんな言うけど、間違いなくそうだけど、おいらを含むファンのいくばくかは、そんなことどうだってよかったんだよ。ただ君が地球に帰って来てくれさえすれば、それでよかったんだよ。何度もわくわくさせたり胸を押しつぶす思いをさせたりの、この興奮と怖さが詰まった冒険の旅が成就すること、それだけを願ってきたんだよ。

願いを叶えてくれて本当にありがとう。前は無人宇宙機を「宇宙船」「船」と呼ぶのは違和感があったけど、君は別だ。とても素晴らしい船だった。

おかえりバナー

『はやぶさ君の冒険日誌』に書かれたとおりになってほんとよかった。4年半前の通信途絶以来、もうダメかもと何度も観念したけど、そんな弱虫はおいらだけだったよ。運用チームの皆さんとほかのファンの皆さんが誰も諦めずに努力・応援してきたからこそ、今日この晴れの日を迎えられたんだよね。運用チームとチームを支えた皆さん、本当にお疲れさまでした。おいらは勝手にずっと一緒に旅をしてる気分でした。おかげで今はとても幸せです。ありがとう。本当にありがとう。

……、

……、

……。

よかった……(涙)。

銘板左端銘板銘板右端

1週間前の6月6日、神奈川県相模原市の宇宙科学研究所(ISAS)の本部に行ってきたよ。はやぶさ のプラネタリウム映画 "BACK TO THE EARTH" をやってる相模原市立博物館がそこから目と鼻の先なんで、どっちも はやぶさ が帰ってくる前に、一度行ってみたくて。このイラスト、ISAS の門から入った視点での、各建物や展示品の位置がそのまんま描かれてるんだね。手に取るように分かるよ。行っといてほんとよかった。

入り口で入構パスを貰うときさ、守衛さんに「はやぶさに会いに青森から来たんですよ」と言ったら守衛さん、「おおーそれはそれは遠いところから!(笑顔) はやぶさ の軌道変換、終わったばかりですよ」と教えてくれた。そうそう、この前日は TCM-3 の最中に東京に発って、新幹線乗りっぱなし→飲んだくれてたもんだから、無事に終えたの知らなかったんだわ (^_^;)

こういうところの守衛さんって中で何やってるのか関心がなかったりするもんかなと思ってたけど、ここは違ってた。ご自分が守る職場の中の出来事に、しっかりした関心と誇りを持っておられた。ISAS ファンのおいらチョー感激したですよ。

銘板
2010.6.14 月曜
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ラストショット考

帰還の日が日曜日でよかった。まる1日、はやぶさ にお付き合いさせていただいたですよ。まる1日というよりもうここんとこずっと はやぶさ 漬けだけどさ。ああ、「心置きなく」だね。うん。

13日はもう朝からずっと関連情報漁り。ていうか主に はやぶさ Twitter に張り付き。その前日あたり、相模原詰めの運用チームはもうカプセル分離以外にすることがないと思ってたら、最後のミッションが追加されたと知った。それはカプセル分離後に行う地球の撮影。

「はやぶさ に最後に地球を見せてやりたい」

ロマンチックなコメントとともに発表されたラストミッション。まぁこの土壇場で科学的・技術的成果はもう上積みする必要は確かにないよね(小惑星の地球衝突シミュレーションがあるんだけど、それはもうただそのまんま放っといて、その研究の観測・解析チームに任せればいいだけ)。まぁおいらは、ロマンチックなコメントはファンに喜んでもらうための方便だと思ってるよ。きっとカプセル放出から着陸までの3時間ちょいの間、何もしないでやきもきするだけという状況が許せなくて、こう来たんじゃないかと。7年も付き合ってきた最期の最期まで、愛機で何かできることを遂行したかったんじゃないかと。

宇宙科学という、一般にはかなり分かりにくいはずの ISAS の活動がここまで一般に広まったのは、広報責任者をずっと務めておられる的川泰宣氏の長年の尽力によるところが大きいらしい。彼は ISAS の技術畑の大御所教授(工学博士)だけどマスコミや一般世間との付き合い方をよく心得ていて、記者会見後のぶら下がり取材で的川先生と話したジャーナリストたちはみんな、的川先生のお人柄と ISAS の虜になってしまうらしい。ということで、彼が今まで探査計画で実行してきた広報アイディアは、いつもファンを増やしてきた。火星探査機 のぞみ から始まった、署名・メッセージ搭載計画、各種啓蒙イベント、月探査機 かぐや でのハイビジョン撮影などなど。

で、今度の はやぶさ の地球撮影、きっと的川先生の発案なんじゃないかと思うんだけど、どうなんだろ。だとすると、「はやぶさ に最後に地球を見せてやりたい」はやっぱし方便かもね。広報責任者なら広報効果を第一に考える。このコメント込みでファンやマスコミへの受けを狙った、と考えられるわけで。

一般受けを狙うこと、これってなんか俗っぽい感じがするけどさ、こういう科学技術系の国家研究機関に関しては、日本は国内の一般社会へのアピールがまだ足りてないと思うんだよね。やってる人たちはほとんどがその道一筋の学者さんたちだから、一般受けはハナから眼中にない人が多そう。けど一般社会からの税金を投入してやってる以上、何をやってるのか、どんなに意義深いことをやってるのか、国家プロジェクトじゃなきゃできないどんなに面白いことをやってるのかをきちんと(大々的に)見せて、納税者に「税金を払ってよかった」と思ってもらうことって大事だと思う。納税者の納得感がその組織の存続を保障していく、という意味もある。

NASA はそこらへん酸いも甘いも噛み分けてきたぶん、かなり早くから気付いてた。1997年に探査機マーズ・パスファインダーが火星に無事に着陸したとき(アメリカの探査機が火星に着陸したのは21年ぶり)、公式会見での開口一番は「納税者の皆様に感謝いたします」だった。この探査機はアメリカでたぶん初の、低予算を意識した小型の計画だったのに(1ドル=100円としてロケット込みの開発費は約280億円。安さが売りの日本の深宇宙探査計画と同じくらいだったりする)。

今回のラストショットが的川先生の発案かどうかおいらには分からんけど(公式には川口プロジェクトマネージャーが思い立ったことになってるらしい)、これを優先させたもんだからキャンセルされた案もあった。ソースを見つけられなかったんでアレだけど、それは、「試料採取用の弾丸を発射してみる」というもの。これで はやぶさ 本体の姿勢が乱れれば「弾丸が発射された反動で」ということで、小惑星イトカワ着陸時には発射されなかったということ。着陸ミッションで弾丸が出たのか出なかったのかはっきりしなかったもんだから、試料採取チームはカプセル分離後にその試験を希望してたみたい。

川口先生によると、カプセル分離後の はやぶさ 本体はバランスを取りにくくなって(重心位置が変わるから?)、何もしなくても姿勢が落ち着かなくなるらしい。てことで弾丸発射での姿勢の乱れを読み取れない可能性があったらしい。それでボツになったらしい。

これ書いてるの7月でさ、カプセルの中はほとんど空っぽだったことが6月中に判明してる。確定ではないけど、撃ってなかった説を裏付ける証拠がまたひとつ取れたわけで。てことで、発射試験より撮影を採ったのは結果的に正解だったってことだね。

なんてことをごちゃごちゃ書いたけど、件の「ラストショット」を見ると、圧倒されてもうそんなこんななんてどうでもよくなる。

はやぶさ ラストショット

おいらが初めてこれを見たのは、カプセルの着陸の約1時間後だった。新聞社がネット記事で配信してたやつ。言葉を失ったよ。いやほんと、いまだにそのときの気持ちを言葉にできない。なんだかいろんな感情が一気に出てきて混ざってしまって。「感動」なんて擦り切れた言葉は使いたくない。新鮮な気持ちだったから。

そういえばもう20年も前、日本人初の宇宙飛行士・秋山豊寛氏が TBS の特派員としてソユーズに乗ったとき、特集生番組のテロップやらスタジオの司会者やらがやたら「感動!」と言いまくって、かえって白けてしまったっけ。てこともあって、ここは無理に2文字の記号として片付けないで、説明不能なわけわかんない気持ちとしてそのまんま記憶しようっと。

画像の下の方のデータが途中で切れてるのは、この画像を内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)のアンテナに送信してる最中に、内之浦から見てはやぶさが地平線の下に没してしまったから。被写体がフレームの上の方に寄ってたからうまいこと間に合った形。

同時に、この写真自体が はやぶさ 本体との通信途絶(22時28分)を表してるってわけ。以後の探査機本体は、地上の観測者の目の前でその身そのものが巨大な光芒になる(22時51分)まで、人々の目から隠れることになった。静かに過ごした23分間は、この直後の運命を受け入れるのに充分な時間だったろうか。

地球の像の下に出てる白い影は、スミア というノイズの一種だそうで。CCD 素子に受容量以上の光が溢れるとこうなる。地球の像の幅一杯のスミア。しかも水平方向に「スミアのスミア」まで発生してる。はやぶさ の目で最後に見た地球はまばゆく輝いてたんだね。

詩的なセンスのある人たちは、このスミア画像を「はやぶさ の涙で滲んでいる」と表現してくれた。それは、自らが消え行く悲しみの涙じゃないと思う。きっと6年ぶり(打ち上げから1年後、スイングバイのために地球に接近して、美しい地球をカラーで撮影してる)に見た故郷の美しさに心打たれた涙、そして成すべきを成した万感の涙だよ。

初めてこの写真を見たときは真ん中に日本が写ってると思ったんだけど、雲を見間違えてたよ。原寸画像をよく見たら、アラビア半島とペルシャ湾、カスピ海が見えた。中東だね。将来イラク情勢が落ち着いてから、イラクの人がこの写真を見たらどう思うだろう。喜んでくれるかな。それともこの時代のお国の状況を思い出させて悲しませてしまうかな。

白黒なのは、探査機のカメラは一般に白黒仕様だから。たぶん、カメラの構造で決まる光量を、採用された CCD 素子の限られた能力で最大限に捉えるための仕様なんじゃないかな。カラー画像が必要なときは、光の3原色のカラーフィルタを交換しながら3回撮影して地上局に伝送して、研究チームがその3枚をコンピュータで合成して作るんだわ。地球にこんなにまで近づいて、刻々と変わっていく地球の像を3回撮ってカラー合成しても、たぶんきっちり合わないと思う。

ていうかこの写真を撮ったときの はやぶさ には、被写体をフレームに捉えてたのを確認してから探査機の回転を静止させて、カラーフィルタを換えながら3枚撮るなんて余裕はなかった。伝送途中で通信が切れたくらいだから。実際、白黒モードのまま(恐らく機体を縦に回転させつつ)5,6枚撮ったけど、最後のこの1枚のほかは全部真っ黒だったそうで。本当にギリギリで間に合った。

右上の黒い背景にも、左中段のスミアにも、伝送されなかった下の空白部分にも、白黒なのにも、それぞれに意味と理由が刻み込まれてるんだわ。

銘板左端銘板銘板右端

ここに出してるサイズは 650×650pix だけど、もとは 1024×1024pix。おいらの契約サーバに元のサイズのまま入れてるのを、このページで縮小表示してる。上の画像をローカルに落とすとオリジナルサイズで保存できるってわけ。JPEG だけどもともとの非圧縮率 100% 設定のままだよ。ただ、画像のデータ欠損部分をブラウザ(Firefox)は表示しない仕様らしいんで、欠損部分もデータが詰まってる形に直してるよ。そこだけがオリジナルと違うところ。これでちゃんと「全部」がブラウザで表示されるようになった。

1024×1024って探査機の観測用写真としてちょっと小さい感じがするかもしんないけど、2003年打ち上げという時代を考えると、カメラの開発はもっと前。当時はこのサイズが精一杯だったかと。

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2010.6.15 火曜
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実は使える「役立たず」

「で、それが何の役に立つんですか?」

勉強不足のレポーターや記者がノーベル賞級の科学者に投げかける無思慮な質問。確かに一般ではそれを知りたい人も多いだろうし、納税者としてもその線で納得したい向きも多いと思う。科学が好きな人にとってはその成果自体が一級の娯楽だけど、そうじゃない人が納得するには「何の役に立つか」は大事だよね。

模範的な解答だと、「世の中に夢と希望と活力を与える」「日本人が誇りを持てる」というのがあるね。はやぶさ の川口淳一郎プロジェクトマネージャーはそう答えてる。あるいはニュートリノ天文学の先駆者・小柴昌俊教授(2002年 ノーベル物理学賞受賞)はぶっちゃけて「役に立たない」と言い切った。けどこれ謙遜だから真に受けちゃいけない。宇宙物理学の新分野を開拓するのにおもっきし役に立ってる。ノーベル賞を取ったことは日本人が「この国に住んでてよかった」と気分を良くするのに役に立ってる。

そして、「何の役に立ってるの?」と質問した記者が所属するマスコミ業界全体に、長らく使える飯のタネを供給してる。

そのあたりよりも、実は巨大科学はもっと実用的なところで役に立てるんじゃないかと。投資に見合うだけの効果を上げられるんじゃないか、その方向で利用すれば、さらに費用対効果が上がるんじゃないかと思って。

それは国の技術ブランドの宣伝。

日本は地下資源があまりない(実はないわけじゃないけど、海外産とのコスト競争に勝てないから掘らない)ってことで、付加価値を付けた技術製品(最近じゃ文化も)を海外に輸出して食っていく方針を取ってるわけだ。国際市場では1950年代は「安かろうまずかろう」だった日本の技術製品は、部品でも完成品でも70年代には信用されるようになって、80年代からは世界最強の地位を不動のものにしてる。けど最近はそうダントツでもない。もともと欧米製が劣るわけじゃなし、あるいは経済新興国の製品の安さとそれなりの信頼性も充分に魅力だったりする。バブル直前からはずーっと円高基調で、価格競争力が弱くなってるし。

80年代はほとんど日本製品しか選択肢がなかったのが、今は客がいろいろ選べる中で戦っていかなきゃなんない、というわけ。実際、韓国の電化製品やクルマは日本じゃほとんど見かけないけど、外国では相当強いらしいし(日本製のふりして売ってるってのもあるそうだけど)。

どのジャンルにもいろんな国籍のメーカーがひしめく中で優位に立つには、さらなるブランド化ですな。今でも "Made in (国名)" を基準にモノを選ぶ人が多いのなら、その国自体がその品質を保障・体現する何かが欲しい。ということで、国家プロジェクトで他の国にできないすごいことを自力でやってるよ、という広報・宣伝。これが鍵を握ってるんじゃないかと。カネがある国はいくつもあるけど、カネ持ってるだけじゃできないことができちゃう国ってのはそう多くはない(日本が本当に金持ちの国なのかはここでは考えないでおくw)。

巨大科学プロジェクトを発案して、その施設・設備を自分で作って自分で運用して、そこから成果を出し続ける。これってものすごい宣伝資源だと思うよ。

そんなに役に立っていないというなら、それは宣伝材料としてまだうまく使い切ってないってことで。

「さすが日本! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!」

そう思われるように持っていきたいじゃないですか。実際そうなんだし。外国の人たちはそんなものに関心を持っていないというのなら、関心を持ってくれるようにしようじゃないですか。

ここ15年くらい、円高のせいで日本製品は高いもんだから、ほかの安い製品に市場シェアを食われてしまってるらしい。つまりお客さんは日本製品対して、その値段は高すぎると評してるわけ。生産コストに対する品質がもう限界なら、他国じゃ真似できない別種の付加価値を付けて、ほかの国のモノとは比較不可能なほどぶっちぎる必要がある。

その線じゃ実際、ハイブリッド車ががんばってるよね。トヨタのみならずホンダもってことで、「あの会社が」じゃなく「日本車が」という見方をされてるんじゃないかと。さらに三菱と日産は電気自動車の量産も世界初だしさ。電気自動車じゃアメリカもテスラがいい線行ってるなぁ。電気自動車は今はどうしても高価になりがちだけど、高級スポーツカー(=高くて当然)の設定で割高感を薄めてるよね。

ブランドというのは、買った人がその製品と一緒に手に入れる「誇り」が付加価値なわけ。日本の工業製品のブランド価値って、今まではその製品やメーカーそのものの信頼性で成り立ってきた。これからもその路線は継続だと思う。けどこれは工業新興国がいずれ追いつけるものだったりする。すごい追い上げを食らってるしさ。で、今の日本が並み居る新興国をぶっちぎってるジャンルが巨大科学なわけで。まだ宣伝資源としてうまく活用されてない隠し球的存在なわけ。いわゆる、先進国としての地力をそれ以外の国々に見せつけられる場ですな。「ザクとは違うのだよザクとは!」と言い放てる何かw

科学の分野の中で巨額な費用が必要なものは、まだ一部の国でしかできてない。そこから攻めるのが良さげだね。素粒子物理学とか観測天文学とか。

宇宙開発の場合はその中でも実利に近い。その中の分野によっては産業化で経済的に自立できるし、軍事方面じゃとっくに実用化されとりますな。そんなわけで、ロケットで衛星打ち上げができる国が少しずつ増えてる。衛星を作れる国はもっと増えてる。てことで、宇宙開発やってますというだけじゃもう大した宣伝効果は出ない。そうなると、どんだけすごいことができるのかが大事になるわけ。

軍事絡みで宇宙で存在感を示してる国もけっこうあるけど、日本の宇宙開発は平和利用路線なんで、外国を怖がらせるより「おお! すげぇ!」と楽しませる、感心させる方向だね。これって日本製の民生品のイメージアップにつなげやすいんじゃないかと。日本製品の対外宣伝材料として、例えば はやぶさ はかなり適してるんじゃないかと。

しかも偶然だけど、いいタイミングで金星探査機 あかつき と宇宙ヨット IKAROS も打ち上げられた。宇宙ものは分かりにくいと思われがちだろうけど(アメリカでは意味不明なことを「ロケットサイエンス」と言うんだそうだ)、機能が細く鋭く最先端化されてしまった地球周回衛星と違って、探査機ってどこに行くのか、何をやるのかが一般人向けとしても明確だよね。一言で理解させられる分かりやすさ、宣伝でかなり使えそうな気がする。

日本の国内も国外も、一般人の間では巨大科学への感度が高いとはまだ言えないだろうから、それを使ったイメージアップをいきなり今始めたとしても、日本製品のお客さんの意識をそっちに向けてもらうには時間がかかると思う。けどとりあえず、今の時点で日本のそこらへんは「すごいなー」と言ってもらえるだけのレベルに達してる。その中でも宇宙開発は比較的分かりやすいジャンルかな、と。

あとは、ソニーが10年かけてアメリカの一般家庭にビデオカメラを定着させたみたいに、じっくりと切れ目なく普及活動をしていくだけでいいかと。出し物は揃ってるんだからさ。

国の出費の無駄を減らすのに事業仕分けが大事なのは分かるけど、国や国民のこれからの利益にどう結びつけるかを考えつつ、もうちょっと選別する目を養ってみてはどうかねぇ。日本に生まれ住んでると世界最先端技術なんて普通にありふれてるから特にありがたみを感じないけど、外国からの視点は違うからね。そこらへんも考えに入れておくれでないかい?

ていうか「財政難だからすぐに役に立たないものは廃止/減額」って説明責任のハードルは下がっても、まさに「貧すれば鈍す、鈍すれば窮す」そのものじゃないかと。つうか即物的すぎて、プロの判断とはとても思えん。

銘板左端銘板銘板右端

はやぶさ は国内外の部品を適材適所に配置されてたんだけど、その部品が外国製か国内製かでトラブル時の明暗を分けた。リアクションホイールはアメリカ製。日本製の値段と信頼性がイマイチだったからの選択で、M-V ロケットでの打ち上げは衝撃が強いんで、それで改造を施したらしい。で、その改造がトラブルの原因と疑われてる。モノがもう存在しないんで確かめようがないんだけど、改造するにしても、基本的にこういう基幹技術の輸入品は、技術漏洩対策でブラックボックス状態なわけ。そこを避けての改造だったと思うけど、ヤバくなってからメーカーと相談して対策を練るにしても、どうしても限界があるわけで。結局リアクションホイール3基のうちトラブルが出た2基は、二度と稼動することはなかった。

一方、イオンエンジンは NEC 製。マイクロ波方式は世界初。単に NEC から買ってきたわけじゃなく、宇宙科学研究所(ISAS)と NEC が20年来共同で開発してきたもの。ISAS も知り尽くしてるわけ。だから土壇場の節目節目で、常識外れの大技・裏技を繰り出して はやぶさ の危機を救った。

バッテリーは古河電池製。世界初の宇宙用リチウムイオン電池。これもピンチで相談を受けた古河の技術者が、はやぶさ の回路配線や現物のデータにまで踏み込んで解決策を編み出した。

日本の深宇宙探査機が世界初の挑戦を大胆にやれるのは、その技術が国内にあるからこそ。そういうすごいメーカーが普通に国内に存在するのって当たり前のような気がしちゃうけど、すごくありがたいことなんだね。メーカーとしても、こういう最先端プロジェクトがあるからこそ技術を磨けるんだよね。

NEC のマイクロ波方式イオンエンジンは開発に20年かかって、ようやく海外輸出の運びとなった。で、先進的なようで実は実績第一で保守的な宇宙技術市場(部品の故障での計画失敗が何より怖いんで)だと、後発で実績も乏しい日本のメーカーは食い込みにくいんだけど、このエンジンに限っては はやぶさ が充分な試験台になった上に派手に宣伝してくれた。前途は明るそうですなぁ。

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2010.6.16 水曜
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海外ではコワモテ

はやぶさ の最後にして恐らく最も有名なトラブルと復活は、例のアレだ。イオンエンジンが止まって、「こんなこともあろうかと」で装備してたダイオード稼動で、死んだはずの2つのエンジンの生きてる部分同士をつないで切り抜けたやつ。運用チームは「クロス運転」と呼んだ。国内のファンは「ニコイチ」と。

で、英語圏の人たちは、また違った独特の味わいの言葉を使ってた。

ま〜 "the spacecraft now resembles Frankenstein"「この宇宙機は今やフランケンシュタインに似ている」とか "'Frankenstein' fix lets asteroid mission cheat death"「フランケンシュタイン修理で小惑星ミッションは死を免れた」とか "with this 'frankensteined' engine"「フランケンシュタイン化したエンジン」とか。

……、

……、

……。

んー、特に3番目は頭文字が小文字で、末尾は動詞の形容詞化だよね。"frankenstein" って、英語じゃきっと「流用品の寄せ集めで何か(特に機械)を作る」の一般動詞として普通に通用してそう。

ていうかさ、英語の動詞って形に特に制限がないからさ、なんでも動詞にできちゃうんだよね。てことで、かのフランケンシュタインもこうしてめでたくかつ節操なく動詞にされとったわけで。ていうかこういう流用ってまさにフランケンシュタイン的だなぁとか思ったり。

イメージはともかく、あれは海外の はやぶさ ウォッチャーたちも度肝を抜かれたんじゃないかなw(とりあえず日本のファンはやられたww)

勝手な妄想だけどさ、もしかしたら無人宇宙機では世界初かもしれない起死回生の「フランケンシュタイン化」、世界の宇宙機設計者たちがシビレまくってたりするんじゃないかな(有人だとアポロ13号で、生き延びるために船内の使えそうなものを何でも流用した例があるね。映画で有名になった、有り合わせで作った二酸化炭素フィルタとか)。

万が一の時のために保険的な措置を仕込んでおくのは当たり前だけど、それを部品のニコイチや流用にまで広げる、その場での改造にまで踏み込んだ考え方、これからの衛星や探査機のトレンドになりそうな気がする。

アメリカ人はこういうの好きそうだよね。ハリウッドのアクション映画でよくこんな感じの伏線と回収を見かけるよ。「それここでそう使うか!」というやつ。『ロボコップ』の拳のアクセス端子とか。『アポカリプト』の狩猟用の罠とか。『バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2』の劇中映画と『パート3』の決闘とか。『モンスター VS エイリアン』と『カールじいさんの空飛ぶ家』でもそういう展開があったような……。

〓ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ⊂<回 ←仕切りジッパー

そういえば火星探査機 のぞみ も、結果はうまく行かなかったけど、ショートした回路を焼き切るっつうハードウェア改造を試みたんだよな。こっちは事前の仕込みなしだったけど、そういう発想をしちゃうのが ISAS 流なのかも。運用中にプログラムを大幅に書き換えて再起動かけるのも大技だけど、日米でそれぞれ経験済みだったりする(ロシアやヨーロッパはやったことあるのかな?)。ISAS を手本に、これからはハードウェアを軌道上でいじる時代になったりして。

銘板
2010.6.17 木曜
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里中満智子先生による画

そだそだ、はやぶさ 帰還前にぴっぴに教えてもらった絵があってさ。里中満智子が はやぶさ に寄せて描いたイラストが出てると。ぴっぴありがとよ。で、勝手にだけどいただいてきた。

里中満智子 画 はやぶさ

だめだもう涙腺が……もうだめだ……。

「がんばったよ」だなんて自分で言わんでもええ。お前がものすごくものすごくがんばってきたこと、みんなみんな知ってるから。……その涙に潤んだ目で、最後に地球を見れてよかったなぁ。本当によくがんばった。はやぶさ、お前のことずっとずっと忘れないからな。

里中先生、とっても素敵なイラストをありがとう。あああもう目汁がだだ漏れ……。

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2010.6.18 金曜
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重なり宇宙機イベント その1

この日付けから1週間前、6月10日から数日、2つの宇宙機で大きな出来事があった。

ひとつはソーラー電力セイル実証機 "IKAROS"。帆の展開に成功した。10日に成功、11日に発表があった。今まで弾道ロケットやほかの衛星打ち上げに相乗りして何度かやってきたソーラーセイルの展開の予備実験は、どれも完全成功にまで届かなかった。てことでぶっつけ本番だったのに、完全に成功したね。

IKAROS の帆

はやぶさ の地球帰還の2日前の発表だったわけだ。はやぶさ の話題にかき消されてしまったかな。それとも、はやぶさ と一緒に世の中を盛り上げられたかな。後者の方だと信じてるけどさ。

イカロス君の Twitter、面白いもんだからちょくちょく見に行ってたけど、このあたりは一緒に喜んでしまったですよ。

イカロス君 Twitter

はやぶさ兄さんに負けず、IKAROS もがんばってるなぁ。てことで IKAROS 計画はここまででミニマムサクセス達成。元は取ったということ。ここから太陽光での宇宙帆走と姿勢制御を確認できたらフルサクセス。計画の「黒字化」に向かって邁進ですよ。まさに順風満帆。イオンエンジンにソーラーセイル。スイングバイ技術も最高峰だ。すごいことになってきたなぁ。宇宙科学研究所(ISAS)の深宇宙航行技術、世界でぶっちぎりの最先端に躍り出たですよ。

して6月15日。はやぶさ 帰還(6月13日)の2日後。IKAROS は分離カメラを放出して、IKAROS 自らの全景写真を撮影

IKAROS 全景1
IKAROS 全景2

キレイに開いとりますなぁ。ちなみに上の画像ではおいらは はやぶさ ラストショットほど隅々にまで芸術的意味を見いだしてないんで、取り込んだそのままを出してるわけじゃないっす。うちの日記の規格に合わせて縮小したり、空白を削ってトリミングしたりしてます。大もとの画像は上のリンク先でどうぞ。

まだ帆がシワシワだけど、長く時間を置くとピンと張ってくるらしい。そのほうが帆走の効率が上がりそうだね。

IKAROS のサイズは、対角線の長さが 20m、1辺だと 14m だそうで。深宇宙探査機だと差し渡しと面積は最大級じゃないかな。宇宙塵が当たって帆が破れることも考えてあって、そのときは穴が開くことはあっても、その穴は帆の張力(回転して遠心力で帆を張ってる)だけじゃそれ以上に広がらない構造なんだそうだ。

計算で推定されてる IKAROS の推力は、非力で有名な はやぶさ のイオンエンジン μ10 のさらに数分の1らしい。それでも燃料代がタダなんだもん、効率は無限大ですよ。実用機じゃ帆を大きくするだけで、そのぶん推力を IKAROS の何倍にでも稼げるしさ。ていうかこの前日まで SF の話だったのがついに現実になったか。2010年になって、ようやく21世紀に生きてる気分になってきたよ。

銘板
2010.6.19 土曜
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重なり宇宙機イベント その2

で、はやぶさ のゴール寸前ってことと IKAROS の帆の展開成功で盛り上がる日本の宇宙探査界隈と同じ時期に、同じく宇宙進出の話題で盛り上がってる国が近くにあった。それは韓国。

昨年8月の羅老ロケットの打ち上げ失敗を受けてのリターンマッチが6月11日に行われた。結果は再びの打ち上げ失敗。まぁ、そう簡単じゃないから。期待してた韓国の人たちはガッカリだったろうけど、衛星初打ち上げはこのくらいの失敗は計算のうちに入れとかないと。ここからまた不具合を洗い出して対策して、と一歩一歩煮詰めていけば、いずれ技術は臨界点を超えて成功に達する。衛星打ち上げのシステムは技術も組織運営も複雑で巨大になってしまうから、やってみないと分からんことだらけってことですな。言えることは、諦めればもう成功の目がないということ。

で、なんだかもうおなじみになりつつあるんじゃないかってのが、技術供与をしたロシア側と韓国側との失敗責任のなすり合い。見苦しいんでこればっかりは控えていただきたいんだが。失敗原因の確定には時間がかかるんだから、そこが分からんうちは誰が悪いかなんて軽々しく言っちゃいかんでしょうが。

とりあえずはっきりしてるのは、ロシアが製造と本番運用を担当してる1段目の稼働中に異常が発生して、高度 70km あたりで機体が爆発してしまった、ということ。ここは認識が共通らしい。で、その原因を巡って両者が対立してる。

韓国側は、その状況からロシアのせい、と主張。ロシア側は、韓国が作った2段目かフェアリングのどちらかが異常に早く分離してしまった、と主張。日本海に墜落した、恐らく海底に沈んでる機体の残骸を回収して調べれば何か分かるかもしんない。これを韓国はやりたがってるけどロシアは難色を示してる。ロシアだって真実を知りたいだろうけど、たぶん韓国主導で回収されるとズルされて、ロシア原因の証拠を捏造されるんじゃないかと疑ってるんじゃないかなぁとか。韓国、少なくともこの件に関しては国全体の今の雰囲気がそれをやってしまいそうな感じだしさ。

ロシアは今、アンガラという新型ロケットを開発中で、それ用に開発中の、まだ実績のないエンジン(RD-161。アンガラ用の RD-191 のデチューン版らしい)を羅老に使っててさ、韓国国内じゃそこを不安視する声が前々からある。けどもうそれで契約しちゃったんだもん、契約満了まではそれで行くしかないでしょう。それがいやなら、ロシアはほかにも1段目用エンジンをいくつも持ってるから(RD-161 とは逆で、設計は古いけど実績が豊富)、違約金を払ってそっちに乗り換えるのも手かも。ていうか羅老はアンガラのエンジンの実機テストベッドの位置づけとして、そのぶん格安だったのかな?

まぁ契約金額が200億円だったらしいから、ロケットの1段目2本分だけの金額だとしたら、けっこうふっかけられてる気もするけど。けどロシアならそのくらいのふっかけをやりかねん。スペースシャトルの退役が本決まりしたが早いか、ソユーズ宇宙船での外国人宇宙飛行士の運賃を一気に5割も値上げしたからなw

有人宇宙船サービスの独占が続く限り、さらなる値上げ攻勢をどんどんかけそうな勢い。で、日米欧がロシアの悪どさに耐えかねて有人宇宙船開発を始めたとして、それが実用化された途端にロシアは値下げ攻勢をかけて潰しにかかるんだろうなぁ。で、独占状態を取り戻したらまた値上げ、と。

かつて日本マクドナルドがやろうとして失敗したアメリカ流マーケティング方法論を完璧にできちゃう。それだけのキラーコンテンツを持ってるわけで。

ていうか「キラーコンテンツと体力勝負でライバルを潰して独占市場を作ったあとは、好きに値上げし放題でボロ儲けし放題」てのが、マーケティング理論が教える商売の勝ち方らしい。その流れを作れた方が「勝ち組」で潰された方が「負け組」と。これって資本主義の権化のアメリカ発の発想らしいんだけどさ、そのやり方の行く末は1業種1業者ってことで、社会主義そのものなんだよね。

資本主義ってばかだよなぁ。あんだけ敵視してきた経済体勢に、このままだと自分からなっちゃうんだもん。現にマイクロソフトがそれを達成してしまったし。

「西側」として20世紀後半の経済発展を謳歌してきたはずの日米欧が最近こぞって元気がないのは、資本主義が順調に進化して社会主義に行き着きつつあるからじゃないのかとか思ったりして。

つか、資本主義の権化のアメリカが開発したマーケティング手法での勝ち方を、かつて資本主義陣営の敵だったロシアが国家事業で実践して成功してるこの皮肉w

銘板
2010.6.20 日曜
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重なり宇宙イベント その2.1

韓国の羅老ロケット、今回も出足でかなりふらついてたね。ニコニコ動画の視聴者コメントでは、「はじめにふらつくのはロシアのロケットの仕様」とか。おいらはこの情報の裏を取ってないんで何とも言えないけど、まぁ2回ともそれが原因でトラブってるわけじゃないから、見栄えは悪いけどとりあえず OK なのかな、と。

けどやっぱし見た感じ気になるなぁ。発射から15秒くらいは姿勢が安定してない。でさ、ほかのロケットはここまであからさまに横滑りしないとは思うけど、よくよく見たら、日本の M-V ロケットって打ち上げ直後にふらついてたわ。このサイズのロケットってそうなりやすいのかねぇ。

M-V 1号機の打ち上げ (YouTube)(ペイロード: 電波天文衛星 はるか)

M-V 5号機の打ち上げ (YouTube)(17分10秒あたり。ペイロード: 小惑星探査機 はやぶさ)

どっちも、斜め打ち上げでランチャーから離れ切った直後に上向き(垂直方向)にわずかに回転して、直後に揺り戻してから安定してる感じ。M-V もふらついてたんだね。ランチャーのレールを滑るとき、片側だけに抵抗がかかるせいかもしんない。しかし M-V 以前の糸川ロケットは姿勢制御機構が貧弱だったはず。同じくランチャーから吊るしての斜め打ち上げだったんだけど、どういう解決方法を採ってたんだろ。尾翼で空力的に処理してたってことだったのかなぁ。

んでも羅老は発射からいったん傾いて次は反対側へ、と10秒以上も蛇行するなんて、やっぱし見た目ちょっとおっかないような。ひっくり返る直前まで行ってしまってるような。きっとフィードバックか予測対応が遅いんだと思うけど、まぁ仕様だから大丈夫ってことなんだろうな。あれ、突風が吹いたらどうなるんだろ。成層圏あたりじゃウインドシアっつう現象があったりもするんだけど。

横風に対する空力安定的には、羅老は頭が小さいから空気抵抗値は少ないはずだけど、フェアリングの中がスカスカで慣性モーメントを稼げないから、結局風の影響が強く出そう。頭の中が空っぽというのは重心が低いことにもなる。底部のエンジンの向きを変えて姿勢制御をすることを考えると、動的な安定性が高い方がいい。となると頭が重い方が制御しやすいわけだ。やっば羅老のふらつきが収まりにくいのは、構造的なものが原因のような気がする。

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M-V 7号機の打ち上げ(ペイロード: 太陽観測衛星 ひので)の映像も見つけた。ふらつきはほとんどなし。そこらは改良されたのかな。

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去年の羅老1号 1回目の打ち上げ失敗(8月25日)の2週間後、日本は国内ロケット史上最大の H-IIB の1号機で、国際宇宙ステーション(ISS)行きの貨物船 HTV 1号機の打ち上げに成功(9月11日)。HTV は軌道上で評価試験をしてから無事 ISS にドッキングして荷物を届けた(9月18日)。ISS からの廃棄物を積んでの大気圏再突入(11月2日)まで、すべて完璧だった。

で、こないだの羅老1号 2回目の打ち上げ失敗(6月11日)。その前月、日本は金星探査機 あかつき とソーラー電力セイル実証機 IKAROS の打ち上げ成功(5月21日)。羅老1号の打ち上げ前日、IKAROS は太陽帆の展開に世界で初めて成功(6月10日)。2日後に はやぶさ が地球に帰還(6月13日)。惑星間空間での2天体間の往復という前人未到のミッションを完遂した。

なんかこう、日本の挑戦成功ラッシュで囲んでしまって、いささか申し訳ないような……。お互いに独立したスケジュールでやってるから、本当に単なる偶然なんだけどね。

銘板
2010.6.21 月曜
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魅力見出し記事 - はやぶさ2

はやぶさ2 のニュースが時事通信から出たよ。見出しがナイスでさこれが。消される前に取っとこう。

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次は生命、海の起源解明へ=予算が懸案・はやぶさ2

小惑星「イトカワ」まで往復7年、60億キロを旅した探査機「はやぶさ」が帰還し、オーストラリアの砂漠に落ちたカプセルが回収された。小惑星の微粒子が入っていれば史上初で、太陽系の進化解明が期待される。宇宙航空研究開発機構の吉川真准教授らは、次は有機物や水を含む鉱物が多い小惑星の岩石を採取する「はやぶさ2」を開発、生命や地球の海の起源に迫ることを目指している。

はやぶさ2では、変質していない小惑星内部の岩石を採取するため、爆薬を詰めた「衝突体」(直径約20センチ、重さ約10キロ)を突入させ、直径2〜7メートルの小クレーターを作る。米国が月や彗星(すいせい)で行ったことがあるが、小惑星では初めて。イトカワで投下に失敗したミニ探査ロボットも再挑戦。故障した姿勢制御装置などは改良する。

目標の小惑星「1999JU3」は、イトカワ同様に地球と火星の間にあり、長さは約920メートルと一回り大きい。2号機を2014年か15年にH2Aロケットで打ち上げれば、18年6月に到着して観測と岩石採取を1年半行い、20年12月の地球帰還を見込める。その次の打ち上げ機会は24〜25年になるため、早急に開発に着手する必要がある。

懸案は予算の確保だ。はやぶさ2の製造費は1号機の127億円を上回る160億円程度だが、今年度予算は3000万円にとどまった。宇宙機構の予算には余裕がないのに、政府の宇宙開発戦略本部の懇談会は、15年に月面に探査ロボットを着陸させる「かぐや」後継機に600億〜700億円掛ける計画を提言しており、楽観できない。(2010/06/21-05:45)時事ドットコム

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「次は生命、海の起源解明へ」。いいねぇワクワクさせてくれるねぇ。時事通信社御中、プロらしいイイ仕事してくれました。

そう。はやぶさ シリーズの使命は現地に赴いての科学探査(と試料採取)。しかも「分かりやすい科学探査」。地球周回軌道上の望遠鏡衛星群の研究テーマはもうかなりな細道に入り込んでて、ものにもよるけど素人には分かりにくいところがある。火星・金星探査も細かいところまで来てしまってる。けど小惑星はまだまだ未知なんで、1号機での「太陽系誕生の謎に挑む」、2号機での「生命と海の起源に迫る」なんつう分かりやすいテーマを掲げられるんだね。

小惑星は全部で12の分類があるんだそうで。はやぶさ1号機は初めての小惑星サンプルリターン計画だったんで、どのタイプを選んでもよかった。てことで2号機は1号機で調べた岩石質の S 型じゃなく、有機物を含む C 型に狙いを定めてる。データを比べることで、小惑星の謎をよりガッチリと解明できるようになるわけだ。12分類中の2つだけだけど、幸いどっちもメジャーな存在らしいし。

2号機は前に松浦晋也氏のブログに出てたのと変わらん内容ですな。基本は初代と同じで、不具合が出た箇所はもちろん改良。ほかに「衝突機」というのも同時に打ち上げて時間差で現地に到着(衝突機の方はイオンエンジンを積まないんで遅れる)。これが小惑星に「衝突体」を撃ってぶつけて、表面に現れた内部物質を、今度は探査機が1号機直伝のサンプラーホーンと弾丸撃ち込みで採取する。余裕ありまくりの H-IIA ロケットだからできる同時打ち上げ。この方法でちゃんとやれることは、金星探査機 あかつき とソーラー電力セイル実証機 IKAROS の同時打ち上げで実証済み。

衝突体は丸ごとぶつかっていく特攻型じゃなく、衝突機上から特殊な砲弾を火薬の炸裂で1発ぶっ放す形。宇宙兵器というと、地球の衛星軌道だと敵衛星破壊用にレーザー砲や散弾銃を積んだキラー衛星なんかが実在するかもだし(SDI で実際に研究開発されてた)、鉄砲好きのアメリカが月まで有人で行ってるんで、そこらまでは拳銃くらいは持って行ってるかもしらん。けど月より遠い深宇宙に恐らく初めて銃火器を持ち込んだ はやぶさ(結局撃たなかったが)は「太陽系大航海時代のさきがけ」を謳いつつ、次回は重装備化で一層の大鑑巨砲主義ですなぁ。太陽系の未来は大丈夫か? (^o^;)

小天体に衝突体をぶつけて観測するアイディアは、アメリカの彗星探査機 ディープ・インパクト がオリジナル。2005年7月にテンペル第一彗星に銅でできた質量 360kg の衝突体をぶつけた(奇しくもわずか2カ月後、はやぶさ が小惑星イトカワに到着)。このときの「砲弾」の放出方法は、調べたらそうねー、ボウリングのボールを投げるのに近いかな。この「砲弾」は火薬で撃ち出すんじゃなく、探査機もろとも高速で対象に向かっていきつつそっと切り離す。探査機本体が減速をかけると、衝突体はそのまま対象へと特攻をかける、と。

おお、そういえば はやぶさ が小惑星イトカワにターゲットマーカーを放ったやり方はまったく同じだった(目的が異なるんで分離体の質量とスピードは全然違うけど)。ディープ・インパクト、はやぶさシリーズの先達ですなぁ(日本の宇宙機の開発速度はアメリカより激しく遅いんで、考案は はやぶさチームの方が早いかも)。

ミネルバも再挑戦か。だよな。2005年11月の「イトカワ沖の戦い」(と呼んでる人がネット上にいらした。はやぶさ の着陸ミッション時の悪戦苦闘ぶりのこと。確かに修羅場だった)ではローバーとしての活躍ができなかったけど、少なくとも太陽電池、カメラ、自律制御、画像処理プログラムと通信機能が、2年半の深宇宙航行の後でも問題なく動作することは確認できたわけで(市販の民生部品を多用した格安のメカだったのに)。たぶん設計・仕様の変更はほとんどナシで次も行くんじゃないかな。噂では今度は2機搭載するとか。

で、もちろん今度もサンプルリターンを狙いますですよ。1号機じゃ小惑星表面に撃ち込む弾丸(「プロジェクタイル」と呼ばれてる)は球形だったそうだけど、どうも質量 3g 以上だと円錐形のほうが1発あたりの試料ゲット量が多いことが判明したらしい。1号機のプロジェクタイルの質量は 5g(パチンコの玉と同じ重さ)だった。2号機は円錐形で同じ 5g ってことなのかな。

気になる予算はというと、菅政権が人気取りのために行けそうな勢いですな(これ書いてるの8月だったりする)。これで行ってくれると、2014年の打ち上げタイミングにギリギリ間に合いそう。来年から開発が本格化するとしたら猶予は実質3年。日本じゃ普通、衛星/探査機の製作に5年必要なんだけど、基本設計は初代 はやぶさ を踏襲するから、そのぶん早められそうだね。問題は衝突機。こっちはまったくの新規設計の、1個の独立した宇宙機。これをいかに手早く作れるか、言い換えればいかに安く単純な構造に設計できるかが勝敗を分けそう。

銘板
2010.6.22 火曜
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オカルトじゃない NASA 陰謀論

6月11日 の後半の続き。NASA の実態的ななにか。フォン・ブラウン抹殺物語的ななにか。

アメリカはアポロ以降、「ソ連との宇宙競争に勝った!」と事あるごとに喧伝しまくって、世界中がなんとなくそんな気分にさせられてる。けど実はどの分野を見るかでその勝敗結果は変わる。アメリカが勝ったのは「衛星軌道上でのランデブーとドッキング」「人類を月に送る」「金星以外の惑星探査」「部分再利用型ロケット/宇宙船の開発・運用」(スペースシャトルのこと。米ソどっちのシャトルも結局淘汰されたけど)のみ。その他の世界初や世界記録、世界一や世界唯一の多くはソビエト/ロシアが勝ってる。

それは、

あたりかな。ほかにもあるかも。

アメリカの業績に比べてマイナーな感じがするとしたら、それは宣伝戦略に引っかかってる証拠w 自分が勝った分野だけことさら価値があるかのように見せかけてるだけなんで。それで全分野で勝ったかのように印象を操作してるだけなんで。確かにアポロは金字塔だよね。今に至るまでの世界の歴代の宇宙計画の中で、最大規模かつ最も複雑なシステムを完全に遂行できた。ソビエトも勝負に乗って同じことをやろうとしたけど挫折した。てことで有人月面探査はアメリカの完全勝利。けどそれが宇宙開発競争の全部ではないわけで。

スペースシャトルもまぁいろいろ問題ありありだけど、アメリカは今も運用してる。ソビエトは無人で1回飛ばしてお蔵入り。続けてるって意味じゃアメリカの勝ちだね。それだけ経験も積めてるはずだし。けど6年遅れで1回だけだけど、自力で作って飛ばして「こりゃだめだ」とさっさと判断を下したソビエトもまた間違いじゃなかった気もする。まあその開発費がかかりすぎて、それがソビエトを滅ぼした原因のひとつとも噂されてるけど。

でもアポロとシャトルだけで全部の勝敗結果をひっくり返せるわけじゃないわけで。てことはソビエト/ロシアは風評被害に遭ってるってことですな。アメリカの宇宙開発が世界のリーダー然としてるのは、もちろん抜群の実力と実績があるからなんだけど、それ以上に政治や宣伝の力が大きいってわけ。てことで印象が事実を表さない典型ですな。この「勝ち組」は本業で勝ったから勝ち組なんじゃなく、世の中にそう思わせることに成功した、ということだったんだね。

しかしまーこうして整理してみると、アメリカが勝った勝ったと豪語してる2大計画のアポロとスペースシャトル、どっちも1代限りで後が続かなかったね。外国もそこらを受け継がなかったし。国際宇宙ステーションもメリケンさん、言い出しっぺと音頭取りのくせに、今や捨てる気満々だしな。

アメリカが開発を続けたり諸外国も参入したりの本筋な分野はほとんど無人系だね。その無人打ち上げシステムも、レーガン政権がスペースシャトルへの一本化を宣言して、いったん潰してしまってる。その直後にシャトルが自滅した(チャレンジャー号爆発事故)から仕方なく復活させたという、迷走そのものな顛末。

ロシアはソビエトの遺産を上手に運用してるよね。技術を1代限りで終わらせない。ていうかいくつか持ってる1代ものの中で、続ける価値があるものだけ選んでそのまま続けてるって感じ。資金難から機材の世代交代が遅れてるけど、トップランナーだからあんまし焦ることもなさそう(けど同じく資金難から人材の流出や枯渇が問題になってるらしい。ロシアという国を代表する技術・産業なんだから、この部分はケチらん方がいいと思うが)。

なんて感じの生来の気まぐれさんな NASA、今になってナチスの香りがするフォン・ブラウン外しの印象操作に必死。草葉の陰のフォン・ブラウンからすると、かつて自分がソ連を倒した同じ手口をこの恩人に対してやるとは、って感じじゃないかと。まさかのブーメランですなぁ。あんだけ世話になっといて、今さらこの仕打ちはないと思うけどどうなんでしょ。

っつうか言っちゃなんだけど、誇大な勝利者イメージをふりまいて民衆を欺くのってさ、ナチスドイツのゲッペルス宣伝大臣の手口と何が違うんだ?

しかも最近は単純な米ソ(米ロ)対決の構図じゃなくなってきたのに、そういう古いやり方をまだ通そうとするのってどうなのかと。例えば小惑星探査。ソビエト/ロシアの実績はまだゼロ。けどこの分野でアメリカが世界一なのは、探査した小惑星の数。科学探査の質じゃ、1個だけだけど最も小惑星らしい小惑星(つまり一番小さいもの)を徹底的に調べ上げた日本の方が上かもしんない。ヨーロッパも探査機 ロゼッタ で追い上げてる。

彗星探査はアメリカとヨーロッパがいい勝負。ディープ・インパクト 計画をやってのけたアメリカにちょっと分があるかも。けどヨーロッパは ハレー艦隊 の旗艦 ジオット を送り出した実績がある。ロゼッタも本来は彗星探査機で、その道すがらの小惑星をついでに調べていく、という計画。

中国は今世紀に入って有人技術を手に入れたね。20世紀中は、世界で3番目の有人宇宙船打ち上げ国としては日欧が長らくそれぞれ「いずれ自分が」と自負してたけど、お互いに及び腰なのを横目で見て「いつでもいいや」とのんびりしてたら、中国がすごい勢いで追い上げてその席をあっさり取ってしまった。インドも無人月探査を成功させた勢いで、近いうちに惑星間空間を狙い始めるかも。自力での衛星打ち上げに挑戦中の国は、北朝鮮、韓国、ブラジル、オーストラリアがある。台湾とマレーシアも研究を始めたらしい。多極化ですなぁ。もうシングルマッチの時代じゃなくなったと。

考えると NASA って、設立の目的がソ連との宇宙競争に勝つことだったんだよね。冷戦の産物なわけで。てことでアポロ計画で打倒ソビエトの目的を達成したけど、足りない部分は印象操作を駆使して勝利者イメージの植え付けに成功した。そこも合わせて、アポロ計画の成功で組織としての存在目的そのものを果たしてしまったわけ。そこが、万歳を唱和しながら円満に解散しつつ、これからに合った新組織を作り直すべきタイミングだったわけ。

けどいったん出来上がってしまった巨大組織は解体が難しい。しかも溜め込んだ膨大な宇宙関連技術はこれから実利用しまくれそう。世界に対するアメリカの優勢をこの分野で約束してくれそう。そういう将来性を買われて、NASA はこれからも宇宙開発の旗手として存在することになった。では次に何をするのか。これが問題。

っつうか言ってることとやってることが違うという裏表がある状態に陥ってしまったら、いつか帳尻を合わせないとまずいことになるわけで、それまでは死ねないってのもあるかも。その矛盾を解決する気があるのかどうかは別だけど。映画『約三十の嘘』状態ですな。いつか破綻しそうな気がしてきた。まぁスペースシャトルの2回の事故で2回破綻してるけど。その見方じゃ今は比較的綺麗な方なのかも。

いやいや、シャトル事故は半端ない数の人死にが出た最悪のケースだけど、ほかにも新型シャトルの開発に2,3回失敗してオジャンにしてるな。それを受けて使い捨てロケットとカプセル型宇宙船に回帰して鳴り物入りで同時に開発を始めたけど、すでに専用ロケット側がポシャった。打ち上げ手段がないまま、アポロに似た宇宙船のほうは開発は進んではいるが、どうなるんだか。つかそれで火星に行くとか言ってるんだけど、月までがせいぜいな代物でして。また印象操作でごまかして開発を進めるつもりなのがモロバレだったりして。

結局この新型宇宙船も印象操作のウソで塗り固めてそうなんで、開発途中でポシャるとかえってホッとする人たちってけっこういそうだなぁ。

もう NASA、有人技術では今持ってる水準以上は何も自力開発できないところまで落ちぶれてるってば。事実上破綻してるというか。今のスペースシャトルが来年中に引退したら、NASA は仕事を8割がた失うんじゃないだろうか。

フォン・ブラウン外しの話に戻そう。彼が NASA を辞めたのは1972年。死去は1977年。彼の辞職の前後に宇宙ステーション計画・スカイラブとスペースシャトル計画が発動。スカイラブは成功したけど、彼が生きてるうちにはスペースシャトルは実現しなかった。そしてスペースシャトルの初飛行が遅れに遅れるうち、スカイラブは待ちきれなくて大気圏に再突入してしまった。んー、こんなときのために、使い捨て型宇宙船とスカイラブ用の推進剤補給ユニットをスペアで用意しとこうとは思わんかったのかな。それともそのぶんの資金も全部、シャトルの開発に回してしまったのかな。

もともとスペースシャトルは宇宙ステーションとセットで考えられてたんで、シャトル計画にとってスカイラブの喪失は痛手だった。しかもシャトルは事前に宣伝されてたような「安くて便利で宇宙が一気に身近になる」なんて乗り物じゃなかった。1981年のスペースシャトル運用開始から4年ほどで、さっきも書いたけど、当時のレーガン大統領は NASA のスペースシャトルについての印象操作を真に受けて、ひとつ決断した。アメリカの無人の使い捨てロケットを全廃、アメリカでの衛星打ち上げはすべてシャトルを使うと。

その無茶なしわ寄せがけっこうすぐに限界を超えて、1986年にチャレンジャー号事故が発生。アメリカの宇宙活動はそれから2年半の間、完全に止まった。慌てて無人の使い捨て型ロケットを復活させようにも、各社とも大統領の決断を受けて生産ラインを廃止した後だった。無人ロケットの運用が続いてれば、衛星打ち上げ業務だけは途切れなく引き継げたはずだったのに、そっちの客もみんな逃げていってしまった。

こうなる前から、ヨーロッパは NASA の無茶を冷静に読んでた。五代富文氏の著書によると、アリアンスペース社は「衛星打ち上げにスペースシャトルを使うなんて、水たまりを飛び越すのにミラージュ戦闘機に乗るようなもの」と一笑に付してたらしい。

てことで世界中がスペースシャトルのメッキの輝きに目がくらんでる間、アリアンスペースはこれ幸いとばかりに自前の無人使い捨てロケットをどんどん磨き上げて、通信やら放送やらの商用衛星打ち上げの顧客の信頼を築き上げてきた。そのタイミングでチャレンジャー号事故。国際市場の客はみんなヨーロッパのアリアンロケットに流れた。その対処でますます信用を上げたんで、今じゃヨーロッパは商用衛星打ち上げ国際市場でのシェアがダントツ1位。注文帳にはバックオーダーがずらっと並んで、最近は商用衛星の長寿命化で打ち上げ需要が減ってきてるはずなのに、押さないで押さないでの大人気状態だそうな。

一方 NASA がライバルとしてきた、倒したはずのソビエトはどうだったか。1980年代後半は社会主義経済の破綻から国家体制崩壊寸前の状態でそれどころじゃなかったけど、国が替わってロシアになった現代でも、ソ連時代に完成させた技術は輝きを失わず、それでやっていけてる。黒字を出せそうにない超巨大ロケットのエネルギヤとソビエト版スペースシャトルのブランはポシャったけどさ。

けどエネルギヤ=ブランって、一定の成果を遺したかも。アメリカのスペースシャトルをオンリーワンの地位から引きずり下ろしたという意味で。アメリカじゃなくても作れるんだぞってことを実証してしまった。NASA としてはそれまでは、「こんなすごいことができるのは勝ち組の NASA だけ。ソビエトは負け組だからもう我々に追いつけやしない」というオンリーワン性を宣伝してきたんだけど、それができなくなった。

エネルギヤ=ブランのデビュー飛行がまた当てつけがましくチャレンジャー事故後のアメリカ宇宙開発の停滞期間でさ。事故からしばらくは NASA も、「それでもシャトルは他にないから」と余裕かましてた面があったんじゃないかと思う。ところがエネルギヤ=ブランの登場でそんなこと言ってらんなくなってしまった。NASA は自らのぬるま湯どっぷり状態を少しは思い知ったかと。

まぁブランは外見があまりにもスペースシャトルにそっくりだったもんで「シャトルスキー」なんて呼ばれて笑われてはいたけどねw んで本家アメリカは表向きでは指差して笑いつつも(必死にディスってたんですな)、技術の不正流出を疑っていろいろ調査したらしい。落合信彦の本に書いてあった受け売りだけど、その結果は、ブランに使われたシャトル由来のデータは、公表されてるもののみだったようで。あとは自力開発したわけですな。盗む価値のある技術を持つ国は他になかったし。

ちょっと時代をさかのぼって、有人月探査競争に敗れた直後のソビエト。当時のソビエト宇宙庁は NASA と違って、敵に対抗することだけが主目的ではなかった。宇宙開発とは何かを、宇宙開発機関として自分たちが成すべきが何なのかを、自分たちの頭で考えることができた。

そんなソビエトが有人月探査を早々に諦めた余力で始めたのは、宇宙ステーション開発。アメリカのスカイラブと同世代の単発型ステーションのサリュートから、建設・増築型のミールへと駒を進めた。んでミール運用中にソビエトが経済崩壊。国がロシア共和国になってもミール計画は続行。そしてついに客の獲得に成功。その客とはアメリカのスペースシャトル。これがミールを訪れるようになった。スペースシャトルの事情としても、宇宙ステーションを往復する輸送手段として開発されたわけで、打倒すべき敵のステーションを相手にようやく本懐を遂げた形。

ミールは大成功して、設計寿命を超えて長く使われてた。けど老朽化はのっぴきならないところまで来しまって、かねてよりのミール2計画が現実味を帯びてきた。ところが悩みは資金不足。

そこに、国際宇宙ステーションで同じく開発資金不足に悩まされてたアメリカから「一緒にやらないか」と声がかかった。二つ返事で話に乗ってからの交渉で、ロシアはアメリカを容赦なく揺さぶった。「軌道傾斜角はロシアの都合に合わせろ」「ロシア人飛行士を常駐させろ」から始まり、挙げ句には「モジュール製造の資金を出せ」と。アメリカが「そこまではちょっと……」と臆すると、「ではこちらはミールの延命工事かミール2の独自建設を検討するとしよう。国際共同のステーションの話はなかったことに」。アメリカは言われるがまま。世界で唯一の技術・経験・データを自分で持ってるってのは強いですな。その強みでハッタリをかけまくって、国際宇宙ステーションはロシア色が強くなった。

アメリカはソビエト/ロシアとの宇宙競争に勝利したのではなかったか。その「強いはずのアメリカ」は、このときロシアにいいようにされるしかなかった。NASA の勝ち組イメージのほとんどが、誇大宣伝で膨らましたハリボテだったのがここでも分かる。

ていうか結局世界が選んだ有人宇宙開発の方向性は、アメリカが制した月探査じゃなくソビエト/ロシアが始めたステーションになったわけで。そしてシャトルの引退決定で、肝心の人の往復手段はロシアのソユーズ宇宙船の独占になることが決まった。しかしもしロシアが参加しなかったとしたら、国際宇宙ステーションはシャトル頼みになってた。シャトルは事故を起こすと運用が2年は止まる。日欧は有人宇宙船の技術を持ってない。ステーションの運営なんてできたもんじゃなかったと思うよ。

つまり NASA はフォン・ブラウンが去った後、見事に迷走し続けてるってわけ。ライバルが自国の事情に合わせた選択と集中を見事にこなしてるもんだから、NASA の迷走ぶりがますます目立っちゃう。スペースシャトルでもお得意の印象操作をやったけど、結局ブーメランは自分に戻ってきてぶつかったわけで。「米ソ宇宙競争の覇者」というメッキはもう、おいら程度のマニアの目にも剥がれ始めてきてるのが分かるんだが、一般社会にその認識が浸透した頃には、NASA の信用も組織内部も取り返しのつかないところまで崩壊してるってことになる。大丈夫なんですかね。そんな恐るべき未来が現実になり得るってこと、破滅の序章はもう始まってるってこと、当事者たちは分かってるんですかね。

要は、その組織独自の特色を打ち出せないといかんってことかな。冷戦が生んだ NASA はとにもかくにも、「『宇宙競争でソビエトに勝った』という印象を世界に植え付けた」ことで目的を果たした。ここで解散する道もあったろうけど、その先にも宇宙開発は必要なのに民間産業がまだ自立してないってことで、NASA は生き延びた。この時点でまだ冷戦そのものも終わってなかったし。けどまぁ漫画家と同じで、1作目が大ヒットしてしまうと2作目をどうするかで苦しむわけで。

「マーキュリー(1人乗り)→ ジェミニ(2人乗り)→ アポロ(3人乗り)」の使い捨て型宇宙船に続く「2作目」のスペースシャトル計画(7人乗り+大量の貨物)は、30年の長きにわたる活動の後、今年か来年に引退予定。それなりの成果を挙げはしたけど、当初目的の重要部分(「宇宙へのアクセスが安く簡単で手軽になります」→「アメリカとアメリカに付いてくる国は宇宙の覇権を握れますよ」)は達せず。「3作目」の国際宇宙ステーションはこれから本格的に活動する予定だけど、シャトルが引退ってことでアメリカの存在感は薄くなりますな。セットだったはずのシャトルとステーション、どうもタイミングの折り合いが悪いねぇ。

てことで NASA が演出する「宇宙でも強いアメリカ」像は信用を失ってしまった。「4作目」としてブッシュ政権時代にぶち上げた月・火星有人探査構想は、最初から無茶だったことがバレバレ。オバマ政権になって白紙撤回された。

こういう力技は昔のソビエトみたいな強力な競争相手がいないと納税者から支持されないのに、そのあたりをまだ分かってないような気がする。てことでそれ用のロケットは開発途中でキャンセル。アメリカは自力で宇宙に行く手段のかなりの部分を失うことになる。

とはいえチャレンジャー号事故の後に復活させた無人使い捨てロケットはちゃんと育ててるんで、他国ができるレベル以上の無人宇宙活動には支障がない。それどころか、かなり競争力が高そうな民間開発の新型ロケット Falcon 9 が出てきた。同じ会社の有人宇宙船 Dragon も順調に開発中らしい。そこらは底力ですな。ここらへん、NASA が全部一手に引き受ける旧来の形からの脱却なわけで、NASA はある程度は自分の現状を分かり始めてるのかも。

ていうか我らが日本はどうなのかと。宇宙科学研究の方は独自色を打ち出し続けて世界が一目置いてるけど、宇宙の実利用、つまり旧 NASDA の分野はどうも、そこらへんがアメリカ以上に迷走体質というか。ていうのも、NASDA は設立して間もない頃にアメリカからの介入を受けて、アメリカを先生として育ったわけだ。てことでアメリカが出すそのときそのときの方針にいちいちついて行きたがる癖があるみたいで。ほとんどスペースシャトルしか使わない有人宇宙活動に、ネコの目みたいにコロコロ変わる国際宇宙ステーション計画への積極参加。

挙げ句にブッシュ政権での有人月探査に参加表明。その理屈がまたすごい。「国際協力の有人月探査隊が月面に降りた時、その中に日本人が一人も入っていないということを、国民が許すだろうか」(又聞きの形になるけど、ソースはコチラ)って極地観光旅行以外の何物でもない志と見解の低さ。

例えば『国の税金から高い料金を払って、アメリカの船と雪上車に乗せてもらっておれらの国の人が南極点に着いたよヤッター』とか言って、どこの国の国民が喜ぶのかと。まぁ運賃とチップをたんまりはずめばアメリカは喜ぶだろうけど。して、オバマ政権になって有人月探査計画は根本からキャンセルされたのに、まだ日本だけは実行しようとしてる。気まぐれさんにお追従するのが好きなくせに小回りが利かないってのはどうかと。

そんでもまだアメリカの国内にはアポロ的なことをやりたい勢力はけっこういるらしく、その意見を酌んだのか、オバマ政権は「小惑星の有人探査」を掲げだした。まぁ目標が地球近傍小惑星なら、火星の有人探査よりハードルがなんぼか下がるはず。

……、

……、

……。

はやぶさ のプロジェクトマネージャー・川口淳一郎先生が言ってることだけど、小惑星有人探査とかいうアメリカの新方針って、ぶっちゃけ はやぶさ が火を点けたんじゃないのかと。てことでさ、宇宙開発のリーダーのイメージを振りまいてきた NASA が、宇宙関連予算10分の1の国の便乗企画でいいのかと。後追いで本当にいいのかと。世界中の優れた新作映画をリメイクしまくってる昨今のハリウッドと同じニオイがするなぁ。

ていうか NASA が一番輝いてたフォン・ブラウン時代も、ソ連の後追いだったとも言えなくもないわけで。つかフォン・ブラウンとその部下たちだってドイツから連れてきたわけだし。アメリカの威信って意外と中身スカスカじゃないのかと。

ともかく外国人を雇っての追いつけ追い越せはうまくいったけど、その勢いで独自路線(スペースシャトル)に走ったらあんましうまくいかなかったと。うまくいかない部分は印象操作でどうにか体面を保ってきたけど、あんましやりすぎたから信用が落ちてきた、と。けどそれをやめられないもんだから、同じ手段でフォン・ブラウンを自らの歴史から消すミッションに挑戦中と。

となるとですね、NASA は今、小惑星探査にご執心なわけです。NASA は印象操作で国際世論を自分の都合のいいように持っていく、政治に長けた組織なわけです。てことは、世界中の人々の記憶にいったん焼き付いてしまった はやぶさ にまつわるあれこれも、NASA に目を付けられた以上、強制的に風化させられる運命にあるのかも。初めて月に無人探査機を送ったのはソビエト。けどその勝負、遅れて参戦したアメリカが有人探査をしたからアメリカが勝者ってことになってる。印象では。

そうなると小惑星探査だって同じことを狙ってるんじゃないのかと考えてしまうわけで。地球←→小惑星(というか地球系外の天体)の往復飛行を史上初めて成したのは日本の はやぶさ。けど有人なら往復が前提なわけで、アメリカの小惑星有人探査が成就した暁には、はやぶさ の功績を印象操作で抹殺する気マンマンってことなんじゃないのかと。つうかあの国はそれが目的で小惑星探査をやる気なんじゃないのかと。

アメリカは自由な発想でとんでもなく面白いことを思いついて実行してしまう魅惑の国だったはずなのに。かつての日本人はアメリカのそういうところに憧れたはずだったのに。独創性の欠如を言い訳で塗り固めてごまかし切るなんて、NASA はどうもそのあたりがあんましアメリカ的じゃない気がする。こうなると、「アメリカは自由だから面白い発想をして実行までできる国」というのも、巧みな印象操作で世界に植え付けられた幻のような気もしてくる。世界的な強国になるのに最重要なのは、実力よりも魅力的な見栄えを強調する、強力でしつこい宣伝ってことですか。なんか秋元康のアイドル戦略と酷似してる気がしてしょうがない。

っつうか2005年12月〜2006年1月、はやぶさ が通信途絶してて、しかも小惑星のサンプル採取に失敗したかもしんないっつう はやぶさ 関係者が心を痛めてるまさにその時期にさ、彼らの神経をわざわざ逆撫でするような発表をしてるんだよね。それはオシリス計画。無人小惑星探査機でのサンプルリターン。まんまパクリ。しかも はやぶさ がサンプル回収できなかった上に帰還も無理と踏んでか、「世界初の小惑星サンプルリターン計画」と銘打ったりもして。恥知らずもいいとこ(とりあえずのソース)。80年代の『男たちの挽歌』シリーズでジョン・ウー監督が独自の演出として確立したガンファイトスタイルが、90年代にハリウッドで大流行したのと似てるかも。

そのときの はやぶさ チームの怒りと焦りは、はやぶさ 公式サイトに今も出てる。こちらの最後の方。「●もう追われる立場に:まるで逆なで...です。」から。

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●もう追われる立場に:まるで逆なで...です。
 
NASA ANNOUNCES DISCOVERY PROGRAM SELECTIONS;
(NASA Press RELEASE: 06-342, Oct. 30, ‘06);
 
-- The Origins Spectral Interpretation, Resource Identification and Security
(OSIRIS) mission would survey an asteroid and provide the
first return of asteroid surface material samples to Earth.
 
概要
探査対象:1999RQ36
打上げ:2011年秋 (はやぶさ-2 と同じ時期)
小惑星到着:2013年2月〜12月(滞在約300日)。地球帰還:2017年
観測機器:2次元スキャンLIDAR, 可視〜赤外カメラ他
試料採取:ロボットアームと微小重力を利用して150g
$1.2 million to concept studies. Mission for less than $425 million.
これでも NASA 最小クラス。はやぶさ-2 の4倍の予算の投入。)
 
 
●はやぶさの成果もまた盗られてしまうのでしょうか。
 
先手をとられたとは、打たれてはじめてわかるもの。すぐれた企画とは、
先手をうつこと。
 
はやぶさ-2 ができないと、せっかく日本が先手を打っていながら、
先行される可能性。残念ながら、内示される来概算で通る可能性は
高くないと言われている。なんとか、声をあげたいところ。応援もほしいです。
 
 
●アメリカの最近の動き
OSIRISミッションの検討開始(Phase A)
2011年打ち上げで、C型の小惑星1999RQ36へのサンプルリターンを
行う構想です。
2013年に小惑星到着で、地球帰還は2017年の予定です。
「はやぶさ2」とほぼ同じことを目指すミッションです。
「はやぶさ2」が2007年に開始できないと、OSIRIS が最終選抜された
時点では、追いつけません。
 
有人小惑星探査についての言及
地球軌道に接近するタイプの小惑星に人類を送る構想が発表されました。
人間が小惑星まで行くことは、無人探査機より多くの科学探査が行える
だけでなく、有人で火星やそれ以遠に行くための準備ともなるものです。
 
 
●アメリカとの関係
 
日本がNASAのOSIRISに参加することは、日本が持つ有利性や独自性を
放棄することを意味しており、日本にとって益がないばかりか、惑星探査に
おいて大きな損失につながるものです。
 
逆に、日本が「はやぶさ2」を実施し、そこにNASAを参加させれば、日本の
先進性を維持しながら、惑星探査分野における国益を維持することがで
きます。
 
アメリカが有人小惑星探査を提案してくると、サンプル採取については、
無人探査機の比ではなくなりますが、事前の詳細な調査なしに有人探査が
行えるとは思えないところです。人類が到達できそうな小惑星を日本が先行
して探査をしておくことは、将来に有人小惑星探査が行われる場合におい
ても、日本の優位性を確保しておくことにつながります。
 
 
●その他
 
科学教育としての意義
 
「はやぶさ」では、一般社会でも大きな関心を持たれ、教育やパブリック・ アウトリーチなど様々な場でミッションやその成果の紹介が行われました。
 
「はやぶさ2」で、これをさらに組織的に進めてることで、子供たちの科学
への関心を高めたり、国民の科学的レベルを上げることにより積極的
貢献できます。
 
「はやぶさ2」によって得られた成果を世界に発信することで、日本という
国の文化や教育レベルを世界に示すことができ、世界の科学教育でも
指導的な立場に立つことができるようになるわけです。
 
応援してください、「はやぶさ2」。「はやぶさ」の成果があぶない。
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はやぶさ の中の人、相当イライラしとりますなぁ。

銘板
2010.6.23 水曜
前日に飛ぶ
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オカルトじゃない米国天然陰謀論

ていうかアメリカ人ってさ、発明品を何かと自国や自国民の栄冠にしたがるんだよね。悪気がなさそうではあるけど、例えば航空機じゃドイツとかフランスとかが割を食ってたりする。

てことで問題1。

Q: 伝説ではなく公式認定で航空機で初めて飛行したのは誰?

A: ピラトール・ド・ロジェとフランソワ・ダルランド侯爵(どちらもフランス人。1783年に飛行)

ライト兄弟の初飛行(1903年)より120年も早いですな。フランスのモンゴルフィエ兄弟が製作した熱気球で、パリ上空の飛行に成功。同じくフランスのその噂を聞きつけた科学者のシャルルが気球を自作して飛んだのが、そのわずか10日後。Wikipedia 記事『ジャック・シャルル』だと、シャルルは気球での成功を聞いて、敢えて別な方式の水素気球を選んだ的な書き方だね。

おいらが昔読んだ本によると、シャルルが得た情報では、モンゴルフィエの気球の中身が熱した空気だったことまでは分からなかった。彼はそこを科学的な推測で埋めた。てことでたまたま熱気球じゃなく水素気球を思いついて作成した、となってた。どっちが正しいのかはまぁ、200年以上前のことだから確認は難しいかも。はっきりしてるのは、ライト兄弟よりはるか昔に、熱気球と水素気球で人は空を飛んでたということ。どちらもフランスで発明されたということ。

ピラトール・ド・ロジェとフランソワ・ダルランド侯爵はまぁ航空機の素人で、ただ世界初の航空機に乗って飛んだってだけだから名前を知らんでもええ感じだけど、2種類の気球、つまり人類が空を飛ぶ手段を初めて作った2組の発明者が完全に忘れられてるっての、どうなんだこれ。

件の本によると、当時は高い空の空気には毒気があると信じられてたらしい。てことでモンゴルフィエは人を乗せる前に、羊やニワトリを乗せて飛ばして安全確認したらしい。そして安全だと分かった時点で、世界で初めて空を飛ぶのは誰がふさわしいのかってことになって、社会的身分の高いお二人がその任に当たった、ということらしい。

Wikipedia『モンゴルフィエ兄弟』だと、「当初は死刑囚を乗せる予定だったが、ピラトール・ド・ロジェとフランソワ・ダルランド侯爵の二人が『歴史に残る栄誉を囚人に与えるわけにいかない』と自ら志願した」のだそうな。なるほどなーそっちのほうが正しいかも。

問題2。

Q: 気球や飛行船のような軽航空機ではなく、翼が揚力を作る重航空機で初めて飛行したのは誰?(公式認定で)

A: オットー・リリエンタール(ドイツ人。1891年に初飛行)

グライダーですな。機体の製作は弟のグスタフと共同だったんで、「リリエンタール兄弟」という方が比較的よく知られてるかも。まぁより飛行機に近くなったんで、航空機マニアの間じゃ知らない人はあんましいないと思うけど、世の中一般ではそこまで知られてるかどうか。ライト兄弟はリリエンタールが公表したデータを元に飛行機を設計したしね(リリエンタールの間違いを発見したところから展望が開けたらしい)。

てことでライト兄弟が制したのは、「動力付き重航空機」という、いくつかある航空機のジャンルのひとつ。後にいちばん実用されるようになったジャンルだから、今の視点で最も注目されるのは当然としても、その先人たちに比べて待遇があまりにも違いすぎる気がして。

あと、ライト兄弟にはライバルが何人もいた。これもあまり知られてない気がする。ヨーロッパやブラジル、アメリカ国内に、同じように動力付き重航空機で自由に空を飛ぼうという人たちがいて、しのぎを削ってた。ライト兄弟はその競争の勝者なんだわ。

なんかこうライト兄弟の一般的なイメージって、「当時みんなが無理だと思っていた、人が空を飛ぶという夢を叶えた偉大な人物」なんて感じで受け取られてるような気がして。ま、違うわけです。気球やグライダーで飛んでた人たちはとっくにいたし、ライト兄弟が飛んだ時期は技術も理論もかなり充実してきてて、このジャンルが制覇されるのはもう時間の問題になってた。その中で航空理論を最も深く正しく理解して実践したのがライト兄弟だったわけで。

ほかの発明でもアメリカ人の暴走ぶりが発揮されてるね。

問題3。

Q: 映画の発明者は誰?

A: リュミエール兄弟(フランス人)

動画の発明者はエジソンだけど(箱の中を覗く形だった)、今のスクリーン投影による劇場公開形式(つまり「映画」)とその機材を開発したのはリュミエール兄弟。それが、なんでか劇場上映の映画をエジソンが発明したことになっちゃってるような。あと、電球もエジソンと同時期にいろんな人たちが作って、実際に光らせてたらしい。「商用化に耐える電球を開発した」のがエジソンの功績ってことで。

問題4。

Q: 今の電力網の形を作った人は誰?

A: トーマス・エジソン(アメリカ人)……の電力会社にいたことがあるニコラ・テスラ(ハンガリー人)。

エジソンが直流電流での電力網を作ってたとき、その会社員のテスラは交流の方が送電ロスが少ないことを理由に交流への鞍替えを強く勧めたけど、実は専門知識があんましないというか科学的な思考が得意でないエジソンは、交流電流の理論を理解できなかった(虚数とか三角関数とか出てくるからな)。直流と交流、どっちがいいのか自分じゃ判断できなくて、結局、面白くなくてテスラをクビにした。

テスラは独立して交流の電力網を作り始めた。電力需要が増える一方のアメリカ政府は国としての統一規格が必要になって、結局はテスラ方式の優秀さが認められて採用。それが世界基準になった。

まぁ最近は僻地の巨大発電設備から街に長距離送電という図式が崩れて、風力や太陽電池みたいな、電力消費地近くの小規模多数電源をスマートグリッドで結ぶ方式が出てきてるわけで、これだと直流の方がロスが少ないんだよね。てことで、晴れてエジソンが電力網の発明者になる日が来るかもしんないんだけどさ。っつうかスマートグリッドはもはや全体の構成としてエジソン形式ではない気もする。

しかしまぁテスラはハンガリー人だったけどアメリカで名を成した人物なんで、航空機や映画なんかでのヨーロッパの本来の発明者たちよりは待遇がいい感じだね。アメリカ国外じゃそんなに知られてない感じだけど、アメリカじゃ テスラコイル 作りを趣味にしてる人たちがいるしさ(映画『コーヒー&シガレッツ』でそういう人たちを取り上げてる)。

アメリカの人たちも悪気があってそうしてるわけじゃないんだろうけどさ、世界全体がアメリカやアメリカ人の声のでかさに注目してしまう癖がついてるってのもあると思うけどさ、けど唯一の超大国なら唯一の超大国らしく、あんましセコく何でも自分のものにしなくたっていいと思うんだけどねぇ。「人のものはおれのもの。おれのものはおれのもの」なジャイアン的ブラックホールってどうなんだろ。品位とかさ、たまにちょっと考えていただきたいんですが。

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なんかライト兄弟をおとしめるような物言いしちまったけど、彼らはやっぱ非凡なところがあったんだよね。

なんたって本業が自転車屋だったってとこ。飛行機の研究開発は趣味。これ、とりあえず自営業なのにカネとヒマがあったってこと。さらに、当時入手が困難だったはずの飛行理論やデータを手に入れて(そういう文献の数自体があまりなかったろうし)、自作の実験装置で検証して自分たちの飛行機の設計に応用するっての、それを一介の自転車屋がやったっての、ちょっと考えにくいぞ。理論と力学まで学んでたはずだし。カネとヒマがあるだけの怠け者じゃ到底無理。

発明の才能ももともとあったらしい。本業の自転車屋ではチューブ付きタイヤの開発をしたそうな。タイヤチューブの概念はオリジナルじゃないかもしんないけど、それまで自転車用のタイヤってゴムが中身まで詰まったムク材だったらしいのよ。重たかったわけ。

乗り物の回転部分は、その部分の移動と回転の両方で慣性が働きますな。タイヤは車輪の外周部だから慣性モーメントが大きい。てことでここを軽量化すると、車重の軽量化と慣性モーメント軽減のダブル効果で、運動性が一気に上がる。ライト兄弟が住んでた町の自転車競争で優勝した宣伝効果もあって、チューブ付き自転車タイヤは飛ぶように売れたそうな。それでカネとヒマが手に入ったのかもな。

当時最新の動力機関だったガソリンエンジンを、自分の飛行機用に自分で改良までしたらしいし。エンジンをいじるってのは、それだけでも高度な専門知識と技術が必要なわけで、そこも自力でクリアしちゃったんだもんなぁ。

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ライト兄弟の同時代のライバルに、日本人もいた。二宮忠八という人で、無人の縮小模型の飛行までは成功してた。最大の敗因は、資金を陸軍に求めたってところかな。相手にされなかったそうな。

そのときの陸軍を「ものを見る目がなかった」と責めるのは簡単だけど、それはその後の顛末を知ってるから言える結果論。当時は飛行機が軍用として使い物になるとは信じられてなかった。これは世界中大体どこも同じだったかと思う。そんな海の物とも山の物ともつかんというか、モノになるかどうかさえ怪しいものより、陸軍としては大砲の開発なり馬の調達なりをした方がいいわけで。

あと、軍にはそういう有象無象の発明品の売り込みがいつも引きも切らなかったんじゃないかと。中には明らかに無理なものや詐欺の可能性があるものもあったろうってことで、いちいち丁寧に吟味してられなかったんじゃないかと。だったとすると、軍の不明を責めるわけにはいかんだろうなぁ。

学者の間でも、模型飛行機はできても、人を乗せるくらい大きい飛行機は成立しないと踏んでた人たちもけっこういたらしいし。動力飛行の実例である鳥類の体の大きさを見ると、グンカンチョウやアホウドリあたりが限界。ダチョウあたりまで大きくなるともはや空を飛べない。というあたりを知れば、人を乗せて飛ぶ機械なんてどう考えてもダチョウより大きくなるわけで、「無理だろ」という気にもなりますなぁ。

てなわけで動力飛行機の実現というのは当時は人類の夢だったんだろうけど、だったらそれにカネを出せるかとなると別問題なわけで。自転車屋の経営で資金を自力調達したライト兄弟、その点でも強かったってことですなぁ。

銘板
2010.6.24 木曜
前日に飛ぶ
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偉人、ついにキレる

韓国の羅老ロケット、2回目打ち上げも失敗したわけだけど、1回目では同情的だったロケットの権威も、2回目は手厳しいコメントを出しましたなぁ。

ここで言う「ロケットの権威」は五代富文氏。旧宇宙開発事業団(NASDA)の H-II と H-IIA の2つのロケットの開発責任者。NASDA ロケットはアメリカからの技術導入がベースとはいえ、最終的にはどこの外国にも頼らずに、世界に伍する大型ロケットを自力で開発したんですな。その動機は、親分のはずだったアメリカの手出し口出しに辟易したから。外国の力から独立して日本の都合だけで宇宙に行ける手段。これを手に入れるべく努力し、組織をまとめて鍛え上げ、実際に2つの大型ロケットを世に出した御仁(H-IIA の開発中に定年退官)。

80年代後半あたり、このお方のロケットに関する著書は、その後のおいらの考え方を決めた。それは当時の宇宙開発事業団内に五代氏が掲げたスローガン。そして組織内に蔓延してたアメリカへの盲従指向を断ち切る呪文。

「自分の頭で考えよう」

おいらについてはいまだにうまくできてるとは思えんけど、そうなれるようにしてきてるつもり。例えそれが世の中一般の常識に比べて稚拙だろうが、自分で物を考えて結論を出す、この大事さを教えてもらった。

このスローガンはもちろん NASDA 内部用に作られたもので、自前の大型ロケットの開発には絶対に必要な要素だったそうな。H-II ロケットの開発で一番難航した部分は、企画段階での予想通り第1段目エンジンだった。アメリカのスペースシャトルのエンジンと同じサイクルだったんで、NASA の公開資料を徹底的に学んで参考にした。それでも予想外のトラブルに何度も出くわして、初打ち上げは予定から2年遅れた。

けどそれは、難問にぶち当たったときも安易にアメリカのエンジンメーカーに投げ出して任せることをしないで、「日本自前のロケットを作る」という初志を貫徹した結果だった。自分の頭で考えなきゃ目の前のトラブルは絶対に消えないからね。

で、H-II の自力開発と自力運用でごっそり手に入った貴重なノウハウとデータを、コストダウンと信頼性向上に的を絞ってぶち込んだのが H-IIA。割高だった H-IIA を、性能を保ったまま世界水準の値段にまで持っていった。見た目も性能もほとんど同じなんでちょっと改良しただけに思えるけど、実は中身はほぼ全部、設計からの作り直しだったりして、その見方では別々のロケットってことになる。フルモデルチェンジだね。

五代氏はちょうど H-II から H-IIA への移行期の2000年に NASDA を定年退職された。けどそれまでに H-IIA の開発方針をがっちり決めてたんで、このロケットは後進の人たちに受け継がれて、ついにほぼ倍の能力の H-IIB ロケットが、国際宇宙ステーション向けの無人貨物船を打ち上げるまでになった。

その五代氏。去年の8月の羅老1号の1回目の打ち上げには期待されてたらしい。打ち上げ前に現地視察もされてて、韓国のロケット開発史や様々な現状や事情にまで踏み込んだ、詳しい解説を出された。そのときの打ち上げ失敗後は「宇宙開発をする国で失敗を経験していない国はない。こういう時こそ国家元首と国民が激励しなければいけない」(中央日報)との温かいコメントを出して関係者を慰めた。「慰めた」と書くと気休めに取れそうだけど、五代氏はそのつらさを骨身にしみて味わってこられた方なんで、言葉の重みが違う。

1回目の失敗直後はこんな感じだった五代氏、どうもその後のみっともない対応(大統領が「部分的成功」というどうしようもないコメントをしたり、韓国側とロシア側とで責任のなすり合いを演じたり)や2回目の失敗でまた同じ論議が巻き起こってるのを見て、ついに業を煮やしたんじゃないかと。

問題の2回目の失敗の後の五代コメントのソースは、おととしあたりにバックナンバーが有料化されちゃった朝鮮日報(http://www.chosunonline.com/news/20100629000064)。てことで又聞きの形になっちゃうけど。一応そのコピペ元はコチラ。記事内容の改変がないという前提で。

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日本ロケット開発の主役、五代富文・東大航空宇宙会会長

ロケット技術の導入なしにエンジンだけを購入する契約では1段目ロケットの開発も難しい

五代富文・東京大学航空宇宙会会長(78)=国際宇宙連盟元会長=は、日本の宇宙開発に新たな地平を切り開いた純国産ロケット「H2ロケット(1994年に打ち上げ成功)の父」と呼ばれている。

純国産ロケットとは、1段目・2段目など主要技術のすべてが国内開発チームの手によって製作されたロケットのことだ。五代会長は1950年代に東京大学工学部でロケット開発を始め、航空宇宙技術研究所や宇宙開発事業団に所属した。そして、米国の技術を参考に純国産ロケット(H2ロケット、H2Aロケット)を開発したプロジェクトでは責任者を務めた。

純国産ロケットの開発にこだわり続けた理由について、五代会長は「(ロケットの一部部品を外国に頼っていては、技術発展に必要な)事故原因を自らの力で究明することはできない。今回の韓国(の失敗)はその典型的なケース」と答えた。以下は、22日に東京で行った五代会長とのインタビュー内容だ。

 

◆(韓国がロシアの技術に頼ったように)日本は1975年に人工衛星を初めて静止軌道に投入したとき、米国の技術に頼りました。

「当時の日本の液体ロケット技術は、今の韓国のKSR(90年代以降に独自開発された韓国の科学用ロケット)くらいだったと思います。推力(ガス噴射の反動により生じる推進力)が12トン程度で、無理だったため、米国の技術提供を受けたのです。米国から技術提供を打診してきました」

◆日本は技術導入に(70年当時で)60億円を投資しましたが、米国の技術は大きな役割を果たしましたか。

「もちろんです。米国の協力がなかったならば、(国産ロケット開発も)不可能だったでしょう。日本は韓国の羅老号(KSLV-1)のように、ロケットだけを(米国から)持ち込んだわけではありません。設計のソフトウエアに関する技術まですべてを学びました」

◆それ以降、米国の技術を取り入れた日本のNロケットは失敗したことがありません。

「羅老号の1段目ロケット(ロシア製作)は完成品とは思えません。恐らく、ロシアが(次世代の発射体として開発中の)アンガラ・ロケットを韓国で、韓国の資金で試したということでしょう。なぜ、韓国が当初からアンガラ・ロケットを選定したのか分かりません」

◆羅老号の2回目の打ち上げでは、137.19秒後に通信が途絶え、墜落という結果に終わりました。打ち上げ失敗の原因については、韓国とロシアの見解が食い違っています。

「137.19秒後は、間違いなく1段目が作動している時間です。ですが、ロケットは『システム』です。(ロシアが製作した)1段目自体が故障して爆発したか、あるいは(韓国が製作した)2段目が故障し、1段目が爆発した可能性も考えられます。重要なのは、最初の原因を明らかにすることです」

◆韓国に正確な事故原因を把握することができるでしょうか。

「以前、中国が商業目的で長征ロケットを使い、米国の人工衛星を打ち上げて失敗したことがあります。これに対し、米国は『ロケットのせいだ』、中国は『人工衛星装置のせいだ』とそれぞれが主張しました。羅老号も同じことでしょう。1段目のロケットに問題があったとしても、ロシアはそれを認めないでしょう」

◆それでも、羅老号は韓国の宇宙開発に一定の役割を果たすでしょうか。

「事故原因に関する情報が十分、共有されれば意味はあると思うが…。ハードウエアをあちら(ロシア)が作り、そのまま韓国に持ち込んだため、(韓国の科学者たちは)触ることもできない…。これでは韓国の科学者たちも頭に来ますよね」

◆韓国は今後の宇宙開発において、どうすればよいと思いますか。

「難しい質問ですね。韓国の発射場(羅老宇宙センター)自体はすばらしいですが、エンジンは技術導入せず、外国から購入したものをそのまま持ち込む方式なら、(ロシアとの)契約を見直すべきではないかと思います。ですが、かつての日本と米国の関係と比べて、韓国とロシアの関係は政治的に大きく違いますね」

◆北朝鮮でもロケットを開発していますが、なぜ韓国はこのように苦労しているのでしょうか。

「中国が長征ロケットを打ち上げる前(1970年)には、十分な資金や技術があったでしょうか。国の意志、責任科学者(宇宙工学者・銭学森)の執念だけを支えに開発に乗り出したのです。北朝鮮は住民の生活を犠牲にしながら、すべてを(ロケット開発に)かけています。今、韓国はロケット開発を国の第一課題だと考えているでしょうか」

( 『 朝鮮日報 』 2010/06/29 16:55:52 )

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という塩梅。まぁそうなんですよ。普通はその道の先進国から技術導入をしたり製品を買ったりってときは、実績豊富な「枯れた」(不具合が出尽くして安定してる)ものを選ぶはずなんですよ。H-II ロケット以前の NASDA では、アメリカの デルタ という、もうでき上がって安定してるロケットをもとに開発を進めて、そこから国産化率をだんだん上げていく方針を取った。

それがなぜか羅老だと、ロシアで現在開発中の、実績がほとんどない新型エンジンが来てるんですわ(エネルギヤロケットのブースターに使われた系列ではある)。この前もこのあたりを書いたことあった気がする。どれどれ……。6月19日付だわ。ロシアにはほかにも枯れた1段目用エンジンがいくつかあるから、そっちに取り替えるわけにはいかんのかねぇ。有人のソユーズロケットに使ってる RD-107 とかさ。推進剤はケロシン(灯油の一種)と液体酸素で、羅老のエンジン RD-151 と同じですな。

なんでこういうのを選ばずに、実績がない新型エンジンなんだろう。って五代コメントでもう言ってたね。

「羅老号の1段目ロケット(ロシア製作)は完成品とは思えません。恐らく、ロシアが(次世代の発射体として開発中の)アンガラ・ロケットを韓国で、韓国の資金で試したということでしょう。なぜ、韓国が当初からアンガラ・ロケットを選定したのか分かりません」

たぶん「開発中の品だからだから安くしますよ。性能は保障します(信頼性は保障しませんが)」なんてセールストークに釣られたんじゃないかと思うんだ。

んでまぁロシアは技術を持ってるから立場が強い。韓国が衛星だの宇宙飛行士だのの打ち上げ依頼をするだけのお客様ならヘエコラしておべっか使ったりもするだろうけど、そこから業界の同業者になろうってんなら話は別。ライバルは少ない方がいいに決まってる。

今回の打ち上げ失敗の原因がロシア製の1段目にあるかどうかはいまだ不明だけど、その可能性はかなりある。でもロシア側はそれを認めない、原因究明調査にも協力しないっつう態度みたい。これを五代氏は「当然」と見てる感じだね。昔アメリカにやられたもんだから(このときは1段目じゃなく、静止軌道投入用キックモーターの不具合だった)。他人のふんどしで相撲を取る身分の窮屈さをよく分かってらっしゃるお方なんですな。

羅老の飛行コース

しかし、韓国の宇宙基地の羅老宇宙センターってさ、商用で一番需要がある静止軌道に打てないんだよね。真東に日本がどでーんとあるから。

その次に需要がある極軌道が行けそうではあるけど。東向きに打てないってことは、月・惑星探査ミッションもキツそうですな。できなくはないけど、同じクラスのロケットでも、打ち上げられる探査機は日本のものより小さくなってしまう。ていうか北半球の中緯度地域から南極上空回りで打ち出すってことは、打ち上げシークエンスはかなり面倒になりそうですな。いったんパーキング軌道に入れてから再加速ですか。上段に再着火機能を持たせるか、3段以上の多段式ですな。

このシークエンスに合わせるとなると、羅老サイズの中型ロケットだと打ち上げ効率の最適化を捨てることになりそう。総質量140トンという中型サイズで低軌道投入能力100kgという大甘な数字からすると、現段階じゃほとんど最適化されてなさそうだけど(もしかしたら初打ち上げのために余裕を持たせてるのかも。低軌道に1トンくらいは上げる性能が本当はあるんだと信じたいところ)。

五代氏は最後に国家の覚悟を問うておられる。これ後々まで影響するからなぁ。日本の政府は宇宙開発に関しては常に無知・無視・無関心を貫いてきたというか、及び腰だったというか。昭和時代はそこらへん事情があった。第二次大戦の敗戦国が大陸間弾道ミサイルにつながる技術を持ちたがるのは、再軍備化の疑いの目を持たれるってことで、政府がおおっぴらに肩入れするわけにはいかなかったんだと思う。

宇宙開発事業団が設立されて、日本が宇宙開発を本格的に始めるにあたって、国会で、宇宙利用は平和用途に限定する旨の声明文をわざわざ出したほど。外国のどこも聞いちゃいなかったろうし、今の日本の議員さんたちも覚えちゃいないだろうけど。

そういう「世界の中の日本」的な自意識過剰気味な空気で始まった日本の宇宙開発に対する国の態度、これスタート時の雰囲気をずーっと持ってて、いまだに及び腰な感じ。ていうかその及び腰加減が今の無知・無視・無関心につながってるんじゃないかな。2002年6月、内閣府の総合科学技術会議は「有人宇宙活動について、我が国は今後10年間程度を見通して独自の計画を持たないが、国際宇宙ステーション計画などを通じてその活動に係る技術の蓄積を着実に推進」という、完全にアメリカ依存な方針を発表したしな。

わざわざ発表する意味さえ分からん。「有人はやりません」との声明を婉曲に言ったのかもしんないけど。しかし戦争に負けて戦勝国から研究を禁止されたんならまだしも(日本の航空技術はこれで壊滅した)、自分からこんなことを言い出すとは。

ていうか有人をやらないならやらないで、文の後半をいじってだね、「有人宇宙活動について、我が国は今後10年間程度を見通して独自の計画を持たず、その間は無人技術の研究に特化し、いかなる他国をも寄せ付けないほど極める。そして世界で唯一無二の無人技術の提供を交渉材料として、他国の有人技術を手に入れる所存である」くらいのふっきれた発言でもよかったんじゃないかと。

日本だと長い長い暗黒時代を経験してきて、ようやく はやぶさ という一般にまで知られるほどの大スターが登場したね。ブームそのものはいつまで持つか分からんけど、この出来事は日本の宇宙開発の認知度をこれからもずーっと引っ張り上げてくれるはず。はやぶさ のスイングバイ行程に似てるなぁ。

目的には足りないロケットで、地球に引力圏の外にまずはやっとこさ出た。この時点で太陽系座標上で秒速 30km。長い時間をかけてイオンエンジンでトロトロと軌道を変えつつ力(実力)を溜めて、時が来たら(地球に再接近したら)秒速 42km にドカーンと一時的な加速。以後はスピードが落ちていったけど、それでも秒速34kmで、スイングバイ前よりずっと速くなった。

はやぶさ の前にも、五代氏がいらした旧 NASDA 系だと H-II/H-IIA ロケットという花形スターが世襲で出てるんだけど、大型ロケットは最近までマスコミ受けが悪くてなぁ。マスコミの知識がなさ過ぎたのと、一般への事前の広報や啓蒙が足りなかったんだと思う。まぁ現物とその実績がないことには広報も啓蒙もしにくいから、痛し痒しだけどさ。

H-II デビューのとき、テレビ朝日のニュース番組は韓国人とフィリピンの老人を出して、「日本の再軍備化を恐れている」みたいなことを言わせてたわ。液体水素が燃料で弾道ミサイルは絶対ない。それに H-II だと ICBM 用としては図体でかすぎ。性能よすぎ。打ち上げまで手間暇カネかかりすぎ。無理にその用途に使おうものなら、少なくとも打ち上げの半日前から射場に巨体をモロ出しだから敵国にバレバレ。その前に種子島への巨大なパーツや大量の液体水素燃料の運び込みでバレるしさ。どのみち発射前に本物の ICBM で狙い撃ちされて終わり。

H-IIA デビューの時はさすがにその方面の印象操作はなくなったけど、報道する側は打ち上げや軌道投入の失敗が彼らの商売的においしいことを知ってた。読売新聞は試験機2号機でのオマケ衛星の分離ミス(衛星側のトラブルだった)を針小棒大に「打ち上げ失敗」と決めつけて報道したり。

けど時代の空気はいくらか変わった。去年の H-IIB 初打ち上げではようやくマスコミの皆さんも日本の大型ロケットの何がどうなのか理解したみたいで、肯定的な記事が多かったね。

ただ、H-IIB で打ち上げた "HTV" が、あらゆる面で世界最高の無人宇宙貨物船であるかのような勇み足な報道してたけどw マスコミぶれすぎww この日記で日欧ロの無人宇宙貨物船の特徴を紹介したことがあったな。おお、これだ。実際は、お互いに異なる長所で仲よく補い合ってる感じですわ。

しかし同じ日本の宇宙開発でも、宇宙科学研究所(ISAS)のロケット・M-V のデビューのときは軍事と一緒くたに語られることはなかった。どっちかというと H-II より M-V のほうが ICBM に近い感じなんだが。そこらへん、旧 NASDA には ISAS の的川先生に匹敵する広報の人材がいなかったのかもなぁ。

話が羅老からかなり飛んじまった(汗)。ロケットだから飛びっぱなしで帰ってこないのもまたいいか。

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2010.6.25 金曜
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蛍光灯から LED へ 宇宙編

最近ようやく LED 照明が普及してきたみたいだね。90年代後半、当時の通産省は LED 照明の2003年の普及を目指してた。予定が遅れてはいるけど、着実に進んではいますな。まだ単価がちょっと高いし、ヒートシンクが大きいんで照らす範囲が電球や蛍光ボールより狭かったりもするけど、とにかく人気でよく売れてる。いいことだと思う。きっといつも通り早晩値崩れして、普及は加速するけどメーカーの利益は限りなく薄まるんだろうなぁw 値を高く張れてる今のうちに儲けといてつかぁさいww

おいらが LED 照明に期待してる部分ってさ、電気を食わないってのもまぁそうなんだけど(蛍光灯の半分くらいらしい)、蛍光灯と違って紫外線が出ないってこと、ここに注目してるんだわ。そしたらたぶんあんまし虫が寄ってこないだろうと。いやもう夏場は網戸を閉めててもどこからか蚊とか蛾がその他よく分からん昆虫が部屋にどんどん入ってきてさ。管型蛍光灯とそっくり入れ替わる LED 照明なんてのが出てきた暁には、すぐにでも取り替えたいなーとか思ってて。点灯管経由の蛍光灯ソケットに取り付ける LED 照明なんて、今後出るのかどうか知らんけど。

LED 照明化が起こってるのは地上だけじゃない。国際宇宙ステーション(ISS)もそうなっていくらしい。今は蛍光灯を使ってるんだけど、宇宙用の蛍光灯って特注で、ものすごく高価なんだそうで。地上用のものをそのまま持っていったとして無重力環境で割れちゃうと、ステーション内をガラスの破片と水銀がずーっと飛び回って危険。この対策を施した蛍光灯ってことで(ガラスの代わりに透明な耐熱プラスチックでも使うのかなぁ)特注なわけで。1本1千万円するとか聞いたことあるけど不明。民生品に比べて超高価なのは確か。しかも水銀は相変わらず使ってるから、人が滞在・活動する宇宙ステーション内部の装置として、その意味で本質的な危険性がある。

そんなわけで、ISS の内部照明用に LED 照明が検討されてるんだそうな。もともとほぼ全部樹脂製だから割れない。寿命が長い。水銀とかの有毒物質も含んでない。基本的に民生品とあんまし変わらないものだろうから値段も安いはず。てことでいいことずくめ。ただ、まだ宇宙での使用実績がない。ここがネックだね。蛍光灯の方は、スペースシャトルの時代からずっと使われてる。ていうか映画『アポロ13』の船内の照明色を思い出すと、アポロやその前の時代からかもしんない。

てことで宇宙用 LED 照明は実績を作る場を求めてるわけだけど、どうも来年1月に実現するらしい。いきなり ISS の照明として蛍光灯から置き換えるわけじゃなく、日本の無人宇宙貨物船 HTV 2号機の室内照明用の半分(全4個中2個)で採用された(記事1, 記事2)。

それで現場での有効性が確認されたら、HTV の後の方で照明は全部 LED で、てことになるんじゃないかと。バカ高い宇宙用蛍光灯は恐らくアメリカ製なんで、HTV 全体のコストダウンとともに国産化率を上げる方向にもなる。

それで思うんだけど、HTV の照明の規格って ISS のと一緒なんだろうか。もし一緒なら、HTV に取り付けてある LED 照明をドッキング後に ISS に滞在中の宇宙飛行士が外して、ISS 内部の蛍光灯と付け替えていけばいいんじゃないかと思って。どうせ HTV は用が済んだら大気圏再突入で消えてしまう運命なんだから、LED 照明を取り付けたまま温存する意味はないし。運搬用のコストがまるまる浮くことになるし。

取り替えられた ISS 内の蛍光灯は、HTV に廃棄物として積んで、再突入処分しちゃえばいいんじゃないのかな。大気圏に水銀をばらまく気か、という感じではあるけど、HTV 1号機の室内照明って全部蛍光灯だったはずで、再突入で燃え尽きたけどそのことで誰も文句を言わなかった。微量ならいいんだろうなぁってことかと。どのくらいの微量までならいいのかは方針が必要なんだろうけど、現状だとそんな処分方法でも問題ない気がする。

もしだめなのなら、宇宙飛行士の帰りの便に一緒に2,3個ずつでも持って帰ればいいんじゃないのかと。しかし狭いソユーズの中で ISS の使用済み蛍光灯が割れたら最悪だなw そりゃもちろん密封するかww たまに無人貨物船プログレスが再突入カプセルを積んでいくようなんで、その余ったスペースに詰め込んでもいいかも。ISS は2020年まで使い続けることになったっぽいんで、今使ってる蛍光灯はどっちみちあと10年も持たんでしょ。

銘板
2010.6.26 土曜
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はやぶさ が味方につけたもの

はやぶさ の帰還って日本のテレビ局がガン無視したのでけっこう話題になってるね。オーストラリアの現地で取材した日本のマスコミ全部合わせてもかなり少なかったとか。生中継した放送局がゼロじゃ非難されてもしょうがないかなと。現地入りしたテレビ局は NHK のみ。大気圏再突入の様子を見事な映像で撮影したんだけど、4時間遅れくらいでニュースで流したそうな。午前4時頃か。なんでまたそんな時間に……。

ニコニコ動画の はやぶさ 関係の動画のコメントだと、それをネタにマスコミ全体が言われたい放題の状態だったですよ。おいらは新聞はかなりがんばってると思う。今回活躍してる読売新聞と毎日新聞は、再突入の軌跡を美しい長秒露光写真で撮影して掲載したね。それぞれ自前で派遣した記者さんたちが現地で撮ったらしい。

んでまぁ戦犯扱いされてるテレビ局だけど、これどうなんだろ、事情をひとつ思いついたよ。当たってるかどうか知らんけど。

原因はワールドカップじゃね?

これだけだとさもありなんだけど、何もワールドカップが好きだからというわけじゃなく。

ワールドカップのテレビ中継って、各テレビ局は FIFA に莫大な放映権料を支払うっていうじゃないの。そしたら元を取らなきゃいかんわけで。対して はやぶさ の方は国内の公共事業だから、テレビ局側としては事前投資はないわけ。どうしたってワールドカップ寄りになっちゃうべ。そして、どんなにがんばっても1チャンネルで1日24時間以上の放送時間は確保できない。優先事項にたっぷり時間を取るなら、バッティングするトピックを捨てなきゃなんない。海外特派員の数も限られてるはず。どっちに出すか。

そりゃオーストラリアより南アフリカの方を充実させますわな。なんたって何十億円っつう元手がかかってるんだもん。新聞はそこらへんの縛りが少ないんじゃないかな。てことでサッカーに注意を払いつつも、はやぶさ の方にも手を回せたってことなんじゃないかと。

まぁ、もともと2007年6月だったはずの帰還が3年遅れの2010年6月に決まった時点で、マスコミはもう当てになんないなとは思ってたけど。おいらは一般社会の反応も諦めてた。もう完全にサッカーにかき消されるだろうなと。ところがどっこい。

おいらの予想はテレビ局の応対だけ的中。新聞・雑誌・書籍の活字系メディアだと、はやぶさ 関連本が飛ぶように売れてるらしい。まだ出てないのも予約殺到らしい。アオシマのプラモデルの初ロットは帰還前の発売と同時に瞬殺。慌てて増産し始めたけど、全然間に合ってないっぽい。

サッカーの方だって、大方の予想に反する岡田ジャパンの快進撃で大いに盛り上がってるのに(ネット上に「岡ちゃんごめん」が乱舞したっけな……)、はやぶさ は少しも呑まれてない。

はやぶさ の帰還がテレビ局を除いて全国や世界でこれだけ盛り上がったのって(2005年の着陸ミッションの頃から、むしろ海外の方がアツくなってる)、どう考えてもネットの存在が大きかったよ。2005年時点では2ちゃんねるの はやぶさスレと『はやぶさまとめ』サイトからの応援がチームの士気を支えた。2007年11月公開の公式ビデオ『祈り』の最後のクレジットに、「はやぶさ に思いを寄せている人たち」として、はやぶさチームの各セクションと同列の扱いで堂々と『2ちゃんねる『はやぶさ』関連スレッド』『はやぶさまとめ』と出てる。国の機関が2ちゃんの住民や一般人のファン活動に公式に感謝したのって前代未聞じゃないかな。

そういやマスコミって何かとネットやら2ちゃんねるやらを悪者にしたがるけど、ネットってそのまま社会の拡張だからね。土地や距離の概念が希薄なのが違いだけど、社会の一部。犯罪の温床になる場所もあれば、それまでだったら奇跡みたいな超展開が現実に起きる場所もある。

着陸ミッションの頃、関係者とファンとの間で、ネット越しに楽しいやり取りがあった。管制室からの公式ウェブ中継の机にどんどん並んでいったリポビタンDのビン。あれが2ちゃんねるの はやぶさスレで話題になった。

むしろ海外のファンが掲示板上でそのリポDの話題で盛り上がったみたいで、それを松浦晋也氏(ノンフィクションライター。この方のブログでの はやぶさ の速報が当時、世界で最も速く正確と好評で、有志による英訳版まで出された)がブログで取り上げて、2ちゃんねるはそのネタで盛り上がった。

騒ぎを聞きつけた大正製薬、はやぶさチームにリポDを2カートン差し入れ。中継の人は感謝のしるしとして(だと思う)、その箱2つをキーボードの台として使用。国の機関にも関わらず、特定の営利企業の商品を JAXA/ISAS 公式サイトに派手に露出させた。ほんとは控えるべきだったのかもしんないけど、すげー楽しかったからいいよな。いいよな。てことで以降、リポビタンDは はやぶさ プロジェクトの公式っぽいドリンクとして、なんとなく、しかし確実に認知されていったw

はやぶさ の旅は興奮と絶望が交互に何度も訪れる長い長いジェットコースターみたいなもんだった。で、冒険の旅って目的の道にある正しい幸運と失望だけでなく、こんな楽しいエピソードにも恵まれるんだね。はやぶさ の旅は多くの人を巻き込んだ、本物の大冒険だったよ。

はやぶさ が通信途絶の危機を脱したのは2006年1月。設計時に仕込んでた「放っとけば Z 軸回転に収束」がもたらした成果だった。5月にはイオンエンジン2基の起動に成功。7月に太陽光圧での姿勢制御をスタート。9月、爆発の恐れがあるバッテリーを裏技で充電完了。現状で使えるものを最大限に動員して、地球への帰り支度を着々と進めてた。

当時、地球のインターネット回線上では。

この年の末頃、ニコニコ動画のテスト運用が始まった。これが はやぶさ 人気をここまで作って支えた。もともと2ちゃんねるで情報を交換してたファンたち、こっちでもまた はやぶさ を応援しだした。まぁ多くのユーザからほとんど無視されてた状態が長かったんだけど、それでも関連動画の数は着々と増え続けた。通信途絶当時に独立して発表された Flash アニメ『はやぶさ 帰ってこい』もここで再デビュー。

そして2009年11月。ここが はやぶさ 人気の分水嶺。絶体絶命のエンジン停止と、世界驚愕のクロス運用での切り抜け。このあまりにも はやぶさ らしい鮮やかな復活劇が、あの動画(ニコニコ動画) を世に出さしめた。名台詞「こんなこともあろうかと」(たぶん笹本祐一の『宇宙へのパスポート3』が初出。「放っとけば Z 軸回転に収束」の記述で使われた)は、それまで眠ってた はやぶさファンの心をもクロス運転させて火を点けた。そのうえ新規のファンを凄まじい勢いで増やし始めた。

さらにこの曲(ニコニコ動画)。ヘヴィメタルって確かに人によって好き嫌いがあるけどさ、なんてーか、特に小惑星イトカワへの到着から着陸ミッションのあたりってほんとこの曲調に近かったよ。毎日毎日、嵐の中みたいな壮絶さで。この動画、間奏部分がストーリー仕立てなんだよね。インストの展開と公式動画『祈り』の映像の見事な編集の合わせ技。イトカワ到着から怒濤の勢いでの観測と着陸ミッション、通信途絶、奇跡の復活、イオンエンジンに再び火を灯して地球へ出発……。歌詞から引用の常駐視聴者コメント「故郷の空へ!!」でもう……何度見てもアツくなっちまうよ。

そして運命の6月13日。さらに今に至るまで、そして恐らくこれからもしばらく続く熱狂。

はやぶさ も運用チームも広報の人たちもずーっとがんばってきたけど、時勢のタイミングまで味方に付けちゃったんだなぁ。はやぶさ ってほんと強運の探査機だわ。

っつうか はやぶさ がイトカワ近辺にいたあたりは、公式情報や探査機マニアの人たち主体の熱狂で、まぁなんてーか素朴な感じだったのよ。それはそれで楽しかったけど、一般受けからはほど遠い状態で。ファン側としては『はやぶさまとめ』と2ちゃんねるがメインだったあたり。んでニコニコ動画が加わったら、いろんな表現者の皆さんがいろんな切り口と溢れる愛情で はやぶさ のあれこれを料理してくれた。そしたらそれまで知ってたつもりの、もう古くなったはずの情報や解釈が、おいらの中で再び輝きを取り戻したんだわ。しかも前よりずっとまばゆく。

動画作者の皆さん、コメ職人の皆さん、おいらがこんなにも はやぶさ祭りを楽しめているのは、間違いなくあなたがたのおかげです。本当に本当にありがとう。

〓ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ⊂<回 ←仕切りジッパー

てことで結論。テレビの報道はこれからも商業主義でいいよ。もはやマスコミですらないものにはもう報道の機能は期待しないから。バラエティ・スポーツ・ドラマでがんばってね(テレビってほかのメディアに比べて原理的に上記の娯楽3分野が得意なんだから、報道は思い切って縮小して、娯楽に特化した方がいいような気がする)。

年々売り上げ減が続いてるらしい新聞・出版業界のほうは、はやぶさ 効果で一息つけますように。ていうかこれがきっかけで、科学・技術関係の記事を再び充実させることが新聞の売り上げ増への転機になってほしいなとか。テレビは科学に弱いことを、科学に関心がないせいでまだ自分で気付いてないみたいだし。

銘板
2010.6.27 日曜
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空想科学をたどる現実科学

「こんなこともあろうかと」動画の影響で、はやぶさ と『宇宙戦艦ヤマト』をだぶらせる感覚がすっかり定着した感じ。

んで思ったんだ。はやぶさ のメインエンジンってさ、「イオンエンジン」なわけ。メインにイオンエンジンを使った探査機ってアメリカにあったけど(エンジンの不調で、イオンエンジン搭載の意味があまりなかったらしい)、その前例との違いは、イオンの生成に電極じゃなくマイクロ波を利用してるってとこ。

……、

……、

……。

エンジンに、

……、

……、

……。

マイクロ「波」。

……、

……、

……。

ちょww波動エンジン!!wwww

銘板左端銘板銘板右端

はやぶさ2はサンプラーホーン(主砲)のほかに衝突体がつくからなぁ(どうも2機構成じゃなく、時限爆弾と大砲を合わせたみたいなのを本体に搭載していく形になったらしい)。この衝突体を、なんとか理由をこじつけて波動砲呼ばわりしたいなぁw てことはミネルバはコスモタイガーってことになるかなwww

銘板
2010.6.28 月曜
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最高級おもちゃ

はやぶさ って魅惑のギミックに溢れてるんだね。今気付いた。

放出・射出ものだけでも

だよ。あとレーザー照射もできるし(測距用。対物破壊能力はないですw)。はやぶさ2 になるとミネルバ2機で衝突体も付くね(これは破壊能力ありあり)。

そして駆動メカは全くの別系統が2つ。ヒドラジンスラスタとイオンエンジン。イオンエンジンは4基クラスタで、ジンバルで向きが変わる上にキセノン生ガス噴射でヒドラジンスラスタの代用もできちゃう。しかもニコイチでも稼動可能。

折りたたみ式太陽電池は片方につきジョイントが4個。

打ち上げ直後には、縮めてたサンプラーホーンも伸ばす。

通信機能は低利得、中利得、高利得の3種類。中利得アンテナは向きが可変。非常時用の「1ビット通信」をデフォで装備。

行って帰ってくる。

男の子向けのおもちゃとして魅力ありすぎww

銘板
2010.6.29 火曜
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マジンガー技術が飛ぶ深宇宙

それじゃーあれかい。はやぶさ が波動エンジンで飛んだんだとすると、IKAROS は光子力エネルギーで飛んでるってことになるな。

光子力ビーム
光子力ビーーーム!!

まぁ IKAROS の方の光子の力は、破壊力も巨大ロボットを動かすほどの力もないけどさ。しかしこの21世紀初頭に来て、70年代のアニメに出てきてた荒唐無稽な技術が、言葉の概念だけでも立て続けに実現しちまいましたですなぁ。

ホンダの2足歩行ロボットは、アトムを見て育った世代がそれを現実のものにしたい意志でできたとよく言われるよね。イオンエンジンと太陽帆はヤマトとマジンガーを見た子供が大きくなって……というわけじゃないだろうけど、面白いくらいシンクロしてるわ。

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2010.6.30 水曜
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ライトセイル1

ソーラー電力セイル実証機 IKAROS に続いて、今年中にアメリカも宇宙帆船の実験機を打ち上げるらしい。ライトセイル1 というのだそうで。

Wikipedia「太陽帆」を見ると、アメリカ惑星協会が今まで2001年と2005年の2度打ち上げてるけど、その2回ともロケットの不具合で打ち上げ失敗。その不運もあって、世界初の太陽光での宇宙帆走の栄光は日本の IKAROS のもとにタナボタしたってことらしい。

まぁ日本だって IKAROS ができるまでは帆の展開実験をしてきたけど、どれも今ひとつな結果しか出なかったから、IKAROS はかなりぶっつけ本番的な感じだったわけで。ほんとうまくいってよかったよ。

ライトセイル1の方は地球を周回する衛星らしい。IKAROS は惑星間軌道を飛ぶ宇宙機。で、余計な心配だとは思うけど、衛星軌道を飛ぶ場合、地球からの様々な外乱をどうやって排除するのかな、と。密度が薄いけど存在しないわけでもない高度 1000km あたりまでの上層大気。地球の重力不均衡と潮汐力と自転が作る外乱。太陽風がたなびかせて場所や高度で状態が違う地球磁場。そういうノイズが多いような気がして。

太陽風そのものの影響は基本的に太陽光圧の1000分の1程度だそうだから関係ないかもだけど。けど場所によって100分の1くらいにまでなったりでもすると、もう無視できんと思う。まぁそれでも飛ばすってことは、光子加速をしっかり実証できる勝算があるんだろうけどさ。

IKAROS が幸運だったのは、金星探査機 あかつき の打ち上げに便乗できたってことだね。ミッションの割にでかすぎる H-IIA ロケットで打ち上げることになったんで、貨物容量に余裕ががっぽりできた。なもんだから相乗りで比較的簡単に惑星空間に飛び立てた。しかもさっき書いた通り、その前にアメリカの帆船が2つとも墜ちちゃった。あかつきの打ち上げはたまたまライトセイル1の半年前だった。で、IKAROS は「世界初の宇宙帆船」の称号をゲット。幸運すぎるw

もちろん、宇宙空間であんな薄膜の帆(厚さは髪の毛の10分の1)を骨組みなしで広げるっつうぶっ飛んだ技術開発と運用に成功したからってのがあるんだけど、それも込みでやっぱし運がいいと思うよ。今までトラブルも出てないみたいだし。IKAROS は一番重要なところはクリアしたと思う。栄誉も得たと思う。てことでこの幸運、ライトセイル1と是非共有したいですよ。

(2019.7.6 補足: 書籍『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう――世界初! イカロスの挑戦』によると、アメリカは予算も技術もあって開発速度が早いんで、もし IKAROS の計画が早期にバレると先を越される恐れがあったそうな。ということで IKAROS は極秘裏に開発して、アメリカにとって「今から開発を始めても間に合わない」というタイミングで発表したのだそう)

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