ひとりごちるゆんず 2010年7月
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2010.7.1 木曜
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昔のイカロス

「昔のイカロス」っつったって、ロウで固めた鳥の羽根ってほどのギリシャの昔じゃなく。

今頃になって思い出した本があって。宇宙科学研究所(ISAS)の有名人お二人による著作。このお二人とは、ミウラ折り で有名な三浦公亮教授と、先進的なテーマをいくつも担当されてきた故・長友信人教授。

と長友先生の情報を探してたら、先生が最後に書かれた ISAS ニュースの記事が出てきたよ。なかなかの武勇伝というか(笑)。そうか過酸化水素水での固体燃料ロケットの噴射方向制御、長友先生の発明だったのか。記事だとこの事故の後はフレオンガスが採用された、となってる。けど「フレオンガス」ってあの、オゾン層を破壊する「フロン」のこと。大気圏を突き抜けるロケットに使うとオゾン層へのダメージも大きいだろうということで、後でフレオンガスは使用禁止になって、結局、過酸化水素水が復活したんだわ。

で、最新の M-V ロケットの初期型の2段目にまで過酸化水素水が使われ続けることになりましたとさ。記事が書かれたのは2000年。M-V が唯一の打ち上げ失敗を喫したときだなぁ。X線天文衛星 ASTRO-E が空に散ったですよ(泣)。これが最後の初期型。事前に計画されてたマイナーチェンジと打ち上げ失敗を受けての改良を一緒に施された M-V 後期型が打ち上げられたのが3年後の2003年。ペイロードは工学実証試験機 MUSES-C。後に はやぶさ と呼ばれることになる機体だった。

でさ、お二人の著書ってのがコレ↓。

ソーラーセイル

その名もズバリ『ソーラーセイル』。副題にある「ルナカップレース」というのは、この当時(刊行は平成5年だから17年前。1993年ですな)、かなり真面目に検討されてた、宇宙機による史上初のヨットレース。日米欧がそれぞれ独自のソーラーセイル(IKAROS とかライトセイル1みたいなの)を、1つのロケット(考えられてたのはヨーロッパのアリアン IV かロシアのプロトン。この当時、日本の H-II は初打ち上げの前年。M-V 初打ち上げの4年前)で同時に地球の衛星軌道に打ち上げる。それぞれが地球を周回しながら太陽光圧で加速して、軌道高度を徐々に上げていく。

ゴールはお月様。月面に衝突するか月の裏側を通過するかがその区切り、という競争で切磋琢磨して、この宇宙を自由自在に飛び回る技術を身につけようじゃないかっつう企画。

それでさ、表紙カラーで出てるのが日本の機体なんですよ。ちょっとアップで見てみましょうか。

日本のソーラーセイル

か、かっこええ……。IKAROS もええけどこいつもたまんないっす。

まぁ IKAROS を見てしまった目にはちょっといろいろアレなところもあるけどね。宇宙機の本体(中心部分)がちょっと小さすぎないかとか、マスト方式だと質量が大きくなりゃしないかとか、姿勢制御に扇形の反射板というのは可動部分ってことで壊れやすくないかとか(IKAROS の姿勢制御は液晶デバイス。可動部分がないんでかなりの長寿命が期待されてる)、太陽電池はどこに付いてるんだとか。

けど気付いたのはそこだけじゃない。帆の折り目、これ、まさにミウラ折りだわ。この時点での日本のソーラーセイルってミウラ折りで畳むことになってたんだね。「引っ張って伸ばす」と「押して縮める」の1方向の変位を与えるだけで2次元の膜面を展開できるのが特徴だから、マスト付きのソーラーセイルにぴったりってことだったかと。

そして、4枚の帆のうちの1枚に赤く輝く "ISAS" のロゴマーク。これさ、IKAROS に採用してほしかったですよ。6月15日と6月19日、IKAROS から分離されたカメラで帆を広げた IKAROS の全景が撮影されて、世界中に配信されたわけで。

IKAROS 全景

この帆の一部に "ISAS" ロゴがあればすげぇアピールできたのになぁ。そこだけだと光子推進力がアンバランスになるかもしんないから、反対側に同じ色と同じ面積で "JAXA" と入れるとかしてバランスを取れば……とか妄想は果てしなく広がるわけですよ。じゃあ残りの2面はといえば、ひとつは"IKAROS"。もうひとつは日本の国旗とか。あるいはポリイミド樹脂製の帆を作ったメーカーさんのロゴを入れるとかさ(スポンサー料を取る前提で)。とか、いろいろできただにのぉ……。

今は試験機だから余計な要素はない方がいいってことかな。けど将来の実用機だと、せっかくの有り余る大面積なんだから、なんぼかそういうことができる気がするよ。

おっ50ページに日本のレース艇の諸元が出てる。なになに……おお、なんかすごい性能だぞこれ。帆の1辺の長さは70m(IKAROS は14mなんで5倍)。質量は150kg(IKAROS は315kgなんで半分)。推進力は帆の面積で決まるんで、5×5=25倍。加速度は船体質量に反比例するんで、このレース艇、IKAROS の50倍の加速度を誇るわけだ。こりゃすごい。

はやぶさ とも比べてみよう。IKAROS の推進力は はやぶさ のイオンエンジン「μ10」1基のだいたい7分の1(太陽からの距離が約1天文単位のとき)なんで、ソーラーセイルの方はその25倍ってことはμ10の約3.57倍。おお、はやぶさ はエンジン3基全開が最大出力だったんで、それを19%上回るパワーですな。で、機体の質量は はやぶさ の3分の1。加速度は全開時の はやぶさ のおおよそ3.6倍ですよ。ニコイチ運用時の11倍ほど。いやこれ月までと言わず、水星から木星あたりまでならどこへでも行けますわ。

それもこれもこの船が技術的に実現できればの話だけど、夢と妄想が膨らみますなぁ。ちなみに IKAROS の推進力は光子推進のみ。だけど「ソーラー電力セイル実証機」という名目。将来的にはイオンエンジンも併用したハイブリッドな木星探査機を飛ばす計画の予備実験だったりする。光子推進だけだといまひとつパワーが稼げないからこの形で行くことになったみたいだけど、もし 70m 級の大きな帆と 150kg 級の軽い機体がモノになれば話が違ってきそうってことでひとつ。

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2010.7.2 金曜
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スティールの姓あってのルーシー

荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』第7部『スティールボール・ラン』が佳境なわけだ。でさ、今回も魅力的なキャラがてんこ盛りなんだけど、スティール氏の幼妻ルーシー・スティールでちょっと思いついたことがあって。

ルーシー・スティール

えー毎度ばかばかしい

『スティールボール・ラン』のルーシーとかけまして

朝の NHK ドラマと解きます

そのココロは

……、

……、

……。

ゴゴゴの女房

ほんとにばかばかしくてすんません (^_^;)

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ルーシーの画像、拾ったのがちょっと小さかったんで拡大したんですよ。んでまぁサイズを適当に合わせたらですね、またひとつ思いつくものがあって。てことで縦のサイズを「555」(ゴゴゴ)にしましたよ。

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2010.7.3 土曜
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怪文書という名の娯楽 序

そそ、松浦晋也氏のブログ "L/D" でさ、6月17日のログ『はやぶさ2にむけて:最後の障壁は身内にあり…か』がすげー面白かったんですよ。ゴシップ的な意味で。宇宙科学研究所(ISAS)内に出回った はやぶさ2に関する怪文書メールが載ってた。もしかしたら ISAS 内だけじゃなく、JAXA 全体にも回覧されたのかもしんない。けど私信だから、書いた人はそうなることを望んだわけじゃなかったろうなぁ。で、流出しちゃったもんだから怪文書扱いになってしまってるわけだな。

とりあえずおいらがこれを読んだ時点での松浦氏の見解をけっこう忘れてしまって、おいらの中じゃけっこう曖昧になった。てことで松浦氏の文章をあえて読み直さずに「怪文書」部分をここにコピペして、自分なりに考えてみようかと。五代富文氏に教わった「自分の頭で考えよう」ですな。ていうかそんな高尚な理由なんか言い訳でしかなくて、もう野次馬して楽しんじゃおうってことでひとつ。早速、以下がその「怪文書」。

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差出人: 【削除】
日時: 2010年6月11日 23:26:04JST
宛先: 【削除】
件名: はやぶさ2について
 
【送付先削除】
 
はやぶさが国民的歓呼の中に帰還しようとしていることは大変有り難いことと思います。しかしながら本日読売新聞の紙面で立川理事長が”はやぶさ2を早期に概算要求し実現したい。設計は出来ている。”と言っているのを見て背筋が寒くなりました。床についていたのですが、眠ることが出来ず起き出してメールを差し上げる次第です。
はやぶさは工学的チャレンジとしては大成功であったと思います。特にイオンエンジンの実証と言う意味ですばらしかった。
しかしながら、同じ機体のコピーをもう一度飛ばす”はやぶさ2”を企画すること自体、JAXAが技術者集団である事を疑われかねないと思います。あれだけ多くの不具合を起こした機体をもう一度フライトさせるのですか?
1.イオンエンジンの信頼性をはやぶさより上げたものを使わなければ、次には帰還はないかもしれません
2.機体重量マージンが無く、3つしか積んでいないモーメンタムホイールを踏襲するのでしょうか?あかつきでは故障を考慮して4つ積んでいるだけではありません。はやぶさで問題を起こした振動対策措置を回避できるように、従来のホイールで振動に保つ位置にホイールを配置しています。MVからH-IIAにロケットが替わって振動条件が緩和されたというだけの事ではありません
3.はやぶさの小惑星の資料を閉じ込めるカプセルは地上で開けるときの事を考慮せずに作られています。この為にキュレーション設備の件では##先生まで巻き込んで大騒動を起こしている事はご存じの通りです。同じ轍を踏むことは許されないと思います
4.カプセルを毎秒12キロという未曾有の速さで地球大気圏にもう一度突入させるのでしょうか?##先生には怒られるかも知れませんが、確実性という意味では避けられるものならば避けるべき突入速度だと思います。H-IIAで”はやぶさ2”を上げるのであれば重量的には原型機より余裕を持った設計が出来るはずです。化学推進系を備えた機体とし、十分に減速して地球周回軌道に入れてからカプセルを落とすべきではないでしょうか?
5.小惑星にアプローチしたときには当初の予定通りの光学航法は出来なかったと聞いています。その為、その場で知恵を絞ってアプローチしたと。そのままの設計で”はやぶさ2”を作るのでしょうか?
 
はやぶさ2は理学ミッションとして考えるべきであり、その為にはサンプルの地球への帰還を最優先とした最適な設計をするべきです。決して”はやぶさ”と同じであってはならないと考えます。今、歓呼してはやぶさを迎える人々が”はやぶさ2”の起こりえる失敗を看過したJAXAのエンジニアリングを許してくれるとは私には思えません。
最後に”はやぶさ2”の大きな問題はこれを強く引っ張る人が居ないことであることはよく言われることです。私もそう言って皆と同じように嘆いてきましたが、その様な段階では無いと感じます。必要であれば私がそこに飛び込むつもりです。
 
【差出人氏名削除】
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まずこの文書の存在自体が既に信じられない。宇宙工学についてあまりにも素人すぎる。知識とセンスがなさすぎ。松浦氏は確か「工学に土地勘がない人物」とか言ってたような(今、読み直し禁止状態なんで記憶に頼ってます)一般向け関連本さえ読んだことないらしい。ていうか自分の職場と同じ建物にその道専門のエンジニアたちがいるのに(しかも世界最強レベル)、まったく何も分かってない。共同の勉強会やワーキンググループに出席したことないんだろうなぁ。まああと分かるのは、工学の素人ってことは理学系の人ってことだな。

で、なんか はやぶさ2 について「アレもダメ、コレもダメ」と噴飯もののケチを付けまくった挙げ句、この現状を正すために自分が はやぶさ2 のプロジェクトマネージャーになってやろうか、と。結局そこかよw このツンデレめww

まぁ「このワタクシ以外に事の真理を掴んでいる者がいないくて困ったもんだ」っつう唯我独尊な雰囲気だけど、はやぶさ のことも宇宙探査機のことも、はやぶさファンより全然分かってない。ていうか『恐るべき旅路』と『はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語』くらい読めよ。職場の中を探せば何冊も出てくるだろ。

はやぶさ は小惑星への往復飛行と試料採取行程を検証する工学ミッションだった。そしてそこらは はやぶさ で検証できたんで、確かに はやぶさ2 は理学ミッションになると思う。だからもし はやぶさ2 のプロマネが川口淳一郎先生(工学博士)じゃないなら、理学系の人がなるかも。

けどここまでの工学音痴がプロマネやるのって危険な香りがするぞ。日本の深宇宙探査機技術ってまだまだ完成されたものじゃないから、これからもどんなトラブルが出るか分からない。あるとき起きた事象が後にどんな事態につながるのか、どう対処するのか、そこらを読める人じゃなきゃ務まらんだろ。

実際、ISAS では ルナーA という月探査機が開発中にこの罠にハマって、結局ポシャった。理学ミッションだから理学系の人がプロマネになったのは当然としても、工学の専門家とペアを組まずに工学上の問題点を甘く見積もったもんだから、開発がいつまでも完了しなかった。ペネトレーターという観測装置がそれで、その完成を何年も待つうちに、とっくに完成してた探査機本体が地上で経年劣化して使い物にならなくなった。てことで今回の「怪文書」の筆者さんがもし はやぶさ2 のプロマネになったら、過去の失敗から徹底的に学ぶという ISAS の良き伝統(というか世界の宇宙開発の常識)が崩壊しましたってことになるんだが。

ただ、理学系のプロマネはダメということではなくて。火星探査機 のぞみ のプロマネだった 鶴田浩一郎教授 は磁気圏研究の専門家だった。ということは理学系。でも『恐るべき旅路』によると、のぞみ 復旧のための重責でつらい年明けを迎えたチームの工学系メンバー一人一人のもとに、鶴田先生から「よろしくお願いいたします」と書かれた年賀状が届いたそうな。これが工学系メンバーを奮い立たせたらしい。

そのベストオブベストの対応でも のぞみ はトラブルを克服できずに火星に着けなかったけど、そのとき得た知見と経験が はやぶさ をぎりぎりのところで生き残らせて、ミッション完了までこぎ着けた。月探査機 かぐや をほとんどノートラブルのまま円満な運用終了にもっていけた(しかも軌道高度を半分に下げてのボーナスミッションまでこなした)。金星探査機 あかつき と太陽帆走実験機 IKAROS は はやぶさ からのノウハウも受け継いで、さらに信頼できる仕上がりになってるはず。

で、「怪文書」の人。工学のことなんも分かっとらん。つうか素人特有の「簡単に考えてる」ですなぁ。自分の見識の暗さに気付いていないというか。

箇条書きでいろいろヘンテコなツッコミ入れてらっしゃるけど、そんじゃここらでツッコミ返しいきますか。

銘板
2010.7.4 日曜
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怪文書という名の娯楽 1

その1:「イオンエンジンの信頼性をはやぶさより上げたものを使わなければ、次には帰還はないかもしれません」

工学設計じゃなくてもさ、何か経験したら次は改良するに決まってんじゃん。今回、イオンエンジンはかなり綱渡りな運用でギリギリ生還できた。寿命を延ばす方向に持っていくのは当然考えられてるはず。ていうか「脅威の信頼性」というのが はやぶさ のイオンエンジンだったんだが。あと現時点で分かってる点は、次のイオンエンジンは出力が 17% ほどアップするという点。

この点に絞ると、単純に考えて運転時間が短くて済むってこと。実際は対象の小惑星の軌道によるけどさ、仮にイトカワにまた行くと考えると、運転時間は 85% で済むってこと。軌道変換効率がいい遠日点・近日点付近のみで運転できると考えると、もっと短くなるかもしんない。まぁパワーアップの方法が、イオンの加速電圧を上げるのか、それとも排気量を増やすのかがおいらは現時点でまだ分かってなくて、本当にそれで余裕ができることになるかどうかはそこによると思ってるけどね。

加速電圧を上げる方法(μ10HIsp 的な改良)なら、運転時間が減ったぶんだけの余裕が生まれることになる。排気量を増やして 17% のパワーアップ(μ20 的な改良)なら、中和器の劣化も 17% 速くなるってことで、この考え方でのメリットは目減りすることになるわな。

今度は はやぶさ2 の実際の目標天体(小惑星)"1999JU3" の軌道を、イトカワのそれと比べてみるか。もし目標天体がイトカワより地球に近いなら、それだけでイオンエンジンの負担が減りますな。

  地球 イトカワ 1999JU3
長軸半径 1 AU (平均半径) 1.324 AU 1.189 AU
離心率 0.017 0.280 0.190

軌道の楕円、1999JU3 の方がイトカワより一回り小さい。離心率も小さい。てことは地球から出発すると、イトカワより少ないエネルギーでたどり着けるってこと。帰りもまたそういうこと。1999JU3 はイトカワより近いってこと。ここでもイオンエンジンにかかる負担がさらに小さくなる方向ですな。

さらに、打ち上げ手段は H-IIA ロケットが想定されてる。金星探査機 あかつき と太陽帆船 IKAROS(2つの宇宙機の間仕切りも含めて合計1トン強くらいか?)を2機まとめて、しかもキックモーターなしで金星遷移軌道に直接投入したほどの大型ロケットなんですな。そしたら今度の はやぶさ2 は EDVEGA なしで目的地に直接行けるかも。上段キックモーターが必要になるかもしんないけど、それを搭載してもまだ余裕があるかも。もしそうなったらイオンエンジンの運転時間をまるまる1年ぶん削れる。

結論。上に出した指標のほぼすべてが、はやぶさ2 ミッションは はやぶさ ミッションよりイオンエンジンにかかる負担が少なくなる、と出ました。彼の主張「イオンエンジンの信頼性をはやぶさより上げたものを使わなければ、次には帰還はないかもしれません」は言いがかりでした。

「怪文書」の人、ISAS の理学系なんだからこの程度は考えればすぐ分かるはずなんだけど、そこらへんの検証をまったくしてない。てことでケチをつけて「しょうがないなぁおれしか適任者いないんじゃん」と持っていきたいんだろうなぁというのが透けて見えちゃってるというか。ていうか不適だから。

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2010.7.5 月曜
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怪文書という名の娯楽 2

その2:「機体重量マージンが無く、3つしか積んでいないモーメンタムホイールを踏襲するのでしょうか?あかつきでは故障を考慮して4つ積んでいるだけではありません。はやぶさで問題を起こした振動対策措置を回避できるように、従来のホイールで振動に保つ位置にホイールを配置しています。MVからH-IIAにロケットが替わって振動条件が緩和されたというだけの事ではありません」

とりあえず、「モーメンタムホイール」は「リアクションホイール」の別称。ここは問題ない。

はやぶさ2 に関する新聞記事がかなり前からいくつか出てるんだから、まずそれ探して読めよ。あるいは同じ職場の はやぶさ 関係者から聞いてないのかよ。次は4つ積むんだよ。それに あかつき のリアクションホイール系統は はやぶさ で起きたトラブルを受けて改善してあるんだよ。以降の探査機も当然それに倣うんだよ。はやぶさ2 は あかつき 以降の機体なんだから、リアクションホイールは確実に はやぶさ 以上の、少なくとも あかつき と同等かそれ以上の信頼性を保つ決まってんだろ。

機械一般の開発の常識どころか、はやぶさ2 単体のことさえ一般人より知らん、というか対象の動向に疎すぎるこんなド素人を宇宙船の船長になんか据えられるかよ。

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2010.7.6 火曜
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怪文書という名の娯楽 3

その3:「はやぶさの小惑星の資料を閉じ込めるカプセルは地上で開けるときの事を考慮せずに作られています。この為にキュレーション設備の件では##先生まで巻き込んで大騒動を起こしている事はご存じの通りです。同じ轍を踏むことは許されないと思います」

詳細は知らんけど、大騒動になってるんですか。まぁそりゃそうでしょ。宇宙由来物質対象のキュレーション施設なんて日本じゃ初にして唯一。世界でもほかに数えるほどしかないってんだから、仕様決定から設計、施行、運用計画まで、どう考えたって一筋縄じゃいかんでしょ。はやぶさ が帰還できそうになったからって慌てて作ればそりゃ大騒動にもなるでしょう。世界初のミッションなんだから、その対応はところどころ混乱するのが当然。栄誉の証なんだから迷惑がっちゃいけませんて。ISAS の存在目的は世界一線級の科学成果を挙げることなんだから、史上初の事態でドタバタするのって ISAS ある限りこれからもずっと続くよ。その面倒がイヤな人は、ISAS を辞めればすべて丸く収まる話でして。

余談だけど、「イトカワでの試料採取行程 → 通信途絶 → 復旧」の後にキュレーション設備を作り始めたってことは、それまでは身内でも「試料採取できないかも」「採取できてても帰って来れないかも」と、どこかしら弱気に考えてたってことだね。この施設が必要な旅の結末になって本当によかったよ。

でさ、キュレーション施設って使い捨てじゃないと思うんだよね。はやぶさ に使ったら、多少の改良はあるにせよ、同じ設備を はやぶさ2 でも使い回すもんだと思う。どんな大騒動なのか書かれてないから知りようがないけど、もう完成したキュレーション施設で「同じ轍」は踏みようがないんじゃないの?

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2010.7.7 水曜
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怪文書という名の娯楽 4

その4:「カプセルを毎秒12キロという未曾有の速さで地球大気圏にもう一度突入させるのでしょうか?##先生には怒られるかも知れませんが、確実性という意味では避けられるものならば避けるべき突入速度だと思います。H-IIAで”はやぶさ2”を上げるのであれば重量的には原型機より余裕を持った設計が出来るはずです。化学推進系を備えた機体とし、十分に減速して地球周回軌道に入れてからカプセルを落とすべきではないでしょうか?」

おいらも、確実性という意味では、避けられるものなら避けるべき突入速度だと思う。それは同意。とりあえず再突入行程は6月13日に完全成功したわけだけど、この「怪文書」の送信は6月11日付。再突入の2日前。このときはおいらも不安だったよ。はやぶさ チームの人たちはもっと不安だったろう。で、この人もそう感じてたと。だからここは同意。

けどさ、避けられないわけよ。再突入前に安全な速度に落とすことにすると、デルタ V が秒速 4km くらいの逆噴射をかけないとなんないのよ。秒速 4km の加速や減速がどのくらい大変かっつうと、はやぶさが打ち上げられてからイオンエンジン1年間回しっぱなしで溜め込んだスピードを地球スイングバイ行程にぶち込んで、それでようやく稼げるスピードなのよ。帰りの行程でもそれやるのは無理なんですよ。それよりだったら秒速 12km で再突入しても大丈夫なカプセルを作る方が現実的なわけ。

機械でもプロジェクトの段取りでも、複雑化すると故障や不具合の確率が高まるもんです。てことで、そういうのはできる限り単純にするのが鉄則。帰り道では減速スイングバイしてイオンエンジンも1年間多く回して……というのは複雑すぎるんですよ。ていうかもしそれやってたとしたら、はやぶさ は帰還できなかったよ。イオンエンジンが保たなくて。演算部分も最後の方は宇宙放射線にやられてエラー出まくりだったそうだし。

あ、やっぱ無理だわ。行きの行程の逆をたどって減速しても、再突入の時は地球の引力で加速しますわな。無限遠方で静止してた物体が落ちてくる突入速度は秒速 11.2km。それが第2宇宙速度。地球引力からの脱出速度と同じですな。実際の はやぶさ カプセルの突入速度、秒速 12km から 0.8km/s しか違わない。

これをスペースシャトルの再突入並みの速度に落とすには、直前で秒速 3.4km くらいの強力な逆噴射をかけなきゃなんない。小さな はやぶさ と同じ基本仕様の はやぶさ2。その機体のどこにそんなごっついエンジンを付けろと? それに必要な大量の推進剤をどこに詰めと? 化学推進系を備えろということだけど、その用途に耐える化学推進系を提示してみなよ。

はやぶさ本体に一応直接取り付けられる化学推進ロケットで、そのくらいの性能を持つものっつうと、M-V ロケットの第4段キックモーターで KM-V1 と KM-V2 というのがある。このうち KM-V2 の方は、実際に はやぶさ の打ち上げに使われた。で、この2つのロケットモーターの軌道変換能力をツィオルコフスキーの公式で計算してみた。探査機の質量は、自前の推進剤がスッカラカンの はやぶさ を想定して 400kg としてみた。

KM-V1: 秒速 3.47km

KM-V2: 秒速 4.19km

KM-V1 でちょうどだね。んで KM-V1 単体の質量はどのくらいかっつうと、1570kg。フル装備&満タンの はやぶさ 3機ぶん。はやぶさ 本体を合わせると質量4倍。このキックモーターは旅の行程の最後の最後に使うから、それまでずーっとただのお荷物なわけだ。こんな巨体、1基じゃ1円玉を浮かすのが精一杯(新型でパワーアップしてようやく浮かせられるようになる予定)の非力なイオンエンジンで動かすのかよ。確かに動くけど加速度は4分の1だぞ。星に着く前に帰りのぶんのキセノンまで使い切っちゃうよ。

現実では無理な話なんですよ。だからこの人が考えることくらい最初の最初にボツになって、そこから考えに考えた挙げ句に、「最も確実に成功できる手段は減速なしでの再突入」に落ち着いた、ということなんですよ。工学なめんな。

しかし ISAS の科学者なのに、なんでこんな程度の物理学が分からんですかね。想像力や応用力に問題がありそうですなぁ。深宇宙探査機のプロジェクトマネージャーやりたいのに、物理学にも軌道学にもロケット工学にもここまで暗い逆ハットトリックって致命的だろ。ていうか同じ母屋で一緒に仕事してるはずの工学系の人たちとの交流ないのかよ。

もう「音痴」と呼んでいいくらい技術のことが分からんとなると、さてはこの人、理学系の中でも実験・観測屋じゃなく純粋な理論屋だな。

銘板左端銘板銘板右端

あと、秒速 12km は未曾有の再突入速度じゃないよ。NASA のスターダストはもっと高いところから落ちてきたから、さらに速かった。はやぶさ は史上2番目の再突入速度。そしてスターダストのカプセル回収はとっくに完全成功済みだよ。

銘板
2010.7.8 木曜
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怪文書という名の娯楽 5

その5:「小惑星にアプローチしたときには当初の予定通りの光学航法は出来なかったと聞いています。その為、その場で知恵を絞ってアプローチしたと。そのままの設計で”はやぶさ2”を作るのでしょうか?」

この人の蒙昧さ加減には驚きの連続。はやぶさ がイトカワに到着したときの話、知らないのかよ。ていうかこの人、MUSES-C 計画("MUSES-C" は正式名。「はやぶさ」は愛称)につい最近まで無関心だったろ。にわかの はやぶさファンはおいらは大歓迎だけど、遠慮や礼儀を知らなすぎる破壊的な輩はごめんだよ(どんな趣味の集まりでもそうだろうけど)。

しかもおいらたちみたいな一般のファンより諸々の理解度が低い分際で、はやぶさ2 の開発・運用そのものを乗っ取ろうだなんて虫がよすぎ。それだったらむしろおいらがプロジェクトマネージャーやった方がさ、どっちみち現地到着さえ無理だけど、この人よりなんぼか遠くまで探査機を飛ばせるよ。

はやぶさ がイトカワに近づいて写真を撮るまで、あんな表面状態の小惑星がこの宇宙に存在するなんて、世界の誰も知らなかった。そのせいで、そのままの光学航法による自動操縦装置とプログラムじゃ着陸行程がうまくいかなかった。で、誰も責められないそんな中、現場の状況に合わせてアドリブで知恵を絞って、チームはイトカワへの着陸の手順を確立していった。

今はもう「そういう小惑星が存在する」ことは、はやぶさチーム自らが発見した事実として知られてる。もちろんその知見を次の計画に織り込まないわけがない。仮にそれをやらないなんてさ、200億からの国税を使ってのそんな間抜けな技術開発様式なんてさ、この人が許しても納税者が許さんだろ。

ていうかこの「怪文書」の筆者、プロなら誰もやるはずのないこんなにも程度の低い開発ミスを「充分にあり得ること」として考えてるわけでさ、てことはつまり、この筆者の中でのプロ意識がその程度ってことでさ。この人さ、よっぽど仕事ができない人なんだろうなぁとか同情したぐらいにして。で、周りから「あの人は分かってないなー困ったもんだなー」と思われてるのにまったく気付いてない、ちょっとイタイ人なんじゃないかって気がしてきた。

ていうかもうこの人が何を言ってんのか全然分かんないや。

銘板
2010.7.9 金曜
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怪文書という名の娯楽 完結編

「怪文書」著者に対する同情と憐憫が、ブルースのように加速していく。

松浦氏が、多くの宇宙開発ファンが読んでるご自身のブログでこの「怪文書」を公表したことを考えてみる。松浦氏は元ジャーナリストの現ノンフィクション作家。プロの物書きですな。作品は多くの取材から成ってる場合が多い。てことで、自分の文章が取材元の人物にどんな影響を及ぼすかは知り尽くしてるはず。それでも公表したってことは、この「怪文書」、JAXA の中のほとんど知れ渡ってしまった、公然のものなんだと思う。あるいはもう JAXA の外にまで広くだだ漏れてしまってて、今さら松浦氏一人が隠したところで何も変わらない状況になってるものなんだと思う。

2003年から JAXA の内部機関になった ISAS は、総勢200人くらいの組織らしい。組織って100人を超えると、全員が自分以外の全員を認識し続けるのが難しくなってくる。人員の異動や入れ替わりも日常的なことだろうし。けどいったん何かで有名になってしまった人は、すぐさまほぼ全員が「ああこの人ね」と認識できる程度の規模でもある。200人って学校の1学年くらいの人数だからね。

恐らく ISAS 内部の人はみんな、このメールの書き手が誰なのか、文面から大体の当たりがついてるんじゃないかな。特定できる人も多いはず。

となると、この人って今、職場でものすごく針のムシロ状態なんじゃないかなぁ。「あの人、何やってんだ」的な。私信が流出っての、自分の専門についての真面目トークだったり挨拶程度の当たり障りのないものなら「やっちまったーゴメンみんな無視してね(はぁと)」で済むけど、これって同じ職場の人間を攻撃してるからね。しかも意味をなさない理由で。言いがかりをつけたのと同じ。これが公に出てしまうと、こりゃきついよなぁ。

とりあえず工学系からの反発はあるでしょう。自分の見識のなさも露呈してしまった。てことで今や ISAS のみならず JAXA 全体、というかもはや日本と世界中の多くのファンたちの共有財産になった はやぶさ2計画のプロマネになるなんてこと、この人にとっては汚い手を使ってでも手に入れたかった悲願の地位だったろうけど、自分でドブに蹴落としてしまいましたな。なんてーか、図らずも自分の全裸をみんなの前に露出してしまった的な恥と後悔の念に駆られてるんじゃないかと。

この人のこれからすべきことは、恐らく理学系の理論屋だろうから、探査計画をやりたいんなら、まずは工学と技術を実地で学ぶことですな。幸い ISAS では はやぶさ、かぐや、あかつき、IKAROS みたいな大スターもあれば、気球や弾道ロケットでの高層大気の研究やその環境を利用した実験、ミウラ折りみたいな数学理論からの発明とかの、一般受けの観点じゃ地味だったり小規模だったりのテーマも扱ってる。あるいは自分の専門研究を実証するための観測機器を自作したりもしてる(最先端研究ゆえに世界のどこでも売ってないんで)。そういう理学と工学が一緒になって道具を作ってデータを得る作業経験を積み重ねてから、てことになるかと。なんか「中の人」に対して釈迦に説法みたいになっちまった。

あと今回の件で驚きだったのは、ISAS なのに工学の素人がいるってとこ。ISAS の前進って東京大学工学部の生産工学科なんだよね。工学系そのまんま。大もとは創始者の糸川英夫教授が、日本とアメリカを極超音速で結ぶロケットプレーンを提唱したところから始まってる。それで弾道ロケットの研究を始めたら、高層大気研究という理学用途に使えることが分かって、そこからエンジニアだけじゃなくサイエンティストも参画するようになった。理学部門は後発ってこと。

さらにその道を進んでいったら「衛星も打ち上げられるぞ」となった(実はそれが糸川先生の真の狙いだったのかも)。のちに ISAS となる研究グループは大陸間弾道ロケット旅客機なんてホラ話なんか忘れて、理学・工学が一体になって科学観測衛星や探査機を飛ばして、天文研究とそのための機材を開発・運用するっつう方向性が固まった。

なのに、この人は ISAS の中の人なのに、工学がずぶの素人。ISAS の成り立ちから見るとセンスが偏った人物なわけで。もちろん理工両道のエキスパートってそうはいないわけだけど、それを補完するのが ISAS の伝統「ペアリングシステム」という仕組み。

『はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語』によると、ISAS の組織は糸川先生が提唱したペアリングシステムの実践の場なんだそうで。これ、性格というかジャンルの違う2人の研究者をペアにして、プロジェクトごとに常に一緒に活動させる。2人というのは最小限の組織なわけで、そうするとお互いにインスパイアし合える。足りない部分を補完し合える。そのやり方で「凡才の集まりで天才に勝つ」というもの。ペアリングの例は、例えば科学者とエンジニア。で、そのルールは、お互いをその道のプロとして尊重して、いわゆる「素人なりの意見」で相手を困らせないこと。

んでまぁ件の怪文書メール、どうだろ、これまさに「素人なりの意見」じゃね? 工学を尊重もしてないし。この人ってペアを作ってるんだろか。それともまだ工学系の人と組んだことがないんだろうか。どうも ISAS の基本方針から外れてる人物のような気がしてしょうがない。けど ISAS として最大級の大型計画の乗っ取りを画策できるほどの権限を持ってるみたい。どうもそこらへんが腑に落ちんなぁ。

まあこの人の地位がどうあれ、こんな形になってしまった以上、居場所がなくなってしまったんじゃないかなぁ。この人には工学センスの欠如を埋めるパートナーが必要だと思うんだけど、工学側でこの人とペアを組みたがる人、たぶんもういないでしょ。ペアの相手を尊重してくれないんじゃぁなぁ。自分の欠如に気付きさえせず、「素人なりの意見」を振り回して邪魔するんじゃぁなぁ。

内輪の人にこんなメールを出す前に、素人の はやぶさ ファンを装って(リアルで素人さんだけど)2ちゃんねるの天文系や航空宇宙系のスレに出して反応を伺った方がよかったかもね。工学の本物のプロやプロ崩れたちが、この人よりよっぽどプロな目で見て罵倒してくれたろうに。2ちゃんねるならこの程度の不見識な意見なんて掃いて捨てるほど出てるから、反論を読んだあとは放っておけば簡単に埋もれてくれたろうに。そしたらこんな惨めな結果を招くメールを書くこともなかったろうに。

ていうかとりあえずおいらにその「素人なりの意見」をぶつけてくれれば、上に書いた程度の簡単なもんだけど、彼の悲劇を事前に回避する程度の回答をしてあげられたよ。彼を超える工学センスを持つ人間なんて、そこらじゅうにごろごろいるってことですな。自分の見識が ISAS 内どころか世の中的にも大したことがない、それを知らん井の中の蛙が素人判断で ISAS の意思決定を邪魔してたのかと思うと、ほんとゾッとする。

「怪文書」の人よ。お願いだから工学の学習を丁稚からやってくれ。ヤスリがけと六角レンチの回し方から始めてもらわんと、とてもとても使い物にならん。それが嫌なら一刻も早く失脚してくれ。

銘板
2010.7.10 土曜
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プロトタイプ のぞみ

そういえば、怪文書ネタが面白かったから取り上げてしまったけど、7月4日は大事な日だったわ。

アメリカの独立記念日ではあるけど、それには関係ない。NASA はよくこの日を探査計画の記念日に設定して納税者サービスをするけど、おいらアメリカ人じゃないから関係ない。

1998年7月4日午前3時26分、火星探査機 "PLANET-B" 打ち上げ。日本初の惑星探査機を載せた M-V ロケット2号機は満天の星空に駆け上がり、第3段の噴射炎が真空空間でクラゲのかさのように広がる様子までも、地上から双眼鏡でよく見えたという。軌道投入の成功後、その探査機は「のぞみ」と名付けられた。

火星探査機 のぞみ

のぞみ はロケットの制約から火星へは直接向かわず、月で2回、地球で1回のスイングバイをして加速することになってた。

月での2回のスイングバイは完璧。ソビエト、アメリカに次いで、日本は世界で3番目に月の裏側を撮影した国になった。下はその証拠写真。

月の裏側 by のぞみ

そして運命の地球スイングバイ。このときメインエンジンを併用してのパワースイングバイを行ったけど、推進剤バルブのトラブルで加速量が不足してしまった。次の日、追加のエンジン噴射で火星への軌道には乗れた。けどそのままだと、火星への衛星軌道投入のとき推進剤が足りなくなることが判明。必死の軌道計算の結果、火星への到着を4年遅らせて、その間に追加で地球スイングバイを2回行ってリカバーする計画が発案・採用された。

しかしさらに通信系と電源系にトラブルが発生。通信系は代替手段が見つかったけど、電源系は繰り返し何度もスイッチを入れて、回路をわざとショートさせて短絡部分を焼き切るという荒技しかなかった。これが成功しないと火星に着いても観測ができない。

電源系のトラブルの対策を進めつつの追加スイングバイは2回とも完全に成功。でも初心者の挑戦がすべてうまくいくほど宇宙は甘くない。回路ショート作戦のほうは裏目に出た。のぞみ の送信系統は完全に沈黙。以降、相互通信が回復することは二度となかった。

小惑星探査機 はやぶさ が打ち上げられたのは2003年5月9日。その年の大晦日、のぞみ のいる方向に停波信号が送られ、のぞみは 探査機としての使命から正式に解任された。長らく苛まされてきた苦しみから、この探査機はついに解放された。本懐を遂げられぬまま。のぞみ はおいらを含む27万人の署名とともに、今は火星の軌道近くの惑星間空間を、もう何の憂いもなく静かに飛んでる。

あの探査機の誕生日だった。今年で12歳か。もうそんなに経ったか。

葉書に手書きの署名応募を投函してから生命維持装置を止められるまでずっとずっと、のぞみ のことが心にあったよ。公式サイトにアクセスしては、更新されてないのを確認してため息をついてたよ(状況が危うくなってから、マスコミからの攻撃を避けるために情報を出さなくなった)。新鋭探査機 はやぶさ が飛び始めても気にも留めないほど、のぞみ のことだけしか考えてなかったよ。

計画断念は本気で悔しかった。悔しくて悔しくて悔しかった。でももういいんだ。はやぶさ が、かぐや が、あかつき が、IKAROS が、のぞみ の遺したものを全部受け継いだ。のぞみ はその後の冒険を成すための、必要な犠牲だった。

かぐや が撮りまくった月面のハイビジョン映像は、Google Earth の月球儀にこれでもかと埋め込まれてる。送られてきた膨大な観測データは今も解析中。

はやぶさ の功績は、もう今さらここで言わなくてもいいよね。宇宙や科学にあれほどまで疎い日本の政治家たちでさえ「偉業」と讃えた。そのくらいすごかった。

IKAROS は開発費がほかの探査機より1桁少ない小規模で短期のミッションだけど、成果は世界初の連続。日本だけでなく世界のこれからの惑星間航行に、はやぶさ と並んで影響を与え続けるはず。

あかつき が本領を発揮するのはこれから。日本の探査機にとって、惑星の衛星軌道に入るのは初めて。のぞみ が火星の衛星になれなかったから。でも全然不安を感じない。のぞみ、はやぶさ、かぐや の遺産を全部受け継いでるから。のぞみ が火星で成せなかった「比較惑星気象学」の創立を、金星で今度こそ果たしてくれる。これは希望じゃなく確信。

『恐るべき旅路』の受け売りみたいになっちゃうけど、のぞみ のときは経験が足りないのに、ひとつのプロジェクトにいろいろな要素を詰め込みすぎたんだと思う。実質的に日本の深宇宙探査機デビュー作なのに、あれもこれもと盛り込んだ上に厳しすぎる重量制限。それなのに計画の完璧な遂行を期待されてた。のぞみ にとっても、それを課した ISAS にとっても、当時は荷が重すぎたんだと思う。でもその塩梅加減を、のぞみ を実際に飛ばしてみてようやく掴めたんだと思う。で、以降も相変わらず詰め込み気味ではあるけど、よりツボを押さえた設計ができるようになったんじゃないかな。

のぞみ の前にも、宇宙研は「探査機」と呼べる宇宙機を4機、宇宙に送り出してる。ハレー彗星探査試験機 さきがけ(MS-T5)、ハレー彗星探査機 すいせい(PLANET-A)、工学実験衛星 ひてん(MUSES-A)、磁気圏尾部観測衛星 GEOTAIL。この4機がなければ のぞみ もなかったんだろうけど、それでも のぞみ は日本の深宇宙探査機のプロトタイプなんだと思う。

のぞみ 以前と以後の最大の違いは、ごっついメインエンジンがあるかどうか。

のぞみ より前の探査機は、基本的にそれまでの地球周回衛星の構造を踏襲してた。全部、円筒型のスピン安定式。衛星の形の中でもかなり保守的。のぞみ もスピン安定式だけど、太陽電池は探査機の側面を占領するんじゃなくパドルで展開する形にして、側面を様々な機器に解放した。そこらへんに進化の様子を汲み取れる。

のぞみ より前の日本の探査機には姿勢制御用のスラスタはあったけど、「メインエンジン」と呼べるものは付いてなかった。さきがけ と すいせい はほとんどロケットが決めた軌道をなぞった。ひてん と GEOTAIL は月スイングバイを何度もこなして大胆に軌道を変えたけど、そのための軌道の微調整には姿勢制御スラスタのみを使ったらしい。

自らの軌道を大幅に変えるためのメインエンジンに相当するものが、のぞみ から後のすべての惑星間空間を飛ぶ宇宙機に装備されてる。かぐや と あかつき には のぞみ と同じ形式の、大出力の化学エンジン。はやぶさ のイオンエンジンの出力は姿勢制御スラスタよりはるかに小さいけど、燃費は10倍いいんで、軌道変換可能量は莫大になるね。立派な、というかそれ以上の「メインエンジン」だよ。

IKAROS ってそういえばメインエンジンないよなーと一瞬思ったけど、IKAROS が IKAROS たりうる 14.1m 四方の巨大な太陽帆、これがメインの推進装置そのものだったわ。はやぶさ のエンジン3基全開時の21分の1の力しか出ないけど(恐らく宇宙機の推進機関として最小の出力)、軌道変換可能量は太陽の光ある限り、IKAROS が生きてる限り、無限大。パワーは史上最弱でも燃費性能は史上最強のメインエンジンだわ。

んで、まさに、日本の深宇宙探査機として初めて搭載したごっついメインエンジン、これに発生したトラブルが のぞみ の苦難の道の始まりだった。ISAS じゃないけど、その3年前は NASDA の技術試験衛星 きく6号のアポジモーター(メインエンジンに相当)がうまく作動しなくて、静止軌道の投入に失敗した(これも推進剤バルブの不具合だった)。のぞみ のバルブはアメリカ製だったけど、無理のある改造の無理を過小評価してメーカーに要求したり、事前にあまり現状にそぐわない試験をしてかえって傷めてしまったりとか、そういう経験不足・認識不足がトラブルの原因だったとされてるそうで。つまり1990年代当時の日本のメインエンジンの推進剤バルブの技術と知見は、そのくらいのレベルだったってことかと。

のぞみ の前まで、ISAS の宇宙機運用の経験はほとんど、地球周回軌道という宇宙の浅瀬を泳ぐ程度だった。その前に深宇宙とお月様に飛ばした4つの例は、設計として冒険を避けた。そしてうまくいった。GEOTAIL に至ってはいまだに運用中だったりする。それで認識の甘かった部分が甘いままだったのかと。

てなことで、のぞみ って今の日本の深宇宙機の正統なプロトタイプだとおいらは思ってるよ。『恐るべき旅路』によると、関係者が「工学実証機としては元を取った」と言ったそうだ。そこを読んだ時はなんだか負け惜しみを聞いちゃったみたいな感じがして「いやもう何も言わんでくれ」と思ったんだけど、それは負け惜しみじゃなく本当だった。彼らがそれを本当にした。

スイングバイ技術実証機 ひてん で得たスイングバイ技術がその後、GEOTAIL、のぞみ、はやぶさ を実現した。それと同じく、のぞみ で得た深宇宙航行の経験と技術が、その後の探査機全部に生きてる。

逆説的だけど、もし運良く のぞみ にトラブルが発生してなかったら、例えば推進剤バルブが火星の衛星軌道投入までたまたま何ともなかったら、例えば S バンド送信系がたまたま落ちなかったら、例えば電源系回路がたまたまショートしなかったら、そこらがたまたま全部、のぞみ の運用終了まで運良くもってしまってたら……。その後の探査機はみんなもっと弱い体になってたはず。完璧以上の運用をやってのけた かぐや はあそこまでやれたろうか。ギリギリの辛勝だった はやぶさ は地球へ帰れたろうか。

確かに のぞみ の、肩書きの「火星探査機」としての結果はつらかった。けど遺してくれたものは大切に、そして最大限に活かされとりますなぁ。

んじゃ最後にのぞみ の公式サイトの紹介でも。サイトの造りが90年代のままだ。あの頃、ISAS は公式サイトを手作りしてたんだよな(インターネットが日本で普及しだしたあたりで、サイト作成業者が当時はほとんど存在しなかったから)。その手作りサイトに行っては、のぞみ の現状を見てワクワクしたりハラハラしたり、更新されなくなって不安になって、それでもつないではため息をついてたあの頃のままだ……(涙)

それと、的川先生がまとめた『『のぞみ』が遺したもの』も。こっちは JAXA フォーマットのサイトになってきちんと公開され続けてる。

ISAS の中で、のぞみ は本当に大切に扱われてるんだね。明治時代なら確実に「のぞみ神社」が建立されてるぞw

銘板
2010.7.11 日曜
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のぞみ の財産

のぞみ の技術遺産については昨日書いたとおり。今日は別な「財産」について。

打ち上げ成功後に「のぞみ」と名付けられることになる PLANET-B 計画で、日本では初めて、一般の人たちから署名を集めた。「あなたも一緒に火星に行きませんか?」との触れ込みで。おいらも応募した。こういうのを初めてやったのは NASA/ESA の土星探査機カッシーニ。ISAS の広報責任者の的川先生がこれに目を付けて、のぞみ で実施した。世界中から27万人もの署名が集まった。

ISAS の内部で、はじめは「仕事を増やすだけ」と面倒がられてたこの広報イベントが「中の人」たちにどんな変革をもたらしたのかは、『恐るべき旅路』に詳しく書かれてる。

今はインターネットで署名やメッセージを募集してるから、プレートへの刻印までほぼ全部自動作業でこなしてしまうはず(葉書での募集もやってはいるけど、ほとんどネット経由らしい)。けど のぞみ で募集してたとき(1996〜1997年)はインターネットはあったものの、各家庭に普及してるとは言いがたい状況。てことで葉書での応募が主だった。それをひとつひとつハサミで切り抜いては台紙に貼って縮小コピー、という作業を延々とやって、のぞみ とは関係のない部署の人たちにも協力してもらって、ようやく期限に間に合わせたとか。

おいらは名前だけ出したんだけど、葉書の余白に応援のメッセージを書いた方々も多かったらしい。そのごく一部が、当時の のぞみ の公式サイトで紹介されてた。「宇宙研いけてるね!」というのがあったなぁw ほんとそうだよ。あと、美しい短歌を詠まれ方もいらした。

前に のぞみ について取材されたどなたかが書かれてたんだけど、のぞみ の署名について何か見せてくれませんかとお願いしたところ、倉庫に案内されたそうだ。そして「宇宙研の財産です」との言葉とともに開けられたドアの向こうには、うずたかく積み上げられた大量の段ボール箱。その中には切り抜かれた後の葉書が満載だったそうな。大事にしてもらってることが分かって嬉しかったよ(泣)。おいらが出したのもそこに眠ってるんだー(これはいい自慢のタネ)。

ただこれ、PLANET-B 計画がかなり進んでから的川先生の思いつきで急いで始めた計画だから、ちょっと不完全なところもあって。応募者に証明書が発行されなかったんですわ。正直、アナログベースの応募と処理で、そこまでは物理的に対応できなかったんだと思う。ISAS って今もそうだけど、200人規模の小さな宇宙組織だからなぁ(当時は JAXA 発足前で、ISAS は宇宙機関として独立してた。衛星もロケットも製作・運用する組織としては世界最小だったかと)。

ISAS 内でも応募者のデータベースがあるのかどうか。実際に のぞみ に積まれたネームプレートは、スピン安定で回転バランスを取るおもりとしての役割があった。単体としての機能は何もないただのアルミ版。まったく同じコピーを作る手間もコストもそんなにかからなかったろうから、たぶん同じものが ISAS に保管されてると思う。でも一般の応募者が確かめるすべは、「自分が覚えている」ことしかない。

のぞみ の打ち上げから12年も経った。

応募者27万人の中にはもう亡くなった方もいらっしゃるだろう。それでも、そのことを記憶し続けることはまた、のぞみ を思い出し続けることにもなる。のぞみは 探査機としては7年前に死んでしまった。プロジェクトチームも解散した。でも応募者の最後の一人がこの世を去る時まで、のぞみ は生き続けるってことでもある、と信じたいところですな。それもまた確かめる手段がないんだけど、それはそれでいいじゃないかって気もする。静かな感じが、今の のぞみ に似つかわしいし。

〓ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ⊂<回 ←仕切りジッパー

キセノンP の名曲『はやぶさ Welcome Back Version(ニコニコ動画) の歌詞に のぞみ はカメオ出演したよ。

高い空から見護る だいち
彼方で永眠(ねむ)る のぞみ
今空高く翔(か)ける あかつき
明日を支える きぼう

ありがとう……のぞみ を覚えていてくれて(感涙)

銘板
2010.7.12 月曜
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惑星探査機で裏側お月見

前に はやぶさ の地球スイングバイ時の地球の画像を紹介したことがあったけど(2009.12.28)、お月さまも撮ってたんだね。公式発表はコチラ

はやぶさが撮ったお月様

のぞみ も月スイングバイのとき、月の裏側の写真を撮った。はやぶさ は月でスイングバイしなかったんで、距離が遠くて写真も小さい。どのくらい離れてたかっつうと約 34万km。地球と月の間の距離(約38万km)の9割くらい。うまい具合に月が撮影可能な距離にあって、しかも裏側が はやぶさ を向いてたわけですな。

日本は月の裏側を撮った3番目の国で、2つの探査機が1回ずつ撮った。この2回はどっちも惑星探査機が目的地に行きがてら、ついでに撮ったってのがなんだか面白くて。旅の途中のスナップ写真だね。月探査機 かぐや が打ち上げられたのはこの3年後。かぐや とは別の月探査機 LUNAR-A は開発が延び延びで、このときはいつ打ち上げられるか分からない状況だった(結局ポシャった)。

ついでといえば、はやぶさ は地球スイングバイでは日本の上空にかなり近づいた。狙ったわけじゃなくたまたまそうなっただけなんだけど、それで日本の写真を撮ったらば(下の画像)、台風と雲だらけでなんだかよく分からん画像。関係者はちょっとがっかりだったらしい。一応、左側に北海道の一部と北方領土が見えるね。その下の方に黄海、それを囲む朝鮮半島の韓国のあたりと中国の山東半島が写ってる。

はやぶさ 台風を撮影

で、まことしやかに言われてる話として、このときは日本の気象衛星の空白期で、台風情報を出すのにデータが必要だった気象庁で大いに役立ったとか。

確かに ひまわり5号に続く次の気象衛星は1999年に打ち上げに失敗。ひまわり5号は延命策を取り続けたけど2003年に寿命が来て観測を停止。後継機の打ち上げ失敗後に大急ぎで代わりを発注したけど、アメリカの衛星メーカーが経営破綻したゴタゴタで調達が大幅に遅れてた。そんな時期だった。代替機の ひまわり6号が打ち上げられたのが2005年。5号から6号まで2年の空白期間があった。そんな空白期のど真ん中、2004年に はやぶさ はスイングバイのために地球に接近、件の台風写真を送ってきた、というわけ。タイミング的には噂は見事に合致。

けどその間はアメリカのスペアの気象衛星 "GOES-9" を貸してもらって気象データを取り続けたから、まぁ はやぶさ が送ってきた画像は補完データとして少し役立ったくらいじゃなかったのかと。気象衛星のデータは赤外線撮像が主なんだけど、はやぶさ のは可視光撮像だから置き換えられるものじゃなさそうだし。

ここらは伝説扱いってことでひとつ (^_^;)

銘板
2010.7.13 火曜
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衛星商売

昨日のネタから続けたり。

日本の衛星産業はこのときの「ひまわり騒動」で、「災い転じて」というか「塞翁が馬」というか。実用衛星の開発で日本は長らくアメリカに無茶な要求を呑まされ続けてきたけど、数年前からその風向きが変わったみたいで。日米の宇宙産業の自爆合戦の結果として。

1990年、日本政府はアメリカ政府に「スーバー301条」とかいう脅しをちらつかされたうえで無茶な要求を受け入れて、ハイテク関係の国内メーカー保護政策を続けられなくなった。これに応じないとアメリカへの自動車輸出に高率な関税をかけるとか、そういう脅し文句だったような。対象は全分野じゃなく、 特定分野の狙い撃ちだった。

で、「市場開放しろ」とピンポイント攻撃されたのが3つ。そういやアメリカは親のブッシュ政権の時代か。あの人は日本に対して厳しかったなぁ。ビッグ3の幹部を引き連れて来日して、「クルマの部品を買ってくれ」と要求するっつう恥も外聞もないこともやったけどね。アメリカ国内でも「物乞い外交だなんて」と呆れられたりもして。

つかトヨタは当時既にジャストインタイム(トヨタの工場内には部品在庫を置かず、部品メーカーに必要個数ぶんのみ指定時間に届けさせる方式。これで倉庫代と在庫管理費用を浮かせる)をやってて、輸入部品の検討にはニベもなかったような。

んで以下がそんな前後の見境がなくなった、その当時のアメリカの無茶ブリ(たぶんその一部だと思う)。

OS については、当時の日本政府は、東大の坂村健教授が提唱した "TRON" という規格に沿ったものを採用するつもりだった。役所でも、特に教育関係でも。それがアメリカが横車を押して、マイクロソフトの OS が取って代わった。MS-DOS かな。今、役所でも学校でも一般の職場でも、使ってる OS は Windows だよね。OS ってのはいったんあるもので慣れると、コンピュータオタクでもない限りなかなか乗り換えられないもの。てことで、学校で採用する OS が社会で普及する OS ってことになる。ここをやられた。まだ Linux も FreeBSD もなかったしな。Mac は当時めちゃめちゃ高かったし。

結局 TRON はパソコンの OS としてはうまいこと普及できなかった感じ。知名度も低そうだし。「超漢字」っつう商品名で今も売ってるけど、Windows の上に乗っかって動かす OS になってしまった(超漢字V のこと)。Windows の充実のプリンタドライバを利用したくてそうしたらしいけど、なんかちょっとなーって気がして。っつーか単独で起動もできない OS なんて OS って言えるんか?

自衛隊の支援戦闘機は、初めは日本が 100% 自力で開発するつもりだった。そこに横槍を入れたアメリカは F-16 を売りつけて片付けるつもりだったけど、日本側が必死に抵抗。F-16 をベースにした共同開発で政治的に決着。今の F-2 支援戦闘機になった。見た目 F-16 と区別がつかんけどね。

F-2 支援戦闘機

この外交交渉のあたり、なめてた日本が案外イエスマンじゃなくてブチキレたアメリカの役人、すげー暴言を吐いたよ。「世界最高の戦闘機を買わないなんて日本は愚かだ」とか。バカにされながらモノを買わされるってほどの屈辱はないね。今よりずっとアメリカの犬だった当時の日本としては、共同開発はまあまあ現実的な落としどころだったかと。

そして実用衛星。これ、旧 NASDA が波をモロにかぶった。ここを市場開放するってのは、日本製より技術ができあがって値段が安くなってるアメリカ製を買わされるってこと。けどなぜか ISAS の科学衛星はこの範囲からは除外されて、それまでと同じく国内メーカーに発注できた。市場規模的においしいところだけ狙われたんだと思う。

実用衛星とは何かというと、気象衛星、地球観測衛星、放送衛星、通信衛星とかそのあたり。科学衛星より大型で、そのぶんビジネスもでっかい。ものによってはデータを売って商売することもできる。そういう衛星。

宇宙工学は経験工学でもある(まぁどの工学もだけど)。実地でのノウハウをいかに積むか、積んだノウハウをいかに使いこなすかが開発のツボになる。今もだけど、1990年代までは特に、日本とアメリカの宇宙技術の経験の差は大きかった。これを自由競争にすると、日本の衛星産業が潰されるのは目に見えてた。そして実際に壊滅的状況に追いやられた。

一番のお得意様になるはずだった NTT や NHK は、衛星調達を早々にアメリカのメーカーに発注するようになった。客の意向としても、技術的に未熟なうえに値段が高く付く日本製は選びにくかった。それを政府や省庁が「日本の宇宙開発を助けてくれ」とお願いして、その前までは国産の衛星を使ってきてた。けど政官は国内のユーザにそのお願いをできなくなった。そしたらなるようにしかならなくなった、ということで。

国内メーカーの衛星開発部門は存亡の危機に立たされた。

旧 NASDA はそれでも抜け道を見つけた。それが「技術試験衛星は実用衛星ではない」という理屈。

旧 NASDA が日本国内で開発するほとんどの衛星の名目を「技術試験衛星」にして、必ず技術的に先進的な内容を盛り込んだ衛星とプロジェクトを提唱して、これでメーカーを生き長らえされた。けど抜け道は抜け道。決して本道じゃない。国内の衛星メーカーは官需だけで日陰者として細々と食いつないでる、というのが実情だった。

で、ひまわり騒動。スーパー301条の発行前から、ひまわりシリーズはずっとアメリカのメーカーに発注してた。その流れで、今までとは構造も規模も違う大型の次期気象衛星(正式な開発名は「運輸多目的衛星」)もアメリカのスペースシステム・ロラール社に発注。ひまわり5号の後継機で、1999年打ち上げ。きちんと完成して種子島に届けられたものの、まさかの H-II ロケット8号機の打ち上げ失敗で太平洋に沈んだ。

すぐさま同じものをロラールに再発注。けど製作途中で、これまたまさかのロラール経営破綻。もうなんだかよく分からないカオスに突入。それでも発注したわけだし急いでもいるわけで、衛星の完成と引き渡しを催促しますな。

けどそういう状況の会社が相手だってこともあって、何をするにもいちいちアメリカの行政の了解が必要。あの手この手で働きかけてようやく完成させたものの(確か、衛星がきちんと完成するまで会社の機能を保持するよう訴訟まで起こしてたような。前金を払ったりもしたような)、結局、アジア・オセアニア地域の気象観測の連続性に2年もの空白期間が発生してしまった(その間を埋めた、アメリカから借りた気象衛星 GOES-9 からの気象データは、ひまわり シリーズとは規格が違ってた)。

日本政府と関連省庁は、今までの認識が甘かったことをこれでやっと実感した(ていうか主に大蔵省がようやく理解してくれた)。「ロケットの打ち上げや衛星の運用は『完璧で当たり前』ではなく、必ず失敗や故障のリスクがある。そのときのためのパックアップ手段を確保する必要がある」と。

宇宙関係者の間じゃ常識でも、そこからきちんと外に伝わってなかったし、聞くべき人も聞く耳を持ってなかった。旧 NASDA の衛星打ち上げがそれまでほとんど失敗がなかったのも、悪い方にというかユーザーの都合のいい方向に取られてたんじゃないかと。その半年前にも通信技術衛星 かけはし の打ち上げ失敗があったけど、どうも政府も NASDA も「何かの間違い」程度で片付けたい雰囲気があったしな。

で、ひまわり騒動が起きた原因究明と再発防止対策が練られて、以下の結論・見解が出た。

この顛末から政府はそれまでの方針を変えて、気象衛星は2機体制で行くことにした。アメリカに発注してしまった代替衛星はそのまま打ち上げ直すとして、そのバックアップとして、同じ構造・機能の衛星を国産で作って打ち上げる、と。そしてそれは実現した。今はひまわり6号と7号の2機体制(メインとバックアップ)で、アジア・オセアニア地域の気象データが毎日送られてきてる。おお、まさに今月の1日から7号がオンステージになってたのか。てことで今度は6号が7号のバックアップに回ってるんだな。

んでちょっとおいらははっきり把握してないことなんだけど、気象庁の予算は ひまわり5号の頃から特に増えてないと思うんだ。それなのに2機体制をやっていけてるのはどういうカラクリなんだと。一応、今の運輸多目的衛星(MTSAT)は国土交通省の航空管制業務も担ってる。触れ込みとしては、これで太平洋上空を飛ぶ旅客機の航路の間合いを半分に詰められるんで、それで航空会社や空港は効率的な運用ができる、というものだった。

けどどうも欧米で既に運用してた、これとは違う規格の方が人気があったらしい。MTSAT の航空管制の新機能には客がろくに付かず、次の ひまわり8号じゃ気象業務のみとになった。撤退ですな。

んでまぁ航空管制業務からの撤退が決まる前までは、この高価な衛星のもろもろの費用は国土交通省と気象庁で折半してた。たぶん ひまわり6号と7号が退役するまで折半だと思うけど。てことで気象庁の予算でやりくりできた。けど衛星2機だから、ひまわり5号までより負担が増えたんじゃないかな。さらに8号は気象庁が単独で全部やることが決まってる。

航空管制の機器がなくなって小型化・簡素化されそうだとはいえ、6号と7号は気象データ取得の範囲も精度も頻度も、5号と比べて格段に上がってる。性能の逆戻りはできなさそう。てことは、やっぱし気象庁にとっては負担増のはず。しかも2機体制。8号の調達だけでも大変そうだけど、ペアを組むはずの9号はどうなるんだ?(つうか周辺国に気象データを無料配信してるんでかなりの国際貢献だと思うんだけど、なんで政府はそれに見合った予算を付けないかね)

衛星の長寿命化の技術が開発されてきてるから、10年以上持たせられればどうにかなるってあたりかなぁ。ひまわり6号・7号ははじめから10年間の運用が見込まれてる機体だしさ。今のとこ特に問題もないみたいだし。

衛星の寿命はどういう仕組みか。ひまわりシリーズは静止衛星。高度35,800kmの円軌道を24時間周期で回ってて、いつも地球の同じ面を見てる。で、いったん軌道投入できればあとは放っておいてもいいような気がするけど、地球の重力が1点からじゃなく大きさを持った物体から出てて、そのうえ場所によって重力の強さがばらけてて、しかもそれがぐるぐる自転してるってことから、ほっとくと軌道がだんだんブレてくるんだそうで(そのあたりメカニズムはちょっと自信なし)。

南北方向にゆらゆら動き出すんだそうで。振幅が大きくなる一方なんだそうで。軌道傾斜角が、はじめはゼロだったのが少しずつ傾いてくってことですな。なもんだから、ときどき南北方向の姿勢制御スラスタを使ってそのブレを直すんですな。てことで、スラスタの推進剤残量が静止衛星の寿命を決める。

ちょい脱線。この制約条件を緩和するのが、燃費効率が10倍のイオンエンジン。欧米じゃ静止衛星の南北制御用が実用化されてる。けどイオンエンジンは使ってると劣化していく。欧米式の場合、イオン発生のための電極がダメになるらしい。てことで静止衛星のさらなる長寿命化のためには、はやぶさ で世界で初めて実用化された「マイクロ波方式イオンエンジン」の出番なんじゃないかと。イオン源の電極がないから、それが原因での故障はない。それで寿命が飛躍的に伸びた。そしたらもっと寿命を延ばすには、別な消耗品の中和器、これの保ち具合を考えればいいことになった。

中和器の劣化と寿命、はやぶさ の運用で何回か問題になったよね。で、最後は生きてる中和器とイオン源とを組み合わせたニコイチ運転で難局を切り抜けた。

おいらの素人考え。ひとつのイオンエンジンに中和器を2個付ければいいんじゃないかと。それだけで静止衛星の寿命が2倍になるんじゃないかと。正攻法の技術開発で1個の中和器の寿命そのものを伸ばすのが一番いいけど、手っ取り早い改良として、バックアップをもう1個足すのもアリなんじゃないかと。それだけで貴重な気象衛星の寿命が何年も延びるのなら、やって損はないような。

けど衛星の長寿命化で開発コストを薄めるのって有効だと思うけど、それは衛星が故障したらすぐさまバックアップに切り替えられての話。故障が恒久的なものならバックアップ衛星をメインにしてしまって、すぐに次の衛星を調達できての話。やっぱし詰まるところ、気象庁がもっと金持ちならな〜ってことに尽きるわ。

んで話が大幅に逸れてしまったわけで(汗)。ひまわり6号の調達はすごく面倒だった上に時間もかかった。6号の運用開始までアメリカに貸してもらった GOES-9 は、借りといてなんだけど、あまり使い勝手のいい気象衛星じゃなかったそうな。気象庁の職員がデータを使いこなせるようになるまで、かなり大変な思いをしたらしい。

もうひとつよく分からんかった展開があって。

「ひまわり6号にはバックアップを付ける」と決めたものの、メーカーは6号を作ってる最中に倒産してしまった。そんで7号の発注先はどこになったかっつうと三菱電機。アメリカの圧力があったはずなのに、アメリカのほかのメーカーじゃなく、外国のどのメーカーでもなく、三菱に決まった。ここのからくりがまたよく分からんくて。アメリカ側の大義名分は「公正な自由競争」なんで、きっと公正な入札で三菱が落札したんだろうけど。ロラールから設計書を入手できたのかな。それなら開発費用がグッと落ちますな。

入札は提示価格が安いだけじゃ取れないもの。要求した仕様と性能、それに耐用年数を満たせる保証や信頼性が必須。いくら安くても変なモノを掴まされるかもしれないんじゃ、おっかなくて契約する気になれませんわな。三菱電機が ひまわり7号で勝ったってことは、それなりの実績と信頼性が認められたってこと。それは外圧よけの「技術試験衛星」戦術が活きてきたってことかと。

日本の衛星のメーカーはほかに NEC と東芝の合弁会社があるけど、実質三菱が一人勝ち状態。これが問題になってるらしい(三菱は情報収集衛星も押さえてるからな)。でもとりあえず三菱はあの閉塞状況から一抜けした。海外との商談が進んでるみたいだよ。それまでは実用衛星の受注経験がないってことで、外国の入札に参加しても話さえ聞いてもらえなかったそうだけど。

NEC の方は、はやぶさ のイオンエンジンが輸出を前提に海外から注目されてる。こっちはこっちで、政治的な保護じゃなく技術の本道で活路を開いた(科学衛星/探査機はアメリカの圧力の対象外品目だったんで、国際入札する必要がなかった)。まあ NEC の本社の方か東芝との合弁会社の方か知らないけど、とりあえず NEC がやってくれましたってことで、本社にとっても合弁会社にとってもいい方向なニュースだよね。

世界の宇宙ビジネスは相変わらず市場規模の拡大が緩くて厳しいものがあるけど、日本の衛星技術はようやく商売として動き出したってことで。

銘板左端銘板銘板右端

あとは商業打ち上げか。

H-IIA/H-IIB ロケットのさらなるコストダウンの鍵は、これから開発に入りそうな小型ロケットのイプシロンが握ってるっぽい。この開発で得られるはずの省力化プロセスが H-IIA/H-IIB に応用されるのに期待ですな。

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2010.7.14 水曜
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注文がないから回らない。回らないから注文がない。

聞くところだと、これまで猛威を振るってた中国とロシアのロケットの安値攻勢、一段落してきてるっぽい。ロシアは基本的に値上がりの方向(ルーブルが高いのかな)で、さらに、ロコットみたいな ICBM からの転用ロケットも、状態のいい在庫から使ってきたもんで、少しずつ信頼性が危うくなってきてるとか。1万発の在庫があるのが売りだったのにな(どんだけ地球を滅ぼす気だったんだ)。有人打ち上げの費用も乗客一人当たり5割ほど上げてきたのは、スペースシャトルが退役して ISS 参加各国の足元を露骨に見たからだと思ってた。けど最近ドルが安いから、対ドルのルーブル高が真相かも。

中国の要因はどうなんだろ。有人打ち上げで信用も高まってるはずなのに。去年、インドネシアから受注した商業打ち上げで静止トランスファ軌道への投入に失敗したのが原因かな。その衛星は自前のエンジンで静止軌道にたどり着けたけど(てことは中国のロケット、かなり惜しいところでトラブったんだな)、運用中の南北制御に使うぶんの推進剤にまで手を付けてしまったんで、これからの寿命が心配とか。

っつうか中国のロケットの人気が落ちてるって噂がもし本当で原因がそうだとしたら、今はロケットの打ち上げって1回の失敗が命取りになるんだね。しかも失敗としては軽い方なのに。

日本の H-IIA は17回中16回成功。成功率は 94.1%。国際的な目安は 95% だから、あと3回連続成功すれば到達するんだけど、95% 以上をキープするには、それからさらに19回連続で成功し続けなきゃなんない。正直、ラクじゃないですなぁ。90年代の目安は 90% だった。それならもう余裕でクリアしてるんだけどね。

つうか日本のロケットは商用を狙ってる割には打ち上げ頻度が少なくてな。その実績の少なさも問題だと思う。H-IIA は2001年デビューで、たった17機打ち上げるのに9年もかかってるよ。頻度が上がれば量産効果で単価も下がるはずだし。

ていうか JAXA の予算、最近は国際宇宙ステーション(ISS)関連に相当取られてるよな。ISS への積極参加はいいことだと思うけど、ほかの諸々がかなり圧迫されてる気がする。つうか ISS 関係でも、去年から年1回で H-IIB ロケットで無人貨物船 HTV を打ち上げることになりましたな。それを勘定に入れてもまだ足りんと。官需増での打ち上げ回数増は当てにできんですな。

やっぱし国際市場の商用衛星なり外国政府の衛星を取り込まなきゃ打ち上げ回数を増やせないわけで、そうできないから国際市場での人気も出ないわけで。それで打ち上げ回数をこなせてないからコストダウンもはかどらないわけで。結局ラーメン屋や居酒屋と同じく、回転率が商売を決めるってことですかね。

今ちょっと外国の商用ロケットを調べたら、ヨーロッパのアリアン V が45回打ち上げの41回成功。中国の長征ロケットは初期のひどかった頃は知らんけど、1996年10月から2009年4月までで、連続75回成功してる。回数が違いますですよ。ただ、アリアン V の成功率が 91.1% と低いのが意外。それでもシェア1位で大量のバックオーダーを抱えてるってのは、大型ロケットで2機以上の衛星をまとめて打ち上げて単価を安くするほかに、何か理由があるんじゃないかな。とりあえず過去の実績から来る老舗の信頼性が大きいんだろうけど、松浦晋也氏は射場の緯度(=軌道傾斜角)を問題に挙げてたっけ。

銘板
2010.7.15 木曜
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そもそもでどうだ 1

さて松浦氏の言う、射場の軌道傾斜角の問題とは。これ解決案ともども、日経 BP のコラムに詳しく書いておられる。

日本の種子島(北緯約30°)から静止衛星を打ち上げると、衛星が静止トランスファ軌道(ここまでロケットが運ぶ)から静止軌道に移るとき、その衛星は細長い楕円軌道の、地球から一番遠いところ(遠地点)で、自前のエンジンで 秒速 1.8km 加速しなきゃいかん。ところがヨーロッパの打ち上げ基地は仏領ギアナにある。正確には北緯6°だけど、まぁ大体0°として、赤道直下。これだと静止衛星の加速量は秒速 1.5km で済む。秒速 0.3km っつうと時速 1,080km。マッハ0.88。国際線の旅客機の巡航速度くらい。

「なんだそのくらいか」と思いたいけどそうもいかない。宇宙には空気がないから、ロケットエンジンには燃料のほかに酸化剤が必要(両方合わせて「推進剤」)。そのぶんがかさばって無視できないんですな。具体的に何が不利になるかっつうと、あるロケットで打ち上げられる衛星のサイズの制限がきつくなる。あるいは、推進剤を同じだけ積んだ場合、静止衛星の南北制御に使うぶんが少なくなる → 寿命が短くなる。

日本の H-IIA に載せるかヨーロッパのアリアン V に載せるかは、種子島から飛ばすかギアナから飛ばすかの違いで、結果としてこんな差がどうしても出てしまう。その原因が、射場の緯度の違いから来てる、ということ。それに赤道に近い方が地球の自転速度で下駄を履かせる量が大きいから、ここでも打ち上げ性能に差が出てしまう。

ということで、この秒速 0.3km の差を少しでも埋めればヨーロッパに対抗できるかも、というのが松浦氏のコラムの筋書き。具体的には、静止遷移(トランスファ)軌道上の遠地点で、ある程度ロケット側で加速してやろう、というもの。ただこれには問題があって、静止トランスファ軌道の地球に一番近いところ(近地点)の高度が 2,000km 以上になってしまう。これはちょいとまずい気がする。

静止トランスファ軌道
図は Wikipedia 記事「静止トランスファ軌道」から

なんでまずいのか。そうなると H-IIA ロケットの2段目は半永久的に地球に落ちてこないで、いつかほかの衛星とぶつかって大事故を起こすかも。そのときスペースデブリ(破片ですな)がたくさん出て、そいつらがほかの衛星にぶつかって故障を引き起こすかも。ていうかそもそも H-IIA の2段目自体が大型スペースデブリ。ここが問題。

現行の打ち上げ行程だと、近地点高度は 200km 台。この高さには薄いけど大気が存在してて、2段目の燃え殻は近地点を通るたびに薄い大気に引っかかって、楕円軌道の輪が小さくなってくる(遠地点高度が落ちてくる)。もとの遠地点が近地点と同じ高さにまで落ちればあとは早い。常に大気の抵抗を受けて渦巻き状に高度が下がっていって、放っとくだけで地球大気に再突入して焼却処分できる。打ち上げから10年かそれ以上かかるけど、ゴミ処理問題をちゃんとやれてる。

これが近地点高度が 2000km ともなると、大気の抵抗を受けることがなくなる。半永久的に、高度 2,000〜35,800km の間の楕円軌道を回り続ける。この方式の打ち上げを続けるたびに、こんな大型スペースデブリの数が1個ずつ増え続ける。減らない。

そんな問題があるけど、松浦氏の案をやると、種子島からの H-IIA 商業打ち上げの競争力が付くわけで。ゴミ処理は打ち上げ業者や衛星所有者の責任ではあるけど、今のとこ義務ではないらしい。だからこの方法でも、現段階じゃ違法とかの問題にはならないと思う。もし実害が出たらそのときにできる限りの対応する、というスタンスかな。今の技術じゃ、被害者に補償金を支払う以外に対応のしようがないんだけどさ。

あと技術的な問題として、H-IIA の2段目の燃料は液体水素で、これ沸点が低くてどんどん蒸発していくもんだから、打ち上げから遠地点に到達するまでタンク内に残ってるのか、というあたり。静止トランスファ軌道の周期は大体10時間だから、近地点から遠地点までの半周期の5時間後に充分な量があるのか?(いやない)ってことだね。

そのことで、おいらひとつ別な案を持ってるんだが。まぁ松浦案と一部かぶるんだけど。

打ち上げから5時間後まで充分な燃料が H-IIA の2段目に充分に残ってるとして、遠地点での H-IIA 2段目キックマニューバを、軌道傾斜角だけを変える方向でやったらどうかと。30°を0°に。で、遠地点速度は同じに保つ。つまりアリアンの静止トランスファ軌道と同じにもっていく。そうすると衛星側で必要な加速量もアリアンと同じになる。

松浦案は「軌道傾斜角が20°程度にしか減らない代わりに、静止軌道投入への加速量の水平方向成分が下がって、その方向への加速はアリアンとの差が少なくなる」と言ってるような気がするんだけど、軌道傾斜角が残ったまま遠地点速度を上げてしまうと、南北方向の速度ベクトルを消すのに余分にエネルギーが必要になってしまう気がして。軌道傾斜角が30°から20°に減るから相殺されるのかな。

おいらにはちょっとメリットが分かりにくくて。それよりだったら、上に書いた軌道傾斜角だけ0°にする方が話が簡単なような気がして。計算してないから何とも言えんけど。この方式のメリットは、近地点高度が変わらない → H-IIA 2段目の燃え殻は数十年で大気圏に再突入・消滅するんでデブリの元凶にならない、ってとこ。

松浦案と共通の問題点はやっぱし、打ち上げから5時間後に静止トランスファ軌道の遠地点に到達した時点で、蒸発を免れた液体水素燃料がどんだけ残ってるかってとこ。ロケットには冷凍機は積んでない。アルミ合金のタンクと胴体を断熱材で巻いてあるだけ。燃料注入時で既に沸点近くだろうから、とにかく蒸発する。液体が気化するとタンクの内圧が高くなるんで、気化した余分な水素は逐次、宇宙空間に捨てるんだろうと思う。もったいないけどしょうがない。あと推進剤を残すんだから、そのぶん運べる衛星は軽くなる。

でさ、思い出すのは、そもそも H-IIA ロケットの2段目エンジンが再々着火機能を搭載した理由。先代の H-II だと再着火までしかできなかった。まぁ再着火で普通の静止衛星打ち上げは間に合うんだけど、なんでそこまで欲張ったか。

研究時のスタッフの発案を、開発責任者の五代富文氏が気に入ったことから実現した機能なんだそうで。そのアイデアとは「2段目が再々着火できるとそのままアポジモーターとして使えるので、衛星にエンジンが不要になる」というもの。

静止衛星の打ち上げでのロケットの役割は、静止トランスファ軌道まで運ぶこと。これ静止軌道に行くまでの途中の軌道。そこから静止軌道までは衛星が自前のロケットエンジンを噴かして、自力で飛んでいかなきゃなんない。だから「打ち上げ成功、軌道投入失敗」っつう、一般社会にとって分かりにくい事態が発生したりするんだわ。しかも静止軌道への投入が終わればアポジモーターは不要。使用済みアポジモーターを切り離す衛星もあるけど、この要らない荷物を一生積みっ放しのもけっこうある。衛星が稼働してる間ずっと無駄な質量ぶんまで姿勢制御をかけるんで、衛星の寿命がそれだけ短くなる。

ロケットが静止衛星を静止軌道まで直接運ぶことになると、そこらへんの問題が一気に解消する。運送業の基本としても、荷物の発送を請け負ったら最終目的地まで運ぶものだしね。

これはこれで問題点がまたあるから今までやったことないんだけどさ。過密状態の静止軌道に巨大なデブリ(2段目の燃え殻)を増やす。質量2.5トンの2段目まで静止軌道に入れるんで、そのぶん搭載できる衛星の質量が落ちる → 打ち上げ単価が上がる。

ここで示唆されるのが、遠地点での再々着火を想定してるってことは、その時点で充分な燃料がまだ残ってることも想定してるっぽいこと。おいらが持ってる情報はこれだけでさ、状況証拠だしあやふやなんだけど、五代氏は「これは技術的に行ける」と踏んでたわけで。この案を諮った旧 NASDA や国の委員会は、この再々着火機構の開発を承認したわけで。液体水素は貯蔵性が悪い燃料ではあるけど、静止トランスファ軌道の遠地点まで行く5時間程度なら、現行の機体のままでそこそこ現実的なのかも。

もしそうなら、松浦案もおいらの案も、このアポジモーター不要方式よりはハードルが低いんで、やる気になりさえすれば行けそうな気がする。

銘板
2010.7.16 金曜
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そもそもでどうだ 2

で、そこからまたひとつ考えた。

アポジモーター込みの打ち上げサービスにしたらどうだろ。静止軌道投入用のアポジモーターを3段目として、これを含んだセットとして H-IIA ロケットを商品にするってこと。

なんだかいいことずくめなんですが。

ロケット1式に3段目が増えるぶん打ち上げの額面価格が上がるけど、顧客としてはアポジモーターをどこから買うかってだけの話。その衛星プロジェクトの費用総額は同じ。

そして、便利な「丸ごとお任せください」形式。打ち上げから静止軌道投入までの責任を、打ち上げ主体の三菱重工業が一手に請け負う。顧客にとって、契約手続きやリスク管理が簡素になるのはかなり魅力かと。顧客の顧客(株主や衛星サービスの利用客)への説明も簡単になる。

やるとしたらいろいろ形を決めるべき点が出てくるけどね。

「国産のみのご提供」も、値段次第で行けると思うよ。けどあんまし国産新規開発にこだわると GX ロケット計画みたいにポシャるかもなんで、基幹部品は外国製でもいいから、まずはまともに動く現物をどこからでもいいから調達するのが先かと。

世の中はサービス合戦。「うちの方がこの点でおトクですよ」「今ならこれもお付けします」。商売は何でもこんな感じで客の袖の引っ張り合い。昔も今も依然変わりなくッ! 最先端のイメージがある衛星ビジネスも同じ。てことで、「向こうと同じサービスですよ」は確かに大事だけど、セールスポイントってほどじゃない。で、アポジモーター込みサービスは商売敵より不利な条件を消し去るだけじゃなく、今まで不完全だった運送サービスを完全なものにするわけ。コストと信頼性次第じゃ「これもお付けしてしかも向こうよりおトク」と持っていける。

サービスで補う発想ですな。地理的に不利な日本のサービスなんなら、有利なヨーロッパはすぐに真似できちゃう。そうなるとまた射場の場所の有利不利っつうふりだしに戻るんだけど、とりあえず今のやり方での原理的な格差を、商品サービスの内部に落とし込める。自社内でのコストダウンなり営業なり、自助努力で埋められるとこまで持っていけるってこと。

まぁ普通、どの業界でもやってると言えばやってることですな。けど静止衛星の商業打ち上げってヨーロッパのアリアンスペース社が支配的だから、アリアンの都合に合わせた様式が世界標準になってるっぽい。そこに後発組の日本が食い込んでいくってのは、無難なのは相手が作ったルールに従う方法。でもそれじゃ不利なまま。敗北と撤退は時間の問題。

てことで、市場に新たなルールを持ち込んで乱戦にしてしまうのが後発の定石。それが成るかどうかは、日本政府と三菱重工業がどんだけ覚悟を決めて本腰を入れるかにかかってると思う。

出てきた案をここらでまとめてみるよ。

とにかく、射場の立地条件がヨーロッパに対して原理的に不利ってのが、H-IIA での静止衛星打ち上げビジネスの厳しいところ。そこをどうにかしようってのが昨日と今日の主題だったわけだ。それを効率よく解決できれば何でもいいわけだ。出てきた案を列挙してみるか。評価は個人的な印象なんで、自分に甘めになってしまったのはどうかご容赦を (^_^;)

  提唱 効率 実現性 デブリ化対策
GTO 近地点上げ 松浦氏 + ×
軌道傾斜角を相殺 ゆんず
2段目で静止軌道 五代氏 × + ×
3段目付きサービス ゆんず -

3段目付きサービスのデブリ化対策は、3段目が今までのアポジモーターと同じく衛星と一体なら「○」。分離型なら「×」。その間を取ってみた。

きっとこのくらいは当事者の方々の間でとっくに検討されてきたとは思うけど、そこらが一向に表に出てこないで、射場としていい場所を押さえてるヨーロッパの1人勝ちを認めたまんまってのが、なんかちょっと面白くなくてさw

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2010.7.17 土曜
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月の恵みの5分の1

月スイングバイってどのくらいの効き目があるのかなと思って。

はやぶさ が往路でやってのけた超精密地球スイングバイ。その技はイトカワに到着したときのランデブーと地球帰還のときの着陸でも活かされたね。どれも誤差 1km 以内だった。その前には瀕死の火星探査機 のぞみ で、追加の地球スイングバイ2回をガッチリ決めた。この技術、日本はお月様を使って身に付け、鍛えた。工学実証衛星 ひてん(まさにスイングバイ技術の習得が目的)と続く地球磁気圏尾部観測衛星 "GEOTAIL" で、合計何十回も月でスイングバイを繰り返し、すべて成功させつつ経験を積んだ。

のぞみ は当初から、2回の月スイングバイと1回の地球スイングバイで増速して火星に向かうことになってた。スイングバイの掟だと、その重力圏を作る主星の重力に捕われた状態だと、主星を使ってのスイングバイはできない。地球を周回する衛星は地球でスイングバイができないってこと。それで言うと のぞみ は地球スイングバイ前には地球の衛星の立場だったんでできないはずだったのに、地球スイングバイをした。

それに先立つ2回の月スイングバイで地球の重力からの脱出速度を獲得して、地球スイングバイをする条件を満たしたんじゃないかと。てことで月スイングバイってすごい強力そうな気がするんだけど、どんなもんだろうかと。

スイングバイの力学はおいらは完全に理解してるわけじゃないんで、以下は定性的な解釈が入るけどカンベンね。

はやぶさの例で行くと、地球の公転速度は秒速 30km。はやぶさ の速度もおよそ秒速 30km。これがスイングバイ後には秒速 34km にまで加速した。増速は 13.3% くらいですか。重力が強い星ほどスイングバイの効果もあるらしいけど、とりあえずこの「増速 13.3%」を目安に月スイングバイを考えてみる。のぞみ は1回の月スイングバイで、月の公転速度の 13.3% の増速をした、と考えてみる。

月は約1カ月(29.5日)の周期で地球の周りを公転してる。

月の公転半径は平均で約38万km。

公転軌道を円軌道だと近似して、軌道1周の距離は 2×380,000×π≒2,387,610 [km]。

公転速度は約2,387,610 [km/周期]

≒80,936 [km/日]

≒3,372.33 [km/時]

≒56.21 [km/分]

≒0.937 [km/秒]

てことで、お月様の公転速度って秒速 937m くらいだったんだね。で、のぞみ はこの公転速度の 13.3% をもらったんだとすると、増速量は秒速 125m。そんなもんなのか。正確じゃないだろうけど、大ざっぱには大体このくらいかと。正直小さくてびっくり。

この計算だと月スイングバイは2回やったから、合計の増速は秒速 250m くらいってことになる。けどこれがあったから地球スイングバイができたわけで。地球の重力圏の脱出速度は秒速 11.2km(第2宇宙速度)。アポロ宇宙船が月(地球からの距離約 38万km)に行った時の遷移軌道は、近地点で秒速 10.9km だった(記憶に頼ってる)。のぞみ の打ち上げ直後の楕円軌道の遠地点距離は 40万km を超えてたんで、アポロよりちょっとだけ速かった程度だったかと。

1回目の月スイングバイ後でもまだ脱出速度に届いてなかったんで、このスイングバイ前の近地点速度は 11.2−0.125=11.075km/s を下回ってたってことか。秒速 11.05km くらいだったのかな。かなり微妙なあたりだったんじゃないかと。

つうか惑星間航行って基本が地球の公転速度の秒速 30km なもんだから、スイングバイでもエンジン噴射でも、秒速数百 m 〜数 km のオーダーで語られることが多い。それを考えると、合計でも秒速 250m っつう数字はやっぱり小さい。

けどこのオーダーの小さな数字、のぞみ を語る上で大事な数字だったりするんだわ。地球パワースイングバイの失敗で不足した速度が、おおよそこの2割の数字。秒速だいたい 50m。正確には、その後に緊急で追加した噴射で火星に向かう軌道には無事に乗れたけど、そのあと火星の周回軌道に入るとき、ガス欠までがんばってもこの速度ぶんだけの推進剤が足りなくなることが判明した、ということ。

この、ほんのちょっとだけど決定的なロスを取り戻すため、のぞみ は火星への到着予定を4年も遅らせて、追加の地球スイングバイを2回することになった。

あるいは、のぞみ を載せた新鋭ロケット M-V が、月に向かう途中にほんのちょっとがんばりすぎて、足を出した速度もまた秒速 50m くらい。固体燃料ロケットは出力のリアルタイム制御が実質無理なんで、正確な軌道投入が難しい。それに M-V はまだ2回目の打ち上げで、過去の実測からのフィードバックが足りなくて誤差が大きめに出たのかも。で、そんな誤差が出て、のぞみ はスイングバイ前に自前のエンジンを逆噴射して、速度を秒速 50m ばかり落とした、というのもあった(このあたりのソースは松浦晋也著『恐るべき旅路』)。

のぞみ の行く手に立ちはだかった、意味ありげな数字「秒速 50m」。

お月様には合計で秒速 250m ぶんも助けてもらったのに(どんぶり勘定だけど)、そのたった2割の数字で泣くなんてな。さっきは「正直小さくてびっくり」と書いた月スイングバイでの増速量、今はかなりでかい数字に見えるわ。

銘板
2010.7.18 日曜
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のぞみ と月の女神

もうすべての運用が終わって、死んだ人工惑星として静かに眠ってる のぞみ。そんな存在には、ちょっとくらい甘っちょろめのファンタジックな解釈を捧げてもいいかなと。月の女神が意地悪をしたんだ、なんて。

銘板左端銘板銘板右端

月の女神は、地球から訪れた使者 のぞみ を歓迎した。

今まで来たほかの使者たちは皆、女神に魅入られてその周りにとどまったり、その衣に触れたり、あるいは何度も近づいては、そのたびに丁寧に挨拶をした。土産を持たせて帰した者もいた。

今回もそのつもりで歓迎した。

ところが のぞみ は月につれなかった。どの国からの使者もやるように、月の女神の後ろ姿を写真に撮ったが、その他と言えば、月の力をいくらか貰っていったくらい。

作法にかなっていたので、月の女神は喜んで力を分け与えた。

それなのに態度がどうも素っ気ない。

この使者は自分ではなく、もっと遠くを見ているようだった。

3カ月後、のぞみ は再び月にまみえた。月の女神は戻ってきた使者を再び歓迎した。しかしまた近くを素通りらしい。

そういう作法を示した。しかし作法は作法。それに従ってまた力を与える。

このとき月の女神は初めて気付いた。この使者の相手が自分ではなく火星だったことに。

女神の落胆はひどいものだった。自分を愛しに来たのではなかったのか。自分に愛されに来たのではなかったのか。ただ自分の力を利用しに来ただけだったのか。

彼女が力を授けた、礼儀正しいがつれない使者は、火星へ赴くための最後のパワースポット、地球へ向かっていた。

月から2度も与えられた力で、使者は地球の力を使えるまでになっていた。

女神は悔しさのあまり我を忘れて、地球をかすめる頃合いの のぞみ に意地悪をした。ほんのわずかな呪いをかけた。少々の不運を祈った。

「あんなやつ、つまずいて転べばいい! まっすぐ火星へ行けなければいい!」

人の呪いの言葉など、気にしなければ何でもない。だが女神のそれには効き目がある。そして少しばかり効きすぎた。

火星への使者は思いかけず華奢だった。まさかそれが元で、旅の半ばに命を落とすことになろうとは、女神は思ってもみなかった。

その使者のその後を、彼女は長く知らずにいた。

6年の後、いったん地球を離れてから一時帰郷した、小惑星への使者 はやぶさ から聞くまで。

あのときの のぞみ と同じく、地球の力を授かろうとする はやぶさ に、月の女神はもう意地悪しようとは思わなかった。

さらに3年が過ぎ、正真正銘の月への使者 かぐや が訪れた。女神は かぐや を丁重にもてなし、かぐや が得たいものすべてを授けた。

かぐや は返礼として、任務をすべて終えた後、その身を月へ捧げた。

女神は かぐや との交流に満足した。そしてその幸せな心持ちは時折、火星への妬みに狂った頃を思い出させる。

月の女神の目に火星が映るごと、彼女は のぞみ にした仕打ちを悔いて涙するという。

あれから今まで、惑星の世界へ飛び立つために、月に力を借りに訪れた使者はない。

それでも月の女神は「次はきっときっと祝福する」と心に決めている。

おしまい

銘板左端銘板銘板右端

セルフツッコミ。のぞみ の直接の死因は別(電源系のトラブル)。太陽フレアが原因とされたこともあったけど、今は原因不明扱い。話のネタにした地球パワースイングバイの失敗(原因は推進剤バルブのトラブル)は、その後に軌道力学でフォローされた。けどそのフォローに必要だった4年の間に電源系トラブルが出たわけで。地球パワースイングバイに成功してれば、のぞみ はとにかく火星に着けてたかもしれない。火星到着時にも推進剤バルブがまともに作動してたら、という条件が付くけど。

あと、月スイングバイをして惑星間空間に向かった探査機はほかにもあったりする。のぞみ の10年以上前に、太陽−地球のラグランジュ点 L1 にあったアメリカの ISEE-3 (ICE) という探査機が月でスイングバイを5回繰り返して第2宇宙速度を獲得、ハレー彗星に向かった。今後だと、日欧共同の水星探査機ベピ・コロンボが月スイングバイをするなんてのを、どっかで読んだような。

銘板
2010.7.19 月曜
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火星到着時の謎解き

のぞみ が火星の周回軌道に入るのって、火星の進行方向の前方に出たところを追いつかれる形だったんだね。なんとなく後ろから火星に追いついてくような気がしてたわ。で、これまたなんとなく逆行軌道(天の北極から見て右回り)に入るもんだと思ってたら、順行(同・左回り。地球や火星の自転や公転方向と同じ)だったわ。のぞみ の資料「第18号科学衛星(PLANET-B) 『のぞみ』の打上げからミッション終了までの経緯」を見てたら出てきた。「第18号科学衛星(PLANET-B)『のぞみ』の火星周回軌道への投入失敗の原因究明について」に PDF 書類へのリンクがあるよ。

火星軌道への投入_のぞみ

そうだよなぁ地球−火星の遷移軌道なんだもん、遠日点(火星の公転軌道と触れる点)に来たら、公転速度は火星より遅くなるわな。火星に追いつかれる形になるわな。なんで気付かんかったんじゃろ。

あと順行軌道の理由はまだよく分からん。これ、のぞみ の月スイングバイと同じ進入経路なわけで、公転エネルギー増になるはず。衛星軌道に入るとき、逆噴射の推進剤が余計に必要になるはず。惑星の衛星軌道への投入って、その点で有利な減速スイングバイを利用するもんだと思ってたからさ。だとしたら衛星軌道は逆行のはずで(2011.7.29 追記: そこらは逆行だろうが順行だろうが、必要な軌道投入エネルギーはほとんど同じような気がしてきた)。

自転との同期の関係かな。金星探査機 あかつき がそういう軌道でそういう探査をするらしい。そっちは自転じゃなく風の流れだけど。金星には強烈な偏西風みたいなのが常に吹いてる。4日で金星を一周してしまう猛スピードで、「スーパーローテーション」と呼ばれる、発生原理が謎の現象だそうで。あかつき はこの風の流れる方向に合わせた軌道に入ることになってて、風や雲の同じ部分を追いかけながら長く観測できるそうだ。

で、のぞみ の場合は24時間ちょいの火星の自転(地球と同じ方向=順行)に合わせて、順行軌道を取ることになったのかも。もし逆行の方が工学的に有利だとしても、それで探査に支障が出るなら探査機として本末転倒だからね。

火星からわずか 1000km 離れたところを のぞみ は素通りして行った、と『恐るべき旅路』で読んだとき、逆行だと思ってたもんだから、減速スイングバイをするもんだと思ってたもんだから、近地点が地球より内側に来る楕円軌道に入ったのかと誤解してしまって。けど実際は「火星の公転軌道の近くの軌道」に入った。加速スイングバイじゃん。頭の中を整理し直すのに大変だったわ。

そこで出てきた疑問は、「のぞみ は火星最接近のとき、火星の写真を1枚撮った」ということに対して。これ事実確認はもうできないんだけど、運用チームは死が確定した可哀想な のぞみ に、せめてもの親心としてだと思うけど、そういうコマンドを送った。

けど加速スイングバイじゃ最接近あたりの地点は、火星の夜側になるんでないかと。写真を撮っても真っ黒になるんでないかと。

このギモンもこの図でようやくはっきり分かった。火星に追いつかれるのを待ちながら、太陽側から接近するんだもん、太陽を背に「満火星」を見られる瞬間があったはず。いいアングルできっと綺麗な写真を撮れたと思う。遠い将来、のぞみ が惑星間軌道上で発見されて、何らかの手段でその画像データの回収に成功したなら、はやぶさ のラストショットと同じく感動を呼び起こすだろうなー。

銘板左端銘板銘板右端

「のぞみ は火星にたどり着けなかった」とは言うけど、そこは定義によったりする。予定してた、火星の衛星軌道入りは果たせなかった。けどフライバイはできた。フライバイってのは、対象天体のそばを通り過ぎること。これをもって「到達」と見なすのもアリなんですな。たとえばハレー艦隊を形作った6機の探査機すべては、このフライバイ形式でハレー彗星を観測して「ハレー彗星に達した」とした。のぞみ の場合、火星の重力圏内の、表面からわずか 1000km のところを通ったわけで、それで「火星に到達した」とも言える、ということ。

『恐るべき旅路』ではその定義で「火星に届いた」としてるけど、それで間違いではないと思うけど、やっぱり衛星になってほしかったなぁ。火星の伴侶として嫁入りしてほしかったなぁ。……それは著者も同じ思いか。

銘板
2010.7.20 火曜
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バナナン→なすび軌道

のぞみ の地球離脱までの軌道ってさ、本当の姿はあまり知られてないんじゃないかと思って。のぞみ 自体が知られてないといえばそれまでだけど orz

んでまぁ のぞみ ファンの人たちに広く知られてる軌道は、以下↓の模式図のやつだと思う。

軌道の模式図_のぞみ

『恐るべき旅路』でも「バナナン・オービット」と銘打たれてこの図が「本物」として紹介されたんだけど、「あれれそうだったかなー」と長いこと疑問に思ってた。のぞみ が打ち上げられてから、おいらは時折、当時流行ってたインターネット喫茶(漫画喫茶と融合する前のやつ)にときどき行っては、ISAS サイトにつないで のぞみ の様子を見てた。で、毎日更新される軌道の図はもっと不可解な形で、理解するのにかなり頭を悩ませたよ。

という個人的な努力が必要だった思い入れのある軌道なんで、ちょっと執着してたわけ。で、手を替え品を替え、ありとあらゆる検索キーワードを自在に駆って(というほどでもないけど)、とうとう見つけ出した。

地球近傍軌道図_のぞみ

ソースはコチラ

地球(Earth)のすぐ左のクシャクシャしたところは、打ち上げられてからお月様が来るのを待って描いてた細長い楕円軌道。図は地球から見た太陽の方向を固定してる。けど地球は公転してて、実際は地球から見える太陽の方向は日々変わって行く。てことで、実はこのときの のぞみ の楕円軌道の長軸方向は絶対座標だと一定なんだけど、この図だと地球の公転に合わせて回転してる。てことで、ここは花びらみたいな図柄になってる。

で、あるときお月様の軌道(Lunar orbit)に触れた瞬間、軌道がガクッと変わってる。これが月スイングバイ1回目。そこからふわーっと大回りして、また月軌道に戻ってガクッと軌道が変わってるのが月スイングバイ2回目。そこから地球に突っ込んで行って、あたかも横に伸ばした腕で地球につかまってグルッと回るみたいに、鋭角的に地球スイングバイ。同時にメインエンジンを噴かして、一路、火星への遷移軌道に乗る(画像の右方向へ)、と。

で、何が模式図と違うのか。それはこの軌道の最大の特徴である、2回の月スイングバイの間の、軌道の曲がる向き。上の方の模式図だと左回りの順行のままってことになってるけど、実際は逆行(右回り)なんだわ。裏返しだよ。アクロバットだよ。まさに月面宙返りw 大胆不敵そのもの。この軌道の設計者・川口淳一郎先生(のちに はやぶさ のプロジェクトマネージャーを務める)の凄さの片鱗、この逆回り軌道で垣間見えるよ。

てことで本来の軌道の形は見た感じは、バナナというよりなすびに近いんじゃないかとw

銘板左端銘板銘板右端

2011.7.29 追記: ちょっと考えを変えた。バナナンの方も正しいんじゃないかと。2枚目の軌道図は、地球から見た太陽の方向を固定したもので、実際は1回目と2回目の月スイングバイの間で3カ月経ってた。その間に太陽の方向は、絶対座標で考えると、地球から見て左回りに 90° 回った。てことは2枚目の図でいうと、月スイングバイ2回目のときは太陽は地球の左側のフレーム外にあった。2回目は太陽の方向から地球に飛び込んでくる形になってたってことで、2回目のスイングバイ地点も地球の左側の月軌道上ってことになる。1回目よりもさらに左寄りなわけで、この場合は1回目と2回目の間の軌道は逆回り(右回り)じゃなく、1枚目の軌道図と同じく正回転(左回り)ってこと。

このログを書いてからこのことを理解するのにまる1年かかってしまった。

『恐るべき旅路』を読んだときから感じてた疑問が氷解するのに、まる11年もかかってしまった orz

銘板
2010.7.21 水曜
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なすび軌道アニメ化決定

昨日紹介した のぞみ のスイングバイ軌道、JAXA/ISAS 公式サイトに日ごとの記録があるんだわ。これ、のぞみ プロジェクトページのトップからはリンク切られてるんだね。HTML ソース見たけど見当たらなかった。でもありがたいことにサーバに残ってたよ。

てことで GIF アニメにしてみた。もったいぶらずにとっとと出しちゃう。

スイングバイ軌道アニメ_のぞみ

1日ぶんを10分の1秒で出してるから864000倍速だw てことで、月スイングバイ1回目と2回目の間のアクロバティックな逆行軌道ぶりがよく分かるかと。

最後のフレームは1998年12月31日。ちょうどこの5年後が のぞみ の命日になろうとは、インターネットカフェで日ごとに進んでいくこの画像を見てコーフンしてた頃には思いもよらなかったよ(涙)

銘板
2010.7.22 木曜
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アニメーション作りをちょっと知ってさっそく知ったか

昨日いったん出した のぞみ のスイングバイ軌道の GIF アニメーション、改良版に差し替えたよ。

見せ場の背面宙返りのところ(1回目と2回目の月スイングバイの間の軌道)が元データだと10日に1枚で。ほかは1日ごとなのに。てことでその場面だけカクカクだったんだけど、中間の画像を作って補完しましたですよ(日付けの添字がない画像)。大体2.5日に1枚の割合で。4倍増ですな。ファイルサイズ、1.3MB にまでなってしまっただよ。重くてすんませんです。

あと、このアニメーションの画角は 500×500 だけど、ブラウザ表示で 600×600 になるようにしとります。ちょっと大きく出そうかと。大もとのデータだと1回目の月スイングバイ前が 500×500 で、なぜかそれ以降は 400×400 で提供されててさ、アニメを作るのにいったん全部 500×500 に揃えたんだけど、やっぱり画像が小さいんで、ブラウザ表示でも少し大きくしてみたよ。後半は計1.5倍のブローアップ。画質の粗さはごカンベンを。

画像補完、とりあえず5日に1枚にしてみたんだけど、大した効果がなくて。んで意を決してさらにその間を埋めましたですよ。1枚ずつ作って。それでも速い部分の40%の速度しかないからカクカク感が残ったけど、やったぶんだけの成果はあったかな。

銘板左端銘板銘板右端

こんな原始的なもんだけど、アニメーションを作ってみて思ったこと。コマ速度は命だわ。単位時間当たりのコマ数は多けりゃ多い方がいい。それと、ひとつのカット内でコマ速度が変わるとどうなるかも少し分かった。

コマ速度と体感速度ってだいたい比例するんだね。秒速コマ数が少ないと実際以上にゆっくりに見える。速いとその逆。今回は速いところでも秒速10コマと4コマの比較だったけど、フルアニメーション(秒速24コマ)あたりの自然な見栄え近くだととどう感じるかは不明。

映画とかだと秒速12コマでも24コマでも体感速度はあんまし変わらんと思う(ジブリ作品はアクション場面が24コマで、ほかは大体12コマだと思う)。どこらが体感速度の変調を感じる臨界点なんだろ。あるいはセリフや背景、色彩があると別に関係なくなるもんなのかもしんない。

テレビとは違う映画の美ってコマ速度の遅さに原因があると思ってるんだけど(テレビは秒速30コマ。インターレース方式は擬似的に60コマとされることも)、もしかしてこの「コマ速度・体感速度比例則」が効いて、微妙にスローな感じが優雅に見えるってことなのかな。

けど昔の秒速8コマのアニメには、動きの優雅さはまったくもってなかった(笑)。それも臨界値があるってことか。

銘板左端銘板銘板右端

ジョン・ウー監督の往時のスローモーションは2種類あって、絶妙に使い分けられてた。ひとつは高速度撮影のスロー。はじめからスローとして撮影したやつ。ぬらっとした粘度感。もうひとつは通常速度で撮影して、それをスローに伸ばしたやつ。こっちはカクカクしてる。この適宜に差し込まれるカクカクがまたよくて。さらにコマ数を落として伸ばして、その効果を強調したカットもあったり。

あのスローモーション演出を「前時代的」と酷評する評論家もいたけど、おいらにとっては最高に新鮮だったよ。ていうか酷評する人がなんで通り一遍なそこらのスローモーション(『ロボコップ3』とか『スター・ゲイト』とか『スペース・トラベラーズ』とか『ピンポン』とか)とジョン・ウー演出との区別がつかんのかギモンだったさ。全然別物だと思うんだよな。

しかしまー前々から思ってたとおり、最近の映画はスローモーションあんまし使わなくなったね。あるいは目立たなくなった。特にハリウッドで。80年代末〜90年代初頭、ジョン・ウーが香港で起こしたスローモーション革命は世界を席巻した(香港映画をナメてた日本の映画界だけはおもっきし取り残された)。てことでもう安易なスローはダサくなっちゃったんじゃないかな。

あ、なんかデジタル映画カメラって高速度撮影が苦手だと聞いたことがあるような。もしかしてその影響でスローが下火になったのかな。確か『ピンポン』は、スローモーションの場面だけフィルムカメラで撮影した、とパンフに書いてあったような。

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2010.7.23 金曜
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軌道強制納得

のぞみ の地球離脱スイングバイ軌道を初めて見たとき、「何だこれは」と思ったのを思い出したよ。とにかく逆行軌道がインパクト強くて。

んでその仕組みを3日くらい一生懸命考えて、ようやく理解した(つもり)。

地球離脱スイングバイ軌道_のぞみ

まーこんな感じかなー。太陽基準の座標系に変換しての再現って、アニメーションに使ったデータを元にするとできそうな気がするけど、すごくめんどそうでどうもちょっと (^_^;)

銘板
2010.7.24 土曜
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運命の船名

一般名詞「はやぶさ」の英訳は "falcon"。探査機の固有名詞「はやぶさ」の英語名はそのままの "Hayabusa" か、ファンによる意訳だと "Phoenix"(不死鳥)だったりする。

んでさ、宇宙船ファルコン号ってことで、はやぶさ よりはるか以前から超有名だった機体を思い出したさ。言わずと知れた、

ミレニアム・ファルコン
ミレニアム・ファルコン。

「オレに命令できるのはオレだけだぁーー!」 by ハン・ソロ船長

「ふごぉーーー」 by チューバッカ

……、

……、

……。

そういやスターウォーズでも、ファルコン号は無茶な操縦でよく故障してたような。この名を冠した船はそういう運命にあるのかなw

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2010.7.25 日曜
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敵味方誤認事件

はやぶさ、名前はファルコンで反乱軍の味方のはずなのに、イトカワへの着陸ミッションの時分、帝国軍のタイファイターと誤認されてえらい目に遭ったっけな。その証拠写真↓ww

Xウイングとの戦い?

ひ〜危なくやられるとこだった〜。

今となっては懐かしい冒険の思い出さwww

これ、手に汗握る着陸ミッションにコーフンした海外の はやぶさ ファンが作ってくれた画像。発想も画像の出来もナイスすぐるwww そのお方のブログには「着陸中止の別な理由」との説明が添えられてたそうな(笑)。そのブログは見つけらんなかったけど(5年も前だもんな)、件の元画像と思われるのを入手したんでがめといたぞ

銘板左端銘板銘板右端

体の割にでっかいソーラーパネル。この「影絵」だとそれがよく分かる。電力で駆動するイオンエンジンのためにそうなったんだけど、なんかこのバランスって見た目かわいいなぁとか思ったり。

銘板
2010.7.26 月曜
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誤算火球等級

はやぶさ のプロジェクトチームの印象って、何事も正確無比って感じがする。打ち上げの軌道投入、超高精度スイングバイ、あんな小さな星への到着、精密観測、着陸、次々に起きるトラブルへの対処、機体がボロボロになっても予想地域ど真ん中の地球帰還。

でも予想や計算が外れることもあったんだね。再突入の光の明るさは事前には「最大マイナス5等級」とされてたけど(金星くらいの明るさだそうだ)、それよりはるかに明るくて、地面に影ができるほどだったらしい。それって金星どころじゃない明るさだよな。半月くらいの明るさにはなったってことかな。

「最大マイナス5等級」の公式発表

現地からの報告

たぶん、本体を単体として計算して出したのが「マイナス5等級」だったんじゃないのかなと。実際は部品が四散してそれぞれが光って、あんなに明るくなったんじゃないかと。

カプセルと本体は見た目じゃくっつきそうなくらい近かったけど、それでも距離は1〜2kmも離れてた。てことは、各映像での本体のあんだけでかい火球は直径 100m はあったってこと。その中身は複数の発光体が寄り集まった状態と考えてもおかしくないかなーと。そこが ISAS の誤算のもとだったんじゃないかなーと。

まーそれがどうしたって言えばそれまでなんですがね、ええ。

銘板
2010.7.27 火曜
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地元はやぶさ

今さらだけど。今年12月デビューの青森行き新幹線の愛称が「はやぶさ」に決まったよね。初めはほとんどの編成は現行の はやて に使ってる E2' と E2-1000 のままで、新型の E5 系は車両の更新ごとに順次導入の形になるそうで。青森行き新幹線全部の名前が初めから はやぶさ になるのか、それとも E5 系のみが はやぶさ の名を冠して、しばらく はやて と混在するのかはよく分からんけど(たぶん乗客の混乱を防ぐために前者になると思う)。

なんで はやぶさ になったんかなーと。公募じゃ7位だったらしいし。そのことで総統もお怒りらしい(ニコニコ動画)しw

「『はやぶさ』に決定」の報は5月11日の新聞に載ったんだよね。てことは前日の10日に発表か。

なんでまた東京−九州のかつてのブルートレインの名前が東北新幹線で復活なのか謎だけど、ここはひとつ探査機の方の はやぶさ ファンとしては、「JR 東日本は探査機 はやぶさ にあやかった」説を取りたい。まだこの時期は探査機 はやぶさ のブームはごく一部でしか起きてなかったと思うけど(ブームの大きな原動力になったと思われる「探査機はやぶさにおける、日本技術者の変態力」は2009年11月20日投稿)、JR が「これはいける!」と未来を読んだのだと是非に思い込みたい。

けどさ、とりあえずプロジェクトマネージャーの川口先生が弘前市出身なんだけど(東京方面からは、新幹線 はやぶさ 終点の新青森駅から特急で30分ほど)、さすがにそこまでは読んでなかったろうとか(妄想ベースで語ってます)。

銘板左端銘板銘板右端

件の愛称公募、1位は何だったか忘れたけど(「はつかり」かな)、2位がすごかったよな。「はつね」。愛称決定の新聞記事を読むまでまったく知らなかったんだけど、ニコニコ動画の視聴者の間でそういう動きがあったらしい。確かになぁ、カラーリングが完全にそうだもんなぁ。そこらを解説する画像を拾ってきたよ(勝手に拾っちゃってごめんなさい)。

はやぶさ はつね

……これもう「はつね」に票が集中しなかったらそっちのがおかしいと思うw デフォで痛電かよww

今回は見送りになったけど、クリプトンのお膝元・札幌まで新幹線が通った暁にまた盛り上がればいいんじゃないかとwww

銘板
2010.7.28 水曜
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イプシロンロケット

7月20日付けの ISASニュースに、ついにイプシロンロケットが開発フェーズに入ったことが載ってた。事業仕分けを切り抜けて、宇宙開発委員会から晴れて「妥当」のお墨付きを頂いてのことらしい。なんか計画発表の折には2010年初打ち上げの予定だったと思ったけど、とにもかくにも今から開発開始。

イプシロンロケット

HTML 版の報告書はコチラ

しかしまぁなんてーか、突っ込みどころがいくつかあるというか。

名称を「イプシロン(E)」に決めた由来ってなんかこう、お役所や中間管理職が好きそうなやり方だね。自己満足臭がキツくておいらあんまし好きじゃない。てのも、意味を解するのにいちいち説明が必要な意地悪クイズ形式だから。「E は "Evolution & Excellence", "Explorlaration", "Education" です」だなんて、そんなのはじめに答え聞かなきゃぜってー当てらんねー。つうかいちいち覚えてらんねー。覚える価値も見いだせねー。

「イプシロン」自体はかっこいい名前だと思う。で、意味付けならさ、ISAS らしいのにすればいいんじゃないかな。数学の記号のイプシロンらしく「コスト、打ち上げ準備期間、整備期間、人員規模で最小限を狙うから。あとサイズも小さいし」でいいんじゃないの? 理系の、特に数学や物理の人はこの名称と開発仕様を聞くと、普通にこの筋道でつなげると思うぞ。それじゃだめなのか?

あるいは現場がそのつもりで命名したのに、この文書を読んで決済する人が数学を解さないからって、その連中が好みの理由付けに日和っちゃったのか? それはそれで決済する人をばかにしてるようにも取れるような。

ISAS の今までの衛星や計画名のネーミングもそれに近いものがあるけど、洒落が利いてるよね。その読みになるように頭文字を合わせるとか(電波天文衛星「はるか」の英名が "Highly Advanced Laboratory for Communications and Astronomy"="HALCA")、フルネームでも略語でもそれぞれそれっぽい意味が通じる("Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun"="IKAROS")とか、もろに洒落("VLBI Space Observatory Programm"="VSOP")とか、かなり凝ってる。そういうセンスでやってほしかったんだけど、今回に限ってなんでこんな野暮な意味付けになったかな。

4ページ目の「M-V の開発完了後13年、運用停止後4年以上を経過し」って、こんなヘンテコな事態をもたらしたやつらにこの書類を提出してお伺いを立てるんだもんなぁ。なんかやりきれん気分だよ。

まーあとおととしの資料 (PDF) なんだけど、開発の流儀を巡っての攻防があったみたいなところがあって(2013.9.17 追記: 上記はリンク切れ。同じ文書の新 URL のリンクはコチラ)。63ページ目でさ、

【評価における助言】研究開発をおこなうにあたっては、Mシリーズロケットにおける作業方法の長所を生かしつつ、JAXAの航空宇宙のスタンダード に基づいた技術標準、技術管理プログラム管理に基づいて開発を行うべきである。
【検討結果】Mシリーズロケット開発と同じJAXAインテグレート方式での開発とし、かつ、モータ地上燃焼試験をJAXA主体で実施することにより技術継承と開発コスト低減を同時に実現する。 また、技術標準、技術管理、プログラム管理についてはHシリーズロケット開発と同じJAXAスタンダードを適用する。

とあるんだわ。これ、助言は一応 M ロケットの開発方式を認めてはいるものの、JAXA スタンダード(旧 NASDA 方式)も使え、と注文付けてる。ていうかよく読むと「基本は旧 NASDA 式でやりなさい。ISAS 式は長所を生かす程度にのみ使いなさい」→「実質旧 NASDA 式 100% で構わないが、ISAS 式が主だとダメ」という両者の配合の塩梅を語ってる風に読めなくもない。

で、開発側からの回答はおいらにはよく分からんところがあるんだけど、「JAXA インテグレート方式」ってつまり、JAXA 内に2つある方式をまとめたもの、ということなんだろうか。てことは、インテグレート方式の現状がひとつにまとまってようが水と油みたいに別れてようが、実質は ISAS 式主導でいきますよ、となりそう。「Mシリーズロケット開発と同じ」と書いてるし。ISAS はここでは、助言側からの「旧 NASDA の方式を是非使え」という注文をうまくかわした形においらには見える。けど結局は助言通り、技術標準、技術管理、プログラム管理は旧 NASDA 式でやります、と言ってる。なんかどうも理解しにくい。

管理に関しては旧 NASDA 式、それ以外の現場系開発は ISAS 式ってことか。ようやく掴めてきた気がする。っつうか助言する側とされる側双方で、言葉の帳尻を合わせて旧 NASDA 陣営のご気分を満足させよう、という意思の確認が行われてる気もする。

ここでは ISAS は現場組、旧 NASDA は管理職っつう棲み分けになってる感じ。んで旧 NASDA は体面を重んじる気配みたいな。なんだかなぁ。J-I ロケットみたいなことになりそうな気がしてきた。

銘板
2010.7.29 木曜
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イプシロン= J-I 亡霊説

イプシロンロケットの構想が出たときから、J-I の二の舞になるんじゃないかって言われてきたんだけどさ。

というイプシロンの発想があまりにも J-I に似てたんで(ていうかそのまんま)、そう思われるのもしょうがないと思う。

J-I はわけわかんないロケットだった。「既存のロケットの部品を組み合わせて、開発・運用とも低コストの小型ロケットを作る」がコンセプトで、開発は確かに低コストだったらしいけど、運用(1発あたりの打ち上げ費用)は高くついたらしい。1号機の打ち上げ後、そのことに会計監査院がツッコんで J-I はあえなく消滅。2号機を打ち上げる計画ができてたけど、そのままお蔵入りになった。

J-I の画像はコチラ↓。左が1号機。右が2号機。

J-I ロケット

2号機は飛ばなかったんで CG。外見が大きく違うのは、1段目が違うから。1号機の1段目は、当時現役だった H-II ロケットの固体燃料ブースター。だから細長い。2号機のは H-IIA のブースターの流用。てことで太短い。2つの異なるロケットをニコイチにする発想は「直径が同じだから」という安易なところから来てたと思ったけど、2号機で早くもその基本が崩れてしまった。そんなテキトーで大丈夫なのかよって感じもしたり。やっぱ大丈夫じゃなく、トータルバランスが悪いロケットになってしまった。

けど90年代の NASDA の意向として、カラーリングにちょっとしたこだわりを感じるね。ISAS ロケットのカラーリングは「飛行中の姿勢を外から観測しやすいように」っつう実用重視だけど、こっちは純粋に見栄えのためのデザインと思われ。H-II は胴体は断熱材むき出しで、フェアリングだけ化粧してた。あれより趣味が若干いい感じ。

で、せっかくカネかけて開発したのに、弾道1発だけだけど打ち上げ実績もあるのに、ロケットを専門家ほどは分かってるとは思えんとこから一度ツッコまれたくらいですごすごやめちゃうんだもん。自分たちでもよっぽどこのロケットの出来が不満だったか、あるいは別な何かを守り育てるために生け贄にしたか、てとこなのかな。時期的には当時の NASDA じゃ J-I の11倍の能力の巨大な H-II ロケットが稼働中で、 その後継の H-IIA ロケットの開発も動き出してた。ここらを守る生け贄にされたかな。

HYFLEX

それとも、J-I はロケットの構造をよく分かってないけど地位だけ偉いやつが言い出して無理に作ったロケットで、現場にやる気がなかった上に、ツッコまれたときも、ほかの人たちが特に助け舟を出さなかったとか?

どれにしろ、関係者にも一般社会にも愛されなかった可哀想なロケットって感じ。よく衛星打ち上げや軌道投入の失敗があると新聞が「○○○億円が無駄に」と騒ぐけど、こういう次につながらないやつの方が無駄だと思うぞ。開発が見積もりより難しかった G-X に比べても、J-1 なんか打ち上げ費用も性能も計算で出して、そのとおり完成したんだから、こんなひどいことになる前にやめるタイミングはいくらでもあったろうに。

いや結局、開発中から既にツッコまれまくってたのを、HYFLEX(ハイフレックス。左図)の打ち上げに使えるロケットがほかにないから」と強引に開発して打ち上げまで持ってったんかな? M-3SII はもう引退してたし。HYFLEX を上げるには微妙に性能が足りなかったしな。いやいや、H-IIA のブースターを使った2号機ももう準備に入ってたから、最初からワンオフでいいやっつう計画じゃなかった。

← つか HYFLEX の可愛さは異常ww

……、

……、

……。

もしかしてイプシロンって、J-I の言い出しっぺが執念だけで復活させた亡霊なのか? もしかしてそのために M-V を取り潰したのか?

そんなこた中の人じゃなきゃ分からんことだけどさ、こう考えると妙に辻褄が合うような。旧 NASDA 出身の JAXA の要職ってそういう、自分のメンツが最重要な人がけっこう何人かいるようなイメージもあって。

J-I と GX の強引な開発と迷走、M-V の強制廃止と次期固体ロケット(のちのイプシロン)新規開発のゴリ押し。理由がよく見えない、不透明な事象が連綿と続いてきたもんだから。

しかも内部で処理できてない。いちいち組織の外に飛び出るまで暴走して、いちいち外から叩かれる。自浄作用が効かない根の深さ。組織内での自分のメンツにこだわった挙げ句、かえって組織全体のメンツ潰しまくりの迷惑な人たちの仕業のような気がして。

おいら会社勤めしてわかったのは、そんな人たちが実際にいるってこと。年寄りならまだ育った時代背景から理解できなくもないけど、若くてもいるんだわ。もう20世紀で絶滅したもんだとばっかり思ってたのにな。この手の人物、会社の意向と自分個人の意向の区別ができない。会社が業務用として貸し与えた権限を自分が個人的に手に入れた権力だと勘違いして、ときどきその力を試したくなるらしい。んでモノのコトワリを無視したヘンテコなことをしでかす。そのうえ会社や従業員や社会に嘘をついてまで、組織の中での自分の体面を保とうとする。

思わず、くらいは普通にあるもんだとは思うけど、だんだん調子に乗って大規模化してきて。

その勘違いのせいでの不始末を指摘すると逆ギレ。自爆とは思い至らんのな。王様が国民の前に裸で現れたんで、「王様、なんで裸を晒してるんですか、おかしいですよ」と言ったら後で呼び出されて、ガンガン怒鳴られて言いがかりもつけられた。「体面を潰された!」だとさ。存分にパワハラもされた。なんぞそれ。じゃあ道理から外れたヘンなマネなんてはじめからしなきゃいいのに。体面潰されたくらいでギャアギャアわめく方が、よっぽど自分で自分の体面を傷つけてるのにな。要するに全部自爆なのにな。

彼じゃ話になんないから、もっと上にいきさつを説明してどうしたらいいか仰いだら、そっちから暴走君に調教が入ったらしい(どう見てもおかしいのは彼の方だったからな)。次の日の彼は不気味なほどおいらに優しく接したww

んで互いに謝って仲直りしたんだけど、あとでどっかから社内に出回った見解だと、どうもおいらだけがワビ入れて一件落着したことになってる。彼がおいらに詫びたことは隠蔽。場に居合わせたのはおいらと彼のみ。彼はもう何を隠してもどうしようもない立場だったから、彼より上の方が、自分の都合に合わせた話を流出させたってことか。小賢しい情報操作・印象操作しますなぁ。なんぞそれ。

てか組織内部での個人の体面なんて、不始末に比べたらゴミ。その程度の分別もできなくなってるんだもん、ほんとに目の前でそれ見せられるんだもん、こっちはいちいち驚愕だよ。

「自己目的化」。

小室直樹著の『ソビエト帝国の崩壊』でこの概念を学んだわ。

組織を腐敗と暴走に導く悪魔のカラクリ。自分じゃなかなかその間違いに気付けないのが厄介。けど間違ってその枝道に入ってしまうと、ほかの人の指摘も助言ももう受け付けない。ますます厄介。これって組織運営じゃ最も危険な要素だと思う。マスコミがよく言う「組織の私物化」ともかぶるけど、それだってより根源の「自己目的化」の現れのひとつだと思う。けどこれあんまし知られてないらしい。Wikipedia には出てないな。実際の管理職でこの概念と危なさを知ってる人、どんだけいるんだろ。

旧日本軍と旧ソ連軍がこれに取り憑かれた。軍としての存在意義(国を守る)より自組織の保護・自組織の規模や権益の拡大を優先した結果、国という宿主を滅ぼして、当然のこと自分も破滅した。

軍組織特有というわけでもなく。NASA じゃ1986年、スペースシャトル計画の始まりからごまかし続けてたウソがついに破綻。スペースシャトル・チャレンジャー号を衆人環視の中で空中爆発させて、宇宙飛行士7人を公開虐殺した。現代の日本じゃ、1995年の 高速増殖炉 もんじゅ のナトリウム漏れ事故 とその後のまずい対応、1999年の 東海村 JCO 臨界事故 とその後のこれまたまずい対応で、日本の原発産業は自分で不信のネタをばらまいた。そんな愚かな墓穴掘りの原因は全部これ。

1998年、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルまたは衛星打ち上げロケット・テポドン1号(正式名は白頭山1号)を打ち上げた。北朝鮮政府が主張したには、人工衛星・光明星1号が軌道に乗り、打ち上げに成功した、と。けど世界中の誰もその衛星の存在を軌道上に確認できず、失敗と断定された。2009年、再び打ち上げに挑戦し、結果は失敗。それでも北朝鮮政府は成功を主張。ほかにもいろいろ前科があるよね。自分の体面のためにいったん出した間違いやウソを認める度量がないせいで、かの国はほかの国から信用されてない。

えひめ丸事件発生で、就任したばかりのブッシュ大統領がせっかく即座に謝ったのに(クレーム対応の定石)、加害者のアメリカ海軍はメンツを気にして長らく謝らなかった(一応、大統領が米軍の最高指揮者ではあるけど)。米海軍は政権の素早い応急処置を棒に振って、日本国民の感情をいたずらに悪化させた。「(当事者は)ちゃんと謝ってくれ」と繰り返す日本の一般人に対して、アメリカの一般人は「(大統領が謝ったのに)いつまで謝り続けなければならないのか」と逆ギレ。そういう誤解と軋轢をも無駄に生みましたな。

アメリカとイギリスは2002年、イラクが大量破壊兵器を保有していると主張。多くの人や国が疑問を呈する中、真実の究明よりも、言ってしまった体面を保つことに躍起になった両国は、翌年にイラクに侵攻。圧倒的な戦力で時のフセイン政権を打倒したけど、いくら調べても大量破壊兵器は出てこなかった。

大義名分がウソだったことがはっきりして、アメリカじゃ軍の主要人物が相次いで引責辞任。イギリスじゃ政権が根拠とした文書(捏造?)を提出した人物が自殺。同情よりもむしろ、「一人だけ誰の手も届かないところに逃げた」と非難された(キリスト教圏じゃ自殺は神に対する罪だそうで、けっこう容赦ないらしい)。ブレア政権もこれが主な原因で倒れた。

ここまで挙げると、組織の自己目的化の怖さが分かるかと。どの例も、組織の本来の存在意義より、その組織の権限の拡大や保身を第一に考えて行動したら取り返しのつかないことになって、かえって自分らの首を絞めてしまった。途中途中で立ち止まれる場面がいくつもあったはずなのに、体面意識が常に邪魔して、破滅するまで止まれなかった。

これ、組織内のそういう方向性の個人が病原になって始まると思う。ある程度の権力を持った個人が、その組織内で自己目的な考えや行動を始めると、権限や権力があるだけに周りはなかなか止められない。そのうちそれが組織の普通の空気になる。伝染するわけだ。逸脱を誰も何とも思わないまま、組織全体が自己目的化する。気付いたときには後の祭り。あるいは、破滅してもまだ何が悪かったのか分からない。てことは組織の破滅なんつう大惨事が起きる前に、自己目的化した個人を思い直させるか、それがだめならそいつだけさっさと破滅させる。それが組織の健全な自浄作用ってことかな。

個人の自己目的化のアクティブなはびこり方をひとつ観察してしまって。空気感染じゃなく直接接種させちゃうんだもんな。ご主人様と飼い犬の契りというか。その後は汚れ仕事にさんざんこき使ってたわ。あんな風にやるんだな。覚えとこ。うんうん。「自己目的化の継承」だね。グロテスクだし迷惑な話だ。政治家の秘書の自殺もこれと同じ段取りなんだろか。組織ってコワイわー。とりあえず、上の人から妙に持ち上げられたり前祝いされたりしたら要注意と。

そうゆーの実地で見ちゃったもんでさ、JAXA 内部でもフツーにそういうことがあるんじゃないかなーと。けどこれ、科学者・技術者の間じゃ比較的起きにくいんじゃないかな。宇宙と自然の摂理が相手の仕事だもん、仕事でそれを通した意思伝達を普段からしてれば、「ウソやごまかしは検証されると必ずバレる → 惨めな結果を招くそういう真似なんて、はじめからやらんのが正解」となるわけで(科学者でもはやぶさ2 怪文書の著者みたいのもいるから、完全にそうだというわけではないけど)。

で、真理や本質を最重要視するそんな人間にとって、どうにも話が通じないのが権力志向の人たち。どう見ても本質に対して軸がぶれてるんで気持ち悪い。相手が真価が分からん蒙昧な人に見える。自分より劣った人間に従う気は起きんわな。一方、権力好きの人たちにとっても、本質指向の人はいささか扱いにくい。彼らが用意するおいしいはずのエサをありがたがらない。こっちはこっちで、相手がモノの価値の分からんカタブツに見える。理解できん相手は遠ざけてなるべく触らんようにするか、あるいは自分の力を示して無理にでも従わせるか。

てことで妄想的結論。JAXA の中の権力志向にして、自分ではいいアイデアだと思ってた J-I を旧 NASDA じゃ誰も助けてくれなかったことに逆恨みな人々(構想が甘っちょろかったことは棚に上げて)。JAXA 創立で学者集団の ISAS が自分らの下に入ってきたのをいいことに、自らの権力を振るってみたくなったんじゃないのかなぁ。それであんな取り返しのつかないこと(M-V の強制廃止と J-I 焼き直し計画のゴリ押し)をしでかしたんじゃないのかなぁ。

さらに別な妄想で、旧 NASDA の GX ロケット開発組も M-V が目障りだった(開発難航でスペックダウンしたら、絶賛スペックアップ中だった M-V と競合してしまったんで)んじゃないかとも思ってる。んで J-I 亡霊組とタッグで M-V を殺したんじゃないかとか。

正直、低軌道打ち上げ能力1.3トンで1発38億円っつうイプシロンのスペックは、触れ込みと違って別に安くない(J-I よりはるかにマシだけど)。ペイロードの単位質量あたりだと、「高額だから」という理由で廃止に追い込まれた M-V(低軌道打ち上げ能力2.3トンで1発70億円) と同じ程度。M-V より小型だからそのぶん単価が上がるんだけど(まとめ買いと逆の原理で)、それを考えに入れても世界を驚かすほどじゃない。つうか売り物の究極の省力化技術「モバイル管制」を導入して、なんでこんなに高いのかむしろ謎。

M-V の廃止が決まる前、ISAS は M-V の打ち上げ費用を半額にする改良計画を JAXA に提出した。能力を変えずに1発で35億円。その開発費用は100億円。イプシロンは M-V の半分強の能力で1発38億円。開発費用は200億円。どこからどう考えても M-V 改良型の方がいい。けど M-V 改良案はろくな検討もされずに JAXA 内の偉い人たち(旧 NASDA の人たち)に突っぱねられ、その上で「高価だから」と M-V そのものを廃止され、ISAS は代わりによくわからん小型ロケットの新規開発を押し付けられ。ほんと考えるだに意味分からん。

銘板左端銘板銘板右端

根拠薄弱なことをさんざん書いたけど、救いなのは ISAS の森田泰弘プロジェクトマネージャーが前向きな声明を出してるってこと。もう動き出したんだから、成功を祈らずにいられないよ。

イプシロンは後期計画でさらにコストダウンを進めて、1発30億円に持っていくんだそうな。もう一声欲しいとこだけど、とりあえず今考えられる日本の英知を集めると、このあたりまでってことか。あとイプシロン開発でのコストダウン技術の成果を、H-IIA に応用することがはじめから織り込み済みだそうで。そこも意義深かったりする。

わけ分かんない自己目的管理職が、せめてこれ以上の邪魔をしないことを祈るよ。

銘板
2010.7.30 金曜
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探査機 IKAROS

IKAROS って科学観測装置も積んでたんだな。知らなかったよ。しかも、小さくて単純そうな装置だけど一線級の成果を狙ってる。ここらはさすが ISAS 探査機だわ。

これもイプシロンと同じく、ISAS メールマガジン7月20日号の記事から(詳細記事)。

ガンマ線バースト

「天文学の分野で知られている中で最も光度の明るい物理現象である」(Wikipedia より)

けど謎が多いらしくて。新聞に科学記事が旺盛だった90年代、何度か記事で見かけたことがあったよ。宇宙の物理現象って、けっこうゆったりしたものが多い。年単位なんて速い方。何百万年や何億年かけて、じわじわ変わっていくのが普通。天体って巨大だから、そういうタイムスパンになりがち。特に太陽系外の現象はあんまり遠いもんで、地球から見えるものといったら、ものすごく巨大な天体で起きてるもの限定になるしね(最近じゃ系外惑星の直接観測ができ始めてはいるけど)。だから急速な変化はレアな現象。

変光星超新星なんかその中でもかなり速い変化だよね。人1人の一生のうちにその様子を見れるどころか、毎日の観測でその変化が掴めるほど速い(超新星は発生自体がレアなんで、観測するチャンスに巡り会える人を歴史で数えると少ないんだけどさ)。

ほかにパルサーとゆーのもある。電波でシピピピピと点滅してる天体。超新星爆発の後に残った星の芯、中性子星。こいつは恒星にしては異常に小さい。小さいゆえに超高速で自転する。その両極から電波ビームがピーッと途切れなく出てるんだけど、自転軸と電波ビームの軸が微妙にズレてるから、ビームの線はミソすり運動をする。で、その照射先に偶然地球があると、地上からは電波がシピピピピと点滅してるように見える、という仕組み、らしい (^_^;)

藤原定家(1162-1241)が日記『明月記』に過去の伝聞として記録した超新星。あれから約1000年後の今は、かに星雲になってる。6300光年先にあるらしいんで、超新星爆発が起きたのは今から7300年ほど前ってことか。で、その中心には「かにパルサー」というちょいとエキセントリックな名前のパルサーが、電波をピロピロと点滅させてるんだそうな。

んーしかし、この超新星爆発が地球で観測された1054年以前は、かに星雲って夜空になかったんだよな。それ以前の、例えば奈良時代の人たちは夜空のその場所にどんなものを見てたんだろ。超新星爆発寸前の星はたぶん赤色巨星。アンタレス(550光年)とかベテルギウス(640光年)とかがそうだね。その10倍の6300光年だから、肉眼じゃこの星は見えなかったかもな。かに星雲も微妙だけど。でも有史以後なんつう天文学的には短い時間感覚で星空が違うっての、なんか不思議な気がする。

このパルサーくらいの瞬発力で、放射線の一種のガンマ線が激しく変動する現象。それがガンマ線バースト。人体には最も有害な放射線とされる暴れん坊のガンマ線だけど、銀河空間から届くのはかなり微弱で、地球大気で弱められて地表にまで届かないほど。てことで、この現象を直接観測するにはかなり高い空に昇るしかない(あるいは、地上じゃ自然環境にある放射性物質の崩壊でのガンマ線に埋もれてしまうのかな)。気球でも観測できなくはないだろうけど、いつ来るか分からん現象に必要な長期観測には向かない。となると衛星の出番。

けどガンマ線を扱う宇宙望遠鏡衛星は、今のとこあんましない。フェルミすざく くらい。もしかしたら国際宇宙ステーション(ISS)にも検出装置が設置されてるかも。で、たぶんデータの絶対量なり実行されてる観測方法が不足してるんだと思う。そんなわけで、IKAROS にチャンスが巡ってきたんだと思う。

ガンマ線バースト偏光観測器_IKAROS
↑IKAROS とガンマ線バースト偏光観測器

IKAROS の主目的は、太陽帆での宇宙航行の実証。工学目的。しかも超低予算で作られた小型の宇宙機(惑星間宇宙機で開発費が20億円もしないのって前代未聞だと思う)。だから理学観測機器の搭載にはかなりの制限があったはず。てことで、光学望遠鏡で言う集光力にあたる性能はたぶん捨ててると思う。X 線望遠鏡や赤外線望遠鏡でのノイズを抑える装備にあたるものもないと思う。だから感度は期待できなさそうだけど、それでもガンマ線観測衛星に比べて利点がある。それは近くに何もない宇宙空間に浮かんでるってこと。それだけ多くの空域を一気に見張れるってこと。ガンマ線観測衛星は近くに地球があるからね。その方向の天体は見えないわけで。一瞬の反応のガンマ線バーストの観測には、地球低軌道は最適じゃないかも。

そんなわけで IKAROS は好条件を活かして、全方位観測をすることにしたらしい。しかもその必殺技は、方向限定だけどガンマ線の偏光を世界で初めて観測できるかも、というあたり。いいねぇ「世界初」狙い。

ガンマ線の偏光まで観測できる確率は2割ほどだそうで。5回に1回。「GAPは6月末から機能確認を開始し、初期設定を終えた直後にガンマ線バーストを観測しました」とある。このときは偏光を観測できなかったみたいだけど、このペースが続けば、待ってりゃ確率的にそのうち観測できるっしょ。

金星の近くを通過する時点で、IKAROS の工学上の目的は全部果たされることになってるらしい。そこから先はボーナスミッション。だけど ISAS の深宇宙ミッションの主役はそのときには金星探査機 あかつき に移るだろうから、その先、人的リソースをどれだけ IKAROS に割けるか、が勝負になるかと。予定の機体試験が全部終わった後だろうから、あんまし集中的には忙しくならなさそうではあるけど。機体の加速と一緒に、のんびりいきますかー。

〓ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ⊂<回 ←仕切りジッパー

宇宙帆船 IKAROS の寿命の決定要素は推進剤の枯渇じゃないわけで(姿勢制御も太陽光の力でこなせちゃうんだもんな)、それを考えると、うまくいくと相当の長期間、IKAROS はガンマ線バーストの観測を続けられるんじゃないかと。地球より太陽に近い軌道を飛ぶんで、その意味じゃ放射線での機器の劣化が一番心配かな。けど金星に張り付きの あかつき よりはその条件が緩かったりする。

行き先のない深宇宙航行って世界でも珍しいかもな。世界初の半永久推進機構を備えた IKAROS の任務は、その装備で飛び続けることと生き続けること。存在すべてが未来への財産になる。オマケ企画のガンマ線バースト観測でさえも世界初を狙う。これが破格の20億円以下のプロジェクトだもんなー。ほんと痛快すぎるよ。

銘板
2010.7.31 土曜
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巨大月の時代

お月様は毎年 3.8cm ずつ、地球から遠ざかってるそうな。

てことは昔はお月様はでっかく見えてたはず。そんで、例えば恐竜はどのくらいの大きさのお月様を見てたのか、ちょっと知りたくなった。一定速度だと仮定して、ちょっくら計算してみるべ。

1000年前は今より 38m 近かった。月までの距離は 38万km もあるから、竹取物語の時代じゃお月様の見栄えはまったく変わりなし。立待月とかいざよいとかで昔の日本人が楽しんだのと、おいらたちは同じ月を見てたわけだ。漫画とその映画化で「同じ月を見ている」ってのがあった気がするけど、ここじゃ関係なしw

100万年前はどうだ。このときは 38km 近かったことになる。地上じゃ結構な距離の 38kmは、38万 km の 0.01% でしかない。アフリカじゃ直立猿人ホモ・エレクトスの全盛期。ほかにもこの時代に前後・並行して、文明を持つに至る知的生物のプロトタイプたちが、泡のように発生しては消えてった、そのあたり。彼らが見上げたお月様もまた、今と見分けがつかなかったはず。

1億年前は白亜紀(1億4550万年前〜6500万年前)のど真ん中。ついに来ましたよ恐竜の時代。この時代のお月様までの距離は、今より 1% ほど地球に近かった(今ここでやってるアバウトな計算だと、1億年で 1% だね)。このくらいじゃまだまだ違いは分からんね。おいらたちがこの時代にタイムスリップすると、「やっぱしお月様はお月様だなー」って程度かな。その前に恐竜に食われんよう気をつけんと(汗)

前期白亜紀のステゴサウルスイグアノドンデイノニクス、日本で見つかった丹波竜やらが夜ごとに眺めたお月様は、もうちょっと大きかったはずだろうけど。

その少し前のジュラ紀(1億9500万年前〜1億3500万年前)だと、お月様のサイズは大体今の 1.7% 増し。じわじわでっかくなってきたけど、まだ分からんよなぁ。このあたりはアパトサウルスブラキオサウルスみたいな、巨大で首がひょろーんと長い草食恐竜が、地上や沼地をのしのし歩いてたらしい。首を上に伸ばしたら、お月様に近づくぶんだけもうちょっと大きく見えたかなw そういや高校の頃、同じ学年に背の高い女子が3人いて、「この3人が肩車すれば月にチョップできる」と言われてたっけww ほんとどうでもいいwww

恐竜より前に地球の陸上にどんな生き物がいたのかは、おいらの浅学じゃ不明。あ、でも昆虫は古生代デボン紀前期に地上に現れたらしい。ふむふむ、ゴキブリやアリ、トンボの祖先か。さらにその前にウミグモ、カブトガニ、クモ、サソリ、ムカデが生まれたのか(資料)。それどころか昆虫はいきなし大繁栄かよ。今も充分に大繁栄してると思うが。つうか今も昔もあんまし頭よくなさそうな連中だなw この虫けらどもがww デボン紀を4億年前として、お月様の見かけの大きさは 4% 増し。明るさは 8% 増し。タイムスリップした人間がその違いが分かるかどうか、ちょいと難しそうなあたりですな。

有名なカンブリア紀(5億4500万年前〜5億0500万年前)は、動物はほとんど海の中だけに棲んでたらしい。この頃(約5億年前)のお月様の見かけのサイズは、今の 5% 増し。面積と明るさは 10% 増。さすがにこれなら「なんかお月様、妙にでっかくて明るくね?」と気付けるかも。 でもそんな微妙に大きなお月様を見る生き物は地上にはいなかった。浅い海じゃ、波でゆらゆらゆれる、ちょっと大きめなお月様を水面下から見れたかもだけど。

それより前のカンブリア爆発以前となると、お月見できる生き物はいなさそう。なんでって、「目」が生物に備わる前だから。

そんな誰も見てなかったお月様の見た目が、今の1.1倍サイズだった頃を計算してみる(見かけの面積と明るさは1.21倍)このくらいならさすがに、「おっ、でけー!!」と分かるんじゃないかと。その距離は今の 90% ほど。10% くらい近くなるわけで、1億年遡ると月と地球の距離が 1% 縮まるとして、10億年前。原生代の、ステニアントニアン という時代区分の間あたりらしい。人間の目で分かる大きさの生物はまだいなかったと思われ。まるっと大きなお月様が、ちょいとだけ近くから地球の夜を、今よりちょっと明るく照らしてた。月の女神さん、「生き物そろそろ生まれたかな〜」なんて、夜空から懐中電灯で照らして探してたかもねw

さてさて、ここからはおいらの計算の検証。地球から月までの距離が今(約38万km)と比べて、1億年遡るごとに 1% 縮まるってことは、地球が形成された頃(約46億年前は)、お月様は今より 46% 近かったって計算になる。距離の割合にすると 54%。距離の長さに直すと20万5,200km。地球の半径(約6,400km)を差し引くと 198,800km。なんかお値打ち品の値段みたいになったな。しかもけっこう高い (^_^;)

月の生成にはいろいろ説があるけど、今最有力なのが ジャイアントインパクト説。地球が生まれてまもなくの約46億年前、火星サイズの惑星が地球に衝突して、それで飛び出た岩が集まって固まってお月様になった、というもの。ところがこの説が言うには、月が形成された頃の軌道高度はたった2万km。さっき計算した約 20万km の10分の1でしかない。静止軌道より低いな。GPS 軌道くらい。

今日は「月が地球から遠ざかる速度は 3.8cm/年」と定数として計算したけど、そこが違ってるんだろう、と。たぶん地球と近かった頃は、お月様が離れていくスピードが速かったんだろう、と。てことで今日書いた、年代による月の見かけの大きさ、これ参考程度の信頼性ってことでひとつ。年代を遡るほど誤差が大きくなっていくってことでよろすく〜。

白亜紀の恐竜もデボン紀の昆虫もカンブリア紀のわけわからん動物も、おいらが計算したよりずっとずっとでっかいお月様を見上げてたってことですなー。

そのあたりは月が近かったってことは、月の公転周期は今よりももっと短くて、しかも潮汐力はもっと強かったはず。満月の夜もかなり明るくなってたはず。今の生物の営みが月に影響されてるのかどうかよく分からんけど(根拠の薄い状況証拠しか知らんので)、何億年も前はそんなわけで、月の挙動にはっきりと影響された生き物も相当いたのかもね。てことは『ジュラシックパーク』的なやり方で、デボン紀あたりの昆虫とかを現代に無理に甦らせても、うまく生きられないのかもしんないねぇ。

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