5. レンダー
レンダーとは、3D オブジェクトと照明のシーンを1つの 2D 画像や 2D 画像のセットに変換する工程のことです。レンダーで得られる 2D 画像は、シーン内の関連するすべてのオブジェクトの位置とパラメータをもとに計算して作られます。その計算を行うプログラムをレンダリングエンジンと呼び、Art of Illusion では「ランスターエンジン」「レイトレーサーエンジン」の2種類のレンダリングエンジンを利用できます。レンダリングエンジンについては、セクション 5.3 と 5.4 で詳しく解説します。
5.1 カメラ
カメラで、レンダーする画像の視点が得られます。シーンには好きなだけ多くのカメラを設置できます。視点ポートにしたいカメラを設定するには、レンダーダイアログを使います。
5.1.1 カメラのオプション
レンダーの詳細を見る前に、シーン内のカメラで使えるオプションを見ていきましょう。オブジェクトリスト内のカメラを、ダブルクリックするか オブジェクト → 編集... を選択すると、以下のダイアログが表示されます。
|
カメラを設定するパラメータは3つです。
視野 カメラが「見る」垂直角です。取れる視野角は0〜180°です。視野の水平角は、画像のアスペクト比(縦横比)で決まります。このパラメータを変えると、興味深い効果を作れます。下の図の例は、1つのオブジェクトについて視野の値とズームを変えて作成しました。
|
被写界深度 カメラ基点で焦点が合う距離(焦点距離)の、前後端同士の距離です。この範囲から外れると焦点がボケます。被写界深度フィルターがカメラに追加されていなければ、あるいはレンダリングエンジンで 被写界深度 オプションが ON でなければ効果を出しません(今のところレイトレーサーのみがサポート)。
焦点距離 完全に焦点が合う位置までの距離です。被写界深度 と同じく、有効にするには被写界深度フィルターが使われているか、レンダリングエンジンで 被写界深度 が ON になっている必要があります。
遠近法 このオプションで、遠近法でレンダーするか、平行投影でレンダーするかを選びます。
カメラフィルターは次のセクションで扱います。
5.1.2 カメラフィルター
カメラフィルターは、レンダーした画像の後処理で適用する方法で、レンダーで作成した画像に 2D 効果を加えます。カメラフィルターは カメラオプションのダイアログ から使えます。 ボタンをクリックすると、以下のようなカメラフィルターダイアログが表示されます。
|
ダイアログの左側は、使用できるカメラフィルターのリストです。現在、9つのフィルターから選べます。フィルターを適用するには、リストから選択して 追加 >> をクリックします。これで選択したタイプのフィルターがその右側のリストに追加されます。このリストにあるフィルターは、上から順に画像に適用されます。
リストには好きなだけフィルターを入れられます。順番は 上へ、下へ ボタンで組み替えられます。また、フィルターは 削除 ボタンで削除できます。
右側のリストでフィルターを選択すると、その下のパネルに調整可能なパラメータが表示されます。例えば「輝き」フィルターのパラメータは「形状」「半径」「強度」です。
ダイアログの右側はレンダー画像のプレビューです。このプレビューでのレンダーのパラメータは プレビューの調整... をクリックすると選択できます。表示されるダイアログには、普通のレンダーのオプションがほぼすべてあります。 |
フィルターのほとんどは自動注釈付きで、プレビューはダイアログで使えるので、効果を微調整できます。
以下に示す例では、彩度・色合い・明るさ のフィルターでセピアトーンの効果を作りました。
以下の別な例では、Outline(アウトライン)フィルターとにじみフィルターを使いました。Outline フィルターはオブジェクトの外周に、オブジェクトの深度に応じて線を描きます。このフィルターのパラメータは4つです。太さ は描線の太さ、Change Cutoff と Distance Cutoff は、線をどう描くか、いつ描くかを調整するパラメータ、色 は描線の色です。
Exposure Correction (露出補正) フィルターは、Global Illumination のシーンで便利です。下の図のように、レンダーした画像をガンマ補正(暗い領域を明るめにする)します。
ノイズ低減フィルター は、画像のノイズの多い部分をぼかします。このフィルターは、その画像に望まれる特徴を保ちつつ、画像の必要な部分に「知能」平滑化を行います。ノイズ低減 パラメータで、ぼかしの量を設定します。数字を大きくするほど滑らかになります。例を示します。この下の画像はすべて最小光線数4、最大光線数が32でレンダーし、ノイズ低減レベルを変えています。ご覧のように、フィルターはシーンの重要な要素を保ちながら、効果的にノイズの平滑化をしています。しかしパラメータの数値を上げすぎると、重要な特徴にも影響を及ぼし始めます。
被写界深度フィルターは、その部分がカメラからどれだけ遠いかで、画像の一部をぼかします。被写界深度の効果を作る方法を紹介します。ある特定の距離でカメラの「焦点が合っている」とき、そこより近すぎ・遠すぎのオブジェクトは焦点から外れ、像がボケます。または レイトレーサー の被写界深度オプションを ON にしてもできます。レイトレーサーは物理的にさらに精密な被写界深度効果を作りますが、フィルターよりかなり時間がかかります。
それぞれのフィルターのパラメータはアニメーション化できます。詳しくは アニメーション の章をご覧ください。
5.2 環境の設定
さまざまな環境オプションを設定するには、シーン → 環境 を選択します。これで以下のダイアログが表示されます。
|
周辺光 オブジェクト上の表面すべてに落ちる光(特定の光源からではなく、すべての方向から等しく届く光)の色と強さを設定します。
環境 背景となる色またはテクスチャを設定します。色を選ぶには、ドロップダウンメニューから 単色 を選択して、そのメニューの下のカラーボックスをクリック、そこで色を選択します。テクスチャを設定するには、メニューから テクスチャ - 拡散 か テクスチャ - 発光 を選択します。 をクリックして、使用するテクスチャを選びます。指定したテクスチャは半径1の球にマッピングされ、球の表面の各点の色(テクスチャの拡散色または発光色)が、その方向から来る光を決定します。この色はレンダー画像の背景となります。シーン内の光沢のあるオブジェクト上では鏡面反射、(Global Illumination が ON のときは)そのほかのオブジェクトでは拡散反射します。
|
Environment Fog (環境霧) は、一様な霧の効果を作ります。霧の色 で、通常の色選択機能から霧の色を設定します。ある点から距離 r を通ってカメラに入る光量は、e -r/d で与えられます。d は 霧の距離 です。d よりもカメラにとても近いオブジェクトは、霧の効果があっても比較的明瞭になります。周辺光と環境光の色が近いとき、Environment Fog は最も効果的になります。 |
|
5.3 ラスターエンジン
レイトレーサーに対してラスターエンジンが唯一の優れているのはスピードですが、このレンダリングエンジンには影と反射を作る能力がないことに気をつけねばなりません。
ラスターレンダリングエンジンは、スクリーンに三角形を描くことで動作します。各オブジェクトは小さな三角形に分解されます。
三角形それぞれの画像上の位置を計算する変換が行われ、三角形が埋められます。三角形上のある点の色は、その点のテクスチャとその場の表面に当たる光で決まります。後者の計算用に、Art of Illusion では2つの標準アルゴリズム「グーロー(Gouraud)陰影」と「フォン(Phong)陰影」をサポートしています。
グーロー陰影は、三角形のそれぞれのカドに当たる光を計算し、これを補間して、各ピクセルの光を見積もります。フォン陰影は、それぞれの点での表面の法線を見積もって補間し、それを使ってその点での表面に当たる光の総量を計算します。グーロー陰影の方が速いですが、精度は高くありません。また、光沢のある表面が特に不得意です。
ラスターエンジンは影や反射をレンダーできないので、それが必要ならばレイトレーサーに替える必要があります。
ラスターエンジンでレンダーをする場合、シーン → レンダー を選択してダイアログを表示します。その右上から Raster を選びます。
5.3.1 ラスターレンダーのオプション
|
横 と 縦 で、作成する 2D 画像のサイズ(ピクセル)を設定します。
選択した カメラ で、レンダーする視点を決めます。選んだカメラからの視点は、視点ウインドウの1つでプレビューを見られます。このときズームは100に設定します。
レンダーするものは Single Image (1つの画像) か Movie (動画) かを選べます。Movie オプションでは、実際には連番の画像1組を作ります。これを別途のグラフィックソフトでビデオフォーマットに変換して、動画にします。動画のレンダーの詳細は、アニメーション をご覧ください。
その下にある 開始、終了、フレーム/秒、画像/フレーム はすべてアニメーションに関するものです。詳しくは 該当セクション をご参照ください。 |
面の精密さ で、レンダーするシーン内の要素の精密さを決めます。値を低くすれば、より精密になります。実際、この値は、本来の表面に含まれている表面を構成する三角形の距離です。面の精密さを上げると、レンダー時間がそれだけ増えてしまうことに注意しましょう。以下の例では面の精密さの値を変えて、その効果の違いを示しました。面の精密さは0.005以下にはしなくていいことが分かります。
陰影付け グーロー、ハイブリッド、フォンのいずれかを選べます。グーロー陰影とフォン陰影は先に説明済みです。ハイブリッドは両者の組み合わせです。拡散反射にはグーロー、鏡面反射にはフォンを使います。ハイブリッドを使うと、レンダーの速度、品質とも、2つの方法の中間の結果となります。以下に簡単な例を示します。
スーパーサンプリング サンプリングを追加して、より滑らかな見映えの画像を作成する方法です。オプションは「なし」「辺(ジャギーが出る傾向あり)」「すべて(要素全体)」です。スーパーサンプリングする領域は、2×2 か 3×3 ピクセルです。
背景を透明に 背景が透明の画像を作成します。つまり画像にアルファチャンネルを追加します(TIFF フォーマットで保存する場合)。画像は 2D ペイントソフトで、アルファチャンネルを使って選択できます。
上級オプション... も設定できます。 をクリックすると、以下のダイアログが表示されます。
|
Texture Smoothing(テクスチャの平滑化) で、シーン内のすべてのテクスチャにアンチエイリアスを適用します。これで1ピクセル以下の細部を削除し、レンタリングエンジンやテクスチャ内での、平滑化の不足ややり過ぎといった問題の発生を抑えます。平滑度の初期設定値は1です。1より大きくするとより滑らかになり、1以下では滑らかさが失われていきます。
遠い物体の精度を低く チェックを ON にすると、シーン内の遠いオブジェクトの表面精度が、近いものより低くなります。これで画像出力の質の差は気づかないほど小さくしたまま、レンダーの演算を最適化します。
黒い面を除く ランターエンジンが描画する三角形には、表面と裏面とがあります。通常、裏面は見えることはありません。レンダーでは裏面の描画を省くことで、演算を最適化します。状況によっては、例えば閉じたオブジェクトの内側では裏面は見えています。その場合はこのオプションを OFF にします。
ダイナミックレンジの高い画像 ここが OFF の場合、レンダーした画像のピクセルの色は、それぞれで範囲が 0〜255 の赤・緑・青チャンネルの組み合わせになり、画像内で表現される色の強度の範囲を制限します。ON にすると、レンダー画像内で浮動小数点ピクセルデータを生成します。これで、色や強度の範囲を無限にします。このオプションは、レンダー画像の保存時、浮動小数点をサポートする画像フォーマット(つまり .hdr)のみで有効です。 |
5.4 レイトレーサーエンジン
レイトレーサーは、視点からシーンに「光線を射ち」ます。カメラの位置から画像平面上の(ピクセルに相当する)点を通る直線をたどり、オブジェクトのどれかに当たるかどうかを見て、ピクセルをどんな色にするかを決定します。もしオブジェクトに当たるなら、光線が当たった点について処理します。光線は光源それぞれまで道をたどり、途上に何かがあるかどうかを見ます。そのオブジェクトが透明なら、そのオブジェクトの屈折率のインデックスから「光の伝導の方向」を計算します。そしてその方向の光線をたどります。オブジェクトに光沢があるなら、「反射した光線の方向」を計算し、その方向のさらに別の光線をたどります。光線がまたオブジェクトに当たると、さらにまた別の光線をたどります。
レイトレーサーエンジンでシーンをレンダーするには、レンダー を選択して、表示されたダイアログの右上で Raytracer を選びます。
5.4.1 レイトレーサーの基本的なレンダーオプション
|
横 と 縦 で、作成する 2D 画像のサイズ(ピクセル)を決めます。
カメラ の選択で、どの視点でレンダーするかを決定します。視点は、視点ウインドウの1つでカメラを選ぶことで、プレビューできます。このときズームは100にしてください。
レンダーは Single Image (1つの画像) か Movie (動画) かを選べます。Movie オプションでは、実際には連番の画像1組を作ります。これを別途のグラフィックソフトでビデオフォーマットに変換して動画にします。あるいは QuickTime ムービー形式にもできます。動画のレンダーの詳細は、アニメーション をご覧ください。
その下にある 開始、終了、フレーム/秒、画像/フレーム はすべてアニメーションに関するものです。詳しくは 該当セクション をご参照ください。 |
面の精密さ で、レンダーするシーン内の要素の精密さを決めます。値を低くすれば、より精密になります。面の精密さを上げると、レンダー時間がそれだけ増えてしまうことに注意しましょう。以下の例では面の精密さの値を変えて、その効果の違いを示しました。
アンチエイリアス エイリアスとは、傾斜や曲線のふちが「ぎざぎざ(ジャギー)」になったり、細い線が「ちぎれて」見える効果です。基本的に、各ピクセルでの光線のアンダーサンプリングが原因です。アンチエイリアスはこのような結果を滑らかにするテクニックです。またアンチエイリアスは追加のサンプリングを、広く、もしくはエイリアスの傾向が特にある画像の領域で行います。
Art of Illusion のアンチエイリアスには「中間」「最大」の2つのレベルがあります。「最大」は通常、「中間」よりも見映えのいい結果を作るので、ほとんどの場合は「最大」がいいでしょう。たまに、とても細かい部分がボケてしまうことがあります。その場合は「中間」にします。アンチエイリアスに使う光線の数も変えられます。Art of Illlusion は、必要な領域内で光線の数を増やすという、適応性のあるサンプリングテクニックを使います。最小光線数と最大光線数は、4〜1024 で設定できます。ダイアログで最小光線数/ピクセルを増やし、最大光線数/ピクセルを減らすと、結果が改善されます。
アンチエイリアスの量(必要な光線数)は画像にとても依存します。しかし光線数/ピクセルが増えると、レンダー時間も増えることに気をつけましょう。以下の例では、異なる最小/最大光線数の設定での、2つのレベルのアンチエイリアスを示しています。
大抵は最小4、最大16で充分なアンチエイリアスになります。追加分の光線は、「ソフトな影」「被写界深度」「光沢と透明」で必要になります。最小は一般に、最大より大幅に小さく設定できます。
被写界深度 このオプションを ON にすると、カメラの焦点距離と被写界深度を稼働させて、真のフォトリアリスティックな効果を作ります。焦点が合うのは、「焦点距離±被写界深度」の範囲のみです。オブジェクトがこの領域から離れるほど、像がボケます。それぞれのカメラの焦点距離と被写界深度は、カメラのオプション で調整します。以下の例では、同じシーンでカメラのパラメータを変えました。
光沢と透明 この場合の「光沢」(GLoss)は、オブジェクトのテクスチャでの 粗さ で起きる、ぼやけた反射を表す用語です。「透明」(Translucency)はオブジェクトのテクスチャの 曇り で与えられる、透明になったオブジェクトを透過した光で起きる変化のことです。詳しくは 一様なテクスチャ をご覧ください。以下の図は、かすかに凹凸のある金属表面での Gloss (光沢) の例です。高い 粗さ で滑らかな結果を得るには、より多くの光線数が必要なことにご注意ください。
ソフトな影 このオプションを ON にすると影の ふち がソフトになり、さらにリアルになります。このような影は、有限の大きさの光源(通常、点光源を用いる)で作られます。下の図のように、光源の大きさ(点光源やスポットライトの半径や、平行光の角半径)を変えると、影はよりソフトになります。注意: 光源の半径を大きくすると、滑らかな結果を得るには光線はより多く必要になります。
「光沢と透明」や「ソフトな影」では、その効果のサンプリング光線数を増やす方法は2つあります。まずは、最大光線数/ピクセル設定を増やすことで、それぞれのピクセルを通る「一次光線」の数を増やす方法です。もうひとつは、サンプリング光線数 を調整して、行いたい効果のサンプリングのためのみに多数の光線を使うよう、レイトレーサーを設定する方法です。後者は追加の光線をこの効果のためだけに作るので、処理がより速いです。その一方、一次光線の方法は適応性が低いので、必要でないときでも追加の光線が常に作られます(影を作るオブジェクトからとても遠い部分で、ソフトな影をレンダーしたりします)。そのため処理は遅くなります。
あるシーンでどの組み合わせが最も速くレンダーできるのかは、いろいろ実験してみることです。
レイトレーサーのダイアログにはほかに、ボタン3つ でアクセスできる効果があります。
5.4.2 照明... - Global
Illumination, Caustics and Subsurface Scattering(大域照明、集光、表面下散乱)
ボタンで以下のダイアログが表示され、Global Illumination(GI: 大域照明)、Caustics(集光)、Subsurface Scattering(SSS: 表面下散乱)効果の設定ができます。
Global Illumination(大域照明)
Global illumination (GI: 大域照明) は、光が表面で散乱する様子を再現する方法です。実際にはこれは、近くにある表面同士で、光を跳ね返し合うことを意味します。以下の例では、箱の中の球にスポットライトを当てました。左側は GI なしでレンダーした画像で、オブジェクトの上の方に点光源があります。この場合、現実世界で期待される、球からの赤い光の散乱はありません。真ん中の画像では GI を ON にしました。箱の内壁が、散乱光でほんのり赤くなっています。散乱光(粒)の量は、周辺光の色 の設定と、光を散乱するオブジェクトの拡散反射色によります。
GI を使うと、上の右の図のように、環境の背景 も光源として使えます。
このテクニックは、どんより曇った日の照明(下の例)や、頭上に大きな光源のある室内のシーンを再現するとき大変効果的です。 |
また GI を使うと、発光テクスチャが本当に光を放ちます。発する光を明るくするには、倍率 モジュールでオブジェクトの発光色を拡大します。詳しくは コチラ。 |
|
|
Global Illumination は画像ベースの照明を合わせると、リアルで印象的な効果を作れます。これを行うには、背景テクスチャに画像を設定して、光源にします。ダイナミックレンジや輝度の高い画像(.hdr)を使うと、さらに効果的です。 |
|
GI を効果的に使うには、いくつかの要素のバランスが必要です。一般に、拡散反射色は通常より暗く、周辺色を黒に近くして、(使っているなら)光源を明るくして、光線数/ピクセルを多くすると、滑らかな見映えの画像になります。
上記のオプションのリストにあるように、Art of Illusion での GI の計算には「Ambient Occulision(環境閉塞)」「モンテカルロ」「フォトンマッピング」「ハイブリッド」の4つの方法があります。
モンテカルロ 法は、散乱した(または拡散反射した)光線をレイトレーシングアルゴリズムに追加します。この光線はランダムな方向に発せられます。そして充分な量の光線数/ピクセルを使って、光源ではなく物体から入射する光の総量を与え、その平均を取ります。結果画像の平滑度は、レイトレーサーのダイアログでの光線数の設定で調整します。さらによく仕上げるには、照明オプションのダイアログで Rays to Sample Environment (サンプリング環境への光線数) を設定します。どちらの場合でも、光線数を多くするほど結果画像が滑らかになります。
両者の違いは、同じ量の GI ノイズでのレンダーの速さです。レイトレーサーダイアログで最小/最大光線数を増やすと、レンダリング工程全体での光線数が増えます。Rays to Sample Environment (サンプリング環境への光線数) を使うと、GI の評価に使われる光線数のみが増えるので、レンダーが速くなります。
画像ベースの照明で背景画像を使う場合、その画像に平滑化を適用することもまた重要です(GI での追加の平滑化 をご覧ください)。
Ambient Occlusion (環境閉塞) は、モンテカルロ GI アルゴリズムの単純版です。モンテカルロが、散乱・再散乱するすべての光線がシーンから消えるまで追跡して演算し続けるのに対し、Ambient Occlusion は反射同士の拡散は計算しません。その結果、色のにじみは発生しません。しかし Ambient Occlusion は、環境光や発光オブジェクトでシーンを照明できます。これは以下の、モンテカルロ VS Ambient Occlusion の画像で分かります。また Ambient Occlusion の方が処理が速いです。
フォトンマッピング(直接) は GI を計算する別の方法です。この方法では、それぞれの光源(と発光テクスチャ付きのオブジェクト)で発したひとつずつの光子(フォトン)の経路から、GI フォトンマップが作られます。全体で描かれる光子の数は、照明オプションダイアログの Total Photons で設定します。もうお分かりでしょうが、光子を多く使うほどフォトンマップは精密になります。しかしこの値を大きくするとメモリを多く消費し、レンダー時間も長くなります。
フォトンマップは作成後、シーン内のそれぞれの点での光の計算に使います。具体的には、ノイズを減らすため、その点の周りの光子の数の平均(点からの距離に従う)の重みで、それぞれの点での光を計算します。この計算で使う光子の数は、照明オプションダイアログの # To Estimate Light の値で設定します。この値を増やすとノイズが減りますが、フォトンマップがボケる原因になり得ます。このため、必要な数の光を得るには、その点から大きく離れた場所でのサンプリングが必要です。また、特に鋭い角では不自然さが発生します。このような望まぬ効果は、Total Photons を増やせば軽減できます。
以下の画像は、2つの光子パラメータを変えた画像の品質差を示しています。ご覧のように Total Photons を増やすと、鮮明で精密なマップが得られます。対して # To Estimate Light を増やすと、ノイズは減りますが画像がぼやけてきます。
Global Illumination で最後に紹介する方法は ハイブリッド です。これはモンテカルロとフォトンマッピングを組み合わせたものです。モンテカルロ法は拡散反射する前の光線に用います。フォトンマッピングは拡散反射した後の光線に用います。この方法では、フォトンマップは拡散反射で散乱した光線で「見られる」だけです。これは、マップの精度がフォトンマッピング法より重要でなくなるということです。以下の図でそれを示しました。この画像は、光子の数の変化には比較的鈍感です。
Caustics(集光)
(訳注: "Caustics" =「集光」は訳者による勝手訳語です)
照明オプションのダイアログでこのオプションを ON にすると、別のフォトンマップが計算されます。このフォトンマップに入るのは、少なくとも1度、鏡面反射か屈折した光子のみです。これでリアルな Caustics 効果(光が焦点を結び、明るい模様やスポットになる)を作ります。Global Illumination でのフォトンマッピングと同じく、Total Photons と # To Estimate Light を設定できます。
以下の画像で例を示しました。Total Photons を増やすと(左側の縦の列)、Caustics の精度が上がります。# To Estimate Light(右側の縦の列)は、はじめはノイズを低減しますが、高く設定しすぎると画像がぼやけてきます。
Scattering From Materials (材質での散乱)
散乱性の材質を割り当てたオブジェクトでは、光はオブジェクトの内部で散乱します。散乱光の計算に使われる方法は、ここで設定します。材質内での散乱のオプションは、「単一散乱」「フォトンマッピング」「両方」の3つです。
単一散乱:
効果のリアルさと精度を犠牲にして計算時間を減らす、シンプルな手法が取られます。散乱性の材質を光線が通るとともに、その各点で光線がそれぞれの光源に発せられ、遮られるかどうかを調べます。これは、散乱がほんの少しの材質(例: 以下の画像のように、埃っぽい部屋に差し込む光)で効果的です。この例では、直方体を1個作成して部屋いっぱいになるように配置して、テクスチャは完全に透明に設定しました。材質の設定は左側の図のとおりです。この材質は半透明に設定しました。そして粒の色を拡大して散乱の量を増やしています。
フォトンマッピング:
サブサーフェス・スキャタリング(表面下散乱)を再現します。これは、ロウや肌、ミルク、大理石などでリアルな材質を作成するのに必須です。この方法では、散乱性の材質を持つすべてのオブジェクトに光子を射って、フォトンマップを作成します。このとき光線を内部で散乱させ、どこで消えるのかを見ます。
たくさんの光源がある場合、処理が単一散乱より速いですが、そうでなければより遅くなります。また、埃っぽい部屋に差し込む日差しのような場合は、太陽光線の ふち をくっきりと出せないため、あまりふさわしくありません。光子の設定は以下の例のように、結果の精度と平滑度に影響します。この例では、テクスチャと材質を図のように設定して、ロウを再現しようと試みました。このシーンは単純なオブジェクトで構成され、透明ですが発光する球(発光の特性は、発光テクスチャではなく、視覚効果としてのみに使われます。このシーンの唯一の照明は、球の中の点光源です)の中に、点光源を仕込んであります。単一散乱では、図の中段右側の結果が得られました。あまりリアルな仕上がりではありません。光子の設定をさまざまに変えてフォトンマッピングを使うと、結果がはるかに良くなりました。
両方 は、単一散乱での標準のレイトレーサーと、多重散乱でのフォトンマッピングの組み合わせです。これは最良の結果を出す定石ですが、最も時間がかかる方法でもあります。
5.4.3 上級オプション
ラスターエンジンと同じように、上級オプション を設定できます。 をクリックすると、以下のダイアログが表示されます。
|
ここで使えるオプションのいくつかを理解するには、レイトレーシングの工程を考慮する必要があります。レンダリングエンジンは、画像内のそれぞれのピクセルを通る光をカメラから発し、その道筋にあるオブジェクトでの相互作用を探ります。光沢のあるオブジェクトや透明なオブジェクトに当たると、今度はそこから多くの光線を発し、それを繰り返します。この工程は、はじめの1本の光から始まり永久に枝分かれできる、光線の「木」を作ります。
適当なところでこの工程を止めるパラメータが2つがあります。Max Ray Tree Depth (最大光線深度) は、最初の光線から枝分かれできる回数です。Min Ray Intensity (最小光線強度) は、ピクセルの最終的な色への影響を無視できるほど光線の強さが小さくなると、工程を止めます。この2つのパラメータはこのため、レンダーの時間と品質を折り合わせる方法になります。
鏡面反射や透明なオブジェクトが多いときは、Max Ray Tree Depth を増やす必要があります。以下の例では、2つの平行な鏡の間に赤い円柱を置いて、無限回の反射をさせようとしています。この場合、以下のように Max Ray Tree Depth は大きくしなければなりません。 |
Material Step Size (材質の きざみ幅) シーン内のすべての材質の きざみ幅を調整します。それぞれの材質の きざみ幅はこのプログラム中で設定されますが、ここで再設定できます。値を小さくするとレンダー時間が長くなりますが、とても凝った材質にはそれが必要になるかもしれません。値を大きくするとレンダーは速くなりますが、材質がぼやけた画像が作られる可能性があります。
Texture Smoothing(テクスチャの平滑化) で、シーン内のすべてのテクスチャのアンチエイリアスをします。これで1ピクセル以下の細部を削除し、レンタリングエンジンやテクスチャ内での、平滑化の不足ややり過ぎといった問題の発生を抑えます。平滑度の初期設定値は1です。1より大きくするとより滑らかになり、1以下では滑らかさが失われていきます。
Extra Smoothing for Global Illumination (GI での追加の平滑化) Global Illumination 工程は本質的にノイズを発生しやすいので、追加の平滑化を行います。平滑化が必要かどうかは、テクスチャや環境のマップで使われる画像の明度の範囲によります。この平滑化は、光線が少なくとも1回、拡散反射した後にのみ適用されます。環境マップは、そのシーン内でオブジェクトから物理的に離れている環境球面から発した光線なので、平滑度を高く取れます。この距離は、表面上の各点が環境マップの大きな領域を「見る」ということです。それで、追加の平滑化の効果は小さくなります。一般に、HDRI 画像では明度の範囲が追加されるので、大きな平滑化が必要になります(1000かそれ以上)。これで最終レンダーでのノイズを減らします。以下の例では、HDRI 環境マップでの追加の平滑化の効果を示しました。レンダーした画像を普通に平滑化しただけでなく、環境マップがぼやけるにつれ、色も際立って違ってきています。
遠い物体の精度を低く チェックを ON にすると、シーン内の遠いオブジェクトの表面精度が、近いものより低くなります。これで画像出力の質の差は気づかないほど小さくしたまま、レンダーの演算を最適化します。
メモリ使用量を少なく(低速) このオプションで、レイトレーサーがその内部で使うメモリ量を減らして、シーンをどれだけ表現するかを変えます。限られたメモリ量で複雑なシーンをレンダーするとき便利です。大抵の場合、レンダー時間は多少長くなります。このため、とても複雑なシーンにのみ使うことをお勧めします。
Russian Roulette Sampling (ロシアンルーレット・サンプリング) は、透明なオブジェクトの内部を通った光線や反射した光線をたどる、上記とは異なる方法です。そのような条件の光線すべての強度を拡大縮小するのではなく、ともかく生成された光線の確率を拡大縮小します。例として、鏡面反射0.2のテクスチャを考えてみましょう。デフォルトのレイトレーシング工程では、0.2で鏡面反射したすべての光線の強度を拡大縮小します。一方 Russian Roulette Sampling では、鏡面反射した光線の強度は1.0です。しかしその 20% のみを使います。ピクセルの最終的な色に対してその光線がほんの少ししか貢献しないとき、光線をレンダーする時間があまりかからない点で有利です。
実際には、Russian Roulette Sampling は一般に処理が速いですが、画像にノイズが多く出ます。主な利点は、特に Global Illumination を使うときに、高速でレンダープレビューを作ることです。最終レンダーでは、Russian Roulette Sampling は OFF にした方がいいかもしれません。
以下の画像では標準のレイトレーサーと Russian Roulette Sampling で、 Global Illumination レンダー使用時の画質とレンダー時間の違いを比べました。
標準のレイトレーサー レンダー時間: 12分46秒 |
Russian Roulette Sampling レンダー時間: 10分01秒 |
最後は「出力...」オプションです。 ボタンをクリックすると、以下のダイアログが表示されます。
背景を透明に 背景が透明な画像を作成します。つまりアルファチャンネルを追加した画像です(.tif か .bmp フォーマットのとき)。この後ほかの 2D ペイントソフトで、このアルファチャンネルを選択・使用できます。
ダイナミックレンジの高い画像(訳注: ver. 2.9.1 Mac 日本語版では、このオプションはないようです)ここが OFF の場合、レンダー画像のピクセルの色は、それぞれ範囲が 0〜155 の赤・緑・青チャンネルの組み合わせになります。このオプションは、画像内で表現される色の強度の範囲を制限します。ON にすると、レンダーする画像内で浮動小数点ピクセルデータを生成します。これで、色や強度の範囲を無限にします。このオプションは、浮動小数点をサポートする画像フォーマット(つまり .hdr)のみで有効です。
|
|
5.5 レンダー画像の保存
画像のレンダーが終わると、画像ウインドウの上の方に「レンダリング完了」と表示されます。ここで画像を 保存 するオプションが使えます。 をクリックすると、以下のダイアログが表示されます。
|
保存する画像フォーマットを、JPEG (.jpg)、TIFF (.tif)、PNG (.png)、Windows bitmap(.bmp)、Radiance または High Dynamic Range Image (.hdr) から選択します。背景が透明な場合、2D グラフィックソフトなどでその情報を保てる選択肢は .tif か .png のみです。
JPEG フォーマットで保存する場合、画質 で画像の圧縮率を設定します。高い 画質 では見映えが良くなりますが、ファイルサイズが大きくなります。
OK をクリックすると、ファイル名を決めるダイアログが表示されます。 |
レンダーが完了したウインドウには フィルター ボタンもあります。クリックすると、カメラに適用する フィルター を設定できます。画像のレンダー時、期待した効果を出さなかったフィルターを見つけるだけでいいので、とても便利です。ここの変更の効果はすぐに確かめられます。結果に満足したならその画像を保存します。再レンダーは不要です。
もくじ に戻る